優等生と劣等生

和希

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5thSEASON

夢のはじまり

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(1)

「ああ、電子レンジもいるよね~」

愛莉と電器屋さんに来ていた。
愛莉と相談した結果、今ある家具はそのまま残してこうって事になった。
実家に帰るときもあるからその時泊まれるようにと。
歩いて帰れる距離にあるんだけどね、新居。
家具等は愛莉の趣味に合わせて買ってる。
家具や家電だけでは足りないらしい。掃除の道具とか調理器具とかその他諸々を買っていた。
手続きは全部済ませてある。
あとしなきゃいけないのはガスコンロを買って取り付けてガス業者の立ち合いでガスを開けるくらい。
期末試験の勉強も必要だったけど愛莉の管理の下でやってるから何の心配もいらなかった。
無事試験をクリアして、今夜打ち上げをする予定だ。
これで大学生活は終わりを告げる。
資格も取れる資格は全部取った。
愛莉と買い物を終えると、家に一度帰ってバス停に向かう。
そしてバスに揺られて街へ向かう。
駅前に着くといつもの店に向かった。

「渡辺の名前で予約してたんですけど」
「はい、3階の方へどうぞ」

案内されたとおりに3階に行くと何人かは既に来ていた。
僕の席には愛莉、渡辺夫妻、多田夫妻、桐谷夫妻がいる。

「じゃあ、皆お疲れ様でした。最後に盛り上がろう」

渡辺君がそう言うと宴の始まり。

「冬夜はもう荷造り済んだのか?」
「大体済ませたよ」
「後は運ぶだけだよ~」

愛莉も言う。

「それじゃいよいよ同棲生活だね」

亜依さんが言った。

「トーヤの世話は大変そうだな」

カンナが言うと愛莉は返す。

「冬夜君は最近全然手がかからないの。それが寂しくて」
「羨ましい悩みだな」

カンナが言う。

「確かに羨ましい悩みだわ。でも愛莉同棲すると男って変わるからね。甘やかしちゃだめよ絶対に」

亜依さんが言う。
そんなに変わるものなんだろうか?
誠と桐谷君はそんなに変わったようには思えないけど。

「冬夜に限ってそれはないだろうさ。遠坂さんに気を使ってるよきっと」

渡辺君が言う。

「それが不安なの。冬夜君ストレス抱えてないかな?って」

愛莉が言うと渡辺君が答えた。

「冬夜はそう言うことは無いよきっと、遠坂さんの事をいつも考えている。見ていて分かるよ」
「そうだよ、愛莉。愛莉に不満なんてもったことないよ」
「本当?」
「ああ」
「ならいいんだけど……」

まだ何か愛莉の中に引っかかってるものがるらしい。

「遠坂さん、少しは冬夜を信じてやったらどうだ?俺は7年間しか冬夜を見てないがいつだって遠坂さんの事を考えていた」

食べ癖も酷いがなと付け足して渡辺君が言う。

「そうだぞ愛莉、お前が羨ましいくらいだ」

カンナが言う。

「愛莉、片桐君はいつも愛莉の事を考えてる。二人共いつだってラブラブじゃない」

亜依さんが言うと「えへへ~」と笑う愛莉。

「でもトーヤも悪いんだぞ。愛莉にそう思わせるようなことしてるんだから」

カンナが言う。

「渡辺君の言う通りなだけだよ。私が勝手に不安になってるだけ」

愛莉が言う。

「愛莉、今日は飲め!愛莉の本音が知りたい。とーやの事をどう思ってるのか?」

美嘉さんが愛莉に酒を勧める。

「トーヤもだぞ!今日は二人の祝いだ!徹底的に飲め!」

カンナが言う。

「冬夜君食べ物残ってるよ。取ってあげる」

愛莉がそう言って取り皿に食べ物をとってくれる。
不安か、少なからずある。これから始めることは初めての事なんだから。
それでも愛莉となら何とかやっていける。
そう信じていた。
そう言えば誠達が大人しいな。
誠達にも話を振ってやるか。

「誠達は同棲始めた時どうだった?」
「お、俺か?そりゃ大変だったぜ。やっぱ違う生活をしてた二人が共同生活するって大変だぞ」
「そりゃもう、朝から晩まで小言が絶えない日々を送っているぜ。結婚は人生の墓場だって言ったろ?」

桐谷君に聞いたのは間違いだったようだ。

「ほう?人生の墓場か?面白いじゃないか?どういう意味なのかはっきり聞かせてもらおうじゃないか」
「そりゃもう鬼嫁が帰ってくるたびに怯える日々が続くんだ。地獄の毎日だ」
「鬼嫁とは誰の事を言ってるんだ瑛大?」
「そりゃ俺の鬼嫁って言ったら一人しかいないだろ!」
「ここから先は片桐君達に聞かせる話じゃないね。瑛大ちょっと来い!」
「あ、亜依!冬夜が悪いんだ!俺は正直に結婚生活について」
「正直にか?じゃあなおさらだ、あっちでじっくり聞かせてもらうぞ!」

亜依さんに引きずられる桐谷君。

「ああはなるなよ……」

誠は言う。

「誠は相変わらず引きずってるのか?」
「そりゃ神奈のあんな姿見たら変わらざるを得ないだろ?俺だって神奈の事が嫌いなんかじゃない。心から愛してるんだ」
「その割にはALICEの追っかけしてるじゃないか?」
「神奈は受け入れてくれたよ。二人でライブを見に行ったりしてる」
「誠のまともな部類の趣味だしな。付き合うくらいはするよ」

カンナが言う。
二人は仲良くなれたんだな。ちょっとうらやましくなった。

「うちなんて正志が五月蠅いんだ。片づけをしろと」
「部屋に下着が散乱していたら文句の一つも言いたくなるだろ。お客さん呼べないだろ?」

美嘉さんは片づけが苦手だって言ってたな。
桐谷君達の代わりに北村さんと栗林君が来た。

「俺達も4月から同棲始めようと思って」

へえ、そこまで進んでいたのか?

「意外とすんなり受け入れてくれました。確かに一々会いに行くのは面倒ねって」

栗林君が言う。

「住む場所は決めてるのか?」

渡辺君が聞く。

「うちに呼ぼうかなって。地元駅のそばだから大学に近くなるし。俺もバイトはじめるつもりです」
「そうか、頑張れ」

渡辺君が言う。

「あの、片桐先輩ちょっといいですか?有栖が言いたい事があるらしくて」
「どうしたの?」
「ちゃんとお礼を言いたくて。あの時はありがとうございました」
「気にしなくていいよ。あれから妨害とかは?」
「ぱたりと止みました。嘘みたいに」

スティンガーは壊滅したのか。

「スティンガーは消滅してるよ、太陽の騎士団も手を出す機会を失った。今なら森重さんも大丈夫のはず」
「誠君の言う通りよ。あれから妨害や脅迫がなくなったわ、私と晶と春奈……それに地元銀行も力を貸してくれる。今度の選挙は必ず勝てる」

恵美さんがやってきた。

「これで後は無事卒業式を待つのみだな」

渡辺君が言う。

「お客様、お飲み物のラストオーダーの時間です」
「もうそんな時間か……皆2次会はいつも通りカラオケ行くぞ!」

渡辺君が言うと皆が応える。
2次会には公生と奈留意外の皆が行くことになった。

「じゃあ、僕達はこれで」
「試験頑張ってね」

愛莉が言うと二人は手を振って帰っていった。
僕達は2次会の場所に向かった。

(2)

女性陣がマイクを取り合い歌っている。
男性陣も歌っているけど飲んで喋ってるのに必死だ。
誠は大人しかった。
みんなとっくに気づいている。
だけど敢えて誰も口にしなかった。
時がきたら本人の口から言うだろう。
そしてその時が今来た。

「ああ、秋吉君と下村さんから報告があるそうだ」

渡辺君が言うと二人がステージに立つ。

「この度僕と有栖は無事婚約が決まりました。入籍するのは大学卒業した後ですが」

皆が歓声を上げる。
愛莉も拍手を送っている。

「これも全部皆さんのお蔭です。ありがとうございます」

有栖さんが深々と頭を下げる。

「それともう一つ報告したい事がある」

渡辺君が言う。

「俺達は来月卒業を迎える。そこで渡辺班の大学の活動は西松と咲さんに任せようと思う」

誰も反対する者はいなかった。

「上手く引き継げるか分からないけど努力します」
「渡辺班の名誉を傷つけないように頑張ります」

西松君と咲さんが挨拶する。

「これで俺達はお役御免だな」

渡辺君が隣に座って言う。

「お疲れ様」

渡辺君と乾杯する。

「新人追加の件は二人に任せても良いか?」

渡辺君が言う。

「はい、任せてください」
「調教は私達に任せて頂戴!」

恵美さんと晶さんが言う。

「恵美さんと晶さんも専業主婦?」
「ええ、そうよ」

二人はそう答えた。
もっとも恵美さんはUSEの運営をしなきゃいけないけど。
代表取締役は石原君だけど石原君にも仕事がある。
取りまとめは恵美さんが行うそうだ。
ここまで一緒にやってきた仲間も皆それぞれの将来に向かって歩き始めた。
それでも僕達の絆は途切れることは無いだろう。
またこうして集まって騒いで想い出の日を振り返るのだろう。

「次は卒業旅行ね。来月中旬を予定してる。皆予定空けておいてね」
「4年生だけで行くんですよね?」

真鍋君が聞いてきた。

「ええ、そうよ」

恵美さんが答える。

「瑛大は留年だけどね」

亜依さんが言うとみんな笑っていた。
その日も朝まで騒いでいた。

(3)

「この箱はどの部屋だ~?」

多田夫妻と渡辺夫妻、石原夫妻が引越しの手伝いに来てくれた。
引越しと言っても家具等は既に搬入済み。
あとは衣類や小物の入った段ボールを運ぶだけ。
結構な量があったけど。
年度末に断捨離しないとなと愛莉と笑っていた。
引越しが終ると出前をとっていた蕎麦を皆に振舞う。

「あとは私たちで荷解きするんでありがとうござました」

愛莉がそう言う。

「頑張れよ愛莉。困ったことがあったらすぐ電話しろ。トーヤを説教してやるから」
「トーヤ……まあ、上手くやれよ」

カンナと誠が言う。

「冬夜、まだ終わりじゃないからな。この1年は予行練習なんだろ?」
「とーや、しっかりしろよ!」

渡辺君と美嘉さんが言う。

「愛莉ちゃん、青い鳥で待ってるからね、主婦同士仲良くしましょう」
「片桐君頑張って」

恵美さんと石原君が言う。
そばを食べ終えると6人は帰っていった。
僕達は荷解きを始める。
使いそうにないのは実家に置いてきた。
リビングに一台大きなテレビを買って寝室には僕の家から持ってきたテレビを置いた。
愛莉と二人で思い出話をしながら。荷解きをして行く。
途中でファミレスに行って晩御飯を食べた。
ついでにまだガスが使えないので銭湯に行く。
それから家に帰って荷解きの再開。
終わる頃には日付を跨いでいた。
新しいベッド、ダブルサイズに真新しい布団。
僕はすぐに寝れないのでテレビを見ていたら愛莉に怒られた。

「同棲して初めての夜だよ!」
「ごめんごめん」

愛莉と眠りにつくまで話をする。

「やっとたどり着いたんだね」
「ここがゴールじゃないけどね」
「うん」
「僕も頑張るから」
「体気を付けてね」
「ああ」
「冬夜君」
「どうした?」
「これからもよろしくね」
「こちらこそよろしく」

やがて愛莉の寝息が聞こえてきた。
愛莉ん顔を見る、楽しい夢を見ているんだろう。
愛莉をそっと抱いて僕もまた夢を見ることにした。
これから先もずっと続く終わりのない旅路を。

(4)

目が覚めた。
時計を見る。
そろそろガス会社の人が来る頃だ。
ベッドから出ようにも冬夜さんがしがみついていてそっとベッドを出るわけにはいかない。
耳元で囁く。

「おはよう、冬夜さん。朝だよ~」

冬夜さんは起きる。そして驚いている。

「愛莉、どうしたんだ急に『冬夜さん』だなんて」
「ずっと言ってみたかったんだ。いつまでも『冬夜君』じゃ変だよ。今から予行練習するの」

冬夜さんは唖然としてる。

「着替えてガス会社の人待とう?そろそろくる時間だから」
「う、うん」

そして着替えて準備してリビングでテレビを見ているとインターホンが鳴る。

「ガス会社のものですが」

家に上がってもらってキッチンのガスコンロを見てもらう。

「はい大丈夫です。もう使えますよ。火をつけてみてください」

スイッチを入れると火がついた。

「それじゃ、ありがとうございました」

そう言ってガス会社の人は帰っていた。
朝から何も食べてないんじゃ冬夜さんもお腹空いちゃうよね。

「お昼はインスタントラーメンでいいよね?」
「ああ、出来れば……」
「卵は半熟ででしょ?わかってるよ」

そうしてインスタントラーメンを作ると二人で食べる。
食べた後冬夜さんが片付け手伝うと言うけど私は断った。

「冬夜さんの仕事は4月からでしょ?」
「それまでは休みみたいなものだから手伝うよ」
「仕事には試用期間ってあるんでしょ?」
「そうだね」
「この1カ月半私の試用期間に当てて欲しいの」
「愛莉がそういうならそれでもいいけど……」

どうしたんだろう?

「やっぱり『冬夜さん』って他人行儀みたいじゃないか?」
「そんなことないもん、冬夜君って呼んでる時より愛情こもってるもん」
「……まあ、愛莉がそう言うなら僕も慣れるよ」
「うん、ありがとう」

それから片づけをして、部屋の掃除をしてお洗濯して、アイロンをかけて一息つく。
すると冬夜さんがカフェオレを入れてくれた。

「休憩くらいしないともたないぞ」
「ありがとう」

カフェオレを飲むと冬夜さんと買い物に行く。
スーパーまでは私が運転すると主張した。

「そこまで愛莉に甘えてられないよ。僕がいる時は僕が運転するから」
「私一人でいきなり運転なんて無理だよ。ただでさえこの4年間ペーパードライバーみたいなものなんだよ?ご指導お願いします」

冬夜さんの顔は引きつっていたけど許してもらえた。

「愛莉肩に力はいりすぎ」
「そんなに前を凝視したら駄目、視野を広くもっと前方を見るようにして」
「物陰に何かいるかもしれない。そう言う緊張感を常に持って」
「駐車できる?変わろうか?」

冬夜さんは一生懸命指示してくれる。
全部一人で出来た。

「で、今日は何作るの?」
「男の人ってカレーとか好きなんだってね」
「まあそうだけど。そう言えば愛莉のカレーって食べたこと無かったな」
「じゃあ、今夜はカレーにしよう?」
「お嫁さんに任せるよ」

うちにはまだ食材を何も買ってない。米すらない状態だ。
調味料とかも買わなくちゃ。
ちなみにシャンプーとかは買ってある。
全部揃えたと思ったのにまだまだ揃えなきゃいけないもの沢山あるんだな~。
ちなみにクレジットカードは冬夜さん名義で作り替えた。
いつまでも親に甘えてられないと思ったから。
冬夜さんが働くまでは冬夜さんの貯えと私の貯金でやりくりしていかなくちゃいけない。
冬夜さんが働きだしたらその給料でやりくりしていかなくちゃいけない。
責任重大だ。
重いものは冬夜さんに持ってもらって車に運ぶ。

「これで全部?」
「うん、取りあえずは揃った」

調味料一式に今夜のごはんの材料。すべて買った。
家に帰ると運んでもらって、夕食の準備に入る。
私が調理している間冬夜さんはリビングでテレビを見ている。

「ひまだったら部屋でゲームしててもいいよ?」
「愛莉の相手くらいはしてやりたいから」

嬉しい事を言ってくれる旦那様だ。
カレーの匂いが立ち込めれば冬夜さんはテレビを消してダイニングに来る。

「はい、どうぞ。おかわりあるよ~」
「美味しそうだ」

新居の二人だけのお食事。
冬夜さんは美味しいと言ってくれた。
夕食の後片づけをする。
冬夜さんはリビングでテレビを見ている。
偶に振り返って私と目が合う。
自然と笑みがこぼれる。
片づけが終ると「お風呂どうぞ」と言う。
冬夜さんが先に入る。
その後私が入って寝室で寛ぐ。

「お疲れさま」

冬夜さんが肩を揉んでくれる。
その後帳簿をつけながらテレビを見てる。
冬夜さんはPCで何かしてるみたいだ。
帳簿をつけ終わるとそっと覗いてみる。
ゲームをしていた。
私はそっとしておいて、買っておいた本を読む。
本と言えば北海道の旅行ガイド買っておいたんだった。
それを見る。
冬夜さんの行きたいところに付箋を貼っておいた。
楽しみだな。
時間になると冬夜さんもPCをシャットダウンする。
私も本とノートPCをたたむ。
二人でベッドに入ると眠りにつく。
私達の夢の始まりだった。
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