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村娘は神殿の中に入りたい
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グラス村へ戻ったあたしは、白い石造りの神殿を目指した。
今までの噂話からすると貴族のご令嬢一行はもう何日も前に村へ到着してるはず。アーヴィンとご令嬢はもうとっくに会ってるに違いない。 もしかしたらもう、アーヴィンはご令嬢と一緒に王都へ向かう準備をしてるかもしれない。そうなったらあたしの出る幕なんてない。
だってアーヴィンはご令嬢の探してた『運命の王子様』だし、きっとご令嬢はアーヴィンが待っていた……。
あたしは首を振って、考え追い出す。
でもあたしはやっぱり、彼に会いたい。
会って、例え玉砕しても、言いたいことがあった。
重くなる足を動かして神殿に到着すると、たくさんの野次馬が神殿の入り口を遠巻きにしてる。そして神殿の前に停まってるのは、すっごく豪華な馬車。
きっとこれは、ご令嬢が乗ってきた馬車に違いない。
思わず駆けだしたあたしは、野次馬が神殿を遠巻きに見ている理由がすぐにわかった。神殿の入り口には騎士っぽい人たちが立ってる。きっとこの人たちが村人を追い払ってるんだ。
でもあたしは気にしない。
無視して入ろうとしたけど、やっぱり騎士はあたしの前に立ちはだかった。
「村人か? 入ってはならん」
「なんで!?」
「王都からお越しになられた令嬢が中におられるのだ。村人ごときがご令嬢と共に入るなど無礼であろうが」
騎士は横柄な口調で言い切る。
その偉そうな態度にあたしはカッとした。
「ご令嬢だか何だか知らないけど、なによそれ!」
ずっと上にある騎士の目を見ながらあたしは叫ぶ。
「ここはうちの村の神殿なんだからね! 王都から来た人のくせに我が物顔で仕切らないでよ!」
「こら、入るなと言っている!」
無視して突破しようとしたあたしだけど、立ちはだかる騎士はあたしが押した程度じゃビクともしない。全身を使って無理に入ろうとしたら、今度は別の騎士に手首をつかまれた。引きずり出されそうになるのをなんとか踏ん張る。
でも、手首をつかむ騎士もまたあたし程度の力じゃどうにもならない。これじゃ追い出されるのは時間の問題だ。
「離してよ!」
【ローゼ】
必死でもがいてると、腰の聖剣から宥めるようなレオンの声がする。
【お前はこの村の住人だ。神殿の周囲にも詳しいだろう? これだけ広い神殿なんだから、騎士の目もすべての場所に届くわけじゃない。どこかから忍び込めば――】
「そんなの、嫌!」
レオンに向けてあたしは叫ぶ。
「あたしは悪いことなんてしてないわ! なのになんで、コソコソ忍び込むような真似しなくちゃいけないのよ!」
【お前……忍び込むなんて大声で言ったら警戒されるだろうが……】
「警戒されたっていいわ! だってあたしは絶対、忍び込んだりしないもの!」
視界は赤く覆われている。あたしの髪だ。騎士とせめぎ合ってる今、あたしの髪は振り乱れてばさばさになってるんだと思う。
そんな赤い視界のわずかな隙間からあたしは騎士を睨みつけた。
「大体、そのご令嬢とやらうちの村の神殿へ何しに来たのよ!」
「お前ごときに答える必要はない」
「あーっそう! 分かった、ご令嬢は人には言えないことをしに来たのね!」
あたしの声に騎士が一瞬たじろぐ。
「娘! ぶ、無礼だぞ!」
「無礼って何がよ! じゃあ何してるの? 言えることなら言いなさいよ!」
「だ、だから答える必要はないと……」
「そっか、そっか! やっぱりご令嬢は人に言えないことをしに来たわけね!」
あたしは精一杯の声で絶叫する。
「貴族のご令嬢がわざわざ王都から辺境の村までやって来て、顔のいい若い男性神官とふたりっきりでナニかしてるのよねえぇぇ!!」
周囲の野次馬がざわつく。
「娘ぇ!!」
叫んだ騎士が剣を抜いて、あたしは思わず目を閉じる。その瞬間レオンの声が響いた。
【この、馬鹿が!】
すると声が呼び寄せたかのように突風が吹き抜けた。手をつかんでいた騎士の力が緩んだ隙をついて、あたしは思い切り体をよじる。よじりながら瞼を開くと、見えたのは騎士たちが涙を流しながら眉間に皺を寄せている姿。
どうやら突風のせいで舞い上がった土埃が彼らの目に入ったみたい。
【今だ、行け!】
「やっぱり、レオンなの!? ありがとう!」
【礼なんかいい!】
あたしは呻き声を上げる騎士の間をすり抜ける。
「待て、娘!」
威勢だけは良かったけど、まだ目が見えない騎士はあたしの腕をつかむことができない。
空をつかむ騎士たちを尻目にして、あたしは神殿の中に飛び込んだ。
……ご令嬢とアーヴィンが本当にナニかしてたらどうしよう、ってちょっとだけ思いながら。
今までの噂話からすると貴族のご令嬢一行はもう何日も前に村へ到着してるはず。アーヴィンとご令嬢はもうとっくに会ってるに違いない。 もしかしたらもう、アーヴィンはご令嬢と一緒に王都へ向かう準備をしてるかもしれない。そうなったらあたしの出る幕なんてない。
だってアーヴィンはご令嬢の探してた『運命の王子様』だし、きっとご令嬢はアーヴィンが待っていた……。
あたしは首を振って、考え追い出す。
でもあたしはやっぱり、彼に会いたい。
会って、例え玉砕しても、言いたいことがあった。
重くなる足を動かして神殿に到着すると、たくさんの野次馬が神殿の入り口を遠巻きにしてる。そして神殿の前に停まってるのは、すっごく豪華な馬車。
きっとこれは、ご令嬢が乗ってきた馬車に違いない。
思わず駆けだしたあたしは、野次馬が神殿を遠巻きに見ている理由がすぐにわかった。神殿の入り口には騎士っぽい人たちが立ってる。きっとこの人たちが村人を追い払ってるんだ。
でもあたしは気にしない。
無視して入ろうとしたけど、やっぱり騎士はあたしの前に立ちはだかった。
「村人か? 入ってはならん」
「なんで!?」
「王都からお越しになられた令嬢が中におられるのだ。村人ごときがご令嬢と共に入るなど無礼であろうが」
騎士は横柄な口調で言い切る。
その偉そうな態度にあたしはカッとした。
「ご令嬢だか何だか知らないけど、なによそれ!」
ずっと上にある騎士の目を見ながらあたしは叫ぶ。
「ここはうちの村の神殿なんだからね! 王都から来た人のくせに我が物顔で仕切らないでよ!」
「こら、入るなと言っている!」
無視して突破しようとしたあたしだけど、立ちはだかる騎士はあたしが押した程度じゃビクともしない。全身を使って無理に入ろうとしたら、今度は別の騎士に手首をつかまれた。引きずり出されそうになるのをなんとか踏ん張る。
でも、手首をつかむ騎士もまたあたし程度の力じゃどうにもならない。これじゃ追い出されるのは時間の問題だ。
「離してよ!」
【ローゼ】
必死でもがいてると、腰の聖剣から宥めるようなレオンの声がする。
【お前はこの村の住人だ。神殿の周囲にも詳しいだろう? これだけ広い神殿なんだから、騎士の目もすべての場所に届くわけじゃない。どこかから忍び込めば――】
「そんなの、嫌!」
レオンに向けてあたしは叫ぶ。
「あたしは悪いことなんてしてないわ! なのになんで、コソコソ忍び込むような真似しなくちゃいけないのよ!」
【お前……忍び込むなんて大声で言ったら警戒されるだろうが……】
「警戒されたっていいわ! だってあたしは絶対、忍び込んだりしないもの!」
視界は赤く覆われている。あたしの髪だ。騎士とせめぎ合ってる今、あたしの髪は振り乱れてばさばさになってるんだと思う。
そんな赤い視界のわずかな隙間からあたしは騎士を睨みつけた。
「大体、そのご令嬢とやらうちの村の神殿へ何しに来たのよ!」
「お前ごときに答える必要はない」
「あーっそう! 分かった、ご令嬢は人には言えないことをしに来たのね!」
あたしの声に騎士が一瞬たじろぐ。
「娘! ぶ、無礼だぞ!」
「無礼って何がよ! じゃあ何してるの? 言えることなら言いなさいよ!」
「だ、だから答える必要はないと……」
「そっか、そっか! やっぱりご令嬢は人に言えないことをしに来たわけね!」
あたしは精一杯の声で絶叫する。
「貴族のご令嬢がわざわざ王都から辺境の村までやって来て、顔のいい若い男性神官とふたりっきりでナニかしてるのよねえぇぇ!!」
周囲の野次馬がざわつく。
「娘ぇ!!」
叫んだ騎士が剣を抜いて、あたしは思わず目を閉じる。その瞬間レオンの声が響いた。
【この、馬鹿が!】
すると声が呼び寄せたかのように突風が吹き抜けた。手をつかんでいた騎士の力が緩んだ隙をついて、あたしは思い切り体をよじる。よじりながら瞼を開くと、見えたのは騎士たちが涙を流しながら眉間に皺を寄せている姿。
どうやら突風のせいで舞い上がった土埃が彼らの目に入ったみたい。
【今だ、行け!】
「やっぱり、レオンなの!? ありがとう!」
【礼なんかいい!】
あたしは呻き声を上げる騎士の間をすり抜ける。
「待て、娘!」
威勢だけは良かったけど、まだ目が見えない騎士はあたしの腕をつかむことができない。
空をつかむ騎士たちを尻目にして、あたしは神殿の中に飛び込んだ。
……ご令嬢とアーヴィンが本当にナニかしてたらどうしよう、ってちょっとだけ思いながら。
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