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4thSEASON
挑戦
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(1)
「じゃあ、冬夜気をつけてな」
「冬夜体調には気をつけろ!」
「愛莉ちゃんもしっかり応援するのよ~」
「う、うむ……」
両親に見送られてバスに乗る僕達は、成田空港に向かっていた。
地元の空港から1時間半くらいで着く。
搭乗手続き、出国手続き、手荷物検査等の時間を考えると昼には地元を発っておきたかった。
明日から始まるアジア選手権。
僕達は早めに成田についていた。
「あ、片桐君早いね!もうちょっとでみんな揃うからちょっと待ってて」
スタッフさんに言われる通り待つことに。
すると皆がやってきた。
久しぶりの面々だ。
「久しぶり」
「久しぶり」
聖人たちと再会の時間を楽しむと、すぐに手続きに入る。
「どきどきするね~」
愛莉は若干緊張しているようだ。
初めての中国。
「そうだね」
「冬夜君は中国料理が楽しみなんでしょうけどね!」
「まあ、点心くらいは食べておきたいよな」
「冬夜食い過ぎて腹壊したなんてやめてくれよ」
大丈夫だよ、僕が今までそんなミスを犯したことがあったかい?
飛行機に乗り北京へと飛び立つ。
北京までは4時間ちょっと。
北京に着くと入国審査をすませて、バスに乗り込む。
北京の渋滞は凄い。
大渋滞の中を進み、ホテルに着いた頃には22時を過ぎていた。
試合は明後日から。
明日は開会式がある。
和人と同じ部屋になる。
「いよいよだね」
和人は言う。
「そうだね」
僕がそう返す、と和人は笑っていた。
「その分だと冬夜は緊張はまったくしてないみたいだね」
「ここで負けてたら話にならないから」
勝つしかない。
そう言うもんだと思ってた。
「安心した。もっと意気込んで力入り過ぎてないかと心配してたんだ」
「さすがに世界戦は慣れたしね」
「注意してね。前にも言ったけど中国は強敵だよ」
「その中国とは決勝に当るね」
「うん、決勝までいければ否応でも当たる」
「大丈夫。なんとかなるさ」
「そうだといいね……」
コンコン
誰かがノックしている。
「冬夜君、私だよ~」
愛莉の声だ。
「あんまりはめ外すなよ」
和人が言う。
「和人も由衣さんと仲良くな」
そう言って部屋を出る。
「こんなところ見られたらまた週刊誌に載っちゃうぞ」
「えへへ~もう慣れた」
慣れるもんじゃないと思うけど。
「来て」
愛莉が見せたかったのはホテルの窓から見える夜景だった。
「綺麗だね~」
「本当だな」
「試合明後日からだって?」
「ああ、そうだよ」
「じゃあ、明日は一緒に観光……」
「対戦相手の試合見ておかないと」
「そっか~」
愛莉は残念そうだ。
「由衣さん達とは観光行かないの?」
「そのつもり~。スタッフの人が案内してくれるって」
「そっか、よかったな」
「冬夜君も一緒にと思ったんだけど……しかたないよね。遊びに来たんじゃないもんね」
「ごめんな」
「その代わり絶対優勝だよ!」
「わかってる」
「じゃ、そろそろ部屋に戻る~」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい~」
僕は部屋に戻ると和人は既に寝ていた。
起こさないように僕も眠りについた。
一試合も落とせない戦い。
どこも同じだ。
興奮して眠りにつくのに時間がかかった。
案の定次の日寝坊した。
(2)
今日から2学期。
僕達は新しい中学校での生活を送ることになる。
1学期はそんなに学校に出なかったけど勉強にはついていけてた。
奈留とはクラスが違っていた。
「家に帰れば否応でも顔を合わせるんだから学校でまで一緒にいる必要ない」と奈留は言うけど。HRが始まるまで僕のクラスにいた。
「今日から新しい転入生がはいります」
「森羅公生ですよろしくお願いします」
拍手とは別に冷たい視線を浴びる。
1限が始まる前に奈留の様子を見る。
普通にしてるように見えた。が、違和感に気づいた。
誰にも話しかけられない、話しかけようともしない、一人ぽつんと浮いた存在。
奈留を呼ぶ。
「奈留虐められてるの?」
「そんなんじゃないから心配しないで」
そんな話をしている時だった。
「あ、森羅と香崎なんか二人で話しあってるぜ」
冷やかしの声が聞こえる。
僕らくらいの年齢だとそれが普通なんだろう。
「お前ら出来てんのかよ!?」
僕のクラスのリーダー格の奴がそう言うと、僕は奈留の手を取る。
「ちょっと公生!?」
奈留が驚いている。
「このくらい普通だと思うけど、君にはいないの?」
ちょっと挑発するとすぐに顔を真っ赤にするのも僕らの年頃なら当たり前なんだろう。
「調子に乗ってんじゃねーぞ!」
掴みかかる奴をスウェーで躱し足を引っかける。
男は無様に顔から転げる。
鼻血を垂らしながら。僕を睨みつける男。
こんな奴のあしらい方くらい、心得ている。
「お前ら何やってんだ!?授業始まるぞ!」
先生がそう言うと皆教室に戻る。
「じゃ、奈留また後で」
「う、うん」
奈留がそっと耳打ちする。
「ありがとう」
麗しの君の為ならこのくらいどうって事無いよ。
それから僕のクラスはいたって平和だった。
誰も僕にちょっかい出す者はいない。
友達になろうとする者もいなかったけど。
今さら同世代の友達作る必要も無いかなと思ってた。
しかし奈留は違った。
学校が終わって奈留を待っていると奈留の姿に異変を感じた。
制服がチョークの粉で汚れている。
奈留の顔は無表情のままだ。
机にも落書きされてある。
奈留のクラスのHRは長引いた。
問題は奈留に対するいじめについてだった。
「香崎さんはまだ来て慣れてないんだから優しくしてあげなさい」
そんな事を先生が言ってた。
ここで僕が報復したらまた奈留が虐められるな。
二度と奈留を虐められないくらいまで痛めつけてやろうかとも考えたけど。
HRが終ると奈留は教室を出てきた。
「おまたせ」
奈留は精一杯の作り笑いをしていた。
奈留の制服に着いたチョークの粉を払ってやる。
冷やかしの声が聞こえてくるけど気にも留めなかった。
だって、そんな低次元な奴らの相手をするだけ時間の無駄だと知ってるから。
僕達が校門を出ると立派な車が待っている。
それもまた冷やかしの的になるのだけど。
車に乗ると奈留が不思議な言葉を言った。
「アーバニティ」
上品なとかそんな意味を持つ単語。
「どうかしたの?」
「昼休み検索していたら引っかかった。一昨日の事件覚えてる?」
「ああ、カラオケ店で無理矢理婦女暴行したって事件ね。それがどうかしたの?」
「その婦女暴行したサークルがアーバニティ」
そう言って奈留はスマホを操作してサイトを見せる。
会員制になってあり、中には入れない。
また18歳未満はお断りとまで書いてある。
「匂わない?なんかきな臭い匂いが」
「気のせいだよ。エゴイストは解散したんだ。今さら僕らが出る幕じゃないよ。それより……」
「私と公生が目指したエゴイストの最終形態に似ていない?」
会員制のやり目サークル。
確かに僕達が目指したエゴイストの形だ。
「それだけじゃない、アーバニティは他にも色々やってるみたい」
闇ビジネス、裏カジノ、数えだしたらキリがない。
「奈留はエンペラーがアーバニティに絡んでいると?」
奈留は頷いた。
「分かった、僕も調べてみるよ。こういうのは僕の方が得意だ。それより奈留は学校生活どうにかしないと」
「あんな低次元ないたずらに付き合ってる暇はないわ。好きにさせとく」
「でも……」
「言ったでしょ?学校にいる時間なんて一日の3割にも満たない。後の時間は公生が慰めてくれる」
奈留はそう言って僕に寄りそう。
こういう気分も悪くないな。
奈留は奈留なりに僕を頼っていてくれるようだ。
僕もしっかりしないとな。
そう言い聞かせて、奈留の肩を抱いた。
「アーバニティか……」
「気をつけて、エゴイストとは全く異質の存在の気がする。裏で動いてる組織も気になるし」
「そうだね」
何よりユニティにちょっかいを出す気配が全く感じない。
ユニティの皆に話すべきか。
ちょっと悩んでいた。
(3)
喫茶青い鳥。
カランカラン。
「やあ、穂乃果」
「いらっしゃいませ」
隆司君はカウンターの席に陣取るといつものメニュを頼んだ。
注文の品を渡すと一啜りしてから言った。
「今度の週末予定空いてない?」
「バイトはいれてないけど?」
「じゃあ、よかったらご飯でもご馳走するよ」
「わかった。ついでに買い物に付き合ってくれないかな?」
「いいよ。ドライブも考えていたんだけど……」
こんな風に最近は隆司君は優しい。
私がエゴイストに攫われて以来だろうか?
何かと理由をつけては一緒にいてくれるようになった。
部活も大変だろうに、ありがとう。
ユニティの皆と話をするのは暗黙の了解で認められている。
カランカラン。
他のお客さんが来た。
花菜さんだ。
「いらっしゃいませ~」
「お、花菜ちゃん珍しいね?どうしたの?」
花菜さんは辺りを見回して言う。
「恵美さんや亜依さん来てない?」
「最近はみてないけど?どうかしたの?」
「ちょっとこれ見てくれない?」
花菜さんはスマホを操作してから私たちに見せた。
検索ワードは「幸せにするサークル」
すると地元の合コングルがたくさん出てくる。
そんなの今更じゃない?
便乗して色んなサークルが真似をしてる。
人が集まってるのかどうかはおいておいて。
「噂なんだけどさ、アーバニティってサークルがこの前の事件の裏にいたらしいのよ」
この前の事件。
カラオケ店での強制わいせつ罪。
サークル活動の一環だとは聞いていたけど、真相は有耶無耶になった。
「その噂どこから?」
「地元大の友達、アーバニティに誘われたらしいんだけど、いかがわしいサークルっぽかったから入らなかったらしいんだけど」
「思い違いって事は無い?」
それに私達には関係ないサークルじゃない。
「これは私の勘なんだけど、もしかしてエゴイストの残党が絡んでるんじゃないかって思ってね。だって乱立してるサークル全部地元大からだよ?」
「……エンペラーが動き出したってこと?」
「それもあり得るんじゃないかと思って亜依や恵美に聞いてみたかったんだけど」
「それなら私も調べてるわ」
黙っていた晶さんが言った。
「女の勘ってやつ?なんか臭うのよね……」
「僕は気にし過ぎだと思いますけどね。仮にエゴイストの残党だったとしても僕達ユニティには関係ないでしょ」
酒井君が言った。
私達の存在はアピールした。だからこれ以上エゴイストに構う必要もない。手を出してきたら反撃するのみ。
片桐君も渡辺君もそう言ってた。
けれど本当にそれでいいんだろうか?
片桐君に聞いてみたいと思たけど今ごろ北京で大暴れしてるはず。
余計な心配はかけたくない。
片桐君達が帰ってきてからでも遅くはない。
そう思っていた。
(4)
私立大の校門近くでまっていると黒いスポーツカーが止まっている。
春樹だ。
私が助手席に座ると車は走り出す。
「元気そうで何より」
「毎日電話してるからそのくらい分かると思いますけど~」
「……すまんな、そろそろ卒論に手をつけないといけなくてな」
「就職決まっていて、留年しましたは洒落にならないですよね~」
どこに行くというわけでもない。
高速に入って、県境のICで高速を出て一般道を走って帰ってくるだけのドライブ。
積もり積もった話があるわけでもない。
毎日電話で話しているから。
それでも久しぶりのデートなので浮かれてはいた。
途中お店に寄って夕食を食べる。
夜景がきれいな素敵なカフェ。
オムライスが自慢らしい。
夕食を食べると観光港に車を止める。
何があるというわけでもない。
釣りをしている人が何人かいるだけ。
外をぶらりと歩く。
「片桐君達活躍してるみたいじゃないか」
春樹が言う。
既に決勝進出を決めていた。日本代表チーム。
明日決勝があるという。
決勝はテレビで観れる。
だからみんなで応援しようという事になった。
場所は合宿のあった施設。
「春樹はどっち派なんですか~?」
「どっち派って?」
「負けてプロ入りして欲しい派か~勝って代表引退して欲しい派か~」
「そうだな、どうせならきっちり勝って欲しいかな」
やっぱりそうだよね。
遠坂先輩も言ってたし。
ユニティに負けて欲しい人など一人もいないだろう。
「ユニティは不思議なグループだな。次々と皆の願いをかなえていく」
春樹がそう言う。
でも渡辺先輩は言ってた。「皆それなりに努力した結果の賜物だ。俺たちはその後押しをしているだけに過ぎない」と。
「ユニティと言えば最近乱立していますね~、縁結びのサークルとやらが~」
そう、エゴイストが表に出てからずっとそうだったけど、ここ一か月の間に頻発している。
それも地元大から沢山出ている。
その話はすでに渡辺先輩たちの耳にも入っている。
公生の話だとエンペラーが関与している可能性も大だという。
しかし渡辺先輩は言う。
「そんなの好きにさせておけばいいさ。俺達には関係のない話だ」と。
春樹に聞いてみた。
「春樹はどう思ってますか~?アーバニティの事」
「エゴイストの時もそうだったがわざわざ相手の土俵に上がるような真似する必要ないよ。馬鹿馬鹿しい。時間の無駄だ」
俺達はユニティというグループの存在をしっかりアピールした。それ以上する事は無いよ。と、春樹は言う。
本当にそれでいいのか?
第2、第3の犠牲者が出ても同じことが言えるのか?
きっとみんな看過しないだろう?
なんからかの攻撃をするに違いない。
またサークル同士の抗争になるのだろうか?
春樹は笑う。
「そんな事には絶対なんねーよ。心配するだけ時間の無駄だ」
だといいんだけど~。
「それより俺達の今後の事考えて行かないか?」
「私達の?」
「もう付き合って一年になろうかという頃だろ?うちの親にも会ってるし……そろそろ咲良の親にも会っておきたい」
「え?」
「勘違いするなよ、まだお互い学生の身だ。すぐに結婚とか考えているわけじゃない。ただそろそろ挨拶もしておきたい。そう考えただけだ」
「わかりました~。……いつでもいいよ」
「ありがとう。助かる」
その後家に送ってもらって春樹は帰っていった。
私は実家に電話をする。
「もしもし母さん?」
「どうしたの咲良?」
「今度一度母さんたちに会わせたい人がいるんだけど……」
「あんたまさか、出来たとかいうんじゃないだろうね!」
「違うわよ~」
「そ、それなら良いんだけど……。母さんたちそれどころじゃないから」
「?何かあったの~」
「……父さんが突然リストラされてね」
え?
「あんたの学費どうにかしなきゃって工面してる最中なのよ」
「次の仕事はすぐみつかりそ~?」
「わかんない、父さんも再就職する気なさそうだし」
「どうして?」
「エリート街道まっしぐらだった父さんが突然解雇よ?父さんも挫折する事あるわよ」
「わかった~、またその日が決まったら連絡する」
「ええ~わかったわ」
父さんの会社が経営不振なんて話聞いてない。
どうしてこの時期にリストラ?
何かの陰謀に巻き込まれた?
春樹に相談してみよう。
メッセージを打つとすぐに返信が来た。
「父さんの会社なんて会社?」
「須藤パレック。ゼネコン企業」
「須藤グループの子会社か、分かった、こっちで内情調べてみる」
「卒論で忙しいときにごめんなさい~」
「いいよ、じゃあまた明日」
スマホをテーブルに置くとベッドに倒れる。
私たち自身が何か大きな事に巻き込まれてる。
そんな気がした。
(5)
会議室を借りて僕達は明日の対戦相手・中国の研究をしていた。
体格が皆良い。
中でも一人物凄い奴がいる。
そのリーチで相手のシュートを尽くブロックしていくやつが。
そしてフックシュートはほぼ止めるのは不可能に等しい。
こんな化け物がアジアにまだいたんだ。
そう思った瞬間だった。
「臆することは無い。対応策は考えてある。その対応策をこれから説明する」
監督はそう言って説明する。
いつも通りの戦術でいい。
ただ、僕は徹底的にマークされるだろうから他でシュートを決めていく。
僕はボールを受けたらシュートを狙うよりノーマークの味方を探してパスを出すいつものやり方でいい。
「フックシュートをある程度決められるのは構わん。でもなるべくシュートを打たせないディフェンスを心がけろ」
監督がそう言うと会議は終わった。
会議室を出ると愛莉が待っていた。
「先に部屋に戻ってる」
和人がそう言うと僕と愛莉だけが残った。
僕と愛莉はロビーにあるソファーに座って話をする。
「いよいよ明日決勝だね~」
「そうだな」
「冬夜君達なら勝てるよ、自信もって」
「ありがとう。明日終わったら愛莉に構ってやるからな」
「そういう事言っちゃダメだって言ったの冬夜くんだよ~」
愛莉が口を尖らせて言う。
そんな愛莉の頭を撫でてやる。
「大丈夫、明日勝たないと中国料理楽しめないしな」
「やっぱり食べ物が一番なんだね」
すぐ拗ねる困った可愛い子。
耳元で「愛莉が一番に決まってるだろ」と囁いてやれば愛莉は「えへへ~」と機嫌を直す。
「ねえ冬夜君?」
愛莉は僕の腰に手を回して胸に顔をうずめて言う。
「こんな風に人前でいちゃつけるようになったのもやっぱり冬夜君変わったよね。昔は手を握ることすら拒絶してたのに」
「そうだな」
愛莉と付き合ってるという事を知られるのが怖かった時期もある。愛莉と僕を隔てる壁はいつの間にか消えていた。
「あの時私怖かった。冬夜君ひょっとしたら私の事嫌ってるんじゃないかって……」
そしてカンナが現れてその不安はますます高まってクリスマスイブに爆発したらしい。
「今はどうなの?」
僕は愛莉に聞いていた。
「平気だよ~。ちょっと一時揺らいだときあったけど」
去年の話だな。僕がバスケを始めだした頃の話。
あの時は僕も悪いと思った。
愛莉が実家に帰ると言った時僕も頭が真っ白になった。
でも愛莉は帰ってきてくれた。
「愛莉知ってるか?」
「な~に?」
「こうやって急に過去の思い出話を語るのも死亡フラグていうんだぞ」
「うぅ……」
「なんてね、そんなフラグいくつでもへし折ってやるよ」
「……うん!」
そうしてしばらくゆったりしてると人気もいなくなってきた。
「僕達もそろそろ部屋に戻ろうか?」
「そうだね、冬夜君寝不足になったら大変だもんね」
そうして二人は部屋に戻る。
和人はDVDを見ていた。
中国戦のDVDだ。
「冬夜良く試合を見て。気づくことがない?」
和人は僕にもDVDを見ることを勧める。
……あっ!そういう事か!
「どうしてその事を?」
「冬夜試合中忘れたら駄目だよこの事を。冷静に対処して」
「……わかった」
「じゃあ、そろそろ寝ようか?」
「そうだね、おやすみ」
「おやすみ」
僕が試合に出るとしたら必ず僕のシュートを防ぎに来るだろう。
でもムキになったらダメだ。
冷静に対応すればいい。
うちは外からの攻撃だけじゃない。
ゴール下の攻撃だって強いんだ。
そう強く思って、明日の試合に備えて眠りについた。
「じゃあ、冬夜気をつけてな」
「冬夜体調には気をつけろ!」
「愛莉ちゃんもしっかり応援するのよ~」
「う、うむ……」
両親に見送られてバスに乗る僕達は、成田空港に向かっていた。
地元の空港から1時間半くらいで着く。
搭乗手続き、出国手続き、手荷物検査等の時間を考えると昼には地元を発っておきたかった。
明日から始まるアジア選手権。
僕達は早めに成田についていた。
「あ、片桐君早いね!もうちょっとでみんな揃うからちょっと待ってて」
スタッフさんに言われる通り待つことに。
すると皆がやってきた。
久しぶりの面々だ。
「久しぶり」
「久しぶり」
聖人たちと再会の時間を楽しむと、すぐに手続きに入る。
「どきどきするね~」
愛莉は若干緊張しているようだ。
初めての中国。
「そうだね」
「冬夜君は中国料理が楽しみなんでしょうけどね!」
「まあ、点心くらいは食べておきたいよな」
「冬夜食い過ぎて腹壊したなんてやめてくれよ」
大丈夫だよ、僕が今までそんなミスを犯したことがあったかい?
飛行機に乗り北京へと飛び立つ。
北京までは4時間ちょっと。
北京に着くと入国審査をすませて、バスに乗り込む。
北京の渋滞は凄い。
大渋滞の中を進み、ホテルに着いた頃には22時を過ぎていた。
試合は明後日から。
明日は開会式がある。
和人と同じ部屋になる。
「いよいよだね」
和人は言う。
「そうだね」
僕がそう返す、と和人は笑っていた。
「その分だと冬夜は緊張はまったくしてないみたいだね」
「ここで負けてたら話にならないから」
勝つしかない。
そう言うもんだと思ってた。
「安心した。もっと意気込んで力入り過ぎてないかと心配してたんだ」
「さすがに世界戦は慣れたしね」
「注意してね。前にも言ったけど中国は強敵だよ」
「その中国とは決勝に当るね」
「うん、決勝までいければ否応でも当たる」
「大丈夫。なんとかなるさ」
「そうだといいね……」
コンコン
誰かがノックしている。
「冬夜君、私だよ~」
愛莉の声だ。
「あんまりはめ外すなよ」
和人が言う。
「和人も由衣さんと仲良くな」
そう言って部屋を出る。
「こんなところ見られたらまた週刊誌に載っちゃうぞ」
「えへへ~もう慣れた」
慣れるもんじゃないと思うけど。
「来て」
愛莉が見せたかったのはホテルの窓から見える夜景だった。
「綺麗だね~」
「本当だな」
「試合明後日からだって?」
「ああ、そうだよ」
「じゃあ、明日は一緒に観光……」
「対戦相手の試合見ておかないと」
「そっか~」
愛莉は残念そうだ。
「由衣さん達とは観光行かないの?」
「そのつもり~。スタッフの人が案内してくれるって」
「そっか、よかったな」
「冬夜君も一緒にと思ったんだけど……しかたないよね。遊びに来たんじゃないもんね」
「ごめんな」
「その代わり絶対優勝だよ!」
「わかってる」
「じゃ、そろそろ部屋に戻る~」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい~」
僕は部屋に戻ると和人は既に寝ていた。
起こさないように僕も眠りについた。
一試合も落とせない戦い。
どこも同じだ。
興奮して眠りにつくのに時間がかかった。
案の定次の日寝坊した。
(2)
今日から2学期。
僕達は新しい中学校での生活を送ることになる。
1学期はそんなに学校に出なかったけど勉強にはついていけてた。
奈留とはクラスが違っていた。
「家に帰れば否応でも顔を合わせるんだから学校でまで一緒にいる必要ない」と奈留は言うけど。HRが始まるまで僕のクラスにいた。
「今日から新しい転入生がはいります」
「森羅公生ですよろしくお願いします」
拍手とは別に冷たい視線を浴びる。
1限が始まる前に奈留の様子を見る。
普通にしてるように見えた。が、違和感に気づいた。
誰にも話しかけられない、話しかけようともしない、一人ぽつんと浮いた存在。
奈留を呼ぶ。
「奈留虐められてるの?」
「そんなんじゃないから心配しないで」
そんな話をしている時だった。
「あ、森羅と香崎なんか二人で話しあってるぜ」
冷やかしの声が聞こえる。
僕らくらいの年齢だとそれが普通なんだろう。
「お前ら出来てんのかよ!?」
僕のクラスのリーダー格の奴がそう言うと、僕は奈留の手を取る。
「ちょっと公生!?」
奈留が驚いている。
「このくらい普通だと思うけど、君にはいないの?」
ちょっと挑発するとすぐに顔を真っ赤にするのも僕らの年頃なら当たり前なんだろう。
「調子に乗ってんじゃねーぞ!」
掴みかかる奴をスウェーで躱し足を引っかける。
男は無様に顔から転げる。
鼻血を垂らしながら。僕を睨みつける男。
こんな奴のあしらい方くらい、心得ている。
「お前ら何やってんだ!?授業始まるぞ!」
先生がそう言うと皆教室に戻る。
「じゃ、奈留また後で」
「う、うん」
奈留がそっと耳打ちする。
「ありがとう」
麗しの君の為ならこのくらいどうって事無いよ。
それから僕のクラスはいたって平和だった。
誰も僕にちょっかい出す者はいない。
友達になろうとする者もいなかったけど。
今さら同世代の友達作る必要も無いかなと思ってた。
しかし奈留は違った。
学校が終わって奈留を待っていると奈留の姿に異変を感じた。
制服がチョークの粉で汚れている。
奈留の顔は無表情のままだ。
机にも落書きされてある。
奈留のクラスのHRは長引いた。
問題は奈留に対するいじめについてだった。
「香崎さんはまだ来て慣れてないんだから優しくしてあげなさい」
そんな事を先生が言ってた。
ここで僕が報復したらまた奈留が虐められるな。
二度と奈留を虐められないくらいまで痛めつけてやろうかとも考えたけど。
HRが終ると奈留は教室を出てきた。
「おまたせ」
奈留は精一杯の作り笑いをしていた。
奈留の制服に着いたチョークの粉を払ってやる。
冷やかしの声が聞こえてくるけど気にも留めなかった。
だって、そんな低次元な奴らの相手をするだけ時間の無駄だと知ってるから。
僕達が校門を出ると立派な車が待っている。
それもまた冷やかしの的になるのだけど。
車に乗ると奈留が不思議な言葉を言った。
「アーバニティ」
上品なとかそんな意味を持つ単語。
「どうかしたの?」
「昼休み検索していたら引っかかった。一昨日の事件覚えてる?」
「ああ、カラオケ店で無理矢理婦女暴行したって事件ね。それがどうかしたの?」
「その婦女暴行したサークルがアーバニティ」
そう言って奈留はスマホを操作してサイトを見せる。
会員制になってあり、中には入れない。
また18歳未満はお断りとまで書いてある。
「匂わない?なんかきな臭い匂いが」
「気のせいだよ。エゴイストは解散したんだ。今さら僕らが出る幕じゃないよ。それより……」
「私と公生が目指したエゴイストの最終形態に似ていない?」
会員制のやり目サークル。
確かに僕達が目指したエゴイストの形だ。
「それだけじゃない、アーバニティは他にも色々やってるみたい」
闇ビジネス、裏カジノ、数えだしたらキリがない。
「奈留はエンペラーがアーバニティに絡んでいると?」
奈留は頷いた。
「分かった、僕も調べてみるよ。こういうのは僕の方が得意だ。それより奈留は学校生活どうにかしないと」
「あんな低次元ないたずらに付き合ってる暇はないわ。好きにさせとく」
「でも……」
「言ったでしょ?学校にいる時間なんて一日の3割にも満たない。後の時間は公生が慰めてくれる」
奈留はそう言って僕に寄りそう。
こういう気分も悪くないな。
奈留は奈留なりに僕を頼っていてくれるようだ。
僕もしっかりしないとな。
そう言い聞かせて、奈留の肩を抱いた。
「アーバニティか……」
「気をつけて、エゴイストとは全く異質の存在の気がする。裏で動いてる組織も気になるし」
「そうだね」
何よりユニティにちょっかいを出す気配が全く感じない。
ユニティの皆に話すべきか。
ちょっと悩んでいた。
(3)
喫茶青い鳥。
カランカラン。
「やあ、穂乃果」
「いらっしゃいませ」
隆司君はカウンターの席に陣取るといつものメニュを頼んだ。
注文の品を渡すと一啜りしてから言った。
「今度の週末予定空いてない?」
「バイトはいれてないけど?」
「じゃあ、よかったらご飯でもご馳走するよ」
「わかった。ついでに買い物に付き合ってくれないかな?」
「いいよ。ドライブも考えていたんだけど……」
こんな風に最近は隆司君は優しい。
私がエゴイストに攫われて以来だろうか?
何かと理由をつけては一緒にいてくれるようになった。
部活も大変だろうに、ありがとう。
ユニティの皆と話をするのは暗黙の了解で認められている。
カランカラン。
他のお客さんが来た。
花菜さんだ。
「いらっしゃいませ~」
「お、花菜ちゃん珍しいね?どうしたの?」
花菜さんは辺りを見回して言う。
「恵美さんや亜依さん来てない?」
「最近はみてないけど?どうかしたの?」
「ちょっとこれ見てくれない?」
花菜さんはスマホを操作してから私たちに見せた。
検索ワードは「幸せにするサークル」
すると地元の合コングルがたくさん出てくる。
そんなの今更じゃない?
便乗して色んなサークルが真似をしてる。
人が集まってるのかどうかはおいておいて。
「噂なんだけどさ、アーバニティってサークルがこの前の事件の裏にいたらしいのよ」
この前の事件。
カラオケ店での強制わいせつ罪。
サークル活動の一環だとは聞いていたけど、真相は有耶無耶になった。
「その噂どこから?」
「地元大の友達、アーバニティに誘われたらしいんだけど、いかがわしいサークルっぽかったから入らなかったらしいんだけど」
「思い違いって事は無い?」
それに私達には関係ないサークルじゃない。
「これは私の勘なんだけど、もしかしてエゴイストの残党が絡んでるんじゃないかって思ってね。だって乱立してるサークル全部地元大からだよ?」
「……エンペラーが動き出したってこと?」
「それもあり得るんじゃないかと思って亜依や恵美に聞いてみたかったんだけど」
「それなら私も調べてるわ」
黙っていた晶さんが言った。
「女の勘ってやつ?なんか臭うのよね……」
「僕は気にし過ぎだと思いますけどね。仮にエゴイストの残党だったとしても僕達ユニティには関係ないでしょ」
酒井君が言った。
私達の存在はアピールした。だからこれ以上エゴイストに構う必要もない。手を出してきたら反撃するのみ。
片桐君も渡辺君もそう言ってた。
けれど本当にそれでいいんだろうか?
片桐君に聞いてみたいと思たけど今ごろ北京で大暴れしてるはず。
余計な心配はかけたくない。
片桐君達が帰ってきてからでも遅くはない。
そう思っていた。
(4)
私立大の校門近くでまっていると黒いスポーツカーが止まっている。
春樹だ。
私が助手席に座ると車は走り出す。
「元気そうで何より」
「毎日電話してるからそのくらい分かると思いますけど~」
「……すまんな、そろそろ卒論に手をつけないといけなくてな」
「就職決まっていて、留年しましたは洒落にならないですよね~」
どこに行くというわけでもない。
高速に入って、県境のICで高速を出て一般道を走って帰ってくるだけのドライブ。
積もり積もった話があるわけでもない。
毎日電話で話しているから。
それでも久しぶりのデートなので浮かれてはいた。
途中お店に寄って夕食を食べる。
夜景がきれいな素敵なカフェ。
オムライスが自慢らしい。
夕食を食べると観光港に車を止める。
何があるというわけでもない。
釣りをしている人が何人かいるだけ。
外をぶらりと歩く。
「片桐君達活躍してるみたいじゃないか」
春樹が言う。
既に決勝進出を決めていた。日本代表チーム。
明日決勝があるという。
決勝はテレビで観れる。
だからみんなで応援しようという事になった。
場所は合宿のあった施設。
「春樹はどっち派なんですか~?」
「どっち派って?」
「負けてプロ入りして欲しい派か~勝って代表引退して欲しい派か~」
「そうだな、どうせならきっちり勝って欲しいかな」
やっぱりそうだよね。
遠坂先輩も言ってたし。
ユニティに負けて欲しい人など一人もいないだろう。
「ユニティは不思議なグループだな。次々と皆の願いをかなえていく」
春樹がそう言う。
でも渡辺先輩は言ってた。「皆それなりに努力した結果の賜物だ。俺たちはその後押しをしているだけに過ぎない」と。
「ユニティと言えば最近乱立していますね~、縁結びのサークルとやらが~」
そう、エゴイストが表に出てからずっとそうだったけど、ここ一か月の間に頻発している。
それも地元大から沢山出ている。
その話はすでに渡辺先輩たちの耳にも入っている。
公生の話だとエンペラーが関与している可能性も大だという。
しかし渡辺先輩は言う。
「そんなの好きにさせておけばいいさ。俺達には関係のない話だ」と。
春樹に聞いてみた。
「春樹はどう思ってますか~?アーバニティの事」
「エゴイストの時もそうだったがわざわざ相手の土俵に上がるような真似する必要ないよ。馬鹿馬鹿しい。時間の無駄だ」
俺達はユニティというグループの存在をしっかりアピールした。それ以上する事は無いよ。と、春樹は言う。
本当にそれでいいのか?
第2、第3の犠牲者が出ても同じことが言えるのか?
きっとみんな看過しないだろう?
なんからかの攻撃をするに違いない。
またサークル同士の抗争になるのだろうか?
春樹は笑う。
「そんな事には絶対なんねーよ。心配するだけ時間の無駄だ」
だといいんだけど~。
「それより俺達の今後の事考えて行かないか?」
「私達の?」
「もう付き合って一年になろうかという頃だろ?うちの親にも会ってるし……そろそろ咲良の親にも会っておきたい」
「え?」
「勘違いするなよ、まだお互い学生の身だ。すぐに結婚とか考えているわけじゃない。ただそろそろ挨拶もしておきたい。そう考えただけだ」
「わかりました~。……いつでもいいよ」
「ありがとう。助かる」
その後家に送ってもらって春樹は帰っていった。
私は実家に電話をする。
「もしもし母さん?」
「どうしたの咲良?」
「今度一度母さんたちに会わせたい人がいるんだけど……」
「あんたまさか、出来たとかいうんじゃないだろうね!」
「違うわよ~」
「そ、それなら良いんだけど……。母さんたちそれどころじゃないから」
「?何かあったの~」
「……父さんが突然リストラされてね」
え?
「あんたの学費どうにかしなきゃって工面してる最中なのよ」
「次の仕事はすぐみつかりそ~?」
「わかんない、父さんも再就職する気なさそうだし」
「どうして?」
「エリート街道まっしぐらだった父さんが突然解雇よ?父さんも挫折する事あるわよ」
「わかった~、またその日が決まったら連絡する」
「ええ~わかったわ」
父さんの会社が経営不振なんて話聞いてない。
どうしてこの時期にリストラ?
何かの陰謀に巻き込まれた?
春樹に相談してみよう。
メッセージを打つとすぐに返信が来た。
「父さんの会社なんて会社?」
「須藤パレック。ゼネコン企業」
「須藤グループの子会社か、分かった、こっちで内情調べてみる」
「卒論で忙しいときにごめんなさい~」
「いいよ、じゃあまた明日」
スマホをテーブルに置くとベッドに倒れる。
私たち自身が何か大きな事に巻き込まれてる。
そんな気がした。
(5)
会議室を借りて僕達は明日の対戦相手・中国の研究をしていた。
体格が皆良い。
中でも一人物凄い奴がいる。
そのリーチで相手のシュートを尽くブロックしていくやつが。
そしてフックシュートはほぼ止めるのは不可能に等しい。
こんな化け物がアジアにまだいたんだ。
そう思った瞬間だった。
「臆することは無い。対応策は考えてある。その対応策をこれから説明する」
監督はそう言って説明する。
いつも通りの戦術でいい。
ただ、僕は徹底的にマークされるだろうから他でシュートを決めていく。
僕はボールを受けたらシュートを狙うよりノーマークの味方を探してパスを出すいつものやり方でいい。
「フックシュートをある程度決められるのは構わん。でもなるべくシュートを打たせないディフェンスを心がけろ」
監督がそう言うと会議は終わった。
会議室を出ると愛莉が待っていた。
「先に部屋に戻ってる」
和人がそう言うと僕と愛莉だけが残った。
僕と愛莉はロビーにあるソファーに座って話をする。
「いよいよ明日決勝だね~」
「そうだな」
「冬夜君達なら勝てるよ、自信もって」
「ありがとう。明日終わったら愛莉に構ってやるからな」
「そういう事言っちゃダメだって言ったの冬夜くんだよ~」
愛莉が口を尖らせて言う。
そんな愛莉の頭を撫でてやる。
「大丈夫、明日勝たないと中国料理楽しめないしな」
「やっぱり食べ物が一番なんだね」
すぐ拗ねる困った可愛い子。
耳元で「愛莉が一番に決まってるだろ」と囁いてやれば愛莉は「えへへ~」と機嫌を直す。
「ねえ冬夜君?」
愛莉は僕の腰に手を回して胸に顔をうずめて言う。
「こんな風に人前でいちゃつけるようになったのもやっぱり冬夜君変わったよね。昔は手を握ることすら拒絶してたのに」
「そうだな」
愛莉と付き合ってるという事を知られるのが怖かった時期もある。愛莉と僕を隔てる壁はいつの間にか消えていた。
「あの時私怖かった。冬夜君ひょっとしたら私の事嫌ってるんじゃないかって……」
そしてカンナが現れてその不安はますます高まってクリスマスイブに爆発したらしい。
「今はどうなの?」
僕は愛莉に聞いていた。
「平気だよ~。ちょっと一時揺らいだときあったけど」
去年の話だな。僕がバスケを始めだした頃の話。
あの時は僕も悪いと思った。
愛莉が実家に帰ると言った時僕も頭が真っ白になった。
でも愛莉は帰ってきてくれた。
「愛莉知ってるか?」
「な~に?」
「こうやって急に過去の思い出話を語るのも死亡フラグていうんだぞ」
「うぅ……」
「なんてね、そんなフラグいくつでもへし折ってやるよ」
「……うん!」
そうしてしばらくゆったりしてると人気もいなくなってきた。
「僕達もそろそろ部屋に戻ろうか?」
「そうだね、冬夜君寝不足になったら大変だもんね」
そうして二人は部屋に戻る。
和人はDVDを見ていた。
中国戦のDVDだ。
「冬夜良く試合を見て。気づくことがない?」
和人は僕にもDVDを見ることを勧める。
……あっ!そういう事か!
「どうしてその事を?」
「冬夜試合中忘れたら駄目だよこの事を。冷静に対処して」
「……わかった」
「じゃあ、そろそろ寝ようか?」
「そうだね、おやすみ」
「おやすみ」
僕が試合に出るとしたら必ず僕のシュートを防ぎに来るだろう。
でもムキになったらダメだ。
冷静に対応すればいい。
うちは外からの攻撃だけじゃない。
ゴール下の攻撃だって強いんだ。
そう強く思って、明日の試合に備えて眠りについた。
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