妖賀

伊達マキ

文字の大きさ
上 下
1 / 4

しおりを挟む



始まりは,応仁の乱。室町時代に起こった戦。

その混沌とした10年戦争は、京の町を焼き,
関西地方は多大なる被害を受けた。






村は襲われ,女子供はなす術もなく殺されていく。
力がものを言う時代なのだ。



これにより幕府は力をさらに弱め、洪水、地震、疫病が不幸な事にたて重なり都は死体の匂いで立ちこめていた。



野犬だけでなく人が死体を喰らい、生きていく。
秩序も何もありやしない。


冷たい風が吹き荒れる。
砂が風と共に去り,雲は灰色。

ここはどこかの京の都。
少し前までは、商人が行き交う活気のある場所だった。


そんな中、一人の子供が荒廃した家宅の隅に座っている。




衣服はボロボロで顔は泥だらけで痩せこけている。
眼は、ただただ漆黒だった。

親はどうしたのかもよく覚えていない。





皆、みてみぬふりをする。
自分一人でも精一杯なのだ。

童はただ一人きりだった。




「一人か?童」
突如、頭上から声が聞こえた。
俯いていたので人がいることさえ知らなかった。

童は、声の人物を見た。

その人物は髪を無造作に縛り,目がくっきりとした、幼さがまだ抜けていない青年だった。
髪の毛が風の流れに沿って落ち着きがなく揺れている。

この時はまだ彼が命の恩人になるとは知り得なかった。


青年は、にっこりと笑い童の手を握り歩き始めた。

童は青年が正直言って気味悪かった。

上手く歩けず崩れ落ちた童を青年はおぶって歩く。


何を考えているか分からなかった。
だが,人生を悲観していた童は事の流れには逆らわなかった。

童の記憶は曖昧で、そこからはよく覚えていない。

だが,運が良かった。
青年はお人好しなのか自分を家に連れ込み,体を洗い,飯を食わせた。




おかげで青年の元に転がり込んで数日食べるものには困らず,寝床もある。

今まさに焼き魚にかぶりついているところだ。

「美味いか、この頬が可愛いなぁ」


青年の名前は銕三郎といった。
言葉は曖昧にしか分からなかったこの頃だが,「銕三郎」と連呼していたので名前はなんとなく分かった。


何が目的で自分を拾ったのかは分からない。

本当にただのお人好しなのだろうか?
銕三郎への嫌疑は強まるばかりだった。






童は仁と名付けられた。

名付けられたといっても、自分が仁だという事を自覚するのには時間がかかった。


まだ仁になりたての童と銕三郎の間には、壁がある。





銕三郎はふと,仁を見る。

魚についた塩がボロボロと下に落ちていく。



また魚に塩を塊のままかけてしまったことがいけなかったと銕三郎は気付いた。
せっかくの貴重な塩をまた無駄にしたと悔いる。

「仁、塩が落ちてしまっている。
拭ってやるからじっとしてろよ、塩が床に落ちる。
あと、結構貴重なんだから、塩」


銕三郎は、仁の足に大量に落ちた塩を拭い,今度は別の布で顔を拭ってやった。


仁は、目をぱちくりした。
結構強い力で拭われたから驚いたのだ。





銕三郎は、仁を家から連れ出し森の中を散歩する。

仁は歩くのが遅く,銕三郎は横目でチラチラ見ながら動きに合わせる。

木々の穏やかな音が耳をすませば聞こえ,今が混濁の世だと言うことを忘れさせてくれる。


「風が気持ちいいな,仁」


「…………」

「じきにきのこが美味い時期になるから食わせてやるよ」


何も返さない仁にひたすら銕三郎は話しかけた。

それでも、感情を表に出さない仁に銕三郎も困り果てていた。

そんな生活が8ヶ月ほど続いたとある朝の日,仁は家の庭で土いじりをしていた。

石をどけてダンゴムシを探す。
その時,一羽の鳩が屋根に止まったのを見た。

その鳩の足には,紙が付いており仁はなんだかそれが気になった。


感情を表に出すことはないが,別に感情がないわけではない。

好奇心は人並みにある。

まだその事を銕三郎は気がついていないだけだ。



仁は梯子によじ登り、屋根を歩き鳩に近づく。

鳩はこちらをじっと見つめて動かない。
仁は、鳩の足から紙を剥ぎ取り中身を見た。

しかし,何が書いてあるのか分からなくて小首をかしげる。

「仁っ、何でそんなとこに乗ってるんだ、
早く,おりるんだっ!

あっ!こら奥行くな」

銕三郎も屋根に上がって来た。




しかし,そこにいた鳩を一目見た銕三郎は、目の色を変え、

銕三郎は素早く小刀を抜き,鳩を突き刺した。

鳩は逃げることもせずにじっとしていた。


刃によって肉が裂け、首がもげる。
しかし,赤い鮮血はでていない。

摩訶不思議なことに、鳩の体は一枚の紙へと姿を変え、どこかへひらひらと飛んでいった。



安堵した銕三郎だったが,仁の事を思い出し、焦った。


「仁,下に降りようか
落ちたらひとたまりもないぞ」

銕三郎は、 笑いながら仁の手を引く。

仁は、なされるがままに,動く。
だが,その手は少し震えていた。|
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

浅井長政は織田信長に忠誠を誓う

ピコサイクス
歴史・時代
1570年5月24日、織田信長は朝倉義景を攻めるため越後に侵攻した。その時浅井長政は婚姻関係の織田家か古くから関係ある朝倉家どちらの味方をするか迷っていた。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

本能のままに

揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください! ※更新は不定期になると思います。

『帝国の破壊』−枢軸国の戦勝した世界−

皇徳❀twitter
歴史・時代
この世界の欧州は、支配者大ゲルマン帝国[戦勝国ナチスドイツ]が支配しており欧州は闇と包まれていた。 二人の特殊工作員[スパイ]は大ゲルマン帝国総統アドルフ・ヒトラーの暗殺を実行する。

新選組誕生秘録ー愛しきはお勢ー

工藤かずや
歴史・時代
十八才にして四十人以上を斬った豪志錬太郎は、 土方歳三の生き方に心酔して新選組へ入る。 そこで賄い方のお勢の警護を土方に命じられるが、 彼の非凡な運と身に着けた那智真伝流の真剣術で彼女を護りきる。 お勢は組の最高機密を、粛清された初代局長芹沢 鴨から託されていた。 それを日本の為にとを継承したのは、局長近藤ではなく副長の土方歳三であった。 機密を手に入れようと長州、薩摩、会津、幕府、朝廷、明治新政府、 さらには当事者の新選組までもが、お勢を手に入れようと襲って来る。 機密は新選組のみならず、日本全体に関わるものだったのだ。 豪士は殺到するかつての仲間新選組隊士からお勢を護るべく、血みどろの死闘を展開する。

魂魄シリーズ

常葉寿
歴史・時代
桃太郎(キザシ)、金太郎(トキ)、浦島太郎(ハル)が活躍する和風ファンタジー歴史群像! 駄文ですがお楽しみくださいませ。

永き夜の遠の睡りの皆目醒め

七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。 新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。 しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。 近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。 首はどこにあるのか。 そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。 ※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい

葉桜よ、もう一度 【完結】

五月雨輝
歴史・時代
【第9回歴史・時代小説大賞特別賞受賞作】北の小藩の青年藩士、黒須新九郎は、女中のりよに密かに心を惹かれながら、真面目に職務をこなす日々を送っていた。だが、ある日突然、新九郎は藩の産物を横領して抜け売りしたとの無実の嫌疑をかけられ、切腹寸前にまで追い込まれてしまう。新九郎は自らの嫌疑を晴らすべく奔走するが、それは藩を大きく揺るがす巨大な陰謀と哀しい恋の始まりであった。 謀略と裏切り、友情と恋情が交錯し、武士の道と人の想いの狭間で新九郎は疾走する。

処理中です...