村娘のあたしが聖剣の主に選ばれちゃった! ~ただの村娘が『運命の王子様』を探しだすまで(?)~

杵島 灯

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『運命の王子様』を探すため前を向く

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 門をくぐって町に入ったあたしは呆然とする。

 すごい。

 なにこれ、すごい。

【おい】

 立ち尽くすあたしにレオンが声をかけてくる。

【道の真ん中でぼーっとしてるんじゃない。さっきから人の邪魔になってるぞ】
「あ、あ、そっか」

 あたしは迷惑そうな人々をかき分け、慌てて道の端に寄った。

 さすが町ってだけあって、人の多さは村の比じゃない。
 門から入ってそんなに時間が経ってるわけじゃないけど、今この時にあたしが見た人だけで、村で一日に会う人の数を軽く超えてる。

 おまけに、建物もでっかい!
 うちの村だと一番大きいのは3階建ての村長さん家。
 なのに町の建物、これ5階建て!? しかもいくつもあるじゃないの!

「町がこんなにすごいところだなんて思わなかった……ここはきっと、国内でも有数の大都市よね」

 そう口に出した途端、レオンに鼻で笑われた。

【この程度なら中規模の町ですらないぞ】
「嘘!?」
【まあとにかく中へ進め。こんな入り口でボーっとしてても仕方ないだろうが】

 レオンの声を聞きながら、あたしはよろよろと足を踏み出す。

「で、でも、どこへ行けばいいんだろう……」
【しょうがないな、お前は。いいか? まずは――】
「うん、まずは一番人が集まるところへ行って『運命の王子様』を探すべきよね」
【違う! 道中で倒した魔物の褒賞金をもらいに神殿へ行くんだ!】
「……あれ? でもよく考えたら、一番人が集まる場所って門じゃない? てことは門の横に立って、道行く人を眺めていればいいのか」
【そうじゃない! 馬鹿かお前は! こら、戻るな! あああもう、言うことを聞けー!】


 でも結局、あたしは衛兵に追い払われてしまった。
 ううう、閉門するまで立ってるつもりだったのに!


   *   *   *


【だから最初に俺が言ってやっただろうが】

 ぶーたれるレオンの声を聞きながら、あたしは神殿へ向けて歩いていた。
 さすがに町だけあって道も綺麗。きちんと舗装されてて、うちの村みたいに石の端っこが割れてるけど放置されてるとか、細い道だとそもそも舗装されてないとか、そんなこともないの。

 でも、ここはあんまり大きい町じゃないんでしょ?
 あたしにとっては大都会なのに、なんかすごいよね。

 村を出る前は『運命の王子様』を探しに行くことしか考えてなかったけど、現実を目の当たりにしてあたしはほんの少しだけ不安になる。

 もしも町で過ごしてた人が『運命の王子様』だったら、どうすればいいんだろう。

 あたしみたいな田舎娘が、町で暮らせるのかな。
 あるいは町で暮らしてた『運命の王子様』が、あたしの村へ来て暮らせるのかな。

 そう考えると、アーヴィンは偉い。
 出身地までは聞いたことはないけど、あの人は元々どこか違うところで産まれた人なのよね。
 で、国で一番大きな都市・王都へ行って神官になる修行をした後、うちみたいな小さい村へ来てずっと暮らしてるんだもの。あたしには絶対できないな……。

 なんて考えてるあたしは、いつの間にかうつむいて歩いてる。

 こんなことじゃいけない!

 あたしは顔を上げて、大きく首を横に振った。

 せっかく『運命の王子様』と出会えるって言うのに、こんな弱気なことでどうするの!?
 『運命の王子様』とはね。目が合った瞬間にドキドキして、お互い一目で恋に落ちて、絶対忘れられない人になるの。
 うつむいちゃダメ。顔を上げなくちゃ。きちんと前を見て歩くのよ。
 だって通りすがりの人が『運命の王子様』だって可能性があるんだもの!

 拳を握り締めたあたしは、改めて周囲に目を配りながら道を進む。
 なんか周りに人が居なくなったなあ、と不思議に思った辺りでレオンがあたしを呼んだ。

【……おい、ローゼ】

 彼の声には、うんざりしたような響きがある。

【お前、周りから変な目で見られてるぞ。両手で拳を握って肩をいからせるのは止めろ。それに、ぎらついた目で周囲を睨むな】
「え? なにそれ。あたし、そんな風に見えてるの?」
【見えてる】

 レオンは大仰にため息をついた。

【お前が何を考えてそういう格好をしてるのかは知らん。だが今のお前は、喧嘩相手を探す変な女にしか見えないからな】

 えーーーーー!!
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