村娘のあたしが聖剣の主に選ばれちゃった! ~ただの村娘が『運命の王子様』を探しだすまで(?)~

杵島 灯

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『運命の王子様』と『運命のお姫様』

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「やっぱり村を出て探しに行くしかないかないのかな。『運命の王子様』」

 あたしが憂鬱な息を吐いた時、アーヴィンがお茶と一緒にお菓子を出してくれた。
 咲いた花みたいに綺麗な形をしたお菓子。
 その瞬間、あたしは顔がほころぶのが分かった。

「あ、このお菓子、町でしか買えないやつ! みんなの間で話題になってて、食べてみたかったの!」

 嬉しくなったあたしが横のアーヴィンを見上げると、彼はやっぱり穏やかな声で「それは良かった」って返してくれる。
 あたしはお菓子を手に取って口の中に運んだ。

 ほろほろと溶けるお菓子の甘さは、そこまでくどすぎずいい感じ。最後にお茶で流し込めば、後口はすっきり爽やか。
 さすが町のお菓子! 村のお菓子とは全然違う! みんなが話題にするのも納得よ!

「すごい! 美味しーい!」
「喜んでもらえたようだね」
「もちろんよ! アーヴィンありがと! 大好き!」

 あたしの言葉にアーヴィンは笑みだけを返して、正面の椅子に座る。
 もう一個お菓子を手に取って、あたしはアーヴィンに問いかけた。

「そういえば、アーヴィンはどうして誰とも結婚しないの?」

 24歳になってるアーヴィンは未だ独身。
 顔は抜群に良いし、性格も……まああたしにはちょっと意地悪する時もあるけど、村の人にはとっても親切。
 そんなこともあって何人もの女の子がアーヴィンに告白してるんだけど、全員が玉砕してる。

「もしかしてこの村には、アーヴィンの『運命のお姫様』がいない感じ?」
「……そうだね」

 あたしがお菓子を食べながら尋ねると、正面の椅子に座ったアーヴィンはいつもの穏やかな笑みに、ほんの少し寂しさを混ぜてあたしを見つめてくる。

「例え自分が運命だと思っていても、相手が自分を見出してくれないのなら、それは運命ではないのかもしれない」

 彼の言葉があまりに胸を打ったので、あたしは思わず食べる手を止めて心の中で反芻する。

 自分が運命だと思ってても、相手が自分を見出してくれないのなら、か。
 さすがに神官は言うことが違うわね。なんかこう、すごく深い。
 しみじみと感じ入りながら、あたしは大きくうなずいた。

「……いいこと言うわね、アーヴィン。うん。本当にその通りだわ。例え運命の相手がいたって、会えないなら運命の相手になんてなれないもの」

 あたしの言葉を聞いたアーヴィンはわずかに目を見開く。やがて深く息を吐いた後、見開いた目を今度は伏せた。
 それを見てあたしは確信する。

 アーヴィンも本当は『運命のお姫様』を探しに行きたいんだ。

 王都の大神殿からこの村の神殿へ派遣されて来たアーヴィンもまた、村から出て行くわけにはいかない。だってうちの村に神官は一人しかいないもの。
 神聖な術で怪我を治癒してくれたり、魔物を退けたりできる神官がいなくなったら、村はものすごく困っちゃう。

 自分の役目をきちんと理解してるアーヴィンは、村の人たちのために『運命のお姫様』を探しに行かず我慢してるのよ。
 その分きっと、あたしの気持ちも良く分かるんだわ。だからこうして相談に乗ってくれてるに違いないの!

 あたしの状況とアーヴィンの気持ちとを考えているうち、あたしの胸には悔しさとか寂しさとかやるせなさとか、いろんな思いが湧き上がってくる。
 思わず立ち上がったあたしは、ぐっと拳を握り締めた。

 数百年の時を経た建物であるこの神殿の天井は高い。
 その天井を仰いだあたしは思い切り叫んだ。

「あたしはー! やっぱりー! 村の外へ出たいー! 『運命の王子様』を探したいいいー!」

 たいいい……たいい……いぃ……と声が響く神殿の中、あたしはもう一度大きく息を吸い込む。
 空が飛べそうなほど息を吸うあたしを見たアーヴィンは、この後のことを察したみたいで耳を押さえる。同時にあたしは建物を壊すくらいの大きな声で叫んだ。

「ちくしょおおお魔物さえええいなければあああああ王子様あああああああああぁぁぁ~~~ぁ………ぁ!!!」

 叫びながら徐々に体を折って、遂には床を見ながら息が続く限りの声を出し終えた後、あたしは膝に手をつく。
 ぜいぜいと肩で息をしてると、どこからともなく覚えのない男性の声が聞こえてきた。

【その心意気や良し! お前に決めたぞ!】

 ……ん? 今の声、なに?
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