200年水晶を守る聖職者と孤児院の子供達

橘一

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200年水晶を守る聖職者と孤児院の子供達

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この世の絶望をはらんだ水晶、災厄、怪物、世界を覆う闇が入っているという。
それを光の加護で封印している聖職者がいた。
朝、教会の呼び鈴がなり勢いよく入ってくる。

「先生、お早うございますー!」

「おはよう。はやいわねミント、後ろにはタリ、おはよう」

タリは何も言わずこくりとうなずく。
子供たちは孤児で両親はいない。
2人とも物心ついた時からここで暮らしている。
赤毛はミント。黒髪はタリである。

金髪の聖職者マイラは自分のことのように可愛がっていた。

「先生って、汚れた水晶を何百年も守っているんでしょ」

「200年近く守っているわね」

「それって魔法が使えるってことだよねぇ。僕達にもみせて」

「それはできないの、人前で発動することは禁止されてるのよ」

「ちぇっみたいって話してたんだよな。タリ」

「本当にそんな力あるのかな」

タリはニヤっと笑った。

「そんな面白いものじゃないわ」

マイラは遠い目をして言った。

廊下を歩きながら二人は話している。

「きっと、俺達が入ったことないあかずの部屋に水晶や宝が隠されているんだよ」

「やたら大切にしてるもんな」

タリの話を感心したように聞くミント。

「先生いつも、お金がなくて、大変そうじゃないか、だから俺達で売って、先生にその大金をプレゼントしてあげよう」

「ニジ屋のふわふわまんじゅうを腹いっぱい食べたいな、ちょっとぐらいいいよな」

「じゃあ盗みのプロに依頼して・・・・・・ごにょごにょ」

「・・・・・・おぉ。それならいけそうだな参謀殿」

タリは、そんな宝がないことを分かっていて嘘をついた。
子供の頃からの孤独の闇が、生まれてから両親を見たことがない愛情不足ゆえ、彼を蝕んでいた。
何も手に入らない平穏な毎日、そんな物はつまらない。
刺激を欲し、破壊を好む。
スリルをおくれ。
漆黒の濃霧を染めるようにタリは動いた。

「先生に手を出さないでくれよ」

「俺たちはプロだ。依頼外のことはしない」

「ただ盗めりゃいいのよ。ヘッ」

長髪の優男とでっぷり太った短髪の男がそれぞれ言った。酒場にいたこの二人組を呼んだ。

深夜寝静まったころ、開かずの間に四人が集まった。

「なんてことのないドアのようだが」

鍵を細長い金属でカチャッカチャッと器用に開ける優男。
ドアは開き、がらんどうな木製の部屋が露わになり、奥にはまだ別の部屋が続いているようだ。

「お前、先に入ってみてくれ」

「おおぅ」

短髪男が入ると、どこからか音が鳴る。

〈識別外ターゲット確認。すみやかに退出せよ。すみやかに退出せよ。〉

「おいなんだこりゃあ、おもちゃ屋敷じゃねえか。ゲヘヘェ」

「こんな作りは見たことがない。気をつけろ」

短髪男が笑い、優男が冷静な面持ちでいう。

「はやく入って来いよぉ、お前がおもちゃにびびってるの仲間に言ってやるわ!」

短髪は振り返りギャハギャハ笑っている。

一瞬の閃光が放たれ、笑い声と共に短髪の男が消失した。

みな一瞬の沈黙後。

「消えちゃったよ!」

「これが魔法というものか様子見して命拾いしたな」

ミントに続いて、優男がいう。

タリは何も言わず部屋に入っていく。

「あぶねーよ!」

優男は無言で食い入るようにタリの動向を見ている。

「もう大丈夫。僕達まで消すはずがないよ。あの先生がさ」

タリの後に二人が恐る恐る入ったが何も起こらなかった。

鍵を優男がなんなく開けて、次の部屋に入ると、真っ白な部屋の中央に台座があり、上に水晶が置かれていた。

「これって水晶なのか?触らない方が良さそうだ」

水晶をじろじろ見て回るミント。

「どこがお宝なのだ。こんなもの売っても大した金にはならない」

優男が水晶を鷲掴みにした時、電流が走り、あっという間に黒コゲになって骨が剝き出しになり倒れた。

「うぇ。初めて人の死体を見ちゃった。教会にこんな危ないものがあるなんて」

ミントが吐き気を催している。

「古い本で見たことがある。水晶の封印を破ると、闇の住人が出てくるはず。それを僕達が仲間にするよ」

「えぇっ。まんじゅうは?」

おそらく僕達ならこの水晶に触れられるんだけど、こいつでいくよ

透き通った様に光輝く聖なる短剣、ミントは聖女の部屋で見つけていた。

「聖なる加護よ、解き放て!」

水晶に剣を突き刺すと、ヒビが入り、緑色のもやがモクモクと漏れ出し、タリを覆っていく。

「グッッ」

苦しそうに呻きだしている。

「あなた達、大丈夫!?」

部屋に入ってきた聖職者がタリに近づき、広げた手から魔法を放っていく。タリを覆っているもやが聖職者に移り逆に手から顔へとあざのような青黒いものが浮かんでいく。

「ッッまだ!間に合うはずよ」

「先生が死んじゃうよ!」

「あなた達が生きてくれれば未来へ繋げられるっっ!」

タリは混濁した意識の中で、赤ん坊の自分が母親に抱き抱えられ、微笑まれ見守られている幻想を見た。
タリの目元からは一筋の涙が零れ落ち、闇のもやに溶けていく。

「あなたは死なせはしない、生きなさい!」

「・・・・・・・先生、あの、僕」

遮断されそうな意識の中でタリはなんとか言葉を発する

「お説教なら後でします、頑張りなさい」

タリはマイラの胸の中で魔法の光に包まれながら心地よさを感じ眠りについた。

マイラはタリの底知れない闇、深遠に気付いていたが、どうにもできなかった。
彼の闇の特殊さは自分の関知することではないと、自分自身に言い聞かせて見ぬふりをしていた。
そんな自分を恥じて、ありったけの光魔法を込めたのだった。
もう彼を孤独にはさせないと胸に誓っていた。

後日。

外を元気に走り回るタリの姿があった。
いつもなら読書をして過ごしているのだが、楽しそうにはしゃいでいる。

「すっかりよくなったわね」

マイラは家の窓からタリを眺めていた。自然と笑顔になる。

「あ、先生ー!僕、負けないよ!」

タリは胸のつっかえがとれたようなスッキリした気持ちになっていた

青い空に陽光が漫然と二人の子供を照らす。
大地にはミントとタリが手を振って飛び跳ねている。
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