優等生と劣等生

和希

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LASTSEASON

点滅する運命

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(1)

「冬夜さん、おはようございます、起きてくださいな」
「おはよう愛莉。ちょっと早くないか?」

まだ少し薄暗い朝。

「あまり眠れなくて。よろしければ、一緒に朝の散歩にいきませんか?」
「ああ、いいけど」

愛莉とテントを出るとまだ誰も起きてない。
夜のコースは愛莉がいやがるので砂浜を歩く。

「愛莉足大丈夫?」
「サンダルだから平気です」

波の音と海鳥の鳴き声をききながら朝の海を散歩する
砂浜に2人の足あとを残しながら。
小さな河口に辿り着くと飛び越えるのは無理だし戻ろうかという。
戻ると流木に座っている人がいる。
ますたーどの4人と彩人と松本さんだ。
不思議な組み合わせだな。
声をかけてみた。

「おはよう」
「おはようございます」

6人が返事をした。

「こんな時間にどうしたの?」

僕が聞いてみた。
理由はよく分からないけど昨夜打ち解けたらしい。
で、朝偶々同じ時間に起きたから一緒に話をしているのだとか。

「片桐さんも今同棲されているんですよね?」

彩人が聞いてきた。

「まあね」
「その……いろいろ自由がきかなくなるとかないですか?」

ああ、そう言う話をしていたのか。

「そうだね、自由ではなくなるね」
「やっぱり……」

6人は深刻に考えている。
昔見たアニメの話をしてみた。

「1人で自由になるってどういうことだと思う?」
「何をしてもいいって事じゃないですか?」

彩人が答えた。

「そうだね、何をしても自由だ。どこにでも行ける。君を縛る物なんて何もない」

愛莉にお願いしてメモ帳とボールペンを借りる。
メモ帳を一ページ破り真ん中に棒人間を書く。

「こんな感じかな。何をしてを文句を言う人もいない。たった一人宙に浮いている状態。これが完全な自由だと思う。君はこんな状態になったときどう思う?」

君を見ている人は誰もいない、君を認識する者も誰もいない。自由だと喜べるかい?
6人は考え込んでいる。

「とても不安です。自分が何をしたらいいのかすら分からなくなってしまいそうで」

美月さんが答える。
そこの答えを聞くと。僕は棒人間の下に一本の線を引いた。

「こうすると君は地面に足をついた。その代わり空を飛ぶと言う事が出来なくなってしまった。一つ自由が失われてしまった」

気持ちや考え方がしっかり安定していて、落ち着いてる状態を足が地につくというらしい。
逆にさっきのように気持ちが落ち着かなかったり、考え方が浮ついてる様子を足が地についてないというらしい。
僕はそのまま沢山の人や建物を書いていく。

「こうすると君の行動の自由や制限されていく。代わりに君をしっかり見守ってくれる人がいる。中でも特別君を見てくれる人がいる」

手をつないでるもう一人の人間。
僕らは求めあう寂しい動物。
肩を寄せるようにして愛を歌う
抱いたはずなのに付き飛ばしたり、包むはずだったのに切り刻んで、撫でるつもりが引っかいたりしても、それでも愛を求める。
解り合おうとしても僕らは違った個体だけど一つになりたくて暗闇でもがいている。
君達はそんな袋小路に迷い込んだまま抜け出せずにいる。
夢を見るから儚くて、探すから見つからない。
欲しがるから手に入らなくて途方に暮れる。
一体どこで間違ったのだろう?
考えてる暇すらないけど答えが出ないから不安でいる。
君は君で、僕は僕。そんな当たり前の事すら簡単に見失ってしまうんだ。
一つになる必要なんてなる必要はない。僕らは違った個体なんだから。
認め合う事が出来ればいい。
キスしながら唾を吐いて、舐めるつもりが噛みついて、服を着せるつもりが引き裂いてまた愛を求める。
ひとつにならなくても認め合えばそれでいい。
そうすれば君達の暗闇を優しく散らして光を与えてくれるだろう。

「一緒になるってそう言う事だと思う。価値観も理念も違う二人が一緒になるんだ。ひとつになんてなれっこない。ただ二人だから認め合う事が出来る」

だから素晴らしいんだ。
6人は僕の話に聞き入っていた。

「認め合える人間がいるから人は歩いていける。一人だと自由な代わりに不安定な気持ちを抱えたままでいるってことですね」

大原君が言った。

「そういうことだよ。少なくとも6人は認め合っているから一緒にいるんじゃないのかい?」
「そうですね……迷いが晴れました。ありがとうございます」

大原君はそう言う。

「決心は固まったようだね?」
「はい!」
「おーい、朝ごはん作るからあんた達も手伝ってよ!」

亜依さんが言う。
もうそんな時間か。僕らはテントに戻った。

(2)

俺は早く目が覚めた。
亜依はまだ寝ている。
俺はそっとテントの外に出た。
薄暗い朝。
灰となった炭を取り除き新しい木炭を置く。
真ん中の木炭に着火剤を塗り火をつける。
後はぼんやりと眺めて周りの木炭が燃えるのを見守る。

「おはようっす瑛大先輩。早いんですね」

晴斗が起きて来た。

「おはよう晴斗」

木炭を足しながらポットにミネラルウォーターを入れて火の上に吊るす。
インスタントコーヒーをコップに入れて沸いたお湯を注ぐ。
一つを晴斗に渡す。

「飲むだろ?」
「あざーっす」

コーヒーを飲み終わると次はご飯の準備だ。晴斗に火の番を任せて俺は飯盒の準備をする。
米を入れて研いで水を入れるを繰り返す。
人数が人数なだけに量が凄い。
暫くすると白鳥さんがきた。

「手伝う……」

白鳥さんと一緒にごはんを炊く準備をしていると晴斗がやってくる。

「皆起きて来たんでこっち手伝いにきたっす」

晴斗と白鳥さんに研ぐのはまかせて用意のできた飯盒を運ぶ。
皆起きて来ていた。
女性陣はおかずとインスタントのみそ汁の準備をしていた。

「そんなの俺達に任せてくれたらよかったのに」

真鍋たちが言う。

「いいんだ。たまたま早く起きただけだから」

そう言って作業を続ける。
亜依は海岸で話してる冬夜達を呼んでいた。
朝食が終ると皆片づけを始める。
女性陣は洗い物。
男性陣はテントの片づけ。
自分の分が終ると他の人、てこずってる人を手伝う。
そんな中に佐々木もいた。

「悪いね、こういうの慣れてなくてさ」
「気にするな、そのうち慣れる」

ポールを外して片付けてシートをたたむ。

「でもこう言っちゃなんだけど桐谷さんが率先してやるなんて意外だね」
「だろうな」

自分でも何でこんなことしているのか分からない。
いや、本当は分かってる。
少しでも早く皆の信頼を取り戻したいから。
片付けたキャンプ道具を車に積み込んでいく。
皆が作業が終わると集まる。

「お疲れ様、ここで解散だけど例年通り銭湯によってファミレスで昼飯にしようと思う。希望者だけでいいから来てくれ」

渡辺君が言うと、俺は亜依の顔を見る。

「いいんじゃない?私も体中べたべたでさ」

俺達も銭湯に参加することにした。
銭湯につくと服を脱いで打たせ湯を浴びて体を洗い。サウナに行く。
皆は風呂に浸かって寛いでいた。
1人でじっと考える。
すると佐々木がやってくる。
佐々木が色々話しかけてくる。
しかし色々な不安が頭をよぎって頭に入ってこない。
就職の不安。上手く順応できるだろうか?
家庭の不安。また亜依を怒らせてしまうんじゃないか?
人生の不安。どうやってみんなに償っていけばいい?

「……桐谷さんでも悩むことあるんだね?」

佐々木君が言った。

「悪いか?」
「いや、こう言っちゃ失礼だけど凄く意外だから……良かったら君の話相手くらいはできるよ?1人で悩んでいてもしょうがないでしょ?」
「そうかもしれないな……」

佐々木に今考えていたことを話した。
佐々木は真剣に聞いていた。

「……なるほどね。君は将来に怯えているわけだ」

怯えている……。
佐々木は僕の考えてることを簡潔にまとめてみせた。

「興味深いね、将来に対する不安。誰でも経験することだと思う」

佐々木は言う。そして続けた。

「不安を感じるのは悪い事だとは僕は思わないけどね。不安が無ければ人間は成長しない」
「お前にもう次は無い。崖っぷちに立った人間の気持ちがわかるのか?」
「そんな状況に陥ったことがないからそこは理解できない。君がどんな真っ暗な世界を彷徨っているのか分からない……けど」
「けど?」
「そんな影の中にいるってことは近くに光があるって証拠だよ」

光りがある?

「近い将来『あのときのおかげで……』と思える日が必ず来るはず。知ってる?神様は乗り越えられる壁しか作らない。壁が大きいと言う事はそれだけ君が大きいということさ」

乗り越えられる壁か。
散らかってる点を拾い集めて真っ直ぐな線で結ぶ。
闇を彩て海を泳ぎ渡って風となり大地を這う。
限りあるまたとない永遠を渡って最短距離で駆け抜けるよ。

「光の射す方へ……か」

俺は呟いていた。

「正解が見えたようだね」

佐々木はそういって微笑んでいた。

「じゃ、僕は行くよ。お先~」

佐々木はサウナを出る。
俺もそろそろ限界かな。
サウナを出ると汗を流して。風呂に浸かる。
何となくみんなの群れから距離を置く。

「どうしたんだよ瑛大。そんな隅っこいないでこっちに来いよ!」

誠に呼ばれる。
どうしたんだ?
皆のそばに行くと冬夜が言った。

「木元先輩たちに聞いたんだけど、桐谷君就職先見つかったそうじゃない?ファミレスで軽くお祝いしようってなってさ」

冬夜が言う。
俺は躊躇う。

「ファミレスならアルコール無いから大丈夫だろ?お前ちっとも楽しそうじゃなかったからさ。少しは弾けろよ」

誠が言う。

「瑛大、らしくないぞ!いつもの元気はどうした?」

渡辺君が言う。
皆から励ましの言葉をもらう。
だけど……次が無い。そう思うと怖いんだ。
すると冬夜が言う。

「桐谷君は自分が悪いと責めるあまり、自分を全否定している。良い所も悪い所も。確かに亜依さんをあそこまで追い込んだのは桐谷君だ。けれどそんな桐谷君を赦したのも亜依さんだ」

俺は冬夜みたいに、頭の回転がいいわけじゃない。冬夜の言ってる意味が理解できない。

「知ってる?夜明け前が一番暗いんだってさ。……もうじき夜が明けるよ」

トンネルもいつかは抜ける……か。

「時間は桐谷君に立ち止まることをゆるさない」

例え夜だったとしても。もっとこの僕を愛して欲しいんだ。
月夜に歌う虫けらのように羽を開いて光の射す方へ。

「……俺が就職したらみんな薬箱契約してくれよな!」
「……身内からたかるつもりかお前は!」

渡辺君がそう言って笑う。
笑い合える場所が僕にはまだある。
僕らは夢見た挙句彷徨って、空振りしては骨折ってリハビリしてる。
でもいつの日か君に届くだろう。
心につけたプロペラを使って時空を超えて光の射す方へ。

(3)

「全くあの馬鹿は……」

いつまでもいつまでもぐちぐちと……。

「ちょっと強くやり過ぎたか?」

神奈が言う。

「あのくらいやらないと分からなかったんだしちょうどいいんじゃね?」

美嘉が言う。

「でもこれで、渡辺班の女性陣に心配の種は無くなりましたね」

穂乃果が言う。

「そうですね」

花菜が言う。

「だといいんですけどね~」

咲良が言う。

「まだまだこれからじゃない?新しいメンバーも増えたし、同棲しても間もない子もいるし、これからまだ何があるか分からないわよ」

聡美さんが言う。

「同棲と言えば美里はどうなの?何も無いわけ?」
「ええ、特に何も無いですね。彼真面目だし」
「そう言う真面目ぶってる奴が一番危ないんだぜ?一度転がりだすとどこまでも落ちるからな」
「神奈の言う通りだ。陰でなにやってるかわかったもんじゃねえ!」

神奈と美嘉が美里を脅かす。

「そろそろ出ない?私のぼせちゃう」

愛莉が言うと皆ぞろぞろと出る。

「待て!瞳美っていったか?ちょっとこっちこい!」
「はい。どうしました?」

神奈は瞳美を見てそして落ち込んでる。

「皆早く出るよ。神奈もくよくよしてないで早く出てきなよ」

そう言って私も出る。

「私の立ち位置は変わらないのか……」

そう呟くカンナを残して。


銭湯を出るとファミレスで瑛大の就職祝い。
銭湯で何があったのか知らないが瑛大は元気を取り戻していた。
明るく振舞っているだけかもしれないけど。
でも振舞っているだけでもいい。
最近ずっと大人しかったから。
キャンプの時も大人しかった。
そんなにショックだったんだろうか?
あいつをそこまで責めるものだったのだろうか?
私が望んでいることはそんな事じゃないのに。
瑛大の中に私がいるんだって事を認識してほしかった。
認識していたけど拒絶という反応を示していた。
私を受け入れてほしかった。
ただそれだけなのに。
今でも私を拒絶しているように見える。
考えすぎ?
そうであって欲しい。
私の中から瑛大が消えようとしていた。
それが楽だと思ったから。
嫌いでいるうちはまだいい。
認識すらしなくなったら、二度と修復できない。
私の中で瑛大は点滅していた。
でも、今は再びちゃんと点灯している。
それが嬉しい。
それをどうやって瑛大に知らせたらいい?
そんな事を考えながら日々を過ごし、そしてキャンプをして今隣ではしゃいでいる瑛大を見ている。

「やっぱ瑛大はこうでないとな!」

多田君が言う。

「ねえ、亜依さん」

向かいに座っていた佐々木君が話しかけていた。

「あんな桐谷さんをどうして再び受け入れようと思ったの?非常に興味あるんだけど。二人を結ぶ絆って何?」

佐々木君の問いに答えた。

「覚悟よ」
「覚悟?」

佐々木君が聞き返す。

「どんなに喧嘩してもどんなに傷つけあっても許す覚悟」

彷徨い果てて疲れ果ててもあなたの隣で火照りを鎮めたい。
いのちの続く限り、本気の心を見せつけるまで私は眠らない。
共に喜びを喜び、悲しみを悲しむ。
いのちの限り生きて目覚めたまま夢を見よう。
この世の果てにまでずっと響かせよう。

「中々奥深い世界なんだね。でもそれは桐谷さんじゃないと駄目なのかい?」
「そうよ」

佐々木君の問いに私は即答した。
だってその世界は瑛大と作り出した世界なのだから。
私達はその世界の中で共に歩む。
風の始まりの音を奏でる。
生きる事を諦めないで前に進む。

「本当にそうなのかな?」

佐々木君はくすりと笑った。
佐々木君は瑛大を見ている。

「しかし瑛大本当に大丈夫なのか!?ルート営業とはいえ新規開拓もしないといけないはずだぞ?」
「ノルマも厳しいから離職率も激しいと聞いたが」

檜山先輩と木元先輩が瑛大に聞いてる。

「大丈夫だって!だって新規つったって昼間ぼーっと過ごしてるばばあ相手だろ?」

男性陣の温度が下がった瞬間だった。
女性陣の動きがぴたりと止まる。
まずいと気づいた片桐君と渡辺君と多田君が瑛大を止める。
が、この馬鹿は自分の言ってる事の意味を全く分かっていない。

「うちの嫁のガミガミ五月蠅いのも耐えてきたんだ、怖いものなんかねーよ!」

片桐君達は頭を抱える。

「昼間ぼーっと過ごしてる……ですって?」

恵美が反応する。

「ああ、そうだ!テレビ観てお菓子食ってごろごろしてるだけのババア相手だ!」
「ババアですって……?」
「テレビ観てお菓子食ってごろごろしてるだけ?」

晶と花菜と咲良と愛莉の導火線にも火をつけたらしい。
だが、この馬鹿はそれだけじゃ気が済まないらしい。

「女の相手なんて愚痴聞いて『ああ、そうですね』って適当に流してりゃいいだけだって」

女性全員を完全に敵に回した。
絶望する男性陣。

「ぼ、僕達ジュースお替りとってこようか。奈留」
「瞳美も俺がジュースとってきてやるよ、コップが空じゃないか。何がいい?」

だが、女子高生すらも聞き捨てならない言動だったらしい。

「適当に聞き流してればいいと公生も思ってるわけ?」
「ちょっと和君の考えを聞くいい機会かもしれない」

奈留と瞳美も見逃しはしなかった。

「あれ?ど、どうしたの?皆様子が変じゃね?」

皆黙っていた。
そんな中一人口を開くものがいた。

「み、みんなを代表して言わせてもらうよ。今のはあくまでも桐谷さんの固定概念だ。一般的な考え方とはかけ離れてる」

だから僕達は悪くないと主張する佐々木君。

「そんなの関係ねえ!お前ら全員ちょっと話を聞かせてもらおうか!?」

美嘉が言うと女性陣は自分の相手にまくしたてる。
必死に言い訳する男性陣。
だけどなんだろう?私は不思議と怒りが湧いてこなかった。
そう、やっと帰ってきたんだこの馬鹿は。
おかえりなさい。

(4)

やってしまった。
つい調子に乗って口が滑ってしまった。
女性陣が怒る中亜依は何も言わなかった。
そして今もまだ口をきいてくれない。
そっぽを向いて窓の外を見ている。
説教は数時間に及び家に帰る頃には暗くなっていた。
家に帰るとキャンプ道具を片付ける。

「亜依、弁当買ってくる。今日は疲れたろ?何が良い?」
「……いつもの」
「わかった」

弁当屋さんに行って弁当を買うと家に帰る。
するとなんかいい匂いがする。
みそ汁だ。

「お前の事だからみそ汁までは頭が回らないと思ってな。みそ汁くらいならすぐ作れる」
「あ、ありがとう」

それから二人で弁当を食べる。

「片づけは俺やるよ」

そう言って片づけると風呂に入ってビールを飲む。

「亜依も飲む?」
「私今日深夜勤なんだ。今から飲んだら捕まってしまう」
「あ、そうか。ごめん」
「疲れたから少し寝とくよ」

そう言って亜依はベッドに入る。
僕はテレビを見ていた。
亜依が出勤する時間前に亜依を起こす。

「お前まだ起きてたのか?」
「俺はほら、昼間遊んでるも同然だから……」
「いい加減生活リズム直さないと仕事始めたら大変だぞ?」

亜依がそう言って着替えて準備を始める。
そして出かけようとする。
今日のうちに言っておかないと取り返しがつかない。

「亜依!ごめん!またやっちゃった!俺馬鹿だから……」

何度も同じミスを犯してしまう。

「よくわかってるじゃないか」

亜依が言った。

「お前は何度言ってもちっとも直らない。調子に乗るとすぐにあれだ」

今度こそ終わったかな……。

「……だけど、変われることも分かった。お前でもやれば出来るんだな」

なんか様子が変だぞ。

「見送ってくれる為に起きてたんだろ?ありがとうな。行ってくる。夜更かしも程々にしろよ」
「……行ってらっしゃい」

亜依は家を出た。
窓から亜依の車が出ていくのを見届けると、照明を消して眠りにつく。
変われる強さ、変わらぬ想い。
長い旅路の果てにやっと掴んだもの。
もう二度と手離さない。

(5)

「う~ん……」

愛莉が唸っている。
ファミレスで夕食を食べた。
パスタとピザがメインのファミレス。
メニューに悩んでるわけではなさそうだ。
だって注文はとっくにしたのだから。
久々に愛莉が悩んでいる。
原因は多分桐谷君のせい。
この日男性陣は桐谷君を恨んだ。
特に木元さんと檜山さんは大変だったらしい。
僕も多分大変な事に巻き込まれているんだろう。
あの二人はどうやって機嫌をとったのだろう?
すると愛莉が突然話しかけてきた。

「冬夜さんはどう思いますか?」

謝るしかないだろうな。

「そんなことないよ、愛莉は家の事しっかりやってくれてる。何より愛莉に休めって言ってるのは僕なんだし!僕は全然そんな事考えてないよ!」

力の限り弁解した。
だけど愛莉はよく理解できなったようだ。

「え?何のことを仰ってるのですか?」

へ?

拍子抜けする僕。
そんな僕を見て愛莉はクスクス笑う。

「もしかして、桐谷さんのことを考えてると思ってらしたのですか?」
「違うの?」
「まあ、桐谷さんの事と言えばそうなんですけど、ちょっと違いますね」

どうやら災難は免れたらしい。

「冬夜さんは、私を気遣って下さるのにあのような事を思ってるはずがありません。信じてますよ」
「ありがとう。でも、それじゃ何を悩んでるんだい?」
「亜依が不思議だったものですから」

亜依さん?

「真っ先に怒るのは亜依のはずなのに、亜依さんはなぜか笑顔で桐谷さんを見てらしたので」

気づかなかった。

「いつもの冬夜さんならすぐに気づいてるはずなのに、余程慌ててらしたのですね。そんなに私信用無いですか?」
「ご、ごめん」
「大丈夫ですよ。それよりどう思いますか?亜依の行動」

先に来たピザを切り分けながら考える。

「そうだね……愛莉と同じなんじゃないのかな?」
「私とですか?」
「きっと桐谷君を許す気になったんじゃないのかな?亜依さんは何かに気付いたんだと思う」
「それはなんでしょう?」
「そればっかりは本人にしか分からないかもね。ただ……」
「ただ?」
「変われる強さ、変わらぬ想い。二人はそれを手に入れたんじゃないのかな?」

桐谷君は忘れてはいけない想いにやっと気づいた。そして変わろうとする強さを手に入れた。その事を誰よりも感じたのは亜依さんだ。
だから亜依さん自身も、その想いに気付いた。
消えつつあった点滅する運命は再び力強く灯った。
もう消えることは無いだろう。
最後の日まで。
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