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第1章
16.到着
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故郷の村に戻った俺を出迎えたのは、23歳になったエルゼだった。俺は26歳になっていた。
俺は聖剣の主になってから一度も故郷に戻っていない。だから戻るのは約8年ぶり。
エルゼには王都で一度会ったけどそれきりだから、会うのは7年ぶりくらいだ。
「久しぶり、エルゼ」
玄関から出て後ろ手に扉を閉めたエルゼは、赤い瞳を見開いて俺に近寄ってくる。
唇を震わせながら絞り出すように言った。
「……ええ、久しぶり。ねえ、レオン……」
「俺、知らなくてさ。大神殿でのこと。お前と同期だったっていうあの子――なんてったっけな、とにかく偶然会った彼女に聞いて初めて知ったんだ」
「それはいいのよ。大神殿の話だって5年前のことだもの。それより、ねえ、レオン」
「でさ、俺――」
「レオン!」
気が付くとエルゼは、顔をくしゃくしゃにして泣いている。
近寄ってきた彼女の手に顔を挟まれて俺はちょっと動揺した。
「どうした、エル――」
「あなた、髪、そんなに黒かった!? 瞳は水色だったでしょう!? なんで紺色なの!?」
エルゼは泣きながら目を覗き込んで、次いで俺の髪を手に取ってさらに泣いた。
何を言ってるんだ?
俺は自分の髪を見た。神殿の関係者は伸ばさなくてはいけないのだと聞いて、昔は短かった髪も今は胸くらいまで伸ばしている。
いつもと変わりのない、こげ茶色の髪だ。
「そうだっけか? ずっとこんなもんだろ。そもそも色なんてそんな簡単に変わるものじゃないんだし」
エルゼだって綺麗な赤の髪に赤い瞳のままなのに。
「変わるわ――変わるのよ! レオン、神殿で浄化は……」
「言うんじゃない!」
俺はエルゼの手首をつかんで顔から放す。
「浄化だと!? あいつらに何の力がある!? 私利私欲で人を陥れる、そんな奴らに何を浄化出来るって言うんだ!」
そうだ。
あいつらこそ、浄化が必要な対象じゃないか。
くそ。俺の聖剣が人も切れるのなら、まっさきに神官どもを消してやれるというのに。
そんな俺を見ながら、エルゼはただ泣いている。
「ごめん。痛かったよな」
慌てて手を離すと、エルゼは首を振った。
「そうだ。俺、お土産を持ってきたんだよ」
布に包んだものを取り出す。エルゼの目の前で開いて見せた。
「エルゼが神官を諦めなくちゃいけなかったって聞いたからさ、せめてこれくらいはと思って――」
喜ぶだろうと思って差し出したそれを、エルゼは受け取らなかった。
後ずさりをしながら、愕然とした表情で俺を見ている。
「レオン、あなたなんていうことを……」
「エルゼ?」
「それは、禁忌よ……」
禁忌。その言葉と共に、例の貴族が頭に浮かぶ。
俺がこれを取ってこいと言ったら禁忌だと抜かしてやがったっけ。
約束の時間にこれを持って現れたあいつは、血の気のない真っ白な顔をしてたな。
行方をくらましたと聞いたが、まあそんなことどうでもいい。
「それがどうした?」
「レオン!」
「奴らはお前の人生を奪ったんだ」
そうだ。エルゼは神官になるはずだった。
それに比べればこの程度、物の数にも入らない。いや、むしろ足りないくらいだ。
「そんなことはもうどうでもいいの。でもこれは駄目。駄目なのよ」
俺はよく理解できなかった。
エルゼは一体何を言っているんだ?
拒否するように手を後ろに回して首を振るエルゼを見ているうちに、じわじわと怒りが湧いてくる。
「……なんでだよ……」
「レオン」
「なんでなんだ!」
「レオン、聞いて」
「お前は、ずっと言ってたじゃないか! 家族を殺された、だからいつか、村を魔物から守りたいって!」
「言ったわ、でも」
「これがあれば村を守れる! お前の夢の代わりになれるんだろ!」
「いいえ。村は消えてしまう」
「……何?」
相変わらず青い顔で、でもしっかりとした意思を持って赤い瞳が俺を見る。
「大神殿以外に植えられた神木は、禁忌の木と呼ばれるの。大神殿は禁忌の木を絶対に放置しない。地上にある木を焼いて、少しの根も残さないように村中を掘り起こすわ」
俺は手の中にある神木の枝を見た。
金色がかった枝は、折り取ってから一か月近く経っているはずなのにまだみずみずしい。
枝には葉が一枚ついているが、これも金色がかった緑のままだ。
この枝を地面にさせば、すぐに根付く。
そして根はあっという間に広がり、根の範囲だけ魔物を寄せ付けないのだと話に聞いた。
地上の木の部分は小さくとも、根はかなりの広範囲になる。広ければ広いほど、安全は守られるのだと。
「そうか」
うつむいて俺は呟く。
近寄ってくるエルゼの足元が見えた。
「レオン、神官様もあなたを心配してらしたのよ。これから一緒に神殿へ行って浄化をしていただきましょう。その後に大神殿へ行って、この枝を神木の根元に戻すの。……ね、レオン。私ずっと――」
「あいつらは恩恵を独り占めしたいんだな。だから各地に神木を渡してやらないんだ」
「違う、違うのよ、聞いて、神木が大神殿にしかないのは――」
「もういい」
エルゼが取りすがろうとするのを振りほどく。枝についていた一枚だけの葉が落ちた。
地面に倒れこんだエルゼが哀しげな瞳で見上げてくるが、もう俺にはどうでもよかった。
――結局はエルゼも神殿側の人間なんだな。
「お願いよ、レオン。お願いだから、私の話を聞いて……!」
エルゼの声を背中で聞きながら走り出す。
「レオン……!」
なんて最悪な帰郷だろう。
こんな思いをするなら帰るべきじゃなかった。
視界に神殿が入る。嫌な気分になって目をそらした。
こうなってみれば、神官様に会わなかったのは幸いだ。そこでもどうせひどい言葉をかけられるに違いない。
なにせ神官様は、完全に神殿側の人間なんだから。
村の外まで走って、森の中まで来て、息が切れて、そこらの木を背にしてずるずると座り込む。
しばらくそのままの体勢でいたが、呼吸が落ち着いてからふと右手を見ると、握りしめたままの枝があった。
一枚だけついていた葉はさっき落ちてしまった。そっけない枝のみになってしまった神木の枝だ。
たった一枚だけでも、緑の彩りがあるのとないのとでは違うんだな。
さっきまではみずみずしい枝に見えたのに、今じゃまるで枯れ枝みたいじゃないか。
なんだか自分をを見ているみたいで忌々しくなってきて、俺は神木の枝を乱暴に腰の物入れへと突っ込んだ。
* * *
「この調子だと夕刻くらいには古の聖窟に着くんじゃねぇかな」
ジェラルドにそう言われて、ローゼは周囲を見渡した。
山らしい山はまだ遠くにあるのだが、そんなに早く到着できるのだろうか。
きょろきょろしているローゼを見たジェラルドは、正面を指さす。
「ほら、あれが目的地の山だぜ。あそこの中腹に古の聖窟があるんだ」
「山? え、……山……?」
正直に言えば、ローゼはかなり拍子抜けした。
広々とした草地の向こうに見えるのは、丘と言った方が似つかわしいのではないかと思える山だった。
ほとんどが草の緑で、木すらまばらにしか生えていないように見える。
聖域だ、アストランの重要な場所の一つだ、というからもっと高い山を想像していたのだが、全くそんなことはなかった。
しばし山を眺めていたローゼだが、ふと思い出して腰から剣を外す。
剣と剣帯に慣れておくと良い、と村を出るときにジェラルドから借りた剣だ。
「そうだ。ジェラルドさん、剣をありがとうございました」
馬上で差し出すと、おう、と言ってジェラルドは片手で受け取る。
「もう必要ねぇもんな。なんたってローゼちゃんには次の剣が待ってる」
ローゼは苦笑しながら答えた。
「そうだといいんですけど」
一行は山を登る。古の聖窟へ着いたのは村を出てからちょうど7日目の夕刻に差し掛かったころだった。
開けた場所で一団は止まると、大神官の馬車の近くにいた神官がローゼの元へ来た。
最後も大神官は姿を見せるつもりがないらしい。
(まあいいけど。むしろ姿を見せられた方が縁起悪いってもんよ)
神官に促されて先頭へ行くと、正面、山の中腹に両開きの白い扉がある。
(思ったより大きい……)
セラータから降りて近くへ寄ってみる。自分よりもずっと高い扉だ。騎乗したままでも問題なく通れるくらいの高さがある。
幅は片方の扉の大きさが両手を広げたくらいもあるので、両方開くと考えれば、ずいぶんと空間がありそうだった。
扉の手前には屋根があり、左右を女神像が支えている。
扉の前で神官はローゼに深々とお辞儀をすると言う。
「この先へはお1人でお進みください。馬はこちらに留めおきますようお願い申し上げます」
「分かりました」
この先で何をすれば良いのか聞こうかとも思ったが止めた。
どうせロクに答えは返ってこないだろう。
少し悩んで、扉近くの小さな木にセラータをゆるく繋ぐ。万が一ローゼが戻ってこなかったとき、セラータが逃げられるように。
代わりに積んでいた荷物はローゼが全部持つことにした。
ちょっと重いが、まあ頑張れるだろう。
(どうせ戻ってきたら誰もいないのが分かってるし、セラータもいないかもしれない。それなら荷物は自分で持ってなくちゃね)
そんなローゼを見て神官は何か思ったこともあったようだが、特に何も言わなかった。
代わりに再度一礼をする。
神官を横目に扉に向かったローゼは、片方の扉を思い切り引いた。
見た目よりずっと軽く、音もたてずにすんなりと扉が開く。
中をのぞくと、両扉の大きさと同じくらいの幅がある洞窟が奥へ続いているようだ。
扉にの中に入り、開けた時と同じように思い切りよく引いて閉めようとする。
隙間から、一団が頭を下げている姿が見える。
そんな中こっそり手前にやってきたジェラルドが手を上げているのが見えた。
横にいる、覆いをかぶった小柄な人物はフェリシアだろう。
2人に軽く手を振って、ローゼは完全に扉を閉めた。
俺は聖剣の主になってから一度も故郷に戻っていない。だから戻るのは約8年ぶり。
エルゼには王都で一度会ったけどそれきりだから、会うのは7年ぶりくらいだ。
「久しぶり、エルゼ」
玄関から出て後ろ手に扉を閉めたエルゼは、赤い瞳を見開いて俺に近寄ってくる。
唇を震わせながら絞り出すように言った。
「……ええ、久しぶり。ねえ、レオン……」
「俺、知らなくてさ。大神殿でのこと。お前と同期だったっていうあの子――なんてったっけな、とにかく偶然会った彼女に聞いて初めて知ったんだ」
「それはいいのよ。大神殿の話だって5年前のことだもの。それより、ねえ、レオン」
「でさ、俺――」
「レオン!」
気が付くとエルゼは、顔をくしゃくしゃにして泣いている。
近寄ってきた彼女の手に顔を挟まれて俺はちょっと動揺した。
「どうした、エル――」
「あなた、髪、そんなに黒かった!? 瞳は水色だったでしょう!? なんで紺色なの!?」
エルゼは泣きながら目を覗き込んで、次いで俺の髪を手に取ってさらに泣いた。
何を言ってるんだ?
俺は自分の髪を見た。神殿の関係者は伸ばさなくてはいけないのだと聞いて、昔は短かった髪も今は胸くらいまで伸ばしている。
いつもと変わりのない、こげ茶色の髪だ。
「そうだっけか? ずっとこんなもんだろ。そもそも色なんてそんな簡単に変わるものじゃないんだし」
エルゼだって綺麗な赤の髪に赤い瞳のままなのに。
「変わるわ――変わるのよ! レオン、神殿で浄化は……」
「言うんじゃない!」
俺はエルゼの手首をつかんで顔から放す。
「浄化だと!? あいつらに何の力がある!? 私利私欲で人を陥れる、そんな奴らに何を浄化出来るって言うんだ!」
そうだ。
あいつらこそ、浄化が必要な対象じゃないか。
くそ。俺の聖剣が人も切れるのなら、まっさきに神官どもを消してやれるというのに。
そんな俺を見ながら、エルゼはただ泣いている。
「ごめん。痛かったよな」
慌てて手を離すと、エルゼは首を振った。
「そうだ。俺、お土産を持ってきたんだよ」
布に包んだものを取り出す。エルゼの目の前で開いて見せた。
「エルゼが神官を諦めなくちゃいけなかったって聞いたからさ、せめてこれくらいはと思って――」
喜ぶだろうと思って差し出したそれを、エルゼは受け取らなかった。
後ずさりをしながら、愕然とした表情で俺を見ている。
「レオン、あなたなんていうことを……」
「エルゼ?」
「それは、禁忌よ……」
禁忌。その言葉と共に、例の貴族が頭に浮かぶ。
俺がこれを取ってこいと言ったら禁忌だと抜かしてやがったっけ。
約束の時間にこれを持って現れたあいつは、血の気のない真っ白な顔をしてたな。
行方をくらましたと聞いたが、まあそんなことどうでもいい。
「それがどうした?」
「レオン!」
「奴らはお前の人生を奪ったんだ」
そうだ。エルゼは神官になるはずだった。
それに比べればこの程度、物の数にも入らない。いや、むしろ足りないくらいだ。
「そんなことはもうどうでもいいの。でもこれは駄目。駄目なのよ」
俺はよく理解できなかった。
エルゼは一体何を言っているんだ?
拒否するように手を後ろに回して首を振るエルゼを見ているうちに、じわじわと怒りが湧いてくる。
「……なんでだよ……」
「レオン」
「なんでなんだ!」
「レオン、聞いて」
「お前は、ずっと言ってたじゃないか! 家族を殺された、だからいつか、村を魔物から守りたいって!」
「言ったわ、でも」
「これがあれば村を守れる! お前の夢の代わりになれるんだろ!」
「いいえ。村は消えてしまう」
「……何?」
相変わらず青い顔で、でもしっかりとした意思を持って赤い瞳が俺を見る。
「大神殿以外に植えられた神木は、禁忌の木と呼ばれるの。大神殿は禁忌の木を絶対に放置しない。地上にある木を焼いて、少しの根も残さないように村中を掘り起こすわ」
俺は手の中にある神木の枝を見た。
金色がかった枝は、折り取ってから一か月近く経っているはずなのにまだみずみずしい。
枝には葉が一枚ついているが、これも金色がかった緑のままだ。
この枝を地面にさせば、すぐに根付く。
そして根はあっという間に広がり、根の範囲だけ魔物を寄せ付けないのだと話に聞いた。
地上の木の部分は小さくとも、根はかなりの広範囲になる。広ければ広いほど、安全は守られるのだと。
「そうか」
うつむいて俺は呟く。
近寄ってくるエルゼの足元が見えた。
「レオン、神官様もあなたを心配してらしたのよ。これから一緒に神殿へ行って浄化をしていただきましょう。その後に大神殿へ行って、この枝を神木の根元に戻すの。……ね、レオン。私ずっと――」
「あいつらは恩恵を独り占めしたいんだな。だから各地に神木を渡してやらないんだ」
「違う、違うのよ、聞いて、神木が大神殿にしかないのは――」
「もういい」
エルゼが取りすがろうとするのを振りほどく。枝についていた一枚だけの葉が落ちた。
地面に倒れこんだエルゼが哀しげな瞳で見上げてくるが、もう俺にはどうでもよかった。
――結局はエルゼも神殿側の人間なんだな。
「お願いよ、レオン。お願いだから、私の話を聞いて……!」
エルゼの声を背中で聞きながら走り出す。
「レオン……!」
なんて最悪な帰郷だろう。
こんな思いをするなら帰るべきじゃなかった。
視界に神殿が入る。嫌な気分になって目をそらした。
こうなってみれば、神官様に会わなかったのは幸いだ。そこでもどうせひどい言葉をかけられるに違いない。
なにせ神官様は、完全に神殿側の人間なんだから。
村の外まで走って、森の中まで来て、息が切れて、そこらの木を背にしてずるずると座り込む。
しばらくそのままの体勢でいたが、呼吸が落ち着いてからふと右手を見ると、握りしめたままの枝があった。
一枚だけついていた葉はさっき落ちてしまった。そっけない枝のみになってしまった神木の枝だ。
たった一枚だけでも、緑の彩りがあるのとないのとでは違うんだな。
さっきまではみずみずしい枝に見えたのに、今じゃまるで枯れ枝みたいじゃないか。
なんだか自分をを見ているみたいで忌々しくなってきて、俺は神木の枝を乱暴に腰の物入れへと突っ込んだ。
* * *
「この調子だと夕刻くらいには古の聖窟に着くんじゃねぇかな」
ジェラルドにそう言われて、ローゼは周囲を見渡した。
山らしい山はまだ遠くにあるのだが、そんなに早く到着できるのだろうか。
きょろきょろしているローゼを見たジェラルドは、正面を指さす。
「ほら、あれが目的地の山だぜ。あそこの中腹に古の聖窟があるんだ」
「山? え、……山……?」
正直に言えば、ローゼはかなり拍子抜けした。
広々とした草地の向こうに見えるのは、丘と言った方が似つかわしいのではないかと思える山だった。
ほとんどが草の緑で、木すらまばらにしか生えていないように見える。
聖域だ、アストランの重要な場所の一つだ、というからもっと高い山を想像していたのだが、全くそんなことはなかった。
しばし山を眺めていたローゼだが、ふと思い出して腰から剣を外す。
剣と剣帯に慣れておくと良い、と村を出るときにジェラルドから借りた剣だ。
「そうだ。ジェラルドさん、剣をありがとうございました」
馬上で差し出すと、おう、と言ってジェラルドは片手で受け取る。
「もう必要ねぇもんな。なんたってローゼちゃんには次の剣が待ってる」
ローゼは苦笑しながら答えた。
「そうだといいんですけど」
一行は山を登る。古の聖窟へ着いたのは村を出てからちょうど7日目の夕刻に差し掛かったころだった。
開けた場所で一団は止まると、大神官の馬車の近くにいた神官がローゼの元へ来た。
最後も大神官は姿を見せるつもりがないらしい。
(まあいいけど。むしろ姿を見せられた方が縁起悪いってもんよ)
神官に促されて先頭へ行くと、正面、山の中腹に両開きの白い扉がある。
(思ったより大きい……)
セラータから降りて近くへ寄ってみる。自分よりもずっと高い扉だ。騎乗したままでも問題なく通れるくらいの高さがある。
幅は片方の扉の大きさが両手を広げたくらいもあるので、両方開くと考えれば、ずいぶんと空間がありそうだった。
扉の手前には屋根があり、左右を女神像が支えている。
扉の前で神官はローゼに深々とお辞儀をすると言う。
「この先へはお1人でお進みください。馬はこちらに留めおきますようお願い申し上げます」
「分かりました」
この先で何をすれば良いのか聞こうかとも思ったが止めた。
どうせロクに答えは返ってこないだろう。
少し悩んで、扉近くの小さな木にセラータをゆるく繋ぐ。万が一ローゼが戻ってこなかったとき、セラータが逃げられるように。
代わりに積んでいた荷物はローゼが全部持つことにした。
ちょっと重いが、まあ頑張れるだろう。
(どうせ戻ってきたら誰もいないのが分かってるし、セラータもいないかもしれない。それなら荷物は自分で持ってなくちゃね)
そんなローゼを見て神官は何か思ったこともあったようだが、特に何も言わなかった。
代わりに再度一礼をする。
神官を横目に扉に向かったローゼは、片方の扉を思い切り引いた。
見た目よりずっと軽く、音もたてずにすんなりと扉が開く。
中をのぞくと、両扉の大きさと同じくらいの幅がある洞窟が奥へ続いているようだ。
扉にの中に入り、開けた時と同じように思い切りよく引いて閉めようとする。
隙間から、一団が頭を下げている姿が見える。
そんな中こっそり手前にやってきたジェラルドが手を上げているのが見えた。
横にいる、覆いをかぶった小柄な人物はフェリシアだろう。
2人に軽く手を振って、ローゼは完全に扉を閉めた。
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