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第二章 巨星堕つ
39 破談
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肩を落としたルオがコンチャに付き添われて強制退場させられていった後、トゥーレは鍛冶工房街に足を向けた。
工房街はオリヴェルとオレクの二人がニオール商会と協力しながら各地から職人を呼び集めて作っている街で、当初は職人を集めることに苦労していたが、現在は鍛冶工房の数も十二まで増えていた。今後は新たな職人を育成しながら、最終的には工房を二十まで増やしていく計画だ。
通りにずらりと並んだ工房の内、右手前に建つ工房はもはやルーベルト専用工房と言っていいくらい彼が入り浸っている工房だ。親方の名はヴァイダといい正式にはヴァイダ工房と言うのだが、最近ではルーベルト工房で通用するほどその名称が浸透してきたという。
開け放たれた入口から覗けば、そのルーベルトが親方と顔を付き合わせて仕上がった鉄砲のチェックに余念がない様子だ。満足のいく仕上がり具合だったのか、銃を構えるルーベルトの表情は明るく、ヴァイダもホッとしたように眉尻を下げていた。
工房に踏み入れたトゥーレに工房のむわっとした熱気が押し寄せる。
「どうだ仕上がりは? まあ聞くまでもなさそうだな?」
「ええ、ばっちりですね。もっとも試射をして確認は必要ですが」
彼の声に鉄砲を下ろして振り向いたルーベルトが笑顔を見せた。
彼がヴァイダと試作を重ねている鉄砲は、五号弾のような特殊な弾丸専用のものではなく通常弾用の鉄砲だ。既に広く普及している鉄砲に、ルーベルトが細かく改良の注文を付けて職人達を辟易させていたのだ。五号弾用の銃との区別のため通常の鉄砲は一式銃と命名されている。
結局、神経質なほど細かい注文に対応できる工房がヴァイダの所しかなかったため、彼の工房にルーベルトが入り浸ることとなっていた。お陰でここのところ魔砲の製造は止まったままだ。
そのルーベルトにずっと貼り付かれていたヴァイダの疲れ切った表情を見れば、どれほど注文が細かかったのか分かるというものだろう。
「それでは早速試射を!」
「ちょっと待て! それは後だ!」
完成したばかりの鉄砲を持って、工房の裏に併設されている試射場に向かおうとするルーベルトの首根っこをユーリが押さえる。
「何ですか? 馬術はサボってませんよ!」
止められたルーベルトは頬を膨らませ、不機嫌そうな表情を隠しもせずに振り返った。以前のサトルトへの出入り禁止がよほど堪えたのか、あれ以来ルーベルトは真面目に馬術訓練に取り組んでいる。
その甲斐あって馬上からの射撃も卒なく熟せるようになり、今ではユーリにすら勝つことがあるほど馬術の腕を上げていたのだ。
トゥーレは軽く肩を竦める。鉄砲が目の前にぶら下がっている状態で、彼に通常の対応を求めるのは無駄なのだ。
「五式銃の量産はどうなっている?」
心ここにあらずといった状態のルーベルトを引き戻すには、やはり鉄砲の話題しかない。トゥーレの言葉にくるりと振り向いたルーベルトは嬉々として喋り始める。
「とりあえず十挺はできてます。こちらもこの後改良していく予定です」
「それもこの工房でするつもりか?」
トゥーレがそう言うと、後ろに控えているヴァイダがギョッとしたように目を見開いた。
「当然でしょう? 他の工房じゃやってくれませんからね」
迷いのない顔でルーベルトが頷く。
「今のままで五式銃に問題があるのか?」
「私が作成したんです。そんなのある訳無いでしょう?」
「それなら何故改良をおこなう必要があるんだ?」
「よりよい銃にするために決まってるじゃないですか?」
ルーベルトがと何故そんなことを聞かれているのか分からない様子で、あっけらかんと答える。彼が力説すればするほど周りは白けた空気になっていくのにもまるで気付いていないようだ。
「ああ、もう一度聞く。五式銃も一式銃も今のままで問題はないのだな?」
低く抑揚のない声でトゥーレが念を押すように尋ねる。悟りを開いたように感情の一切を排除した表情だ。
五式銃は一式銃と命名された通常の銃と違い、口径が倍もある五号弾用の銃の正式名称だ。試作時の長大な銃身からは一転して短く切り詰められ、わずか五十センチ程度しかない。銃身を短く切り詰めたことで射程距離と命中精度は犠牲となったが、威力についてはタカマで実戦投入された通り、密集した相手に対しては無慈悲なほどだ。ただし、発射時の衝撃はあまり改善されたとはいえず、目下の所五式銃を扱うことができる者を増やすことが急務であった。
「もちろんです。今のままで実戦投入は可能です!」
ルーベルトは当然とばかりに胸を張った。
「なら、現状で一式銃と五式銃の開発は凍結だ!」
「ちょ、ちょっと待ってください! 何故ですか!?」
トゥーレの有無を言わせぬ無慈悲なひと言に、掴み掛からんばかりの勢いでルーベルトが詰め寄る。とはいえ多少の冷静さは残っているらしく、本当に掴み掛かることはなくトゥーレの足下に縋り付くように跪いていた。
「何故? 現状で実戦投入は可能だと言ったのは其方だ。それに何時までもヴァイダを貴様専用の工房にする訳にはいかん。魔砲の生産ができるのは今の所、この工房だけだからな」
いい加減止めなければ、凝り性のルーベルトは何時までも改良を止めることはないだろう。その改良によって画期的に性能がアップするなら別だが、ほんの気持ち程度の性能アップのためにヴァイダをつき合わせる訳にはいかないのだ。
トゥーレが言うように魔法石を錬成できる工房の準備は進めているとはいえ、今の所このヴァイダ工房しかないのだ。
流石にルーベルトもこれ以上無理を言うほど状況が見えない訳ではない。彼はがっくりと項垂れて黙り込んだ。
「それで、五号弾はどれだけできている?」
「訓練用ならば二〇〇発ほどは直ぐにでも用意できます。実弾はまだ量産に入っていません」
ルーベルトは口を尖らせながらぷいっと横を向く。子供のような態度に軽く息を吐いたトゥーレが、ルーベルトの自尊心をくすぐるように言葉を続ける。
「出来上がった分からカントに運ばせろ! サトルトはオレクに任せ、其方はユーリと共に五式銃を使える者を一人でも増やせ。お前が頼りだ、頼むぞ!」
ルーベルトから鉄砲を取り上げることは得策ではない。以前罰として完全に鉄砲から離したことがあったが、その時は使い物にならないほどやる気を無くしてしまった。
鉄砲のことはルーベルトに任せてしまうのが、最も手っ取り早くて周りの被害も少なくなるのだ。
「はっ! 承知いたしました」
案の定、現金なことに機嫌はすぐに戻ったようで、笑顔を浮かべて了承する。彼は返事をすると直ぐにカントに向かおうと立ち上がる。
そんな彼を引き留めるようにもう一度トゥーレが声を掛ける。
「もうひとつ確認したいんだが?」
「何ですか?」
トゥーレの雰囲気が変わり、傍にいるユーリやオレクも妙ににやにやと薄ら笑いを浮かべていた。このような表情の時は碌な話でないのは分かっている。ルーベルトは警戒するように身構えた。
「ちょっと小耳に挟んだんだが・・・・」
嫌らしく笑みを浮かべるユーリたちに対し、トゥーレはやけに真面目な顔で問い掛けた。
「其方、イロナと破談になったというのは本当か?」
「なっ! だ、誰に聞いたんですか!?」
明らかに狼狽した様子で、ルーベルトは灰色の瞳を彷徨わせた。
「クラウスだ。嘆いていたぞ」
「父上ェェェェ・・・・」
クラウスと聞いてルーベルトは思わず天を仰いだ。
イロナとはルーベルトの許嫁で、クラウスの配下にある騎士の娘で、二人は幼い頃からの幼馴染みだった。小さかった頃に親同士が決めた事だったが、その頃はよく一緒に遊ぶほど仲が良かった。彼が成人になるのに合わせて結婚する約束を交わしていたが、ルーベルトが成人しても二人の仲が進展しなかったためクラウスをやきもきとさせていたのだ。
「幼馴染みだったんだろう? 何があったんだ?」
長らく進展がなかったが、それでもこの春が終わる頃には結婚する予定となっていた筈だ。それが急に破談になったのだ。余程の理由があるに違いなかった。
クラウスに聞いても頑なに理由を話さず『馬鹿息子に聞いてくれ』の一点張りだった。トゥーレたちは興味津々の様子でルーベルトの言葉を待った。
「・・・・です」
「ん? 何だって?」
ボソボソと消え入りそうな呟く声に思わずトゥーレは聞き返す。
その様子に誤魔化すことは不可能と感じたルーベルトは顔を上げ、半ば自棄気味に叫ぶ。
「だ・か・ら、鉄砲に嫉妬されたんです!」
「ああ・・・・」
彼のその言葉で破談した理由がトゥーレたちには理解できてしまった。思わず悟ったように揃って遠い目になる。
「許嫁の前でもルーベルトはルーベルトだったか・・・・」
トゥーレが額を押さえて嘆く。
「どうせ『わたくしと鉄砲のどちらを取るのですか?』とでも言われて、迷いなく鉄砲とでも答えたんだろう?」
ユーリは口真似を交えて見てきたようにその場の再現をして見せる。
「な、何で分かるんですか!?」
その言葉にぎょっとした顔でルーベルトは目と口を大きく見開いた。彼のその様子に冗談で言ったつもりのユーリが、一番信じられない様子で愕然としている。それはトゥーレ達にとっても同じ事だ。唖然とした表情で呟く。
「まさか、本当にそう答えるとは」
「えっ!? だって鉄砲か女かですよ! 比べるまでもないでしょう?」
その選択肢なら鉄砲一択だ。
彼は『当然でしょう?』という顔を浮かべていた。その顔には一片の迷いもなかった。
ヴァイダを含め、その場にいる全員が呆れた様に大きく溜息を吐く。
「何でそこで鉄砲になるんだ! そこはイロナの名を出すところだろう? 本人を前にしてるなら尚更だ!」
「重症だ! やっぱりこいつに自由に鉄砲を触らせたら駄目だったんですよ」
「残念すぎる。こいつは一生ひとり身確定です。トゥーレ様、私の言った通りでしょう?」
もはやルーベルトには何を言っても通じない。彼らが口々に言葉を重ねるが、肝心のルーベルトには響かず、ただただポカンとした表情を浮かべているだけだった。
工房街はオリヴェルとオレクの二人がニオール商会と協力しながら各地から職人を呼び集めて作っている街で、当初は職人を集めることに苦労していたが、現在は鍛冶工房の数も十二まで増えていた。今後は新たな職人を育成しながら、最終的には工房を二十まで増やしていく計画だ。
通りにずらりと並んだ工房の内、右手前に建つ工房はもはやルーベルト専用工房と言っていいくらい彼が入り浸っている工房だ。親方の名はヴァイダといい正式にはヴァイダ工房と言うのだが、最近ではルーベルト工房で通用するほどその名称が浸透してきたという。
開け放たれた入口から覗けば、そのルーベルトが親方と顔を付き合わせて仕上がった鉄砲のチェックに余念がない様子だ。満足のいく仕上がり具合だったのか、銃を構えるルーベルトの表情は明るく、ヴァイダもホッとしたように眉尻を下げていた。
工房に踏み入れたトゥーレに工房のむわっとした熱気が押し寄せる。
「どうだ仕上がりは? まあ聞くまでもなさそうだな?」
「ええ、ばっちりですね。もっとも試射をして確認は必要ですが」
彼の声に鉄砲を下ろして振り向いたルーベルトが笑顔を見せた。
彼がヴァイダと試作を重ねている鉄砲は、五号弾のような特殊な弾丸専用のものではなく通常弾用の鉄砲だ。既に広く普及している鉄砲に、ルーベルトが細かく改良の注文を付けて職人達を辟易させていたのだ。五号弾用の銃との区別のため通常の鉄砲は一式銃と命名されている。
結局、神経質なほど細かい注文に対応できる工房がヴァイダの所しかなかったため、彼の工房にルーベルトが入り浸ることとなっていた。お陰でここのところ魔砲の製造は止まったままだ。
そのルーベルトにずっと貼り付かれていたヴァイダの疲れ切った表情を見れば、どれほど注文が細かかったのか分かるというものだろう。
「それでは早速試射を!」
「ちょっと待て! それは後だ!」
完成したばかりの鉄砲を持って、工房の裏に併設されている試射場に向かおうとするルーベルトの首根っこをユーリが押さえる。
「何ですか? 馬術はサボってませんよ!」
止められたルーベルトは頬を膨らませ、不機嫌そうな表情を隠しもせずに振り返った。以前のサトルトへの出入り禁止がよほど堪えたのか、あれ以来ルーベルトは真面目に馬術訓練に取り組んでいる。
その甲斐あって馬上からの射撃も卒なく熟せるようになり、今ではユーリにすら勝つことがあるほど馬術の腕を上げていたのだ。
トゥーレは軽く肩を竦める。鉄砲が目の前にぶら下がっている状態で、彼に通常の対応を求めるのは無駄なのだ。
「五式銃の量産はどうなっている?」
心ここにあらずといった状態のルーベルトを引き戻すには、やはり鉄砲の話題しかない。トゥーレの言葉にくるりと振り向いたルーベルトは嬉々として喋り始める。
「とりあえず十挺はできてます。こちらもこの後改良していく予定です」
「それもこの工房でするつもりか?」
トゥーレがそう言うと、後ろに控えているヴァイダがギョッとしたように目を見開いた。
「当然でしょう? 他の工房じゃやってくれませんからね」
迷いのない顔でルーベルトが頷く。
「今のままで五式銃に問題があるのか?」
「私が作成したんです。そんなのある訳無いでしょう?」
「それなら何故改良をおこなう必要があるんだ?」
「よりよい銃にするために決まってるじゃないですか?」
ルーベルトがと何故そんなことを聞かれているのか分からない様子で、あっけらかんと答える。彼が力説すればするほど周りは白けた空気になっていくのにもまるで気付いていないようだ。
「ああ、もう一度聞く。五式銃も一式銃も今のままで問題はないのだな?」
低く抑揚のない声でトゥーレが念を押すように尋ねる。悟りを開いたように感情の一切を排除した表情だ。
五式銃は一式銃と命名された通常の銃と違い、口径が倍もある五号弾用の銃の正式名称だ。試作時の長大な銃身からは一転して短く切り詰められ、わずか五十センチ程度しかない。銃身を短く切り詰めたことで射程距離と命中精度は犠牲となったが、威力についてはタカマで実戦投入された通り、密集した相手に対しては無慈悲なほどだ。ただし、発射時の衝撃はあまり改善されたとはいえず、目下の所五式銃を扱うことができる者を増やすことが急務であった。
「もちろんです。今のままで実戦投入は可能です!」
ルーベルトは当然とばかりに胸を張った。
「なら、現状で一式銃と五式銃の開発は凍結だ!」
「ちょ、ちょっと待ってください! 何故ですか!?」
トゥーレの有無を言わせぬ無慈悲なひと言に、掴み掛からんばかりの勢いでルーベルトが詰め寄る。とはいえ多少の冷静さは残っているらしく、本当に掴み掛かることはなくトゥーレの足下に縋り付くように跪いていた。
「何故? 現状で実戦投入は可能だと言ったのは其方だ。それに何時までもヴァイダを貴様専用の工房にする訳にはいかん。魔砲の生産ができるのは今の所、この工房だけだからな」
いい加減止めなければ、凝り性のルーベルトは何時までも改良を止めることはないだろう。その改良によって画期的に性能がアップするなら別だが、ほんの気持ち程度の性能アップのためにヴァイダをつき合わせる訳にはいかないのだ。
トゥーレが言うように魔法石を錬成できる工房の準備は進めているとはいえ、今の所このヴァイダ工房しかないのだ。
流石にルーベルトもこれ以上無理を言うほど状況が見えない訳ではない。彼はがっくりと項垂れて黙り込んだ。
「それで、五号弾はどれだけできている?」
「訓練用ならば二〇〇発ほどは直ぐにでも用意できます。実弾はまだ量産に入っていません」
ルーベルトは口を尖らせながらぷいっと横を向く。子供のような態度に軽く息を吐いたトゥーレが、ルーベルトの自尊心をくすぐるように言葉を続ける。
「出来上がった分からカントに運ばせろ! サトルトはオレクに任せ、其方はユーリと共に五式銃を使える者を一人でも増やせ。お前が頼りだ、頼むぞ!」
ルーベルトから鉄砲を取り上げることは得策ではない。以前罰として完全に鉄砲から離したことがあったが、その時は使い物にならないほどやる気を無くしてしまった。
鉄砲のことはルーベルトに任せてしまうのが、最も手っ取り早くて周りの被害も少なくなるのだ。
「はっ! 承知いたしました」
案の定、現金なことに機嫌はすぐに戻ったようで、笑顔を浮かべて了承する。彼は返事をすると直ぐにカントに向かおうと立ち上がる。
そんな彼を引き留めるようにもう一度トゥーレが声を掛ける。
「もうひとつ確認したいんだが?」
「何ですか?」
トゥーレの雰囲気が変わり、傍にいるユーリやオレクも妙ににやにやと薄ら笑いを浮かべていた。このような表情の時は碌な話でないのは分かっている。ルーベルトは警戒するように身構えた。
「ちょっと小耳に挟んだんだが・・・・」
嫌らしく笑みを浮かべるユーリたちに対し、トゥーレはやけに真面目な顔で問い掛けた。
「其方、イロナと破談になったというのは本当か?」
「なっ! だ、誰に聞いたんですか!?」
明らかに狼狽した様子で、ルーベルトは灰色の瞳を彷徨わせた。
「クラウスだ。嘆いていたぞ」
「父上ェェェェ・・・・」
クラウスと聞いてルーベルトは思わず天を仰いだ。
イロナとはルーベルトの許嫁で、クラウスの配下にある騎士の娘で、二人は幼い頃からの幼馴染みだった。小さかった頃に親同士が決めた事だったが、その頃はよく一緒に遊ぶほど仲が良かった。彼が成人になるのに合わせて結婚する約束を交わしていたが、ルーベルトが成人しても二人の仲が進展しなかったためクラウスをやきもきとさせていたのだ。
「幼馴染みだったんだろう? 何があったんだ?」
長らく進展がなかったが、それでもこの春が終わる頃には結婚する予定となっていた筈だ。それが急に破談になったのだ。余程の理由があるに違いなかった。
クラウスに聞いても頑なに理由を話さず『馬鹿息子に聞いてくれ』の一点張りだった。トゥーレたちは興味津々の様子でルーベルトの言葉を待った。
「・・・・です」
「ん? 何だって?」
ボソボソと消え入りそうな呟く声に思わずトゥーレは聞き返す。
その様子に誤魔化すことは不可能と感じたルーベルトは顔を上げ、半ば自棄気味に叫ぶ。
「だ・か・ら、鉄砲に嫉妬されたんです!」
「ああ・・・・」
彼のその言葉で破談した理由がトゥーレたちには理解できてしまった。思わず悟ったように揃って遠い目になる。
「許嫁の前でもルーベルトはルーベルトだったか・・・・」
トゥーレが額を押さえて嘆く。
「どうせ『わたくしと鉄砲のどちらを取るのですか?』とでも言われて、迷いなく鉄砲とでも答えたんだろう?」
ユーリは口真似を交えて見てきたようにその場の再現をして見せる。
「な、何で分かるんですか!?」
その言葉にぎょっとした顔でルーベルトは目と口を大きく見開いた。彼のその様子に冗談で言ったつもりのユーリが、一番信じられない様子で愕然としている。それはトゥーレ達にとっても同じ事だ。唖然とした表情で呟く。
「まさか、本当にそう答えるとは」
「えっ!? だって鉄砲か女かですよ! 比べるまでもないでしょう?」
その選択肢なら鉄砲一択だ。
彼は『当然でしょう?』という顔を浮かべていた。その顔には一片の迷いもなかった。
ヴァイダを含め、その場にいる全員が呆れた様に大きく溜息を吐く。
「何でそこで鉄砲になるんだ! そこはイロナの名を出すところだろう? 本人を前にしてるなら尚更だ!」
「重症だ! やっぱりこいつに自由に鉄砲を触らせたら駄目だったんですよ」
「残念すぎる。こいつは一生ひとり身確定です。トゥーレ様、私の言った通りでしょう?」
もはやルーベルトには何を言っても通じない。彼らが口々に言葉を重ねるが、肝心のルーベルトには響かず、ただただポカンとした表情を浮かべているだけだった。
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