20 / 40
第二章 ブラッド・レーベル
第19話 街の掃除屋①
しおりを挟む
『神崎探偵事務所』
八崎の家を出て、芦堂高校へ向かう途中、俺の目に飛び込んできた看板。雑居ビルの3Fにあるらしいそれは、何故か強烈な存在感を放っていた。今まで、その看板の存在すら知らなかったというのに。
「探偵か……」
探偵に調査を依頼するっていうのも1つの方法かもしれない。ふとそう思った。探偵と言われれば、そういう人探しとか情報集めは得意そうだし、案外すぐに見つけてくれるかもしれない。
ただ、探偵に頼むとなると依頼料がかかるだろうなあ。俺は今バイトもしていないし、そんなにホイホイお金は使えない。2人に出してもらうのも気が引けるし、相場も分からないしな。どうしたものか……。
「……何か、お困りですか?」
「え?」
突然声をかけられた。声の主は、身長180㎝ぐらいのスラッとした青年だった。全体的に黒でまとめられたコーディネートが、よりスタイルの良さを引き立てている。顔も整っており、丸い眼鏡をかけていた。それに、とても優しい雰囲気の青年だった。
「ずっとそのビルを眺めていらっしゃるから、何かあったのかと思って」
「あ、いや、大丈夫です。ちょっと考え事をしてて……」
「もしかして、うちの事務所に何か用事ですか?」
「事務所?」
「神崎探偵事務所。ずっと、その看板を見てたんじゃないですか?」
「!?」
ってことは、この人が探偵なのか? こんなに若いのに……。それとも、手伝いか何かで雇われているのだろうか? どちらにせよ話を聞いてみる価値はありそうだ。
「もし何かご用なら、事務所で話を伺いますよ」
「えっと……」
どうしようか。そう思って八崎と小宮山に目線を送ると、八崎が訝しげな目で青年を睨みながら口を開いた。
「仕事を依頼するとなると高いのか?」
「……話を伺うだけなら、依頼料はかかりませんから、ご安心ください。お急ぎでしたら引き留めはしませんが、生憎この後は用事がありまして」
「ふーん。だ、そうだけど、どうする成瀬?」
今日話をするなら、今しかないということか。よし、芦堂に向かうのは話を聞いてもらってからにしよう。それに、話をするだけならそこまで時間はかからないだろう。
「……案内してもらえますか?」
「ええ、もちろん」
俺がそう言うと、青年は笑顔で案内を始めてくれた。俺たちは青年の後に続いて雑居ビルの中へと足を踏み入れる。エレベーターはなく、階段を上がっていった。ビルの1Fには喫茶店、2階はバー、4Fは雀荘らしいそのビルはこの時間は人の気配がなかった。夜になると、また違う雰囲気になるのだろう。
「どうぞ」
『神崎探偵事務所』
と書かれた扉が見え、中に入るよう促される。ここで何か情報を得られればいいんだが……。俺は不安と期待を抱きながら、その扉を開けた。
「そちらにお掛けください」
「は、はい」
中に入ると、いかにも探偵事務所という感じの内装だった。扉を開けてすぐのところに2人掛けのソファーが向かい合わせに置いてあり、その間には透明な天板のテーブルがあった。その奥には入り口を向く形でデスクが置いてあった。壁際には棚が置いてあり、その中にはファイルが大量に納められている。
全体的に綺麗に纏まっており、清潔感がある事務所だった。部屋の左側には扉があり、もうひとつ部屋があるようだった。
「今、お茶をお持ちしますね」
「ありがとうございます」
どうぞお構い無く、というのが正解だったかと今さら気付いた。青年はもうひとつの扉を開け、向こうと部屋へと姿を消した。向こうは給湯室みたいになっているのだろうか?
「…………」
言われた通り、ソファーに腰を降ろしてみる。質のいいものなのだろう。座り心地が抜群にいい。これは寝れるタイプのソファーだ……。
「探偵事務所って、中はこんなんなってんだな。俺入るの初めてだわ」
「ワイもや! いやあ、なんかこういうのも楽しいな!」
八崎と小宮山も楽しそうに談笑している。そうだよな。ここの探偵がアイツを見つけ出してくれたら、八崎たちを危険な目に遭わせずに済む。だったら、多少依頼金がかかったとしてもここで依頼するべきかもしれない。
そんなことを考えていると、再びもうひとつの扉が開いた。御盆に湯呑みを3つ乗せて、青年が現れた。どうぞ、と俺たちの前に1つずつ置いてくれた。
「さて、申し遅れました。私、こういう者です」
「ああ、どうも」
青年はそう言って、名刺を一枚差し出してきた。受け取って確認すると、神崎探偵事務所 神崎 渚とあった。
……待てよ。てことは、この人がこの探偵事務所の探偵なのか?
「お急ぎのようですから、早速要件を伺いましょうか」
「え? あ、はい。実は……」
変に緊張してしまってうまく話せなかったが、今までの話をかいつまんで説明した。神崎という探偵は要所要所で頷きながら、静かに話を聞いていた。俺がひとしきり話し終えると、神崎……さん?が口を開いた。
「事情は分かりました。あなたの叔母を襲ったと思われる犯人を捜しているのですね?」
「はい。一刻も早く」
「……ブラッド・レーベルという組織については、私共もこれといった情報を所有しておりません。なので、もし調査を依頼されるということであれば、取り急ぎ結果を報告できるか、保証はできません。それでもよろしければ、お受けいたしますが、いかがいたしますか?」
……やはり、小宮山も言っていたように、奴らに関する情報を集めるのは一筋縄ではいかないようだ。探偵ならもしかしてと思ったけど、考えが甘かったらしい。
「えーと、依頼料っていくらぐらいなんですかね?」
「ご安心ください。今回は初めてお越しいただいたお客様ですし、何より事情が事情です。確実にお客様のご依頼内容を達成できるとも限りませんので、依頼料はいただきません」
「え、タダですか!?」
「ははは。そうです、タダですよ」
予想外の答えが返ってきたので、つい席を立ちあがり大きい声を出してしまった。神崎さんは一瞬驚いたが、慌てることはなく微笑み返してくれた。俺はそっとソファーに座りなおした。
いやいや、これはありがたい。お金がかからないなら、頼まない手はない。捜査の手は一つでも多いほうがいい。結果が出るかはわからないけど、失うものもないのだから問題ない。
八崎の家を出て、芦堂高校へ向かう途中、俺の目に飛び込んできた看板。雑居ビルの3Fにあるらしいそれは、何故か強烈な存在感を放っていた。今まで、その看板の存在すら知らなかったというのに。
「探偵か……」
探偵に調査を依頼するっていうのも1つの方法かもしれない。ふとそう思った。探偵と言われれば、そういう人探しとか情報集めは得意そうだし、案外すぐに見つけてくれるかもしれない。
ただ、探偵に頼むとなると依頼料がかかるだろうなあ。俺は今バイトもしていないし、そんなにホイホイお金は使えない。2人に出してもらうのも気が引けるし、相場も分からないしな。どうしたものか……。
「……何か、お困りですか?」
「え?」
突然声をかけられた。声の主は、身長180㎝ぐらいのスラッとした青年だった。全体的に黒でまとめられたコーディネートが、よりスタイルの良さを引き立てている。顔も整っており、丸い眼鏡をかけていた。それに、とても優しい雰囲気の青年だった。
「ずっとそのビルを眺めていらっしゃるから、何かあったのかと思って」
「あ、いや、大丈夫です。ちょっと考え事をしてて……」
「もしかして、うちの事務所に何か用事ですか?」
「事務所?」
「神崎探偵事務所。ずっと、その看板を見てたんじゃないですか?」
「!?」
ってことは、この人が探偵なのか? こんなに若いのに……。それとも、手伝いか何かで雇われているのだろうか? どちらにせよ話を聞いてみる価値はありそうだ。
「もし何かご用なら、事務所で話を伺いますよ」
「えっと……」
どうしようか。そう思って八崎と小宮山に目線を送ると、八崎が訝しげな目で青年を睨みながら口を開いた。
「仕事を依頼するとなると高いのか?」
「……話を伺うだけなら、依頼料はかかりませんから、ご安心ください。お急ぎでしたら引き留めはしませんが、生憎この後は用事がありまして」
「ふーん。だ、そうだけど、どうする成瀬?」
今日話をするなら、今しかないということか。よし、芦堂に向かうのは話を聞いてもらってからにしよう。それに、話をするだけならそこまで時間はかからないだろう。
「……案内してもらえますか?」
「ええ、もちろん」
俺がそう言うと、青年は笑顔で案内を始めてくれた。俺たちは青年の後に続いて雑居ビルの中へと足を踏み入れる。エレベーターはなく、階段を上がっていった。ビルの1Fには喫茶店、2階はバー、4Fは雀荘らしいそのビルはこの時間は人の気配がなかった。夜になると、また違う雰囲気になるのだろう。
「どうぞ」
『神崎探偵事務所』
と書かれた扉が見え、中に入るよう促される。ここで何か情報を得られればいいんだが……。俺は不安と期待を抱きながら、その扉を開けた。
「そちらにお掛けください」
「は、はい」
中に入ると、いかにも探偵事務所という感じの内装だった。扉を開けてすぐのところに2人掛けのソファーが向かい合わせに置いてあり、その間には透明な天板のテーブルがあった。その奥には入り口を向く形でデスクが置いてあった。壁際には棚が置いてあり、その中にはファイルが大量に納められている。
全体的に綺麗に纏まっており、清潔感がある事務所だった。部屋の左側には扉があり、もうひとつ部屋があるようだった。
「今、お茶をお持ちしますね」
「ありがとうございます」
どうぞお構い無く、というのが正解だったかと今さら気付いた。青年はもうひとつの扉を開け、向こうと部屋へと姿を消した。向こうは給湯室みたいになっているのだろうか?
「…………」
言われた通り、ソファーに腰を降ろしてみる。質のいいものなのだろう。座り心地が抜群にいい。これは寝れるタイプのソファーだ……。
「探偵事務所って、中はこんなんなってんだな。俺入るの初めてだわ」
「ワイもや! いやあ、なんかこういうのも楽しいな!」
八崎と小宮山も楽しそうに談笑している。そうだよな。ここの探偵がアイツを見つけ出してくれたら、八崎たちを危険な目に遭わせずに済む。だったら、多少依頼金がかかったとしてもここで依頼するべきかもしれない。
そんなことを考えていると、再びもうひとつの扉が開いた。御盆に湯呑みを3つ乗せて、青年が現れた。どうぞ、と俺たちの前に1つずつ置いてくれた。
「さて、申し遅れました。私、こういう者です」
「ああ、どうも」
青年はそう言って、名刺を一枚差し出してきた。受け取って確認すると、神崎探偵事務所 神崎 渚とあった。
……待てよ。てことは、この人がこの探偵事務所の探偵なのか?
「お急ぎのようですから、早速要件を伺いましょうか」
「え? あ、はい。実は……」
変に緊張してしまってうまく話せなかったが、今までの話をかいつまんで説明した。神崎という探偵は要所要所で頷きながら、静かに話を聞いていた。俺がひとしきり話し終えると、神崎……さん?が口を開いた。
「事情は分かりました。あなたの叔母を襲ったと思われる犯人を捜しているのですね?」
「はい。一刻も早く」
「……ブラッド・レーベルという組織については、私共もこれといった情報を所有しておりません。なので、もし調査を依頼されるということであれば、取り急ぎ結果を報告できるか、保証はできません。それでもよろしければ、お受けいたしますが、いかがいたしますか?」
……やはり、小宮山も言っていたように、奴らに関する情報を集めるのは一筋縄ではいかないようだ。探偵ならもしかしてと思ったけど、考えが甘かったらしい。
「えーと、依頼料っていくらぐらいなんですかね?」
「ご安心ください。今回は初めてお越しいただいたお客様ですし、何より事情が事情です。確実にお客様のご依頼内容を達成できるとも限りませんので、依頼料はいただきません」
「え、タダですか!?」
「ははは。そうです、タダですよ」
予想外の答えが返ってきたので、つい席を立ちあがり大きい声を出してしまった。神崎さんは一瞬驚いたが、慌てることはなく微笑み返してくれた。俺はそっとソファーに座りなおした。
いやいや、これはありがたい。お金がかからないなら、頼まない手はない。捜査の手は一つでも多いほうがいい。結果が出るかはわからないけど、失うものもないのだから問題ない。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
選択科目:理系
くろくま
青春
小さな島にある全校生徒120人の高校。
2年生に上がると同時に文系か、理系どちらかの選択授業が開始する。
理科の授業が好きだったからって理由で理系を選んだ。でもね、文系と理系でそんな人数が変わるとは誰も思わないでしょ!?
火消し少女の炎上事件簿
幽八花あかね・朧星ここね
青春
痴漢冤罪に始まる炎上の危機から救ってもらったことをキッカケに、尚幸《ひさゆき》は、クラスメイトの花灯《はなび》――〝七日後の炎上〟を予知する異能をもつ少女と行動を共にすることになった。
花灯は、現実の火災のみならず、ネット炎上についても予知して消火に励む〝現代の火消し〟である。
一方の尚幸は、巻き込まれ体質っぽい高校生男子。花灯の所属するボランティア部に入部し、彼女の助手役を務める。
朝の電車、昼時の教室、放課後の公園。身近な場所に炎上の火種は転がっている。修学旅行先だろうと、文化祭中だろうと、誰かを、何かを燃やそうと企む者はいる。そして思わぬ悲劇も起こりうる。
そうした炎上にまつわる数々の事件を未然に防ごうと奔走するのが、花灯の昔からの日常。今は花灯と尚幸――ふたりの日常だ。
「すべての人は救えなくても、この手で助けられる人がいるのなら――わたしは手を差し伸べたい」
花灯の苦悩。異能の弱点。彼女の生き方を変えさせた、過去。
繋がった点と点は、ある時、彼女を襲う大火として燃え上がり――
尚幸は炎上現場へと、駆ける。
「まさに火事場の馬鹿力っていうか、さ。――助けにきたよ。花灯」
〈炎上〉×〈ライトミステリ〉×〈青春〉
これは、数々の事件への巻き込まれ経験から性格をひねくらせた少年が、不思議な少女と出会って真っ直ぐになっていくお話。
あるいは、とある事件をキッカケに笑顔を失くした少女が、一途な助手のせいで笑えるようになるまでのお話。
小説:幽八花あかね
イラスト:知さま
からっぽ
明石家秀夫
青春
普通の人って、どんな人だろう。
障がい者じゃない人?
常識がある人?
何をもって、普通というのだろう。
これは、ちょっと変わった男の子が、普通の中学校で、普通の日常を送るだけの物語。
7割実話、3割フィクション。
「事実は小説よりも奇なり」
小説家になろう、カクムヨでも公開中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる