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第一章
29.
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「(やっぱり見つからない…)」
あれから街に到着するまでの間、気恥ずかしさを耐え続けた。
でもアレス様はそれ以上何も言うことなく、他の小説に興味をもってくれたみたいで色々な話を振ってくれた。
私も勉強があるし、夢中になって夜更かししてしまうから数多くは読めていないけど、その中でもオススメの本を話す。
本屋近くに馬車を停めてもらい、犬の躾に必要な教育本を一緒に探す。アレス様は「俺に聞けばいい」って言ったけど勉強はしておきたい。私が飼い主だもんね!
その途中、私が探しているこの世界の本がないか探してみたけどやっぱり見つからない。
せめてどこで読んだかとか思い出せたらいいのだけど…。何度思い出そうとしても記憶にない。
「シル、欲しい本は見つかった?」
「あ、はいっ」
「魔法基礎知識?」
「私もアレス様の魔力のおかげで様々な魔法を使えるようになりましたし、何より何事も基礎が大事ですからもっと勉強がしたいなと」
「あー…そう言えば俺が持って来る本は全部中級者向けだったっけ?」
「私の知識が及ばないだけです」
「申し訳ない」
お兄様達も一緒に受けている授業だから仕方ないのに、そんなに落ち込まなくても…。
幻覚で垂れている犬の耳が見えるほど解りやすく落ち込み、もう一度謝ってから持っていた本を取られた。
「お詫びにプレゼントしよう」
「大丈夫です。私が勉強したいだけですので気にしないで下さい」
「授業に必要なのに準備しなかった俺が悪いから買わせてくれ」
「うーん…」
「そもそも今日はお金を持ち歩いていないだろう?」
「…っあ!」
忘れていました。突発で街に来たから何も用意していない…!
アティルナ家の名前を出せば購入できるけど、きちんと自分のお小遣いで買いたかった。
「マルスのものも俺が払うから安心してくれ。無理に押し付けているわけだし」
「無理だなんてそんな! 私はマルスと暮らせて嬉しいので気にしないで下さい」
「でも今日はそのお礼に色々買わせてほしい」
体のいい言葉だけど、今まで一度も私にお金を使わせてくれない。
お母様から頂いたお小遣いでドレスを購入しようとしても、アレス様が贈ってくれるし、一緒に宝石も頂くことが多い。
だから今日こそは自分で!と思っていたけど、今日も無理そうだ。
あまり断り続けるのも失礼ですし、このままだと何も買えないままマルスを迎えてしまうので甘えることにした。
「他に欲しい本は?」
「…。大丈夫です」
「ふーん? その本は?」
「なんでもないですっ」
読みたかった小説の続編が今日発売なんて聞いてない!
無意識に目を向けていたのをアレス様にすぐバレてしまい、その本をジッと見ながら聞いてきたので全力でお断りした。
また笑われたし、今さっきのことも思い出してしまい背中を押して一刻もその場から離れる。
私の力では押すことなんてできないけど、アレス様は付き合って離れてくれた。
「今度の授業は初歩的な魔法について説明しよう」
「それまでにこの本を読んで勉強しておきます」
「毎日予習も復習もして偉いな」
「大事なことですか……ら? あれ、言いましたっけ?」
「ああ。さ、購入したし馬車に戻ろう」
言った覚えはないけど、前に話したのかな?色々なことを話してるから忘れてしまった。
「帝都もどんどん変わっていくな」
「戦争が終わってから平和になりましたしね。これもアレス様が守って下さったおかげです」
「結果的にな」
「え?」
「シルが暮らす世界を守れてよかった」
そこで視線を外に移した。
アレス様はあまり私から視線を外さない。最初はずっと見られて恥ずかしかったけど、今は慣れた。
でもこのタイミングで視線を外され、そんなことを言われると少し焦ってしまう。
彼は戦場に出たことを褒められたくないのだろうか。
そうか…。一般的には戦場に出るなんて恐ろしいものだし、人を殺して褒められるなんていい気分ではない。
戦争に参加したお父様も公(おおやけ)には称えられるけど、怖がられることも多い。
「あの…」
「ああ、別に凹んでいるわけじゃないから気にしないでくれ。褒められ慣れていないだけだ」
「った、例え酷いことを言われても我が国にとっては英雄です、それは変わりません」
「何を考えているか解らないけど、泣きそうな顔をしないでくれ」
何でこんなにも私に気を使ってくれるのだろうか。
「東部戦争は終わりました…。皇帝陛下がいる限り新しく戦争を行うこともないとお父様が言っていました」
「そうだな」
「アレス様には私がいるからこれ以上苦しむことはありません」
「ああ」
「私は…ただアレス様を痛みや苦しみから解放することしかできません」
「それが欲しかった」
「貴方が望むまでいつでも貴方を支えます」
「じゃあ死ぬまでだな」
痛みを取り除く為の道具としてしか見られていないと思っていたけど、それ以上に出会ってから今日まで私のことを本当に大事に想ってくれている。
私にはまだ「愛」というものが解らないけど、アレス様を助けたいと思うこの気持ちは「愛」に入るのだろうか。
「未熟ですがアレス様を幸せにすると誓います」
「俺もだ」
あれから街に到着するまでの間、気恥ずかしさを耐え続けた。
でもアレス様はそれ以上何も言うことなく、他の小説に興味をもってくれたみたいで色々な話を振ってくれた。
私も勉強があるし、夢中になって夜更かししてしまうから数多くは読めていないけど、その中でもオススメの本を話す。
本屋近くに馬車を停めてもらい、犬の躾に必要な教育本を一緒に探す。アレス様は「俺に聞けばいい」って言ったけど勉強はしておきたい。私が飼い主だもんね!
その途中、私が探しているこの世界の本がないか探してみたけどやっぱり見つからない。
せめてどこで読んだかとか思い出せたらいいのだけど…。何度思い出そうとしても記憶にない。
「シル、欲しい本は見つかった?」
「あ、はいっ」
「魔法基礎知識?」
「私もアレス様の魔力のおかげで様々な魔法を使えるようになりましたし、何より何事も基礎が大事ですからもっと勉強がしたいなと」
「あー…そう言えば俺が持って来る本は全部中級者向けだったっけ?」
「私の知識が及ばないだけです」
「申し訳ない」
お兄様達も一緒に受けている授業だから仕方ないのに、そんなに落ち込まなくても…。
幻覚で垂れている犬の耳が見えるほど解りやすく落ち込み、もう一度謝ってから持っていた本を取られた。
「お詫びにプレゼントしよう」
「大丈夫です。私が勉強したいだけですので気にしないで下さい」
「授業に必要なのに準備しなかった俺が悪いから買わせてくれ」
「うーん…」
「そもそも今日はお金を持ち歩いていないだろう?」
「…っあ!」
忘れていました。突発で街に来たから何も用意していない…!
アティルナ家の名前を出せば購入できるけど、きちんと自分のお小遣いで買いたかった。
「マルスのものも俺が払うから安心してくれ。無理に押し付けているわけだし」
「無理だなんてそんな! 私はマルスと暮らせて嬉しいので気にしないで下さい」
「でも今日はそのお礼に色々買わせてほしい」
体のいい言葉だけど、今まで一度も私にお金を使わせてくれない。
お母様から頂いたお小遣いでドレスを購入しようとしても、アレス様が贈ってくれるし、一緒に宝石も頂くことが多い。
だから今日こそは自分で!と思っていたけど、今日も無理そうだ。
あまり断り続けるのも失礼ですし、このままだと何も買えないままマルスを迎えてしまうので甘えることにした。
「他に欲しい本は?」
「…。大丈夫です」
「ふーん? その本は?」
「なんでもないですっ」
読みたかった小説の続編が今日発売なんて聞いてない!
無意識に目を向けていたのをアレス様にすぐバレてしまい、その本をジッと見ながら聞いてきたので全力でお断りした。
また笑われたし、今さっきのことも思い出してしまい背中を押して一刻もその場から離れる。
私の力では押すことなんてできないけど、アレス様は付き合って離れてくれた。
「今度の授業は初歩的な魔法について説明しよう」
「それまでにこの本を読んで勉強しておきます」
「毎日予習も復習もして偉いな」
「大事なことですか……ら? あれ、言いましたっけ?」
「ああ。さ、購入したし馬車に戻ろう」
言った覚えはないけど、前に話したのかな?色々なことを話してるから忘れてしまった。
「帝都もどんどん変わっていくな」
「戦争が終わってから平和になりましたしね。これもアレス様が守って下さったおかげです」
「結果的にな」
「え?」
「シルが暮らす世界を守れてよかった」
そこで視線を外に移した。
アレス様はあまり私から視線を外さない。最初はずっと見られて恥ずかしかったけど、今は慣れた。
でもこのタイミングで視線を外され、そんなことを言われると少し焦ってしまう。
彼は戦場に出たことを褒められたくないのだろうか。
そうか…。一般的には戦場に出るなんて恐ろしいものだし、人を殺して褒められるなんていい気分ではない。
戦争に参加したお父様も公(おおやけ)には称えられるけど、怖がられることも多い。
「あの…」
「ああ、別に凹んでいるわけじゃないから気にしないでくれ。褒められ慣れていないだけだ」
「った、例え酷いことを言われても我が国にとっては英雄です、それは変わりません」
「何を考えているか解らないけど、泣きそうな顔をしないでくれ」
何でこんなにも私に気を使ってくれるのだろうか。
「東部戦争は終わりました…。皇帝陛下がいる限り新しく戦争を行うこともないとお父様が言っていました」
「そうだな」
「アレス様には私がいるからこれ以上苦しむことはありません」
「ああ」
「私は…ただアレス様を痛みや苦しみから解放することしかできません」
「それが欲しかった」
「貴方が望むまでいつでも貴方を支えます」
「じゃあ死ぬまでだな」
痛みを取り除く為の道具としてしか見られていないと思っていたけど、それ以上に出会ってから今日まで私のことを本当に大事に想ってくれている。
私にはまだ「愛」というものが解らないけど、アレス様を助けたいと思うこの気持ちは「愛」に入るのだろうか。
「未熟ですがアレス様を幸せにすると誓います」
「俺もだ」
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