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第一章

19.

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「あの、ありがとうございます」
「ルフレに怪我がなくてよかった」
「ぶつかったぐらいじゃ怪我はしませ、しないよ」
「ああ、悪い間違えた。俺以外の男がルフレに触れてほしくないんだ」
「……ううぅ…。そういう言い方はちょっと困る…」

アレス様はそんなこと言って恥ずかしくないんだろうか。
この態勢のまま見上げるのも居心地悪くて視線を地面に落とすと、黒いリングが落ちていた。
黒い指輪なんて見たことない…。指輪と呼ぶにはシンプル…というかただの輪っかだけど。

「これは…?」
「ああ、魔導士の指輪だな」
「魔導士の指輪?」
「魔導士はこの指輪がないと魔法を使ってはいけないんだ」
「えっ! ではあの人に早く渡してあげないと!」
「ルフレが気にすることじゃねぇだろ。…じゃない、ごめん。探して渡してあげよう」

一瞬、今まで以上に砕けた口調で少し驚いた。
でも今は気にしている間じゃない。早く届けてあげないと!

「でも見つかるかな…」
「俺に任せてくれ」

そう言うと指輪を私から取り数秒目を瞑った。

「あっちだ」
「解るの?」
「解る。ほら、はぐれないように手」
「あ、うっ、はい。…ところで魔導士は指輪がないと魔法が使えないなんて初めて知りました」
「前皇帝時代に色々あってな。魔導士からは不評だが色々と便利なんだよ」
「持っていなかったらどうなるんですか?」
「勿論捕まる」
「えッ!?」
「魔力量によって罰則が変わっているが、この指輪なら禁固5年ぐらいか?」

我が家は魔法とは縁がないとは言え知らなかった…。
まぁ最近の話みたいだし知らないのも当たり前…だと思いたい。今度セティお兄様にでも聞いてみよう。

「ああ、見つけた。おいあんた」
「(―――あれ…? そう言えば私魔法使ってる…)」

「魔力吸収」も一応魔法だと言われた。
魔力を吸収したあと、アレス様に教えてもらいながらその魔力を使って訓練したこともある…。
ど、どうしよう…ッ!訓練場でしか使ったことないから大丈夫かな…!あ、違う…アレス様の邸宅でも使ってる!
ダメ、捕まっちゃう!罰金だったらまだ……いやッ、罰金だろうと罪は罪!知らなかったとは言え許されない!どうしよう、どうしよう…!

「いやぁ助かったよ兄ちゃん、ありがとな! これがなきゃ縛り首だ」
「(しばっ…!?)」
「本当にな。俺がいい人間でよかったよ」
「全くだ! お礼と言っちゃなんだが、北の大通りに赤帽子亭で食事してくれ。俺の名前を出しゃタダ飯になっから」
「それはありがたい。しっかり腹を満たせてもらう」
「ああ、構わねぇよ! 本当にありがとよ!」

折角アレス様に殺される展開は回避できそうなのに、まさかここにきて殺される!?
でも皇帝陛下の前でも使ったし…。いやあれは確認だったから言い訳にならない。

「やったな、昼飯代が浮いた―――ルフレ?」
「もっ……申し訳ありませんアレス様っ…!」
「…こっちへ」

罪を犯したことで身体中が震え、言い訳を一生懸命考えている間、目に涙が溜まってくる。
アレス様に迷惑をかけてしまうと焦り、謝罪をすると強引に手を引かれ、人通りがない路地裏へと連れて行かれる。

「シル、何で震えているんだ?」
「つ、つ……罪をっ…!」
「罪?」
「私は……私っ…すみません…っ。私は罪を犯しました…!」

ポロポロと流れる涙で視界が歪む。
他になんて謝罪をしたらいいのだろうか。私だけが知らなかったとしても、家族にも婚約者であるアレス様に迷惑を…!

「―――そう…で、目撃者は?」
「……………え?」
「シルが何の罪を犯したか解らないが、目撃者はいるのか?」
「もくげきしゃ…?」

私の両手を包んでいつものように笑顔を浮かべる。
でもどこか冷たい感じ…殺気を感じて涙が止まった。

「大丈夫、俺が全部なんとかするから。だから泣かないでくれ」
「あの…私は……。魔法…魔法を使っているのに指輪を持っていません…」
「魔導士の指輪のこと?」
「知らなかったとは言え…いいえ、そんなの言い訳です! 指輪を「ああ、それなら大丈夫だよ」―――え?」
「陛下がシルの力を見てから既に魔導士として登録してるし、指輪も発行しているはず。両親から貰ってない?」
「貰ってない、…と思います…。見た覚えがありません」
「無くしたらいけないから保管してるのかな? どちらにしてもシルは特別だからそんなの気にしなくていい」

漂っていた殺気は消え失せ、いつものアレス様に戻っている。
嘘はついているようには見えないし、嘘をつくメリットは……ない…?
でもよかった…。

「大丈夫。何があっても俺が守るって言っただろ。安心して何でも好きなことしてくれ」
「はぁ…。お騒がせしました…」
「初めてシルの泣いている姿見たけど、それすらも可愛かったから全然」
「そ、そういうことは…あまり言わないで頂けると助かります…」
「あー、でも他の人間の前では泣かないでくれ。絶対」

そう言ってまだ残っていた涙を指で拭ってくれる。

「涙も止まったし戻ろうか。これからは魔導士達によるパレードなんだろ」
「う、うん…。スレアにとって楽しくないかもしれないけど、凄くキレイなんだよ」
「ルフレが楽しそうなら何でもいいよ」
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