村娘のあたしが聖剣の主に選ばれちゃった! ~ただの村娘が『運命の王子様』を探しだすまで(?)~

杵島 灯

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あらわれた謎の剣

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 変な声が聞こえたように思うけど、辺りには誰もいない。
 あ、そうか。大声のせいで耳がキーンとしてるから、きっと耳鳴りね。

 そんなことを思いながらあたしが耳をポンポン叩いてると、

「ローゼ!!」

 さっきのあたしに負けずとも劣らない声でアーヴィンが叫ぶ。そのただならぬ声に一体何が起こったんだろうと思う間もなく、あたしの足が宙に浮いた。

 続いて甲高いヒューという風を切る音がしたかと思うと、ザッという何かが刺さるような音が少し離れた場所から。
 そして、ドンッという鈍い音が近くから聞こえた。
 事態の飲み込めないあたしが瞬いていると、アーヴィンの声がする。

「ローゼ、どこか痛いところは?」

 見ると、あたしの顔から本当に近いところ、下手するとキス2秒前くらいのところにアーヴィンの顔がある。
 でも彼の表情はキスの前みたいな素敵な様子じゃなくて、完全に不安と心配に満ちていた。

 一体何が起きたのかと思いながら左右を確認したあたしは、そこでようやく、横抱きにするアーヴィンによって床に倒されてるんだっていうことが分かった。

 何これ? 一体どういう状況!?

「なっ、ない、け、ど……」
「……そうか。ローゼが無事なら良かった」

 しどろもどろしながらあたしが答えると、ほっとしたようにアーヴィンが言う。
 すると少し離れたところから、やっぱり男の声が聞こえた。

【何やってんだ、お前ら】

 アーヴィンの腕の中から顔だけを動かして声の出所を探すけど、他に人なんていない。
 ただ、あたしたちがお茶してた机の上に、一振の剣が突き刺さってた。

 綺麗な刃は鏡みたいにピカピカ。翼を模した鍔も幾何学模様が刻まれてる柄も黄金色に輝き、柄頭には透明な宝石まで嵌まってる。

 すごい! なんて綺麗なの!

 あたしが呆然と眺めてると、アーヴィンが小さな声でうめく。
 はっとして顔を戻すと、彼は眉間にしわを寄せてる。額には脂汗まで浮かんでた。

「アーヴィン!?」
「……大丈夫」

 そう言ってアーヴィンはあたしに笑いかけてくれるけど顔色は良くない。
 きっと今の衝撃でどこか痛めたんだ。だってあたしを庇って、変な体勢になってたもの。

 慌てて彼の腕の中から這い出ると、彼は再び顔をしかめながら体勢を変える。褐色の髪を床に散らせ、小さな声で聖句を唱え始めた。

 ……全然、大丈夫じゃないじゃない。

 神官は治癒の術が使える。でも、治るまでの間はもちろん痛いのよ。
 床に座ったあたしたが申し訳ない気分で見守っていると、背後からまた男の声がした。

【無駄な怪我をしたもんだな。俺はお前らを傷つけない位置に落ちる予定だったんだぞ】

 声には呆れが含まれている。机の上に刺さった剣を見ながらあたしは呟いた。

「……まさか剣が喋ってるわけ?」
【まあな。この剣が俺だぞ】
「そう」

 うなずいたあたしは、ムカムカした気持ちを抱えながら立ち上がる。

「あんた、どっから来たの?」
【テンジョウからに決まってるだろうが】
「ふうん。テンジョウね」

 さっきも見上げた高い天井は、今見上げてもやっぱり高い。

「ねえ、アーヴィン。この神殿の天井に剣が隠してあるなんて言い伝えはあった?」 
「さあ。そのような記録は見たことがないな」
【馬鹿かお前らは。俺が居たのはテンジョウはテンジョウでももっと高いところ、天の上と書く天上だ】
「分かって言ってるに決まってるでしょ。それに、馬鹿はあんたよ」
【なに?】

 あたしはアーヴィンに視線を移した。彼は半身を起こして剣を見てる。
 痛めた場所は治ったんだってホッとすると同時に、ムカムカとした思いがドカンとした怒りに変わって、あたしは足音も荒く剣に近寄った。
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