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第二章 ブラッド・レーベル
第19話 街の掃除屋①
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『神崎探偵事務所』
八崎の家を出て、芦堂高校へ向かう途中、俺の目に飛び込んできた看板。雑居ビルの3Fにあるらしいそれは、何故か強烈な存在感を放っていた。今まで、その看板の存在すら知らなかったというのに。
「探偵か……」
探偵に調査を依頼するっていうのも1つの方法かもしれない。ふとそう思った。探偵と言われれば、そういう人探しとか情報集めは得意そうだし、案外すぐに見つけてくれるかもしれない。
ただ、探偵に頼むとなると依頼料がかかるだろうなあ。俺は今バイトもしていないし、そんなにホイホイお金は使えない。2人に出してもらうのも気が引けるし、相場も分からないしな。どうしたものか……。
「……何か、お困りですか?」
「え?」
突然声をかけられた。声の主は、身長180㎝ぐらいのスラッとした青年だった。全体的に黒でまとめられたコーディネートが、よりスタイルの良さを引き立てている。顔も整っており、丸い眼鏡をかけていた。それに、とても優しい雰囲気の青年だった。
「ずっとそのビルを眺めていらっしゃるから、何かあったのかと思って」
「あ、いや、大丈夫です。ちょっと考え事をしてて……」
「もしかして、うちの事務所に何か用事ですか?」
「事務所?」
「神崎探偵事務所。ずっと、その看板を見てたんじゃないですか?」
「!?」
ってことは、この人が探偵なのか? こんなに若いのに……。それとも、手伝いか何かで雇われているのだろうか? どちらにせよ話を聞いてみる価値はありそうだ。
「もし何かご用なら、事務所で話を伺いますよ」
「えっと……」
どうしようか。そう思って八崎と小宮山に目線を送ると、八崎が訝しげな目で青年を睨みながら口を開いた。
「仕事を依頼するとなると高いのか?」
「……話を伺うだけなら、依頼料はかかりませんから、ご安心ください。お急ぎでしたら引き留めはしませんが、生憎この後は用事がありまして」
「ふーん。だ、そうだけど、どうする成瀬?」
今日話をするなら、今しかないということか。よし、芦堂に向かうのは話を聞いてもらってからにしよう。それに、話をするだけならそこまで時間はかからないだろう。
「……案内してもらえますか?」
「ええ、もちろん」
俺がそう言うと、青年は笑顔で案内を始めてくれた。俺たちは青年の後に続いて雑居ビルの中へと足を踏み入れる。エレベーターはなく、階段を上がっていった。ビルの1Fには喫茶店、2階はバー、4Fは雀荘らしいそのビルはこの時間は人の気配がなかった。夜になると、また違う雰囲気になるのだろう。
「どうぞ」
『神崎探偵事務所』
と書かれた扉が見え、中に入るよう促される。ここで何か情報を得られればいいんだが……。俺は不安と期待を抱きながら、その扉を開けた。
「そちらにお掛けください」
「は、はい」
中に入ると、いかにも探偵事務所という感じの内装だった。扉を開けてすぐのところに2人掛けのソファーが向かい合わせに置いてあり、その間には透明な天板のテーブルがあった。その奥には入り口を向く形でデスクが置いてあった。壁際には棚が置いてあり、その中にはファイルが大量に納められている。
全体的に綺麗に纏まっており、清潔感がある事務所だった。部屋の左側には扉があり、もうひとつ部屋があるようだった。
「今、お茶をお持ちしますね」
「ありがとうございます」
どうぞお構い無く、というのが正解だったかと今さら気付いた。青年はもうひとつの扉を開け、向こうと部屋へと姿を消した。向こうは給湯室みたいになっているのだろうか?
「…………」
言われた通り、ソファーに腰を降ろしてみる。質のいいものなのだろう。座り心地が抜群にいい。これは寝れるタイプのソファーだ……。
「探偵事務所って、中はこんなんなってんだな。俺入るの初めてだわ」
「ワイもや! いやあ、なんかこういうのも楽しいな!」
八崎と小宮山も楽しそうに談笑している。そうだよな。ここの探偵がアイツを見つけ出してくれたら、八崎たちを危険な目に遭わせずに済む。だったら、多少依頼金がかかったとしてもここで依頼するべきかもしれない。
そんなことを考えていると、再びもうひとつの扉が開いた。御盆に湯呑みを3つ乗せて、青年が現れた。どうぞ、と俺たちの前に1つずつ置いてくれた。
「さて、申し遅れました。私、こういう者です」
「ああ、どうも」
青年はそう言って、名刺を一枚差し出してきた。受け取って確認すると、神崎探偵事務所 神崎 渚とあった。
……待てよ。てことは、この人がこの探偵事務所の探偵なのか?
「お急ぎのようですから、早速要件を伺いましょうか」
「え? あ、はい。実は……」
変に緊張してしまってうまく話せなかったが、今までの話をかいつまんで説明した。神崎という探偵は要所要所で頷きながら、静かに話を聞いていた。俺がひとしきり話し終えると、神崎……さん?が口を開いた。
「事情は分かりました。あなたの叔母を襲ったと思われる犯人を捜しているのですね?」
「はい。一刻も早く」
「……ブラッド・レーベルという組織については、私共もこれといった情報を所有しておりません。なので、もし調査を依頼されるということであれば、取り急ぎ結果を報告できるか、保証はできません。それでもよろしければ、お受けいたしますが、いかがいたしますか?」
……やはり、小宮山も言っていたように、奴らに関する情報を集めるのは一筋縄ではいかないようだ。探偵ならもしかしてと思ったけど、考えが甘かったらしい。
「えーと、依頼料っていくらぐらいなんですかね?」
「ご安心ください。今回は初めてお越しいただいたお客様ですし、何より事情が事情です。確実にお客様のご依頼内容を達成できるとも限りませんので、依頼料はいただきません」
「え、タダですか!?」
「ははは。そうです、タダですよ」
予想外の答えが返ってきたので、つい席を立ちあがり大きい声を出してしまった。神崎さんは一瞬驚いたが、慌てることはなく微笑み返してくれた。俺はそっとソファーに座りなおした。
いやいや、これはありがたい。お金がかからないなら、頼まない手はない。捜査の手は一つでも多いほうがいい。結果が出るかはわからないけど、失うものもないのだから問題ない。
八崎の家を出て、芦堂高校へ向かう途中、俺の目に飛び込んできた看板。雑居ビルの3Fにあるらしいそれは、何故か強烈な存在感を放っていた。今まで、その看板の存在すら知らなかったというのに。
「探偵か……」
探偵に調査を依頼するっていうのも1つの方法かもしれない。ふとそう思った。探偵と言われれば、そういう人探しとか情報集めは得意そうだし、案外すぐに見つけてくれるかもしれない。
ただ、探偵に頼むとなると依頼料がかかるだろうなあ。俺は今バイトもしていないし、そんなにホイホイお金は使えない。2人に出してもらうのも気が引けるし、相場も分からないしな。どうしたものか……。
「……何か、お困りですか?」
「え?」
突然声をかけられた。声の主は、身長180㎝ぐらいのスラッとした青年だった。全体的に黒でまとめられたコーディネートが、よりスタイルの良さを引き立てている。顔も整っており、丸い眼鏡をかけていた。それに、とても優しい雰囲気の青年だった。
「ずっとそのビルを眺めていらっしゃるから、何かあったのかと思って」
「あ、いや、大丈夫です。ちょっと考え事をしてて……」
「もしかして、うちの事務所に何か用事ですか?」
「事務所?」
「神崎探偵事務所。ずっと、その看板を見てたんじゃないですか?」
「!?」
ってことは、この人が探偵なのか? こんなに若いのに……。それとも、手伝いか何かで雇われているのだろうか? どちらにせよ話を聞いてみる価値はありそうだ。
「もし何かご用なら、事務所で話を伺いますよ」
「えっと……」
どうしようか。そう思って八崎と小宮山に目線を送ると、八崎が訝しげな目で青年を睨みながら口を開いた。
「仕事を依頼するとなると高いのか?」
「……話を伺うだけなら、依頼料はかかりませんから、ご安心ください。お急ぎでしたら引き留めはしませんが、生憎この後は用事がありまして」
「ふーん。だ、そうだけど、どうする成瀬?」
今日話をするなら、今しかないということか。よし、芦堂に向かうのは話を聞いてもらってからにしよう。それに、話をするだけならそこまで時間はかからないだろう。
「……案内してもらえますか?」
「ええ、もちろん」
俺がそう言うと、青年は笑顔で案内を始めてくれた。俺たちは青年の後に続いて雑居ビルの中へと足を踏み入れる。エレベーターはなく、階段を上がっていった。ビルの1Fには喫茶店、2階はバー、4Fは雀荘らしいそのビルはこの時間は人の気配がなかった。夜になると、また違う雰囲気になるのだろう。
「どうぞ」
『神崎探偵事務所』
と書かれた扉が見え、中に入るよう促される。ここで何か情報を得られればいいんだが……。俺は不安と期待を抱きながら、その扉を開けた。
「そちらにお掛けください」
「は、はい」
中に入ると、いかにも探偵事務所という感じの内装だった。扉を開けてすぐのところに2人掛けのソファーが向かい合わせに置いてあり、その間には透明な天板のテーブルがあった。その奥には入り口を向く形でデスクが置いてあった。壁際には棚が置いてあり、その中にはファイルが大量に納められている。
全体的に綺麗に纏まっており、清潔感がある事務所だった。部屋の左側には扉があり、もうひとつ部屋があるようだった。
「今、お茶をお持ちしますね」
「ありがとうございます」
どうぞお構い無く、というのが正解だったかと今さら気付いた。青年はもうひとつの扉を開け、向こうと部屋へと姿を消した。向こうは給湯室みたいになっているのだろうか?
「…………」
言われた通り、ソファーに腰を降ろしてみる。質のいいものなのだろう。座り心地が抜群にいい。これは寝れるタイプのソファーだ……。
「探偵事務所って、中はこんなんなってんだな。俺入るの初めてだわ」
「ワイもや! いやあ、なんかこういうのも楽しいな!」
八崎と小宮山も楽しそうに談笑している。そうだよな。ここの探偵がアイツを見つけ出してくれたら、八崎たちを危険な目に遭わせずに済む。だったら、多少依頼金がかかったとしてもここで依頼するべきかもしれない。
そんなことを考えていると、再びもうひとつの扉が開いた。御盆に湯呑みを3つ乗せて、青年が現れた。どうぞ、と俺たちの前に1つずつ置いてくれた。
「さて、申し遅れました。私、こういう者です」
「ああ、どうも」
青年はそう言って、名刺を一枚差し出してきた。受け取って確認すると、神崎探偵事務所 神崎 渚とあった。
……待てよ。てことは、この人がこの探偵事務所の探偵なのか?
「お急ぎのようですから、早速要件を伺いましょうか」
「え? あ、はい。実は……」
変に緊張してしまってうまく話せなかったが、今までの話をかいつまんで説明した。神崎という探偵は要所要所で頷きながら、静かに話を聞いていた。俺がひとしきり話し終えると、神崎……さん?が口を開いた。
「事情は分かりました。あなたの叔母を襲ったと思われる犯人を捜しているのですね?」
「はい。一刻も早く」
「……ブラッド・レーベルという組織については、私共もこれといった情報を所有しておりません。なので、もし調査を依頼されるということであれば、取り急ぎ結果を報告できるか、保証はできません。それでもよろしければ、お受けいたしますが、いかがいたしますか?」
……やはり、小宮山も言っていたように、奴らに関する情報を集めるのは一筋縄ではいかないようだ。探偵ならもしかしてと思ったけど、考えが甘かったらしい。
「えーと、依頼料っていくらぐらいなんですかね?」
「ご安心ください。今回は初めてお越しいただいたお客様ですし、何より事情が事情です。確実にお客様のご依頼内容を達成できるとも限りませんので、依頼料はいただきません」
「え、タダですか!?」
「ははは。そうです、タダですよ」
予想外の答えが返ってきたので、つい席を立ちあがり大きい声を出してしまった。神崎さんは一瞬驚いたが、慌てることはなく微笑み返してくれた。俺はそっとソファーに座りなおした。
いやいや、これはありがたい。お金がかからないなら、頼まない手はない。捜査の手は一つでも多いほうがいい。結果が出るかはわからないけど、失うものもないのだから問題ない。
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