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25話

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領地へと向かうため転移塔に馬車で向かう。

この転移塔は王都と各領地を繋いでいる。一瞬で遠く離れた領地に移動できる便利な物。

1階は大きなホールで馬車数台と護衛も一緒に入れる大きな部屋。2階は荷馬車1台分くらいが8部屋。3階は騎乗や人だけの小さな部屋が沢山あるんだって。

見た目は円柱形の高い塔。3階建てのはずだけれど、もっと高く見える。

「すごく高い…」
「この塔自体が大きな魔道具なんだよ。領地では魔法騎士団にも小型の転移塔があって、領内の街と街を繋いでいるんだ」
「魔法騎士団に?」
「魔獣が出たりしたら1番に駆けつけないといけないからね」

順番を待つ間、塔の説明を聞いているとアルベール様が来た。

「間に合ったな」
「アルベール様、お見送りに来てくれたのですか?」
「ああ。俺も明日から領地へ帰るからな。ミュリエル、あまりはしゃぎ過ぎて倒れるなよ」
「気を付けますわ」

アルベール様にも言われてしまったわ…そんなに私ってお転婆そうなのかしら?

お父様は王宮でのお仕事があるから王都に残るし、お母様も社交ですぐには領地に来ないから私のお目付け役はフェル兄様だけ。

「アル、何かあれば連絡してくれ」
「フェルもな。それから、ジュリエットは夏季休暇中の再教育次第でデビュタントは見送る事になった」
「そうか。夫人が教えるのか?」
「いや、王妃様が教育係を手配してくれた。公爵家の者があれでは不味いからな」
「ジュリエット様、お友達と一緒にデビュタント出来ると良いですね」

1人だけデビュー出来ないのは辛いと思う。それにデビュタントしないとなれば、また良くない噂が広まりそう。

「そうだな。全ては本人次第だ」

この世界は子供でも甘くない。むしろ子供の時の方が厳しいと思う。特に貴族は噂で色々決めつけられたりする。

ジュリエット様は実際沢山の人の前で色々してしまっているから、マナーを身に付け直しても周りの目は簡単には変わらない。

地道にやり直し、少しずつ皆のイメージを変えるしかない。この夏季休暇でジュリエット様が変わられると良いけれど…。



*****



領地の転移塔を出ると2人の騎士が並んでいた。

「フェリクス様、ミュリエル様、お待ちしておりました」
「出迎えご苦労。ミュリエルは初めてだね。領地を守ってくれる魔法騎士団の団長オスカー・ジラール殿と副団長のライアン・ミュレー殿だ」
「お初にお目にかかります。ランベール魔法騎士団団長オスカー・ジラールと申します」

団長さんは筋骨隆々な大きな人。邸に居る騎士は細身の人が多いから、ちょっとだけ驚いたわ。

「お初にお目にかかります。副団長のライアン・ミュレーと申します」

副団長さんは見慣れた騎士さんって感じ。でも、もっとキリッとして眼鏡じゃないけれどインテリア感が漂う。

「ジラール卿、ミュレー卿、ミュリエル・ランベールです。領地は初めてなのでご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願い致します」
「お元気になられたと伺っておりますが、護衛は医療の心得のある者ですからご安心下さい」
「お気遣いありがとうございます」

今日明日は邸でゆっくり過ごすから、そのまま邸に向かう。


領地の建物はどれも白壁に青い屋根。

「壁が白いのはこの地で取れる土の特徴なんだよ。それに白い壁が夏の陽射しから守ってくれるから、建物の中は夏は涼しく冬は暖炉の熱を逃さず暖かいんだ」
「そうなのですね」

前世にもこういう街があった気がする。白いのは漆喰かな?湿気を吸ってくれるから涼しくて暖かいんだっけ?

「邸は丘の上にあるから、街並みと海が綺麗に見渡せるよ」
「楽しみです」

邸は丘の上というか山の上を切り取ったような場所に建っている。

街から上がった所に白い壁に青い屋根のお城が建っている。この丘全てが公爵家の敷地らしい。

「フェリクス様、ミュリエル様、お待ちしておりました」
「マクシム、今年も世話になるよ。ミュリエル、執事のマクシムだよ。テランスの父上だ」
「ミュリエル様、ようこそお越し下さいました。お元気になられてなによりです」
「ミュリエルです。お世話になります」
「まずはサロンでお寛ぎ下さい」

執事のマクシムさんは好々爺とした印象だけれど、何となく隙がない不思議な感じの人だわ。



*****



案内されたサロンは邸の2階。バルコニーからは街が一望できる。

「わぁ…すごく綺麗…」

街は白い壁と青い屋根が綺麗だし、その先の海は前世に見た海より緑がかった青から青に変わるグラデーションが美しい。

「とても綺麗だろう。もう何百年も戦争は起こっていないが、昔は海から攻めてくる敵を迎え撃つ場所だったんだよ。あの港と街との間の間に見える城壁はその名残で、今は嵐から街を守る役目を担っている」
「家庭教師の先生から習いましたわ。でも平和で豊かなのは当たり前ではないとも」
「そうだね。僕はこれからも嵐から街を守る城壁であって欲しいと思っているよ。さぁ、お茶にしよう」

お茶を飲みながら、ジラール卿達から最近の領地について説明を受ける。

「治安は変わりありません。入港する船も定期的に来る商船ばかりですから、ミュリエル様の視察同行も問題ないでしょう」
「良かった。ミュリエルは海を楽しみにしていたからね」
「ただ、船員には粗野な者も多いですから…」
「お兄様と護衛の方の言う事を、ちゃんと聞きますわ」
「そうして頂けると助かります。護衛の者は明日ご挨拶に伺いますので」

晩餐は美味しい魚料理だった。明日から領地での生活が楽しみだわ。



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