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28話

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今日は港へ行くのよ。

やっと近くで船と海を見られるわ!

「ミュリー、嬉しいのは分かるけど少し落ち着こうね」
「だって、やっと船と海を近くで見られるんですもの」

馬車の中でも落ち着かなくて、そわそわしてしまうのは仕方がないと思うの。今なら子供扱いされても怒らないわ。

「人が沢山いるから、そんなんじゃ危ないよ」
「フェル兄様から離れませんわ」
「はぁ…街の中とは違うからね。本当に気をつけるんだよ」

何故、溜息をついたのかしら?離れないって約束したのに。

城壁を抜けると一気に雰囲気が変わる。

カーテンが閉まっているから外の様子は分からないけれど、馬車の中に居ても外の喧騒が聞こえてくる。

しばらくして馬車が止まったけれど、どうしたのかしら?降りないの?

「フェリクス様。遅れていた船が先程着いたようで、荷降ろしの最中で思った以上に混雑しています」
「分かった。ミュリーは僕が連れて行くよ」
「畏まりました」
「ミュリー、今から馬車を降りるけれど大丈夫?」
「ええ。大丈夫ですわ」

リュカがドアを開けてくれて外に出ると、荷物を担いだり荷車に乗せて運ぶ人達が忙しなく行き来してある。

この中を歩くのよね?大丈夫かしら?

「ミュリー行くよ」
「はい」

周りを護衛に囲まれて、歩き出そうとしたらお兄様に抱き上げられる。

「フェル兄様!歩けますわ!」
「うん。でも今は人が多くて危ないからね」

キラキラした圧のある笑顔を向けられる。こういう時は何を言っても聞いてもらえないわ…。

その変わり目線が高くなって周りが見渡しやすい。大きな船が並び、倉庫のような所に色々な物が並んでいる。

後でゆっくり見られるかしら?



*****



港を管理する建物の入口で、やっと下ろしてもらえたわ。

応接室に通されるとすぐに組合長さんが来て報告と相談が始まる。港にある設備の交換や新設、船乗りや商人達からの要望など様々。

まだ学生なのにお父様の代わりに仕事をするお兄様って本当に凄いと思う。前世の十代って遊んでいたような…。

話し合いが終わり建物を出るとお兄様に手を繋がれる。

今度は抱っこじゃなくても良いのかしら?と思って握られた手を見つめていると。

「ミュリーは抱き上げる方が良かった?」
「良くありませんわ!先程も手を繋いでくれたら良かったのに」
「ふふっ。さっきは時間が迫っていたからね。馬車に戻りながらゆっくり見て回ろうか」
「はい!」

やっと観光の時間だわ!

それにしても、船乗りさんは日に焼けて筋骨隆々系の人が多いのね。でも上半身裸なのは何故なの?

あまり人が肌を出しているのは見た事ないから、何となく居心地が悪い…。

ついお兄様に隠れるように歩くと。

「ふふっ。来る時は気にしてなかったのに」
「目線が高くなって目に入っていなかったんですもの…」
「ミュリーは好奇心が旺盛だから、気にしていないと思っていたよ」
「フェル兄様、私だってレディですのよ!」

もう!失礼しちゃうわ。来る時は色々な物に目を奪われて、本当に視界に入っていなかったのよね。

船は前世と違い木造の船。先端にとっても長い角みたい物が突き出していて、マストが数本立っているから風で動くのかしら?

あの長い角は何の意味があるの?じっと見すぎたのかお兄様が教えてくれた。

「あれは大きな波を避けたり、風下へ行く時に帆を張ったりするみたいだよ」
「そうなのですね」
「下に彫刻があるでしょ?航海の無事を祈るものなんだ」
「フェル兄様は何でも知っているのですね」
「僕も昔、父様から教えてもらったんだよ」

お兄様も初めて来た時ははしゃいだのかしら?いつも落ち着いてるから、あまり想像出来ないけれど…。


街と違い子供も沢山働いている。見習いなのかな?

あっ!褐色の肌の人もいる。前世の黒人さんとも違うし、日焼けとも違うのね。

「あの人達は海を挟んだ大陸でも暑い国から来ているんだよ。砂に覆われた土地が多く少し特殊な国なんだ」
「砂?」

今世あまり砂を見た事が無いわね。

「砂漠と言うらしいよ。その中に街があると聞いたけれど、ちょっと想像がつかないね」

オアシスの街的な感じなのかな?ちょっと見てみたいな。

「色々な国を見てみたいけれど、なかなか難しいからね」
「私も砂の中にある街を見てみたいです」

ただ海外に行くのはかなり難しい。まず貴族が国外に出ること自体あまり無い。外交や留学くらいかしら?

海外旅行という概念が無いのよ。国内旅行ですら珍しい。知り合いの貴族の領地に遊びに行くか、シャルロット様達みたいに避暑に行くのが旅行よ。

「転移塔では行けないのですか?」
「国と国を繋ぐ転移塔は王族か余程の緊急事態でしか使えないよ」

転移塔で行けたら楽なのに残念だわ…。



*****



人生で1番はしゃいだ私は帰りの馬車で眠ってしまい、お兄様に抱き抱えられて邸に戻ったわ。

学園1年生になったのに恥ずかしい…。

『別にまだ子供なんだから、何がそんなに恥ずかしいの?』

フェーリにそう言われるけれど。

『学園に入って少し大人になった気分だったから、何だか恥ずかしいのよ…』
『大人…相変わらず小さいのに?』
『身長はまだ伸びるわよ!』

フェーリにはデリカシーが無いのかしら?

他の精霊を知らないけれど、精霊って皆こんなにストレートな物言いなの?

『そういえば、フェーリはお仕事終わりそう?』
『他の精霊もいるから大丈夫だよ』
『それなら良かったわ。私はちゃんとリュカ達と居るから大丈夫よ』
『うん。ありがとう』

フェーリは領地に来てから調和が乱れていると言って、どこかへ出かけているわ。

守護精霊なのに離れても良いのか疑問だけれど、精霊にとって本来のお仕事だものね。

そわそわ気にしているフェーリに、私まで気になっちゃうもの。



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