優等生と劣等生

和希

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5thSEASON

心の中に永遠なる花を

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(1)

「冬夜君おはよう~朝だよ~♪」

朝から弾むような愛莉の声。
今日も機嫌はいいらしい。

「おはよう愛莉」

朝の挨拶を交わして僕は起き上がると顔を洗いに行って戻ってくると着替える。
着替えたら日課をする。
この日課もあと数週間だな。
その後は続ける意味はもうなくなるだろう。
そんな事を考えながら日課をしていた。
今週末は花火大会がある。
今週末と来週末二度花火大会に行くという。
期末試験の真っ最中にそんな余裕が生まれるのは愛莉の絶妙なスケジュール調整のお蔭。
とはいえ必修科目だけ単位取って卒論書いたら余裕で卒業できるので全く慌てる必要はないのだけど、愛莉が「折角学費払ってもらってるんだからちゃんと勉強するの!」って言う。
至極まともな意見だがそんな理由で履修科目を詰め込む人間はそんなにいないだろう。
少なくとも渡辺班にはいない。
前期も終わってないのに留年が決定した人間ならいるけど。
あの二人はあの晩こっぴどく叱られた。
男性陣の恨みも同時に買ったことだろう。
もうあの二人には幹事はさせない。
渡辺君が宣言した。
それで一応表面上は女性陣と和解出来た。
しかしそれだけでいいのだろうか?
あの二組はこれからどうしていくのだろう?
そんな事を考えていたら時間がきたらしい。

「冬夜君そろそろ時間だよ~」
「ああ、そろそろ帰ろうか?」

そう言って愛莉と家に帰る。
家に帰るとシャワーを浴びて朝食を食べる。
朝食を食べると、コーヒーの入ったマグカップを持って部屋に戻る。
そしてテーブルの上にマグカップを並べて置くとデスクトップを起動させる。
愛莉が来るまでの時間潰し。
東京五輪まであと何日って表示が出てる。
既に招待状は届いてる。
選手村に入れるのは選手、コーチ等関係者だけなので愛莉の分はホテルを予約してもらえてる。
ゆかりさんや由衣さん達と一緒らしい。
今年期待の種目としてバスケットボールが挙げられていた。
大体野球やサッカー、水泳、マラソン、体操、陸上競技等が挙げられているのに珍しい。
期待は聖人と和人のコンビプレイだと書かれている。
書いてるのは僕のプレイを遠回しに批判してた人だった。
彩(ひかる)すら取り上げない徹底的な贔屓。
当事者としては笑うしかなかった。
ふと思いついてオーエスの記事を見て見る。やっぱり五輪の話題だった。
こっちの方では僕の名前が取り上げられている。
彩もだ。
記者によって記事って変わる物なんだなと感心してみていた。
どっちかっていうと、賛辞されてる記事より批判されてる記事に目がいくもので、さっきの人の記事を読んでいた。
僕は「器用貧乏」「メンタルが弱い」「身長が劣る」等書かれていた。

「そんな人の言う事なんて気にする必要ないよ」

いつの間にか愛莉が戻ってきていた。
髪も乾かしてるブラシも通してるみたいだ。
いつの間にか入っていたんだな。

「ごめん、今からそっちに行くよ」

僕はデスクトップをシャットダウンしてテーブルの前に座るとテレビをつける。
愛莉とコーヒーを飲みながらテレビを見る。
テレビもバスケットボールの話題だった。
そろそろ取材来るかな?
そんな事を考えていた。

「いよいよだね……」

愛莉が僕の手を握る。

「そうだな」

愛莉の手を握り返してやる。
負けられない戦いか……。
某サッカー解説者のフレーズが浮かんだ。
ちょっと笑えた。

「どうしたの?」
「なんでもないよ。飲み終わったら持って行くよ」
「ありがとう」

マグカップを二つ持ってキッチンに降りる。
父さん達も同じ番組を見ていたようだ。

「いよいよ始まるな」

父さんが声をかけてきた。

「そうだね」
「……きっちり勝って有終の美を飾って来い」
「そのつもりだよ」

そう言って部屋に戻る。
愛莉がいつにもまして気合入れて化粧してる。

「どうしたの?」
「だって取材来るかもしれないんでしょ?見っともない格好して旦那様に恥かかせられないじゃない」
「愛莉は普段でも綺麗だから大丈夫だよ」
「うぅ……どうせ私化粧下手だもん」

愛莉は拗ねてしまったようだ。

「そんなことないよ。って僕が言っても説得力ないだろ?」
「褒めてくれるくらいしてもいいじゃない」
「……十分綺麗だよ。愛莉」
「えへへ~」
「でもあんまり時間かけてると時間無くなっちゃうよ」
「あ、ごめん。ちょっと待ってもう少しで終わるから」

最後の仕上げのリップを塗ってるのを待っていた。

「終わったよ~行こっ♪」

愛莉は僕を引っ張り階段を下りて行った。
引っ張られる方は怖いんだけどな。
僕の勘は当たるみたいで、体育館にはたくさんの報道関係者がいる。
僕を見つけると駆け寄ってくる。
ゾンビ映画みたいで怖い。
愛莉は僕の後ろに隠れえている。

「ちょっとお時間いいですか?」
「これから朝練あるんで」
「時間とらせませんから」

食い下がる報道陣。
このまま体育館の中に入られて他の選手に迷惑かけられないと思った僕は立ち止まった。

「じゃあ10分だけ」

それから10分間だけ取材を受けた。
10分経つと愛莉が「時間です!」と言った。

「いこっ!冬夜君」
「待って君は誰?」
「取材時間終わったから答える必要ありませ~ん」

そう言って愛莉は僕を体育館の中に連れ込む。

「ありがとう愛莉」
「このくらいしか出来ないから。もう私が手伝えることは殆ど無いよ」
「そんなことないさ」
「何かあるの?」
「金メダル取って全部片付いたら愛莉と思い出作りたい」
「それなら私にしかできないね」

愛莉はそう言って笑った。

練習が終わる頃には取材陣も解散していた。
いつも通り図書館で勉強して時間を潰す。
授業の復習もだけど資格の勉強もしておきたい。
愛莉は資格を取る必要ないんだけど「冬夜君と一緒のとる~」と普通に資格とってた。
昼休みになると学食に皆集まってくる。
僕と愛莉の周りに陣取るのは佐(たすく)と翔。

「冬夜……遠坂さんとはどうだ?」
「片桐先輩助けてください」

どうしたんだ?

「2人ともどうしたの?」

そう聞いたのは愛莉だった。

「どうもこうもねーよ!桜子あの晩から機嫌が悪いままでさ……」
「俺もですよ。既読スルーはないんだけどなんか素っ気なくて。朝も様子変だったし」

二人の話を聞いてなるほどねと思った。

「どうせ二人共時間が経てば機嫌が直るとか思ったんでしょ~」

愛莉が代弁した。

「冬夜はどうやって遠坂さんの機嫌直したんだ?」
「冬夜君は優しくしてくれたよ。一日中私と遊んでくれてた」

愛莉が答える。僕は弁当を食ってる。

「2人ともさ、きちんと二人きりの時に謝ったほうがいい。誠意を見せないと。理由はどうあれ非はこっちにあるんだし」
「余計な事教えないでください。片桐先輩」

佐倉さんとちぃちゃんと朝倉さんが来た。
佐倉さんはすごく怒ってる。ちぃちゃんはどうしたらいいか悩んでる。伊織さんはそうでもないらしい。
まず朝倉さんからだな。

「朝倉さんは何ともなかったの?」
「悲しくてずっと泣いてたら翔ちゃん必死に謝ってくれたから許しました」
「ちぃちゃんは?」
「わかりません、ただどう接したらいいか自分でもわからなくて」

なるほどね。

「千歳!甘やかしたら駄目!謝ってくるまで絶対許したら駄目!」

佐倉さんは激怒してるようだ。

「千歳!俺が悪かった!でもああいう店行ったこと無いから!本当に無いから!」

翔は必死に謝ってる。

「ああいう店ってどういう店なんですか?」
「それは千歳ちゃんは知らなくてもいいよ」

愛莉が言う。

「兄も同じ事言ってました。でも分からない店に行くのに怒るのってなんかおかしい気がして……」

ちぃちゃんが言う。
ごもっともだ。

「翔は行かないって言ってるんだから許してあげて良いんじゃないかな?」
「だから私が怒らなきゃいけない理由があの店にあるんですか?」
「だってさ、翔。いつも通りでいいんだよ。二度と近づかなければいい。ちぃちゃんには一生縁のない店なんだから」
「ありがとう千歳」
「いえ、別にいいの。それより作ってきたよお弁当」
「俺がもらっていいのか?」
「うん、皆怒ってるから渡していいのかどうか迷ったけど悩む必要ないみたいだし」
「ありがとう」

ちぃちゃんもいい、問題は佐倉さんだな。

「私を説得しようとして無駄ですよ」

佐倉さんが言う。

「佐、謝れよ」
「悪かった桜子!この通りだ許してくれ!」
「本当に悪かったと思ってるんですか?だったらどうしてその場で謝らないんですか?」
「そ、それは……」
「ほら。やっぱり悪いと思ってなかったんじゃないですか」
「佐倉さん頭ごなしに決めつけるのは良くないよ」

愛莉が言う。

「本当に男性陣にだけ非があるのかな?」
「どういう意味ですか?」

僕が言うと佐倉さんが反応した。

「女性陣もあそこまで尾行する必要あったの?もっと前に声をかけたらややこしい話にならなかったんじゃない?」
「そ、それは……」

言葉に詰まる佐倉さん。

「どうせ尾行するなら最後まで、本人の意思で店に入るまで見届ける必要があったんじゃない?中には抜け出そうとする男を捕まえて逃がさなかった女性もいるそうじゃないか?佐にあの店に入る意思があるかどうか確認する必要があったんじゃないの?」
「それもそうですね……」
「佐にその意思はなかったよ。それは保証する。でも佐も全くフォローしないのも間違ってる。ちゃんと行く意思は無かった、無理やり連れられたんだと意思表示するべきだ」
「冬夜の言う通りだな。すまん桜子……」
「いえ……、私も至らないところがあったみたいです。頭ごなしに否定してた」

これで二人も大丈夫だろ。
しかし事態は更なる山場を迎える。

「じゃあ、行く意思があったあの馬鹿二人はどうすればいいんだ?教えてくれないか?トーヤ先生」

振り返るとカンナと恵美さんと晶さんがいた。

(2)

「じゃあ、行く意思があったあの馬鹿二人はどうすればいいんだ?教えてくれないか?トーヤ先生」

神奈先輩がそう言ってる。
純一さんは、興味を持ったこともないと言っていた。
けれど誘惑された事は自ら認めて謝ってくれて罪滅ぼしにと休みの日にデートに連れて行ってくれた。
多分一生着けることが無いアクセサリを買おうとしていたので私はそれならと食事を提案した。
それで私達は片付いた。
でも渡辺班のなかには許せない女性もいるらしい。
特に先導した桐谷先輩と多田先輩は許せない女性が多いだろう。
そして今その多田先輩の妻・神奈先輩が片桐先輩に詰め寄ってる。
どう、説得するのか興味があった。
その間に他のメンバーも集まっている。

「どうすればいいんだ?トーヤ先生」

片桐先輩を責める神奈先輩。

「まず誠だな……。カンナはどう思ってるの?」
「あいつは何度謝っても同じことを繰り返すんだ。その事はトーヤでも分かってるだろ?」
「じゃあ、離婚届書けよって言ったら書くのか?」
「それは……」

神奈先輩は言葉に詰まる。

「ちょっと待って片桐君。じゃあ女性陣の怒りはどこに向けたらいいわけ?私は良い!望は自分から望んで行ったわけじゃないから許せる。でも神奈ちゃんはちがうのよ」

恵美先輩が問い詰める。

「片桐君の言う事は確かに男目線でしか見てないわね。離婚出来ないなら許してやれって暴論にも程があるわよ」

晶先輩も言う。

「まあ、僕も男だからね。そうなっちゃうのかも。女性の気持ちは分からない。まあ、愛莉の気持ちはわかるよ」

遠坂先輩はご機嫌だ。

「カンナも誠の気持ち分かってるんじゃないの?」
「男の気持ちを察してやれって言うのが男目線だっていうの!じゃあ女性はいつも泣き寝入りしなきゃいけないわけ?」

晶先輩が言う。

「冬夜君の言う事は確かに男性目線だよね?じゃあ私から言うね」

遠坂先輩が助け舟をだした。
でも神奈先輩は拒絶する。

「愛莉の意見は参考にならねーよ!愛莉の相手はトーヤだ。誠じゃない!」

拒絶する片桐先輩と先導した多田先輩じゃ比較にならない。確かにその通りだ。

「神奈の言う事はあってるね。だから冬夜君が思ってる事を女性目線で伝えるね。本当は答え出てるんじゃないの?」
「どういう意味だよ」
「どうしたらいいか?あの晩決着がついてるんじゃないの?」

遠坂先輩は笑って言う。

「愛莉ちゃん。私達にもわかるように説明してちょうだい。どう決着ついてると言いたいの?」

恵美先輩が聞いていた。

「皆に分かるように説明するね。神奈はとっくに誠君を許してるんじゃないか?って事」

遠坂先輩は驚くべきことを平然と言ってのけた。

「許してたらこんなにイライラしねーよ」
「逆だよ。許したい自分がいるからイライラしてるんだよ。それは楽しい想い出で上書きするしかない」
「……そうトーヤは思ってるのか?」
「そうだよ~。だよね。冬夜君」
「誠の悪癖は今回だけに限ったことじゃない。それはカンナが一番知ってる事じゃないのか?」

遠坂先輩が言うと片桐先輩が言った。
許したいけど許せないからイライラする。矛盾してるように思えるけどどうなんだろう?

「じゃあ、片桐君は神奈ちゃんがどれだけ泣いてきたか分かってるはずよね」
「ああ、愛莉から聞いてる」

神奈先輩は椅子を蹴り飛ばすと学食を去って行った。
千歳さんと恵美先輩が神奈先輩を追おうとする。それを遠坂先輩が阻んでいた。

「何で邪魔するの愛莉ちゃん」
「今は一人にさせてあげて。それが本人の為だから」

遠坂先輩がそう言う。
二人は大人しく引き下がった。

「それで酒井君と石原君はどうなったの?」

遠坂先輩が話題を変える。

「どうもこうもないわ。自分が悪いわけでもないのにひたすら頭を下げる望を見ていたらおかしくなって許したわよ」
「わたしもよ、善君がひたすら頭を下げるから責めてるこっちが悪い気がしてきて許したわ。条件を付けて」
「条件?」

遠坂先輩が聞く。

「はした金で女を買うくらいなら私の相手をしてちょうだいって」
「なるほどね……」

遠坂先輩は笑っている。

「でも大丈夫なのか神奈さん放っておいて」

渡辺先輩が聞く。

「後は時間が解決するよ。解決できなかったら破局するだけ。僕達に出来ることは何も無い」
「随分と冷たいんだな冬夜」
「まあ、きっとあの二人なら大丈夫だよ」

片桐先輩はそう言って笑っている。
あの二人の中には永遠なる花が咲いている。
片桐先輩はそういう。
私の中にもそういものが育つのだろうか?

(3)

思いっきり椅子を蹴り飛ばしていた。

「イライラの原因は自分にある」

そう聞いた時キレそうになった。
もやもやしていた心の中のモノの正体を知ったから。

許してもまた繰り返すんじゃないのか?
でもどうせ許してしまうんだろう?

同じ事を繰り返すあいつをしょうがないの一言で済ますのにどれだけの涙を流せばいい?
トーヤに聞きたかった。
どうしたらあいつの悪癖が治るのか?
でもトーヤは言う。
あいつの悪癖も受け入れてるんだろ?
その通りだった。
答えは最初から分かり切っていた事なんだ。
何度やってもあの馬鹿は繰り返す。
でもあいつじゃないと駄目なんだ。
そう思ったからあいつと花を咲かせた。
負けないように枯れないように笑って咲く花を咲かせた。
自分に迷ってる?
風を集めて空に放て。
恋愛観や感情論で愛は語れない。
この愛が消えないようにそっと祈るだけ。
甘えないように寄り添うように孤独を分け合うように。
例え無謀だと他人が笑っても等身大の誠を愛してる。
多少傷つく事があっても手にしたい愛。
怒りがすっと消えていった。
私に必要なのは誠への怒りじゃない。
許せない自分への苛立ちを消化する冷却期間。
その日バイトをして帰るとテーブルの上に何か置いてあった。
電気をつけて正体を確かめる。
それはケチャップでハートのマークが描かれたオムライスだった。
メモがある。誠のだ。誠はバイトに行ったのだろう。


こんなどうしようもない俺だけどお前の事をいつも想ってる。悪かった。ごめん。


笑いがこみあげていた。
それを写真に収めると渡辺班のメッセージにアップロードした。
皆から笑いのコメントが飛び交う。

「兄……そんな器用な事出来たんだ」

ちぃちゃんが言う。
あいつは器用じゃねーよ。
どうしようもないくらい不器用だ。
私はそのオムライスを食べてシャワーを浴びてテレビを見ながら誠の帰りを待つ。
誠が帰ってきた。
誠は私を見て言う。

「まだ起きてたのか?」
「ああ」
「その……色々ごめん!」
「……これで最後だぞ」
「ありがとう!」

誠は私を抱きしめる。

これで最後だぞ。

あと何回使うことになるんだろう?
何度でも何度でも許してしまうんだろう。
負けないように枯れないように笑って咲く花になろう。
悲しみをまた優しさに変えながら生きてく。

(4)

別府の火の海祭りの日。
僕達は坂ノ市の港に来ていた。
みんな西松君のクルーザーに乗り込む。
クルーザーは別府湾に向かう。
美嘉さんの料理が振舞われる中花火は始まる。

「綺麗だね~」
「見事だな」
「冬夜君食べてばかりでないで花火見なさい!」

ぽかっ

愛莉はピンクの花柄の浴衣を着ている。
花火の光に照らされる愛莉もまた綺麗で。
その事をそっと愛莉に伝えると……。

ぽかっ

「花火を見なさいって言ったでしょ!」

怒られる。が、その表情は笑っていた。
あの画像を見る限り誠とカンナは仲直りしたらしい。
他の皆も仲直りしたようだけど……。

「は、花火綺麗だね亜依」
「……」

あの二人はまだみたいだ。

「おいおい、こんな日くらい休戦したらどうだ?」

渡辺君が言う。

「そうだよ、帰りは俺運転するからさ!亜依飲みなよ!」
「……どうせ家まで距離知れてるんだ。代行使うからお前も飲め」
「亜依……」
「これっきりだからな。次はないぞ!」
「絶対しないよ!ありがとう亜依、愛してる」
「やめろキモい!」

悲しみをまた優しさに替えながら生きてく。
花火のようにやがてすべてが散り行く運命であっても、多少リスクを背負っても手にしたい愛。
負けないように枯れないように笑って咲く花。
綺麗じゃないかもしれないけど美しいと感じる。
花火が終ると坂ノ市に戻る。
坂ノ市で解散。
皆が帰りに着く。
助手席にはピンクの花柄の浴衣を着た、将来のお嫁さん。
じっと見てると愛莉が一言いう。

「前見て運転しないと危ないよ」

慌てて前を見て言う。

「そう言えば昔っからそうだったよね」

愛莉が思い出したかのように言う。

「何が?」

僕が聞き返すと愛莉が笑って言った。

「冬夜君私が着物姿だと凄く優しいの」
「そうだったね」
「う~ん」
「どうした?」
「今だったら冬夜君にねだったらしてくれるのかなって」
「いつだって断ったことないだろ?」
「そうだね」

家に着くと愛莉が浴衣を脱ごうとしている。
それをじっと見ている僕。

「どうしたの?」
「どうせ脱ぐんだよね?」
「そうだけど?」
「じゃあ、一度脱がさせてくれない……」

ぽかっ

「浴衣って脱ぐ時ほど恥ずかしい物ないんだよ!そんなテレビで観るような綺麗なものじゃないんだから!あっちむいてて!」
「わかったよ」

テレビを見てる。

「脱ぎ終わったよ~」
「そうか、じゃあおいで」
「うぅ……今下着だけだよ?」
「冷房入れてるから風邪引くよ?寝間着着なよ」
「うぅ……ベッドの中に下着姿のお嫁さんいるんだよ?」

愛莉の意図は分かってる。
だから意地悪したくなる。

「喉渇いたね。飲み物取ってくる」
「うぅ……」

冷蔵庫から飲み物を取り出して部屋に戻るとテレビは消えて明りも消えてる。

「愛莉?」

照明をつけてベッドの上でタオルケットに包まってる愛莉に声をかける。
すると愛莉はタオルケットごと僕に覆いかぶさる。

「どうしたの!?」
「いつでも構ってくれるって言ったばっかだよ!?」
「とりあえず飲もう。その後構ってやるから!」
「絶対だからね!」

そう言って飲み物を一缶空けると愛莉とベッドに入る。

「桐谷君達もよかったね」
「亜依さんもカンナと同じだったんじゃない?」
「そうかもね?」
「でも冬夜君の思った通りだった。すごいね!」

思ってる事を代弁した愛莉の方が凄いと思うぞ。

「でも皆凄いなどんな逆境でも負けない、枯れない花を咲かせてる」
「そうだな、でも僕達も負けてないよ?」
「本当?」
「ああ」
「わ~い」

愛莉が抱きついてくる。
自分に迷ったら風を集めて空に放とう。
心の中に永遠なる花を咲かそう。
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