5 / 20
第一章 ~ 祈りは魔法となりて
#05 ~ 腐れ縁のはじまり
しおりを挟む
「あんた、私とショーブしなさい!!」
祐真がフィノスを召喚して、少しした頃。幼稚園で、一人の少女が祐真に指を突きつけていた。
彼女の名前を、祐真は知っていた。
綾辻琴羽。同じ五歳。親の遺伝なのか、髪の色がやや茶色がかっていて、同年代の中でも背が高い少女だ。
恐らく外国人の血が入っているのだろう。顔立ちも少しだけ周りと違う。それゆえにか、彼女は孤立しがちでもあった。
なぜ名前を憶えていたかというと――千堂木葉、つまり祐真の母親と名前の響きが似ていたからだ。もちろん、ただの偶然だが。
そんな少女に唐突に喧嘩を売られた祐真は……そのまま真横を通り過ぎた。
「ちょっとォ!? なんでムシするのよ!」
「?」
祐真は思わず首を傾げる。こいつは何を言ってるんだろうと。
「とにかく! 私とショーブするの!」
「いや、俺がその勝負を受ける理由がまったく分からない」
「りゆう??」
少女が首を傾げる。言葉の意味が分からないのかもしれないと、祐真は「なんでお前と勝負しなきゃならないんだ」と言い直した。
すると彼女は、「だって……」と言ったきり俯いた。
いや何でやねん。
「にーさま……」
妹の雪が袖を引くのを見て、祐真の脳が警鐘を鳴らす。
――いかん。女の子を泣かせたら、天使の中で自分の株が大暴落……! ストップ安……ッ! そんなことを断じて認めるわけには……!
「うむ分かった。その勝負、受けて立とうじゃないか……!」
腕を組んで宣言した祐真に。
周囲から――特に幼稚園の先生方から「また何かはじまった」という奇異の視線が注がれた。
かくして、その日から祐真と少女の大乱闘の日々が始まる。
「はい俺の勝ち」
「ちょっと、アンタ早すぎじゃない……!?」
アスレチックの頂上で、少女を見下ろしながら告げる祐真に、少女は悔しそうに叫ぶ。
マイエンジェル雪は、アスレチックのてっぺんに立つ俺にぱちぱちと拍手を捧げていた。
「よっ、ほっ、そらっと」
「むきーーーっ! なんで当たらないのよーー!」
ドッヂボール。十人ぐらいで囲んでいるにも関わらず、祐真には一向に球が当たらない。
飛んできたボールをキャッチし、投げ返したそれが、琴羽の足に当たってそのまま転がった。
がくりと、琴羽は膝をつく。
――その後も、祐真は琴羽に完勝し続けた。
鬼ごっこやかけっこ、中には砂遊びに至るまで。
そもそもだが、祐真の肉体は魔力によって強化されている。これは魔法を使っているというより、鍛錬の結果、自然とそうなっているに過ぎない。
ただの幼稚園生が、祐真に勝てるわけがないのだ。
その一方で。
「がんばれー! コトハちゃーん!」
「いけー! 次はかてるぞー!」
「そこっ、あっ、おしいっ!」
二人の勝負は、なぜか幼稚園生の間で名物となっていった。
琴羽への応援がほとんどなのは、何度負けても這い上がり、そのたびに挑戦する彼女の姿が、幼い彼らの心に訴えかけるものがあったのだろう。
一方、彼らを見守る先生たちは……正直、困っていた。
子供たちに、危ないことはさせたくない。
かといって、二人は危ない真似をするわけでもなかった。というか、その点に関しては祐真がブレーキ役を担っていた。
千堂祐真は幼稚園の中で、色んな意味で有名な子供である。
彼は孤高だ。友達と呼べる相手はほとんどいない。子供たちが声をかけても、先生に心配されても、彼は子供たちの輪に入ろうとはしなかった。
しかし今や、彼は子供たちの中心にいる。――中心というか、まあラスボスみたいな立ち位置なのだが。
それでも輪の中にいることは確かで、ゆえに、先生たちもまた彼らの『勝負』を無理に止めるようなことはしなかった。
そして、月日は流れ。
琴羽はいつしか、人の輪に囲まれるようになっていた。友達と遊ぶことも増えて、彼女は孤高ではなくなった。
……祐真は最初から、彼女が自分に『勝負』を仕掛けた理由に気づいていた。
きっと、彼女はただ友達が欲しかったのだ。だが不器用すぎて、あんな方法でしか出来なかったに違いないと。
イイコトシタナー、と祐真がうんうん頷いていると。
「さっ、今日も勝負よ!」
「なんでだよ」
「あんたは、わたしのライバルなんだからっ!」
「はぁ?」
「はぁじゃないの! ライバルなの! ライバルって言いなさい!」
「馬鹿言え。誰がライバルだ。こっちはめいわ――」
妹が見ていた。
「うんライバル。俺たちはライバルだな。強敵と書いてトモと呼ぼう」
「えっ……と、ともだち」
「ともだちじゃない、トモだ」
なんか面倒くせぇやつに絡まれてしまったが。
……なぜか妹が嬉しそうなので、まあ良しとしよう。
それが祐真と彼女の出会い。
意外にも長く続くことになる――腐れ縁というもの始まりだった。
祐真がフィノスを召喚して、少しした頃。幼稚園で、一人の少女が祐真に指を突きつけていた。
彼女の名前を、祐真は知っていた。
綾辻琴羽。同じ五歳。親の遺伝なのか、髪の色がやや茶色がかっていて、同年代の中でも背が高い少女だ。
恐らく外国人の血が入っているのだろう。顔立ちも少しだけ周りと違う。それゆえにか、彼女は孤立しがちでもあった。
なぜ名前を憶えていたかというと――千堂木葉、つまり祐真の母親と名前の響きが似ていたからだ。もちろん、ただの偶然だが。
そんな少女に唐突に喧嘩を売られた祐真は……そのまま真横を通り過ぎた。
「ちょっとォ!? なんでムシするのよ!」
「?」
祐真は思わず首を傾げる。こいつは何を言ってるんだろうと。
「とにかく! 私とショーブするの!」
「いや、俺がその勝負を受ける理由がまったく分からない」
「りゆう??」
少女が首を傾げる。言葉の意味が分からないのかもしれないと、祐真は「なんでお前と勝負しなきゃならないんだ」と言い直した。
すると彼女は、「だって……」と言ったきり俯いた。
いや何でやねん。
「にーさま……」
妹の雪が袖を引くのを見て、祐真の脳が警鐘を鳴らす。
――いかん。女の子を泣かせたら、天使の中で自分の株が大暴落……! ストップ安……ッ! そんなことを断じて認めるわけには……!
「うむ分かった。その勝負、受けて立とうじゃないか……!」
腕を組んで宣言した祐真に。
周囲から――特に幼稚園の先生方から「また何かはじまった」という奇異の視線が注がれた。
かくして、その日から祐真と少女の大乱闘の日々が始まる。
「はい俺の勝ち」
「ちょっと、アンタ早すぎじゃない……!?」
アスレチックの頂上で、少女を見下ろしながら告げる祐真に、少女は悔しそうに叫ぶ。
マイエンジェル雪は、アスレチックのてっぺんに立つ俺にぱちぱちと拍手を捧げていた。
「よっ、ほっ、そらっと」
「むきーーーっ! なんで当たらないのよーー!」
ドッヂボール。十人ぐらいで囲んでいるにも関わらず、祐真には一向に球が当たらない。
飛んできたボールをキャッチし、投げ返したそれが、琴羽の足に当たってそのまま転がった。
がくりと、琴羽は膝をつく。
――その後も、祐真は琴羽に完勝し続けた。
鬼ごっこやかけっこ、中には砂遊びに至るまで。
そもそもだが、祐真の肉体は魔力によって強化されている。これは魔法を使っているというより、鍛錬の結果、自然とそうなっているに過ぎない。
ただの幼稚園生が、祐真に勝てるわけがないのだ。
その一方で。
「がんばれー! コトハちゃーん!」
「いけー! 次はかてるぞー!」
「そこっ、あっ、おしいっ!」
二人の勝負は、なぜか幼稚園生の間で名物となっていった。
琴羽への応援がほとんどなのは、何度負けても這い上がり、そのたびに挑戦する彼女の姿が、幼い彼らの心に訴えかけるものがあったのだろう。
一方、彼らを見守る先生たちは……正直、困っていた。
子供たちに、危ないことはさせたくない。
かといって、二人は危ない真似をするわけでもなかった。というか、その点に関しては祐真がブレーキ役を担っていた。
千堂祐真は幼稚園の中で、色んな意味で有名な子供である。
彼は孤高だ。友達と呼べる相手はほとんどいない。子供たちが声をかけても、先生に心配されても、彼は子供たちの輪に入ろうとはしなかった。
しかし今や、彼は子供たちの中心にいる。――中心というか、まあラスボスみたいな立ち位置なのだが。
それでも輪の中にいることは確かで、ゆえに、先生たちもまた彼らの『勝負』を無理に止めるようなことはしなかった。
そして、月日は流れ。
琴羽はいつしか、人の輪に囲まれるようになっていた。友達と遊ぶことも増えて、彼女は孤高ではなくなった。
……祐真は最初から、彼女が自分に『勝負』を仕掛けた理由に気づいていた。
きっと、彼女はただ友達が欲しかったのだ。だが不器用すぎて、あんな方法でしか出来なかったに違いないと。
イイコトシタナー、と祐真がうんうん頷いていると。
「さっ、今日も勝負よ!」
「なんでだよ」
「あんたは、わたしのライバルなんだからっ!」
「はぁ?」
「はぁじゃないの! ライバルなの! ライバルって言いなさい!」
「馬鹿言え。誰がライバルだ。こっちはめいわ――」
妹が見ていた。
「うんライバル。俺たちはライバルだな。強敵と書いてトモと呼ぼう」
「えっ……と、ともだち」
「ともだちじゃない、トモだ」
なんか面倒くせぇやつに絡まれてしまったが。
……なぜか妹が嬉しそうなので、まあ良しとしよう。
それが祐真と彼女の出会い。
意外にも長く続くことになる――腐れ縁というもの始まりだった。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ダンジョン探索者に転職しました
みたこ
ファンタジー
新卒から勤めていた会社を退職した朝霧悠斗(あさぎり・ゆうと)が、ダンジョンを探索する『探索者』に転職して、ダンジョン探索をしながら、おいしいご飯と酒を楽しむ話です。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる