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5thSEASON
箱の中の猫
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(1)
「愛莉急がないと」
「大丈夫だってば~」
冬夜さんはどうして飛行機に乗る時いつも慌てるんだろう?
定刻には間に合ってるのに。
そんなに慌てたって手荷物検査で待たされるんだから。
今日から北海道に2泊3日の旅行。
今回の行き先は札幌と函館と稚内。
冬夜さんが選んでくれた。
私達はロビーで待って搭乗開始のアナウンスが流れるのを待ってる。
アナウンスが流れると私達は飛行機に搭乗する。
今回は残念ながら真ん中の席。
私は機内放送を聞きながら本を読んでる。
冬夜さんは何もすることが無くてそわそわしている。
落ち着かないと見っともないよ。
仕方ないな~。
私はイヤフォンを外すと冬夜さんに話しかけた。
「久しぶりだね、北海道」
「そうだね」
「またラーメン食べるの?」
「う~ん、愛莉食べたいの無いの?」
「う~ん多分冬夜さんと一緒だと思う」
私の貧相な知識じゃこれってものが浮かばなくて。
「スープカレーや石狩鍋も捨てがたいよね」
冬夜さんの頭の中では北海道は食の宝庫なんだろうな。
「冬夜さんの北海道の目的は食べ物だけなの?」
「え?いや、他にもあるよ」
日本最北端を見たいとか、函館の夜景を見てみたいとか言ってたね。
話してる間に離陸を始めたらしい。
飛行機が飛び立つとゲーム機の使用が許可される。
冬夜さんは携帯ゲーム機を触りだす。
もう!少しは私に構ってよ。
冬夜さんが持ってるゲーム機を覗き込む。
ごっつい人がモンスターを倒すゲーム。
「愛莉こういうの興味あるの?」
「う~ん、自分でやるのは苦手かな?」
「慣れれば簡単だよ」
私はゲームに興味があって覗いてるわけじゃない。
ゲームをしている冬夜さんの心に興味があって覗いてるの。
飛行機は羽田で着陸し、新千歳まで乗り継ぎする。
乗り継ぎの便まで1時間近くある。
その間に食事を済ませる。
空港の中のお店ってどれも高い。
食事を済ませると搭乗手続きが始まる。
そして新千歳に向かう。
冬夜さんと話をしながらゆったりと空の旅を楽しむ。
冬夜さんも私の気持ちに気づいてくれたのかゲームを止めて話に夢中になる。
そして私達は再び北海道の大地に足を踏み入れるのだった。
(2)
今日もいつもの5人で話をしていた。
他愛もない会話から旦那の愚痴まで。
愚痴ってばっかりでもしょうがない。
話題は美里の話題になる。
「美里はもう荷造りできてるの?」
私は美里に聞いていた。
美里は来月から、栗林君と同棲を始めるらしい。
新学期に入る前に引っ越すらしい。
「一応まとめるものはまとめてます」
「栗林君はバイト先見つかりそう?」
「今頃必死に探してるはずです」
今日もハロワに通ってるらしい。
彼の人柄なら良い所に勤められるだろう。
「酒井先輩と穂乃果先輩はいつまでここで働くんですか?」
「今月末までだよ」
「私もそのつもり」
酒井先輩と穂乃果先輩が言った。
「酒井先輩もう少し早めに止めて奥さんと旅行でも行ってきたらいいのに」
私ならもう大丈夫ですよ?
「いやあ、どうせみんなで旅行行くからいいんじゃないかなってね」
「少しは片桐君見習ったらどうなんですか?自分の妻に対して気配りが無さすぎです」
酒井先輩が言うと穂乃果先輩が言う。
「確かに片桐君と渡辺君以外の男はなってないわね。女性の扱い方が雑よ。うちの旦那もそうだけど」
恵美先輩が言う。
うちの悠馬もそう言う気配りないなあ。あ、無理して旅行したことはあったか。
中島先輩もそうなんだろうか?
「穂乃果先輩はどうなんですか?」
「私の主人も同じだよ。バイトもしないで家で寝てる。どうせすぐ仕事始まるからって」
「花菜ちゃんはどうなの?」
恵美先輩が花菜先輩に聞いていた。
「私は主人が仕事してるから。休みの日はバスケしてるし」
花菜先輩はそう言ってため息を吐く。
「皆さん大変なんですね」
美里が言った。
「美里ちゃんも他人事じゃないわよ。同棲始めたら男って変わるから」
「それは言えてるわね。本性を出すって言った方がいいのかしら」
恵美先輩と晶先輩が言う。
酒井先輩は聞こえてないふりをしてる。
本性を出すか。
だとしたら悠馬はまだいい方なのかもしれない。
でも、無理する癖だけは直さないと。本当にそのうち倒れそうだ。
「本性ですか……それは興味ありますね」
美里が言う。
「否応なく見せられるわよ。同棲すればね」
恵美先輩が言う。
「咲のところはどうなの?竹本君まじめそうだけど」
晶先輩が聞いてきた。
「真面目ですよ、まじめすぎて逆に不安です」
私が答えた。
「それは望にも言えるわね。欲がないって言った方がいいのかしら」
恵美先輩が言う。
皆悩みを抱えているんだな。
「それにしても退屈ね」
「私達も勤め先探すべきなのかしら。毎日こんな日が続くかと思うとぞっとするわ」
恵美先輩と晶先輩が言う。
「私はそろそろ子供作ろうかなって考えてるんだけど主人があの調子だから……」
花菜先輩がそう言ってため息を吐く。
「育児の不安ってやつね?」
「ええ……」
「箱の中の猫か……」
私がそう呟いた。
「なにそれ?」
花菜先輩が聞いてきた。
「ある特殊な条件にある箱の中に猫を一時間入れた場合。生きてる可能性も死んでる可能性も同等って説です」
私が説明する。
「ああ、それなら本で読んだ事あるわ」
恵美先輩が言った。
同棲も結婚もしてみないと結果は分からない。
上手くいくのか破局するのか可能性は同等。
私達は行き詰っているのかもしれない。
「でもあの二人に比べたらましですよ」
花菜先輩が言う。
「そうね……。あの二人は懲りることを知らない」
「私の主人も一緒ですけどね」
恵美先輩と穂乃果先輩が言う。
多分あの二人と言うのは多田先輩と桐谷先輩の事だろう?
酒と女と車……ギャンブルがないだけまだましだろうか?
「そういえば、渡辺班でギャンブル好きっていませんね?」
私が聞いてみた。
「ギャンブル狂の男なんかと付き合いたいと思う?」
恵美先輩はそう言った。
それもそうだ。
渡辺班にそう言う男はいない。
誰もがそう思っていた。
(3)
箪笥からそっと封筒を取り出す。そして中味を取り出そうとする。
「瑛大なにやってるんだ?」
な、なんでこの時間に亜依が帰ってくるんだ!?
慌てて封筒を隠して振り返る。
「亜依こそどうしたの、こんな時間に」
「ちょっと具合悪いから早退してきた、今何隠したんだ?」
「な、なんでもないよ!」
「何に使うつもりだ」
「し、知らないよ。旅行の費用に手を出すわけないじゃないか!……あっ」
しまった。
亜依は俺を睨みつけて近づくと手から封筒を没収した。
「いくら抜き取った?」
「まだ抜き取ってない」
「嘘つけ!いくらか減ってるじゃないか!何に使った!?」
「ちゃ、ちゃんと元を取り戻して返すつもりだよ!」
人間どうして切羽詰まると余計な事を言ってしまうんだろう。
「元をとりもどす?まさかお前……」
ここまで来たら白状するしかない。
ギャンブルですってしまったから取り返すための資金に使った事。その金すらすってしまった事。
「この馬鹿!!」
亜依はそう言って倒れてしまった。
「亜依!?亜依!?」
凄い熱だ。
汗も凄くかいてる。
病院に連れて行かないと。
車でかかりつけの病院に連れて行く。
「過労ですね」
医師に告げられた。
「ストレスが溜まっていたか疲れが溜まっているかのどちらかでしょう」
そういや最近無理してたな。旅行があるせいだ。
「薬で熱を下げらません。今は大人しく安静にさせることです」
診察を受けると、家に帰る。
「おまえ、足りないお金どうするつもりだ……」
亜依に言われた。
「もう少し頑張るよ。だからもう少しだけ……」
「この馬鹿!」
「亜依、あんまり怒るなよ安静にしろって言われたろ?」
「安静にさせないのは何処のどいつだ!?」
「……ごめん」
でも、お金工面しないと旅行に行けない。
「ごめん、ちょっと俺出かけてくる!」
「瑛大!頼むからもうギャンブルは止めて!お願いだから!」
苦しそうに亜依が俺に掴まる。
しがみつくのもやっとなくらい辛そうなのに。
「ギャンブルじゃないから!ちょっと実家に帰ってくるだけだから」
「お前何考えてる!?」
「ギャンブルはしない、約束する!ちょっと出て来るだけだから休んでて」
「待て瑛大!」
制止する亜依を振り切って僕は実家に帰って親に頭を下げた。
僕が将来独立する時の為にと親が貯めていたお金から少し借りる。
理由を話すと思いっきり怒られた。
「人間の屑を育てた覚えはない!」
そう罵られた。
だけど我慢した。
もう二度としないという自分の戒めの為に。
何とか足りないお金を受け取って家に帰る。
案の定亜依にも怒られた。
「お前は何処まで堕ちれば気が済むんだ」
亜依は泣いていた。
亜依の言葉が心に突き刺さる。
でも分かってる。
俺を罵る亜依の心はもっと痛いんだって事を。
「その金は返してこい」
亜依は言う。
でも旅行に行けなくなってしまう。
「積み立ててた挙式費用で穴埋めするから……もう二度と馬鹿な真似はするなよ」
亜依は優しい声で言う。
だから痛かった。
「本当にごめんなさい」
「いいから返してこい」
俺は実家にお金を返しにいった。
事情を説明した。
こっぴどく叱られた。
帰りにインスタントのお茶漬けを買って帰る。
「亜依、お茶漬けなら食べられるよね?」
「……今度お前に自炊するって事を叩きこまないといけないな」
亜依はそう言って笑った。
ご飯を食べ終えた後付きっきりで看病する。
亜依は安心したのかすぐに眠った。
僕も寝ることにする。
瞼を閉じれば浮かぶ、亜依の悲痛な叫び。
二度と同じ思いをさせまい。
そう思って僕は眠りについた。
(4)
「きれ~い」
愛莉がそう言って写真を撮影してる。
そんな愛莉を眺めていた。
「けどちょっと寒いね」
愛莉はそう言って少し震えてる。
「そろそろもどろうか」
「は~い」
函館山を降りると夕食を適当に食べてホテルに戻る。
シャワーを浴びて愛莉が入ってる間ベッドに横になって寛ぐ。
しばらくしたら愛莉が戻ってくる。
愛莉とテレビを見てた。
でも明日も早い。
9時間の電車の旅。
疲れるだろうし早く寝ることにした。
愛莉に説明すると「は~い」と返事が来た。
愛莉とベッドに入る。
愛莉もはしゃいで疲れていたのだろう。
すぐに眠りについたようだ。
そんな愛莉の頭を撫でてやると「冬夜さん……」と反応する。
そんな愛莉をいくら見ていても飽きなかった。
スマホを見る。
桐谷君がまたやったらしい。
今回ばかりは男性陣も沈黙している。
さすがに今回は懲りただろう。
スマホを置くと僕も眠りにつく。
僕が見つめる先に君の姿があって欲しい。
一瞬一瞬の美しさを、幾つ歳を取ってもまた同じだけ笑えるよう。
君と僕と、また笑い合えるよう。
「愛莉急がないと」
「大丈夫だってば~」
冬夜さんはどうして飛行機に乗る時いつも慌てるんだろう?
定刻には間に合ってるのに。
そんなに慌てたって手荷物検査で待たされるんだから。
今日から北海道に2泊3日の旅行。
今回の行き先は札幌と函館と稚内。
冬夜さんが選んでくれた。
私達はロビーで待って搭乗開始のアナウンスが流れるのを待ってる。
アナウンスが流れると私達は飛行機に搭乗する。
今回は残念ながら真ん中の席。
私は機内放送を聞きながら本を読んでる。
冬夜さんは何もすることが無くてそわそわしている。
落ち着かないと見っともないよ。
仕方ないな~。
私はイヤフォンを外すと冬夜さんに話しかけた。
「久しぶりだね、北海道」
「そうだね」
「またラーメン食べるの?」
「う~ん、愛莉食べたいの無いの?」
「う~ん多分冬夜さんと一緒だと思う」
私の貧相な知識じゃこれってものが浮かばなくて。
「スープカレーや石狩鍋も捨てがたいよね」
冬夜さんの頭の中では北海道は食の宝庫なんだろうな。
「冬夜さんの北海道の目的は食べ物だけなの?」
「え?いや、他にもあるよ」
日本最北端を見たいとか、函館の夜景を見てみたいとか言ってたね。
話してる間に離陸を始めたらしい。
飛行機が飛び立つとゲーム機の使用が許可される。
冬夜さんは携帯ゲーム機を触りだす。
もう!少しは私に構ってよ。
冬夜さんが持ってるゲーム機を覗き込む。
ごっつい人がモンスターを倒すゲーム。
「愛莉こういうの興味あるの?」
「う~ん、自分でやるのは苦手かな?」
「慣れれば簡単だよ」
私はゲームに興味があって覗いてるわけじゃない。
ゲームをしている冬夜さんの心に興味があって覗いてるの。
飛行機は羽田で着陸し、新千歳まで乗り継ぎする。
乗り継ぎの便まで1時間近くある。
その間に食事を済ませる。
空港の中のお店ってどれも高い。
食事を済ませると搭乗手続きが始まる。
そして新千歳に向かう。
冬夜さんと話をしながらゆったりと空の旅を楽しむ。
冬夜さんも私の気持ちに気づいてくれたのかゲームを止めて話に夢中になる。
そして私達は再び北海道の大地に足を踏み入れるのだった。
(2)
今日もいつもの5人で話をしていた。
他愛もない会話から旦那の愚痴まで。
愚痴ってばっかりでもしょうがない。
話題は美里の話題になる。
「美里はもう荷造りできてるの?」
私は美里に聞いていた。
美里は来月から、栗林君と同棲を始めるらしい。
新学期に入る前に引っ越すらしい。
「一応まとめるものはまとめてます」
「栗林君はバイト先見つかりそう?」
「今頃必死に探してるはずです」
今日もハロワに通ってるらしい。
彼の人柄なら良い所に勤められるだろう。
「酒井先輩と穂乃果先輩はいつまでここで働くんですか?」
「今月末までだよ」
「私もそのつもり」
酒井先輩と穂乃果先輩が言った。
「酒井先輩もう少し早めに止めて奥さんと旅行でも行ってきたらいいのに」
私ならもう大丈夫ですよ?
「いやあ、どうせみんなで旅行行くからいいんじゃないかなってね」
「少しは片桐君見習ったらどうなんですか?自分の妻に対して気配りが無さすぎです」
酒井先輩が言うと穂乃果先輩が言う。
「確かに片桐君と渡辺君以外の男はなってないわね。女性の扱い方が雑よ。うちの旦那もそうだけど」
恵美先輩が言う。
うちの悠馬もそう言う気配りないなあ。あ、無理して旅行したことはあったか。
中島先輩もそうなんだろうか?
「穂乃果先輩はどうなんですか?」
「私の主人も同じだよ。バイトもしないで家で寝てる。どうせすぐ仕事始まるからって」
「花菜ちゃんはどうなの?」
恵美先輩が花菜先輩に聞いていた。
「私は主人が仕事してるから。休みの日はバスケしてるし」
花菜先輩はそう言ってため息を吐く。
「皆さん大変なんですね」
美里が言った。
「美里ちゃんも他人事じゃないわよ。同棲始めたら男って変わるから」
「それは言えてるわね。本性を出すって言った方がいいのかしら」
恵美先輩と晶先輩が言う。
酒井先輩は聞こえてないふりをしてる。
本性を出すか。
だとしたら悠馬はまだいい方なのかもしれない。
でも、無理する癖だけは直さないと。本当にそのうち倒れそうだ。
「本性ですか……それは興味ありますね」
美里が言う。
「否応なく見せられるわよ。同棲すればね」
恵美先輩が言う。
「咲のところはどうなの?竹本君まじめそうだけど」
晶先輩が聞いてきた。
「真面目ですよ、まじめすぎて逆に不安です」
私が答えた。
「それは望にも言えるわね。欲がないって言った方がいいのかしら」
恵美先輩が言う。
皆悩みを抱えているんだな。
「それにしても退屈ね」
「私達も勤め先探すべきなのかしら。毎日こんな日が続くかと思うとぞっとするわ」
恵美先輩と晶先輩が言う。
「私はそろそろ子供作ろうかなって考えてるんだけど主人があの調子だから……」
花菜先輩がそう言ってため息を吐く。
「育児の不安ってやつね?」
「ええ……」
「箱の中の猫か……」
私がそう呟いた。
「なにそれ?」
花菜先輩が聞いてきた。
「ある特殊な条件にある箱の中に猫を一時間入れた場合。生きてる可能性も死んでる可能性も同等って説です」
私が説明する。
「ああ、それなら本で読んだ事あるわ」
恵美先輩が言った。
同棲も結婚もしてみないと結果は分からない。
上手くいくのか破局するのか可能性は同等。
私達は行き詰っているのかもしれない。
「でもあの二人に比べたらましですよ」
花菜先輩が言う。
「そうね……。あの二人は懲りることを知らない」
「私の主人も一緒ですけどね」
恵美先輩と穂乃果先輩が言う。
多分あの二人と言うのは多田先輩と桐谷先輩の事だろう?
酒と女と車……ギャンブルがないだけまだましだろうか?
「そういえば、渡辺班でギャンブル好きっていませんね?」
私が聞いてみた。
「ギャンブル狂の男なんかと付き合いたいと思う?」
恵美先輩はそう言った。
それもそうだ。
渡辺班にそう言う男はいない。
誰もがそう思っていた。
(3)
箪笥からそっと封筒を取り出す。そして中味を取り出そうとする。
「瑛大なにやってるんだ?」
な、なんでこの時間に亜依が帰ってくるんだ!?
慌てて封筒を隠して振り返る。
「亜依こそどうしたの、こんな時間に」
「ちょっと具合悪いから早退してきた、今何隠したんだ?」
「な、なんでもないよ!」
「何に使うつもりだ」
「し、知らないよ。旅行の費用に手を出すわけないじゃないか!……あっ」
しまった。
亜依は俺を睨みつけて近づくと手から封筒を没収した。
「いくら抜き取った?」
「まだ抜き取ってない」
「嘘つけ!いくらか減ってるじゃないか!何に使った!?」
「ちゃ、ちゃんと元を取り戻して返すつもりだよ!」
人間どうして切羽詰まると余計な事を言ってしまうんだろう。
「元をとりもどす?まさかお前……」
ここまで来たら白状するしかない。
ギャンブルですってしまったから取り返すための資金に使った事。その金すらすってしまった事。
「この馬鹿!!」
亜依はそう言って倒れてしまった。
「亜依!?亜依!?」
凄い熱だ。
汗も凄くかいてる。
病院に連れて行かないと。
車でかかりつけの病院に連れて行く。
「過労ですね」
医師に告げられた。
「ストレスが溜まっていたか疲れが溜まっているかのどちらかでしょう」
そういや最近無理してたな。旅行があるせいだ。
「薬で熱を下げらません。今は大人しく安静にさせることです」
診察を受けると、家に帰る。
「おまえ、足りないお金どうするつもりだ……」
亜依に言われた。
「もう少し頑張るよ。だからもう少しだけ……」
「この馬鹿!」
「亜依、あんまり怒るなよ安静にしろって言われたろ?」
「安静にさせないのは何処のどいつだ!?」
「……ごめん」
でも、お金工面しないと旅行に行けない。
「ごめん、ちょっと俺出かけてくる!」
「瑛大!頼むからもうギャンブルは止めて!お願いだから!」
苦しそうに亜依が俺に掴まる。
しがみつくのもやっとなくらい辛そうなのに。
「ギャンブルじゃないから!ちょっと実家に帰ってくるだけだから」
「お前何考えてる!?」
「ギャンブルはしない、約束する!ちょっと出て来るだけだから休んでて」
「待て瑛大!」
制止する亜依を振り切って僕は実家に帰って親に頭を下げた。
僕が将来独立する時の為にと親が貯めていたお金から少し借りる。
理由を話すと思いっきり怒られた。
「人間の屑を育てた覚えはない!」
そう罵られた。
だけど我慢した。
もう二度としないという自分の戒めの為に。
何とか足りないお金を受け取って家に帰る。
案の定亜依にも怒られた。
「お前は何処まで堕ちれば気が済むんだ」
亜依は泣いていた。
亜依の言葉が心に突き刺さる。
でも分かってる。
俺を罵る亜依の心はもっと痛いんだって事を。
「その金は返してこい」
亜依は言う。
でも旅行に行けなくなってしまう。
「積み立ててた挙式費用で穴埋めするから……もう二度と馬鹿な真似はするなよ」
亜依は優しい声で言う。
だから痛かった。
「本当にごめんなさい」
「いいから返してこい」
俺は実家にお金を返しにいった。
事情を説明した。
こっぴどく叱られた。
帰りにインスタントのお茶漬けを買って帰る。
「亜依、お茶漬けなら食べられるよね?」
「……今度お前に自炊するって事を叩きこまないといけないな」
亜依はそう言って笑った。
ご飯を食べ終えた後付きっきりで看病する。
亜依は安心したのかすぐに眠った。
僕も寝ることにする。
瞼を閉じれば浮かぶ、亜依の悲痛な叫び。
二度と同じ思いをさせまい。
そう思って僕は眠りについた。
(4)
「きれ~い」
愛莉がそう言って写真を撮影してる。
そんな愛莉を眺めていた。
「けどちょっと寒いね」
愛莉はそう言って少し震えてる。
「そろそろもどろうか」
「は~い」
函館山を降りると夕食を適当に食べてホテルに戻る。
シャワーを浴びて愛莉が入ってる間ベッドに横になって寛ぐ。
しばらくしたら愛莉が戻ってくる。
愛莉とテレビを見てた。
でも明日も早い。
9時間の電車の旅。
疲れるだろうし早く寝ることにした。
愛莉に説明すると「は~い」と返事が来た。
愛莉とベッドに入る。
愛莉もはしゃいで疲れていたのだろう。
すぐに眠りについたようだ。
そんな愛莉の頭を撫でてやると「冬夜さん……」と反応する。
そんな愛莉をいくら見ていても飽きなかった。
スマホを見る。
桐谷君がまたやったらしい。
今回ばかりは男性陣も沈黙している。
さすがに今回は懲りただろう。
スマホを置くと僕も眠りにつく。
僕が見つめる先に君の姿があって欲しい。
一瞬一瞬の美しさを、幾つ歳を取ってもまた同じだけ笑えるよう。
君と僕と、また笑い合えるよう。
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