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第四章 束の間の休息
第39話 打ち上げ
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話もひと段落ついたところで、俺たちは一度解散する運びとなった。金平の捜索を続けたいところだが、闇雲に動いても仕方がない。それに、もう少し待てば紅巾族からも何か情報が入るかもしれない。八崎は、金平のことも紅巾族に話をしてくれていたみたいだからな。
そんなこんなで、診療所を後にしようとした俺たちだったが、俺はまだ秦に治療費を払っていなかったことに気づいた。
こういうところって、高額な治療費を請求されるんじゃ……と不安になったが、瑞樹が「お金なら要らないわよ。私が紹介してるんだから」と教えてくれた。
その後、お疲れさん会+瑞樹の歓迎会をしたいという小宮山の提案に付き合うことになり、八崎のお家にお邪魔させてもらっていた。
しかし、瑞樹は八崎の家に着いた途端、「それじゃ、私はこれで」とその場を去ろうとしていた。ここまで付いてきたのは、俺たちの活動拠点(?)である八崎の家の場所を確認したかっただけらしい。
「なんや、姉ちゃん帰ったら歓迎会の意味ないやん」
「歓迎会に意味がないのよ。私は、あなたたちと慣れ合うつもりはないの。ただ互いの利害が一致してるってだけだから」
「えー。姉ちゃん、頭固いなあ。せっかくお菓子やらジュースやらぎょうさん買うたのに」
「あなたたちで食べたらいいじゃない。お金は払ったんだからいいでしょ」
「……けちんぼ」
小宮山が何とか引き留めようと食い下がるが、瑞樹は帰る気満々だった。彼女のことを知るいい機会だと思ったけど、もう夜も遅いし、無理に引き留めるのも気が引けるな。小宮山には悪いけど、男三人のむさ苦しいお疲れさん会と洒落込もう。
「お兄ちゃんたちおかえりなさい!!」
その時、玄関の扉が開き、愛花ちゃんが元気いっぱいの笑顔を見せながら俺たちを迎えてくれた。
八崎の姿を見るやいなや、両手を広げて駆け寄り、勢いよく抱き着いた。八崎も優しく微笑み、愛花ちゃんの頭を優しく撫でている。
瑞樹は、そんな二人の様子を寂しそうに見つめていた。俺の視線に気づいた彼女は、すぐに表情を締めなおす。
「あれ? そのひとはだれ?」
「ん? ああ……兄ちゃんの、友達だ」
「そうなんだ? かわいい人だね!」
愛花ちゃんはそう言って、瑞樹の傍に駆け寄っていく。そして、瑞樹のお腹のあたりにぎゅっと抱き着いた。
「っ?!」
「えへへ。ぎゅってしていい?」
「……順番が逆よ」
「おねえちゃん、お名前は?」
「全然聞いてないじゃない……。はあ。瑞樹よ」
「みずきおねえちゃん! いいお名前だね!」
自分の名前を呼ばれたとき、少しだけ頬が緩んだように見えたけど……気のせいだよな?
「愛花、もう離してやれよ。そいつはお家に帰るんだと。俺らは二階でお菓子パーティすっから」
「ええ! ずるい! 愛花も愛花も! ね、みずきおねえちゃんもいこ?」
「私は……」
「……だめ?」
「っ??!」
瑞樹はしばらく考えた……というよりフリーズしてたけど、やがて「少しだけよ」と愛花ちゃんの言葉に折れたようだった。
俺たち三人は顔を見合わせ、瑞樹の意外な一面に思わず笑みが零れる。案外、瑞樹って良い奴かもしれないな。
「へー。みずきおねえちゃん、おにいちゃんと同い年なんだ」
「まあね。あなたは?」
「もうすぐ7さいになるよ! 小学生一年生なの!」
「ふーん。そう」
結局、瑞樹と愛花ちゃんも参加し、賑やかな会となっていた。叔母さんのことがあって、正直今は浮かれている場合じゃないとも思うけど、せっかくこういう場を用意してくれたんだ。無下にするのも無礼というものだろう。
愛花ちゃんは、瑞樹の膝の上にちょこんと乗り、楽しそうに話していた。瑞樹も、満更ではないようだ。
「いやあ。それにしても今日はえらいぎょうさんイベント起こったなあ。ブラッド・レーベルにも接触したし、紅巾族も味方になって、にわかには信じられへんわ」
小宮山がジュースと菓子を摘みながら呟く。そうだな。今日一日で起きたとは思えないような出来事がたくさんあった。ある意味では、上手く物事が進んでいる。
「だな。今日はかなり進展あったんじゃね? 金平の野郎の居場所はまだわかんねえけど、色々と情報は得られそうだしよ」
「ああ、皆のおかげだよ。ありがとう」
俺がそう答えると、八崎は照れくさそうに頬をかいていた。
「この件が済んだら、ラーメンでも奢ってくれや」
「そんなんでいいのか?」
「ばっか。近所に馬鹿上手いラーメン屋があんだよ。一度食べたら、成瀬もハマるぜ?」
ラーメンか。いいな。全てが終わったら、皆で行きたい。きっと、今みたいに楽しい時間になるだろう。
「でもよ、あの女には気を付けろ。普通の女じゃねえのは間違いねえ。何かあったらすぐに教えろよ」
「……瑞樹か」
八崎が、本人には聞こえないよう耳打ちしてきた。ブラッド・レーベルとの戦闘時の動きや、闇医者と繋がりがあることなどからして、確かに彼女は一般人ではないだろう。
今は愛花ちゃんにデレデレだが、それすらも演技の可能性だってある。八崎の言うように、気を抜いてはいけな
「わたし、みずきおねえちゃん大好きだなあ。ほんとのおねえちゃんみたい」
「な、何馬鹿なこと言ってんのよ! ほんと、馬鹿じゃないの……!」
「「………………」」
デレデレや。めっっちゃデレてますやん。こいつ絶対愛花ちゃん好きだろ。口では強がってるけど、にやけ顔が抑えられてないし。素だなこれ。
瑞樹のことは、これからも注意を払う必要があるけど、愛花ちゃんがいる限り俺たちを裏切ることはなさそうだ。
その後は結局、全員で八崎の家にお泊りすることになった。伯父さんに電話すると、「こんな時だからこそ、楽しんでおいで」と言ってくれた。
伯父さんこそ、今一番辛いだろうに……。でも、今日はその言葉に甘えよう。
瑞樹は愛花ちゃんの部屋で寝ることになり、男三人は八崎の部屋に雑魚寝。その日は、夜遅くまで互いのことを語り合った。
本当に、楽しい時間だった。自分に起こった悲劇が、全て夢だったのではないかと思えるほどに。しかし、現実は残酷だ。この街に蔓延る闇が、着実に俺たちを飲み込もうとしていることに、この時の俺は気づいていなかった。
そんなこんなで、診療所を後にしようとした俺たちだったが、俺はまだ秦に治療費を払っていなかったことに気づいた。
こういうところって、高額な治療費を請求されるんじゃ……と不安になったが、瑞樹が「お金なら要らないわよ。私が紹介してるんだから」と教えてくれた。
その後、お疲れさん会+瑞樹の歓迎会をしたいという小宮山の提案に付き合うことになり、八崎のお家にお邪魔させてもらっていた。
しかし、瑞樹は八崎の家に着いた途端、「それじゃ、私はこれで」とその場を去ろうとしていた。ここまで付いてきたのは、俺たちの活動拠点(?)である八崎の家の場所を確認したかっただけらしい。
「なんや、姉ちゃん帰ったら歓迎会の意味ないやん」
「歓迎会に意味がないのよ。私は、あなたたちと慣れ合うつもりはないの。ただ互いの利害が一致してるってだけだから」
「えー。姉ちゃん、頭固いなあ。せっかくお菓子やらジュースやらぎょうさん買うたのに」
「あなたたちで食べたらいいじゃない。お金は払ったんだからいいでしょ」
「……けちんぼ」
小宮山が何とか引き留めようと食い下がるが、瑞樹は帰る気満々だった。彼女のことを知るいい機会だと思ったけど、もう夜も遅いし、無理に引き留めるのも気が引けるな。小宮山には悪いけど、男三人のむさ苦しいお疲れさん会と洒落込もう。
「お兄ちゃんたちおかえりなさい!!」
その時、玄関の扉が開き、愛花ちゃんが元気いっぱいの笑顔を見せながら俺たちを迎えてくれた。
八崎の姿を見るやいなや、両手を広げて駆け寄り、勢いよく抱き着いた。八崎も優しく微笑み、愛花ちゃんの頭を優しく撫でている。
瑞樹は、そんな二人の様子を寂しそうに見つめていた。俺の視線に気づいた彼女は、すぐに表情を締めなおす。
「あれ? そのひとはだれ?」
「ん? ああ……兄ちゃんの、友達だ」
「そうなんだ? かわいい人だね!」
愛花ちゃんはそう言って、瑞樹の傍に駆け寄っていく。そして、瑞樹のお腹のあたりにぎゅっと抱き着いた。
「っ?!」
「えへへ。ぎゅってしていい?」
「……順番が逆よ」
「おねえちゃん、お名前は?」
「全然聞いてないじゃない……。はあ。瑞樹よ」
「みずきおねえちゃん! いいお名前だね!」
自分の名前を呼ばれたとき、少しだけ頬が緩んだように見えたけど……気のせいだよな?
「愛花、もう離してやれよ。そいつはお家に帰るんだと。俺らは二階でお菓子パーティすっから」
「ええ! ずるい! 愛花も愛花も! ね、みずきおねえちゃんもいこ?」
「私は……」
「……だめ?」
「っ??!」
瑞樹はしばらく考えた……というよりフリーズしてたけど、やがて「少しだけよ」と愛花ちゃんの言葉に折れたようだった。
俺たち三人は顔を見合わせ、瑞樹の意外な一面に思わず笑みが零れる。案外、瑞樹って良い奴かもしれないな。
「へー。みずきおねえちゃん、おにいちゃんと同い年なんだ」
「まあね。あなたは?」
「もうすぐ7さいになるよ! 小学生一年生なの!」
「ふーん。そう」
結局、瑞樹と愛花ちゃんも参加し、賑やかな会となっていた。叔母さんのことがあって、正直今は浮かれている場合じゃないとも思うけど、せっかくこういう場を用意してくれたんだ。無下にするのも無礼というものだろう。
愛花ちゃんは、瑞樹の膝の上にちょこんと乗り、楽しそうに話していた。瑞樹も、満更ではないようだ。
「いやあ。それにしても今日はえらいぎょうさんイベント起こったなあ。ブラッド・レーベルにも接触したし、紅巾族も味方になって、にわかには信じられへんわ」
小宮山がジュースと菓子を摘みながら呟く。そうだな。今日一日で起きたとは思えないような出来事がたくさんあった。ある意味では、上手く物事が進んでいる。
「だな。今日はかなり進展あったんじゃね? 金平の野郎の居場所はまだわかんねえけど、色々と情報は得られそうだしよ」
「ああ、皆のおかげだよ。ありがとう」
俺がそう答えると、八崎は照れくさそうに頬をかいていた。
「この件が済んだら、ラーメンでも奢ってくれや」
「そんなんでいいのか?」
「ばっか。近所に馬鹿上手いラーメン屋があんだよ。一度食べたら、成瀬もハマるぜ?」
ラーメンか。いいな。全てが終わったら、皆で行きたい。きっと、今みたいに楽しい時間になるだろう。
「でもよ、あの女には気を付けろ。普通の女じゃねえのは間違いねえ。何かあったらすぐに教えろよ」
「……瑞樹か」
八崎が、本人には聞こえないよう耳打ちしてきた。ブラッド・レーベルとの戦闘時の動きや、闇医者と繋がりがあることなどからして、確かに彼女は一般人ではないだろう。
今は愛花ちゃんにデレデレだが、それすらも演技の可能性だってある。八崎の言うように、気を抜いてはいけな
「わたし、みずきおねえちゃん大好きだなあ。ほんとのおねえちゃんみたい」
「な、何馬鹿なこと言ってんのよ! ほんと、馬鹿じゃないの……!」
「「………………」」
デレデレや。めっっちゃデレてますやん。こいつ絶対愛花ちゃん好きだろ。口では強がってるけど、にやけ顔が抑えられてないし。素だなこれ。
瑞樹のことは、これからも注意を払う必要があるけど、愛花ちゃんがいる限り俺たちを裏切ることはなさそうだ。
その後は結局、全員で八崎の家にお泊りすることになった。伯父さんに電話すると、「こんな時だからこそ、楽しんでおいで」と言ってくれた。
伯父さんこそ、今一番辛いだろうに……。でも、今日はその言葉に甘えよう。
瑞樹は愛花ちゃんの部屋で寝ることになり、男三人は八崎の部屋に雑魚寝。その日は、夜遅くまで互いのことを語り合った。
本当に、楽しい時間だった。自分に起こった悲劇が、全て夢だったのではないかと思えるほどに。しかし、現実は残酷だ。この街に蔓延る闇が、着実に俺たちを飲み込もうとしていることに、この時の俺は気づいていなかった。
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