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第3章(後)
16.巡り合わせ 1
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ローゼはフロランと別れた後、セラータに乗ってイリオスを出る。
都市イリオスから銀の森までは2~3日ほどだという話だが、近くに町や村などはないらしく、宿にセラータを置いた後に歩いて向かう……というのはあまり現実的ではなさそうだった。
仕方なくローゼは今回、セラータにも野宿をしてもらうことにする。
途中で雨に降られたものの、それでもなんとかイリオスを出て3日目の昼過ぎには銀の森に到着した。
木々の茂った森はうっそうとしているために日が落ちたのかと思うほど暗い。奥まで行くなら明かりを用意するべきかもしれないと思ったローゼは、転ばぬよう足元を確認しながら歩きつつ、レオンに問いかける。
「で? どの辺りまで行けばいいの?」
【そうだな……まあそれより、お前も見てみろ】
楽しそうなレオンに言われて立ち止まり、木々を見上げた瞬間にローゼは目を疑った。
緑の葉がそよぐ木々はほんの少しだけ木漏れ日が見える。視線を下げれば暗くなるはずが、森のそこかしこに様々な色の丸い光があって逆に明るかった。
見る限り、大きい光はローゼが抱えられないくらい、小さいものなら掌に乗るだろう。それが枝に乗っていたり、木々の間を跳ねていたり、地面を転がっていたりしている。
楽しそうに遊ぶ光の玉――精霊たちは、今まで見たどの場所よりも数が多かった。
この光景は王都の夜に、大神殿から外を見たときの景色に似ている気もする。
暗い中に明かりがたくさん灯っている光景はとても珍しかったので、ローゼは大神殿が高台にあることに感謝しつつ、よく眺めていたのだ。
しかし、精霊は王都の明かりより、もっと複雑な色に輝いている。色味だけで言えば今の光景の方が綺麗なようにも思えた。
「精霊がこんなにいるなんて、すごいね」
夢見心地でローゼは呟いた。幻想的な光景を見て気分が浮き立つ。
口調と様子とでそのことを感じ取ったのだろう。レオンは嬉しそうに答えた。
【な、すごいだろ?】
うなずいて周囲を見渡していると、ローゼが見ていることに気づいたらしい精霊がふわふわと寄って来た。
左手を上げてみると、寄ってきた精霊は腕飾りで遊び始める。引っ張ったり揺すったりするたび、腕飾りからはしゃらしゃらと涼やかな音がした
「確かに精霊銀って言うだけあるね。精霊の色によく似てる」
左腕で輝く銀の鎖は、精霊の色を移したように複雑な輝きを放っていた。飾りを作ってくれた青年を思い出して切なくなったので、気持ちを払うように首を振り、ローゼはできるだけ明るい口調で尋ねる。
「で? この後どうするの?」
【そうだな。あいつと話をする】
「あいつ?」
誰かいるのかと見渡していると、森の奥から近づく黒い影が見えた。
思わず聖剣を抜いて構える。
ローゼの周囲で遊んでいた精霊たちが驚いたように離れた。
「魔物!」
【違う。よく見ろ】
レオンに言われて目を凝らしてみれば、確かに影は完全な黒ではない。しかし、かなり黒に近い色だ。濃い鈍色と言ったところだろうか。
ゆっくりと近づいてきたその姿は狼のものだったが、セラータは動じない。狼の姿ではあるが狼というわけではないようだ。
――まさか、この狼は。
『久しいな、聖剣の主よ。いや違うな。今は聖剣か』
【まだ生きてたか。100年以上目撃例が無いと聞いたからひやひやしたぞ】
嬉しそうに口を開く狼に、同じく嬉しさと懐かしさとを込めてレオンが言う。
くくく、と狼は忍び笑いをもらした。
――これがレオンの記憶で見た銀狼。銀の森の主で、何百年も生きている精霊……。
ローゼは聖剣を下ろす。堂々としたその存在に見惚れた。
『人の目に触れぬようになってもうそんなになるか。生きてはおるが、残された時間は長くないだろうな』
【何があった】
『見れば分かるであろう。魔物化が進んでしまったのだよ。今は人を襲いたくなることがあるのでな、奥で隠れ潜んでおるよ。端まで来たのはずいぶん久しぶりだ。お前の気配がしたから出迎えてやったのだぞ』
【そいつは感謝する】
レオンに言われた銀狼は、目を細めて聖剣を見た。
『人であった時、餞別に儂の加護をやったが面白いことになったようだな。今ではお前も精霊の一種になったか。もはや儂の息子とは言えんな』
儂の息子、とローゼは口の中だけで呟く。
【他に心当たりがないからもしかしてと思ったんだが、やはり俺に精霊の力を渡したのはお前か。口の中に枝を置いた時だな?】
『そうだ。舐めてやったろう。あれが儂の加護の与え方だ』
大きく笑う銀狼にレオンは苦笑した。
【聞いたな、ローゼ? そういうことだ。俺は人だった時、最後にこいつから力をもらった。そのせいで今の俺には精霊の力も混じっているというわけだ】
「へぇ……」
聖剣と銀狼とを見比べるローゼに、狼は目をやる。
『ほう。その娘が今は聖剣の持ち主というわけだな。精霊を扱う才はないが、なかなか面白い。どうだ、儂の娘になるか?』
【手を出すな、狼。こいつは俺の娘だ】
『無論分かっておるとも。しかし俺の娘、か。なるほど、確かに精霊らしくなったものだな』
どうやら銀狼はレオンをからかったらしい。愉快そうに笑うと、ローゼを見て言う。
『娘、精霊は執着心が強いのだ。お前の聖剣も例外ではないぞ、気を付けろ』
「そうなんですか?」
ローゼは瞬くと、聖剣を見る。その目線を受けてレオンは慌てたように言った。
【うるさいぞ、狼、黙れ】
『照れるな聖剣よ』
【照れてない!】
憤慨したようにレオンは叫ぶ。
それを笑いながら、ローゼはふと気が付いたことがあった。
以前、聖剣を渡すときに神は「この聖剣は神の支配から離れてしまったため、なんだか良く分からなくてうまく調べられなかった」ということを言っていなかったか。
それがもし、聖剣にレオンという存在が憑いて純粋な神の力でなくなった、ということならば、確かにその通りかもしれない。
しかし同時に、もうひとつ思い出したことがある。
(確かあの時、神が言ってたっけ。この聖剣と結びつける魂を選定したけど、あたし以外には反応しなくて400年も待ったって……)
大陸には5つの国がある。聖剣は11あるが、そのうちの10は5国に2振ずつ渡されている。
しかし最後のこの1振に国の制限はなかったはずだ。しかも主とするのは神々が選んだ魂の誰か。
ならばどこの国にあってもおかしくはない。実際400年の間に魂を選ぶときも、国は無作為だったはずだ。聖剣と魂とがうまく結びつけられないから、神々も色々な人物を試したはずで、その数は膨大なものだろう。
もちろんアストラン国グラス村出身の村娘が手にしたって変ではないのだが、どうにもひっかかる。
ローゼは少し頭を整理した。
神はあの時なんと言っていた? そして今、狼は何と言った? レオンは?
(他の魂には反応が無かった。400年待って反応したのはあたし。精霊は執着心が強い。あたしはエルゼの子孫で……)
瞬間、閃く。
「レオン!」
ローゼが思わず叫ぶと、銀狼もゆったりと目線を向けてくる。
「もしかして……自分が聖剣に憑いてるのを良いことに、エルゼの子孫の誰かが主に選ばれるまで、神々の選定を無視し続けたんじゃないでしょうね!」
う、と言ったきり言葉に詰まったレオンに、ローゼは自分の考えが間違っていなかったことを確信する。
「やっぱりそうなのね!?」
【……いや、なんというか……あのときは、なんだかぼうっとしていて、あんまり深く物事を考えてなかったんだ。……ただ、神がどんな奴を選んでも、これは嫌だなとしか思わなくて……】
さすがに少し気まずいらしく、レオンの声はぼそぼそと小さい。
【……ある日選ばれた人物はすごく懐かしい気配がしたんで、そのとき初めて、こいつがいい、と思ったんだが……】
そこまで言ってレオンはため息をつく。
【こんな面倒な娘だとは思わなかったぞ】
ローゼは思わずむっとした。
「あーあー、そういうこと言うんだ。聖剣を私物化しているレオンさん」
【何を言ってる? 私物化も何も、俺が聖剣だ】
「うわ、開き直った」
眉根を寄せたローゼは、まったく、とため息をつく。
「これじゃ他の聖剣と何も変わらないじゃない」
この言葉に今度はレオンがむっとしたようだ。
【どう考えたら同じになるんだ! 他の聖剣には俺のような素晴らしい存在がいないんだぞ!】
「全然素晴らしくないでしょ。自分の性癖で400年も神々を待たせた挙句、やっと選んだ人物に対して文句をつけるサイテーな奴なのに!」
【お前、言い方!】
そこへ、面白そうな声で銀狼が割り込む。
『聖剣の娘よ、安心して良いぞ』
ローゼが銀狼を見ると、彼は喉の奥で笑う。
『聖剣はお前を気に入っておる。言っている言葉も愛情の裏返しだ』
「……そうなんですか? ……ああ、確かに先日、あたしのこと特別って言ってたっけ」
銀狼とローゼの視線を受けたレオンは、慌てたように叫ぶ。
【勝手なことを言うな、狼! ローゼも! くそ、あんなこと言わなきゃ良かった!】
『素直になれ、聖剣よ。でなければ俺の娘などという言葉が出て来たりせんわ』
「えー、だって特別って言ってくれたのにー。あれ本当は違うのー?」
【だから、俺は……ああああ!】
負けを悟ったレオンは無理やり会話を打ち切った。
【もう本題に入る! ローゼは黙れ! そしてこれ以上無駄口を叩くと助けてやらないぞ、狼!】
都市イリオスから銀の森までは2~3日ほどだという話だが、近くに町や村などはないらしく、宿にセラータを置いた後に歩いて向かう……というのはあまり現実的ではなさそうだった。
仕方なくローゼは今回、セラータにも野宿をしてもらうことにする。
途中で雨に降られたものの、それでもなんとかイリオスを出て3日目の昼過ぎには銀の森に到着した。
木々の茂った森はうっそうとしているために日が落ちたのかと思うほど暗い。奥まで行くなら明かりを用意するべきかもしれないと思ったローゼは、転ばぬよう足元を確認しながら歩きつつ、レオンに問いかける。
「で? どの辺りまで行けばいいの?」
【そうだな……まあそれより、お前も見てみろ】
楽しそうなレオンに言われて立ち止まり、木々を見上げた瞬間にローゼは目を疑った。
緑の葉がそよぐ木々はほんの少しだけ木漏れ日が見える。視線を下げれば暗くなるはずが、森のそこかしこに様々な色の丸い光があって逆に明るかった。
見る限り、大きい光はローゼが抱えられないくらい、小さいものなら掌に乗るだろう。それが枝に乗っていたり、木々の間を跳ねていたり、地面を転がっていたりしている。
楽しそうに遊ぶ光の玉――精霊たちは、今まで見たどの場所よりも数が多かった。
この光景は王都の夜に、大神殿から外を見たときの景色に似ている気もする。
暗い中に明かりがたくさん灯っている光景はとても珍しかったので、ローゼは大神殿が高台にあることに感謝しつつ、よく眺めていたのだ。
しかし、精霊は王都の明かりより、もっと複雑な色に輝いている。色味だけで言えば今の光景の方が綺麗なようにも思えた。
「精霊がこんなにいるなんて、すごいね」
夢見心地でローゼは呟いた。幻想的な光景を見て気分が浮き立つ。
口調と様子とでそのことを感じ取ったのだろう。レオンは嬉しそうに答えた。
【な、すごいだろ?】
うなずいて周囲を見渡していると、ローゼが見ていることに気づいたらしい精霊がふわふわと寄って来た。
左手を上げてみると、寄ってきた精霊は腕飾りで遊び始める。引っ張ったり揺すったりするたび、腕飾りからはしゃらしゃらと涼やかな音がした
「確かに精霊銀って言うだけあるね。精霊の色によく似てる」
左腕で輝く銀の鎖は、精霊の色を移したように複雑な輝きを放っていた。飾りを作ってくれた青年を思い出して切なくなったので、気持ちを払うように首を振り、ローゼはできるだけ明るい口調で尋ねる。
「で? この後どうするの?」
【そうだな。あいつと話をする】
「あいつ?」
誰かいるのかと見渡していると、森の奥から近づく黒い影が見えた。
思わず聖剣を抜いて構える。
ローゼの周囲で遊んでいた精霊たちが驚いたように離れた。
「魔物!」
【違う。よく見ろ】
レオンに言われて目を凝らしてみれば、確かに影は完全な黒ではない。しかし、かなり黒に近い色だ。濃い鈍色と言ったところだろうか。
ゆっくりと近づいてきたその姿は狼のものだったが、セラータは動じない。狼の姿ではあるが狼というわけではないようだ。
――まさか、この狼は。
『久しいな、聖剣の主よ。いや違うな。今は聖剣か』
【まだ生きてたか。100年以上目撃例が無いと聞いたからひやひやしたぞ】
嬉しそうに口を開く狼に、同じく嬉しさと懐かしさとを込めてレオンが言う。
くくく、と狼は忍び笑いをもらした。
――これがレオンの記憶で見た銀狼。銀の森の主で、何百年も生きている精霊……。
ローゼは聖剣を下ろす。堂々としたその存在に見惚れた。
『人の目に触れぬようになってもうそんなになるか。生きてはおるが、残された時間は長くないだろうな』
【何があった】
『見れば分かるであろう。魔物化が進んでしまったのだよ。今は人を襲いたくなることがあるのでな、奥で隠れ潜んでおるよ。端まで来たのはずいぶん久しぶりだ。お前の気配がしたから出迎えてやったのだぞ』
【そいつは感謝する】
レオンに言われた銀狼は、目を細めて聖剣を見た。
『人であった時、餞別に儂の加護をやったが面白いことになったようだな。今ではお前も精霊の一種になったか。もはや儂の息子とは言えんな』
儂の息子、とローゼは口の中だけで呟く。
【他に心当たりがないからもしかしてと思ったんだが、やはり俺に精霊の力を渡したのはお前か。口の中に枝を置いた時だな?】
『そうだ。舐めてやったろう。あれが儂の加護の与え方だ』
大きく笑う銀狼にレオンは苦笑した。
【聞いたな、ローゼ? そういうことだ。俺は人だった時、最後にこいつから力をもらった。そのせいで今の俺には精霊の力も混じっているというわけだ】
「へぇ……」
聖剣と銀狼とを見比べるローゼに、狼は目をやる。
『ほう。その娘が今は聖剣の持ち主というわけだな。精霊を扱う才はないが、なかなか面白い。どうだ、儂の娘になるか?』
【手を出すな、狼。こいつは俺の娘だ】
『無論分かっておるとも。しかし俺の娘、か。なるほど、確かに精霊らしくなったものだな』
どうやら銀狼はレオンをからかったらしい。愉快そうに笑うと、ローゼを見て言う。
『娘、精霊は執着心が強いのだ。お前の聖剣も例外ではないぞ、気を付けろ』
「そうなんですか?」
ローゼは瞬くと、聖剣を見る。その目線を受けてレオンは慌てたように言った。
【うるさいぞ、狼、黙れ】
『照れるな聖剣よ』
【照れてない!】
憤慨したようにレオンは叫ぶ。
それを笑いながら、ローゼはふと気が付いたことがあった。
以前、聖剣を渡すときに神は「この聖剣は神の支配から離れてしまったため、なんだか良く分からなくてうまく調べられなかった」ということを言っていなかったか。
それがもし、聖剣にレオンという存在が憑いて純粋な神の力でなくなった、ということならば、確かにその通りかもしれない。
しかし同時に、もうひとつ思い出したことがある。
(確かあの時、神が言ってたっけ。この聖剣と結びつける魂を選定したけど、あたし以外には反応しなくて400年も待ったって……)
大陸には5つの国がある。聖剣は11あるが、そのうちの10は5国に2振ずつ渡されている。
しかし最後のこの1振に国の制限はなかったはずだ。しかも主とするのは神々が選んだ魂の誰か。
ならばどこの国にあってもおかしくはない。実際400年の間に魂を選ぶときも、国は無作為だったはずだ。聖剣と魂とがうまく結びつけられないから、神々も色々な人物を試したはずで、その数は膨大なものだろう。
もちろんアストラン国グラス村出身の村娘が手にしたって変ではないのだが、どうにもひっかかる。
ローゼは少し頭を整理した。
神はあの時なんと言っていた? そして今、狼は何と言った? レオンは?
(他の魂には反応が無かった。400年待って反応したのはあたし。精霊は執着心が強い。あたしはエルゼの子孫で……)
瞬間、閃く。
「レオン!」
ローゼが思わず叫ぶと、銀狼もゆったりと目線を向けてくる。
「もしかして……自分が聖剣に憑いてるのを良いことに、エルゼの子孫の誰かが主に選ばれるまで、神々の選定を無視し続けたんじゃないでしょうね!」
う、と言ったきり言葉に詰まったレオンに、ローゼは自分の考えが間違っていなかったことを確信する。
「やっぱりそうなのね!?」
【……いや、なんというか……あのときは、なんだかぼうっとしていて、あんまり深く物事を考えてなかったんだ。……ただ、神がどんな奴を選んでも、これは嫌だなとしか思わなくて……】
さすがに少し気まずいらしく、レオンの声はぼそぼそと小さい。
【……ある日選ばれた人物はすごく懐かしい気配がしたんで、そのとき初めて、こいつがいい、と思ったんだが……】
そこまで言ってレオンはため息をつく。
【こんな面倒な娘だとは思わなかったぞ】
ローゼは思わずむっとした。
「あーあー、そういうこと言うんだ。聖剣を私物化しているレオンさん」
【何を言ってる? 私物化も何も、俺が聖剣だ】
「うわ、開き直った」
眉根を寄せたローゼは、まったく、とため息をつく。
「これじゃ他の聖剣と何も変わらないじゃない」
この言葉に今度はレオンがむっとしたようだ。
【どう考えたら同じになるんだ! 他の聖剣には俺のような素晴らしい存在がいないんだぞ!】
「全然素晴らしくないでしょ。自分の性癖で400年も神々を待たせた挙句、やっと選んだ人物に対して文句をつけるサイテーな奴なのに!」
【お前、言い方!】
そこへ、面白そうな声で銀狼が割り込む。
『聖剣の娘よ、安心して良いぞ』
ローゼが銀狼を見ると、彼は喉の奥で笑う。
『聖剣はお前を気に入っておる。言っている言葉も愛情の裏返しだ』
「……そうなんですか? ……ああ、確かに先日、あたしのこと特別って言ってたっけ」
銀狼とローゼの視線を受けたレオンは、慌てたように叫ぶ。
【勝手なことを言うな、狼! ローゼも! くそ、あんなこと言わなきゃ良かった!】
『素直になれ、聖剣よ。でなければ俺の娘などという言葉が出て来たりせんわ』
「えー、だって特別って言ってくれたのにー。あれ本当は違うのー?」
【だから、俺は……ああああ!】
負けを悟ったレオンは無理やり会話を打ち切った。
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