上 下
54 / 100

53話

しおりを挟む
その夜、サラは執務室に呼ばれていた。

「じゃあ、リリアンヌは明日からは学園に行けるのだな?」
「はい。時々不安になられる事もあるとも言われましたが大丈夫な様です。クリスティナ様も学園での様子を気にかけて下さるそうです」
「はぁ・・・良かったわ。サラ達も付きっきりで大変だったでしょう?ありがとう」

当主夫妻の安堵した表情にサラもほっとする。仕事や社交で一緒に過ごす時間は少ないが、夫妻はとても愛情深くリリアンヌ様を大切にしている。

少し報告をするか迷ったがリリアンヌの「吊り橋効果」について切り出す事にした。

「それとですね・・・」
「何か気になる事でも?」
「お嬢様が今回の件で吊り橋効果により・・・リュドに恋心を抱いておいでです」
「「・・・っ!?」」
「本当か!?」
「まぁ!まぁまぁまぁ!」

ジェイムズは立ち上がりエレーヌは執務室をウロウロと歩き回る。

「サラ、本当なのかしら!」
「本当で御座います」
「ジェイムス!とうとうリリアンヌに恋愛感情が!」
「エレーヌ、一時的とはいえ奇跡だな!」

夫妻は手を取り合い喜んだ。娘の事を正確に理解しているのは良いが「奇跡」とまで言うのはどうなのだろうか?

「リリアンヌはどんな感じなのかしら?」
「初めての感情にとても戸惑っていらっしゃいますね。リュドに迷惑をかけてしまうからと、吊り橋効果がどうしたら早く終わるのかと考えている様です」
「一時的でも良い傾向ね。リュドはどうなのかしら?」
「リリアンヌ様に他意は無いのをわかっていますし、今までの事もありますからね。慣れた様です」
「少しも意識していないの?リュドも真面目ね・・・困ったわ」

令嬢の近くに居るのが不真面目でも困るのだが・・・。

「リュドは5年目だが仕事も出来るし信頼出来る。リリアンヌにそういう感情を持って専属を続けはしないだろう・・・。しばらくは様子を見よう。効果が切れても人を好きになる気持ちは理解出来るようになったはずだから」
「サラ、リリアンヌの様子を報告してね。私は余計な事を言ってしまいそうだから見守るわ」
「畏まりました」

夫妻は娘の疑似恋愛とはいえ諦めていた「恋愛感情の芽生えに」に喜びのワインを開けた。



*****



翌日、1週間ぶりに学園に登校した。

先生と話し合い試験の成績が良かった事と、事情が事情なので休んだ1週間の課題は無しとなったわ。

「リリとカフェテリアでランチをするのも久しぶりね」
「ええ。やっといつもの生活が送れるわ」
「それで?リュドとはどうなのかしら?」

リリアンヌとやっと恋バナが出来るとクリスティナは喜んでいた。

「どうもしないわ。迷惑をかけてしまうから効果が切れるまでは、呼ばない限り部屋に来ないように言ってあるわ。帰るまでに仕事の資料は揃えてくれるって言っていたから問題はないと思うわ」
「・・・・・・・・・」

吊り橋効果とはいえ恋をしているのだから少しは変わるかと思っていたのにリリはリリね・・・。他人の事にはとても敏感なのに、どうしてリリは自分の事にこんなにも鈍感なのかわからないわ・・・。

「ティナどうかしたの?」
「もしも・・・リュドへの気持ちが吊り橋効果じゃなかったら・・・リリはどうするの?」
「そうね・・・リュドは仕事が出来るし信頼できるから残念だけれど専属を別の人に変えるわ。自分に恋愛感情を持っている上司なんて仕事がやりにくいでしょう?」

何故仕事のやりやすさが判断基準なの?理解出来ないしリリと恋バナがしたいのに~!

「あらあら、ティナってば頬を膨らませたらリスみたいよ?とっても可愛いらしいけれど」
「もう!リリと恋バナがしたいの!」
「アンドリュー様との惚気ならいくらでも聞くわよ?」
「私はリリの惚気が聞きたいわ・・・」

その日は何度もリュドの事を聞き出そうとするティナを宥めながら、休んでいた間のノートを写させてもらい帰宅したわ。



*****



湯浴みの後、久しぶりに仕事に手をつける。資料のリュドの字に少しドキドキしたけれど深呼吸をして気持ちを切り替える。

鉱山の労働環境改善は上手くいっているわね。お爺様から引き継いで現場から不満が上がるのは避けなければ・・・。

今回は要望書があるのね・・・あら?これはどうしたら良いのかしら・・・聞ける要望は叶えてあげたいけれど・・・娼館ってどうやって誘致するのかしら?

そもそも、この世界の風俗ってどうなっているの?要望が出るのだからあるのよね・・・どんな感じなのかしら?ちょっと気になるわ。

迷ったけれどリュドを部屋に呼ぶ。

「鉱山から上がっている要望書の事なのだけれど・・・」
「何か問題でもありましたか?」

何かしら・・・ちょっと言いにくいわね・・・。

「娼館の事なのよ・・・」
「・・・・・・・・・」
「リュド?」
「その要望書は手違いですので、こちらで処理致します」
「でも正式な書類よ?」

不備の無い正式な書類をリュドに見せる。

「お嬢様、そちらを渡して下さい」
「駄目よ。誘致は出来るのかしら?」
「私が手配致しますからご安心下さい」
「リュドが?」

同じ男の人のリュドなら鉱夫達が満足するように手配してくれると思うのに・・・何だかモヤモヤするわ・・・。リュドは行った事があるのかしら?男の人だものあるわよね・・・何だか凄く嫌だわ・・・。

「お嬢様?」
「リュドは・・・・・・行ったりするのかしら・・・」

あぁ・・・何故聞いてしまったのかしら・・・リュドの顔が見られないわ。行っているかなんて聞きたくないのに・・・。

「ごめんなさい・・・答えなくて良いわ。この件はお願いね。もう下がって良いわ」
「畏まりました。失礼致します」

部屋に1人になると溜息がもれ涙が滲んでくる。これは多分「嫉妬」ね。リュドに迷惑をかけない様にするのは難しいわね・・・。

いつになったら吊り橋効果は消えるのかしら・・・よくわからない気持ちになったり、感情に振り回されるのなんて嫌なのに・・・。

リュドと会うと仕事でも嬉しいわ。でも今みたいに余計な事を言ってしまうのは嫌・・・。でも・・・専属を外すのも本当は嫌・・・。

どうしたら良いのかしら・・・。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で婚活を ~頑張った結果、狼獣人の旦那様を手に入れたけど、なかなか安寧には程遠い~

リコピン
恋愛
前世、会社勤務のかたわら婚活に情熱を燃やしていたクロエ。生まれ変わった異世界では幼馴染の婚約者がいたものの、婚約を破棄されてしまい、またもや婚活をすることに。一風変わった集団お見合いで出会ったのは、その場に似合わぬ一匹狼風の男性。(…って本当に狼獣人!?)うっかり惚れた相手が生きる世界の違う男性だったため、番(つがい)やら発情期やらに怯え、翻弄されながらも、クロエは幸せな結婚生活を目指す。 シリアス―★☆☆☆☆ コメディ―★★★★☆ ラブ♡♡―★★★★☆ ざまぁ∀―★★☆☆☆ ※匂わす程度ですが、性的表現があるのでR15にしています。TLやラブエッチ的な表現はありません。 ※このお話に出てくる集団お見合いの風習はフィクションです。 ※四章+後日談+番外編になります。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

【完結】気づいたら異世界に転生。読んでいた小説の脇役令嬢に。原作通りの人生は歩まないと決めたら隣国の王子様に愛されました

hikari
恋愛
気がついたら自分は異世界に転生していた事に気づく。 そこは以前読んだことのある異世界小説の中だった……。転生をしたのは『山紫水明の中庭』の脇役令嬢のアレクサンドラ。アレクサンドラはしつこくつきまとってくる迷惑平民男、チャールズに根負けして結婚してしまう。 「そんな人生は嫌だ!」という事で、宿命を変えてしまう。アレクサンドラには物語上でも片思いしていた相手がいた。 王太子の浮気で婚約破棄。ここまでは原作通り。 ところが、アレクサンドラは本来の物語に無い登場人物から言い寄られる。しかも、その人物の正体は実は隣国の王子だった……。 チャールズと仕向けようとした、王太子を奪ったディアドラとヒロインとヒロインの恋人の3人が最後に仲違い。 きわめつけは王太子がギャンブルをやっている事が発覚し王太子は国外追放にあう。 ※ざまぁの回には★印があります。

【完結】推しの悪役にしか見えない妖精になって推しと世界を救う話

近藤アリス
恋愛
「え、ここって四つ龍の世界よね…?なんか体ちっさいし誰からも見えてないけど、推しから認識されてればオッケー!待っててベルるん!私が全身全霊で愛して幸せにしてあげるから!!」 乙女ゲーム「4つの国の龍玉」に突如妖精として転生してしまった会社員が、推しの悪役である侯爵ベルンハルト(通称ベルるん)を愛でて救うついでに世界も救う話。 本編完結!番外編も完結しました! ●幼少期編:悲惨な幼少期のせいで悪役になってしまうベルるんの未来を改変するため頑張る!微ざまあもあるよ! ●学園編:ベルるんが悪役のままだとラスボス倒せない?!効率の良いレベル上げ、ヒロインと攻略キャラの強化などゲームの知識と妖精チート総動員で頑張ります! ※推しは幼少期から青年、そして主人公溺愛へ進化します。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

“用済み”捨てられ子持ち令嬢は、隣国でオルゴールカフェを始めました

古森きり
恋愛
産後の肥立が悪いのに、ワンオペ育児で過労死したら異世界に転生していた! トイニェスティン侯爵令嬢として生まれたアンジェリカは、十五歳で『神の子』と呼ばれる『天性スキル』を持つ特別な赤子を処女受胎する。 しかし、召喚されてきた勇者や聖女に息子の『天性スキル』を略奪され、「用済み」として国外追放されてしまう。 行き倒れも覚悟した時、アンジェリカを救ったのは母国と敵対関係の魔人族オーガの夫婦。 彼らの薦めでオルゴール職人で人間族のルイと仮初の夫婦として一緒に暮らすことになる。 不安なことがいっぱいあるけど、母として必ず我が子を、今度こそ立派に育てて見せます! ノベルアップ+とアルファポリス、小説家になろう、カクヨムに掲載しています。

虐げられていた黒魔術師は辺境伯に溺愛される

朝露ココア
恋愛
リナルディ伯爵令嬢のクラーラ。 クラーラは白魔術の名門に生まれながらも、黒魔術を得意としていた。 そのため実家では冷遇され、いつも両親や姉から蔑まれる日々を送っている。 父の強引な婚約の取り付けにより、彼女はとある辺境伯のもとに嫁ぐことになる。 縁談相手のハルトリー辺境伯は社交界でも評判がよくない人物。 しかし、逃げ場のないクラーラは黙って縁談を受け入れるしかなかった。 実際に会った辺境伯は臆病ながらも誠実な人物で。 クラーラと日々を過ごす中で、彼は次第に成長し……そして彼にまつわる『呪い』も明らかになっていく。 「二度と君を手放すつもりはない。俺を幸せにしてくれた君を……これから先、俺が幸せにする」

処理中です...