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幼少期
プロローグ ~異世界へ~
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ふと下を見ると、水溜まりに自分の顔面が写し出されていた。
「ハハ……この顔じゃあ、彼女なんか作れるわけ無いよな」
これまで、俺は一生懸命人生を歩んできた。
勉強は一日18時間、人には全力で気を使い、彼女を作るため必死に自分を磨こうとした。
努力、努力、努力……だがその努力は報われなかった。
顔のせいか――いや、違うな。
自分が一番良く分かっている、俺の努力が足りなかったのだと。
だから大学に行けずに正に今こうやって工事現場で働いているのだ。
「おいてめぇ!? 俺の弁当早く買って来いよ!」
大きな筋肉だるまが、俺に命令してきた瞬間、恐怖が押し寄せる。
ま、また殴られたくない……。
「すいません、今買ってきますから!」
「チッ、いつものやつだぞ」
「は、はい!」
(いつものやつってなんだよ、もう――)
――――夜、俺は家に無事帰還し、テレビをつけた。
アニメのオープニングが始まると手にペンライトを握りしめ、全力で振る。
「うぉぉ始まったぁぁ! まどかちゃんサイコうぅぅ」
ご察しの通り、手に持っているペンライトはピンク色だ。
誰もが俺のこの姿を見れば、キモオタだと思うだろう。だが、この時が唯一の心の安らぎだった。
そんな俺が選ぶ、最高の小説は何か、気にならないか? それは《アンブルストーリー》という小説だ。
この小説はダークファンタジーを舞台にした、バッドエンドもの。
残酷すぎて問題作となった本作だが、俺は大好きだ。キャラ、世界観、ストーリー、俺からすればどれを上げても百点満点の作品。
「ふぅ、喉乾いたな」
アニメのエンディングまでしっかり見終わった俺は、冷蔵庫を開け、飲み水を取ろうとする。
しかし、冷蔵庫にはペットボトルが一つも入っていなかった。
「夜はこれからだしな、菓子とかも買いに行こう」
俺はズボンのポケットに財布をしまい、家を出た――
赤信号。横断歩道の向こうには、高校生4人の男女が居た。実に妬ましい。
「はぁ……あの男共そこどけよ……」
あの男達は悪くない。でもイライラは隠しきれない。
一人ぐらい分けてくれても良くない?
「ブゥーン!!」
「ん、なんだ?」
イライラしていると、何処からかエンジン音が聞こえた。そのエンジンの音は徐々に大きくなっていく。
エンジンがなる方へ目を向けると、そこには「もっと早く走りたいお!」と自制心を無くしたトラックがこちらに向かって走っていた。
信号は青になる。
男女4人組は、話に夢中でトラックの存在に気づいていない。このままだと、トラックが直撃してしまう。
「おい、バカあぶねぇよ!」
その言葉が聞こえたのか、4人の内の女一人が舌打ちして俺を睨みつてきた。
異世界転生のチャンス? いやいやバカか。確かにお決まりの展開だがここは現実。
死んだ先にあるのは"無"だけだ。
「クソ、トラックに気づかないか――」
待て……別に助けなくても良いだろ。俺には何も関係の無い話だからな……。
(いや、やっぱり駄目だ、後悔なんかしたくない!)
俺の人生は後悔の連続だった、今助けなかったら過去一の後悔を味わうことになる。
「ふぅ」
俺はあの4人組に命を捧げようと決意した。どうせ腐った人生だ、ここで終わらせよう。
その瞬間のことだった。俺の背中が猛烈に熱くなった、下を見ると腹部から刃物が突き出ており、血がポタポタと垂れていたのだ。
次の瞬間には、その刃物が抜かれ、俺は倒れ込む。
(おい……嘘だろ?)
同時に俺の視界には、跳ね飛ばされてトマトのようにグチャリと潰された高校生が目に入った。助けられなかった……。
「お前のせいだからな! お前が余計なアドバイスをしなけりゃ、彼女は!!」
背後から俺を刃物で刺した男がそう叫ぶ。
そうか、復縁できなかったんだな。ごめんな……。
俺が全部悪いのだ、コイツに刺されたのも、それによって高校生を助けられなかったのも……彼女が出来ないのも周りに嫌われるのも。
「バカだなぁ、俺」
か細い声が辺りに響き、俺は人生で最大の後悔をしながら、何度も刺されて死んだ――――
目覚めると、俺は仰向けに寝ており、上には数十メートルの長くて太い木が生えていた。
(う、眩しい……ジャングルか? いや違う、なんだありゃ、青く光ってやがる)
葉の間から漏れる日が当たって眩しい。近くには滝のような音がする。
にしても気持ち悪いな、まるで船酔いしているような感覚だ。
そうだ! アイツらは助か――いや、助けらなかったのだ。
じゃあ俺はなんで生きている? 殺されたはずの俺は何故生きている?
思考を巡らせる中、どこからか声が聞こえた。
「先に家に帰っていてくれ、俺は獲物を捕まえてくる」
「わかりました。ふふ」
ここは海外だと思っていたが、日本語で会話をしているようだ。
(こんな場所、日本にあったのだな)
俺はその人達に会うため、立ち上がろうとする。
しかし立ち上がれなかった。クビしか左右に動かない。
辺りを見渡して、俺はカゴに入っていることが判明した。ついでに動くとカゴが揺れるので、恐らく水の上に浮いているのだろう。
俺を乗せられるカゴって、相当でかいぞ?
「えっと、その……今日の夜は……」
「ハハ、分かっているさ」
声が徐々に近づいてくる。数秒後、俺の目の前にはラブラブな二人が顔を出した。
男は金髪のイケメン、女は白髪の美女。
「まぁ!」
(ギャァァァァァァ!!)
俺を見て喜ぶ女に対して、俺は驚愕していた。
だって、二人の頭には……本物の猫耳が生えていたのだから。
「見て貴方、赤ちゃんですよ!」
「人間の子じゃないか! 何故ここに」
「この子のお母さんが来るまで、私たちが守りましょう」
いやまって、赤ちゃんって俺のこと? もしかして俺バカにされてる?
俺はこの顔と猫耳、そして服装を確認した後ある結論に辿り着いた。
(アンブルストーリーのコスプレじゃないか!?)
クオリティがあまりに高すぎる、いや、完璧以上だ。
クソ……現実が幻想を上回ることってあるのだな。
「ハハ……この顔じゃあ、彼女なんか作れるわけ無いよな」
これまで、俺は一生懸命人生を歩んできた。
勉強は一日18時間、人には全力で気を使い、彼女を作るため必死に自分を磨こうとした。
努力、努力、努力……だがその努力は報われなかった。
顔のせいか――いや、違うな。
自分が一番良く分かっている、俺の努力が足りなかったのだと。
だから大学に行けずに正に今こうやって工事現場で働いているのだ。
「おいてめぇ!? 俺の弁当早く買って来いよ!」
大きな筋肉だるまが、俺に命令してきた瞬間、恐怖が押し寄せる。
ま、また殴られたくない……。
「すいません、今買ってきますから!」
「チッ、いつものやつだぞ」
「は、はい!」
(いつものやつってなんだよ、もう――)
――――夜、俺は家に無事帰還し、テレビをつけた。
アニメのオープニングが始まると手にペンライトを握りしめ、全力で振る。
「うぉぉ始まったぁぁ! まどかちゃんサイコうぅぅ」
ご察しの通り、手に持っているペンライトはピンク色だ。
誰もが俺のこの姿を見れば、キモオタだと思うだろう。だが、この時が唯一の心の安らぎだった。
そんな俺が選ぶ、最高の小説は何か、気にならないか? それは《アンブルストーリー》という小説だ。
この小説はダークファンタジーを舞台にした、バッドエンドもの。
残酷すぎて問題作となった本作だが、俺は大好きだ。キャラ、世界観、ストーリー、俺からすればどれを上げても百点満点の作品。
「ふぅ、喉乾いたな」
アニメのエンディングまでしっかり見終わった俺は、冷蔵庫を開け、飲み水を取ろうとする。
しかし、冷蔵庫にはペットボトルが一つも入っていなかった。
「夜はこれからだしな、菓子とかも買いに行こう」
俺はズボンのポケットに財布をしまい、家を出た――
赤信号。横断歩道の向こうには、高校生4人の男女が居た。実に妬ましい。
「はぁ……あの男共そこどけよ……」
あの男達は悪くない。でもイライラは隠しきれない。
一人ぐらい分けてくれても良くない?
「ブゥーン!!」
「ん、なんだ?」
イライラしていると、何処からかエンジン音が聞こえた。そのエンジンの音は徐々に大きくなっていく。
エンジンがなる方へ目を向けると、そこには「もっと早く走りたいお!」と自制心を無くしたトラックがこちらに向かって走っていた。
信号は青になる。
男女4人組は、話に夢中でトラックの存在に気づいていない。このままだと、トラックが直撃してしまう。
「おい、バカあぶねぇよ!」
その言葉が聞こえたのか、4人の内の女一人が舌打ちして俺を睨みつてきた。
異世界転生のチャンス? いやいやバカか。確かにお決まりの展開だがここは現実。
死んだ先にあるのは"無"だけだ。
「クソ、トラックに気づかないか――」
待て……別に助けなくても良いだろ。俺には何も関係の無い話だからな……。
(いや、やっぱり駄目だ、後悔なんかしたくない!)
俺の人生は後悔の連続だった、今助けなかったら過去一の後悔を味わうことになる。
「ふぅ」
俺はあの4人組に命を捧げようと決意した。どうせ腐った人生だ、ここで終わらせよう。
その瞬間のことだった。俺の背中が猛烈に熱くなった、下を見ると腹部から刃物が突き出ており、血がポタポタと垂れていたのだ。
次の瞬間には、その刃物が抜かれ、俺は倒れ込む。
(おい……嘘だろ?)
同時に俺の視界には、跳ね飛ばされてトマトのようにグチャリと潰された高校生が目に入った。助けられなかった……。
「お前のせいだからな! お前が余計なアドバイスをしなけりゃ、彼女は!!」
背後から俺を刃物で刺した男がそう叫ぶ。
そうか、復縁できなかったんだな。ごめんな……。
俺が全部悪いのだ、コイツに刺されたのも、それによって高校生を助けられなかったのも……彼女が出来ないのも周りに嫌われるのも。
「バカだなぁ、俺」
か細い声が辺りに響き、俺は人生で最大の後悔をしながら、何度も刺されて死んだ――――
目覚めると、俺は仰向けに寝ており、上には数十メートルの長くて太い木が生えていた。
(う、眩しい……ジャングルか? いや違う、なんだありゃ、青く光ってやがる)
葉の間から漏れる日が当たって眩しい。近くには滝のような音がする。
にしても気持ち悪いな、まるで船酔いしているような感覚だ。
そうだ! アイツらは助か――いや、助けらなかったのだ。
じゃあ俺はなんで生きている? 殺されたはずの俺は何故生きている?
思考を巡らせる中、どこからか声が聞こえた。
「先に家に帰っていてくれ、俺は獲物を捕まえてくる」
「わかりました。ふふ」
ここは海外だと思っていたが、日本語で会話をしているようだ。
(こんな場所、日本にあったのだな)
俺はその人達に会うため、立ち上がろうとする。
しかし立ち上がれなかった。クビしか左右に動かない。
辺りを見渡して、俺はカゴに入っていることが判明した。ついでに動くとカゴが揺れるので、恐らく水の上に浮いているのだろう。
俺を乗せられるカゴって、相当でかいぞ?
「えっと、その……今日の夜は……」
「ハハ、分かっているさ」
声が徐々に近づいてくる。数秒後、俺の目の前にはラブラブな二人が顔を出した。
男は金髪のイケメン、女は白髪の美女。
「まぁ!」
(ギャァァァァァァ!!)
俺を見て喜ぶ女に対して、俺は驚愕していた。
だって、二人の頭には……本物の猫耳が生えていたのだから。
「見て貴方、赤ちゃんですよ!」
「人間の子じゃないか! 何故ここに」
「この子のお母さんが来るまで、私たちが守りましょう」
いやまって、赤ちゃんって俺のこと? もしかして俺バカにされてる?
俺はこの顔と猫耳、そして服装を確認した後ある結論に辿り着いた。
(アンブルストーリーのコスプレじゃないか!?)
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