優等生と劣等生

和希

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4thSEASON

夢追う僕と見守る君

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(1)

「渡辺君結婚おめでとう」
「おめでとうございます」

僕と愛莉は渡名夫妻に挨拶していた。

「ははは、俺達は今更だよ。それよりお前こそおめでとう。アジア選手権優勝」
「そーだぞ。とーや、おめでとう」

ここは渡辺夫妻の結婚式の2次会の場なのに僕のいつの間にか祝勝会の場になっていた。

「折角の渡辺君たちの祝いの席なのに悪いよ」
「どうせ俺達ユニティしか来てないんだ。堅苦しい事は抜きにしよう」

3次会も来いよと言う。何でも大事な話があるんだとか。何の話だろう?

「それにしても片桐先輩だめじゃないですか!ミスして自分を失うのも分かりますけど、先輩は代表選手なんですよ。もっと周りと連携を……」

こんな席でも佐倉さんの説教はづづく。

「あの7番は脅威だったな。もっとスタミナつけてきてたらやばかったな」

佐(たすく)が言う。

「そんなの関係ないですよ、あの巨躯で片桐先輩とマンツーで張り合おうって言うのがそもそも間違いだったんです」
「じゃあ桜子ならどう冬夜に対抗する?」
「3Pはすてて2Pを確実に決めていく方を選びますね。もちろん先輩にプレッシャーをかけながら」
「そのやり方は通用しなかったじゃないか?」
「逆ですトリプルチームを仕掛けて2Pに抑えるんです。その代わり自分たちもきっちり2P取っていく。先輩にスティールさせたら駄目です」

そこから勝ちパターンにもっていかれるからと佐倉さんは言う。

「結局冬夜を止めなきゃ勝てないって事か?そういう意味では中国は正しかったって事だな」
「日本を研究してきたんでしょうね」

佐倉さんの分析は続くけどここは渡辺君の為の席だよ?
まあ、僕はご馳走にありつくだけだけどね。
あ、お酒は押さえてるよ。
前回と同じ失敗はしない。

「俺達の事はいいんだが……」

いやよくないでしょ!?主賓だよ。

「……次は誰だ?」

シーンと静まり返る。

「順当に行くなら俺達ですね。12月のクリスマスイブに予定してます」

真鍋君が言う。

「クリスマスイブとはまた厄介な日に選んだな……」
「何かあるんですか?」
「二日連ちゃんで騒がないとだろうが!」

美嘉さんが言う。そういう基準なのね。

「年末も忙しくなるな!」

忘年会も別にやっちゃおうって腹積もりなんだね。

「ああ、この後の3次会なんだが」

渡辺君がマイクを使って話を始めた。

「ちょっと大事な話がある。来れるやつは来てくれ」

大事な話?なんだそれ?

「うぅ……」

愛莉は唸っている。
ちなみに言っておこう。ちゃんと日本に帰国した後、愛莉に思う存分構ってあげた。
寂しいとかそういうのは無いと思う。
どうしたんだろう?

「愛莉、どうしたの?」
「皆結婚式挙げていくんだなって……檜山先輩も来年挙式するらしいし」

え?そうなんだ?でも……

「それがどうしたの?」
「なんか私達だけ取り残されてる気分がして。あ、冬夜君のせいじゃないんだよ。私が勝手に我儘言ってるだけ」
「今年にするか?結婚?」
「え?」
「僕がプロになればすぐにでも結婚できるよ」
「うぅ……冬夜君には負けて欲しくないし。好きな道を歩かせてあげたい」
「じゃあ、予定通りだね」
「うん」
「ちゃんと約束は守るから」
「うん」

愛莉も何かと葛藤してるんだな。

(2)

3次会はカラオケのパーティルームで行われた。
いきなり歌いだす者はいなかった。
食べるのはいたけど。それは僕。

「話は2点、まずはアーバニティというサークルについてだ」
「アーバニティ?」

皆は知ってるようだけど。

「どうやらエンペラーが新たに立ち上げたサークルで間違いないらしい」

渡辺君が言うと恵美さんと誠と公生がうなずいた。

「会員制になってるけど、ちょっとてこずったけど公生と二人がかりで侵入した」
「中味はちょっと違うけど理想の形のエゴイストになってる」

誠と公生が言った。
公生が言った「理想の形のエゴイスト」ってのが気にある。

「理想の形って?」
「会員制のやり目サークル。会員制だから合法的に会費がとれる。男性用と女性用に別れてる。両方に男女のボーンが使われている。両方ともにそれなりの顔のサクラが入ってる」

それってもはやサークルでも何でもないんじゃ……。

「中身はただのクラブだね。風営法に引っかかりそうな感じ」

公生が淡々と話す。

「それだけの事をやるんだ。当然パトロンがいるんだろ?」

僕が聞くと公生が頷いた。

「後ろについてる出資者は須藤グループ」

また聞いたことのないグループだな。

「表向きは一企業。けど裏では色々悪事をやってる。暴力団みたいな団体も抱えてる」
「なるほどね……」
「皆は知ってると思うけど前にあったカラオケ店の婦女暴行の件もアーバニティの連中の仕業だ」

渡辺君が言うと皆がざわついた。

「それだけじゃない、その後も何度も婦女暴行を犯している。大した縁結びのサークルだ」

渡辺君が言うと女性陣が怒りをあらわにした。

「当然放っておくわけないよね!そんなサークル女性の敵だわ!」

晶さんが言うと女性陣は「そうだそうだ」と盛り上がっていた。

「でも疑問があるんだけど?」

僕が言うと女性陣の視線が僕に集まった。

「サクラなんでしょ相手?それに対して婦女暴行するわけ?」
「サクラも混ざっているが普通に入ってきた人間もいる。偶に混成してパーティしてるみたいだな。何も知らずに入った女性が被害にあったみたいだ」
「それって女性も自業自得じゃねーか。ほっとけばいいじゃねーか!」
「春樹って本当に女性の気持ちわかってないですね~。……そんなんで結婚を願望してるなんて笑わせないで」

咲良さんが言った。
檜山先輩は黙ってしまった。

「まあ、女性の自業自得とも取れない点もあるのはたしかだ。エン目的もあるみたいだしな」
「何も知らない女性が入ったってこともあるじゃないですか~。……なんでも女性のせいにするのはどうかと思うよ」

渡辺君が檜山先輩を弁護するも咲良さんは容赦ない。

「……で、俺達はどうするべきかと思ってな」

結婚式の3次会の話題じゃないと思うんだけど。
フライドポテトをつまみながら考えた。

「僕達を騙ってるわけじゃないんでしょ?手出しする必要性を感じないんだけど」
「片桐先輩も何言ってるんですか~?私達がメンバー募集してないから他に似てるサークルに入ろうとするんじゃないですか~。無関係とは言わせませんよ~」
「その話は前にしたけど僕達は全員を受け入れるほどの許容量は無い。あくまで身内のグループなんだ。その事はテレビで言ったと思うけど?」

僕がそう言うと咲良さんは黙ってしまった。

「でも許せないグループなのは確かね。なんか打つ手は無いの?渡辺君」

亜依さんが言うと恵美さんが言った。

「今度は暴力団が相手。また皆を危険な目に合わせるかもしれないの。下手に手出しできない」
「暴露サイトでも作るか?そしたら多少の抑止力にはなるだろ?」

誠が言う。

「それもいいんだが、根本的な解決にはならない」

渡辺君が言う。

「僕と奈留もどうにかしたいと思ってるんだ。元はと言えばエゴイストの基盤を作った僕達にも責任があるから」

公生が言う。
まあ、仲間の不始末はどうにかしないといけない。

「渡辺君は手を考えてるの?」

僕が言った。

「いや何も思いつかない」
「じゃ、誠の暴露サイトの線で行こうよ。ただし今の情報だけだとダメだ。もっと深い情報が必要だ。例えばエンペラーとの関係を裏付ける証拠とか」

それなら致命的な証拠になる。

「冬夜は対応するべきだと思うのか?」
「エンペラーを逃した僕達の最後の大仕事だ。ここで一気に肩をつける。公生と奈留の件もあるしね」
「トーヤ!その言葉を待っていた!」
「とーやは分かってるな!」
「冬夜君!さすがだよ」

カンナと美嘉さんと愛莉が言う。
最後の大仕事か。
本当に最後だといいけど。

「規模の大きさはわかってるの?」
「もともと須藤グループは裏組織のでかいグループでね、高橋グループより厄介な相手よ……そこで次の話題に移るんだけど」

恵美さんが言った。
そう言えばもう一件あると言ったな。

「次の議題なんだが咲良さんの父親がリストラにあった」

渡辺君が言う。
皆が不審に思う。

「ゼネコンのエリートって言うらしいから、やる気があるならうちで引き受けるわよ?」

晶さんが言う。

「すいません~父さんに話したらその気になってくれました~あんな企業よりはるかにましだと~」

咲良さんが言う。

「咲良さんの言ってるゼネコンの企業って?」

まさか……?

「片桐君が察しがいいのね?須藤グループの子会社よ。そこで咲良さんの父親は須藤グループの悪事の証拠を手に入れた。上司に直談判したらリストラされたってわけ」
「酷い!」

晶さんが言うと愛莉が叫ぶ。

「そういうことならまた圧力かけるのもいいかもね」
「それは俺も考えてる。父さんに協力してもらって須藤グループに揺さぶりをかける」

恵美さんが言うと檜山先輩が言った。

「須藤グループなら白鳥グループも多少関係してるわ。協力できるかも」

金持ちは皆違うね……。

「暴力団絡んでるならパパさんが何か知ってるかも。聞いてみる~」

愛莉が言う。
僕も父さんに聞いてみるかな?

「話は決まったみたいだな。じゃあここからは皆騒いでくれ」

そう言うと皆で盛り上がっていた。

(3)

退屈な学校の授業。
ぼくは前日のお祝いの寝不足解消の時間に割り当てていた。
寝ていても喧しい先生の声は耳に入ってくる。頭に叩き込まれる。睡眠学習ってやつだ。
初日に騒ぎ以来、僕に手を出す奴も声をかけるやつもいない。好都合の場所だった。
偶に休み時間に奈留の様子を見てやる。
奈留には友達が出来たようだ。
友達とおしゃべりをしている。
僕を見つけると僕に手を振る。
僕も手を振って返すとそれをみていた奈留の友達が奈留を冷やかす。
奈留は黙って俯いてしまう。
奈留はもう大丈夫だ。
そう思って自分の教室に戻ろうとすると誰かが僕の腕を掴んで奈留のクラスに引きずり込む。

「新郎のご登場です」

男がそう叫ぶと笑い声が教室を包み込む。
まだこんな低レベルの揶揄いが流行っていたのか?
男は奈留の前に僕を付きだす。
奈留が僕を支える。
別の男が奈留を引きずり腕で奈留の首を縛る

「お前ら転校生のくせに生意気なんだよ。抵抗すれば彼女がどうなるかわかってるよな?」

男が得意気に言うと両手をパキパキと鳴らす。

「どうなるのか教えて欲しいんだけど?」

そんな僕の言葉を合図に奈留は行動した。
男の鳩尾に肘を叩き込み前のめりになった男の襟をつかみ投げつける。
投げ飛ばした男の胸部を踏みつけてすました顔で僕の目の前の男を見る。
皆勘違いしている。
奈留は抵抗できないんじゃない、敢えて抵抗しなかっただけだ。
低レベルな争いに混ざるのが嫌なだけで何もしない。
だけど、僕を巻き込むならと奈留は行動する。

「で、どうなるの?」

気がつくとクラスの大半の生徒が僕達を囲んでいる。
多勢に無勢?
関係ないね、スタンガンや拳銃を装備している生徒がいるなら話は別だけど。
僕と奈留は申し合わせたかのようにお互いの背中を預ける。

「やれ」と男が命ずると一度に襲い掛かる。

と、言っても僕と奈留それぞれに一人ずつなんだけど。
偶に二人同時にとか襲い掛かってくる間抜けもいるけどそんなのは攻撃を躱してやるだけでお互いの足を引っ張るか最悪同士討ちになってしまう。
休憩時間が終わる前に大体片付いた。

「君はやらないの?」

僕が挑発する。
だが、男が襲い掛かってくる直前に「何をやっている!?」と先生の声が聞こえた。
状況からして僕達が一方的に悪いように見えたのだろう。
僕が手加減したつもりだったけど奈留は手加減など知らない。歯向かってきた相手に容赦などするなと教えられているから。女性の場合少しでも心配の目を潰しておかないとそれが命取りになる場合があるから。
そんな事情をしらない先生は「お前がやったのか?」と僕に問い詰める。

「はい、全部僕がやりました」

手柄を横取りしたかったわけじゃない。奈留に迷惑をかけたくなかったから。

「次の時間は自習だ!森羅ちょっとこい」

そうして僕は生徒指導室に呼び出される。

「公生!」

奈留の言葉に手だけで返事をして。生徒指導室までついて行く。
次の時間は生徒指導室で説教の時間だった。
生徒指導の先生と授業担当の先生両方から事情の説明を求められる。

「やられたからやり返した」

だいたいの事情を端折って説明した。
相手の言い分を大方認めた。
そして説教がはじまる。
この手の説教は聞き飽きた。
なぜなら僕は転校初日から「問題児」として認識されていたから。
一度レッテルを張られるとそれを剥がすのは一苦労だし、そんな苦労も面倒くさい。
説教が終わり生徒指導室をでると奈留が心配そうに見ている。
そんなところにいたら……。
案の定奈留まで叱られる。
奈留も柳に風と受け流していた。
2人で教室に戻ると再び冷やかしの声がする。
奈留を無事に教室に送り届けると教室に戻る。
相変わらず僕の存在には無関心を貫くクラスメート。
今さらだ。
僕は再び眠りについた。
学校が終わると教室の外で奈留を待つ。
奈留が来ると学校の外に出る。
冷たい視線を浴びながら校門の外で待つ高級車に乗り込む。
毎日恒例の行事だ。
いい加減慣れた。
車が走り出すと奈留は疲れていたようで僕にもたれかかって眠る。
そして運転手が一言言った。

「つけられてますね」

後ろを見る、
フルフェイスのライダースーツを来た男がバイクで追いかけている。

「巻ける?」

僕は運転手に聞いていた。

「さっきからそうしようとしてるのですが」

景色を見る。確かにいつもと違うところを通っているようだ。

「この先の公営住宅の建設現場に誘い込める?」

僕はスマホを弄りながら言った。

「承知しました」

と、運転手は言った。

公営住宅の建設現場は袋小路になっており出入り口は一か所しかない。おびき寄せるにはちょうどいい場所だ。
公営住宅に着くと運転手に「ここで待ってて、奈留の事お願い」と頼むと車の外に出る。
車を降りるとバイクにまたがっていた男は手にスタンガンを持っていた。
電圧を確かめると僕に近づいてくる。

「待って、君ナイトだよね?」

僕が言うと男は笑っているようだった。

「今は違う」
「じゃあ、今はなんて名乗ってるの?」
「今は『戦車』だ!」

そう言って男がスタンガンを振り上げ襲い掛かる。
駄目だよそう言う大げさな動作を見せたら。
相手に反撃のタイミングを悟られてしまう。
それに僕が一人でのこのここんな場所に来たと思うことも間違いだ。

「子供相手に何をやってるんだ?」

男の背後から男の手首を握る渡辺君。
男は反対の腕でナイフを取り出し渡辺君を刺そうとする。
が、その手も封じられ、手首を捻りあげられればナイフを落す。

「こんな実戦経験僕はしたくなかったんですけどねえ」

酒井君がそういいながらナイフを蹴り飛ばす。
スタンガンはすでに渡辺君に取り上げられていた。
僕はナイフを拾うと男に首筋に当てる。

「君たちのバックはアーバニティかい?」

男は黙っている。

「今日ちょっと学校で嫌なことあってさ、気が立ってるんだよね。正直に話した方が良いと思うけど」

そう言って軽く首筋にナイフを軽く押し当てる。
ナイフの切れ味は抜群のようだ。赤い筋が滲み出る。

「そ、そうだ!ガキの言う通りだ。エンペラーに命令された!」
「その話、じっくり聞かせてもらえないかな?」

渡辺君が言うと男は黙って言う通りに従った。

「あとは渡辺君たちに任せるよ。僕は奈留を連れて帰らないと」
「ああ、ご苦労だった。公生」

そう言って男を連れて行こうとしたとき男は突然バイクを走らせて逃走した。
しかし僕達は動じない。
渡辺君は恵美さんに連絡を入れる。

「恵美さん?俺だけど、手順通り事は進んでる。後は任せた」

そう言って電話を切る。

「本当に逃がしてよかったのか?」
「喋らせたところで明日にはあの男は『吊るされた男』に替わっているよ、トカゲのしっぽ切りみたいな存在だよ」

どうせ吊るされるなら内情を探った方が良い。

「じゃ、渡辺君達急がしい所ごめんね」
「気にするな、じゃあ。また夜に」
「了解」

そう言って渡辺君達が去っていくのを見て僕も車に乗り込む。

「片付いたよ、家に帰ろう」

運転手に言うと運転手は車を走らせる。

「公生、また厄介事?」

奈留は起きていたみたいだ。

「やぶから蛇が出てきたみたいだね」
「気をつけて」
「わかってるよ、適度に遊ぶよ」

2学期も退屈はしなさそうだ。


(4)

その日ファミレスに呼び出された。

「実は今日公生に接触した敵がいる。計画通り逃がした」

渡辺君が言うと、亜依さんが言った。

「計画通りって逃がしたら意味ないじゃん!」
「待って亜依。落ち着いて話を聞いて」

恵美さんが宥める。

「ちゃんと男に忍ばせておいたよ、発信機を」

渡辺君はそう言ってにやりと笑う。

「場所は既に特定済み、市内のファミレスで止まった」
「ファミレス?」
「ああ、地元大近くのファミレスだ」
「その後はどうなったの?」
「地元川の側で遺棄されたみたいだな」
「……それって今夜のニュースに上がってた……」
「ああ、間違いない」

ニュースとは地元川の橋のそばでボコボコにされた男が放置されていた事件。
やり口はエゴイストと同じ。ご丁寧に「俺たちに手を出すな unity」とメッセージを残してあるらしい。
渡辺君は、事情聴取を受けていたが、やはりサークル同士の抗争の線で調査はすすんでいるらしい。愛莉パパの口添えもあってすぐに釈放された。
その事を僕が知っているのはその晩遅くに愛莉パパがやってきて説明してくれたから。
そして。

「今回は正真正銘の暴力団が相手だ。気をつけた方が良い」と忠告してくれた。

その事をユニティの皆に説明する。
当然それを知ったところでユニティの皆が引き下がるわけが無かった。

「上等じゃねーか!受けて立ってやろうじゃねーか!なあ皆!」

美嘉さんが言うと皆沸き立つ。

「今更筋ものが出てきたところでビビる私達じゃねーよ」と神奈。
「油断は禁物です!」と石原君が言う。
「今度はただのチンピラとはわけが違う。みんなちゃんと防衛手段を準備しないと」
「今回も私の兵隊を一人つける。でも不用意な外出は控えて!」と晶さんが言う。
「そうだな、今回は気を引き締めてかかろう」と渡辺君が言う。
「俺と公生は予定通りやつらのサーバーを探る。誠君特製のウィルスちゃんの出番だな」と誠は笑っている。
「皇帝……戦車……力……吊るされた男……正義……彼らの目的が見えて来たわね」

奈留がそう言うと僕もうなずく。

「そうだね、彼等の行きつくところはそこだろうね」

僕が言うと奈留は安堵の笑みをこぼす。

「じゃあ、また進展があったら連絡する。皆何度も言うがくれぐれも軽はずみな行動をとらないでくれよ」

渡辺君が言うと皆が頷く。
そして僕達は解散した。

「ねえ、冬夜君?」

愛莉が聞いた。
大体想像がつくけど。

「冬夜君と奈留ちゃんは答え合わせをしているように見えたけど私には全然わからないんだけど……」
「愛莉にヒントあげようか?」
「うん」
「新たな教皇と隠者が現れた。運命の車輪は擬えるように回りだす。悪魔や死神を引き連れて愚者は旅をする。星と月と太陽は巡り塔は審判の雷を受けて砕けるだろう」
「あっ!」

愛莉は気づいたようだ。

「彼等が望むものは世界……だね?」

愛莉が言うと僕は笑顔でうなずいた。

「わ~い、当たった~」と喜ぶ愛莉。

だが、彼等の望む世界が何を指しているのかはまだはっきりしない。
文字通り世界なのかそれとも……?
それに実際のところ僕達は何の手掛かりもつかめていない。
アーバニティだけじゃなくて須藤グループも相手にしなきゃいけない。
僕達は家に帰る。
帰ると部屋着に着替えてテレビを見ながら一缶飲む。

「ねえ、冬夜君?」
「どうした?」
「冬夜君の夢現実まであと一歩だね」
「うん?どうして?」
「どうしてって……あと五輪で金メダル取るだけでしょ?」

そんなコンビニで買ってくるように気軽に言うなよ。

「その一歩が大変なんだと思うけど……」
「そうか、そんなに遠いんだ」

愛莉が背中から抱き着く。

「じゃあ、最後まで見守ってるね。冬夜君の夢」
「それは無理じゃないかな?」
「どうして?」

だって僕の夢は五輪なんかじゃない。

「僕の夢はウェディングドレス姿の愛莉の隣に立つことだよ?」

後から見守ってたんじゃ叶わないだろ?

「そっか~」

後から僕を抱きしめる愛莉の腕を抱く。

「冬夜君、やっぱりプロポーズの言葉っていらなくない?」
「なんで?」
「ウェディングドレス姿の私の隣に立ちたいって十分プロポーズじゃない?」

あ、しまった。
愛莉ににやりと笑っている。

「夢叶う様に私も祈ってるから……私の夢も叶えてね」
「ああ、分かってるよ」

今夜も月が綺麗だ。
月夜の明かりを頼りに僕達は進む。
だけど運命の歯車は時として迷走する。
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