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第二章 巨星堕つ
35 リーディアとの女子会(2)
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「リーディア様、わたくしリーディア様にお伺いしたいことがあったのです」
お茶とお菓子を下げ、今度はフォリンたちエステルの側勤めがサザンから持ち込んだお茶やお菓子を出す。先ほどのリーディアと同じように、今度はエステルが一口ずつ毒味をした後リーディアに勧めた。
暫く取り止めない会話が続き、お互い打ち解けたように笑顔が増えていた頃、エステルがあらたまった様子で問い掛けた。
「何でしょうか?」
首をこてりと傾げエステルに先を促す。リーディアの頭の動きに合わせて髪飾りの小花がしゃららと揺れる。
「お兄様についてです」
「トゥーレ様の? 何でしょう?」
トゥーレの事だと言われ、リーディアの頬が若干朱に染まる。
「リーディア様は、お兄様の何処がお好きなのですか?」
予想だにしなかったエステルからのあまりにも直球な問い掛けに、リーディアは湯気が出そうなほど真っ赤に染まってもじもじと身体をくねらせた。
「わ、わたくし、幼い頃にトゥーレ様に助けていただいた事があるのです」
そう言いながら、今はもう薄らとしか残っていない額の傷痕にそっと触れる。
「わたくしがセネイの言うことを聞かずに飛び出したのがいけなかったのです。大通りで転んでしまい、危うく荷馬車が行き交う街道に飛び出すところを、トゥーレ様に助けていただいたことがありました」
「まぁ、その様なことが?」
幼い日に二人が出会っていたことは、エステルも聞いたことがある。しかしその様な細かい事情は兄も語らなかったため知らず、その事に素直に驚きを浮かべた。
「颯爽と現れたトゥーレ様は、わたくしを優しく受け止めてくださいました。気が付けばわたくし、トゥーレ様に膝枕されていましたの」
リーディアは当時を思い出して目を瞑り、赤く染まる頬を両手で挟んで悶えていた。彼女の恋愛フィルターで若干美化されているものの、彼女が語る話はそれほど間違いではない。
甘い雰囲気を醸し出した彼女に、この場にいる女性達も『まぁ』とか『きゃあ』と華やいだ声を上げる。
ポカンと口を開けているのはエステルだけだった。
「見上げるトゥーレ様の御髪がキラキラと輝いてとても綺麗でした」
エステルは気付いていないが珍しい白銀金髪で童顔な上、ミステリアスなオッドアイを持つトゥーレは、側勤めの女性陣のみならずサザンの街でも女性からの人気は高いのだ。幼い頃にそのトゥーレから膝枕をされたというレアな体験を語ったリーディアに、エステル以外の女性から羨望の眼差しが注がれていた。
「お、幼い頃の話です!」
慌ててそう付け加えるが、周りから『まぁ素敵ですわ』や『さぞお二方とも可愛らしかったのでしょう』と火に油を注ぐ結果となった。
ひとり蚊帳の外に置かれたエステルがきょとんとした顔で呟くように口を開く。
「わたくしにはよく分からないのですが、お兄様は格好いいのですか?」
『えっ!?』
何気ないひと言に、部屋中の女性達から一斉に視線を向けられた。
「えっ!?」
不審者を見るような棘のある眼差しに動揺しながらもエステルは言葉を続ける。
「お、お兄様は、もの凄く意地悪ですよ?」
「そうなのですか? わたくしにはとてもお優しくしてくださいます」
エステルの言葉に不思議そうに首を傾げながら答えるリーディアに、周りの側勤めも激しく首肯して肯定する。
男性に対しては人を食ったように天邪鬼な態度を取ることの多いトゥーレだったが、女性にはさりげない気遣いを見せることが多いのだ。容姿だけではなく彼のそういった態度が頬を染める女性が多い理由のひとつでもある。
「ううぅ・・・・。そ、それに直ぐ拳骨で殴るのです。昨日も皆様のいる前でわたくしの頭に拳骨を落としていたのを見られたでしょう? わたくしの頭には幾つも瘤ができておりますの。暴力反対ですわ!」
賛同を得られず、意地になったようにトゥーレの悪口を言い募るエステルに、皆『あぁ』と生温かい眼差しを送る。
「エステル様はトゥーレ様の事が大好きなのですね?」
微笑ましく思いながら、笑顔を浮かべたリーディアがそう言って笑う。
「えっ、何故ですか!? そんなことありませんわ。わたくし先日ユーリと婚約しましたもの」
「うふふ、だってエステル様、先程からトゥーレ様のお話ばかりされておられますわ」
そうリーディアが指摘した途端、自覚したのかエステルは耳まで真っ赤に染まった。
「わたくしの知るトゥーレ様と、エステル様の仰るトゥーレ様。本当に同じトゥーレ様なのかしら? まるで違う方のお話を聞いているようです」
そう言って楽しそうに話すリーディアだが、次の瞬間には真面目な表情になりエステルに告げる。
「エステル様はトゥーレ様に甘えすぎだと、わたくしは思います!」
「そ、その様なこと、ある訳ありませんわ」
思いがけず強い口調で告げられた言葉に、エステルが戸惑ったように声を上げた。
「本当にそうでしょうか?」
「!?」
リーディアは強い眼差しを浮かべエステルを見つめる。
「エステル様は、トゥーレ様のことを意地悪で、直ぐに拳骨を落とすと仰います。ですが、それはエステル様が周りを見ずに行動されるからではございませんか?」
「そんなことは・・・・」
「ないと言い切れますか? 昨日トゥーレ様がエステル様に拳骨を落としたところを確かにわたくしも拝見いたしました。ですが、あれはエステル様が悪かったと存じます」
リーディアの言葉に激しく同意し、うんうんと首を振るエステルの側勤めたち。リーディアの側近もはらはらした様子で見守っているが、誰も彼女を窘めようとはしない。
意味が分からないという表情を浮かべているのはエステル一人だけだ。
「トゥーレ様は出発前、エステル様に何と仰ったか覚えていますか?」
「・・・・」
覚えていないのかエステルは力なく首を振った。
リーディアは軽く息を吐いて続ける。
「『くれぐれも迷惑を掛けるな』と仰いましたよ。それに対してエステル様は『子供ではない』『何度も言われなくても分かっている』と答えておりましたね?」
「うっ・・・・」
ばつが悪そうに苦い表情を浮かべる。
エステルは確かに自信たっぷりにそう言ったのだ。その結果、当初の予定を狂わせ、護衛騎士を困らせ、挙げ句の果てにヨウコが疲れ果ててしまうほど振り回してしまったのだ。
「約束を忘れ、多くの方に迷惑を掛けたのです。あの場ではトゥーレ様がああして叱るしかなかったのではないでしょうか?」
「確かに、・・・・そうかも知れません」
完全に納得した訳ではなかったが、エステルはリーディアの言葉を認めるしかなかった。
「もし、わたくしがエステル様と同じような事をすれば、叱られるだけでは済まない筈です。きっと二度と街に出して貰えなくなるでしょう」
「二度と出して貰えないなんて!?」
驚きに目を見開くエステルに、リーディアは淡々と告げる。
「酷いと思いますか? それでもわたくしは仕方ないと納得するでしょう。ご迷惑をかけたのはヨウコお兄様だけではないのですよ? お兄様の護衛やエステル様の側勤め、街の警備に当たっていた兵たち。たくさんの方にご迷惑をかけたのです。トゥーレ様がああやってエステル様を叱っていなければ、エステル様は二度とフォレスに招待されなくなっていたでしょう」
エステルの緋色の瞳が揺らぐ。
今までは自分のことばかりで周りがどう考えているか、どう見えているかは意識してこなかった。拳骨を振るわれる事に不満こそあれど理由まで考えてもみなかった。
ただし、これまでに散々言われていた事だ。ただ母や兄、側近からの指摘を自分の甘えから聞き流していたのだ。彼女は自分の浅はかさに俯いて膝の上で拳を握る。
「厳しい事を言って申し訳ございません。トゥーレ様の悪口を言われたのが悔しくてつい強く当たってしまいました。ですが、エステル様なら分かってくださると思い、差し出口を申しました。差し支えがなければ今後とも仲良くしていただければと存じます」
リーディアは身体を寄せ、エステルの拳に手を添えて優しく語りかける。
「リーディア様のご指摘くださった通り、わたくし今まで同じ事を散々言われてはいたのです。甘えと言われても仕方ありませんが、今までは気にしておりませんでした。リーディア様のご指摘、わたくしの心に染みいりました。言いにくい事を仰っていただき感謝いたします。これからも仲良くしてくださいませ」
顔を上げたエステルは、恥ずかしそうに苦い笑顔を浮かべて感謝の言葉を口にした。沈んでいた表情も吹っ切れたように穏やかになっている。
「お役に立てて嬉しく存じます。ですが、トゥーレ様はエステル様にお優しい時もあるのでしょう? 船酔いの時はどうだったのでしょう?」
トゥーレの悪口を言ったことをまだ引き摺っているのか、リーディアが笑顔で尋ねる。優しく微笑んでいるが、エステルには目が鋭利な刃物のように見えた。
「き、気持ち悪かったのでよく覚えておりませんが・・・・。そう言えば、ユーリを貸してくださいました」
そう言って引き攣った笑顔を見せるエステル。
船酔いの時もそうだが、ユーリを欲しいと言った時も特に反対はされていなかった。またトゥーレに誕生日のプレゼントを贈った際も、軽口程度だけでプレゼントは素直に受け取ってくれ、後日には黙ってお返しが届けられた。
エステルは胸元に光るブローチにそっと手を触れながら、リーディアにその事を告げると、彼女はようやく柔らかい笑顔を浮かべたのだった。
その夜。
翌日にはフォレスを離れる予定のトゥーレが主催となり、城の広間を借りてパーティーがおこなわれた。
フォレス側の招待客は、リーディアを始めヨウコやアレシュなどに加え、今回エステルが迷惑を掛けた護衛の兵士たちだ。もちろん兵全員を招待するわけにはいかなかったが、隊長はもちろん小隊長クラスまで招待しての慰労会を兼ねたパーティーだった。料理を振る舞う料理人はわざわざサザンから呼び寄せたほどだ。
その席上、不思議な光景に男性陣は軒並みポカンと口を開いていた。
「リーディアお姉様」
リーディアのことをそう呼んで、姉妹のように仲良くお喋りを楽しむエステルの姿があった。
お茶とお菓子を下げ、今度はフォリンたちエステルの側勤めがサザンから持ち込んだお茶やお菓子を出す。先ほどのリーディアと同じように、今度はエステルが一口ずつ毒味をした後リーディアに勧めた。
暫く取り止めない会話が続き、お互い打ち解けたように笑顔が増えていた頃、エステルがあらたまった様子で問い掛けた。
「何でしょうか?」
首をこてりと傾げエステルに先を促す。リーディアの頭の動きに合わせて髪飾りの小花がしゃららと揺れる。
「お兄様についてです」
「トゥーレ様の? 何でしょう?」
トゥーレの事だと言われ、リーディアの頬が若干朱に染まる。
「リーディア様は、お兄様の何処がお好きなのですか?」
予想だにしなかったエステルからのあまりにも直球な問い掛けに、リーディアは湯気が出そうなほど真っ赤に染まってもじもじと身体をくねらせた。
「わ、わたくし、幼い頃にトゥーレ様に助けていただいた事があるのです」
そう言いながら、今はもう薄らとしか残っていない額の傷痕にそっと触れる。
「わたくしがセネイの言うことを聞かずに飛び出したのがいけなかったのです。大通りで転んでしまい、危うく荷馬車が行き交う街道に飛び出すところを、トゥーレ様に助けていただいたことがありました」
「まぁ、その様なことが?」
幼い日に二人が出会っていたことは、エステルも聞いたことがある。しかしその様な細かい事情は兄も語らなかったため知らず、その事に素直に驚きを浮かべた。
「颯爽と現れたトゥーレ様は、わたくしを優しく受け止めてくださいました。気が付けばわたくし、トゥーレ様に膝枕されていましたの」
リーディアは当時を思い出して目を瞑り、赤く染まる頬を両手で挟んで悶えていた。彼女の恋愛フィルターで若干美化されているものの、彼女が語る話はそれほど間違いではない。
甘い雰囲気を醸し出した彼女に、この場にいる女性達も『まぁ』とか『きゃあ』と華やいだ声を上げる。
ポカンと口を開けているのはエステルだけだった。
「見上げるトゥーレ様の御髪がキラキラと輝いてとても綺麗でした」
エステルは気付いていないが珍しい白銀金髪で童顔な上、ミステリアスなオッドアイを持つトゥーレは、側勤めの女性陣のみならずサザンの街でも女性からの人気は高いのだ。幼い頃にそのトゥーレから膝枕をされたというレアな体験を語ったリーディアに、エステル以外の女性から羨望の眼差しが注がれていた。
「お、幼い頃の話です!」
慌ててそう付け加えるが、周りから『まぁ素敵ですわ』や『さぞお二方とも可愛らしかったのでしょう』と火に油を注ぐ結果となった。
ひとり蚊帳の外に置かれたエステルがきょとんとした顔で呟くように口を開く。
「わたくしにはよく分からないのですが、お兄様は格好いいのですか?」
『えっ!?』
何気ないひと言に、部屋中の女性達から一斉に視線を向けられた。
「えっ!?」
不審者を見るような棘のある眼差しに動揺しながらもエステルは言葉を続ける。
「お、お兄様は、もの凄く意地悪ですよ?」
「そうなのですか? わたくしにはとてもお優しくしてくださいます」
エステルの言葉に不思議そうに首を傾げながら答えるリーディアに、周りの側勤めも激しく首肯して肯定する。
男性に対しては人を食ったように天邪鬼な態度を取ることの多いトゥーレだったが、女性にはさりげない気遣いを見せることが多いのだ。容姿だけではなく彼のそういった態度が頬を染める女性が多い理由のひとつでもある。
「ううぅ・・・・。そ、それに直ぐ拳骨で殴るのです。昨日も皆様のいる前でわたくしの頭に拳骨を落としていたのを見られたでしょう? わたくしの頭には幾つも瘤ができておりますの。暴力反対ですわ!」
賛同を得られず、意地になったようにトゥーレの悪口を言い募るエステルに、皆『あぁ』と生温かい眼差しを送る。
「エステル様はトゥーレ様の事が大好きなのですね?」
微笑ましく思いながら、笑顔を浮かべたリーディアがそう言って笑う。
「えっ、何故ですか!? そんなことありませんわ。わたくし先日ユーリと婚約しましたもの」
「うふふ、だってエステル様、先程からトゥーレ様のお話ばかりされておられますわ」
そうリーディアが指摘した途端、自覚したのかエステルは耳まで真っ赤に染まった。
「わたくしの知るトゥーレ様と、エステル様の仰るトゥーレ様。本当に同じトゥーレ様なのかしら? まるで違う方のお話を聞いているようです」
そう言って楽しそうに話すリーディアだが、次の瞬間には真面目な表情になりエステルに告げる。
「エステル様はトゥーレ様に甘えすぎだと、わたくしは思います!」
「そ、その様なこと、ある訳ありませんわ」
思いがけず強い口調で告げられた言葉に、エステルが戸惑ったように声を上げた。
「本当にそうでしょうか?」
「!?」
リーディアは強い眼差しを浮かべエステルを見つめる。
「エステル様は、トゥーレ様のことを意地悪で、直ぐに拳骨を落とすと仰います。ですが、それはエステル様が周りを見ずに行動されるからではございませんか?」
「そんなことは・・・・」
「ないと言い切れますか? 昨日トゥーレ様がエステル様に拳骨を落としたところを確かにわたくしも拝見いたしました。ですが、あれはエステル様が悪かったと存じます」
リーディアの言葉に激しく同意し、うんうんと首を振るエステルの側勤めたち。リーディアの側近もはらはらした様子で見守っているが、誰も彼女を窘めようとはしない。
意味が分からないという表情を浮かべているのはエステル一人だけだ。
「トゥーレ様は出発前、エステル様に何と仰ったか覚えていますか?」
「・・・・」
覚えていないのかエステルは力なく首を振った。
リーディアは軽く息を吐いて続ける。
「『くれぐれも迷惑を掛けるな』と仰いましたよ。それに対してエステル様は『子供ではない』『何度も言われなくても分かっている』と答えておりましたね?」
「うっ・・・・」
ばつが悪そうに苦い表情を浮かべる。
エステルは確かに自信たっぷりにそう言ったのだ。その結果、当初の予定を狂わせ、護衛騎士を困らせ、挙げ句の果てにヨウコが疲れ果ててしまうほど振り回してしまったのだ。
「約束を忘れ、多くの方に迷惑を掛けたのです。あの場ではトゥーレ様がああして叱るしかなかったのではないでしょうか?」
「確かに、・・・・そうかも知れません」
完全に納得した訳ではなかったが、エステルはリーディアの言葉を認めるしかなかった。
「もし、わたくしがエステル様と同じような事をすれば、叱られるだけでは済まない筈です。きっと二度と街に出して貰えなくなるでしょう」
「二度と出して貰えないなんて!?」
驚きに目を見開くエステルに、リーディアは淡々と告げる。
「酷いと思いますか? それでもわたくしは仕方ないと納得するでしょう。ご迷惑をかけたのはヨウコお兄様だけではないのですよ? お兄様の護衛やエステル様の側勤め、街の警備に当たっていた兵たち。たくさんの方にご迷惑をかけたのです。トゥーレ様がああやってエステル様を叱っていなければ、エステル様は二度とフォレスに招待されなくなっていたでしょう」
エステルの緋色の瞳が揺らぐ。
今までは自分のことばかりで周りがどう考えているか、どう見えているかは意識してこなかった。拳骨を振るわれる事に不満こそあれど理由まで考えてもみなかった。
ただし、これまでに散々言われていた事だ。ただ母や兄、側近からの指摘を自分の甘えから聞き流していたのだ。彼女は自分の浅はかさに俯いて膝の上で拳を握る。
「厳しい事を言って申し訳ございません。トゥーレ様の悪口を言われたのが悔しくてつい強く当たってしまいました。ですが、エステル様なら分かってくださると思い、差し出口を申しました。差し支えがなければ今後とも仲良くしていただければと存じます」
リーディアは身体を寄せ、エステルの拳に手を添えて優しく語りかける。
「リーディア様のご指摘くださった通り、わたくし今まで同じ事を散々言われてはいたのです。甘えと言われても仕方ありませんが、今までは気にしておりませんでした。リーディア様のご指摘、わたくしの心に染みいりました。言いにくい事を仰っていただき感謝いたします。これからも仲良くしてくださいませ」
顔を上げたエステルは、恥ずかしそうに苦い笑顔を浮かべて感謝の言葉を口にした。沈んでいた表情も吹っ切れたように穏やかになっている。
「お役に立てて嬉しく存じます。ですが、トゥーレ様はエステル様にお優しい時もあるのでしょう? 船酔いの時はどうだったのでしょう?」
トゥーレの悪口を言ったことをまだ引き摺っているのか、リーディアが笑顔で尋ねる。優しく微笑んでいるが、エステルには目が鋭利な刃物のように見えた。
「き、気持ち悪かったのでよく覚えておりませんが・・・・。そう言えば、ユーリを貸してくださいました」
そう言って引き攣った笑顔を見せるエステル。
船酔いの時もそうだが、ユーリを欲しいと言った時も特に反対はされていなかった。またトゥーレに誕生日のプレゼントを贈った際も、軽口程度だけでプレゼントは素直に受け取ってくれ、後日には黙ってお返しが届けられた。
エステルは胸元に光るブローチにそっと手を触れながら、リーディアにその事を告げると、彼女はようやく柔らかい笑顔を浮かべたのだった。
その夜。
翌日にはフォレスを離れる予定のトゥーレが主催となり、城の広間を借りてパーティーがおこなわれた。
フォレス側の招待客は、リーディアを始めヨウコやアレシュなどに加え、今回エステルが迷惑を掛けた護衛の兵士たちだ。もちろん兵全員を招待するわけにはいかなかったが、隊長はもちろん小隊長クラスまで招待しての慰労会を兼ねたパーティーだった。料理を振る舞う料理人はわざわざサザンから呼び寄せたほどだ。
その席上、不思議な光景に男性陣は軒並みポカンと口を開いていた。
「リーディアお姉様」
リーディアのことをそう呼んで、姉妹のように仲良くお喋りを楽しむエステルの姿があった。
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