Rabbit bride 2085 第9話 音叉剣のルカ

まろうど

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2 アームストロング

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「お客さん
今日は一日中ノロノロ運転みたいですね」

タクシーの運転手が気を使い、私に声を掛けてきた

「あぁ、そうかね.....」

運転手がイベントがどうのと言っているが、私は空返事をして電脳内で仕事を続けた

私は機械化サイボーグ用のアビオニクスの開発している

アビオニクスとは、軍事機密レベルの最先端のエレクトロニクスの事だ

タクシーに乗りながら仕事ができるこの時代は、便利になったような、不便が増えたような....

2085年の未来は、水素を燃料とした内燃機関の車が半数を占めていた

このタクシーも、水素を燃焼して動力を得ている

純粋なEVは、小型の4輪か2輪くらいだ

ノロノロ運転のタクシーの前に、突然人が飛び出して来た

それは、とても大きな人だった

タクシーのウインドシールドを覆うほどの巨体に見えた

その大きな人は、手に握った何かをタクシーのボンネットに叩きつけてきた

落雷のような轟音と、強い衝撃を受けてタクシーが止まった

誰かが...いや
何かがタクシーとぶつかったのか❓

人の力でどうこうできるレベルの衝撃ではない

エンジンルームが地面にめり込むくらいの強烈な衝撃に、タクシーのリアは持ち上がっていた

そのせいで、私は頭部をタクシーの天井にぶつけていた

運転手と私は、車内の周囲に設置されたエアバッグのおかげで失神は免れていた

「だ、大丈夫ですか❓」

運転手が私の身体を気遣って声を掛けてきた

「何とぶつかったんだ❓」

展開したエアバッグに遮られて、外の状況がまったくわからない

「人が目の前に飛び出して来たのは見えたんですが.....」

その時、運転手の頭上のルーフ(天井)が、轟音とともにひしゃげた

今そこにいたはずの運転手は、シートとルーフの僅かな隙間に潰されて血を噴き出していた

「ひぃぃぃぃ💦」

何が起こっているんだ❓

何かが落下してタクシーの運転席を潰したのか❓

私は脱出を試みるが、歪んだタクシーのボディはドアを押しても開かない

逃げられない
閉じ込められた

電脳から救助要請は送っているが、まだ返答が来ない

次は自分が潰されるかもしれない

状況がわからない💦
どうなっているんだ⁉️

不安に押し潰されそうになった時、至近距離で銃撃音が響いた

「警察です
今、ドアを開けます」

助かるのか❓

タクシーのドアを、外側から開けようとする者がいた

助かるのか❗️

私も全力でドアを押した

ミシミシと軋ませながら、少しずつドアが開いた

そこには、30代くらいの刑事と名乗る男が見えた

「もうすぐです」

2人の力を合わせることで、なんとか出られるくらいの隙間が開いた

拳銃を持った男が自分の腕を掴んで引きずり出した

敵か❓

ほんとに警察か⁉️

「避難しますよ」

男の声は頼もしく聞こえた

衝撃と動揺でふらつく身体を気力で奮い立たせ、私は必死で逃げた

だが、私はいったい何から逃げているんだ❓

首を巡らして見た

そこには巨大なサイボーグと、それに拳銃で立ち向かう刑事の姿があった

私は知ってる❗️

私はあのサイボーグを知ってる‼️

彼は重サイボーグのアームストロングだ‼️

身長は2m30cmを超える

ペール缶のような巨大なハンマーで殺人をおこなう重犯罪者だ

タクシーを止めたのも、タクシーのルーフを叩き潰したのもアイツだ

あんな戦車のようなサイボーグに、拳銃で勝てるものか‼️

狙われたのは私か⁉️

私は残された全生命力を、避難行動に注いだ

重サイボーグのアームストロングは、刑事たちの銃撃に動きを制限されていた

2人の刑事が撃ち込む弾丸が、常軌を逸した弾丸だからだ

なんだこの弾丸は⁉️

俺の強化装甲を突き破り、内部で電撃を放つ弾丸なんて聞いた事がない‼️

「クソ💢」

この弾丸のせいで、俺の体内のセンサーが瞬間的に狂ってしまうようだ

1人の刑事は至近距離で急所を狙ってくる

もう1人の刑事は、少し離れた位置から援護射撃をする

この2人の連携が見事にできている

まるで軍隊の動きだ

俺はハンマーを盾に使い、急所への攻撃は防いでいるが、なかなか反撃の糸口が掴めない

コイツらは、ゲリラ戦のエキスパートなのか⁉️

ターゲットが逃げてしまうじゃないか💢

「邪魔をするなァァ‼️」

この刑事達ははいつも、この小説のオープニングで登場する2人組みの刑事だった

たまもからもらった徹甲放電弾を装備して、チーム戦闘用強化アプリで連携して応戦している

重サイボーグ相手でも、しっかり足止めできている

だが、サイボーグを倒せる決定打はない

弾切れになれば、反撃されるのは目に見えている

.....少しずつ弾圧が薄くなったじゃないか

そろそろ弾切れか❓

俺は一瞬のスキも見逃さない

俺の間合いに入ったオマエが悪いんだ

ハンマーが至近距離にいる刑事を薙ぎ払う

「ガーランドォォォォオ‼️」

何か叫びながら弾き飛ばされる50代の刑事

20メートル以上吹き飛んだか❓

「フハハハハ.....」

楽しいな...
つい笑みがこぼれる

人間を吹き飛ばしたり、叩き潰したりするのは気持ちいい

あと1人だ

アイツをぶっ飛ばしたら、もォ邪魔者はいない

若い刑事が発砲を止めた.....❓

諦めがいいな

仲間が目の前で殺されるのを見たんだ

当然の判断だ

「いやぁ、命拾いしたな」

遠くから、トボけた男の声が聞こえた

さっきぶっ飛ばした刑事の方だ

刑事は立ち上がり、左腕をさすっていた

「1回きりしか使えないけど、すげぇぞこれ‼️」

先輩刑事は、その腕にブレスレットをしていた

そのブレスレットは、使い捨てのガーランドだった

「そうみたいですね」

若い刑事が笑顔を見せる

「何笑ってんだ⁉️」

俺は若い刑事に殺気を叩きつける

「オレが来たからだよ」

頭上から声が聞こえた

見上げると、天から黒衣の少年が降りてきた

少年❓
いや、二十歳は過ぎているようだ

「誰だ❓」

若造は、燕尾服のようなスーツを着ていた

「オレはバルキリー

重犯罪サイボーグ専門の、処分屋だ」

重量級サイボーグのアームストロングの前に、バルキリー=ルカが降り立った

「おまえみたいな処分屋は聞いたことがないぞ」

どうせ3流の処分屋だろう

俺は殺人を趣味にしている重サイボーグだ

対象者が乗る車ごと叩き潰して殺害することを楽しむ重犯罪者でもある

身体の大部分を機械化している俺の体重は150キロを超える

得物は、重さ50キロを越えるクロームモリブデン製のハンマーだ

このハンマーをまともに喰らったら、トラックに跳ね飛ばされるのと同じくらいの衝撃だろう

「若造❗️
このハンマーの威力に耐えられるか⁉️」

俺は殺気を乗せた笑みを浮かべて、ハンマーを頭上に持ち上げた

「当たらないから平気さ」

若造の言葉が終わるより早く、俺のハンマーは振り下ろされていた

俺の胸に若造の左手が優しく触れた

まだハンマーは弧を描いている途中だ

若造が俺の表情を見てニヤリと笑った

「破‼️」

凄まじい衝撃が身体を突き抜けていく

背中が痛い

何をされたんだ⁉️

俺よりも背の低い若造が、俺を見下ろしている

なぜ地面が近くにある❓

....俺は膝を突いているのか❓

若造が俺の額に左手を当てた

....また、あれをやるのか❓

あれは、やめてくれ

あれをやられると、俺の意識は....

「破❗️」

意識は.....頭蓋骨の外まで放り出された

暗闇の中に、俺は沈んでいった



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