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第2話 荘周之夢-1
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「おはようございま……ってなんだ。お前かよ」
「おー高坂、おはよ」
厨房に足を踏み入れると、見知った男がいた。同期の三嶋 遥。25歳男性独身。こいつを一言で表すなら、塩顔イケメン
というやつだ。背も高くスラッとしているので、正直腹が立つ。人間、一ヶ所くらいコンプレックスを抱えてるもんだろ。
「どした。何か浮かない顔だな?」
三嶋が聞いてくる。
「今日はちょっと、色々あってな」
「へー。あっ、わかった。また店長からの結婚しろ攻撃だろ?」
「一個正解」
「まだあんの?」
「神田のせいで21時まで勤務になった」
「あーね。俺と一緒だ」
「それから……変な夢見た」
「変な夢? エロいの?」
「ちげえよ馬鹿」
三嶋にはよく、こうやって愚痴を聞いてもらっている。吐き出すことで少しは楽になることもある。まあ、三嶋からの愚痴は一切受け付けないが。
どの職場でも、同期というのはありがたい存在だと思う。仲良くしておいて損はない。
「さて、そろそろ仕事始めるか」
あまり無駄口を叩いていると、11時からのランチタイムに間に合わない。うちの店は、11~14時の間で、ランチタイムをやっている。そこから休憩を挟み、18時~21時までの営業スタイル。金土日は23時までやっている。
自分の口から言うのは何だが、うちはそこそこ人気がある。グルメ雑誌に載ったこともあるし、お客さんの入りは多い。昼のランチタイムに向け、今のうちに仕込みを終わらせておかないと。
「そういや、今日は夜に団体様の予約入ってんぞ」
ランチタイムの仕込みをしながら、三嶋が言ってきた。うちの店は、カウンター席が10席と4人がけのテーブルが4つ、6人ほどが座れる座敷が3つある。
月曜日の夜から団体の客なんて珍しいが、ある程度の人数までなら対応できる。
「へえ。何人?」
「10人」
「けっこう多いな」
「ほんとそれだよな。あーあ。今日はさっさと仕事切り上げて、遊びに行こうとおもってたけど、定時には上がれないかもな」
はあ、とため息をこぼす三嶋。俺は、ふっと浮かんだ疑問を投げ掛けた。
「三嶋、お前明日休み?」
「いや、今日の高坂と同じD勤」
「……お前、馬鹿だろ」
「はっはっはっ! よく言われる!」
こいつは、他のやつとは持っているエネルギーの量が違う。持ち前の明るさと、他人を思いやる優しい性格から、友達も多いのだそう。
次の日が仕事でも、前日の夜から遊びに出掛けるというのだから、本当に同じ人間とは思えない。
「お前も来るか?」
「まさか」
「女の子も来るし、お前の好みの子も見つかるかもよ?」
「俺はそういうのはいいよ」
「高坂、そんなことじゃ結婚できないぜ?」
鶏モモ肉に串を刺しながら、器用に肘で俺の脇腹をつついてくる三嶋。もう一度この男の説明をすると、25歳独身の男性だ。
「三嶋、お前まで店長と同じこと言うなよ。それに、お前だって独身じゃん」
「俺は高坂と違って、結婚できないじゃなくてしないの。俺はやっぱり、人生気楽に生きたいし」
「はいはい。結婚できないやつは大抵そう言うんだよ」
「いいよいいよ。自由に生きれればそれで。結婚とかめんどくさそうじゃん?」
「まあそうだな」
三嶋ほどのイケメンなら、結婚相手はいくらでもいそうなもんだが。生憎この男は、結婚には興味がないらしい。
「結婚なんかしなくてもさ、俺には彼女も友達もいるし、充分楽しいよ」
「殴っていいか?」
「なんっ!?」
三嶋が答える前に、みぞおちにこの野郎パンチをお見舞いしてやった。三嶋の愚痴も聞きたくないが、自慢話はもっと聞きたくないのだ。
「さ、余計なこと話してないで、さっさと仕事するぞ」
「お前……! 絶対合コン誘ってやんねえからな!」
「むしろ嬉しいわ」
このまま三嶋と会話を続けていては、ランチタイムに間に合わない。話もそこそこに、俺たちは仕込みに集中することにした。
「おー高坂、おはよ」
厨房に足を踏み入れると、見知った男がいた。同期の三嶋 遥。25歳男性独身。こいつを一言で表すなら、塩顔イケメン
というやつだ。背も高くスラッとしているので、正直腹が立つ。人間、一ヶ所くらいコンプレックスを抱えてるもんだろ。
「どした。何か浮かない顔だな?」
三嶋が聞いてくる。
「今日はちょっと、色々あってな」
「へー。あっ、わかった。また店長からの結婚しろ攻撃だろ?」
「一個正解」
「まだあんの?」
「神田のせいで21時まで勤務になった」
「あーね。俺と一緒だ」
「それから……変な夢見た」
「変な夢? エロいの?」
「ちげえよ馬鹿」
三嶋にはよく、こうやって愚痴を聞いてもらっている。吐き出すことで少しは楽になることもある。まあ、三嶋からの愚痴は一切受け付けないが。
どの職場でも、同期というのはありがたい存在だと思う。仲良くしておいて損はない。
「さて、そろそろ仕事始めるか」
あまり無駄口を叩いていると、11時からのランチタイムに間に合わない。うちの店は、11~14時の間で、ランチタイムをやっている。そこから休憩を挟み、18時~21時までの営業スタイル。金土日は23時までやっている。
自分の口から言うのは何だが、うちはそこそこ人気がある。グルメ雑誌に載ったこともあるし、お客さんの入りは多い。昼のランチタイムに向け、今のうちに仕込みを終わらせておかないと。
「そういや、今日は夜に団体様の予約入ってんぞ」
ランチタイムの仕込みをしながら、三嶋が言ってきた。うちの店は、カウンター席が10席と4人がけのテーブルが4つ、6人ほどが座れる座敷が3つある。
月曜日の夜から団体の客なんて珍しいが、ある程度の人数までなら対応できる。
「へえ。何人?」
「10人」
「けっこう多いな」
「ほんとそれだよな。あーあ。今日はさっさと仕事切り上げて、遊びに行こうとおもってたけど、定時には上がれないかもな」
はあ、とため息をこぼす三嶋。俺は、ふっと浮かんだ疑問を投げ掛けた。
「三嶋、お前明日休み?」
「いや、今日の高坂と同じD勤」
「……お前、馬鹿だろ」
「はっはっはっ! よく言われる!」
こいつは、他のやつとは持っているエネルギーの量が違う。持ち前の明るさと、他人を思いやる優しい性格から、友達も多いのだそう。
次の日が仕事でも、前日の夜から遊びに出掛けるというのだから、本当に同じ人間とは思えない。
「お前も来るか?」
「まさか」
「女の子も来るし、お前の好みの子も見つかるかもよ?」
「俺はそういうのはいいよ」
「高坂、そんなことじゃ結婚できないぜ?」
鶏モモ肉に串を刺しながら、器用に肘で俺の脇腹をつついてくる三嶋。もう一度この男の説明をすると、25歳独身の男性だ。
「三嶋、お前まで店長と同じこと言うなよ。それに、お前だって独身じゃん」
「俺は高坂と違って、結婚できないじゃなくてしないの。俺はやっぱり、人生気楽に生きたいし」
「はいはい。結婚できないやつは大抵そう言うんだよ」
「いいよいいよ。自由に生きれればそれで。結婚とかめんどくさそうじゃん?」
「まあそうだな」
三嶋ほどのイケメンなら、結婚相手はいくらでもいそうなもんだが。生憎この男は、結婚には興味がないらしい。
「結婚なんかしなくてもさ、俺には彼女も友達もいるし、充分楽しいよ」
「殴っていいか?」
「なんっ!?」
三嶋が答える前に、みぞおちにこの野郎パンチをお見舞いしてやった。三嶋の愚痴も聞きたくないが、自慢話はもっと聞きたくないのだ。
「さ、余計なこと話してないで、さっさと仕事するぞ」
「お前……! 絶対合コン誘ってやんねえからな!」
「むしろ嬉しいわ」
このまま三嶋と会話を続けていては、ランチタイムに間に合わない。話もそこそこに、俺たちは仕込みに集中することにした。
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