13 / 17
村への帰り道
しおりを挟む
朝。いつもよりずっと早く起きたあたしは、荷物を持って宿を出発した。
「レオン」
【なんだ?】
「ごめん。あたし、勝手なこと言うね」
町の門は夜明けに開く。
開いたばっかりの門を出たあたしは、先日町へ来た道を戻る。
「村へ帰る」
決死の思いで言ったのに、レオンから戻ってきたのはあっさりとした返事だった。
【だろうな】
「……え?」
【え、って何がだ。昨夜があんな様子だったくせに、今日も平気な顔して男と茶でもを飲んでたりしたら、さすがの俺もお前の頭の中を疑うところだったぞ】
そこまで言ってしばらく黙った後、レオンは重々しく告げる。
【いや。お前の頭の中は初日から疑ってたな】
「失礼ね」
【まあいずれにせよ、俺は魔物が倒せれば文句はない。どこへ向かって進もうとお前の勝手だ】
レオンの言葉の内容は突き放すような感じだったけど、声の調子は優しい。これはきっと、あたしの考えを後押しをしてくれてるってことなんだ。
嬉しくなってあたしはお礼を言う。
「ありがとう」
お礼には返事が無かった。
これはあれね。照れてる。レオンの性格もなんとなく読めてきたわ。
小さく笑ったあたしは、遠くなってしまった村へ向けてどんどん歩く。
ううん。
最初は歩いてたけど、気が急くあたしの足はいつの間にか速くなって、気が付くと走っていた。
お嬢様と騎士は馬車と馬だったらしいから、あたしの足じゃ追いつけないのは分かってる。
それでもあたしは走った。疲れてどうしようもなくなったら歩いて、息が整ったらまた走る。夕暮れについた町で宿を取って、翌朝早くにはまた出発して走り出した。
走る間に考えるのは、アーヴィンとお嬢様のことばかり。ふたりはどこで会ったんだろうかとか、王都でどんな日々を過ごしたんだろうかとか。
あと、なんで離れ離れになっちゃったのかなとか。
お嬢様は王都の大神殿ってところでアーヴィンと会ったのかな。神官はそこで修業するって言うもんね。
きっとお互い一目で好きになって、でも何かの事情でふたりは別れることになるの。例えば、そうね。お嬢様の父親、お貴族様が身分違いの恋を許さなかった、なんてどうだろう。
あたしは走りながら顔の汗をぬぐう。
なんだか考えは合っているように思えてきた。
そっか。それでアーヴィンは、国外れのグラス村へ来たのよ。お貴族様が娘と別れさせるため、アーヴィンをどっか遠くにやってしまおうって裏で手を回したから。
ああ、だからアーヴィンは『運命のお姫様』の話をするとき、いつも寂しそうだったのね。あたしと話をしながら、きっとお嬢様を思い出してたんだ。
だとすれば、お嬢様と会えるのはアーヴィンにとって嬉しいことのはず。
なのになんで、あたしは急いでるんだろう。
あたしはアーヴィンに会って何を言いたいんだろう。
お祝い? 『運命のお姫様』に会えておめでとうって伝えたいの?
行かないでって? せっかく『運命のお姫様』が迎えに来てくれたのに?
それとも。
それとも……?
走りながらあたしは思わず喉の奥で笑う。
今さら気が付くなんて、あたし、馬鹿だ。
直感なんてちっともあてにならない。
もっと前に気が付いておけば良かった。せめて村を出る前に気が付いておけば……。
そこまで考えてあたしは、ううん、と首を横に振る。
気が付いても意味がない。あたしも玉砕した女の子たちの仲間入りをしただけ。だってアーヴィンの『運命のお姫様』は、きっと例のお嬢様なんだもの。
悲しくて悔しくて叫びだしたくなる。それでもあたしは村へ向けて走った。
走りながら、顔をぬぐう回数はだんだん多くなる。前を見るため、濡れる目の周りをぬぐわなきゃいけなかったから。
* * *
あたしは結局、貴族の馬車らしきものの後ろ姿を見ることがなかった。あちこちの町でお嬢様たちの噂話を聞いただけ。
当たり前だよね、あたしには馬がいないんだもん。追いつけるはずなんてない。
あ、そうそう。レオンと一緒にいるからね、ちゃんと魔物も倒したよ。
【こんな時まで律儀に魔物退治する必要は……いや、確かに倒すべきなんだが……】
なんて、ごにょごにょ言うレオンがちょっと可愛かったな。
そんな風にしながら彼女達の後を追いかけて、あたしはようやく、故郷のグラス村へと戻ってきた。
「レオン」
【なんだ?】
「ごめん。あたし、勝手なこと言うね」
町の門は夜明けに開く。
開いたばっかりの門を出たあたしは、先日町へ来た道を戻る。
「村へ帰る」
決死の思いで言ったのに、レオンから戻ってきたのはあっさりとした返事だった。
【だろうな】
「……え?」
【え、って何がだ。昨夜があんな様子だったくせに、今日も平気な顔して男と茶でもを飲んでたりしたら、さすがの俺もお前の頭の中を疑うところだったぞ】
そこまで言ってしばらく黙った後、レオンは重々しく告げる。
【いや。お前の頭の中は初日から疑ってたな】
「失礼ね」
【まあいずれにせよ、俺は魔物が倒せれば文句はない。どこへ向かって進もうとお前の勝手だ】
レオンの言葉の内容は突き放すような感じだったけど、声の調子は優しい。これはきっと、あたしの考えを後押しをしてくれてるってことなんだ。
嬉しくなってあたしはお礼を言う。
「ありがとう」
お礼には返事が無かった。
これはあれね。照れてる。レオンの性格もなんとなく読めてきたわ。
小さく笑ったあたしは、遠くなってしまった村へ向けてどんどん歩く。
ううん。
最初は歩いてたけど、気が急くあたしの足はいつの間にか速くなって、気が付くと走っていた。
お嬢様と騎士は馬車と馬だったらしいから、あたしの足じゃ追いつけないのは分かってる。
それでもあたしは走った。疲れてどうしようもなくなったら歩いて、息が整ったらまた走る。夕暮れについた町で宿を取って、翌朝早くにはまた出発して走り出した。
走る間に考えるのは、アーヴィンとお嬢様のことばかり。ふたりはどこで会ったんだろうかとか、王都でどんな日々を過ごしたんだろうかとか。
あと、なんで離れ離れになっちゃったのかなとか。
お嬢様は王都の大神殿ってところでアーヴィンと会ったのかな。神官はそこで修業するって言うもんね。
きっとお互い一目で好きになって、でも何かの事情でふたりは別れることになるの。例えば、そうね。お嬢様の父親、お貴族様が身分違いの恋を許さなかった、なんてどうだろう。
あたしは走りながら顔の汗をぬぐう。
なんだか考えは合っているように思えてきた。
そっか。それでアーヴィンは、国外れのグラス村へ来たのよ。お貴族様が娘と別れさせるため、アーヴィンをどっか遠くにやってしまおうって裏で手を回したから。
ああ、だからアーヴィンは『運命のお姫様』の話をするとき、いつも寂しそうだったのね。あたしと話をしながら、きっとお嬢様を思い出してたんだ。
だとすれば、お嬢様と会えるのはアーヴィンにとって嬉しいことのはず。
なのになんで、あたしは急いでるんだろう。
あたしはアーヴィンに会って何を言いたいんだろう。
お祝い? 『運命のお姫様』に会えておめでとうって伝えたいの?
行かないでって? せっかく『運命のお姫様』が迎えに来てくれたのに?
それとも。
それとも……?
走りながらあたしは思わず喉の奥で笑う。
今さら気が付くなんて、あたし、馬鹿だ。
直感なんてちっともあてにならない。
もっと前に気が付いておけば良かった。せめて村を出る前に気が付いておけば……。
そこまで考えてあたしは、ううん、と首を横に振る。
気が付いても意味がない。あたしも玉砕した女の子たちの仲間入りをしただけ。だってアーヴィンの『運命のお姫様』は、きっと例のお嬢様なんだもの。
悲しくて悔しくて叫びだしたくなる。それでもあたしは村へ向けて走った。
走りながら、顔をぬぐう回数はだんだん多くなる。前を見るため、濡れる目の周りをぬぐわなきゃいけなかったから。
* * *
あたしは結局、貴族の馬車らしきものの後ろ姿を見ることがなかった。あちこちの町でお嬢様たちの噂話を聞いただけ。
当たり前だよね、あたしには馬がいないんだもん。追いつけるはずなんてない。
あ、そうそう。レオンと一緒にいるからね、ちゃんと魔物も倒したよ。
【こんな時まで律儀に魔物退治する必要は……いや、確かに倒すべきなんだが……】
なんて、ごにょごにょ言うレオンがちょっと可愛かったな。
そんな風にしながら彼女達の後を追いかけて、あたしはようやく、故郷のグラス村へと戻ってきた。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる