Rabbit bride 2085 第10話　バエルの城

まろうど

文字の大きさ

大中小

3 / 9

2 怪獣総進撃

しおりを挟む

マツダの新型ロードペーサーが、関東平野の穀倉地帯を疾走している

広大な稲作地帯だった関東平野に、現在は小麦やとうもろこしなどの穀物が大地を黄金色に彩っている

昭和の時代、第二次世界大戦終結後に米国との密約があった

米の減反(作付け面積を減らす)があったことは知っていると思う

それ以外にも、米国の農家の保護のためと、日本の食糧自給率の低下を目的として、小麦ととうもろこしの作付け面積の縮小と報告の義務があった

(上記のことは、作者であるまろうどが内閣調査室のエージェントを務めていた時に知った国家機密であり、令和の現在も有効である)

2020年代の偽パンデミックとウクライナ危機の後、世界からの穀物増産の要望を受け入れる形で、その密約は放棄された

それ以降、日本は世界有数の穀倉地帯となった

初代ロードペーサーは、外国メーカーの車体にマツダのロータリーエンジンを積んだ輸出仕様車だった

2083年に発表された2代目ロードペーサーは、マツダのお家芸のロータリーエンジンを発電機として使う電気自動車となった
e-SKYACTIV R-EVと呼ばれるシステムを使うそれは、プラグインハイブリッドに分類される

四角くて大きくて、車高が低くスポーティな印象に見える4ドアセダンのフォルムをしている

アリスには
「なんか薄っぺらい」
と不評のデザインであった

4つの強力なインホイルモーターを装備していることから、新しく内閣調査室のエージェントになったマッスルシリンダー用の車両として先月購入したばかりの新車だった

マッスルシリンダーの超魔伝導技術と、鋼鉄のガルバルディの超金属錬成技術と、武器開発が趣味のたまもの意向でいろいろと改造されている

ちなみにだが、マッスルシリンダーの個人所有のスーパーEVバイク『ニンジャH4R』は、ガルバルディとたまもが誠意改造中である

後日登場するまで楽しみに待っててほしい

このロードペーサーも、昭和のロボットアニメを強烈にオマージュしているので、どのロボットか予想してほしい

マッスルシリンダーがハンドルを握り、ロードペーサーが法定速度を大幅に超える速度で走行している

内閣調査室の特権で道交法が一切適応されない(事実)のをいいことに、マッスルシリンダーが暴走しているのだ

助手席のシークレットクリーミー=くるみが呆れている

向かう先は有能だがやる気のない除霊師の自宅だった

ロードペーサーにナビの画面はない

電脳化された人間には、脳内にナビが表示されるからだ

実際にドライバーがハンドルを握る必要もないのだが、マッスルシリンダーの走り屋魂がそれを許すことはない

彼は「イニシャルMS」として、峠の走行動画をYouTubeにアップしていると言う噂もあるくらいの走り好きだ

今回向かうのは、引きこもりの除霊師、谷貝つかさ(24歳)の自宅だった

築20年くらいの小さな住宅地の一角に彼の家はあった

屋根も外壁も適切な塗装時期を過ぎているようだ

白いブラウスにライトイエローのスカート
ベージュのストッキングに白いローヒールのパンプス

夏のOLっぽい服装のくるみがロードペーサーから降り立った

コミュニケーション能力の低いマッスルシリンダーに車に残るよう指示して、くるみがインターホンを押した

事前に連絡を受けていた母親が、くるみを2階に案内する

くるみが気配を探る

やはり、つかさは1人でいるようだ

トントントン....
軽くノックする

「内閣調査室です
ご協力をお願いに来ました」

特別に優しい声で挨拶するくるみ

返事もない
つかさも出て来ない

「ちなみにですが、拒否権はないんですよぉ～」

くるみの声は、さっきより少しめんどくさそうだった

くるみが風を使い、つかさの部屋の中を探る

壁にある棚には、フィギュアがたくさん置いてあるようだ

どれくらいあるんだろう....
100体以上あるようだ

なんのフィギュアなのかな？
風では造形までわからない

クローゼット、机、テーブル....などなど

椅子にはシャツが描けてあるようだ

「つかさくんは、どうして除霊の力を使わないんですか？」

つかさはプロモデラーとしてフィギュアの彩色の仕事をしているが、望まず手に入れた除霊の力を使いたくないと思っているらしい

「幽霊が怖いから....」

部屋の中から、小さな答えが返ってきた

「怖いんじゃしょうがないね」

くるみは思わず笑ってしまった

「お母さんはつかささんの靴を用意して、玄関で待っててください」

部屋の構造はだいたいわかった

気を高め、風を操るくるみ

つかさの部屋の中で、突然旋風が吹き荒れる

窓を閉めている8畳の部屋の中では、こんなに強い風が渦巻くはずがない

声にならない悲鳴が部屋の中から聞こえる

たくさんの怪獣フィギュアが舞い上がる

ファルシオン制作のソフビ製ジラースやテレスドンが襲いかかる

怪獣無法地帯が制作したダイカストのゴモラも風に舞う

つかさの悲鳴は風の唸り声にも負けていない

ダイカストのゴモラが窓に突進する

窓ガラスの強度ではゴモラを受け切ることはできない

砕け散り、空に舞うガラスの破片

尻尾が取れて庭の芝生に落ちるゴモラ

風を受けて、2転3転するゴモラの尻尾

風に巻かれて窓から放り出されるつかさ

緩やかに尻餅をつく

椅子に掛けていたシャツも降ってきた

尻尾が取れたゴモラを拾い上げる

玄関から出て来た母親が、呆然としているつかさに靴を渡す

くるみも玄関から出て来た

「窓の修理に別のエージェントが来ます

つかさくんはお預かりします」

母親に今後のことを説明するくるみ

「じゃあ、行きましょう」

くるみはつかさの手首を握った

本当に、拒否権はなかったようだ

しおりを挟む