【完結】玲奈と、境ノ森町の魔法使い ―ワクワクはドラゴンと不思議を添えて―

杵島 灯

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雨がふるよ

2.ヘンな折りヅル

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「あれ? クッキー、二袋ふたふくろありますよ」

 玲奈れなは返そうとしたけど、もえは「いいのよ」って言った。

「一つは私からのプレゼント。玲奈ちゃん、境ノ森町さかいのもりまちへようこそ。これからも『森のパンやさん』をよろしくね」
「わあ、ありがとうございます! ゼッタイまた来ます!」

 玲奈はクッキーの入った袋を二つ受け取って、一花いちかとあおいといっしょに公園の中へ入る。

「三枚入りだから、一枚ずつ食べようよ」

 玲奈が言うと、一花もあおいもびっくりした顔だ。

「いいの?」
「もちろん!」
「やった!」
「あ……ありがとう」

 ベンチを見つけて座って袋を開けた。甘くていいにおいがするクッキーは、口に入れたらサクサクでホロホロだ。

「とってもおいしいね!」
「そう! 森のパンやさんはパンもおかしも、全部おいしいんだ」
「えっとね……萌さんは、いつか自分のお店を持ちたいんだって……」
「だから今は、移動販売いどうはんばいでお金をためてるらしいよ」
「そっかあ。がんばってる人なんだね」

 クッキーはとってもおいしかった。ヒスイやキューイにも食べてもらいたいな、と玲奈が思ったとき、ぽつぽつと雨がふってきた。

「うへえ、雨だ!」
「あ……でも、すぐやみそう……」
「ほんとだ。もう雲もないね。……あれ?」

 空に顔を向けたおかげで、玲奈は近くの木のえだに黒いものを二つ見つけた。

 最初は虫かと思ったけどなんだかヘンだ。二つとも、るのを失敗した紙のツルみたいな形をしてる。あんな虫を玲奈は知らない。
 ヘンな折りヅルは顔の部分を近よせていて、ヒソヒソ、ボソボソ、なにか話している。

 もしかしたら、べつの世界から来た悪い魔法使まほうつかいかも。
 ヒスイに教えてもらった呪文じゅもんを使う時は今かもしれない。

「一花ちゃん、あおいちゃん。私、トイレに行きたくなっちゃった」
「お、私も行く!」
「……今のうちに行っておいた方が、安心、できるよね」

 三人でトイレに行って、玲奈は中に入るふりをしてトイレからはなれた。花壇かだんの近くにある木のかげにかくれて、翡翠ひすいの入った小さなきんちゃくをにぎって、ドキドキしながら呪文をとなえる。

「コキイコ デウ ソヘ イコイホ!」

 おねがい! っていのるみたいな気持ちで待っていたら、しばらくして「キュー!」って声が聞こえた。
 赤いドラゴンが上からバレリーナみたいにくるくる回りながら現れて、玲奈の前でビシッと決めポーズを取る。
 続いて、ホウキに乗ったヒスイが来てくれた。

「呼び出し呪文を使うってことは、何か見つけたんだな?」
「向こうの方にヘンなのがいたの。黒くて、失敗した折りヅルみたいな感じ。もしかしたらもう移動したかもしれないけど」
「よし、分かった。オレたちで探してみる。お前は気にせず楽しめよ」
「キュキュー!」
「よろしくね、ヒスイくん、キューイ!」

 ヒスイとキューイに手をふって、玲奈は急いでトイレにもどる。一花とあおいはもう外にいた。

「なんだぁ。まだ出てきてないんじゃなくて、もう出てきてたんだね」
「ごめんごめん。向こうのほうにキレイな花がさいてたから、見てたの。いっしょに行こうよ!」
「いいね!」
「えっと……うん」

 三人で花壇へ向かうとちゅう、空を飛んでいく光が見えた。前のクッションのときに見たのと同じだから、ヒスイが魔法使いを森へ送りかえしたんだ。

(さっきの折りヅルは、やっぱり魔法使いだった!)

 玲奈のはじめてのお手伝てつだいは、どうやら成功せいこうしたみたい。
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