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2 ブルバード VS 乱龍
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暗闇の中、赤い炎が夜空を焦がしていた
舞い上がる赤い火の粉が、星に代わって夜空に瞬いている
大きく組んだ丸太の中心から、炎が天に向かって伸びている
炎が明るい分、周囲の暗がりは更に深い闇に落ちていったようだ
炎を見つめるように、男が1人立っていた
薄目を開けて見つめる先は炎か❓
それとも、過去の思い出か❓
男はウールのミリタリーセーターを着て、洗いざらしのジーンズを履いている
その上から、M65タイプのジャケットを羽織っていた
セーターには一手間加えているようだ
セーターの表面に蝋燭を擦り付け、暖炉の前に吊るしておいたものだ
暖炉の暖かさで溶けた蝋が、ウールの生地に染み込むことで、防風性と撥水性を高める
この場所は那須連峰の西の端にある、標高1,200メートルを越える沼っ原湿原からさらに奥へ入ったところだ
平地の暖かさは、ここにはない
登山道はあるが、この季節になると歩く者はほとんどいない
時折、発電所を管理する東京電力の社員が来ることがある
誰かが偶然に来るような場所ではない
火の粉が爆ぜる音に混じって、誰かの足音が聞こえてくる
男はその音を耳に届いているはずだが、まったく気に留めていないようだ
「やっと、愛する女性を荼毘に付すことができましたね」
足音の主が静かに声を掛けた
「君も来てくれると思っていたよ」
声を掛けられた男も、静かに言葉を返した
3年前、初代ブライドを殺害したブルバードと、初代ブライドの夫である乱龍(みだれりゅう)が、炎を見ながら無言で語り合っていた
火の粉が爆ぜる音が聞こえなくなった
炎の勢いが、だんだんと穏やかになってきた
「ナパームでは、何も残りませんね」
残念そうに言葉を漏らすブルバード
ブルバードは相変わらずピチピチのボディスーツを着ている
殺る気満々の服装だ
「誰かの小遣い稼ぎに使われるのは忍びないのでね」
ほんの少し、乱龍の気が動いた
「ほんと、いい小遣い稼ぎになりましたよ。
どこかの研究施設に高値で売って、頃合いを見て盗み出しては、また別の研究施設に売ればいいんですからね」
ブルバードの含み笑いが聞こえてくるようだ
特殊な能力を持つ初代ブライドの亡骸を、じっくり研究したいと熱望する組織が多く存在していた
ブルバードは盗み出した初代ブライドの亡骸を、そういった組織を相手に高値で取引していたのだ
「そろそろ君も引退しないかね、ブルバード君」
乱龍の気が膨れ上がる
「課長も乱龍のコードネームを使わないのはなぜですか?」
乱龍は、内閣調査室の対サイボーグ班と対妖物班の課長である
M109の策略により、初代ブライドの殺害犯として指名手配されていた経緯がある
あえてそれを否定せず、課長の職は全うしていた
乱龍と課長が同一人物と知っている者は、内閣調査室にもほとんどいないからだ
M109とブルバードが同一人物ではないかと疑った乱龍は、あえて内閣調査室に彼をスカウトして、彼の動向を探っていたのだ
「おれは今年で120歳だからな。
もう引退したいのさ」
「とてもそんなお年には見えませんけどね。
どう見ても50歳くらいですが.....」
にっこり笑った乱龍が、左の手の平をブルバードに向ける
回避行動に入るブルバード
その隙を与えず、凝縮された乱龍の気がブルバードを襲う
乱龍の放つ凄まじい気を受け流すことができないブルバードは、その衝撃に苦悶していた
「君のことは部下としてブルバードと呼んだ方がいいかね❓
それとも、我が妻を殺害した犯罪者、M109と呼んだ方がいいかね⁉️」
歯を食い縛って答える
「どちらでもお好きなように....」
乱龍の目が吊り上がる
「ならM109....
殺すよ」
凄まじい殺気がM109に叩き付けられる
常人であれば、それだけで失神する殺気だ
その殺気から逃げるように、M109が仕掛ける
神速で間合いを詰めるM109
その迎撃を認識した瞬間、M109の姿が乱龍の視界から消える
乱龍の右方にM109が出現したと認識した瞬間、M109は乱龍の左側にいた
すでに、M109の必殺の間合いだ
人は何かを認識する瞬間、判断や行動にタイムラグが生じる
そのほんの一瞬の時間を使って一気に移動するのがM109の得意技だ
対戦相手にしてみれば、M109が瞬間移動したように感じる
M109の体重の乗った右の拳が加速する
乱龍は無造作に左の掌底を出す
M109と乱龍が激突する
大気が割れる音が響く
弾かれたのは....
M109の方だ
M109が拳に乗せた気を、乱龍はそのまま反射したのだ
M109は、撃ち込んだ自分の気と、反射された自分の気とがぶつかり合って弾き飛ばされたのだ
乱龍は、左手を伸ばしたまま、ニヤリと笑った
「これが気の使い方だよ、M109君。
もっと私の指導を真剣に聞いていれば良かったね」
痺れる右手を庇いながら、M109が吠える
「教える気などなかったくせに💢」
仁王立ちの乱龍が言葉を返す
「今教えてあげるから、命懸けで勉強しなさい」
ありったけの気を込めて、ありったけの技を繰り出すM109
だが、その全てを弾き返される
攻撃する程にダメージを負ってしまうM109
乱龍が、M109を圧倒する
....なんなんだこの強さは⁉️
こいつは化け物か⁉️
M109が間合いを取る
「これほどまでに力の差があったのか⁉️」
悔しがるM109
だが、負ける気はないようだ
周囲に気を配る乱龍
....何か狙っているな❓
首すじに、針のように細く小さな殺気を感じる
一歩下がる乱龍
さっきまで乱龍がいた場所の大気が焦げ付く
ライフル弾が乱龍を掠めたのだ
サイレンサーを装備しているのか、発射音は聞こえなかった
乱龍が気を感知できる範囲の外....
おそらく300メートル以上離れたところからライフルで狙撃しているのだろう
この沼っ原湿原の周囲には、小高い山が幾つかある
おそらく、数日前からその場所にスナイパーを配置していたのだろう
2射、3射と違う方向からライフル弾が飛来する
微かな殺気をとらえて回避行動を取る乱龍
炎がスナイパーの味方をしているようだ
そういう位置に、乱龍は誘われたのか❓
「君はSIXの能力を盗んだんだね❓」
M109に近づくことができれば、狙撃の手数を減らせるだろう
だがそれをさせないように、スナイパーが連携している
スナイパーの射線は4本
SIXは6人同時攻撃が可能だ
1人は予備だろう
もう1人は何を狙っている❓
それとも炎が障害物となり、射線を取れないのか❓
いや、安易に考えるのはよそう
スナイパーの連携した射撃で、乱龍は回避行動を余儀なくさせられ自由に動くことができない
それでも、本来ならばとっくに射殺されている状況だ
「これでもまだ回避するのか⁉️
呆れた120歳だ」
M109が牙を見せて笑っている
ポケットから、何かを取り出した
M109は、両手に1枚づつのコインを持っている
古い時代のコインのようだ
「せっかく奥さんと会えたんだから、ずっと一緒にいてあげてください」
M109が、右手のコインを乱龍に投げた
そして、M109は左手のコインを残し忽然と消えた
乱龍に投げられたコインは、タイマー付きのC4と空中で入れ替わった
M109は、古い時代のコインを使った空間移動ができるのだ
C4に付けられたタイマーの数字は....
01.....
「糞‼️」
それが、乱龍の最後の言葉だった
C4.....プラスチック爆弾が、辺り一面を吹き飛ばした
夜空に、火の粉が舞い上がった
数百メートル離れた地点に、M109が現れた
「これでアイアン・クロウと乱龍の2人を仕留めた。
なかなかいい仕事をするじゃないか、SIXは‼️」
1人高笑いをするM109
嬉しくて笑いが止まらないようだ
しばらくして、M109は自分の管理下にある6人のスナイパーに最後の指令を送った
6人はそれぞれ拳銃を持ち、自分の頭を撃ち抜いた
「SIXのデータは一切残さない。
俺だけのSIXだ」
M109は、ミッドナイトブルーのメルセデスML350にもたれ掛かり、広がる星の海を見ていた
「後はアレが完成すれば、内閣調査室を上回る戦力が手に入る」
乱龍との戦闘で、全身が軋むのも我慢できる
「どれ、温泉でも入って行こうか」
舞い上がる赤い火の粉が、星に代わって夜空に瞬いている
大きく組んだ丸太の中心から、炎が天に向かって伸びている
炎が明るい分、周囲の暗がりは更に深い闇に落ちていったようだ
炎を見つめるように、男が1人立っていた
薄目を開けて見つめる先は炎か❓
それとも、過去の思い出か❓
男はウールのミリタリーセーターを着て、洗いざらしのジーンズを履いている
その上から、M65タイプのジャケットを羽織っていた
セーターには一手間加えているようだ
セーターの表面に蝋燭を擦り付け、暖炉の前に吊るしておいたものだ
暖炉の暖かさで溶けた蝋が、ウールの生地に染み込むことで、防風性と撥水性を高める
この場所は那須連峰の西の端にある、標高1,200メートルを越える沼っ原湿原からさらに奥へ入ったところだ
平地の暖かさは、ここにはない
登山道はあるが、この季節になると歩く者はほとんどいない
時折、発電所を管理する東京電力の社員が来ることがある
誰かが偶然に来るような場所ではない
火の粉が爆ぜる音に混じって、誰かの足音が聞こえてくる
男はその音を耳に届いているはずだが、まったく気に留めていないようだ
「やっと、愛する女性を荼毘に付すことができましたね」
足音の主が静かに声を掛けた
「君も来てくれると思っていたよ」
声を掛けられた男も、静かに言葉を返した
3年前、初代ブライドを殺害したブルバードと、初代ブライドの夫である乱龍(みだれりゅう)が、炎を見ながら無言で語り合っていた
火の粉が爆ぜる音が聞こえなくなった
炎の勢いが、だんだんと穏やかになってきた
「ナパームでは、何も残りませんね」
残念そうに言葉を漏らすブルバード
ブルバードは相変わらずピチピチのボディスーツを着ている
殺る気満々の服装だ
「誰かの小遣い稼ぎに使われるのは忍びないのでね」
ほんの少し、乱龍の気が動いた
「ほんと、いい小遣い稼ぎになりましたよ。
どこかの研究施設に高値で売って、頃合いを見て盗み出しては、また別の研究施設に売ればいいんですからね」
ブルバードの含み笑いが聞こえてくるようだ
特殊な能力を持つ初代ブライドの亡骸を、じっくり研究したいと熱望する組織が多く存在していた
ブルバードは盗み出した初代ブライドの亡骸を、そういった組織を相手に高値で取引していたのだ
「そろそろ君も引退しないかね、ブルバード君」
乱龍の気が膨れ上がる
「課長も乱龍のコードネームを使わないのはなぜですか?」
乱龍は、内閣調査室の対サイボーグ班と対妖物班の課長である
M109の策略により、初代ブライドの殺害犯として指名手配されていた経緯がある
あえてそれを否定せず、課長の職は全うしていた
乱龍と課長が同一人物と知っている者は、内閣調査室にもほとんどいないからだ
M109とブルバードが同一人物ではないかと疑った乱龍は、あえて内閣調査室に彼をスカウトして、彼の動向を探っていたのだ
「おれは今年で120歳だからな。
もう引退したいのさ」
「とてもそんなお年には見えませんけどね。
どう見ても50歳くらいですが.....」
にっこり笑った乱龍が、左の手の平をブルバードに向ける
回避行動に入るブルバード
その隙を与えず、凝縮された乱龍の気がブルバードを襲う
乱龍の放つ凄まじい気を受け流すことができないブルバードは、その衝撃に苦悶していた
「君のことは部下としてブルバードと呼んだ方がいいかね❓
それとも、我が妻を殺害した犯罪者、M109と呼んだ方がいいかね⁉️」
歯を食い縛って答える
「どちらでもお好きなように....」
乱龍の目が吊り上がる
「ならM109....
殺すよ」
凄まじい殺気がM109に叩き付けられる
常人であれば、それだけで失神する殺気だ
その殺気から逃げるように、M109が仕掛ける
神速で間合いを詰めるM109
その迎撃を認識した瞬間、M109の姿が乱龍の視界から消える
乱龍の右方にM109が出現したと認識した瞬間、M109は乱龍の左側にいた
すでに、M109の必殺の間合いだ
人は何かを認識する瞬間、判断や行動にタイムラグが生じる
そのほんの一瞬の時間を使って一気に移動するのがM109の得意技だ
対戦相手にしてみれば、M109が瞬間移動したように感じる
M109の体重の乗った右の拳が加速する
乱龍は無造作に左の掌底を出す
M109と乱龍が激突する
大気が割れる音が響く
弾かれたのは....
M109の方だ
M109が拳に乗せた気を、乱龍はそのまま反射したのだ
M109は、撃ち込んだ自分の気と、反射された自分の気とがぶつかり合って弾き飛ばされたのだ
乱龍は、左手を伸ばしたまま、ニヤリと笑った
「これが気の使い方だよ、M109君。
もっと私の指導を真剣に聞いていれば良かったね」
痺れる右手を庇いながら、M109が吠える
「教える気などなかったくせに💢」
仁王立ちの乱龍が言葉を返す
「今教えてあげるから、命懸けで勉強しなさい」
ありったけの気を込めて、ありったけの技を繰り出すM109
だが、その全てを弾き返される
攻撃する程にダメージを負ってしまうM109
乱龍が、M109を圧倒する
....なんなんだこの強さは⁉️
こいつは化け物か⁉️
M109が間合いを取る
「これほどまでに力の差があったのか⁉️」
悔しがるM109
だが、負ける気はないようだ
周囲に気を配る乱龍
....何か狙っているな❓
首すじに、針のように細く小さな殺気を感じる
一歩下がる乱龍
さっきまで乱龍がいた場所の大気が焦げ付く
ライフル弾が乱龍を掠めたのだ
サイレンサーを装備しているのか、発射音は聞こえなかった
乱龍が気を感知できる範囲の外....
おそらく300メートル以上離れたところからライフルで狙撃しているのだろう
この沼っ原湿原の周囲には、小高い山が幾つかある
おそらく、数日前からその場所にスナイパーを配置していたのだろう
2射、3射と違う方向からライフル弾が飛来する
微かな殺気をとらえて回避行動を取る乱龍
炎がスナイパーの味方をしているようだ
そういう位置に、乱龍は誘われたのか❓
「君はSIXの能力を盗んだんだね❓」
M109に近づくことができれば、狙撃の手数を減らせるだろう
だがそれをさせないように、スナイパーが連携している
スナイパーの射線は4本
SIXは6人同時攻撃が可能だ
1人は予備だろう
もう1人は何を狙っている❓
それとも炎が障害物となり、射線を取れないのか❓
いや、安易に考えるのはよそう
スナイパーの連携した射撃で、乱龍は回避行動を余儀なくさせられ自由に動くことができない
それでも、本来ならばとっくに射殺されている状況だ
「これでもまだ回避するのか⁉️
呆れた120歳だ」
M109が牙を見せて笑っている
ポケットから、何かを取り出した
M109は、両手に1枚づつのコインを持っている
古い時代のコインのようだ
「せっかく奥さんと会えたんだから、ずっと一緒にいてあげてください」
M109が、右手のコインを乱龍に投げた
そして、M109は左手のコインを残し忽然と消えた
乱龍に投げられたコインは、タイマー付きのC4と空中で入れ替わった
M109は、古い時代のコインを使った空間移動ができるのだ
C4に付けられたタイマーの数字は....
01.....
「糞‼️」
それが、乱龍の最後の言葉だった
C4.....プラスチック爆弾が、辺り一面を吹き飛ばした
夜空に、火の粉が舞い上がった
数百メートル離れた地点に、M109が現れた
「これでアイアン・クロウと乱龍の2人を仕留めた。
なかなかいい仕事をするじゃないか、SIXは‼️」
1人高笑いをするM109
嬉しくて笑いが止まらないようだ
しばらくして、M109は自分の管理下にある6人のスナイパーに最後の指令を送った
6人はそれぞれ拳銃を持ち、自分の頭を撃ち抜いた
「SIXのデータは一切残さない。
俺だけのSIXだ」
M109は、ミッドナイトブルーのメルセデスML350にもたれ掛かり、広がる星の海を見ていた
「後はアレが完成すれば、内閣調査室を上回る戦力が手に入る」
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「どれ、温泉でも入って行こうか」
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