Rabbit bride 2085 第9話 音叉剣のルカ

3 黒鉄型0番機

唇を尖らせて、不機嫌そうなうさぎ(アリス)がソファに座って脚を組んでいる

うさぎの正面に座り、そんなうさぎを見ている玉藻は楽しそうに微笑んでいる

ここは内閣調査室本部の課長室だ

うさぎと玉藻の間のテーブルには、まだカチカチのハーゲンダッツがあった

うさぎが選んだのは、女性に人気のストロベリー🍓だった
少し酸味がある苺の果肉と、甘いバニラがうさぎの大好物だ💕

うさぎのこめかみから垂れる触覚ヘアと呼ばれる髪の毛が、少し伸びたように見える

可愛さがアップしたようだ

玉藻は、少しほろ苦いクッキーと濃厚なバニラアイスの組み合わせが人気のクッキー&クリームを選んだ❣️

すぐにハーゲンダッツを食べたいうさぎは、唇を尖らせながら、溶けるのを待っていた

時々スプーンで、アイスをトントンと叩いている

....まだ固いね😅

課長室に玉藻がいる事が多くなったので、うさぎも課長室にちょくちょく遊びに来るようになっていた

今日はルカも来ていたが、遊びではなく、指令を受けている

どうやら、マッスルシリンダーのスカウトを頼まれたようだ

ルカの触覚ヘアも、うさぎと同じくらい伸びている

双子だから髪型も似てくるのかな？

「課長ってクビになったのかと思ってました」

言いづらい事をあっけらかんと言うルカに、課長はお茶を噴き出していた💦

「ちょっと休暇を取っていただけだ」

慌てて言い訳をする課長

「じゃあ、復帰祝いに大福でも買って帰りますよ」

思いの外、優しい言葉がかえってきた

「そうか....ありがとう」

「課長じゃなくて、玉藻さんにです

課長がいない間、玉藻さんが頑張ったんですから」

玉藻を見ると、にっこり笑っていた

「楽しみね❣️」

「そう....だったな.....」

ここに課長の威厳はないようだ

.......

ジェットヘルとゴーグルを持って、ルカが地下駐車場に向かっている

バイクに乗るには、ずいぶんとクラシカルな装備だ

内閣調査室本部の地下駐車場には、何台かのバイクが置かれていた

そこにあるバイクは全て、令和の時代に試作品を作って廃業した幻のメーカー、クリスタルドラクーンのバイクだった

黒鉄型0番機シリーズ
布都御魂(ふつのみたま)がルカの所有するバイクだった

本来は課長の息子の乱馬のものだが、乱馬の好意で譲り受けたバイクだった

黒鉄型0番機シリーズ
布都御魂(ふつのみたま)はめちゃくちゃクセのあるバイクだった

【黒鉄型0番機シリーズ
布都御魂(ふつのみたま) 諸元】

エンジン形式：4ストローク水冷タンデムツイン
動弁形式：4バルブDOHC
排気量：1500cc
最高出力：118ps/5000rpm
最大トルク：14.4kg -m/3500rpm
車両重量：288kg
種別：メガクルーザー

2本のクランクシャフトは横置きだが、カムシャフトは縦置きを採用している

左吸気、右排気だ

数値上のスペックを見ても突出したところはないが、そのエンジンの出力特性が異様なバイクだった

タンデムツインだからできる、2気筒同時爆発を採用している

シリンダー数が多いほどパワーが出るが、シリンダー数が少ないほど強いトラクションが掛かる
(トラクションとは：エンジンが発生したパワーやトルクを路面に伝える能力のこと)

この相反する命題を解決したのが、タンデムツインの同時爆発だった

2気筒のパワーと単気筒のトラクションを得られる、無敵のダッシュ力が自慢のバイクだった

排気量の小さなエンジンなら2気筒同時爆発は用意だが、1500ccとなると話は別だ

前後に並んでいるクランクシャフトが反対回りすることで、ある程度の振動を打ち消す工夫が見られる

が、振動は大きい部類に入る

セルモーターを回すと、短いクランキングでエンジンは目覚めた

ドッドッドッドッドッ....

2気筒のくせに単気筒と同じような排気音が聞こえるのは同時爆発だからだ

ファイナルドライブはシャフトを採用している
なので、チェーンのような弛みが無い分、アクセルとリアタイヤが直結しているかのように応答性が良い

チェーンドライブは、アクセルを開けるとリアサスが沈む悪癖があるが、シャフトドライブはリアサスが伸びる癖がある

リアサスが沈むとトラクションが弱くなるので、スタートダッシュが不利になる

アクセルを開けると車体が傾くシャフトドライブの悪癖は、昭和の時代に全て対策されているので、平成以降の国産バイクには一切なくなっている事を知る者は少ない

逆に外国メーカーでは、あえてその癖を残しているバイクが多くある

「シャフトドライブは癖があるから.....」と言うセリフを聞くことが多いが、何も知らない素人である事をバラしているようなものだ😅

ジェットヘルとゴーグルと言うクラシカルな装備を身に着けるのは、この布都御魂に合わせたコーディネートなのだろう

フラットバーハンドルにミッドコントロール

太いバックボーンに小ぶりのタンク

幅広のタイヤにショートフェンダー

車体右側に2本出しのショートマフラー

そして、ソロシートはボバーのスタイルだ

ボバーとはクルーザーの中のひとつのジャンルを指す言葉だ

生い立ちはヨーロッパのカフェレーサーに近いが、見た目は全く違う種類だ

ハーレーなどのクルーザーをベースに、走行性能を高めたものがボバーだ

不用なものを軽量化のために切り落とす(ボブカット)ことからボバーと呼ばれる

油圧クラッチを握り、ギアをローに入れる

2000rpmでクラッチをつなぐ

フロントアップしながら布都御魂が走り出す

布都御魂は、僅か2000rpmで10キロを超えるトルクを発生させている

太いトルクと強烈なトラクションが相まって軽々とフロントを持ち上げる布都御魂は、一般的なライダーではコントロール不能と判断されて、僅か2台の試作車で開発は終了した

アリスに比べてルカが参戦したのが遅い理由は、布都御魂を乗りこなす訓練をしていたからだった

それは上官である乱馬の「バイクに乗れた方が楽しい」と言う個人的なこだわりによるものだった

黒鉄型0番機シリーズは、3号機から水冷を空冷に、動弁形式を2バルブSV(サイドバルブ)に変更して、布都御魂SV(ふつのみたまエスブイ)と大幅にデチューンしたタイプを20台以上試作したが、結局強烈なトラクションは変わらずに、その開発は黒鉄型1番機シリーズに受け継がれた



※黒鉄型0番機シリーズは、投稿済みの小説「黒鉄の風(くろがねのかぜ)仔猫とバイクとおれの共同生活」に出ている黒鉄と同じバイクです