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第三章 紅巾族
第28話 静観
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【ブラッド・レーベル アジト】
成瀬が拘束されていた建物は別の、雑居ビル。そこはブラッド・レーベルのアジトのひとつ。地下道の戦闘から退却したブラッド・レーベルは、そこで死猿の容態が回復するのを待っていた。
「死猿さん、大丈夫ですかね……」
「見え猿が診てくれてるんだ。大事にはならないだろう」
聞こえ猿の言葉を聞いて、青鬼は幾分か気持ちが落ち着いたようだった。近くにいた赤鬼も、気を落ち着けるため、ソファに腰を降ろした。
「あーうー」
言え猿が、悲しそうに声を出す。彼は言葉を話せない。しかし、その言葉に全て意味があり、聞こえ猿もそれを感じ取っていた。
「気にするな。言え猿のせいじゃない。俺なんか、あの土壇場で盛大に外したしな。おかげで、あの赤髪にコテンパンにされちまった」
「師匠は、銃の扱いだけは下手ですからね」
「下手で悪かったな」
青鬼の言葉に、聞こえ猿はバツが悪そうに目を逸らした。ちょうどそのタイミングで、死猿が休んでいた部屋から一人の女の子が姿を現した。
『見え猿』
ブラッド・レーベルの幹部の1人。ずば抜けたハッキングスキルを持つ凄腕のハッカー。普段付けている猿の面を外し、素顔が晒されている。茶色斑の丸眼鏡越しでも分かるクリッとした目、地毛を隠すために染めた黒髪に、細身のモデル体型。グレーのパーカーにジーンズというラフな格好が、逆に彼女の素材の良さを強調していた。
「見え猿、容態は?」
「とりあえずは大丈夫! 薬も飲ませたし、しばらくすれば意識も戻る!」
多分……。言葉の最後にそう付け足す見え猿。
彼女は医者ではない。ただ、彼女は生まれつき見たものを一瞬で記憶してしまう『瞬間記憶能力』を持っていた。その類まれなる記憶力により、医学に関する知識を蓄えており、必要に応じて行使する。
「後で黄盃の爺さんに診てもらったほうがいいだろうな」
「私も、それがいいと思う。薺ちゃんのお見舞いも兼ねて」
「それにしても、最近多いな」
「今回も、突然発作が起きたんだっけ?」
「ああ。やはり、体に負荷が掛かると発作が起きる危険性が高くなるのかもしれない」
発作。それは、死猿が患っている病気を指していた。詳しくは、死猿本人しか知らない。ブラッド・レーベルが結成された当初より、それは現れていた。しかし昔に比べて、発作が起きる頻度が高くなっている。聞こえ猿達は、そのことを危惧していた。
「やっぱ、無理してたんだ。しばらくは、リーダー抜きでやんないといけないってことだね」
「ああ。俺たちだけでやるしかない。とりあえずは、捕え猿とさっきの天パ野郎を見つけ出して……」
「その必要はない……」
「死猿?! まだ無理しちゃダメだって!」
見え猿の背後から、覚束ない足取りで死猿が姿を現した。面は剥がれ、彼も素顔を晒している。その瞳には、生気はないが強い意志が宿っていた。
「捕え猿は、撒き餌だ。彼女の目的は僕たちと同じ……。いずれどこかでかちあうだろう。それよりも、気になるのは……」
「……あの天パ野郎か?」
「ああ」
聞こえ猿の言葉に返事を返すと、死猿はよろめきながら歩みを進め、赤鬼が座っていたソファに腰を降ろした。赤鬼は、心配そうに見つめている。
「紅の特攻隊とも繋がりがあるようだったし、仲間にはハッカーの存在もあった。それにあの戦闘スタイル……」
「アイツ、銃で撃たれたのに平気な顔して動き回ってたな。まさか、盃の……」
「確かに、盃の人間は特殊な能力を持っている者が多い。彼のあの動き、痛みを感じていないようだった。普通じゃない。可能性はある。それに彼が一緒だったということは、紅巾族が後ろ盾にいるかもしれない」
死猿は、耐え難い痛みを感じながらも言葉を続ける。
「見え猿。それらしい情報は?」
「紅巾族のことについては特には……。あ、でもアイツら、こないだ芦堂を潰したって奴らで間違いないよ。たった2人で乗り込んで、芦堂の全校生徒を相手に勝ったって。まあ、さすがに話がデカくなりすぎだと思うけど」
「芦堂がそう簡単に落ちるとは思えないけど。何かカラクリがあるのかな。ともかく、彼らについても同様に泳がせておこう。幸い、ウチのデータベースはそこまで触られてないんだろう?」
「まあ……。捕らえ猿は、盃に関するデータを欲しがってたみたいだけど、私が管理してるサーバーからデータを抜き取るなんてできっこないからね。私がいる限り、ブラッド・レーベルは安全なのだー!」
ピッと人差し指を伸ばし、高らかに宣言する見え猿。それを見て、死猿はクスッと笑った。
「なら問題ない。さっきも言ったけど、彼女は起爆剤だ。彼女に釣られて、アイツらが姿を現すかもしれない。そうなれば、僕たちも願ったり叶ったりだ。ねえ、言え猿?」
「あー」
「心配してくれるの? ありがとう」
いつの間にか、死猿の傍に言え猿が座り込んでいた。言え猿も仮面を外し、死猿の顔をジッと見つめている。その瞳には、微かに涙が浮かんでいた。死猿は、言え猿の頭を優しく撫でる。言え猿は、気持ちよさそうに目を閉じ「うー」と小さく声を出していた。
「さて、さすがに少し休もうか。皆も、さっきのでだいぶ疲れただろうから」
「はい! お腹も空きました! 出前取りましょう!」
死猿の提案に、全力で応える青鬼。
うるさい声を出すなと、赤鬼が彼の背中を蹴った。
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【ブラッド・レーベル アジト】
成瀬が拘束されていた建物は別の、雑居ビル。そこはブラッド・レーベルのアジトのひとつ。地下道の戦闘から退却したブラッド・レーベルは、そこで死猿の容態が回復するのを待っていた。
「死猿さん、大丈夫ですかね……」
「見え猿が診てくれてるんだ。大事にはならないだろう」
聞こえ猿の言葉を聞いて、青鬼は幾分か気持ちが落ち着いたようだった。近くにいた赤鬼も、気を落ち着けるため、ソファに腰を降ろした。
「あーうー」
言え猿が、悲しそうに声を出す。彼は言葉を話せない。しかし、その言葉に全て意味があり、聞こえ猿もそれを感じ取っていた。
「気にするな。言え猿のせいじゃない。俺なんか、あの土壇場で盛大に外したしな。おかげで、あの赤髪にコテンパンにされちまった」
「師匠は、銃の扱いだけは下手ですからね」
「下手で悪かったな」
青鬼の言葉に、聞こえ猿はバツが悪そうに目を逸らした。ちょうどそのタイミングで、死猿が休んでいた部屋から一人の女の子が姿を現した。
『見え猿』
ブラッド・レーベルの幹部の1人。ずば抜けたハッキングスキルを持つ凄腕のハッカー。普段付けている猿の面を外し、素顔が晒されている。茶色斑の丸眼鏡越しでも分かるクリッとした目、地毛を隠すために染めた黒髪に、細身のモデル体型。グレーのパーカーにジーンズというラフな格好が、逆に彼女の素材の良さを強調していた。
「見え猿、容態は?」
「とりあえずは大丈夫! 薬も飲ませたし、しばらくすれば意識も戻る!」
多分……。言葉の最後にそう付け足す見え猿。
彼女は医者ではない。ただ、彼女は生まれつき見たものを一瞬で記憶してしまう『瞬間記憶能力』を持っていた。その類まれなる記憶力により、医学に関する知識を蓄えており、必要に応じて行使する。
「後で黄盃の爺さんに診てもらったほうがいいだろうな」
「私も、それがいいと思う。薺ちゃんのお見舞いも兼ねて」
「それにしても、最近多いな」
「今回も、突然発作が起きたんだっけ?」
「ああ。やはり、体に負荷が掛かると発作が起きる危険性が高くなるのかもしれない」
発作。それは、死猿が患っている病気を指していた。詳しくは、死猿本人しか知らない。ブラッド・レーベルが結成された当初より、それは現れていた。しかし昔に比べて、発作が起きる頻度が高くなっている。聞こえ猿達は、そのことを危惧していた。
「やっぱ、無理してたんだ。しばらくは、リーダー抜きでやんないといけないってことだね」
「ああ。俺たちだけでやるしかない。とりあえずは、捕え猿とさっきの天パ野郎を見つけ出して……」
「その必要はない……」
「死猿?! まだ無理しちゃダメだって!」
見え猿の背後から、覚束ない足取りで死猿が姿を現した。面は剥がれ、彼も素顔を晒している。その瞳には、生気はないが強い意志が宿っていた。
「捕え猿は、撒き餌だ。彼女の目的は僕たちと同じ……。いずれどこかでかちあうだろう。それよりも、気になるのは……」
「……あの天パ野郎か?」
「ああ」
聞こえ猿の言葉に返事を返すと、死猿はよろめきながら歩みを進め、赤鬼が座っていたソファに腰を降ろした。赤鬼は、心配そうに見つめている。
「紅の特攻隊とも繋がりがあるようだったし、仲間にはハッカーの存在もあった。それにあの戦闘スタイル……」
「アイツ、銃で撃たれたのに平気な顔して動き回ってたな。まさか、盃の……」
「確かに、盃の人間は特殊な能力を持っている者が多い。彼のあの動き、痛みを感じていないようだった。普通じゃない。可能性はある。それに彼が一緒だったということは、紅巾族が後ろ盾にいるかもしれない」
死猿は、耐え難い痛みを感じながらも言葉を続ける。
「見え猿。それらしい情報は?」
「紅巾族のことについては特には……。あ、でもアイツら、こないだ芦堂を潰したって奴らで間違いないよ。たった2人で乗り込んで、芦堂の全校生徒を相手に勝ったって。まあ、さすがに話がデカくなりすぎだと思うけど」
「芦堂がそう簡単に落ちるとは思えないけど。何かカラクリがあるのかな。ともかく、彼らについても同様に泳がせておこう。幸い、ウチのデータベースはそこまで触られてないんだろう?」
「まあ……。捕らえ猿は、盃に関するデータを欲しがってたみたいだけど、私が管理してるサーバーからデータを抜き取るなんてできっこないからね。私がいる限り、ブラッド・レーベルは安全なのだー!」
ピッと人差し指を伸ばし、高らかに宣言する見え猿。それを見て、死猿はクスッと笑った。
「なら問題ない。さっきも言ったけど、彼女は起爆剤だ。彼女に釣られて、アイツらが姿を現すかもしれない。そうなれば、僕たちも願ったり叶ったりだ。ねえ、言え猿?」
「あー」
「心配してくれるの? ありがとう」
いつの間にか、死猿の傍に言え猿が座り込んでいた。言え猿も仮面を外し、死猿の顔をジッと見つめている。その瞳には、微かに涙が浮かんでいた。死猿は、言え猿の頭を優しく撫でる。言え猿は、気持ちよさそうに目を閉じ「うー」と小さく声を出していた。
「さて、さすがに少し休もうか。皆も、さっきのでだいぶ疲れただろうから」
「はい! お腹も空きました! 出前取りましょう!」
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