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第一章
09.
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「シルフレイヤ」
「はい、お父様」
「婚約破棄しよう」
テュールお兄様と一緒に帰宅し、私を心配していたお父様とお母様に昨日起きたことを説明した。
途中テュールお兄様がチクチクと嫌味を言っていたけど、お兄様とは違いお父様とお母様は私の話を最後まで大人しく聞いてくれた。
途中、朝の鍛錬を終えたフォルセティお兄様もやってきて事情を把握。途中参加にも関わらずなんとなく理解してくれたようだった。
全部説明が終わり、喋り続けて乾いた喉を紅茶で潤すと、いつも以上に冷静な顔をした…でも怒っているお父様がそう言い放つ。
そうは言っても無理な話。お父様も解っているけど言わずにはいられなかったようです。
だって本当に婚約破棄ができるなら、この4年間のうちにできていた。
あの皇帝陛下が膝をついてまで謝罪しただけで「婚約破棄してもいい」なんて言葉は一言も発しなかった。
「血濡れの汚い手でシルに触れてプロポーズはありえねぇ! ずっと前からシルを舐めすぎだろ!」
「いくら大公殿下とは言え…さすがに無礼がすぎる」
「お父様、私は気にしていません。大公殿下も体調が悪いようで意識も朦朧としていたので「だとしてもようやく顔を合わせた相手に血塗れでプロポーズしてもいい理由にはならん」
どうやら一番怒っている理由は血塗れのプロポーズらしい。
私の言葉を遮って怒鳴るお父様に、その近くで激しく頷くお兄様達。
ずっと黙っているお母様に視線を向けると、静かにお茶を飲んでいた。
お母様は口数は少ないけど、その分色々なことを考えている。今回のこともどう思っているのか気になるけど今は喋りそうにない。
「婚約破棄をして他の貴族達の視線が気になるなら、自領にこもればいい」
「いえ、大丈夫です」
「領地にこもって結婚しなくてもいいんだよ?」
「セティお兄様…」
「あぁそれいいな! 大体シルに釣り合う男なんていねぇもん」
「それは言い過ぎですテュールお兄様…。あの、お母様…」
暴走気味になってきた三人を止めるようお母様を呼ぶと、三人も「賛同ですよね!」と言った顔でお母様を見る。
だけどお母様は私をジッと見て微笑む。
「貴方達がどう言おうと大公殿下はまだシルの婚約者です。シル、貴女はどうしたい?」
「私は……」
本のことだけを考えるなら、婚約破棄してもらって領地に引きこもりたい。
でもアティルナ家のことを考えると、主である皇帝陛下の弟と結婚できるという事実に名誉を感じてしまう。
何だろうこの落ち着かない感じ…。殺されると解っていながら拒否することができない感覚…。
私が婚約破棄すると本の通りにならないから、強制的にそう思わせているのかもしれない。じゃないと本の通りに進まず、主人公がハッピーエンドを迎えられないから…。
でも私は死にたくない…!殺されたくない!
解っているけど、【今】の私は【現実】を生きている。本の中の住人じゃない…!
貴族の娘。我が主の命令。そしてこの国のことを考えれば婚約破棄はできない。
「し、失礼します!」
お母様の言葉に答えが出ないでいると、切羽詰まった使用人の声が外から聞こえた。
一緒になって聞いていたアティルナ家の執事長が「騒がしい」と怒っていたけど、彼女は顔は真っ青になっていた。
彼女の様子にただ事じゃないとすぐに察しお父様とお兄様達も立ち上がって使用人の言葉を待った。
「こ、こっ…! 皇帝陛下が来るとのことですッ!」
ああ…頭が痛い…。
いつものように婚約者の家に顔を出しただけなのに、昨日から嵐の連続だ…。
初めて婚約者と出会えたまではよかった。そこから外泊、血塗れプロポーズ、家族会議、皇帝陛下ご訪問…。
使用人達もこんな突然皇帝陛下が訪問するなんて心臓に悪いよね。準備も何もできていない状態での訪問だもの。
「はぁ…」
「シルフレイヤ、陛下が来るまでに着替えてゆっくり休んでおいで」
「お母様…」
「多分また頭を抱えることになるからね」
ニコリと笑っていたけど私は笑えないです。
でもここはお言葉に甘えて少しでも休ませてもらおう。お風呂も入りたいし、服も着替えたい。
慌ただしく騒いでいるお父様達を置いて自室へと向かった。
「はい、お父様」
「婚約破棄しよう」
テュールお兄様と一緒に帰宅し、私を心配していたお父様とお母様に昨日起きたことを説明した。
途中テュールお兄様がチクチクと嫌味を言っていたけど、お兄様とは違いお父様とお母様は私の話を最後まで大人しく聞いてくれた。
途中、朝の鍛錬を終えたフォルセティお兄様もやってきて事情を把握。途中参加にも関わらずなんとなく理解してくれたようだった。
全部説明が終わり、喋り続けて乾いた喉を紅茶で潤すと、いつも以上に冷静な顔をした…でも怒っているお父様がそう言い放つ。
そうは言っても無理な話。お父様も解っているけど言わずにはいられなかったようです。
だって本当に婚約破棄ができるなら、この4年間のうちにできていた。
あの皇帝陛下が膝をついてまで謝罪しただけで「婚約破棄してもいい」なんて言葉は一言も発しなかった。
「血濡れの汚い手でシルに触れてプロポーズはありえねぇ! ずっと前からシルを舐めすぎだろ!」
「いくら大公殿下とは言え…さすがに無礼がすぎる」
「お父様、私は気にしていません。大公殿下も体調が悪いようで意識も朦朧としていたので「だとしてもようやく顔を合わせた相手に血塗れでプロポーズしてもいい理由にはならん」
どうやら一番怒っている理由は血塗れのプロポーズらしい。
私の言葉を遮って怒鳴るお父様に、その近くで激しく頷くお兄様達。
ずっと黙っているお母様に視線を向けると、静かにお茶を飲んでいた。
お母様は口数は少ないけど、その分色々なことを考えている。今回のこともどう思っているのか気になるけど今は喋りそうにない。
「婚約破棄をして他の貴族達の視線が気になるなら、自領にこもればいい」
「いえ、大丈夫です」
「領地にこもって結婚しなくてもいいんだよ?」
「セティお兄様…」
「あぁそれいいな! 大体シルに釣り合う男なんていねぇもん」
「それは言い過ぎですテュールお兄様…。あの、お母様…」
暴走気味になってきた三人を止めるようお母様を呼ぶと、三人も「賛同ですよね!」と言った顔でお母様を見る。
だけどお母様は私をジッと見て微笑む。
「貴方達がどう言おうと大公殿下はまだシルの婚約者です。シル、貴女はどうしたい?」
「私は……」
本のことだけを考えるなら、婚約破棄してもらって領地に引きこもりたい。
でもアティルナ家のことを考えると、主である皇帝陛下の弟と結婚できるという事実に名誉を感じてしまう。
何だろうこの落ち着かない感じ…。殺されると解っていながら拒否することができない感覚…。
私が婚約破棄すると本の通りにならないから、強制的にそう思わせているのかもしれない。じゃないと本の通りに進まず、主人公がハッピーエンドを迎えられないから…。
でも私は死にたくない…!殺されたくない!
解っているけど、【今】の私は【現実】を生きている。本の中の住人じゃない…!
貴族の娘。我が主の命令。そしてこの国のことを考えれば婚約破棄はできない。
「し、失礼します!」
お母様の言葉に答えが出ないでいると、切羽詰まった使用人の声が外から聞こえた。
一緒になって聞いていたアティルナ家の執事長が「騒がしい」と怒っていたけど、彼女は顔は真っ青になっていた。
彼女の様子にただ事じゃないとすぐに察しお父様とお兄様達も立ち上がって使用人の言葉を待った。
「こ、こっ…! 皇帝陛下が来るとのことですッ!」
ああ…頭が痛い…。
いつものように婚約者の家に顔を出しただけなのに、昨日から嵐の連続だ…。
初めて婚約者と出会えたまではよかった。そこから外泊、血塗れプロポーズ、家族会議、皇帝陛下ご訪問…。
使用人達もこんな突然皇帝陛下が訪問するなんて心臓に悪いよね。準備も何もできていない状態での訪問だもの。
「はぁ…」
「シルフレイヤ、陛下が来るまでに着替えてゆっくり休んでおいで」
「お母様…」
「多分また頭を抱えることになるからね」
ニコリと笑っていたけど私は笑えないです。
でもここはお言葉に甘えて少しでも休ませてもらおう。お風呂も入りたいし、服も着替えたい。
慌ただしく騒いでいるお父様達を置いて自室へと向かった。
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