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第一章 復讐編
24 - 蒼と紅の衝突
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――アサルトモービルにミサイルは通用しない。
これは、アサルトモービルの軍事的優位性を象徴するような言葉だ。
しかし、それは正解だとは言えない。
だが、まるきり嘘だとも言えない。
『カリギュラの蛇』の拠点と目される海上メガフロート上空に達したアサルトモービルを、水中からせり出したボックスランチャーミサイルが迎え撃った。
一基で合計四発を発射する連装ミサイルシステムである。それが十基、合計四十発ものミサイルが上空に殺到する。
しかしその悉くは、アサルトモービルによる対ミサイルレーザーシステムによって撃墜された。
ミサイルの誘導はミサイル自身とランチャーに装備された『シーカー』と呼ばれる赤外線誘導装置によって行われる。この誘導装置を、高出力レーザーが破壊したのだ。
偏光電磁装甲や耐レーザー装甲を装備する現代兵器に、レーザー兵器はあまり有効とはいえない。
しかし露出したミサイルのシーカー部分を破壊するには十分だ――もっとも、旧式のミサイルに限られる話だが。
『敵性目標沈黙確認。予定降下地点問題なし』
『了解。制圧降下開始』
『降下開――』
その無線に続く言葉を、巨大な轟音が遮った。
爆発。風に煽られて、一瞬アサルトモービルが態勢を崩す。機械補助によって一瞬で立ち直るが、問題なのは、何が爆発したのかということだった。
『オメガ3ロスト! 何が起こった!?』
爆発したのは友軍機だった。
爆発四散し、燃えながら海中に落下していく機体の破片。
『――アラート! 三時の方向に敵機!』
『散開しろ! 狙撃だ!』
だが、もはや遅い。
ひとつ、ふたつ。
『赤い機体』の持つ長銃身から放たれた弾丸は、回避も許さずに機体を撃ち抜いた。
『電磁砲……!』
『バカな!』
悲鳴のような声が上がった。
強大な反動と消費電力を持つレールガンは、航空機やアサルトモービルは装備できない。
電力消耗によって機動力が落ち、反動によって機動が乱れ、墜落の危険性が極めて高くなる。
だがそのアサルトモービルは、レールガンを放ちながらも遜色ない機動を実現していた。
『なんだあれは……第三世代とでもいうのか!』
その叫びは、またも爆音によってかき消された。
小隊の半分が墜落。圧倒的な性能格差が、数の差を超越する。
だが――
『ベリオォォス――――!』
咆哮が、戦場を遮った。
太陽を背にして加速する一機の蒼いアサルトモービルが、赤いアサルトモービルへと肉薄する。
迎え撃つレールガン。甲高く耳障りな音を上げ、大量の蒸気を発しながら、音速をはるかに超えた弾丸が飛翔する。
しかし――青いアサルトモービルは、まるでそれが分かっていたかのように、弾丸を回避してみせた。
発射から着弾まで、刹那の時間しかない。既存の弾速をはるかに超えるレールガンは、発射されてから回避することは絶対に不可能だ。人間の反応速度を超えている。
つまり回避したということは、発射されるタイミングを完全に読み切ったということに他ならない。
『ベリオス! 貴様は俺が殺ォす!!』
青と赤が激突する。
互いに抜き放った高周波ブレードがぶつかり合い、耳障りな轟音が鳴り響いた。
『ハハハ、アハハハハ、ハハハハハハ――!』
『アズール』がアサルトライフルの弾丸をばら撒いた。装填されているのは本物の対アサルトモービル用の弾丸だが、そのいずれも、まったく有効打にはなっていなかった。
紅いアサルトモービルが装備した追加装甲の前に、塵となって消えたのだ。
『さすが、さすがだ我が息子よ! このタイミングを狙っていたのかい? 自爆装置まで解除して!』
「黙れ」
愉快そうに笑うベリオスを、啓人は吐き捨てる。
アズールが加速する。
放たれるレールガンの弾丸を、確実に回避する。
(相変わらずクソ厄介な機体だ)
ベリオスが乗るその赤い機体……『カレドヴルフ』の機体能力を、啓人は完全に把握している。
ゲーム『蒼のオーリオウル』における、いわゆるラスボス機だ。『メティスシステム』で弄られたせいか記憶は曖昧だが、回避のタイミングは体が覚えていた。
しかしそれでも、容易に近づける機体ではない。
そもそも『アズール』との相性が悪すぎる。回避を許さない超高速の遠距離狙撃に分厚い装甲、さらにシールドまで装備している。あのシールドを前に、アズールのアサルトライフルなど豆鉄砲と同じだ。
(この『アズール』を殺すための機体か)
まさしく、完全な上位互換。
圧倒的不利。だがそんなことは、初めから分かっていた。
『悲しいなノイン。君は分かってくれたと思っていたのに』
高周波ブレードで斬りかかる『アズール』が、『カレドヴルフ』のシールドによってはじき返される。
「嘘をつくな。アンタ自身が、こうなることを望んでいたんだろう」
ベリオスが自分に訓練をつけ、アサルトモービルを与えた。
憎まれていたのは分かっていたはずだ。
その武器が、ベリオスに向くのも理解していたはずだ。
「あの時俺を見逃したのは――もっと確実に殺しに来いと言いたかったんだろう?」
ベリオスは笑った。
たとえ見えなくとも――あの深紅の機体の向こう側で、醜悪な笑みを浮かべているのだと、分かった。
『ああ、その通りだ。
僕は、こうなることを望んでいた。
だが……少しだけ失望したかな』
オープンチャンネルで垂れ流されるベリオスの声に、啓人は歯噛みをする。その言葉のひとつひとつが、啓人の怒りを誘うのだ。
『君は強かった』
カレドヴルフは加速し、片刃の剣を抜く。
『アズール』の持つものと同じ、高周波ブレードだ。
『低きに流されない強靭な意思。絶望の中でも折れない強さ。僕は君の強さに希望を見た』
ぶつかり合う、刃と刃。
避けられない。動けない。受け流せない。
ベリオスのパイロットとしての腕は一流だった。だがそれ以上に、機体のパワーの差がそれを許さない。
『だが悲しいな。君はフィルツェーンを助けた。――それは弱さだ』
軋みあう刃と刃。ぶつかり合う振動が轟音をまき散らす。
だが――互角ではない。
ブレードの性能差が、勝敗を分けた。
『カレドヴルフ』が振り切った一撃が、『アズール』のブレードを断ち切り。
返す刃で放たれた一閃は、『アズール』の機体を切り裂いた。
『……ほう』
だが、それで終わりはしなかった。
その瞬間にスラスタによって後退したことで、致命傷には至らず、アズールの装甲表面を切り裂くだけに終わった。
「クソが……」
圧倒的不利であることは、もはや疑いようもない。
ブレードは破壊され、ライフルは通じない。
圧倒的なパワーの差。『カレドヴルフ』は『アズール』の上位機体であり、その性能差は覆しがたい。
『素晴らしい。よく耐えるものだ。それが守る強さというやつだろうか?』
「黙れよ……俺は強い人間なんかじゃない」
それは知っている。
とっくに分かっている。
あの日、あの時から。
「俺が弱かったから……あいつは死んだ……」
――ごめん、兄ちゃん。
あの時。
銃で撃たれ、死を待つだけだったドライは、そう言った。
流れ出る血に、ドライの命が溶けて、消えていく――。
「ベリオス。お前を殺すのは私怨だ。守るだの、正義だの、そんなものは知らない。俺は――お前を殺す!!」
ダガーを抜き放ち、『アズール』は飛翔する。
不利? 無理? そんなもの知るか。
お前を殺す。たとえ全身をもがれようと――!
『良い殺気だ。それならば、君に選択肢をあげよう』
ベリオスは、楽しそうに、嗤った。
『フィルツェーンの体内には、爆弾が仕込んである』
「……何だと」
『三十分だ。三十分君にあげよう。三十分後に、僕は起爆スイッチを押す。もちろんこれは一対一だ。羽虫が群がってくれば、ついイラっとして押してしまうかもしれないだろう?』
ギリ、と啓人は歯噛みした。
フィルツェーンはゲーム内には登場しない。だから爆弾が体内に仕掛けられていることなど、知る由もない。
考えうる限り最悪の状況。
『――新谷くん』
無線から聞こえてきたのは、各務弦也の声だった。
相変わらず感情を伺わせない声だが、用件は理解している。
「すみません、お願いします」
『勝てるのかね?』
各務弦也の問いは率直だった。
そして同時に『見捨てるべきではないか』という意思を感じた。
だが断じて、啓人はそれを認められない。
(ドライ……)
あのときの、約束に賭けて。
「どのみち最初から、俺一人であいつを殺すつもりですから」
『……了解した。こちらも何とかする』
決着をつけよう、ベリオス。
お前を殺して……俺は、自由を手に入れる。
これは、アサルトモービルの軍事的優位性を象徴するような言葉だ。
しかし、それは正解だとは言えない。
だが、まるきり嘘だとも言えない。
『カリギュラの蛇』の拠点と目される海上メガフロート上空に達したアサルトモービルを、水中からせり出したボックスランチャーミサイルが迎え撃った。
一基で合計四発を発射する連装ミサイルシステムである。それが十基、合計四十発ものミサイルが上空に殺到する。
しかしその悉くは、アサルトモービルによる対ミサイルレーザーシステムによって撃墜された。
ミサイルの誘導はミサイル自身とランチャーに装備された『シーカー』と呼ばれる赤外線誘導装置によって行われる。この誘導装置を、高出力レーザーが破壊したのだ。
偏光電磁装甲や耐レーザー装甲を装備する現代兵器に、レーザー兵器はあまり有効とはいえない。
しかし露出したミサイルのシーカー部分を破壊するには十分だ――もっとも、旧式のミサイルに限られる話だが。
『敵性目標沈黙確認。予定降下地点問題なし』
『了解。制圧降下開始』
『降下開――』
その無線に続く言葉を、巨大な轟音が遮った。
爆発。風に煽られて、一瞬アサルトモービルが態勢を崩す。機械補助によって一瞬で立ち直るが、問題なのは、何が爆発したのかということだった。
『オメガ3ロスト! 何が起こった!?』
爆発したのは友軍機だった。
爆発四散し、燃えながら海中に落下していく機体の破片。
『――アラート! 三時の方向に敵機!』
『散開しろ! 狙撃だ!』
だが、もはや遅い。
ひとつ、ふたつ。
『赤い機体』の持つ長銃身から放たれた弾丸は、回避も許さずに機体を撃ち抜いた。
『電磁砲……!』
『バカな!』
悲鳴のような声が上がった。
強大な反動と消費電力を持つレールガンは、航空機やアサルトモービルは装備できない。
電力消耗によって機動力が落ち、反動によって機動が乱れ、墜落の危険性が極めて高くなる。
だがそのアサルトモービルは、レールガンを放ちながらも遜色ない機動を実現していた。
『なんだあれは……第三世代とでもいうのか!』
その叫びは、またも爆音によってかき消された。
小隊の半分が墜落。圧倒的な性能格差が、数の差を超越する。
だが――
『ベリオォォス――――!』
咆哮が、戦場を遮った。
太陽を背にして加速する一機の蒼いアサルトモービルが、赤いアサルトモービルへと肉薄する。
迎え撃つレールガン。甲高く耳障りな音を上げ、大量の蒸気を発しながら、音速をはるかに超えた弾丸が飛翔する。
しかし――青いアサルトモービルは、まるでそれが分かっていたかのように、弾丸を回避してみせた。
発射から着弾まで、刹那の時間しかない。既存の弾速をはるかに超えるレールガンは、発射されてから回避することは絶対に不可能だ。人間の反応速度を超えている。
つまり回避したということは、発射されるタイミングを完全に読み切ったということに他ならない。
『ベリオス! 貴様は俺が殺ォす!!』
青と赤が激突する。
互いに抜き放った高周波ブレードがぶつかり合い、耳障りな轟音が鳴り響いた。
『ハハハ、アハハハハ、ハハハハハハ――!』
『アズール』がアサルトライフルの弾丸をばら撒いた。装填されているのは本物の対アサルトモービル用の弾丸だが、そのいずれも、まったく有効打にはなっていなかった。
紅いアサルトモービルが装備した追加装甲の前に、塵となって消えたのだ。
『さすが、さすがだ我が息子よ! このタイミングを狙っていたのかい? 自爆装置まで解除して!』
「黙れ」
愉快そうに笑うベリオスを、啓人は吐き捨てる。
アズールが加速する。
放たれるレールガンの弾丸を、確実に回避する。
(相変わらずクソ厄介な機体だ)
ベリオスが乗るその赤い機体……『カレドヴルフ』の機体能力を、啓人は完全に把握している。
ゲーム『蒼のオーリオウル』における、いわゆるラスボス機だ。『メティスシステム』で弄られたせいか記憶は曖昧だが、回避のタイミングは体が覚えていた。
しかしそれでも、容易に近づける機体ではない。
そもそも『アズール』との相性が悪すぎる。回避を許さない超高速の遠距離狙撃に分厚い装甲、さらにシールドまで装備している。あのシールドを前に、アズールのアサルトライフルなど豆鉄砲と同じだ。
(この『アズール』を殺すための機体か)
まさしく、完全な上位互換。
圧倒的不利。だがそんなことは、初めから分かっていた。
『悲しいなノイン。君は分かってくれたと思っていたのに』
高周波ブレードで斬りかかる『アズール』が、『カレドヴルフ』のシールドによってはじき返される。
「嘘をつくな。アンタ自身が、こうなることを望んでいたんだろう」
ベリオスが自分に訓練をつけ、アサルトモービルを与えた。
憎まれていたのは分かっていたはずだ。
その武器が、ベリオスに向くのも理解していたはずだ。
「あの時俺を見逃したのは――もっと確実に殺しに来いと言いたかったんだろう?」
ベリオスは笑った。
たとえ見えなくとも――あの深紅の機体の向こう側で、醜悪な笑みを浮かべているのだと、分かった。
『ああ、その通りだ。
僕は、こうなることを望んでいた。
だが……少しだけ失望したかな』
オープンチャンネルで垂れ流されるベリオスの声に、啓人は歯噛みをする。その言葉のひとつひとつが、啓人の怒りを誘うのだ。
『君は強かった』
カレドヴルフは加速し、片刃の剣を抜く。
『アズール』の持つものと同じ、高周波ブレードだ。
『低きに流されない強靭な意思。絶望の中でも折れない強さ。僕は君の強さに希望を見た』
ぶつかり合う、刃と刃。
避けられない。動けない。受け流せない。
ベリオスのパイロットとしての腕は一流だった。だがそれ以上に、機体のパワーの差がそれを許さない。
『だが悲しいな。君はフィルツェーンを助けた。――それは弱さだ』
軋みあう刃と刃。ぶつかり合う振動が轟音をまき散らす。
だが――互角ではない。
ブレードの性能差が、勝敗を分けた。
『カレドヴルフ』が振り切った一撃が、『アズール』のブレードを断ち切り。
返す刃で放たれた一閃は、『アズール』の機体を切り裂いた。
『……ほう』
だが、それで終わりはしなかった。
その瞬間にスラスタによって後退したことで、致命傷には至らず、アズールの装甲表面を切り裂くだけに終わった。
「クソが……」
圧倒的不利であることは、もはや疑いようもない。
ブレードは破壊され、ライフルは通じない。
圧倒的なパワーの差。『カレドヴルフ』は『アズール』の上位機体であり、その性能差は覆しがたい。
『素晴らしい。よく耐えるものだ。それが守る強さというやつだろうか?』
「黙れよ……俺は強い人間なんかじゃない」
それは知っている。
とっくに分かっている。
あの日、あの時から。
「俺が弱かったから……あいつは死んだ……」
――ごめん、兄ちゃん。
あの時。
銃で撃たれ、死を待つだけだったドライは、そう言った。
流れ出る血に、ドライの命が溶けて、消えていく――。
「ベリオス。お前を殺すのは私怨だ。守るだの、正義だの、そんなものは知らない。俺は――お前を殺す!!」
ダガーを抜き放ち、『アズール』は飛翔する。
不利? 無理? そんなもの知るか。
お前を殺す。たとえ全身をもがれようと――!
『良い殺気だ。それならば、君に選択肢をあげよう』
ベリオスは、楽しそうに、嗤った。
『フィルツェーンの体内には、爆弾が仕込んである』
「……何だと」
『三十分だ。三十分君にあげよう。三十分後に、僕は起爆スイッチを押す。もちろんこれは一対一だ。羽虫が群がってくれば、ついイラっとして押してしまうかもしれないだろう?』
ギリ、と啓人は歯噛みした。
フィルツェーンはゲーム内には登場しない。だから爆弾が体内に仕掛けられていることなど、知る由もない。
考えうる限り最悪の状況。
『――新谷くん』
無線から聞こえてきたのは、各務弦也の声だった。
相変わらず感情を伺わせない声だが、用件は理解している。
「すみません、お願いします」
『勝てるのかね?』
各務弦也の問いは率直だった。
そして同時に『見捨てるべきではないか』という意思を感じた。
だが断じて、啓人はそれを認められない。
(ドライ……)
あのときの、約束に賭けて。
「どのみち最初から、俺一人であいつを殺すつもりですから」
『……了解した。こちらも何とかする』
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お前を殺して……俺は、自由を手に入れる。
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