優等生と劣等生

和希

文字の大きさ
上 下
323 / 442
4thSEASON

求めし力

しおりを挟む
(1)

僕達は全速で彼等を追っていた。
信号を操作し足止めしながら距離を詰める。
彼等の行く先を誠が監視している。
車内の中は無言だった。
気まずい空気が流れる。
優勢な僕達の空気じゃない。
CDでもかけるか?
これから戦場に赴くにはあまりにも拍子抜けなJPOPが流れる。
少しでも雰囲気が和めばいいけど……。

「片桐君BGM止めて頂戴」

恵美さんが言うので大人しく止めた。

「もう愛莉ちゃんからも言ったらどうなの!?気づいてるんでしょ?」
「うぅ……まあ、そうだけど。冬夜君が大丈夫だって言ってるし」
「全然大丈夫じゃないじゃない!片桐君、何を迷っているの?そのくらい私にもわかるわよ!」

恵美さんがズバリ切り込んできた。

「どんなに腕が良くても迷いがあれば隙が生じます。その隙が命取りになりますよ」

石原君が言うと説得力がある。
やっぱり今のうちに聞こうか?

「石原君は戦う時相手を殺す覚悟って持ってるの?」
「え?」
「僕なんかと違って武器が武器だ。当たり所を外せば簡単に死んでしまう」
「殺すつもりはありません。が、やむを得ないときは殺ります。一番悲しませたくない人を悲しませないために」

それは師範からも言われてきた事。

自分の命もまた一人の人間の命という事実に目を伏せてはいけない。
生きようとする意志が不可欠。
愛しい者や弱き者を仏の慈愛を以って己を犠牲にしたところで、その者たちの中には悲しみが残り本当の意味での幸福は訪れない。
生きようとする意志は何よりも強い……それを決して忘れるな。

「生きようとする意志……か」
「自分の為じゃなく遠坂さんの為に生きてください。それは殺す殺さないの外の話ですよ」

石原君はそう言って笑う。

「冬夜君は何でも抱え込み過ぎだよ。一人で悩んでないでもっと相談してよ。何のためのお嫁さんなの?」
「そうだね愛莉の言う通りだ」
「冬夜君が死ぬなんて絶対いやだからね」
「わかったよ」

愛莉の頭を撫でてやる。

「片桐君、一体なんて言われてそう思ったの?」

恵美さんが聞いてくる。

「仕留められるときに仕留められないうちは『戦士』じゃないってさ」
「なるほどね……。戦士じゃなくてもいい。あなたは侍なのよ?」
「?」

恵美さんの言ってる意味が分からなかった。

「愛莉ちゃん一人を守る騎士と言えば良いの?それ以外の戦いは他の連中に任せておけばいい。兵隊は沢山いるんだから」
「うん、でもあいつだけは僕が決着をつける」

ジャック・ザ・リッパー

あの男は危険だ。

「もっと厄介なのもいますけどね」

石原君はそう言って笑う。

「ちょっと、見えたわよ。幼稚園の送迎バス」

恵美さんが前方を指差す。
追いついたようだ。

「どうする!?片桐君!?」

どうする!?
子供の命が優先だ。
向こうもジャッカルが運転してる以上攻撃はしてこないだろう。
このまま追尾するか!?

「恵美さん!敵のヘリはどうなってる!?」
「誠君が追尾中よ!?あと戦闘ヘリAH-64D向かわせてる」
「街中でドンパチはだめだよ!」
「どうせ狙いは埠頭なんでしょ!?」

そう言って恵美さんはにやりと笑う。
場所の問題じゃないと思うんだけど。

「誠、信号は進行方向全部青にしてくれ!赤にしたって事故のもとだ!」
「わかった!」

この道だと行き先は大在コンテナターミナルか……!
この前と違って相手は子供を乗せた中型バス。
無理して追いかける必要はない

「酒井班に大在に向かうように指示を!」

誠に指示を送る。

「でもどうして海だってわかったの!」
「子供と蒼良を両方連れ出す場所と言ったら海外しかないと思った」

恵美さんの問いに答える?

「どうして海外?」

愛莉が聞く。

「国外逃亡だよ。子供は多分拉致して傭兵にでも育て上げるつもりだよ」
「言ってる事無茶苦茶だよ!?」
「無茶をやるのが連中なんだろ?自分たちも海外に高飛びさ」
「それで海に網をはったのね!?」

恵美さんが聞く。

「うん」
「冬夜ビンゴだ!ヘリが船に着陸しようとしてる!」

誠から連絡が入った。

「恵美さん、戦闘ヘリの追尾止めて。こっちが戦闘ヘリ持ってるんだ。相手が対空ミサイルくらい持っててもおかしくない」

おかしいけどそのくらい想定しておいた方が良いだろう。

「晶さん、駆逐艦の砲撃準備を!こっちももうじき着く。子供たちを乗せる前に沈める!」
「分かった!船底に穴開けるだけの簡単な仕事よ」

そのうち戦闘機出てきそうな展開だな。
すでにガンシップ登場してるけど。
港に着くと敵兵もたくさん来てる。
すでに戦闘が始まってる。
晴斗や白鳥さん酒井君もそれぞれの敵と対峙してた。

「ヘッジホッグ待っていたぜ!」

アズライールが向かってくる。

「片桐君後は任せます!」

車を止めると石原君が飛び出した。
僕達は車を再び走らせる。
岸壁に車を止めると愛莉達に車を任せて僕は船に乗り込む。
船にはアレンとヴァイパー、それに蒼良がいた。
ヴァイパーが蒼良を拘束し、アレンが銃を突きつける。

「お遊びはここまでだ。抵抗をやめてもらおうか?」

アレンが言う。

「強がっても無駄だ。あんたに蒼良は殺せない!」
「ほう?そう思える根拠は?」
「あんたが狙っているのはIRISの真実だ。蒼良を殺したら永遠に手に入らない」
「なるほど勘がするどいのは確かなようだ……だが」

陸から迫る殺気。
この殺気はやつか!?
飛びのいて攻撃を躱す。

「子供に用はないといったはずだが?」

ジャックが言う。

「なら大人しくしててもらうとありがたいんだけどね」
「大人の邪魔をするなら容赦しない」

ジャックが向かってくる。

僕は変身をして構える。
ジャックは剣を突き出してくる。
半身でそれを躱すと反転してジャックの延髄に剣を叩きこむ。
ジャックはその場に倒れて剣撃を躱す。
その際に何かを飛ばしてく売る。
投げナイフだ。
回転の勢いを利用してそれを躱す。
ジャックは前転して起き上がり剣を構える。
アレンとヴァイパーは成り行きを見守っている。
愛莉たちも変身して雑魚の処理にあたっている
晶さん達の部隊が送迎バスを取り囲む。
3対1。しかも二人は拳銃持ちのプロの傭兵。
分が悪い。
でも時間を稼ぐだけでいい。
ジャックと攻防が続く。
海から何かが飛び出してくる。背後を取られた。
やばい。
男の手刀が僕の背中に迫る。
それを受け止めたのは晴斗だった。

「お前の相手は俺だ!大将のタイマンの邪魔はさせねーぞ!」

晴斗はそう言うと男を船から引きずりだすと放り投げる。
それに気を取られてる間にジャックは切りかかってきた。
刀で受け止める。
体格は向こうの方が上。
鍔迫り合いになると自ずと刀は押し込まれる。
分の悪い事にこちらは逆刃刀。
胸に刃が食い込む。

「そんな刀では人はおろか自分を守ることすらできない。無様だな」

僕はジャックの腹部を蹴り上げる。
一瞬よろめくジャックの後頭部に刀の柄を叩きこむ。
横に避けてよろめくジャックの尻を蹴飛ばす。
ジャックは手すりを飛び越え海に落下する。
アレン達と向かい合う。
状況は振出しに戻った。

「ジャックをあそこまでやるとは、戦士の資質はあるな。お前も一緒に来るか?」
「生憎と泥船に付き合ってる暇はないんでね。もうじき期末試験なんだ」
「泥船?」

アレンが言った時だった。
爆発音が海から聞こえる。
波が激しく立ち船体が傾く。
晶さんの潜水艦が放った魚雷が直撃したようだ。
船が沈み始める。
ボートがやってくる。
ボートを操船しているのはジャッカルった。

「よくわかった……俺達の障壁はお前たちだ」

アレンが言う。
アレンは蒼良とヴァイパーと船からボートに飛び移る。
ボートはあっという間に去っていった。
僕も船から陸に岸壁に飛び移る。
背後に迫る殺気。
まだ戦うつもりか。
刀を抜きつつ振り返り斬撃を受け止める。
背後には車前方にはジャック。
ジャックは剣を突き刺しにかかる。
僕も突進する。
突きを屈んで回避してジャックの両肘に刀を切り上げる。
そのまま上に飛び上がる。
ジャックは打ち上げられ落下する。
着地するとジャックも回転して脚から着地する。

「おまえもしかしてまだ……自分が死なないとでも思ってるんじゃないのかね?」
「?」
「今のお前に足りないものがある。危機感だ」

ジャックが何を言ってるのか分からなかった。
だからジャックが何を狙っているのかもわからなかった。
そんなジャックはすぐに行動に出る。
車の側にいた愛莉にめがけて突進する。

「愛莉逃げろ!!」

だが愛莉の変身時間はとっくに過ぎていて歩く事すらままならない。
愛莉はジャックに捕まる。

「愛莉!!」
「愛莉ちゃん!!」

変身のクールタイムはまだ解けない。

「目の前で愛する人を失えば少しはましになるだ……!?」

ジャックがセリフを最後まで言わなかったのは僕の攻撃が命中していたから。
ジャックが愛莉の首に剣を当てようとしたとき僕は行動していた。

TRANS-AM

俺の身体能力は飛躍的に向上する。効果時間は20分。その後変身状態は強制的に解除。5分間のクールタイムを要する。
だがそんな事は関係なかった。
吹き飛んだジャックは回転して着地する。

「それだよそれ、今の一撃は良かった。やっと目覚めたようだね?」

お前の言い分なんてどうでもいい。

「お喋りの時間は無いんだ。殺してやるからさっさとかかてこい」

冷淡に放つ一言。
自分でも気づいてなかった。
怒りで我を忘れていた。
愛莉から離れると構える。
剣を鞘に収めて構える。
ジャックも剣を上段に構えて攻撃のタイミングを計る。

「どうした?こないのか?」
「いいねえ、ぞくぞくする。この緊張化が溜まらない」
「お前を満足させてる時間は無いんだ。来ないならこっちから行くぞ」

赤い残像が残るほどの勢いで突進して攻撃を叩きこむ。
相手はそれを受け止めるが剣を弾き飛ばす。
俺が攻撃したのは鞘での攻撃。
素早く刀を抜いて頭上に一撃を叩きこむ。
倒れるジャックの前に立つ俺。
冷酷な目でジャックを見下ろす。

「どうした?殺らないのか?まだ甘い所があるようだな?」
「武器もない、今の一撃で動くことも出来ない……勝負は終った」

俺は刀を振り上げ切っ先を立てる。。

「そしてこれで息の根を止めて、お前の人生の終わりだ……死ね」

俺が刀をジャックの頭上に突き立てようととした時だった。

ぽかっ

「なにやってんの!!人殺しはだめだよ!」
「愛莉……」
「冬夜君は怒ったら無茶するから私が止めるの!冬夜君それ以上やっちゃったら二度と戻れなくなっちゃうよ」

僕に抱きつく愛莉に気づいた時、自分を取り戻していた。
僕はなにをしようとしていたのか?

「ハハハ彼女には頭が上がらないか?どこまでも甘ちゃんだな」

そう言うジャックの延髄に一撃を食らわせる。
ジャックは気絶した。
TRANS-AMを解くと変身が解除され全身を疲労感が襲う。
刀を突き立てその場に膝を崩す僕。

「冬夜君大丈夫?」

愛莉が声をかける。

「なんとか……」
「よかった……」

凄い音がした。目の前で船が沈没していく。

「ぼーっとしてる時間は無いわよ!警察が嗅ぎ付ける前に撤収!」

晶さんが言うと。僕達は車に乗り込む。

「片桐君僕が運転します!」

石原君に鍵を預けると後部座席で倒れ込む。
愛莉を膝枕にして寝る。
TRANS-AMか……危険だな。僕の闘争本能を呼び覚ましてしまうようだ。
僕達は炎上するターミナルを後にした。

(2)

その晩深夜に主人から電話が入った。
人質は全員無事。
すぐに帰ってくると。
私は喜びの涙があふれていた。
神様は私達を見捨てなかった。
光莉と朱莉の帰りを待っていた。
幼稚園の送迎バスが深夜にやってくる。

「光莉・朱莉!!」
「ママ~」

二人を抱きしめる。

神様ありがとう。
大在のコンテナターミナルと山の中で保護されたらしい。
コンテナターミナルに停泊していた船は北朝鮮国籍のものでどうやら傭兵・工作員の育成につかわれるはずだったらしい。
船は謎の出火をして爆発炎上沈没したらしい。
あと一歩遅かったらこの子たちの未来は……。
ぞっとする。
しかし神様は見捨てはしなかった。
この子たちの未来は守られた。
私は知らない。
そこには団結した仲間の活躍があったことを。
希望の光をもたらす天使たちの団結があったことを。
想像を絶する戦いがあったことを。
助けてくれたのは神様じゃない。
神様の御使いがもたらしてくれたのだという事を。
どうかその勇敢な戦士にも希望の光が灯らんことを。
その晩主人も帰ってきた。
まだ解決してない事件もあるけれど、今夜くらいは妻の側にいてやれという上司の気づかいがあったらしい。
主人は疲れて眠っている二人の愛娘の寝顔を見て安心する。

「あなた、ごくろうさまでした」
「真由美こそ心配をかけたね」

主人の説明を聞く。
公式には発表されないだろうが、人質救出の陰にはユニティの尽力があったのだという。
ユニティこそ神の御使いだった。
私は感謝する。
彼等の戦いはまだ続くという。
どうか彼等の行く先に光がありますように。
感謝とお礼をの気持ちを抱いて私達は眠りについた。
朝になれば主人は再び現場に行く。
まだ終わってない後始末が山ほどあるという。
私と子供二人は主人を笑顔で見送った。
主人もまた戦いを挑むひとりの戦士。
幸運の光に包まれますように。

(3)

「お疲れ様でした!」

渡辺君が言う。
私達はファミレスで簡単な打ち上げをする。

「皆よく頑張った。皆で勝ち取った勝利だ。皆で祝おう」

渡辺君が言う。
そう、最後は皆で戦った。
コンテナターミナルでの死闘は30分以上に及んだ。
冬夜君が単身船に乗り込んでから私と恵美は車を守った。
石原君はアズライールと戦っていた。
酒井君もスティールレディと戦っていた。
白鳥さんはサリエルと戦っていた。
晴斗君もカムイと戦っていた。
今回の戦いに現れなかった九尾の狐は何をしていたのだろう?
パパさんに聞いたけど酒井班が襲撃した施設には九尾の狐はいなかったらしい。
逃げられた?

「私達の手にかかれば九尾の狐も大したことねーぜ!」

美嘉さんはそういう。
本当にそうなのだろうか?
少なくとも冬夜君は怪我をしていた。
冬夜君の傷は肉体的な傷だけじゃない、心にも傷を負っている。
それは私が後で癒してあげたらいい。
今は迷いを振り切るかの如く食事をしている。

「それにしても冬夜先輩まじカッコよかったっす。TRANS-AMがあったとはいえ、あんな動き普通は無理っす」

晴斗がべた褒めする冬夜君の戦い。
私にジャックさんの刃物が向けられた刹那、冬夜君は姿を消したように移動していた。
気がついたらジャックさんの顔に一撃加えていた。

「殺してやるからかかってこい」

そう冷淡に言い放つ冬夜君はいつもの冬夜君じゃなかった。
冬夜君の性格を考えたらTRANS-AMは危険だ。
冬夜君の眠っている闘争本能を叩き起こす。
普段から冬夜君は怒らせたら何をするかわからない。
それを制御するのが私の役目。

「みんな受かれていたら駄目だよ。結局九尾の狐を一人も捕縛できなかったんだから」

公生君が言う。
その通りだと思う。
それは私達の生活にまだ危険が潜んでいるという証拠。
そして……

「私達の攻撃はまだ須藤グループに届いていない。ドラゴンさんと賢者さんと隠者さん。彼等を止めないと何度でも襲ってくる」

私が言う。

「何度でもやりかえしてやらぁ!徹底交戦だ。息の根止めるまでやってやらぁ!」
「どうやって息の根を止めるの。相手の首を捕まえていないんだよ?」

私が美嘉さんに言うと美嘉さんは返答に苦しんだ。
代わりに冬夜君が答えてくれた。

「誠、例の方法成功した?」
「ああ、ばっちりいただいた。明日にでも解析するよ」

冬夜君は何をしたの?
誠君に注目が行く。

「誠?何をしたんだ?」

カンナが聞くと誠君は得意気に話す。

「実は作戦前冬夜に提案されたんだ。それに成功したってだけ」
「だから何が成功したんだ?」
「俺達はジャッカルとエックスのスマホとノートPCのIPを知らない。だから冬夜のスマホを追跡した」
「それで何がわかるんだ?」
「現代社会、皆携帯やスマホ、ノートPCくらい持ち歩いてる。相手がエックスならなおさらだ。冬夜はジャッカルたちを追跡していた。俺はその追跡している先を追跡したんだ」

誠君は私達が追っている車両に乗っているであろう二人のスマホ、ノートPCを追跡した。同じ場所に向かっているんだから特定は容易だ。そして侵入した。
信号を操作しながら、UAVの操作も任されながらそこまでやっていたの?

「公生の力もあったけどな。さすがに防壁の突破まではできなかった」
「IPさえたどれば防壁の突破くらい僕でもするよ。さすがにエックスの特定はむずかしかったけどね」

誠君と公生が言う。

「じゃあ九尾の狐の情報も?」

亜依が言う。

「ああ、ばっちり頂いた。大体の規模はわかった。これでカードは全部そろったはず」
「賢者とドラゴンの情報は?」
「冬夜の言う通りだった。須藤グループの頭だ」
「わかった、ありがとう」

冬夜君と誠君が話をしている。
気のせいかな?皆と違って一人沈んでいる。やっぱり気にしているんだね?あとでちゃんと慰めてあげよう。それもお嫁さんの務めだよね?

「じゃあ、今日は朝まで騒ごうぜ」

美嘉さんが言う通り皆ファミレスで朝まで騒いでいた。


(4)

それは急な出来事だった。

高橋憲伸の退院。

確かに今警察の目は須藤グループと九尾の狐に向けられている。
しかしその目も上からの圧力で限定的なものだけど。
九尾の狐については存在そのものを否定されている。
しかし若手の警官は圧力にめげずに必死にその正体を探っている。
必死になればなるほど足下が緩くなる。
高橋グループのが再起するには丁度いいタイミングなのだろう。
黒い高級車が病院の前にとまる、
迎えの者がずらりと並ぶ。
その歳とは思えないほどビシッと背筋を伸ばし堂々と車に乗り込む。
車は静かに走り出す。
ユニティの皆に連絡する。
反応が返ってこない。
みんな疲れて寝ているのだろう。
昨夜の活躍は知っていた。
公には出来ないけど皆奮闘したようだ。
医者としての感情は「皆怪我無くてよかった」だけど。
朝からテレビで報道されている人質救出のニュース。
同時に報じられている23ヵ所同時爆破テロの事件。
犯人については行方不明とされていた。
共通してるのはどの場所にも「Do not touch」と書かれていた事。
手を出すなという意味。
それはユニティの警告文。
今回初めてユニティは意思を表明した。
手を出したらどうなるか分かってるな?
そんな無言の圧力を始めて表明した。
これから紅会がどう動くか分からない。
だけど高橋グループが再び動き始めた今。次の局面に移行する。

(5)

「ふぅ……計画は振出しか……。国外に逃げる手段がないな」
「まさか船まで沈められるとは思わなかったヨ」
「連中を侮っていたという事だ」

ヴァイパーとエックスとアレンが話をしている。
俺は車を運転しながら話を聞いていた。
俺達が向かっているのは国東市。
大型のトレーラーの中には九尾の狐の連中が乗っている他PC機器が搭載されていてエックスが弄っている。

「どうするつもりだボス」

Bluetoothの通信でアレンに話しかける。

「とりあえずはなりを潜めよう。後始末は太陽の騎士団に任せて」
「その間その男はどうするつもりだ」

その男とは高橋蒼良の事。

「それなら問題ナイ。準備は出来たヨ」

そう言って。エックスは席を高橋蒼良に譲る。

「余計な小細工は通用しないよ。始めてもらおうか?」

アレンが言うと高橋蒼良はPCに向かって作業を始めた。

「何をさせてるんだ?」
「IRISの情報を引き出している」

アレンが答える。

「IRIS?」
「太陽の騎士団の急所だよ。それを全部盗み出す」
「そんなのエックスにさせればよかったんじゃ?」
「IRISの存在を今知ってるのはユニティと警察等関係者とマスコミの上位の一部のみ、マスコミと警察はどうにでもなる。ユニティが持っていても使い道が無い。後は高橋蒼良のみ」
「他者に渡さず誰に渡す?」
「俺達の真のクライアント」
「……月か?」

アレンは何も言わない。

「今動いたら感づかれる。今しばらく身をひそめるとしよう。太陽の騎士団にも感づかれないようにしなければならない」

ヴァイパーが答えた。

「……済んだぞ」

高橋蒼良が答える。
エックスが席を変わり中味を確認する。

「なるほど……躍起になってもみ消したがるわけだ」
「代わりに俺達が消してやるとしよう。エックスやれ」

ヴァイパーが言うとエックスが操作する。

モニターに映るのは「削除しました」のメッセージ。

「しかしそれを消してもファイルはユニティがコピーしているぞ……」

高橋蒼良が言う。

「分かっている。お前はそれより自分の身を案じるのだな」

アレンが言う。

「お前たちは何を考えている」

高橋蒼良が言う。

「ビジネスだよ。俺達も大金が必要でな」
「目的は金か?」
「郷土への復讐……」

アレンは言う。
郷土?
その言葉が気になった。
祖国ではなく郷土と言ったことに対して違和感を覚えた。
何を企んでいる?
だが、とりあえずは休息を約束された。
それがいつまでなのかは分からないが。
バードマンの治療にもしばらくの休息が必要だろう。

「とはいえ、須藤グループへの援助もしてやる必要もあるか……ほどほどにな」

アレンが言う。
戦えるものは戦え、そういう意味だろう。
しかし本番はここじゃない。
この後にでかい仕事が待っている。
そんな気がした。

(6)

家に帰りつくとシャワーだけ浴びて布団に入る。
今日はもう何もしたくない。
とはいえ学校はある。
少しだけでも眠るか。
愛莉もシャワーを出ると髪を乾かしている。
あ、言っておかなくちゃ

「愛莉……あのさ……」
「わかってるよ~。今日の日課は無しにしてくれ。でしょ?」
「ああ」
「いいよ~今日は冬夜君お疲れだもんね~」

愛莉は髪を乾かすとゲームを起動する。
それは潜伏してミッションをこなしていくというゲーム。
中には別の目的に使う人もいるけど。
愛莉はそのゲームでCQCまで覚えようと思っているのだろうか?
しばらく愛莉がゲームをしている様を見る。
苦戦している愛莉を見ているとつい手を貸してやりたくなるというもので。

「貸してごらん?」

愛莉からコントローラーを受け取るとミッションをこなしていく。
愛莉はじっとその画面を見ている。
このゲーム、セリフが長いのとやたら説教臭いイベントが多いのが特徴なんだよな。
それをじっと見ている愛莉だったが、しびれを切らしたのか最初からそれが目的だったのか分からないけど僕に身を預ける。

「そろそろ聞かせてくれてもいいじゃない?」
「何を?」
「うぅ……」

ぽかっ

「冬夜君が悩んでることくらいお嫁さんの私には見え見えですよ。相談に乗ってあげるから教えて」

なるほどね、最初からそれ目的だったか。

「実はさ……」

話をしようとすると愛莉は思いついたかのように、漫画を読みだす。
悩みを聞いてくれるんじゃなかったのか?

「あ、この漫画だ~えーと……」

愛莉が見ているのは以前見た実写映画化された剣客の漫画。
何を探しているのだろう?

「剣と心を賭してこの戦いの人生を完遂する!!」

愛莉が漫画の台詞を引用するなんて珍しいな。

「冬夜君言ってたよ『女神は戦わぬものに微笑むことなど決してないのだから』って」

愛莉の真意が分からない。

「冬夜君は今までずっと戦ってきた。色んなことがあった。サッカーの件、バスケの件、そして私の件とユニティの件」
「うん……」
「冬夜君はいつだって逃げずに戦ってきた。自分の人生を貫いてきた。今までそうやってきた。これからもそれでいいじゃない!」

まだそんなに言うほど人生経験ないけどね。
愛莉は僕の背中に抱き着く。

「サッカーから目を背けて、バスケからも逃げようと必死になって、戦闘の本質からも逃れようとする……冬夜君の人生は逃げるだけ。でもね、私とはちゃんと向き合ってくれてる」

それは愛莉だけは手放したくなかったから。

「私はそれだけで嬉しい。だから一緒に逃げよう?納得いくまで走ろう?世界の果てまでもついて行くから」
「……ありがとう」
「上手く言えなくてごめんなさい。でもどう表現したらいいのか分からなくて」
「愛莉の気持ちよく伝わったよ」
「よかった~」

愛莉の頭を撫でてやる。
愛莉とならどこまでも逃げていけそうな気がする。でも、いつでも逃げられるならもう少しだけ頑張ろうって気になれるんだ。
例え僕の行く道が逃げてると言われようが、愛莉が許してくれるならどこまでも自分の道を切り開いていける。

「冬夜君も必死に戦ってるよ。そばで見てる私が保証する」
「ああ……」

愛莉という帰る場所があるなら。僕は戦おう。僕自身の信念と向き合おう。間違っていたら引き返せばいい。
きっと愛莉が待っていてくれる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...