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第二章 巨星堕つ
33 フライルの森(2)
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「来たっ!」
誰が叫んだのか分からない。
しかし、その声と同時に森の中から次々と動物が飛び出してきた。まず現れたのは鹿の群れだ。飛び跳ねるような動きで何十頭もの鹿が姿を現した。
―――タタターン!!!
重なり合うように銃声が響くと同時に、何頭かの鹿がもんどり打って倒れていく。
「くっ!?」
リーディアも同様に引き金を引いたが、残念ながら獲物に掠めることもできず悔しそうな表情を浮かべた。不規則に逃げ惑う獲物に照準すら合わせることが出来ず、適当に放つことしかできなかったのだ。
当然そんな状態で命中する筈もない。
動く獲物への射撃は、動かない標的相手の訓練と何もかもが違っていた。彼女は焦りを浮かべながらレバーを操作して排莢を行う。
焼けた薬莢が飛び出し、隣で射撃をおこなっているトゥーレの足元まで転がった。そのトゥーレは流れるような動作で淡々と弾丸を放っていた。流石に全弾名中とはいかないが、かなりの確率で獲物に命中させている。
トゥーレの美しい所作にリーディアが思わず見惚れている間に、鹿の群れが目の前を通り過ぎてしまった。
その次に現れたのは猪だ。
鹿のように跳びはねることはないが、小柄で体高が低いため必然的に鹿よりも的は小さくなる。しかも鹿の様なトリッキーな動きは少なく直線的な動きだ。鹿よりは狙いはつけやすそうだった。
「これなら!」
リーディアは気を取り直して銃を構え直すと、丁度正面から迫ってくる猪に狙いを定めた。
猪は興奮した血走った目を剥いて、真っ直ぐにリーディアに向かって来ていた。ぐんぐんと距離が詰まり、その距離が三十メートルを切っても銃を撃たないリーディアに後方の護衛が慌て始めていた。
―――ターン!
充分過ぎるほど引きつけて放たれた弾丸は、猪の眉間を寸分違わず撃ち抜いていた。
つんのめるようにして崩れ落ちた猪は、慣性力のまま進行方向に暫く転がると、最後は横倒しにゆっくり倒れる。
猪が止まった位置は、リーディアとは僅か三メートルしか離れていない位置だった。彼女は素早く次弾を装填すると、再び動き出しても直ぐに対処できるよう倒れた猪に照準を付け続けていた。
「や、やったの!?」
仕留めたという手応えはあった。しかし彼女はその判断ができず、猪がもう一度動き出すのが怖くて照準を外すことができないでいた。
「リーディア、おめでとう。見事だったよ」
いつまでも照準越しに猪を睨み続けるリーディアに、トゥーレは優しく声を掛けながら彼女の銃身を下げさせた。
ハッとしたように顔を上げた彼女の傍に、微笑むトゥーレの姿があった。
「トゥーレ様!? あ、ありがとう存じます。見ていてくださったのですか?」
「もちろんだ! リーディアが初めて仕留める所を見逃す訳にはいかないだろ? 中々撃たなかった時は少し焦ったけどね」
そう言って笑顔のまま片目を瞑る。
「す、すみません。照準越しで見てたら距離感を掴めなくて・・・・。こんなに近かったのですね。それに、トゥーレ様もルーベルト様も守っていてくださったので、落ち着いて狙うことができました」
トゥーレとルーベルトが、万一に備えてすぐに対応できるように準備をしていたが、正直いえばあれだけ近付いてしまえば対応は難しかった。後ろに護衛が控えていたとはいえ彼らも同様だろう。
リーディアが正面から真っ直ぐ彼女に向かって来る猪に狙いを付けたのは傍で見ていて直ぐに分かった。彼女の腕なら仕留めることが出来るだろうとトゥーレは考えていた。だが彼女は中々引き金を引かず、猪との距離がどんどん近付いてくる。若干焦りを浮かべたトゥーレは、リーディア越しにルーベルトに指示を送り自らはすぐに庇えるように彼女の傍まで近付いていたのだ。
彼らが手を出すギリギリのタイミングで、漸く彼女は引き金を引いたのだった。
「信頼いただけている様で何よりです。姫様」
トゥーレはそう言って優雅にボウ・アンド・スクレープでお辞儀をして微笑む。笑顔を見せていたが、危うくリーディアの獲物を横取りするところだったと内心は冷や汗を浮かべていた。
「引き続きわたくしをお守りくださいませ」
対してリーディアも、乗馬服のために持ち上げるスカートはないが、それでも優雅にカーテシーで返礼し、にっこりと笑顔を見せる。
銃声が辺りに響く中、二人の周囲のみ別空間のような甘い雰囲気に満たされている。彼らの護衛として布陣していたユーリとルーベルトは、正面を見据えたまま表情を消した顔で引き金を引き続けていた。
その後も順調に獲物を仕留めていくトゥーレたち。
三時間ほどの狩りで圧巻の腕を見せたのは、やはりトゥーレとルーベルトの二人だった。
トゥーレは、鹿を三頭、猪二頭、水牛一頭を仕留める成果を上げた。
そのトゥーレを上回る活躍を見せたのがルーベルトだ。彼は、鹿を五頭仕留めたのを皮切りに、猪を三頭、水牛を一頭、そして豹を一頭仕留めた。
豹は狩りが終わり屋敷に引き上げる途中で、木の上からこちらを窺っているところを仕留めたものだ。鉄砲と言えばルーベルトという評価そのままに面目躍如の活躍を見せたと言えるだろう。
そしてリーディアはというと、猪以外は兎を一羽仕留めたのみだった。それでも初めての狩りで、獲物を仕留めることが出来たことに満足そうに笑顔を振りまいていた。
狩られた獲物は下働きの者によって素早く血抜きされると、今日の食事に回すもの、明日の晩餐に回されるもの、保存用に塩漬けや燻製に回すものと用途別に手早く処理が行われていく。
トゥーレらが屋敷へと引き上げてきた頃には、処理が粗方終わって広場の中央に巨大な焚き火が焚かれていた。その周りには肉を焼くためのグリルと切り分けられた肉が焚き火を囲むように並んでいた。
「ほう!」
巨大な火柱にトゥーレが感嘆の声を上げる。
「かなりの獲物が獲れましたからね。屋敷の厨房では処理しきれませんので、今夜の晩餐はこの広場でおこないます。といっても簡単なバーベキューにするだけですが」
申し訳なさそうにアレシュが告げた。
領主が狩りをおこなう場合でも、天気が良ければ広場に参加者が集って食事を振る舞っているのだという。ただし今回はトゥーレ等の安全を期して、狩りの参加者と追い立て役や護衛の兵士とは分け、まずは参加者であるトゥーレたちからの食事となるという。
「では、申し訳ないが先にいただくとしよう」
肉が焼かれ始めると、辺りには香ばしい匂いが立ち籠め、広場を囲むように立っている護衛がごくりと喉を鳴らす。
トゥーレたちは今日の成果を互いに誇りながら、獲ったばかりの新鮮な肉に舌鼓を打っていく。
「む!? 旨いな。これはリーディアが仕留めた猪か? 冬が近いからか良く肥えたいい肉だ」
「うふふ、そうですね。こんな大きな猪をわたくしが仕留めたのですね」
感慨深そうにテーブルの上に載せられた猪の頭に感嘆の声を上げる。
捌かれた肉と一緒にその元となる猪の頭が一緒に乗せられ、慣れてない者が見れば食欲を減退させてしまいそうな絵面だが、リーディアは気にした様子もなく笑顔を浮かべながら食べていた。
「しかし、リーディアは今日は初めての狩りだと聞いたが?」
「ええ、そうですけれど。どうかしましたか?」
質問の意味が分からずにリーディアがこてりと首を傾げる。
「いや、こういう風に獲物の首が並んでいても平気なのだなと思ってな」
普通ならば自分で獲った獲物とはいえ、生々しい頭が載せられていれば気になるものだ。恐らくエステルならばギャーギャーと大騒ぎして一口も口にできないだろう。それがリーディアはそんな様子もなく慣れた様子で肉を口に運んでいた。
「わたくしは、この食事の仕方には慣れていますので」
そう言って少し照れた様子を浮かべる。
狩りに参加するのは初めてだった彼女も、幼い頃から連れられて何度かフライルには来ていたという。このスタイルの食事は狩りをおこなった時の恒例で、毎回こうやって饗されていたという。
最初は一口も口に出来なかったリーディアも何度か参加するうちに慣れ、今では気にすることなく口に出来るようになったのだという。
「ほほう。けもの憑きの名は伊達じゃない訳だ」
そう言うと、頬を膨らませたリーディアを尻目に、トゥーレの笑い声が夜空に響いた。
誰が叫んだのか分からない。
しかし、その声と同時に森の中から次々と動物が飛び出してきた。まず現れたのは鹿の群れだ。飛び跳ねるような動きで何十頭もの鹿が姿を現した。
―――タタターン!!!
重なり合うように銃声が響くと同時に、何頭かの鹿がもんどり打って倒れていく。
「くっ!?」
リーディアも同様に引き金を引いたが、残念ながら獲物に掠めることもできず悔しそうな表情を浮かべた。不規則に逃げ惑う獲物に照準すら合わせることが出来ず、適当に放つことしかできなかったのだ。
当然そんな状態で命中する筈もない。
動く獲物への射撃は、動かない標的相手の訓練と何もかもが違っていた。彼女は焦りを浮かべながらレバーを操作して排莢を行う。
焼けた薬莢が飛び出し、隣で射撃をおこなっているトゥーレの足元まで転がった。そのトゥーレは流れるような動作で淡々と弾丸を放っていた。流石に全弾名中とはいかないが、かなりの確率で獲物に命中させている。
トゥーレの美しい所作にリーディアが思わず見惚れている間に、鹿の群れが目の前を通り過ぎてしまった。
その次に現れたのは猪だ。
鹿のように跳びはねることはないが、小柄で体高が低いため必然的に鹿よりも的は小さくなる。しかも鹿の様なトリッキーな動きは少なく直線的な動きだ。鹿よりは狙いはつけやすそうだった。
「これなら!」
リーディアは気を取り直して銃を構え直すと、丁度正面から迫ってくる猪に狙いを定めた。
猪は興奮した血走った目を剥いて、真っ直ぐにリーディアに向かって来ていた。ぐんぐんと距離が詰まり、その距離が三十メートルを切っても銃を撃たないリーディアに後方の護衛が慌て始めていた。
―――ターン!
充分過ぎるほど引きつけて放たれた弾丸は、猪の眉間を寸分違わず撃ち抜いていた。
つんのめるようにして崩れ落ちた猪は、慣性力のまま進行方向に暫く転がると、最後は横倒しにゆっくり倒れる。
猪が止まった位置は、リーディアとは僅か三メートルしか離れていない位置だった。彼女は素早く次弾を装填すると、再び動き出しても直ぐに対処できるよう倒れた猪に照準を付け続けていた。
「や、やったの!?」
仕留めたという手応えはあった。しかし彼女はその判断ができず、猪がもう一度動き出すのが怖くて照準を外すことができないでいた。
「リーディア、おめでとう。見事だったよ」
いつまでも照準越しに猪を睨み続けるリーディアに、トゥーレは優しく声を掛けながら彼女の銃身を下げさせた。
ハッとしたように顔を上げた彼女の傍に、微笑むトゥーレの姿があった。
「トゥーレ様!? あ、ありがとう存じます。見ていてくださったのですか?」
「もちろんだ! リーディアが初めて仕留める所を見逃す訳にはいかないだろ? 中々撃たなかった時は少し焦ったけどね」
そう言って笑顔のまま片目を瞑る。
「す、すみません。照準越しで見てたら距離感を掴めなくて・・・・。こんなに近かったのですね。それに、トゥーレ様もルーベルト様も守っていてくださったので、落ち着いて狙うことができました」
トゥーレとルーベルトが、万一に備えてすぐに対応できるように準備をしていたが、正直いえばあれだけ近付いてしまえば対応は難しかった。後ろに護衛が控えていたとはいえ彼らも同様だろう。
リーディアが正面から真っ直ぐ彼女に向かって来る猪に狙いを付けたのは傍で見ていて直ぐに分かった。彼女の腕なら仕留めることが出来るだろうとトゥーレは考えていた。だが彼女は中々引き金を引かず、猪との距離がどんどん近付いてくる。若干焦りを浮かべたトゥーレは、リーディア越しにルーベルトに指示を送り自らはすぐに庇えるように彼女の傍まで近付いていたのだ。
彼らが手を出すギリギリのタイミングで、漸く彼女は引き金を引いたのだった。
「信頼いただけている様で何よりです。姫様」
トゥーレはそう言って優雅にボウ・アンド・スクレープでお辞儀をして微笑む。笑顔を見せていたが、危うくリーディアの獲物を横取りするところだったと内心は冷や汗を浮かべていた。
「引き続きわたくしをお守りくださいませ」
対してリーディアも、乗馬服のために持ち上げるスカートはないが、それでも優雅にカーテシーで返礼し、にっこりと笑顔を見せる。
銃声が辺りに響く中、二人の周囲のみ別空間のような甘い雰囲気に満たされている。彼らの護衛として布陣していたユーリとルーベルトは、正面を見据えたまま表情を消した顔で引き金を引き続けていた。
その後も順調に獲物を仕留めていくトゥーレたち。
三時間ほどの狩りで圧巻の腕を見せたのは、やはりトゥーレとルーベルトの二人だった。
トゥーレは、鹿を三頭、猪二頭、水牛一頭を仕留める成果を上げた。
そのトゥーレを上回る活躍を見せたのがルーベルトだ。彼は、鹿を五頭仕留めたのを皮切りに、猪を三頭、水牛を一頭、そして豹を一頭仕留めた。
豹は狩りが終わり屋敷に引き上げる途中で、木の上からこちらを窺っているところを仕留めたものだ。鉄砲と言えばルーベルトという評価そのままに面目躍如の活躍を見せたと言えるだろう。
そしてリーディアはというと、猪以外は兎を一羽仕留めたのみだった。それでも初めての狩りで、獲物を仕留めることが出来たことに満足そうに笑顔を振りまいていた。
狩られた獲物は下働きの者によって素早く血抜きされると、今日の食事に回すもの、明日の晩餐に回されるもの、保存用に塩漬けや燻製に回すものと用途別に手早く処理が行われていく。
トゥーレらが屋敷へと引き上げてきた頃には、処理が粗方終わって広場の中央に巨大な焚き火が焚かれていた。その周りには肉を焼くためのグリルと切り分けられた肉が焚き火を囲むように並んでいた。
「ほう!」
巨大な火柱にトゥーレが感嘆の声を上げる。
「かなりの獲物が獲れましたからね。屋敷の厨房では処理しきれませんので、今夜の晩餐はこの広場でおこないます。といっても簡単なバーベキューにするだけですが」
申し訳なさそうにアレシュが告げた。
領主が狩りをおこなう場合でも、天気が良ければ広場に参加者が集って食事を振る舞っているのだという。ただし今回はトゥーレ等の安全を期して、狩りの参加者と追い立て役や護衛の兵士とは分け、まずは参加者であるトゥーレたちからの食事となるという。
「では、申し訳ないが先にいただくとしよう」
肉が焼かれ始めると、辺りには香ばしい匂いが立ち籠め、広場を囲むように立っている護衛がごくりと喉を鳴らす。
トゥーレたちは今日の成果を互いに誇りながら、獲ったばかりの新鮮な肉に舌鼓を打っていく。
「む!? 旨いな。これはリーディアが仕留めた猪か? 冬が近いからか良く肥えたいい肉だ」
「うふふ、そうですね。こんな大きな猪をわたくしが仕留めたのですね」
感慨深そうにテーブルの上に載せられた猪の頭に感嘆の声を上げる。
捌かれた肉と一緒にその元となる猪の頭が一緒に乗せられ、慣れてない者が見れば食欲を減退させてしまいそうな絵面だが、リーディアは気にした様子もなく笑顔を浮かべながら食べていた。
「しかし、リーディアは今日は初めての狩りだと聞いたが?」
「ええ、そうですけれど。どうかしましたか?」
質問の意味が分からずにリーディアがこてりと首を傾げる。
「いや、こういう風に獲物の首が並んでいても平気なのだなと思ってな」
普通ならば自分で獲った獲物とはいえ、生々しい頭が載せられていれば気になるものだ。恐らくエステルならばギャーギャーと大騒ぎして一口も口にできないだろう。それがリーディアはそんな様子もなく慣れた様子で肉を口に運んでいた。
「わたくしは、この食事の仕方には慣れていますので」
そう言って少し照れた様子を浮かべる。
狩りに参加するのは初めてだった彼女も、幼い頃から連れられて何度かフライルには来ていたという。このスタイルの食事は狩りをおこなった時の恒例で、毎回こうやって饗されていたという。
最初は一口も口に出来なかったリーディアも何度か参加するうちに慣れ、今では気にすることなく口に出来るようになったのだという。
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