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村娘は初めて違う町の壁を見る
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うっきうきで村を出たあたしは街道を進む。
村の外には、町へ通じる大きな道がある。
その程度は村から出たことのないあたしだって知っていた。
道中にはやっぱり魔物が出てくる。
初めは怖かったけど、1体倒したら割と度胸がついた。
それはもちろん、この剣のおかげ。さすがは聖剣ってだけあるわね。
適当に振ってるだけで魔物にバシッと当たって、ズバッと切れちゃうの!
だってあたし、剣なんてろくに使ったことがないのよ。
村で対魔物の戦闘訓練が年に何回か開かれるんだけど、その時に参加したくらい。
なのにすっごくうまく戦えるの!
もしかしたらあたし、熟練の剣使いだったのかもって勘違いしちゃう!
【当たり前だ。この俺が加護を授けてやってるんだからな】
ってレオンは妙に得意げだけど、これは確かに言うだけのことあるわ。
舗装された石畳を歩きながらそんなことを思っているうち、ようやく前方に小さく城壁が見えてきた。
「あっ! ほら見て、レオン! 町よ、町! 見えた! 本当に見えてきたわ! すごいすごい!」
【そうだな。町だな】
「……ちょっと。もっと一緒に喜んでくれない?」
グラス村以外の集落を見るのが初めてなあたしが喜ぶのをよそに、レオンは「だからどうした」って言いたげな返事をする。
【移動すれば次の町や村に着くのは当たり前だろうが】
「なにそれ。レオンって面白みがないわね。そんなんじゃモテないわよ」
【別にモテる必要はない。そもそも、俺みたいな素晴らしい聖剣は他に無いしな】
「えぇ!」
レオンの声はどこか自慢げだったけど、そんなことに構わずあたしは思わず叫ぶ。
「じゃあレオンには『運命のお姫様』がいないの? 可哀想!」
レオンから返事はすぐに戻らなかった。
青空の下、鳥がピーチチチと鳴く声とあたしの靴音だけが聞こえる中、風があたしの髪をなびかせる。
あたしの髪も瞳も、鮮やかな赤色をしてるのよね。
実はこれって珍しい色だからちょっと自慢なの。
でも髪は戦闘中に邪魔だったしなあ。明日は結い上げて出かけようっと。
【……なあ】
指にくるくると髪を巻きつかせながら歩いてると、ようやくレオンの声がする。
【お前にとっては『運命のナンチャラ』以外に重要なことがないのか?】
「何言ってるの?」
あたしは思わず顔をしかめた。
「当たり前でしょ」
まったく。あたしの人生において『運命の王子様』より重要なことがあったらびっくりだわ。
今回もレオンから返事はすぐに戻らなかった。
さっきよりは短い時間が経過した後、大きなため息が聞こえる。
【……そうか。なるほどな】
「分かってもらえた?」
【まあな。お前が救いがたいバ……いや。なんでもない】
何かを言いかけたレオンはわざとらしく咳払いをする。
【でーその、なんだ。お前の『運命のナンチャラ』はどういう人物なんだ?】
「さあ?」
あたしは首をかしげた。
「分かってたら旅になんて出ないと思わない?」
【……確かにな】
呟いたレオンは、続けて問いかけてくる。
【ということは、あの男は違うのか?】
「あの男?」
【村の神官だ】
「アーヴィン? 違うわ」
【そうか】
答えるあたしの脳裏に、出がけに見たアーヴィンの笑顔が浮かぶ。
笑顔なのに悲しそうだと思った彼の顔を思い出した途端、なんだか奥の方がキリキリとして思わず胸元を押さえた。
……これは、なんだろう。
てくてく歩くあたしは、町が目前に迫る辺りでようやくひとつの結論に思い至った。
きっとね、アーヴィンはあたしが出かけること自体は嬉しいのよ。
でもやっぱり自分が『運命のお姫様』を探しに行けないことは悲しいの。
笑顔だけど悲しそうだったのはそのせいね。
で、彼が悲しいと、あたしも悲しい。ってことなのよ。だって友達なんだもの。
そっか。
そうだよね。
うん、アーヴィンの気持ちはとっても良く分かる。だってあたしも『運命の王子様』を探しに行けなくてずっと悲しかったもの。
彼のために、あたしが何かしてあげられることってないかな……。
そう思った時、あたしの頭にひとつの考えが閃いた。
アーヴィンのために到着した町や村で彼の話を広めてあげるのはどうだろう。
「グラス村にはこんなに素敵な神官がいるんだよ」
って。
もしかしたらその話がアーヴィンの『運命のお姫様』の耳に入るかもしれない! そしたらきっとアーヴィンの『運命のお姫様』はグラス村へ駆けつけるに違いないわ!
うん、そうしよう!
良いことを思いついたあたしは、晴れやかな気分で町の大きな門をくぐった。
村の外には、町へ通じる大きな道がある。
その程度は村から出たことのないあたしだって知っていた。
道中にはやっぱり魔物が出てくる。
初めは怖かったけど、1体倒したら割と度胸がついた。
それはもちろん、この剣のおかげ。さすがは聖剣ってだけあるわね。
適当に振ってるだけで魔物にバシッと当たって、ズバッと切れちゃうの!
だってあたし、剣なんてろくに使ったことがないのよ。
村で対魔物の戦闘訓練が年に何回か開かれるんだけど、その時に参加したくらい。
なのにすっごくうまく戦えるの!
もしかしたらあたし、熟練の剣使いだったのかもって勘違いしちゃう!
【当たり前だ。この俺が加護を授けてやってるんだからな】
ってレオンは妙に得意げだけど、これは確かに言うだけのことあるわ。
舗装された石畳を歩きながらそんなことを思っているうち、ようやく前方に小さく城壁が見えてきた。
「あっ! ほら見て、レオン! 町よ、町! 見えた! 本当に見えてきたわ! すごいすごい!」
【そうだな。町だな】
「……ちょっと。もっと一緒に喜んでくれない?」
グラス村以外の集落を見るのが初めてなあたしが喜ぶのをよそに、レオンは「だからどうした」って言いたげな返事をする。
【移動すれば次の町や村に着くのは当たり前だろうが】
「なにそれ。レオンって面白みがないわね。そんなんじゃモテないわよ」
【別にモテる必要はない。そもそも、俺みたいな素晴らしい聖剣は他に無いしな】
「えぇ!」
レオンの声はどこか自慢げだったけど、そんなことに構わずあたしは思わず叫ぶ。
「じゃあレオンには『運命のお姫様』がいないの? 可哀想!」
レオンから返事はすぐに戻らなかった。
青空の下、鳥がピーチチチと鳴く声とあたしの靴音だけが聞こえる中、風があたしの髪をなびかせる。
あたしの髪も瞳も、鮮やかな赤色をしてるのよね。
実はこれって珍しい色だからちょっと自慢なの。
でも髪は戦闘中に邪魔だったしなあ。明日は結い上げて出かけようっと。
【……なあ】
指にくるくると髪を巻きつかせながら歩いてると、ようやくレオンの声がする。
【お前にとっては『運命のナンチャラ』以外に重要なことがないのか?】
「何言ってるの?」
あたしは思わず顔をしかめた。
「当たり前でしょ」
まったく。あたしの人生において『運命の王子様』より重要なことがあったらびっくりだわ。
今回もレオンから返事はすぐに戻らなかった。
さっきよりは短い時間が経過した後、大きなため息が聞こえる。
【……そうか。なるほどな】
「分かってもらえた?」
【まあな。お前が救いがたいバ……いや。なんでもない】
何かを言いかけたレオンはわざとらしく咳払いをする。
【でーその、なんだ。お前の『運命のナンチャラ』はどういう人物なんだ?】
「さあ?」
あたしは首をかしげた。
「分かってたら旅になんて出ないと思わない?」
【……確かにな】
呟いたレオンは、続けて問いかけてくる。
【ということは、あの男は違うのか?】
「あの男?」
【村の神官だ】
「アーヴィン? 違うわ」
【そうか】
答えるあたしの脳裏に、出がけに見たアーヴィンの笑顔が浮かぶ。
笑顔なのに悲しそうだと思った彼の顔を思い出した途端、なんだか奥の方がキリキリとして思わず胸元を押さえた。
……これは、なんだろう。
てくてく歩くあたしは、町が目前に迫る辺りでようやくひとつの結論に思い至った。
きっとね、アーヴィンはあたしが出かけること自体は嬉しいのよ。
でもやっぱり自分が『運命のお姫様』を探しに行けないことは悲しいの。
笑顔だけど悲しそうだったのはそのせいね。
で、彼が悲しいと、あたしも悲しい。ってことなのよ。だって友達なんだもの。
そっか。
そうだよね。
うん、アーヴィンの気持ちはとっても良く分かる。だってあたしも『運命の王子様』を探しに行けなくてずっと悲しかったもの。
彼のために、あたしが何かしてあげられることってないかな……。
そう思った時、あたしの頭にひとつの考えが閃いた。
アーヴィンのために到着した町や村で彼の話を広めてあげるのはどうだろう。
「グラス村にはこんなに素敵な神官がいるんだよ」
って。
もしかしたらその話がアーヴィンの『運命のお姫様』の耳に入るかもしれない! そしたらきっとアーヴィンの『運命のお姫様』はグラス村へ駆けつけるに違いないわ!
うん、そうしよう!
良いことを思いついたあたしは、晴れやかな気分で町の大きな門をくぐった。
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