優等生と劣等生

和希

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4thSEASON

ツァラトゥストラはかく語りき

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(1)

4月1日。

謎の脅迫文が関係各所に届く。

「現金100億円を用意しろ。さもなくば地元は闇に包まれるだろう」

すぐに通報が入り。調査をはじめる。
人間関係金銭トラブルの有無。すべて探る。
しかし何の証拠も出てこない。
今日はエイプリルフール
ただの脅かしか悪ふざけだろう。
県庁はそう判断した。
闇に包まれるの意味もわからなかった。
どうせ、思春期の子供がしでかした悪戯。
そう結論づけられた。
表向きは。
私と渡瀬は独自で対策室を作る。
署長は最後まで反対したが警察庁長官の命令とあれば従わないわけにはいかない。
まずは、海に面した火力発電所に警備をつけた。
各管轄の警察官を各地の発電所の警備につける。
当然人手が足りないことは予想していた。
警察が対策している。
そう思わせることが重要だったから。
後は娘たちが解決してくれる。
今日は長い一日になるな。
渡瀬とそんな話をしていた。
夜になると私達も火力発電所に向かう。
ここは若いカップルが集う場所。
今夜もたくさんの車が止まっていた。
警備員に何もない事を確認すると署に戻る。

「本当に良いんですか?まだ学生ですよ?」
「……あの子には頼りになる未来の夫がついてる。大丈夫だ」
「その子も学生ですよね?」
「……今までも事件の解決に協力してくれた。今度も必ず解決に協力してくれる」
「俺は自分が情けなく思います」
「私達がいるからあの子たちが自由に動けるんだ。自信を持て」

その時通報がなる。

「火力発電所で爆発を確認、繰り返す……」
「渡瀬……行くぞ!」
「はい!」

俺達が向かった先は、火力発電所とは逆方向の山の方面。
とある施設のある場所だ。
すでに機動隊が待機してある。
この場所を特定したのも子供達。
どの権力どの派閥にも所属しない自由の剣。
地元に灯る希望の光。
彼等の戦いが今始まった。
我々に出来ることは彼らの戦いのサポート。
それがこの場にとどまる理由。
しかし、突然襲う。謎の争乱。
内部で誰かが暴れている。

「警視正!あれを!」

渡瀬が空を指差す。
黒い何かがダイナマイトを投下している。
その爆風で自らを上昇させそして滑空しながら次の爆撃地点を目指して飛ぶ。
調べはついていた。あれがバードマンか。
私はすぐに機動隊に撤退指示を出した。
無用な犠牲者を出すわけには行かない。
しかしここは紅会の支部。
どうして彼らがいるのか不思議でならなかった。
ヘリコプターの音が聞こえてくる。
すると爆撃を止めヘリコプターに捕まるバードマン。
そのままヘリコプターは逃走した。
爆撃が終わったのを確認すると機動隊に突入を命令する。
奴らの狙いが何なのか分からないが、この機会を逃す手は無い。
一網打尽に全員逮捕した。

(2)

「ひゃははは!今夜はダンスといこうぜ!ヘッジホッグ!!」

こんなところでむやみに銃を撃つな!
取り扱ってるのは天然ガスだぞ!
物陰に隠れてるというわけには行かない。こっちから打って出る。
かといってむやみに発砲するわけにもいかない。
一発で仕留める。
その一発を撃つチャンスを見計らっていた。
こっちに何人来てるのか分からない。
誰が来てるのかもわからない。
こいつ一人に時間を割いてられない。
左右に跳んで銃弾を躱しながらリロードのタイミングを見て距離を詰める。
そして再びリロードしようとした時を狙って右手を狙う。
右手から銃が落ちる。

「痛いじゃないかヘッジホッグ!」

そんな言い分聞いてられない。続けざま二発目を打つ。
左肩にあたった。
これで両腕を封じた。
僕は一気に間合いを詰める。
左手を掴んで肘を蹴りあげる。
左腕は妙な方向に折れ曲がった。
男の叫び声が聞こえる。
アズライールを押し倒すと胸を踏みつける。
どうせ懐にまだ隠し持ってるんだろ?

「どうした?まだ俺は生きてるぜ!?」

僕は冷酷に徹して両太ももに一発つずつ撃つ。
アズライールの叫び声がこだまする。

「そこで大人しく警官が来るのを待っていてください」

そう言って僕は片桐君達のもとへ行く。
するとアズライールの叫び声が聞こえた。
振り返ると変身した恵美が男の頭を踏みつけていた。

「確認不足よ望」

恵美はそう言って笑う。

「恵美」
「後何人いるの?」
「わからない、片桐君の応援に行かなきゃ」
「そうね、急ぎましょう。」

恵美は適当なパイプにアズライールを縛り付けると僕達は片桐君のもとへ向かった。

(3)

「まだそんな玩具で満足していたのか?」
「玩具でも皆を守る事くらいは出来る」

僕とジャックの攻防は続いた。
敵が何人来ているか分からない。
向こうは平気なんだろうか?
石原君達も気になる。
こいつ一人にてこずってる場合じゃない。
しかし、対格差もあってかややジャックに押され気味だった。
背中に壁が当たる。
後には下がれない。

「これで終わりだ!」

ジャックは剣を振り上げそして振り下ろす。
左足を軸にして右半身を後ろにそらして斬撃を躱す。
その勢いを利用して半回転して背中に一撃を叩きこむ。
もちろんこれで仕留めたとは思わない。
ジャックは身を捻り剣を振り回す。
前転してそれを躱すと膝をついて起き上がろうとするとジャックが切っ先を眼前に突きつけていた。

「終わりだ、抜刀斎」

その名前は色々まずいと思うんだけど今さらと思う人がほとんどだよね。
もちろんこれでジ・エンドになるつもりは無い。右手にもってある刀をジャックの左ひじに打ち上げながら紙一重で突きを躱す。
頬を切るくらいはしたかな。
左腕の損傷くらいはしたらしい。
ジャックは両手で構えていた剣が今は片手で構えている。
ジャックは空高く舞い上がると頭上目掛けて剣を振り下ろす。
僕も飛び上がって迎撃する。
刀の峰を左手で支え刀を打ち上げる。
剣と刀は衝突する。
振り下ろす重力加速度を利用した攻撃だが片手だったせいで両手の僕とほぼ互角。
ジャックの体が少し浮く間に僕は着地していた。落ちてくるジャックの体に目掛けて攻撃の姿勢を作る。
剣を鞘に納めて抜刀術の瞬間を狙う。
しかしジャックは空中で回転して距離を置く。
剣を振り上げるジャック。
剣を鞘に納めたまま構える僕。

「その技は見切った。二度は通用しない」
「試してみる?」

ジャックはフッと笑うと切りかかってくる。
見極めろ死線を……。
目を閉じて相手が迫ってくるタイミングを計る。
今だ!
目を見開くと抜刀する。
だがジャックはギリギリで踏みとどまって。斬撃を躱す。

「二度は通用しないといったはずだ」

がら空きになった僕の背中に斬撃を叩きこむ。
だがそれもお見通し。
左手で持った鞘を相手の右ひじに叩き込む。
変な曲がり方した。
ジャックは剣を落す。

「不殺を誓いながら、相手を戦闘不能に追い込むのが僕の流儀だよ」
「活人剣といいたいのか、そんなものは存在しない」
「今証明してみせた」
「まだ証明は終わっていない!」

ジャックは、剣を足で拾うとウィンドミルのような動きで剣を操る。
僕は巻き込まれないようにその場から後ずさる。
ジャックは起き上がると宙に舞った剣を口で受け止める。

口で攻撃してくるつもりか。
刀を構える。
男は突進する。
僕も負けじと突進する。
そして9つのの斬撃を同時に放つ。
最後の突きだけは柄頭で突く。
同時に9か所も打撃を受けたら神経がパニックを起こすだろう。
男も身動き取れずにいた。

「冬夜君!」

側で隠れて見ていたらしい愛莉が駆け寄ってきた。

「そんな恰好で何かあったらどうするの?」
「すぐに変身するから平気たもん……冬夜君顔に傷が……」
「ああ、危ないところだったよ」
「危ないことしちゃダメって言われてたでしょ!」

僕は男を縛り付けながら愛莉に謝る。
銃声が聞こえる。
まだ敵はいる!
愛莉と顔を見合わせると銃声のする方に走っていった。

(4)

「おりゃあ!」

俺は敵を投げ飛ばす。
敵は壁に打ち付けられる。

「まだ終わりじゃないよな!?」

敵に向かって吠える。
敵は戸惑っているようだ。
そのとき兵隊が彼に向かって発砲する
敵はそれを小手で受け止めると兵隊に向かって突進して蹴散らす。
その隙を逃さない。敵に受かって足を振り上げ延髄を蹴飛ばす。

「がっ!」

敵はうめき声をあげ膝を崩す。
そんな敵にかかとを振り下ろし脳天を打ちつける。
敵は白目をむいて倒れる。
俺は敵を手錠で後ろ手に括りその場に放置して春奈の援護に回ろうとした。
後は兵隊が処理してくれる。
そう思った時だった。
兵隊のうめき声が聞こえる。
敵は手錠を引きちぎり兵隊を蹴散らしこちらに突進してくる。

「この程度で勝った気になってんじゃねえ!」

そう言って殴りかかってくる敵の腕を掴み再び投げつける。
受け身の取り方も知らないやつだった。
攻める方法しか知らない馬鹿を打ちのめすのは容易な事だった。
男はよろよろと起き上がる。

「まだやるっすか?」

この馬鹿の相手をしてる時間は勿体ない。

「俺がこんな素人に負けるはずがない」

そう敵は言っている。
この馬鹿は心をへし折らないと駄目だ。
俺は敵に構えるように言う。
その無敵だと思っている小手で俺の攻撃を防いでみろと挑発する。

「そんな余裕を残しているとは俺も舐められたものだな」

敵は構える俺は敵の両腕を交差している部分をめがけて殴りつける。
裏当てを決める。
小手は粉々にくだかれ、威力は両腕を貫通して相手の背中何まで到達する。
当然男は吹き飛び、後頭部から打ちつけられ気絶する。
今度こそやったか。
男の様子を見る。
男はピクリとも動かない。

「武術に溺れて打たれ弱いのを克服しない間抜けに負ける気はしないっす」

兵隊に彼を拘束するように言う。
その様子をしっかり見守っていると酒井先輩の声が聞こえる。

「危ない!」

振り返ると甲冑を纏い兜をつけた図体のでかい女が突進してくる。
チェーンソーを振り回してくる。
それを躱すと膝を相手の鳩尾に入れる、
原理は透かしと同じ。
甲冑は無傷だったが内部を損傷させる。
だが、女は止まらない。
振り下ろしたチェーンソーを振り上げる。
俺はバク転してそれを躱す。
女性の両手首に細いワイヤーのようなものが括られる。
俺は裏当てをチェーンソーに加える。チェーンソーを折ることに成功した。
女性は殴りかかってくる。それを躱しカウンターでむき出しになっている顔面を捕らえる。
女性の頭は脳震盪を起こし倒れるはずだったが全く効いてない。

「お前とは鍛え方が違うのよ!」

頭は鍛えられないっす!
更に首に巻かれたワイヤーを引きずる酒井先輩。
酒井先輩は高い位置にある配管のサポートを飛び越え女性を吊るす。

「先輩それ殺人っすよ?」
「それよりワイヤーが持ちこたえるかどうかを心配した方が良いよ」

酒井先輩が危惧した通りになった。
ワイヤーは女性の重みに耐えられず切れてしまい女性は落下する。
アスファルトを抉り地面に埋もれた女性。

「晴斗君、やっておくれ!」

酒井先輩の言葉を聞いて俺はリストバンドのボタンを押す。

TRANS-AM

赤く輝く体で助走をして女性の体を思いっきり蹴り上げた。

女性は天高く舞い上がり海に落ちて行った。
水しぶきが天高く舞い上がる。
溺れているようだが、酒井先輩は意にも止めない。
するとボートが近づいてきて女性を回収して立ち去っていく。
逃げられた。

「行くよ晴斗君。まだ戦ってる人がいる」

そうだ、春奈の援護をしないと。
俺は変身をとくと酒井先輩と共に走る。

(5)

脅威。

ナイフを何本刺しても立ち上がる彼。
彼の名前はサリエル。
彼の投げるナイフを受け止めながら彼に投げつける。
全て彼の急所を射抜いていたが彼は全く意にも介さない。
この手の化け物への対抗手段も講じた。
額にナイフを突き刺すも彼はにやりと笑い私にナイフを突き立てる。
スーツがなかったら死んでた。
しかしスーツの限界時間も残り少ない。
彼は闇に紛れ死角を突いてくる。
躱しながら、ナイフを受け止めながら彼に攻撃をする。

時間切れ。

スーツが解除され私は全身が鉛のように重くなる。
それをみた彼が私にとどめを刺そうと背中に一撃を加えようとする。
その手をワイヤーがからめとり彼の体は引き寄せられる。

「春奈!下がってるっす!」

晴斗が来てくれた。
晴斗は飛び上がると彼の頭を踏みつける。
彼の頭は地面にめり込む。
晴斗は彼の頭を粉砕するつもりだったようだが。
でもその攻撃は無意味。
彼は自由なの方の腕をあげ晴斗の足にナイフを突き刺そうとする。
晴斗はそれに気づいて素早くバク宙をして攻撃を回避する。
彼はゆらりとおき上がる。
ナイフを何本も突き立てられハリネズミのようになっている彼の光景は不気味だった。

「仕方ないですね」

酒井さんは男に何かを投げつけるとそれを銃で撃ちぬく。
投げつけられた瓶が割れ中味が発火して彼を炎が包む。
男はのたうち回る。
しかし死にはしなかった。
彼は門を抜けると岸壁を越え海に落下する。

「ああ、それ水と反応して発火する物質なんですけど」

彼の言う通り海から火柱が立った。
しかしボートが近づき消火して回収される。
そのボートから何かが光ってる。

「危ない!!」

美嘉さんが私たちを押し倒す。
青白い稲妻のようなものが放たれる。

「TRANS-AM!!」

赤く光った渡辺さんがその稲妻を受け止める。
なんともないんだろうか。

「こっちもTRANS-AMっす!」

晴斗は変身すると赤く光りそして背中に背負っていた武器から槍を選択してボートに目掛けて投げつける。
槍はボートに直撃してボートは爆発した。
私たちは殺人の罪に問われるんだろうか?
でもあれは人ではなかった。
それに槍を直撃させて爆発させたなんて誰が信用するだろう。
私達の方のミッションは完遂した。

(6)

「公生、捕まえた!!IPは……!!」

誠君が教えられたIPを弾くように設定する。
中央制御は捕獲済み。
後は別のプロキシをつかって侵入してこないかを見張るのみ。
誠君は自分の作業に没頭する。
侵入してきたIPの足跡をたどって九尾の狐の大元を辿る作業。

「ここまで来て逃がすと思うなよ!」

誠君はタタタンと軽快にキーボードを叩いていく。
その音は突然止まる。

「OK、捕獲完了、まこりんを送り付けてやるぜ」

スピーカーには彼らの通信状況が流れている。
どうやら皆それぞれの戦いに勝ったようだ。
指示を飛ばしているのは恐らくアレン。
その通信を不能にして、アレンのボイスサンプルを使って指示を出す。

「トラブル発生、各自待機せよ」と。

「了解した」と通信が流れる。

時間稼ぎにはなるだろう。
その間に誠君は九尾の狐の情報を根こそぎ奪う。
片桐君に依頼されていた事。

「冬夜の言ってた通りだ。Xデーは明後日だ」

僕もその内容を知る。
僕達はとんでもない場所に足を踏み入れたのかもしれない。
それでも止まることは許されない。

「作戦が終わったら花見だからな。公生楽しみにまってろよ!」

誠君が言う。

「誠君。様子がおかしい、敵が動き出してる!」

奈留が画面を見て言う。

「え!?ちっ!ネットを遮断しているのを察知されたか!?」

外を見る。信号弾が打ち上げられている。
ミッションフェイルドを知らせるものだった。
きっと各自が撤収に走るだろう。
こっちも皆に作戦が成功したことを知らせる。
皆が「了解」と言っていた。
だけど石原班の反応が無い。
何かあったのだろうか?

(7)

一人の男と戦っていた。
石原君と二人で戦っていた。
愛莉と恵美さんは見守っている。
いつでも援護できるように変身の準備をして。
男は強敵だった。
ナイフと拳銃を持ちながら攻撃をしてくる。
僕達は防戦一方だった。
男は素早く動き、そして襲い掛かかってくる。
石原君に組み付き投げて投げられの攻防を繰り返す。
下手に手出しできない。
そして石原君が投げられマウントポジションを取られると互いに拳銃を急所に向ける。
次の瞬間躊躇いなく発砲される。石原君はすんでのところで首を動かし弾を躱す。
頬に赤い筋が見える。
黙ってみてるわけにもいかない。
僕は男に突進して抜刀する。
男は飛び退き剣撃を躱す。
そしてこっちに向かって発砲する。
マズルフラッシュの光が僕に銃口の向きを教えてくれる。
僕はそれを躱した。
男の動きがとまった。
銃口はこちらに向けられたまま誰かと話をしているようだ。
その間に攻め込もうと思ったが石原君も僕も付け入る隙を見つけられずにいる。
その時、男は先頭を突如止め、耳に手を当て誰かと話を始めた。

「わかった……」

男はそう言って通信を切る。

「今日はここまでだ。君達の勝利だ。おめでとう」

男は拍手する。
どういうつもりだ。

「だが、まだ捕まるわけには行かんのでな。悪いがここで撤収させてもらうよ」

男は手に持っていた白い袋を投げつける。
とっさに石原君が撃つ。
白い粉が舞う。
これは……。

「石原君伏せて!!」

僕が言うより先に皆伏せる。
男はライターを粉に向かって投げつける。
粉は爆発する。その間に逃げられた。

「みんな無事!?」

僕は皆に聞く。

「大丈夫よ」

恵美さんが答える。

「多田君から連絡がはいったわ。作戦は成功。九尾の狐のデータも捕獲したって」
「そうか……」

作戦成功とはいいづらいけどな」

「あっちも少なくとも3人はしとめたみたいよ」

あっちとは酒井班の事だろう。
詳細を恵美さんから聞く。
それは本当に仕留められたのだろうか?
まあ、僕達に出来ることはここまで。後は警察に委ねよう。

「はい、指揮官から締めの言葉必要でしょ?」

恵美さんが通信機を渡す。
それを受け取ると、皆に声をかけた。

「今日は皆お疲れ……いつもの店で打ち上げしよう」

皆から歓声が沸き上がる。
その時僕のスマホが鳴る。
非通知だ。
電話に出る。

「見事だ、危うく死ぬところだったぜ!」

やっぱり生きていたか。

「それはよかったね」
「褒美にいい事を教えてやる『神は死んだ』」
「どういう意味?」
「そのまんまの意味だよ」
「高橋蒼良になにをした?」
「お前は国家、思想、社会、自我の起源についてどう思う」

声が変わった。
さっきの男だ。

「あんた誰?」
「ヴァイパーといえば分かるか?」
「ああ、あんたが……」

国家の在り方か。

「そんなの学生の僕に聞いてどうするの?僕達がどうこう口を出す問題じゃない」
「お前の考え方……やはり戦士に向いているな」
「悪いけどそんな物騒な職に就職する気ないから」
「お前がどう思おうと時代はそれを許さない。お前はこれからも戦いに巻き込まれていくだろう」

確かにこのままだとそうなるかもね。だけど……。

「僕はそんなものに耳を貸すつもりは無い。だけどあんた達の思い通りにさせない」
「次合う時を楽しみにしてる、近いうちに会うだろう」

そう言って電話は切れた。

「ねえねえ、誰から?」

愛莉が聞いてきた。

「ヴァイパーから」
「ヴァイパー!?」

石原君が聞いてきた。

「なんて言ってたんです?」
「国家やら思想やらがうんたらかんたら」
「なるほどね……」
「僕たちも撤収しようか?警察の邪魔になる」
「そうですね」

今夜の戦いは勝った。しかしこれはまだ序の口に過ぎない。
次が本番だ。
だけど、とりあえず今夜は勝利を祝うとしよう。
僕達に与えられた僅かな休息を。

(8)

「本当に彼らだけでかたづけちゃいましたね。遠坂警視正」
「……うむ」
「肝心の九尾の狐には逃げられてしまいましたが」
「……そうだな」
「遠坂警視正?」

私は考えていた。
冬夜君の予想通りの展開になった。
恐らく本当の狙いは明後日催されるパーティ。
県知事と元首相の会合。
アレンは何を企んでいる?
その事までは冬夜君も分からないらしい。
しかしそれを見つけるまでは。いや、それを見つけるのは我々の仕事かもしれない。
真の犯人とは何者か?
アレンの背後に誰がいる?
月とは何者なのか?
冬夜君にも分からないという。
だが月が現れるのは太陽が沈む時だという。
当たり前のことだが何を意味しているのだろう?
太陽というのは太陽の騎士団というIRISの情報に基づいた組織なのだろうか?
郷土愛者達という謎の組織と対立している者たちなのだろうか?
郷土を憎むもの、それが正体だという。
郷土というのは地元そのものをさすのか郷土愛者達を指すのか分からない。
アレンは郷土を憎んでいる。
それは多分十数年前のあの事件が発端だろう。
あの事件でアレンは捕まった。
それは高橋グループと須藤グループが絡んでいた事件。
その事もIRISは示唆している。
IRISは公安にも提出してある。
間もなく二つのグループにメスが入るだろう。
太陽の騎士団も無事では済まないだろう。
地元がの基盤が揺らぐ時。太陽が沈む時。地元に夜が訪れる。
しかし彼等が夜を照らす月となるだろう。
彼等が夜空を照らす星明りとなるだろう。
我々に出来ることは彼等を支えてやること。
地元の未来は彼等に託された。

(9)

「じゃあ、皆今夜はお疲れ様。ファミレスだけど深夜で誰もいない。心行くまで楽しんでくれ」

僕が言うと、宴は始まった。

「はい、冬夜君お疲れ様」

愛莉が熱燗を注いでくれる。
今日は愛莉が運転して送ってくれるらしい。

「ありがとう」

僕はそれを飲み干すと次を注いでくれる。

「晴斗も今夜はお疲れ様」
「あざーっす、春奈」

二人も夜を楽しんでいる。
だが楽しんでばかりもいられない。

「冬夜、明後日のパーティの正体がわかった」

それは地元からでた元首相の誕生日パーティらしい。
IRISの情報と、地元を憎むアレンの情報が繋がった。
思った通り九尾の狐……いや、アレンの裏にあるのは太陽の騎士団じゃなかった。
正確に言うとアレンの裏などいなかった。
全てアレンの計画通り。
その証拠に、アレンの部隊は地元の紅会の組織を急襲したらしい。
アレン達は再び行方をくらます。
しかしセクタ単位で感染する誠のウィルス「まこりん」はアレン達の行動を完全に把握している。
彼等の目的に国家、思想、社会の理念など関係ない。
ごく簡単な個人的な復讐にあった。

「とはいえ、今度の作戦は乗り気じゃないな。敵を助けてやれって言ってるようなもんだろ?」
「でも戦う相手も敵だよ」
「そうだけどさ、勝手に潰しあえって思うじゃん、自らまいた種だろ?」
「それで済むならいいけど困るのは皆だよ。放っておくわけには行かないでしょ!」

桐谷夫妻が口論してる。

「……冬夜は今度の作戦どう考えているんだ」
「やることが矛盾してるね。でも亜依さんの言う通り、皆が困るなら放っておくわけには行かない」

渡辺君に答える。
彼等がどういう手段でテロをするのか分からない。
でも、不本意ながら太陽の騎士団が潰えたら困るのは他ならぬ地元の人々だ。
当然彼等も裁かれなければならない。ただしそれは法の下で。
テロという手段で裁かれるのは阻止しなければならない。

「今度こそ本当に最後の戦いだな」
「ユニティはとっくになくなったよ」
「神は死んだ。か……」

渡辺君はそう言って笑う。
どっちが正しいのか分からない。誰をなぜ守るのか分からない戦いに僕達は向かう。
それでも自分の意思を曲げずに戦わなくちゃいけない。
自分との戦いでもある。
目に映る全ての人を守るため、僕達は剣を振るう。
戦いの人生を完遂する。

「と、いうわけだ。皆次で最後だ。気を引き締めて戦おう」

渡辺君が言う。

「やっと物騒な事件からおさらばできるのね」

恵美さんが言う。

「週末の花見が楽しみですね」

石原君が言う。

「俺達が特等席を用意しときます」

真鍋君達が言う。

「怪我だけは気を付けてね」

深雪さんが言う。

宴は朝まで続いた。

帰って家に帰るとシャワーを浴びる。
愛莉が浴びるのを待つためにテレビをつける。
朝のニュースではすでに昨日の発電所襲撃事件を取り扱っていた。
逮捕者はかなりの数いた。
しかし九尾の狐は一人として捕まっていなかった。
次でケリをつけるさ。

「冬夜君、待っていてくれたんだ」

愛莉はそう言って部屋に入ってくるとドライヤーで髪を乾かす。
楽しそうに鼻歌交じりで髪を乾かす愛莉を眺めている。
その視線に気が付いた愛莉。

「どうしたの?」
「なんでもないよ。ただ、楽しそうだなって」
「そりゃ楽しみだよ、次で最後なんでしょ?」
「ああ……今度こそ最後の戦いだ」
「冬夜君がそう言うならきっとそうだね」
「冬夜君戦いが終わったら一杯構ってね」
「……連休にどこか遊びに行こうか?」
「いいね、久しぶりだね。どこでもいいよ。冬夜君とのデート楽しみにしてる」
「ああ。そろそろ寝るか」
「うん」

愛莉とベッドに入る。
愛莉は僕に抱き着くとすやすやと眠る。
愛莉のぬくもりを感じると僕も疲れが来たのかすぐに眠ってしまった。
次で最後。
僕達の戦いに幕が下りようとしていた。
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