都市伝説と呼ばれて

松虫大

文字の大きさ
上 下
201 / 205
第四章 伝説のはじまり

24 オモロウ防衛戦

しおりを挟む
 敵発見の報告が入ったのは、オモロウ上陸から三日後の事だった。
 兵をまとめて引いていたヴィクトルが、五〇〇〇名の兵力を引き連れてオモロウ郊外に現れたのだ。

「敵さんのお出ましだ! 準備はできてるな!?」

「当たり前でしょう。三日もあったんですよ。できてなければ懲罰ものですよ」

 ユーリの言葉にユハニが自信を持って答えた。
 ここからの一カ月近くがこの遠征の成否を左右するといっても過言ではない。彼らはそれこそ寝る間も惜しんで迎撃の準備を整えていたのだ。

「まあ俺たちにとっちゃこんなもの朝飯前だけどな」

「でも、これじゃカントでの戦いとやってることは一緒じゃないか?」

「それは言わない約束だろ?」

 ユハニとヨニの軽口にユーリは思わず苦笑を浮かべる。
 彼らの基本となる防衛戦術は、オモロウを囲う様に張り巡らされた塹壕に籠もっての銃撃となる。
 カントでの戦いでは、敵の主力からカントを守り切っただけでなく、被害も最小限に抑えることができた。そのため今回のオモロウ防衛戦にも採用が決まったのであった。
 カントで死線を潜り抜けたためか、緊張の中にも彼らには余裕が感じられる。かく言うユーリも同様だ。彼らと会話しながらも陣全体に目を配ることができていた。
 それは彼らより前方に陣取っているルーベルト率いる二番隊でも同様だった。逆に二番隊は暴走して飛び出して行かないかが不安になるほどだ。現に今もルーベルトが必死で宥めている声が聞こえてくるのがその証拠だった。

「あいつら大丈夫か?」

「いつもあんなもんです。戦いが始まれば締まるでしょ?」

「それは分かっているが、あいつらちゃんと後退できるんだろうな?」

 暴走ヒャッハー集団と化せばルーベルトですら制御が難しくなる二番隊だ。
 前回と違い今回は、一番隊と二番隊が交互に休息を挟みながら防衛線を維持する方針だった。そのため二番隊がまず防衛戦を戦った後は、速やかに一番隊と交代する予定だった。
 それは命令通りに動くことが絶対条件なのだ。命令を聞かず、退却する敵兵を追って飛び出して行く彼らの姿が幻視できるだけに、ユーリらの不安はいつまでも尽きなかった。

「そうなったら二番隊を切り捨てるしかないでしょ」

「そうだな。一番隊としては流石にそこまで面倒はみられませんよ」

「確かにそれはもっともだが、俺の立場上そうも言ってられないんだよな」

 自分たちはあくまで一番隊としての仕事を全うするのみとするユハニとヨニ。だがこの防衛戦の総司令を務めるユーリは、さすがに二番隊を見捨てる訳にもいかず苦虫を噛み潰したような顔を浮かべるのだった。

「偉くなると色々大変ですね」

「俺はもうこれ以上偉くならなくてもいいかな」

 二人は生暖かい目をユーリに送る。

「勝ち続ければお前らだって数年後には同じように悩んでるかも知れないぞ」

「ははは、まさか!」

「あり得ないと思いますが、そん時ゃそん時です」

 冗談めかして笑う二人だったが数年後にブーメランとなって彼らに帰ってくる事になるのであった。



 オモロウ近郊に布陣したヴィクトルは、街を見渡せる位置からオモロウを遠望していた。

「こうして見れば敵の戦力はそれほどでもないな」

「問題は敵の火力ですが、今は厄介なキャラベル船もありません。あの火球を生む不思議な銃は脅威といえますが、鉄砲は所詮弓の上位互換の兵器でしかありません。折角大量の盾を用意したのです。ここは盾を並べて一気に攻めるべきです」

「私もユッシの意見に賛成です。敵兵が集結するまでの今が好機と存じます。多少の損害を出したとしてもここは一気に攻め落とすべきかと存じます」

 ヴィクトルは、ユッシとフベルトの意見を得て早速行動に移すことにした。



「そら、おいでなすったぜ!」

「何だあの盾は!?」

「まるで壁じゃねぇか!」

 兵が評したように反乱軍は鉄砲を警戒してか、高さ一メートルの大盾を押し並べたままゆっくりと近付いてきていた。盾の形状は長方形で素材は鉄のため重く取り回しが非常に難しいが、密集隊形ファランクス状態でズラリと並べた姿は正に壁が迫ってくるようだった。
 ただし通常の鉄砲相手では、だ。
 左翼大隊には魔砲があった。
 その魔砲が最も威力を発揮するのは密集している軍勢だ。
 だが、ヴィクトルの方も散々魔砲弾の威力を目の当たりにし特長も把握している。
 軍勢は盾から火炎弾の影響を受けない三メートル後方まで下げていた。また盾を持っているのは、罪人や奴隷などだ。彼らにとって罪人や奴隷は、船の漕手の時と同様消耗品扱いだった。

「うわぁ!」

 魔砲弾の攻撃を受けて次々と盾持ちの人員が次々と倒れていくが、それでも代わりの人員を補充しながら軍勢を前進させていく。
 やがて相対距離が六十メートルになった頃、隊列は一端歩みを止めた。

「よし、攻撃開始だ!」

 ユッシの合図で反乱軍から一斉に矢が放たれた。
 ほぼ直上に放たれた矢は、塹壕に潜む彼らの頭上から次々に降り注いだ。
 それほど効果が出る訳ではないものの、雨のように降る矢に攻撃の手が若干鈍ることとなる。
 その間に反乱軍が少しずつ距離を詰めていく。

「小癪な、対空防御だ!」

 その距離が五十メートルを切ろうかという頃、ルーベルトの指示によりそれまで水平に近い角度で放っていた魔砲弾を空中に向けて撃ち始めた。
 途端に空中でいくつか火球が開き、何本もの矢を巻き添えにして消滅させていく。
 効果が上げられない中でもジリジリと前進を続ける反乱軍だったが、その距離が四十メートルになろうかという頃、それまでと違う攻撃に慌てふためくこととなる。

「よし、一発驚かせてやるか。W弾装填」

「W弾装填」

 ルーベルトの指示に各所で復唱の声が響く。
 その指示により一部の兵が、これまでとは違う青い魔砲弾を装填し始めた。

「よし、撃て」

 例によって気の抜けたような射撃音とともに放たれた魔砲弾は、橙色ではなく青い光跡を引いて敵軍勢に向けて飛んでいく。

――ドバァッ!

 魔砲弾を盾で受けた途端、着弾箇所から火球ではなく大量の水が溢れだした。
 水は壁のように押し立てた盾ごと押し流し、整然と並べられた盾の列が櫛の歯が欠けたように乱れていく。
 水の勢いは後方の弓兵にまで及び、さらに盾の欠けた箇所に集中的に銃撃が加えられると、軍勢は大混乱に陥ってしまった。

「なっ、何だ!?」

 前線を預かるユッシは突然起こった混乱にすぐに対応できず、これが混乱に拍車をかける事になった。
 その後ヴィクトルからの撤退の合図が来るまで立て直すことができず、兵を無駄に失ったのである。

「実戦になると全く違う動きになるな」

「暴走の不安は消えませんがね」

 どうしても二番隊の暴走が気になるユハニらは、完勝と言える緒戦の状況を見ても心から安心できなかった。

「取り敢えず緒戦、二番隊は結果を残した。次は一番隊おれたちの番だぞ」

「ああ、負けてられねぇな」

「ユーリだけじゃなく、俺たちもできるって所を見せてやるさ」

 ユーリの檄に副官の二人も気合いを入れて立ち上がる。その日の午後、問題なく二番隊との交代で前線に上がったのだった。
 結局、この日の手痛い敗戦を被ったヴィクトルは、翌日になると更に強引な突撃を敢行したが、一番隊の活躍によって前日を上回る損害を出しただけで終わった。
 その後は作戦の見直しを迫られたが何ら打つ手を見出すことができないまま睨み合いを続けることになる。
 そして一カ月後、遂にトルスターの全軍がオモロウに集結を果たすのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

おまけ娘の異世界チート生活〜君がいるこの世界を愛し続ける〜

蓮条緋月
ファンタジー
ファンタジーオタクな芹原緋夜はある日異世界に召喚された。しかし緋夜と共に召喚された少女の方が聖女だと判明。自分は魔力なしスキルなしの一般人だった。訳の分からないうちに納屋のような場所で生活することに。しかも、変な噂のせいで食事も満足に与えてくれない。すれ違えば蔑みの眼差ししか向けられず、自分の護衛さんにも被害が及ぶ始末。気を紛らわすために魔力なしにも関わらず魔法を使えないかといろいろやっていたら次々といろんな属性に加えてスキルも使えるようになっていた。そして勝手に召喚して虐げる連中への怒りと護衛さんへの申し訳なさが頂点に達し国を飛び出した。  行き着いた国で出会ったのは最強と呼ばれるソロ冒険者だった。彼とパーティを組んだ後獣人やエルフも加わり賑やかに。しかも全員美形というおいしい設定付き。そんな人達に愛されながら緋夜は冒険者として仲間と覚醒したチートで無双するー! ※他サイトにて重複掲載しています

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

国を追放された魔導士の俺。他国の王女から軍師になってくれと頼まれたから、伝説級の女暗殺者と女騎士を仲間にして国を救います。

グミ食べたい
ファンタジー
 かつて「緑の公国」で英雄と称された若き魔導士キッド。しかし、権謀術数渦巻く宮廷の陰謀により、彼はすべてを奪われ、国を追放されることとなる。それから二年――彼は山奥に身を潜め、己の才を封じて静かに生きていた。  だが、その平穏は、一人の少女の訪れによって破られる。 「キッド様、どうかそのお力で我が国を救ってください!」  現れたのは、「紺の王国」の若き王女ルルー。迫りくる滅亡の危機に抗うため、彼女は最後の希望としてキッドを頼り、軍師としての助力を求めてきたのだった。  かつて忠誠を誓った国に裏切られ、すべてを失ったキッドは、王族や貴族の争いに関わることを拒む。しかし、何度断られても諦めず、必死に懇願するルルーの純粋な信念と覚悟が、彼の凍りついた時間を再び動かしていく。  ――俺にはまだ、戦う理由があるのかもしれない。  やがてキッドは決意する。軍師として戦場に舞い戻り、知略と魔法を尽くして、この小さな王女を救うことを。  だが、「紺の王国」は周囲を強大な国家に囲まれた小国。隣国「紫の王国」は侵略の機をうかがい、かつてキッドを追放した「緑の公国」は彼を取り戻そうと画策する。そして、最大の脅威は、圧倒的な軍事力を誇る「黒の帝国」。その影はすでに、紺の王国の目前に迫っていた。  絶望的な状況の中、キッドはかつて敵として刃を交えた伝説の女暗殺者、共に戦った誇り高き女騎士、そして王女ルルーの力を借りて、立ち向かう。  兵力差は歴然、それでも彼は諦めない。知力と魔法を武器に、わずかな希望を手繰り寄せていく。  これは、戦場を駆ける軍師と、彼を支える三人の女性たちが織りなす壮絶な戦記。  覇権を争う群雄割拠の世界で、仲間と共に生き抜く物語。  命を賭けた戦いの果てに、キッドが選ぶ未来とは――?

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...