優等生と劣等生

和希

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5thSEASON

宴の後で

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(1)

「ふぅ~」

今日も最後に色々あったけど。無事終わった。
後は明日湯布院で実践して終わり。
僕は今風呂に入っている。
とても広いお風呂。
そんな中渡辺君がやってくる。

「今日もお疲れ、冬夜」

渡辺君はそう言って僕の隣に座る。

「お疲れ様」
「今日も大変だったな」
「まさか、まだやってたなんてねえ。渡辺君は趣味って何かあるの?」
「俺か。俺はもっぱら食って寝るのが趣味かな?」

渡辺君がそう言って笑う。

「毎日美嘉さんの手料理が食えるんだから羨ましいよ」
「日々進化してからな、あいつの料理は……後は部屋を片付ける事さえ覚えてくれたら言う事無いんだが」
「完璧な人間なんていないよ」
「それもそうだな」

渡辺君を笑いながら話していると。誠と桐谷君と中島君がやってきた。

「いや、さっきは参った」

それを言いたいのは僕の方だぞ誠。

「でもよく貸してくれたな?カンナ絶対に貸さないって言ってなかったか?」
「バイト先まで俺の車で行くようになったんだよ、燃費がいいからって。俺は近いしな」
「それでカンナの車乗りまわしてたら意味ないだろ?」
「ああ、さっきこっぴどく叱られたよ」
「俺なんて、後半どこかに連れてけって言われてさ、参ったぜ」
「いいじゃん、デート出来て羨ましい」
「俺だって予定あるんだよ?」
「予定って?」
「冬夜知らないのか!?今イベントが来ていてチャンスなんだぜ?」
「なんか強いアイテムでもでたの?」
「チャレンジダンジョンやってるんだよ!」

ああ、あれか?

期間限定のダンジョンがあってボスを倒すと手に入るアイテムがべらぼうに強いってやつ。
ただレベルもお金もカンストしてる僕や愛莉がやる意味がまったくないから愛莉が興味ないならやらないだけ。

「冬夜もやれよ。お前いると楽できるからさ」
「愛莉がその気になったらやるよ。ただ愛莉ももう大体やっちゃって飽きてるから……」

それにそんな大きな声で話していると……。

「瑛大!!片桐君達を巻き込むな!」
「桐谷君!冬夜君に変な事吹き込むの止めて!」

亜依さんと愛莉から抗議がくる。

「ゲームも運転もダメって僕は何をして過ごせばいいんだよ!」
「運転なら今度どっかに連れてけって言っただろうが!そんなに暇なら掃除の一つでもしろ!」
「どうせ誠も余計な事トーヤに吹き込んでるんだろ!お前ら今夜も説教だ!」
「誠君は冬夜君に本当に余計な事吹き込むんだからいい加減にして!」

カンナも混ざって頭を抱える誠。

「でもさっきも聞いたけど、車に乗ってたらスピード出したくなりません?」

中島君が言う。

「うーん、運転席に座ってアクセルを踏んだ瞬間車が体の一部になったような気がするんだよね?」
「ほう?」

渡辺君が興味を持ったようだ。

「で、タイヤから伝わってくる路面の状態信号の変わるタイミング、物陰に何か隠れてないかとか色々感じてそこまで無謀に速度出そうとは思わないんだよね」

と、言うより怖くて出せないって言った方が正しいのだろうか?

「冬夜はバスケがダメならレーサーにでもなればいいな?」

渡辺君が笑って言う。

「それは愛莉が許さないよ、死と隣り合わせのゲームだしね」
「ドライブで思い出した。僕もちょっと相談していいですか?」

竹本君が来た。

「どうしたの?」
「実は今度後半の4連休どこかドライブに連れて行ってって言われたんですけど」
「行けば良いじゃない」
「彼女の外車の調整もして欲しいって言われて。それは彼女が休みの間にしようと思ってるんですけど、どう調整していいか分からなくて」

あまりスピードがでる調整は出来ない。快適に運転しやすいようにしたいけど外車の基本スペックが高すぎてどう弄ったらいいか分からないと竹本君は言う。

「竹本君が思ってるようにでいいんじゃないかな。馬力とかは弄らずに足回りだけ強化するとか。ブレーキ変えるとか」
「やっぱりそうですよね」

それは竹本君の得意分野だ。僕が口出しできることは無い。

「竹本君、今度俺の車も調整してくれないか!」

中島君、それは大声で言っちゃいけないよ。

「隆司君まだわかってないんですか!」

一ノ瀬さんの声が聞こえてくる。

「悠馬も簡単に渡辺班の男性陣の車弄ったらダメでしょ!」

咲さんまで加わってきた。
笑って誤魔化す竹本君。

「まあ、俺の車はそういう車じゃないからわからんが、隣に乗せる大事な人くらい安心させる運転してやれ」

渡辺君が言う。

「片桐先輩の話は聞いてます。ギリギリまで突っ込んで言ってドリフトで駆け抜ける技術はすごいって。そういうテク身につけたいんです」
「私立大でも噂になってますよ。片桐先輩の噂。僕にも教えてください」

高槻君と如月君も興奮しているのか声が出かい。
誠が慌てて言う。

「そんな無謀な運転する奴の隣に妹を乗せられない。ダメだ!」

わざと聞こえるように大きな声で言っていた。

「僕も同感だね。皆彼女さんの気持ち無視し過ぎだ。そんな人に教えていい物じゃないし、何より人に教えられる技術じゃない」

わざと聞こえるように大きな声で言った。
女性陣の反応は無かった。
誠は胸をなでおろす。

「まあ、うちは走り屋サークルじゃないからそういうのは止めにしよう」

渡辺君が言う。

「さっきも言ったけど車は走るだけじゃないっすよ、中を弄るのも楽しいっす」

音響良いと最高っすよ。と晴斗が言う。

「晴斗の車は五月蠅くてゆっくり話が出来ない。外の音も聞こえないし危ないよ」

白鳥さんが言う。

「まいったなこりゃ……」

晴斗は笑っている。

「まあ、若いうちの特権だから仕方ないが何事もほどほどにしないとな」
「そうそう、そのうちのんびり運転するのが楽しい時が来るさ」

丹下さんと椎名さんが言う。
大人の言う事だから説得力ある。

「限界ってなんだよ!そんなもん見えてる奴は終わってるじゃないか!」

誠そんなに叫ぶと……。

「私の我慢には限界があるんだがな!誠!」

ほらね。

「やっぱり風呂から出て話そうか?」

誠が言うと桐谷君達は外に出ていった。

「冬夜は本当に車に未練が無いのか?サッカーの時もそうだったけど」
「愛莉と比較して愛莉を取っただけだから」
「なるほどな……俺達も出るか?」
「そうだね」

そう言って風呂を出た。

(2)

「全く男共は……」

亜依が怒っている。

「後で説教だな!」
「みっちり言ってやらねーとな」

神奈と美嘉さんが言ってる。

「それにしてもとーやの奴本当に走らなくなったのか?」

美嘉さんが聞いてきた。

「本当だよ。ゆっくりマイペースで走ってくれてる」

我慢してるのかな~?

「森園さんと岸谷さんはどうなの?」

私が聞いていた。
亀梨君も三沢君も晴斗君の系統らしい。
車内に何個もモニターつけてDVDなんかを流してるんだとか。
それはそれで危ない気がする。

「車の中がタバコ臭いってのもいやですね」

未来さんが言う。

「そういうのなら私も言わせて瑛大の奴一週間車に乗らなかったら助手席がゴミの山だよ」

亜依が言う。
冬夜君は毎日私と乗ってるから大丈夫かな?

「晴斗はガムを外に吐き捨てるの止めさせたい」

白鳥さんが言う。

「愛莉は片桐君の運転とかに不満無いわけ?」
「うん、ないよ。車さんも月に何回か一緒に洗車してるし」

一緒にするの~。と、付け加えた。

「石原君とか酒井君はどうなの?」
「望は安全運転よ、ものすごく優しい運転するわ。周りにも気を配ってるみたい」
「善君もそうね。凄く運転が優しい。少しくらい荒くても良いのにって言ったら『もう危険はこりごりですから』って」

二人とも運転手としても食べて行けそうだね。

「うちの主人も優しい運転するわよ。無理のない運転」
「啓介もそうね、そんなにやたらと飛ばそうとしないわ。そういう車じゃないし」

聡美さんと深雪さんが言う。

「春樹は高速とか海岸線沿いの国道とか産業道路以外では飛ばさないですね~。飛ばすといってもそんなにスピード出さないけど~。周りに合わせてって感じ?」

咲良が言う。
周りの速度に合わせるって言ったら冬夜君はすごいな?相手の先を見てるかのようにきっちりと車間距離を維持してる。

「運転も千差万別なんですね」

伊織が言う。

「運転で相手の本性がわかるっていうのもあるのよ」

聡美さんが言う。

「話は変わるけど愛莉最近ゲームにログインしてないみたいだけどもう飽きたの?」

亜依が聞く。

「ううん。偶にやってるよ~。冬夜君にゲームやっていいよって言ったら『じゃあ、一緒にやろう?』って」

ただ、全キャラカンストしてお金もカンストしてるからやること無くて退屈を持て余してるだけだと亜依に説明する。

「なるほどね。いや、今イベントやってるから愛莉もどうかなって思っただけ。瑛大じゃないけど愛莉たちいると楽だし」
「冬夜君私といる時は極力ゲーム避けてるみたいだから。私との時間を大切にしてくれるの~」
「……愛莉が羨ましいわ」
「本当愛莉が羨ましいよ」

神奈も言う。

「でも誠君も神奈といる時間大切にしてくれるんでしょ?」
「まあある意味な……あいつの趣味に付き合ってるだけの気もするけど……」

愛莉にも迷惑かけてみるみたいだな、相変わらずと神奈が言う。
確かに誠君は冬夜君に余計な入れ知恵をする。
そう言えば男風呂から声がしなくなった。

「もうみんなとっくに出てるんじゃない?」

聡美さんが言う。

「ああ!またあいつら良からぬ話をしてるに違いない!」

亜依が立ち上がる。

「がさ入れだな!」

美嘉さんも立ち上がると風呂場を出ていく。
私もそろそろ出るかな?
残っているのは奈留と神奈?
どうしたんだろう?

「そろそろ出よう?」
「はい」

奈留はついてくる。
一人残る神奈

「私は中学生にも負けるのか……?」

1人落ち込む神奈だった。

(3)

「いつみてもすげーな……」

皆誠君のノートPCに見入ってる。

皆といっても大人組と亀梨君三沢君。片桐君と渡辺君、真鍋君は興味ないみたいだけど。
僕もそこまで興味なかった。まだ免許取れる歳じゃないしね。
ノートPCで見てるのはドリフト!ってタイトルの動画。
タイヤもったいなくないのかな?って思ったけど。
それにドライバーもヘルメットつけてレーシングスーツ着てる。
誠君達とは比べ物にならないくらい本格的だ。
ハチロクと呼ばれた車を操り延々と山のカーブをドリフトで抜けていく動画。
それが終わった後は某漫画のアニメを延々と見てる。
正直僕にはあまり興味のないものだった。
片桐君も渡辺君と話をしながらつまみを食べて酒を飲んでいる。
大人組と真鍋君も3人で話をしている。
僕も三沢君と亀梨君と話をしていた。
三沢君も亀梨君もようやくこの空気に馴染んだようで気楽に話してくる。

「公生はどんな車に乗りたいとかあるのか?」

亀梨君が聞いてきた。

「まだ当分先の話だからね。考えてないよ」
「じゃあ、単車は?原付くらい乗りたいって思うだろ?」
「送迎がいるのにわざわざ自分で乗りたいとは思わないね」
「自分の意思でいろんなところに行くって気持ちがいいぜ?」
「生憎と僕の住んでる場所は駅もバス停も近いしバスもそれなりに走ってるから足には困らないんだ」
「まあ、時期がきたらわかるさ」

そんな話をしてると晴斗が混ざってくる。

「単車はいいっすよ!風になれるっす!」

正直あまり単車にいいイメージはない。神風特攻隊と刺繍した特攻服をまとった連中が浮かぶから。

「何!?公生車には興味あるのか!?」

誠君が言う。
どうしてそうなるのか分からないけど。

「いや、まだ年齢足りないし」
「身長的にはいけるだろ!公道じゃなかったら無免でも走れるし今度俺の車貸してやるから乗ってみろよ」

誠君が勧めてくる。ATだから公生でも運転できるという。

「冬夜お前からも言ってやれよ。運転のすばらしさを」
「無免はまずいだろ?」
「冬夜と言い公生と言い男のロマンってものが分からなすぎだぞ」
「お前のロマンとやらで僕は愛莉を何度怒らせたと思ってるんだ?」
「それでも追い求めるのがロマンってものじゃないか!なあ瑛大」
「そうだ!一々嫁の顔色うかがって生きてるような人生くだらないぜ!」

その時僕は2人の背後に迫る怒気に気づいた。
片桐君や渡辺君も気づいたようだ。
酒井君や石原君が止めようとする。
だが、中島君を巻き込んで6人は止まらない。

「男のロマン!かっけーっす桐谷先輩!」
「そうだ、男のロマンだ!お前たちもそう思うだろ!?如月君に高槻君」
「僕は良いと思うんだけど……」
「そ、その辺にしておいた方がいいんじゃないですか?多田先輩」

如月君と高槻君も気づいたようだ。
気づいてないのは6人だけ。

「何怖気ついてんだよ。今夜は徹底的に男のロマンについて語ってやるぜ!なあ!?瑛大!!」
「おう!僕達を止められるものは無い!」

盛り上がる6人から距離を取ろうとするその他の皆。
止めようとしていた酒井君と石原君もその場から逃げ出した。
僕もやばいかな?
少しずつあとずさりしようとすると奈留の足にあたった。

「何を吹き込まれたの?公生?」
「僕はただ聞いてただけだよ。別に興味を持ったわけじゃない」

必死に弁解する僕。
僕は悪くない。
そんな僕を見てようやく誠君達も気づいたようだ。

「な、奈留ちゃんがいるってことは……」

誠君と桐谷君は振しろを振り向く。

「ほう?男のロマンか?いいぜ。徹底的に聞いてやろうじゃないか?」
「止められるものが無いか。いいよ。続けてみなよ」
「か、神奈?いつからそこに?」
「あ、亜依?風呂から戻ってきたんだ?」

二人とも笑って誤魔化そうとする。

晴斗と中島君は逃げ出そうとするが襟を掴まれる。

「隠し事は駄目。話なら聞いてあげる」
「何を見てたんですか?」

白鳥さんと穂乃果さんが言う。
亀梨君と三沢君も例外じゃなかった。

「興毅……あんた子供になんてことを……」
「守……あなたって人は……」
「まずは何を見てたかだな。他の男子も逃げられるなと思うなよ!?この6人を止めなかった時点で共犯だ!」

森園さんと岸谷さんと美嘉さんが言う。

「ぼ、僕は止めようとしましたよ。ねえ石原君や」

石原君は何も言わずにただ怯えている。

「善君、ちゃんと見てたわよ。私達に気づいて逃げ出す様までじっくり」
「望……黙ってないではっきり言いなさい!!」

晶さんと恵美さんもしっかり見ていたようだ。

「誠、取りあえず何見せたか出せ」
「い、いや。これは男のロマンだから」
「良いから出せ」
「だから男にしか分からない物だから」
「つべこべ言わず見せろ!!」
「ああ、あまり男同士の話題について関与しない方が良いと思うんだが」

渡辺君が燃え上がる炎に水をかける。
だが、その勢いはとどまることを知らず……。

「正志!お前らも共犯だからな!」

女性陣に囲まれた誠君はさっき見ていた動画を見せる。

「この馬鹿はまた性懲りもなく……」
「あ、憧れくらい持ったっていいだろ!」
「憧れで子供に車運転させる馬鹿がどこにいる!?」

神奈さんと誠君が言い合っている。

「公生車運転しようとしてたの!?」
「僕は断ったよ!」

奈留に容赦なく責めたてられる僕。

こういう時の片桐君の飛び出しは早い。そうっと出口に近づいて機を見て一気に駆け出す。
片桐君は逃走した。

「あ、冬夜君待ちなさい!」

遠坂さんが後を追う。
次の瞬間。みんが一斉に部屋を出る。

「あ、待てお前ら!!」

美嘉さんは渡辺君を捕まえる。
他の皆は逃げ出したようだ。
僕も逃げ出そうとしたが奈留に腕を掴まれた。
逃げ遅れたのは僕と渡辺君と最初から睨まれていた6人。
僕達は日付が変わるまでお説教を受けた。

(4)

「冬夜君待ちなさい!」

ただ逃げたんじゃ明日の朝愛莉の機嫌が悪くなるのが分かってる。
僕は愛莉と一定の距離を保ちながらある場所まで誘導した。
そこは2階のバルコニー。
今日も星と月が綺麗だ。
そんな呑気な事を言ってる場合じゃない?
最初から本気で逃げる気無かったよ。
くるりと反転すると愛莉を待つ。

「もうどこにも逃げられないんだから!」

息を切らせながら言う愛莉に近づくとそっと抱きしめる。

「ちょっと冬夜君!?」
「これで二人きりに慣れたね」
「ほえ?」
「2人でゆっくり話が出来る」
「うぅ……」
「で、どうしたの?」
「え?あ、……うぅ」

愛莉は何も言えない。作戦通り。

「今日も夜空が綺麗だよ。愛莉」
「……本当だ」

愛莉は夜空に見とれている。

「……って誤魔化そうとしたってそうはいかないんだから!」

ぽかっ

失敗したようだ。

「何を公生君に吹き込んだの!?まだ子供なんだよ!」
「何も言って無いよ。誠達が勝手に騒いでただけ」
「冬夜君にも何か言ってたじゃない!」」
「無免で運転させるのはまずいだろって言っただけだよ」
「うぅ……」

危機は免れたようだな。

「ねえ?冬夜君?」
「なんだい?」
「男のロマンってそんなに大切なものなの?」
「まあ、人それぞれじゃない?」

僕はロマンよりマロンを選ぶけどね。

「じゃあ、スピードの向こう側ってのは?」
「なんかの漫画の影響の受け過ぎなんじゃない?」
「冬夜君は追い求めたこと無いの?」
「走ること自体は楽しかったけどね。愛莉の機嫌損ねてまでやることじゃないよ」
「冬夜君から楽しみ奪っちゃった?」
「その代わり愛莉って楽しみを確保できたから問題ないよ」
「そっかぁ~」

愛莉は手すりを掴んで空を見上げている。

「本当に綺麗だね」

そんな愛莉の背後に立つと愛莉を抱きしめる。

「きゃっ」

可愛い悲鳴を上げる愛莉。
抵抗はしない。
そんな愛莉に後ろから耳打ちする。
愛莉の機嫌はよくなったみたいだ。

「冬夜君は本当に甘えん坊さんになっちゃったね」

そう言って愛莉は笑っていた。

「そろそろ戻ろうか?」
「うん」

愛莉と一緒に部屋に戻った。

(5)

「冬夜!この裏切り者!!」

寝室に戻ったら開口一番誠と桐谷君から罵られる。

「それを言うなら巻き込まれた俺も文句があるんだがな」

渡辺君が言ってる。

「2人ともさ、本当は気づいてるんじゃないか?」
「何をだよ?」
「大切な奥さんを捨ててまで執着するもんじゃないってことくらい」
「じゃあ、俺達は何を楽しみに生きていけばいいんだよ?」
「誠はサッカーに必死で車どころじゃなくなるだろ?」
「まあ、そうだな」
「じゃあ僕は?」
「亜依さんに聞きなよ。少なくとも亜依さんは桐谷君のゲームってジャンルを受け入れてくれたんだ。次は桐谷君の番だろ?」
「……そうだな」

桐谷君は考え込んでいる。

「冬夜はどうやって遠坂さんの機嫌とってるんだ?」

渡辺君が聞いてくる。

「愛莉がしたい事をさせてやってる」

そのどれもが本当に可愛いものだけど。

「例えば?」
「洗車に行ったり買い物に付き合ってやったり。服とか下着も選んでやったりしてるかな」
「なるほどな……冬夜ならではやり方か」

そうかもしれない、愛莉の気持ちが分かる僕だからこそできる芸当かもしれない。

「桐谷君も車が好きなら一緒に洗車とかいけばいいんじゃない?要は二人の時間が欲しいんだろうし」
「なるほどなぁ……」

ドライブに連れて行ってやるのもいいかもしれない。

「で、捕まった皆は何してたの?」
「2時間弱延々と説教だよ」

それはまたご愁傷様。

「ああ、疲れた。今日はもう寝ようぜ」
「そうだな」
「そうだね」

僕達は眠りについた。
皆ロマンとか憧れとかあって大変なんだろうけど。
試しにパートナーのロマンとやらも聞いてやったらどうだろう?
そうしたら少しだけ衝突する回数が減るかもしれない。

(6)

「愛莉どうしたの?さっきから顔がにやけてるけど」
「え、そうかな~」

浮かれてるのは確かだ。
冬夜君の特技はどんどん増える、ご機嫌斜めだった私を反対に喜ばせてくれる。
冬夜君の中でしっかり私のトリセツは更新されてるんだね。

「それにしても全く男共は放っておくとろくな言わない」
「全くだな」

亜依とカンナが言ってる。けど……結局許しちゃうんだよね?

「で、どうなったの?」
「え?いや、注意しただけだけど」

私が聞くと亜依が答えた。

「男性陣からはなんて?」
「最終的には皆謝ってたかな」

なるほどね~。

「でもあいつら絶対またやるな。懲りてない!」
「間違いないね。全然わかってない!」

神奈と亜依が言ってる。

「愛莉が羨ましいよ。物分かりの良い彼氏でさあ~」

亜依が言う。

「そうでもないよ。何度も注意しても聞いてくれない事だってあるし」
「なにそれ?」
「気になるな、なんだよそれ?」

亜依と神奈が聞いてきた。

「朝素直に起きてくれないの。何度言っても意地悪するの~抱きついてきたり押し倒したり」
「……誠の馬鹿が伝染ったか?」

そうかもしれないね。

「その割には愛莉ちゃん嬉しそうに話すわね」

恵美が言う。

「だって食べ物以外に興味を示さなかった冬夜君が私に興味をしめしてくれるんだもん」

下着とかも選んでくれるんだよ~と付け足す。

「どう考えても誠が犯人だな」
「誠君は『見えない下着を想像するのがロマンだ』って言ってたって冬夜君言ってた」
「あの馬鹿は……」
「そしたらね、偶に冬夜君の気持ち覗くとね。意地悪するの」
「気持ちを覗くってそんな特技いつ身につけたの愛莉ちゃん」

恵美が聞く。

「私が身につけたって言うよりは冬夜君が私にだけ心を開いてくれるの」
「で、何がみえたんだ?」

神奈がいう。

「冬夜君私の裸想像してるんだよ~」
「あの馬鹿トーヤ……」

神奈が怒ってる。

「それが嬉しくて、そういう意地悪な点もひっくるめて冬夜君だから。冬夜君他の女の人は想像しないよ」
「愛莉ちゃんは何が言いたいの?」

恵美が聞いてくる。
私は答えた。

「何でも頭ごなしに否定するのは良くないと思う。譲れない物ってあると思うし」

もちろん山で車さんに無茶させるのは止めさせなきゃだけどね。

「じゃあ、どうやってあの馬鹿二人を止めたらいいと思う?」
「夜一緒にいればいいんじゃない?深夜帯のバイトを控えるとかさ」
「なるほどね~」
「亜依は一緒にゲームしてればいいと思うけど問題は神奈だよね」
「そうなんだよな。あいつの趣味に合わせるのは限度がある」
「う~ん。あ、休日合わせて釣りにでも行ったらいいんじゃない?」
「釣りか。それはいいかもしれないな」
「後はドライブかなやっぱり」

街ブラデートでもいい。とにかく一緒にいる時間を増やせばいい。

「愛莉ちゃんの理論で行くと上手くいったとしても彼が一人でいる時はどうするの?」
「多分、誠君や桐谷君も一緒なんだよ。一人で退屈してストレス溜まってるから無茶な運転に走るんだよ」
「それを二人の時間で解消してやれって事?」

亜依が聞くと私はうなずいた。

「二人でいる時間も家事しろとか頭ごなしに言ってたらいない間にストレス発散しようって思考にいくんだと思う」
「なるほどね~」
「冬夜君も最初は一人でこっそりゲームしたりして私の相手してくれなかったから」
「とりあえずは明日湯布院で付き合ってやるか」
「そうだね」

二人は納得したようだ。でも気になることが一つある。

「恵美は石原君の何が不満なの?」
「そうね……何もしてくれない事かな?」
「ほえ?」
「いい意味でも悪い意味でも何もしないのよ……。バイトと勉強に明け暮れてる。家事も手伝ってくれるかな。でも構ってくれない」

なるほどね~。

「恵美がもっと甘えてみたらいいんじゃない?かまってよ~って……」
「私はそうしてるつもりなんだけど気づいてくれないのよね」
「気づいてるけど照れて何もできないだけかもしれないよ」
「それはあり得るね。石原君だしね」

亜依も言う。

「難しいわね。男も色々いるのね」
「そうだね~」

だからこそ色んな組み合わせがあるんだと思う。
そんな中で上手く組み合わさった人を運命の人だと呼ぶのかもしれない。

「奈留も他人事だと思ったら大間違いよ」
「公生はよくわからない。何を考えてるのかさっぱりだし」

恵美が言うと奈留ちゃんが答える。

「そのうち分かるわよ」
「だといいけど」

時間は沢山あるんだからゆっくりお互いを理解していけばいい。
沢山ある選択肢もやがては一つになるのだから。
たった一つのゴールを目指して私達は進むだけ。

「それじゃ、そろそろ寝ようか?奈留も寝る時間でしょう」
「そうですね」
「じゃ、おやすみ~」
「おやすみなさい」

私達は眠りについた。
皆が幸せになりますように。
そんな事を考えながら。
祈りながら一夜を過ごした。
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