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1 狸のきんたま八畳敷き

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しばらくすると雨は上がった。
通り雨のようだ。

柔らかな日差しが頬にあたるのが気持ちいい。

「この傘、後で返しに行きますか❣️」

(ぼろぼろだけど、借りたものは返す方がいいよね、うさぎちゃん)

うさぎは傘をくるくる回して雨水を払い、丁寧に傘を畳んだ。

「それじゃ、行きますね⁉️」

うさぎは、雨上がりの道を元気に歩き出した。
まるで、お散歩が楽しいみたいだ。

(何処に行くの、うさぎちゃん⁉️)

「駅から来る途中、ちょっと気になった気配があったんです❣️」

うさぎは、駅に向かって歩いた。

水田の向こうに、まだ線路が残っていた。

「もう電車なんて走らないのに。
まだ撤去作業をしていないんですね」

(宇都宮線は昭和の時代からあるからね。
思い出がいっぱい残ってるんじゃないのかな)

「そうなのかな❣️」

令和の終わり頃から始まった3度の震災の影響を受けて、東京湾の沿岸部は広範囲に水没していた。

東京都中央区を震源とする局地地震は、震度6弱以上の強い揺れが10年の間に3回、震度4以上の余震は800回以上続いた。

その影響で沿岸部は地盤沈下して海に没し、海岸線は遥か内陸部に移動していた。

2085年の海岸線は、まるで江戸時代の海岸線に戻ったようだった。

その影響は、内陸部ではそれほどではない。

しかし、壊滅的な打撃を受けた都内の鉄道網を再建する事は難しいため、新しい移動手段が開発された。

空間転移だ。

まだその装置は大きいために、設置する場所は限られている。

元々、鉄道の駅があった場所に空間転移装置が設置された。

都内から北関東の栃木県に来るには、まずは北の玄関口の上野駅から、栃木県のメインステーションの宇都宮駅に空間転移する。

さらに、そこから県内各地のサブステーションに空間転移すればいい。

うさぎは自宅の最寄り駅から、僅か20分くらいでサブステーションの氏家駅まで来ていた。

令和の時代と比べると、およそ2時間の短縮になる。

2085年の未来では、駅に電車は止まらないのだ。

「ねえkameちゃん❣️
今回は珍しく九郎さんからの指示だったけど、なんで妖物班が動かないの⁉️」

九郎とは、うさぎ=ブライドの上司のアイアンクロウのことだ。

ブライドは対サイボーグ班に所属している。
一方、アイアンクロウは対妖物班の班長だ。

今回の件は、本来なら対妖物班の仕事だった。

「妖怪相手じゃ、魔方陣も使えないのにね」

(そうだね.....対妖物班が忙しいのかな⁉️)

「絶対忙しくないよ。
だって乱馬さんなんか修行って言って、いつも自由行動しているじゃん💢」

(それもそうだね💦)

「うさぎも自由に遊びたいです💕」

(って言ってる間に着いたみたいだよ)

そこには、古ぼけた古屋があった。

その古屋の造りは、木の柱に木の板を打ちつけた外壁と、木の板が飛ばないように石が乗せられている屋根と言う、なんとも粗末な造りだった。

異様な気配もするけど、それ以上に異様な造りと、変な臭いがした。

(この建物は、昭和の中期以前の造りだよ。

今の時代まで残ってる訳がないよ)

サポートAIのkameの言う通りだった。
本来なら、とっくに腐って倒壊している構造だ。

「めっちゃ怪しいですね。

でも、臭くて入りたくないです💦」

くちびるをへの字に曲げながら、古い空き家を調べる決心をするうさぎ。

「行きますか」

折り畳んだ傘を古屋の壁に立て掛け、引き戸に手を掛ける。

人のような気配もするけど、獣の臭いがキツ過ぎて分からない。

「こんにちは❣️」

古びた引き戸を開ける。

人の出入りは無さそうなのに、スムーズに戸が開いた。

(気を付けてうさぎちゃん。

こんな古い建物の引き戸が、軽く開く方がおかしいよ)

(誘われてるってことですね)

中は八畳の広さの、何もない古屋だった。

窓はない。
木の板の隙間から日差しが入って、思った以上に明るい。

床はない。
土が剥き出しの土間だ。

(気配があるのに何もないってことは、何者かが隠れているってことですね)

ガーランドの魔方陣を古屋の土間に敷き詰める。

何者かが動けば、魔方陣が反応する。

突然、音を立てて引き戸が閉まる。

一瞬、そちらに視線を逸らした。

同時に建物内が真っ暗になる。

CZ75を抜こうとするうさぎの腕に何かが絡みつく。

右手首と左手首に何かが絡まり縛り上げられ、うさぎの身体が持ち上げられた。

左右の足首も縛り上げられ、大きく脚を広げられた。

うさぎの身体は、Xのように空中で磔にされていた。

魔方陣に何者かが反応する。

暗闇の中から何かが近づく。

「あなたは、n.....」

うさぎの声が途切れる。

うさぎの首にも、何かが絡まり締め上げたからだ。


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