優等生と劣等生

和希

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LASTSEASON

花束を君に

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(1)

「冬夜さん、朝ですよ」
「おはよう愛莉。でも今日は土曜日じゃない?」

休日出勤だっけ?

「今日は神奈と誠君の結婚式ですよ。準備しないと」

ああ、そうか。
身支度を終えると朝食を食べる。
しかし次から次へと結婚していくな、渡辺班は。
誠とカンナもとうとう挙式か。
新婚旅行に行ったのは酒井君と真鍋君くらいか。
誠達は行かないのか?と聞いたら

「俺が今シーズン中だろ?行く暇なくてさ」

って言ってた。
シーズンが終わったら行くらしい。
行き先はまだ未定だって言ってた。
誠は旅行先にフィリピンを希望したらしいが、カンナが「お前はスピード離婚がお望みか?」と一蹴したらしい。
いい加減学習しろというのにまったく。
僕と愛莉は相変わらずだった。
相変わらずのはずだが、愛莉はすでに結婚したつもりでいるらしく愛莉ママに言われた教訓を実践してる。
そうなるやはり焦ってしまうもので愛莉に入籍だけでもしようかと聞いたんだけど

「クリスマスイブに素敵な言葉を聞かせてくれるのでしょう?楽しみに待っています」と言われた。

愛莉が片づけを終えて、掃除をしている。
僕は寝室に追いやられる。

「休日くらい休んでいいよ。僕だって休んでるんだし」
「冬夜さんはその分夜優しくしてくれるから気にしないで」

そう言って家事を止めない。
掃除洗濯が済むと一息つく。
その間愛莉が構って欲しそうにしてるので相手をする。
これで愛莉の機嫌がよくなるなら、安いもんだ。
というか同棲生活を始めて愛莉の不満を全く聞かなくなったな。

「愛莉さ……」
「はい?」
「最近、不満とかあんまり聞かないけど大丈夫?」

自分に落ち度はないのだろうか?
だけど愛莉は言う。

「私……なにかお気に障るような事しましたか?ごめんなさい」
「あ、いやそうじゃないんだ。ただため込んでないか心配で」
「冬夜さんは早く帰ってきてくれるし、休日は私に構ってくれるし、いつも私の事を気にかけてくださる優しい旦那様ですから」

不満はないらしい。
それ以上は聞かなかった。
あんまりしつこいと逆効果だろうし。
お昼になると愛莉は昼食の用意を始める。
そして昼食を食べると愛莉は片づけをしてから着替えを始める。
着替えが済んでバッグを持つと「準備出来ましたよ」と、言う。
僕も着替えて家を出る。
いつもの美容室。
愛莉は髪のセットをする。僕もセットしてもらう。
それからバスに乗って駅前で降りる。
駅から式場のタワーホテルまで歩く。

「あの二人も挙式なんだな」
「そうですね、やっとですね」
「あの二人上手く行くんだろうか?」
「神奈から愚痴不満は減りましたね。あの一件以降」

あの一件とは誠が妊娠詐欺にあったこと。
大分反省したらしい。
生活改善したと言ったら、桐谷君も亜依さんの事を案じるようになったらしい。
家事も進んでやるようになったとか。
中島君も同様らしい。
多田家、百舌鳥家、サッカーチームの監督等、渡辺班からは僕と僕と愛莉だけチャペルに参列して、他の渡辺班は披露宴にでるらしい。
2次会の会場はいつものパーティーホール
そこには渡辺班全員参加するらしい。
出し物もALICEとますたーどの余興があるらしい。
ホテルについて受付で祝儀を渡す。
20階まで上がって待ってる。
良くクリスマスとかに来るレストランだ。
チャペルも用意してあるらしい。
僕達は席に座って、カンナ達の登場を待つ。

(2)

コンコン。

「俺だけど入って良いか?」
「ああ、いいぞ」

誠が入ってきた。

「うわ、めっちゃ綺麗だぜ」
「ありがとうな」
「じゃあ、開始まで二人でゆっくりしてなさいな」

母さんがそう言って退室する。

「待たせてごめんな。やっと神奈にお礼が出来る」
「そんなしけたことを聞きたくて挙式したわけじゃないぞ」
「そうだな、色々あったけどやっとここまでこれた。それもこれも神奈のお蔭だ」
「二度も言わせるな。そんな言葉を聞きたいわけじゃない」
「神奈……愛してるよ」
「ああ、ありがとう……私も愛してるよ。今日はありがとう」
「いいよ、これくらい。あ、写真撮って良い?」
「いいけど」

誠はスマホで写真を撮っている。

「後でカメラマンが撮影してくれるらしいぜ」
「そうだったのか!?」

誠は知らなかったらしい。

「なあ、誠」
「どうした?」
「本当に私でいいのか?」

口うるさい私に失望してないか?後悔しないか?

「さっき言ったろ、今までやってこれたのは神奈のお蔭だ。やっと神奈に恩返しができた」
「そうだな、でも恩返しなんて考えなくていいんだ。二人でここまで歩いてきたんだ」

そしてこれからも二人で歩いていくだろう。

「そうだな」
「そろそろ準備よろしいでしょうか?」

外でスタッフが呼んでいる。

「じゃあ、また後で」
「ああ、また後で」

式が始まった。
母さんとヴァージンロードを歩く。
母さんはうっすら涙を浮かべている。

「泣くなよ母さん、笑って送って欲しい」
「あんなことがあったお前がこんな日を迎えるのが嬉しくてつい」
「私は今まで幸せだったよ。そしてこれからも」

祭壇には誠と誠の父親が待っている。
誠は母さんから私を受け取る。

「確かに受け取りました。これからは俺が神奈を必ず幸せにします」
「宜しくお願いします」

それから誓いの言葉を交わす。
そしてブーケプルズが行われる。
引き当てたのは愛莉だった。
愛莉は喜んでる。
式は恙なく終わり。披露宴に場を移した。

(3)

僕達は愛莉と渡辺夫妻と席が一緒だった。
愛莉は羨ましそうにカンナを見ている。

「神奈きれいだね」
「……愛莉も憧れる?」
「私も一人の女ですから」

憧れない女性がいるわけないと、愛莉は言う。

「でも、焦らないで。私には約束された未来が待っていると信じてますから」

愛莉はそう言て笑う。

「愛莉ああ見えてドレスは歩きづらいし、結構しんどいぞ?」
「美嘉、時と場合を考えろ。今言う事じゃないだろ?」

渡辺君が美嘉さんを窘める。

披露宴では上質のフレンチコースが待っていた。
僕はそれを堪能する。
でも以前の愛莉はいなかった。
ただ「そんなに慌てて食べなくても料理は逃げませんよ?」と微笑んでいる。
余興は、ALICEとますたーどが担当した。
ALICEは結婚ソングを、ますたーどは結婚ネタを披露していた。
僕もフォークソングを弾き語りしてやった。
ゆかりさんと彩(ひかる)から祝電が届いていた。

共にしあわせになろうね

あの二人も挙式したらしい。

「今日はお集まりいただきありがとうございました。お陰様で私たちは新たな一歩を皆様の温かい祝福の中で踏み出すことができました」

神奈と誠からの挨拶があった。
披露宴は終わり、二次会の場所へと移動する。
いつものパーティホールだ。
二次会は渡辺班だけで行われた。
皆が誠達に挨拶をする。
僕達も神奈に祝いの言葉をかけた。

「カンナおめでとう」
「サンキュー」
「誠も今日は飲めよ……」
「いや、今日は遠慮しとくよ」
「どうしたんだ?」
「いや、今日は初夜だろ?しっかり楽しみたい」

そういうことを言うと……。

「お前は新婚早々私を怒らせたいのか?」
「ま、待て俺は神聖な儀式としてだな」
「誠君は相変わらずだね」

愛莉は笑っている。

「愛莉も笑っている場合じゃないぞ。次はお前たちの番だぞ」

カンナが言う。

「うん、でも今のままでも幸せだから……」

愛莉が言う。
挨拶が済むと僕達は席に戻った。
そこでもALICEとますたーどのライブが行われた。
ますたーどのネタは誠と桐谷君達のエピソードをネタに作られらしい。
それらを楽しみながら僕は料理を堪能する。

「食べ過ぎには気を付けてくださいね」

愛莉は優しい。
優しい言葉をかけられると、人間素直になってしまうもので。
ちょっとだけ控えめにした。
その分愛莉との会話を楽しむことにした。
ますたーどのライブが終るとカラオケの時間が始まる。
皆それぞれのウェディングソングを歌う。
二人を祝福する歌が流れる。
愛莉も歌っていた。

花束を愛しい君にあげる。
どんな言葉を並べても君を讃えるには足りないから、今日は花束を君に贈るよ。

愛莉は席に戻ってくると言った。

「折角だから冬夜さんも一曲歌ってあげたらいかがですか?」

愛莉に言われて一曲歌うことにした。

二人寄り添って歩いて、永久の愛を形にして、いつまでも君の隣で笑っていたい。
ありがとうや愛してるじゃ足りないけど、せめて言わせて「幸せです」

それは神奈達に贈った曲というよりは僕から愛莉へのメッセージ。
愛莉もそれを察したのか顔を赤くしてる。
席に戻ると「いけませんよ、今日は神奈と誠君のお祝いなんですよ」と愛莉は言った。

2次会が終ると公生と奈留、多田夫妻は帰った。
誠は本気だったらしい。

「じゃあ、あとは皆で楽しくやってくれ。俺には俺の楽しみがあるんだ」

真顔で言ってる辺りが凄い。

「今日はありがとうな」

カンナもそう言った。

誰かが「多田君、避妊はしっかりな。神奈さんはまだ入社一か月も立ってないんだ」と揶揄う。
誠は「馬鹿、初夜だぜ!そこは……いてぇ!」
「お前はいい加減にしろ!」とカンナが言う。

そうして4人は帰っていった。

「じゃあ、俺達は俺達で楽しむとしようか?」

渡辺君が言うと3次会のカラオケに移動した。

「亜依と穂乃果は大丈夫なの?」

愛莉が二人に聞いている。
亜依さんは準夜勤、穂乃果さんは深夜勤にしてるから大丈夫らしい。

「偶には羽を伸ばさないとね」

亜依さんは笑っている。
上手くやっているんだな。
一月もすれば新しい環境に順応するものなのだろうか?
気が付くと愛莉が僕の腕にしがみ付いている。

「どうしたの?」
「こうして街を歩くのも久しぶりだから……」

なるほどね。
愛莉の細やかな希望を受け入れながらゆっくりと歩いていた。

(4)

家に帰ると「疲れた~」と神奈が着替えてベッドに倒れている。

「お疲れ」

俺も着替えると、シャワーを浴びて出る。
すると神奈が倒れたままピクリとも動かない。
そっと近づくと神奈は眠っていた。
本当に疲れていたんだな。
俺は冷蔵庫にストックしてあった缶ビールを取ると飲みながらテレビを見ていた。
花嫁はしんどいって本当なんだな。
さすがに疲れ果てた神奈を叩き起こすような非道なことは出来ない。
PCを起動してみる。
別に怪しい行動をするわけじゃない。
単なるネットサーフィンだ。
万全を期している。
怪しいサイトも見ない。

新婚生活の心構え。

そんな検索ワードを辿っていた。
今さらな気がするけど、今までが今までだったから。
冬夜と遠坂さんを見ていると俺達に欠けているものが沢山浮き彫りになったから。
未婚の二人から教えられるとはまだまだだな。
あの二人に不安を抱かせるような新婚生活は避けたい。
そんな検索をしていると目に留まった言葉があった。

夫婦生活に無駄な一日は無い。

夫婦生活はある日突然終わるかもしれない。
それは離婚だけじゃない。
突然目の前からいなくなってしまう恐怖は常に付きまとう。
だから毎日を大切に過ごそう。

君がいるから繰り返し芽吹く一瞬こそ全て。
そばにずっといるよ、ずっと寄り添っていよう。
向かい風に汚れない。
君を失う怖ささえ輝いている
繰り返し芽吹く一瞬こそ全てだから、喜びを喜び、悲しみを悲しみ、いのちを生きて目覚めたまま夢見よう。
響かせようずっとこの世の果てにまで。
ずっと愛してるよ
風の始まりの音奏でよう。

一日一日の生活が大切な思い出になるんだ。
そんなメッセージがあった。

「へえ、誠でも気にしてるんだな」

振り返ると神奈が立っていた。

「悪い、気が緩んだらつい寝てしまった」
「いいんだ、疲れたんだろう?ゆっくりしててくれ」
「……シャワー浴びてくる」

そう言って神奈はシャワーを浴びに行った。
しばらくして戻ってくる。
そして後ろから俺を抱きしめる。

「何の為に早く帰ったんだ?」
「神奈もくたびれてるだろうから?」
「……お前はくたびれて疲れてる妻を放置してPCを弄ってるような冷たい夫なのか?」

俺だって神奈の言っている意図くらい分かる。

「……いいのか?」
「記念だしな」

俺は少し考えて言った。

「傘を持ってきたか?」

神奈は笑って答えた。

「はい、新しいのを」
「さしてもいいか?」
「……はい」

俺達はベッドに入る。
神奈は服を脱ぎ始めている。

俺はそんな神奈を見ながら言った。

「落ち着いたら引っ越そうか?」
「え?」

神奈は驚いている。

「もう少し広い所に住むくらいの余裕はあるはずだ」

神奈は首を振った。

「私もいつまでも働いてるつもりは無い、育児に専念したい。子供が出来たら考えよう。私達二人には今の広さで十分だ」

神奈はそう言って俺に抱き着く。

「シングルベッドの狭さもお前の温もりを感じるにはちょうどいい。忙しさにかまけてお前に構ってやれなくてすまなかった」

神奈はそう言う。
その晩は神奈の熱を感じながら過ごした。

(5)

三次会は盛り上がった。
難しいと思った桜木さんでさえ、一歩踏み出せていた。
ただ梅本君がいつもの調子で少々不満を抱えていたようだったけど。
しかしそんな不満も前向きに受け止めていた。
自分以外の女性に目がいかないように。自分だけを見て欲しいと主張していた。
梅本君もそれは感じていたようでやがて桜木さんと二人の世界に入っていた。
小鳥遊さんも月見里さんと一緒に語り明かしていた。
深雪さんを交えて、医者の心構えを熱心に聞いていた。
二人とも深雪さんが理想だったらしい。
あとは、吉野さんの相手探しか。

「順調じゃないか新しいメンバーも」

渡辺君が言うと頷く。

「心配いらなさそうだね」

僕が言う。

「次は石原君達の番か」

渡辺君が石原君に言う。
石原君は力強くうなずく。

「渡辺班の春はずっと続いていくんだろうな」

渡辺君が言う。

「愛莉たちはどうなの?上手くやれてるみたいだけど」

亜依さんが愛莉に聞いた。

「まだまだかな?冬夜さんに心配かけてるみたいで」

そりゃずっと働き詰めじゃないか?心配もするよ。

「どういう事?」

亜依さんが聞いた。

「冬夜さん私に気づかって自由に休めていないんじゃないかって」
「愛莉ちゃん、男を自由にさせて良い事なんて一つもない。しっかり手綱引き締めておかないと」
「恵美の言う通りだ。男は自由にさせるとろくなことしない」

恵美さんと美嘉さんが言う。

「でも私のこと怖がってるみたいな節もあるし……。休みの日に会社のゴルフコンペ行くのも申し訳なさそうに言うの」
「ちょっと片桐君こっちに来なさい!どういう事!?愛莉を不安にさせてどうするの!」

言ってる事が矛盾してないか?
自由にはさせるな。愛莉に気づかったら不安にさせるなって。

「冬夜さんが悪いわけじゃないの。冬夜さんは本当に優しいんだよ。でもゲームすらする時間まで惜しんでるから」
「それは違うよ愛莉。ゲームしないのは、疲れてそれどころじゃないから。今は他に夢中になることあるし」
「それは何ですか?」
「例えば8月の国家試験の勉強したり……愛莉という趣味があるし」
「私が趣味?」

愛莉が聞き返す。

「普段の愛莉を見てると本当に愛おしいんだ。愛莉を喜ばせることが僕の今一番熱中するべきことだよ。だから愛莉は自分を責めないで。僕まで悲しくなる」
「……私は幸せ者ですね」
「僕の方こそ幸せだよ。お互いに幸せ。それでいいじゃないか」

僕がそう言うと愛莉は微笑む。

「ああ、愛莉が羨ましいわ。出来た旦那さんじゃない。こんな好物件そうないわよ!」

亜依さんが言う。

「今夜は愛莉ののろけ話を肴に飲むか!」

美嘉さんが言う。
愛莉は少し考えてから言った。

「実はこの前の新歓の後寝たんだけど」
「うんうん」

皆が聞いている。

「冬夜さん疲れているから夕方まで寝せていたの」
「愛莉ちゃんはなにしていたの?」

恵美さんが聞く。

「家事してた」

女性陣が僕を睨みつける。

「……でもその後起きたら凄く後悔しててね。可哀そうだったからじゃあお願いしてもいいですか?って聞いたの」
「お願いって何?」
「夕飯の買い物に連れて行ってって。冬夜さん連れて行ってくれた。手までつないでくれたの。私うれしくて」

愛莉は本当にうれしそうに話す。

「他にはどんな話があるの?」
「朝もちゃんと起きてくれるとか、仕事終わったら真っ直ぐ帰ってきてくれるとか、休みの日はずっと相手してくれるとか」

愛莉の話は夜明けまで続いた。
朝になると、僕達は家に帰る。
そしてシャワーを浴びて、寝室にはいると愛莉を待つ。
愛莉がシャワーを浴びて髪を乾かすのを見ている。

「先に寝てくれてもいいのに」
「折角だから一緒に寝たいなって」
「嬉しいです」

愛莉が髪を乾かし終えると一緒にベッドに入る。

「愛莉、お願いがあるんだけど」
「どうしました?」
「お昼愛莉が起きたら起こして?」
「いいんですか?寝不足で冬夜さん倒れてしまう」
「愛莉との時間大事にしたいんだ。車は危険だから散歩でもしよう?」
「……わかりました」

少しはにかむ愛莉。
幸せな時間は時を重ねていく。
繰り返し芽吹く一瞬こそ全て。
今一秒たりとも無駄な時間なんてない。
この一瞬の積み重ねがしあわせなのだから。
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