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第一章 都市伝説と呼ばれて
28 リーディアとの出逢い(2)
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物売りの活気溢れた声や子供達のはしゃぐ声が、フォレスの大通りに響いていた。そんな活気溢れる雑踏を、トゥーレは一人のんびりと港へと向かって歩いていた。
フードで頭髪は隠しているが、サザンとは違って人の目を気にすることなく散策できることが嬉しかった。
フォレスの街はサザンの喧噪とは、また違った活気に満ちていた。商人の運ぶ荷車や子供達の声、店先に並ぶ商品、そのどれにもトゥーレは興味を駆り立てられていた。
「どいた、どいたぁ!」
人足が人を掻き分けながら荷車を押して港へと走って行く。
港が近づくにつれて人通りも多くなり、荷駄を運ぶ人足の数も増えてくる。行き交う人の中には、水夫の姿もチラホラと見えるようになってきた。
これまでずっと下ってきていた大通りの傾斜は、ほとんど平坦となり、下りきった先は街道と交差していた。午後の一番忙しい時間なのか、街道には多くの荷車や荷馬車が行き来している。
その街道を渡れば目的のフォレス港だ。
港には幾棟もの巨大な倉庫が建ち並び、その倉庫の屋根の上をマストの先端がゆっくりと動いていた。
のんびりと歩いて来たため、思いの外時間が経っていたようだ。
「姫様ぁ・・・・!」
荷車の途切れたタイミングで、街道を横切ろうと踏み出した時だ。
後ろで切羽詰まった女の叫び声に振り返ると、息も絶え絶えといった様子の女が少女を追いかけているのが目に入った。
必死の形相の女とは裏腹に、少女は満面の笑顔で女を振り返りながら駆けている。距離が離れすぎないように女との距離を考えているようで、途中で速度を緩めたり速めたりしながら一定の距離を保っていた。
しかし追いかけている女の様子を気遣う様子はなく、ただ捕まらないように二人の距離だけを気にしているようだった。
「セネイ、もう少しだ頑張れ!」
「ひ、姫様! 危のぅ、ご・・・・ぜぃぜぃ・・・・ござい、ま、す」
セネイと呼ばれた女は、自分のことよりも少女を心配しているが、もう体力は限界を迎えていた。よろよろとふらついたかと思うと、力なくその場にへたり込んでしまったのだ。
城からここまで走り詰めだったのだろう。『ぜぇぜぇ』と肩で息をし、座り込んだその場から、すぐに動くことができないでいる。
「姫、さまぁ・・・・」
彼女は右手を虚しく伸ばすが、当然捕まえることのできる距離ではなく、その手は空を掴むだけだ。呼吸は乱れひっつめて整えられていた頭髪もすでに乱れ、自らの無力感に目には涙を浮かべている。
城から港までは約八〇〇メートルほど。とはいえ体格のよい彼女には走れる距離ではなかったようだ。
「・・・・」
流石にセネイのその様子に、やり過ぎたことを悟ったのだろう。少女はばつが悪そうに足を緩めた。しかしそれが拙かったのかその瞬間、石畳のほんの少しの段差に躓いてしまう。
「わっ!」
「ひ、姫様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
緩やかになってきているとはいえ、傾斜は終わっていない。
悲鳴のような彼女の叫び声が糸を引く中、少女は仰向けにひっくり返り大通りをごろごろと後ろ向けに転がっていく。
少女は自分に何が起こっているのか理解できないでいた。
空と地面がぐるぐると交互に見えていたが、やがてそれも直ぐに分からなくなった。
「誰かお助けくださいまし! 姫様が!!」
このまま街道へと飛び出せば、荷馬車や荷車の行き交う街道だ。セネイは無駄と分かっていても、右手を伸ばさずにはいられなかった。
「・・・・」
気付いた時には青空が見えていた。
白い雲がゆっくりと流れ、小鳥が視界を横切っていく。
瞬きをパチパチと繰り返し、視線の端に建物の庇が見えたことで、自分が仰向けになっていることを、少女はようやく理解できた。
長い間転がっていたような気もするし、ほんの瞬きする間だけだったようにも思う。あれだけあった通りの喧騒は聞こえず、嘘のように静かだった。
本当に転んだんだろうかと考えたところで、混乱していた感覚が蘇った。全身に痛みが襲い、思わず耳を塞ぎたくなるほどの喧騒が、いきなり耳に飛び込んできて少女はパニックとなった。
「う・・・・」
全身の痛みが先ほどの恐怖を思い出させ、みるみる目に涙が溜まっていく。
視界が歪み青空と建物が混じり合った。
「大丈夫、泣くな! 姫様だろう?」
涙が瞳から溢れそうになったその時、優しい声が少女に語りかけてきた。
「!?」
きょとんとする少女の視界の右上から覗き込む顔が見えた。逆光で輪郭しか分からなかったが、目を凝らせば金髪の少年が逆さまに覗き込んでいた。
「・・・・」
痛みを忘れてぽかんとした表情でその顔を見つめていると、少年は優しく微笑んで彼女を起き上がらせてくれた。そこで初めて少女は少年の膝に頭を乗せていたことに気付く。いわゆる膝枕である。
「あっ・・・・」
「立てるかい?」
五、六歳とはいえ姫様と呼ばれる少女だ。思いがけない体勢に赤面していると、少年は優しく声を掛け手を取ってゆっくりと立たせてくれる。
「ほら、大丈夫。どこか痛い所はある?」
「・・・・」
少女の顔を覗き込んで気遣う少年に、彼女は無言のまま首を振る。
何処が痛いのか分からないくらい、全身が悲鳴を上げていたが、少年の優しい声に少女は痩せ我慢して立ち上がった。
ポンポンと少女の服の汚れを軽く払うと、少年は腰に付けたポーチからハンカチを取り出して少女の額にそっと押し当てる。
「大丈夫?」
額に押し当てられたハンカチに軽く血が滲んでいた。彼女は初めて額に怪我を負っていたことに気が付いた。
「そうか、えらいね」
少女は優しく尋ねる少年にこくんと大きく頷くと、少年はにっこりと微笑んで頭を撫でてくれた。
「姫様! ぜぇぜぇ・・・・お、お怪我は、お怪我はござ、ございませんか!?」
セネイが這々の体でようやく追いついてきた。
太っているとはいえ、姫様付きの侍女として召し上げられるほどの容姿だ。それが肩で大きく息をして、顔は汗と涙で見る影もない姿になっていた。
少女は見知った侍女の顔を見て安心したのか、気付けば目から涙があふれ出していた。
「姫様、もう大丈夫ですよ」
セネイは少女を抱きしめ優しく頭を撫でる。
少女の涙腺は決壊し止めどなく涙を溢れさせていた。涙は彼女とセネイの服を濡らしていたが、幼い手足に必死で力を込めて、泣き声を上げることだけは堪えていた。
『泣くな! 姫様だろう?』
涙は止まることはなく彼女の頬を濡らし続けていたが、少年の言葉を噛みしめ、口を真一文字に結んで決して泣き声を上げることはなかった。
「膝と肘、それからおでこを少し擦り剥いているようだが、それほど心配ないだろう」
声を掛けられて初めて、セネイは姫様を助けたくれた少年が、見知った顔だったことに気が付いた。
「えっ!? ト、トゥーレ様!? まさかトゥーレ様が姫様を?」
「間に合って良かった。気付くのが遅れていたら街道に飛び出すところだった」
トゥーレが振り返るとすぐそこに街道があった。
彼は街道に飛び出す寸前で彼女の前に飛び出し抱き留めていたのだ。もしトゥーレが遅れていれば、そのまま荷駄や荷馬車の行き交う街道に飛び出していたことだろう。
セネイはそれを思うと生きた心地がせず、思わず生唾を飲み込んだ。
彼女は少女をトゥーレに向き直らせて、改めて頭を下げる。
「この度は、ストランド家次女リーディア姫をお助けいただき、本当にありがとうございました」
「たまたま散歩していただけだ。礼を言われるほどでもないさ。ただ、姫様が転がってきたときは流石に驚いたけどね」
そう言ってトゥーレは笑う。
恐縮するセネイの胸で、リーディアはきょとんとして『誰?』という目をセネイに向けている。
「姫様、お忘れですか? 昨日ご挨拶しましたでしょう? こちらカモフのトゥーレ様です」
「トゥーレ様?」
「ああ・・・・こんなこと言っては何だが、姫はほとんど寝落ちしていたからな。覚えていないかも知れないな」
昨夜、オリヤンの自室にてトゥーレの目通りがおこなわれていた。それにはもちろんリーディアも参加していた。しかし人目に付く時間を避けるため遅い時間になったこともあり、彼女は半分微睡んだ夢うつつの中、セネイに抱かれながら目通りをおこなったため金髪ぐらいしか覚えてなかった。
トゥーレは笑いながらそう言うと、改めてリーディアに向き直り、恭しく頭を下げる。
「カモフの騎士ザオラルが息子、トゥーレ・トルスターと申します。以後お見知りおきを」
そしてリーディアの右手を取り、ゆっくりと甲に軽く口づけをする。
その様は、わずか十歳の少年とは思えないほど自然で、そして優雅な仕草だった。
「あ、あのぅ・・・・トゥーレ様、ご挨拶してるところ申し訳ありませんが、シルベストル様が大騒ぎで探しておいででしたが・・・・」
「流石シルベストルだ。思ったより早く気付いたな」
一瞬照れ臭そうな表情を浮かべたトゥーレだったが、そう言うと悪びれる様子もなく頭を掻く。
正体を伏せてるトゥーレの捜索に一般兵を動かす訳にもいかず、捜索には彼の正体を知るストランド一族の側勤めが動員されていた。
普段リーディアが外出する際は、セネイとは別の侍女か護衛騎士が彼女の傍についていたが、彼女の側勤めではセネイ以外がトゥーレの捜索に駆り出されていたのだった。
トゥーレが見つかったと報告を受けたのは、城内の捜索を始めてから五時間経った頃だった。すでに日は傾いて夕刻となっていた。
城内ほとんどの探索が終わり、念のためと街に捜索の手を伸ばしたところ、直ぐに『トゥーレ様発見!』の報告が入ったのだ。
「トゥーレ・・・・様!?」
特大の雷を落とすつもりで、城門で待ち構えていたシルベストルは、その光景に唖然となった。
手ぐすね引いて待ち構えるシルベストルの目の前に、何故かリーディアと一緒に手を繋いで戻ってきたからだ。
「出迎えご苦労!」
呆気にとられるシルベストルを一言労うと、何事もなかったかのように二人は談笑しながら城へと戻って行くのだった。
フードで頭髪は隠しているが、サザンとは違って人の目を気にすることなく散策できることが嬉しかった。
フォレスの街はサザンの喧噪とは、また違った活気に満ちていた。商人の運ぶ荷車や子供達の声、店先に並ぶ商品、そのどれにもトゥーレは興味を駆り立てられていた。
「どいた、どいたぁ!」
人足が人を掻き分けながら荷車を押して港へと走って行く。
港が近づくにつれて人通りも多くなり、荷駄を運ぶ人足の数も増えてくる。行き交う人の中には、水夫の姿もチラホラと見えるようになってきた。
これまでずっと下ってきていた大通りの傾斜は、ほとんど平坦となり、下りきった先は街道と交差していた。午後の一番忙しい時間なのか、街道には多くの荷車や荷馬車が行き来している。
その街道を渡れば目的のフォレス港だ。
港には幾棟もの巨大な倉庫が建ち並び、その倉庫の屋根の上をマストの先端がゆっくりと動いていた。
のんびりと歩いて来たため、思いの外時間が経っていたようだ。
「姫様ぁ・・・・!」
荷車の途切れたタイミングで、街道を横切ろうと踏み出した時だ。
後ろで切羽詰まった女の叫び声に振り返ると、息も絶え絶えといった様子の女が少女を追いかけているのが目に入った。
必死の形相の女とは裏腹に、少女は満面の笑顔で女を振り返りながら駆けている。距離が離れすぎないように女との距離を考えているようで、途中で速度を緩めたり速めたりしながら一定の距離を保っていた。
しかし追いかけている女の様子を気遣う様子はなく、ただ捕まらないように二人の距離だけを気にしているようだった。
「セネイ、もう少しだ頑張れ!」
「ひ、姫様! 危のぅ、ご・・・・ぜぃぜぃ・・・・ござい、ま、す」
セネイと呼ばれた女は、自分のことよりも少女を心配しているが、もう体力は限界を迎えていた。よろよろとふらついたかと思うと、力なくその場にへたり込んでしまったのだ。
城からここまで走り詰めだったのだろう。『ぜぇぜぇ』と肩で息をし、座り込んだその場から、すぐに動くことができないでいる。
「姫、さまぁ・・・・」
彼女は右手を虚しく伸ばすが、当然捕まえることのできる距離ではなく、その手は空を掴むだけだ。呼吸は乱れひっつめて整えられていた頭髪もすでに乱れ、自らの無力感に目には涙を浮かべている。
城から港までは約八〇〇メートルほど。とはいえ体格のよい彼女には走れる距離ではなかったようだ。
「・・・・」
流石にセネイのその様子に、やり過ぎたことを悟ったのだろう。少女はばつが悪そうに足を緩めた。しかしそれが拙かったのかその瞬間、石畳のほんの少しの段差に躓いてしまう。
「わっ!」
「ひ、姫様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
緩やかになってきているとはいえ、傾斜は終わっていない。
悲鳴のような彼女の叫び声が糸を引く中、少女は仰向けにひっくり返り大通りをごろごろと後ろ向けに転がっていく。
少女は自分に何が起こっているのか理解できないでいた。
空と地面がぐるぐると交互に見えていたが、やがてそれも直ぐに分からなくなった。
「誰かお助けくださいまし! 姫様が!!」
このまま街道へと飛び出せば、荷馬車や荷車の行き交う街道だ。セネイは無駄と分かっていても、右手を伸ばさずにはいられなかった。
「・・・・」
気付いた時には青空が見えていた。
白い雲がゆっくりと流れ、小鳥が視界を横切っていく。
瞬きをパチパチと繰り返し、視線の端に建物の庇が見えたことで、自分が仰向けになっていることを、少女はようやく理解できた。
長い間転がっていたような気もするし、ほんの瞬きする間だけだったようにも思う。あれだけあった通りの喧騒は聞こえず、嘘のように静かだった。
本当に転んだんだろうかと考えたところで、混乱していた感覚が蘇った。全身に痛みが襲い、思わず耳を塞ぎたくなるほどの喧騒が、いきなり耳に飛び込んできて少女はパニックとなった。
「う・・・・」
全身の痛みが先ほどの恐怖を思い出させ、みるみる目に涙が溜まっていく。
視界が歪み青空と建物が混じり合った。
「大丈夫、泣くな! 姫様だろう?」
涙が瞳から溢れそうになったその時、優しい声が少女に語りかけてきた。
「!?」
きょとんとする少女の視界の右上から覗き込む顔が見えた。逆光で輪郭しか分からなかったが、目を凝らせば金髪の少年が逆さまに覗き込んでいた。
「・・・・」
痛みを忘れてぽかんとした表情でその顔を見つめていると、少年は優しく微笑んで彼女を起き上がらせてくれた。そこで初めて少女は少年の膝に頭を乗せていたことに気付く。いわゆる膝枕である。
「あっ・・・・」
「立てるかい?」
五、六歳とはいえ姫様と呼ばれる少女だ。思いがけない体勢に赤面していると、少年は優しく声を掛け手を取ってゆっくりと立たせてくれる。
「ほら、大丈夫。どこか痛い所はある?」
「・・・・」
少女の顔を覗き込んで気遣う少年に、彼女は無言のまま首を振る。
何処が痛いのか分からないくらい、全身が悲鳴を上げていたが、少年の優しい声に少女は痩せ我慢して立ち上がった。
ポンポンと少女の服の汚れを軽く払うと、少年は腰に付けたポーチからハンカチを取り出して少女の額にそっと押し当てる。
「大丈夫?」
額に押し当てられたハンカチに軽く血が滲んでいた。彼女は初めて額に怪我を負っていたことに気が付いた。
「そうか、えらいね」
少女は優しく尋ねる少年にこくんと大きく頷くと、少年はにっこりと微笑んで頭を撫でてくれた。
「姫様! ぜぇぜぇ・・・・お、お怪我は、お怪我はござ、ございませんか!?」
セネイが這々の体でようやく追いついてきた。
太っているとはいえ、姫様付きの侍女として召し上げられるほどの容姿だ。それが肩で大きく息をして、顔は汗と涙で見る影もない姿になっていた。
少女は見知った侍女の顔を見て安心したのか、気付けば目から涙があふれ出していた。
「姫様、もう大丈夫ですよ」
セネイは少女を抱きしめ優しく頭を撫でる。
少女の涙腺は決壊し止めどなく涙を溢れさせていた。涙は彼女とセネイの服を濡らしていたが、幼い手足に必死で力を込めて、泣き声を上げることだけは堪えていた。
『泣くな! 姫様だろう?』
涙は止まることはなく彼女の頬を濡らし続けていたが、少年の言葉を噛みしめ、口を真一文字に結んで決して泣き声を上げることはなかった。
「膝と肘、それからおでこを少し擦り剥いているようだが、それほど心配ないだろう」
声を掛けられて初めて、セネイは姫様を助けたくれた少年が、見知った顔だったことに気が付いた。
「えっ!? ト、トゥーレ様!? まさかトゥーレ様が姫様を?」
「間に合って良かった。気付くのが遅れていたら街道に飛び出すところだった」
トゥーレが振り返るとすぐそこに街道があった。
彼は街道に飛び出す寸前で彼女の前に飛び出し抱き留めていたのだ。もしトゥーレが遅れていれば、そのまま荷駄や荷馬車の行き交う街道に飛び出していたことだろう。
セネイはそれを思うと生きた心地がせず、思わず生唾を飲み込んだ。
彼女は少女をトゥーレに向き直らせて、改めて頭を下げる。
「この度は、ストランド家次女リーディア姫をお助けいただき、本当にありがとうございました」
「たまたま散歩していただけだ。礼を言われるほどでもないさ。ただ、姫様が転がってきたときは流石に驚いたけどね」
そう言ってトゥーレは笑う。
恐縮するセネイの胸で、リーディアはきょとんとして『誰?』という目をセネイに向けている。
「姫様、お忘れですか? 昨日ご挨拶しましたでしょう? こちらカモフのトゥーレ様です」
「トゥーレ様?」
「ああ・・・・こんなこと言っては何だが、姫はほとんど寝落ちしていたからな。覚えていないかも知れないな」
昨夜、オリヤンの自室にてトゥーレの目通りがおこなわれていた。それにはもちろんリーディアも参加していた。しかし人目に付く時間を避けるため遅い時間になったこともあり、彼女は半分微睡んだ夢うつつの中、セネイに抱かれながら目通りをおこなったため金髪ぐらいしか覚えてなかった。
トゥーレは笑いながらそう言うと、改めてリーディアに向き直り、恭しく頭を下げる。
「カモフの騎士ザオラルが息子、トゥーレ・トルスターと申します。以後お見知りおきを」
そしてリーディアの右手を取り、ゆっくりと甲に軽く口づけをする。
その様は、わずか十歳の少年とは思えないほど自然で、そして優雅な仕草だった。
「あ、あのぅ・・・・トゥーレ様、ご挨拶してるところ申し訳ありませんが、シルベストル様が大騒ぎで探しておいででしたが・・・・」
「流石シルベストルだ。思ったより早く気付いたな」
一瞬照れ臭そうな表情を浮かべたトゥーレだったが、そう言うと悪びれる様子もなく頭を掻く。
正体を伏せてるトゥーレの捜索に一般兵を動かす訳にもいかず、捜索には彼の正体を知るストランド一族の側勤めが動員されていた。
普段リーディアが外出する際は、セネイとは別の侍女か護衛騎士が彼女の傍についていたが、彼女の側勤めではセネイ以外がトゥーレの捜索に駆り出されていたのだった。
トゥーレが見つかったと報告を受けたのは、城内の捜索を始めてから五時間経った頃だった。すでに日は傾いて夕刻となっていた。
城内ほとんどの探索が終わり、念のためと街に捜索の手を伸ばしたところ、直ぐに『トゥーレ様発見!』の報告が入ったのだ。
「トゥーレ・・・・様!?」
特大の雷を落とすつもりで、城門で待ち構えていたシルベストルは、その光景に唖然となった。
手ぐすね引いて待ち構えるシルベストルの目の前に、何故かリーディアと一緒に手を繋いで戻ってきたからだ。
「出迎えご苦労!」
呆気にとられるシルベストルを一言労うと、何事もなかったかのように二人は談笑しながら城へと戻って行くのだった。
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