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4thSEASON
闘う者達
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(1)
ピピピピ……。
アラームを止める手が冬夜君の手と重なってしまった。
起きてるのがばれてしまった。
慌てて手を下ろし目を閉じる。
「今日は騙されないぞ」
うぅ……。
私は起きると着替えを始める。
もう梅雨明け宣言は出された。
これから暑い夏が始まる。
着替えを終えると水筒にスポーツドリンクを入れる。
朝とは言え陽射しが強い。
冬夜君は汗をかく。
熱中症対策はしなくちゃ。
外に出ると自転車の籠に水筒を入れたバッグを入れ自転車に跨る。
「これからの片桐先輩必要なもの。それは暑さ対策です。先輩は夏の試合を経験したことがない。夏の暑さは容赦なく体力を奪っていきます」
だから今日もこうやって冬夜君はジョギングをしている。
1時間ほど走ると冬夜君に水筒を渡す。
冬夜君は一気にそれを飲み干す。
「帰ろっか?」
「うん」
冬夜君の家に着くと、冬夜君はシャワーを浴びに、私は朝食の準備を始める。
冬夜君がシャワーを浴びて支度を済ませた頃には朝食は出来上がっている。
4人そろって朝食をすませば、冬夜君と私は部屋に戻り私は着替えを選ぶ。
最近は冬夜君は私が何も言わずとも私の下着選びに付き合ってくれる。
でも冬夜君は悩んでいる。
どうしたの?
「いや、せっかくなら穿いてもらうまでのお楽しみって事もかんがえてさ……」
「……冬夜君がそうしたいならそうするけど……」
「けど?」
「冬夜君絶対に見てくれるの?」
「……それもそうだね」
冬夜君は笑って誤魔化す。
「じゃあ今日はこれで」
冬夜君の好みの傾向は大体わかってきた。
下着と服を選ぶとシャワーを浴びる。
部屋に戻って服を着替える。
再びキッチンに行ってコーヒーを入れると冬夜君の部屋に戻る。
冬夜君はテレビを見ながらスマホを弄って寛いでいる。
今日は構ってくれないの?
晴れてる日はいつもそう。
空は晴れてるのに私の心は雨。
寂しいよ。
少しでも構ってもらいたくて。雨が降らないかなぁ~と祈りながら眠る毎日。
けど、一向に雨は降らない。
ちょっとでも時間を作ろうと思って急いで準備するけど冬夜君はスマホを弄っている。
だけど少しだけでもいいから構ってと冬夜君に身を預けると冬夜君は気づいてくれる。
冬夜君は私を床に寝かせると上に乗ってくれる。
「床だとごつごつしてやだ。……ベッドがいい」
そう言うと冬夜君は私をお姫様抱っこしてベッドに寝かせてくれる。
目を閉じて冬夜君に後は任せる。
冬夜君は器用に私の衣服を脱がしながら私を愛撫してくれる。
冬夜君は優しい。
私の心の雨は晴れた。
そして虹色に変わる。
「今日は時間ちゃんとありそうだな」
冬夜君がそう言っている。
「うん、今日は服も簡単なの選んだの~」
そうしてベッドの中で二人の時間を楽しむ。
「久しぶりだな。こうなって過ごすの」
「ホントだね」
「愛莉……大好きだよ」
冬夜君は私の心まで愛撫してくれる。
私が冬夜君好みに設定されてるだけ。
いいよ、冬夜君好みの女になってみせるから。
事が終ると2人でいちゃついている。
そろそろ化粧しないと時間間に合わない。
冬夜君はゆっくりしながら私の胸を飽きずに揉んでいる。
私もそんなに自慢するほど大きくない。
でも冬夜君は「大きさより形だよ」と言ってくれる。
私の胸はきれいですか?
綺麗だよと言ってくれる。
それだけで嬉しいの。
どうせ私の胸は冬夜君だけのものだから。
そんな事を言ってる場合じゃなかった。
いい加減に準備しなくちゃ。
そう思い上身を起こす。
だけど冬夜君は離れてくれない。
辛いけど冬夜君の腕を振り払って、下着をつけて服を着る。
冬夜君が不安そうな顔をしている。
そうじゃないんだよ?
また夜にいちゃいちゃしようね。
私はどこにもいかないから。
化粧を済ませるとテレビを消して、バッグを手に部屋を出ようとする。
冬夜君は私の手を掴む。
私が振り返ると冬夜君の顔が眼前にある。
私は目を閉じる。
どこまでも優しい人。
短い口づけを交わすと部屋を出る。
家を出ると車に乗って学校に行く。
その間冬夜君が悩んでいる。
どうしたの?
「いや、やっぱり色物は止めた方がいいのかなって?」
ほえ?
「いや、愛莉夏場は白いスカートとか好むからさ。その……透けて気にならないのかな?って」
ぽかっ
「裏地のしっかりしたのを履いてるから大丈夫だよ」
「暑くないのか?」
「平気だよ~」
「ふ~ん」
「やっぱり冬夜君でも他の人に見られるのイヤなんだ?」
「でも、ってなんだよ。そりゃ自分のお嫁さんそんな目で見られたくないだろ」
そうだよね!
じゃあ、今度から気にならないで済むように白以外のスカートにしようかな?
「冬夜君だったらスカート何色がいい?」
「そうだな、黒とかかな……でもこれから暑いよな。ピンクのワンピースとかいいんじゃないか?」
冬夜君の話を聞きながら冬夜君好みの服をセッティングしていく。
セッティングの楽しみってこういう事なんだね?
そんな話をしながら学校に着いた。
長い一日の始まりだった。
(2)
授業が終わると昼休み。
自然と皆学食に集まる。
渡辺君や石原夫妻、酒井夫妻に竹本夫妻、真鍋君。
皆がそろったところで渡辺君が「じゃあ、今後の事でちょっと相談があるんだが」
渡辺君の声はしっかり聞こえていた。
が、その瞬間悪寒がした。
目は学食の入り口にいる不審な男を捕らえる。
男が懐から何かを取り出すのがスローモーションで分かった。
それの正体に気づいた時皆に叫んでいた。
「伏せろ!!机の下に潜って!!」
そう言いながら愛莉を押し倒す。
皆も何事かと戸惑っていたが次の瞬間「パン」と渇いた銃声が聞こえる。
学食にいた学生が皆その音に硬直しそしてパニックになった。
逃げ惑う学生たち。
男は確実に僕達を狙っている。
何発も撃ち込まれる銃弾。
愛莉は震えている。
「望!!」
恵美さんが叫ぶと石原君が飛び出す。
近くにあったコップを掴むと男に向かって投げつける。
コップは男の手に当り男は銃を落とす。
その瞬間に石原君は懐に飛び込みタックルをしかける。
小柄な石原君だからできる行動。
男は石原君の背中をめがけて打とうとするがその前に押し倒されていた。
男が起き上がるより先に石原君は銃を蹴飛ばし遠くに飛ばす。
その間に駆け付けていた恵美さんのSPが男を取り押さえる。
これで事は済んだと思った。
が、僕の警告はまだ鳴り響いている。
窓にトレーラーが。
学食の食材配送用のものか?
違う!!
「皆まだ伏せてて!」
トレーラーが開くとマシンガンを持った男が。こちらに銃口を向けている。
パパパパ、
バリン!!
銃声とガラスの割れる音が皆をさらにパニックに陥らせる。
その音は「パン」という乾いた銃声によって、止まった。
石原君が男の持っていた銃を使いマシンガンを持った男の手を狙い撃ちしていた。
手を押さえる男。トレーラーのドアが閉まるとトレーラーは逃げ出した。
「皆さん大丈夫ですか!?」
石原君が言う。
「愛莉……」
「だ、大丈夫……」
愛莉は酷く怯えている。
怯えているのは愛莉だけじゃない、神奈も咲さんもだ。
渡辺君と僕は周りを確認する。飛び散ったガラスの破片で負傷したものもいたが、銃弾が当たった者は一人としていなかった。
奇跡に近い。
死傷者0軽傷者数名。
「もはやただのテロだな。狙いは俺達だったんだろうな……」
愛莉をあやしながら「そうだね……」と答える僕。
渡辺君はスマホでメッセージを全員に送る。
「敵の報復が始まった。皆気をつけろ!」
「これ、エゴイストの仕業なの?エゴイストって捕まったんじゃ」
「新しいエゴイストの形なんだよきっと」
「とりあえず今日みんなで集まろう。いつもの時間に!」
渡辺君が言う。
「何か対策はあるか?」
テロリストの対策なんて僕でも無理だよ。
「大丈夫皆の元にすぐにSPつけるから」
それが間に合えばいいけど。
他の大学でも起こってるんだろうか?
その後警察が来て僕達は事情聴取を受けることになった。
(3)
「こんにちは~瑛大君」
「こんにちは咲良さん」
学校が終わって同じサークル活動に向かう僕達。
「メッセージみました~?」
「地元大学凄かったみたいだね」
地元大学で起こった事件はユニティの皆に知れ渡っていた。
僕達にも用心するように連絡が回っていた。
「今日はサークル辞めて帰ったほうがいいかもしれないね」
「そうですね~」
そんな話をしていると。黒いフードのを被った男たち3人に囲まれていた。
棍棒とか金属バットとか物騒なのを持っている。
目的は僕達に違いない。
前方に立っていた男がナイフを持って向かってくる。
僕が咲良さんを守らなきゃ!
だけど咲良さんは僕を突き飛ばす。
「危ないから下がってて」
危ないのは咲良さんだよ!
そんな心配は杞憂に終わった。
咲良さんはナイフの突きを半身で躱してそのまま背後に回り男の延髄を回し蹴りでしとめる。
「あまり舐めないでもらえませんか~?……てめえら無傷で帰れると思うなよ!」
見事な回し蹴りに呆気にとられる僕の背後に立った金属バットを持った男が得物を振り上げている。
「瑛大さん危ない!!」
咲良さんに言われて気づいたがもう遅い。男の金属バットは僕に目掛けて振り下ろされている。
頭をに衝撃が走り僕は頭から血を吹き出し倒れると思っていた。けど、その瞬間は来なかった。
痛みに備えて閉じていた目をあけると誠君が金属バットを握り締めてる。
「お前らなにしてくれてんの?」
ピキッ
という擬音が似合いそうなほどこめかみの血管が浮き上がっている多田君。
あの時よりさらにキレてる。
どれだけ握力があるんだろう。
にぎっぎり締めた形にへこんでいる金属バット。
「あんまり調子くれてっと挽き肉にしちゃうぞ?」
男がバットを手放すと多田君に殴りかかる。
多田君はバットを手離すと男の顔を掴む。
男はその手を振りほどこうとするが、離れない。
ミシミシと音を立てて誠君の握力が上がっていく。
「てめぇの頭ぁ、つぶれてトマトみたいにしてやろうか?」
救援に残った一人が棍棒を振りかざして多田君に襲い掛かる。
多田君は掴んだ男を棍棒の男にめがけてぶん投げる。
掴まれた男は既に伸びていた。
男をぶつけられて倒れた男にゆらりと近づく多田君。
のびている男を押しのけ起き上がろうとする男の顎に多田君の蹴りが入る。
血を吐きながら吹き飛ばされ。3人目の男も気を失った。
多田君はゆっくりこちらを振り返るという。
「ここは咲良さんにまかせていいかな?俺神奈についとかなくちゃ……」
「大丈夫ですよ~。警察の手配なら済ませました~」
誠君は「じゃ、任せるね」と言って駐車場に向かって走り出す。
「じゃ、私たちは警察まちますか~?」
そう言いながら、のびた3人の腕をどこで準備していたのか縄で拘束する。
これじゃどっちが加害者なのかわかんないんじゃないの?
(4)
「あ~あ。帰ったら家事で忙しいわ」
「大変だね~」
私と穂乃果はそんな話をしていた。
メッセージの件は読んだ。
瑛大達も狙われたらしい。
私達は敢えて人気のない所を歩いて駐車場に向かっていた。
そして誰もいない道路のど真ん中でぴたりと止まる。
「ここなら誰もいないよ。いい加減出てきなよ」
私がそう言うとぞろぞろと特攻服を来た男が出てきた。
こんな人数で隠密行動がとれると思っていること自体が間違っている。
「女性二人に随分と派手にきたね」
「お前らは拉致れときいてるんでな?大人しくついてくれば痛い目に合わずに済むぜ?」
「むしろ気持ちよくさせてやるよ」
この手の下種は皆下品だ。
そして大抵の奴が女性だと馬鹿にしてる。
相手の誤算は私達が事前に情報を入手していた事。そして……。
「じゃあ付いて来てもらおうか?」
男の一人が私の方に手を触れる。
私は持っていた鞄を思いっきり振り上げた。
男の腕は不自然な方向に音を立てて曲がる。
「看護学科生だからってなめてない?人体の急所くらい勉強してるんだよ!」
今まで散々受けていた嫌がらせでストレスが溜まっていた事。
男たちはいっせいに襲い掛かる。
攻撃をバッグで受け止めて鳩尾に膝蹴りを加えたり、姿勢を低くして胴体に掌底をお見舞いしたリ。
穂乃果も見かけによらず容赦なかった。襲い掛かる男たちを次々と投げ飛ばしていく。
2人一組で背中を預けて対処していく。
半数近くを倒したところで新たに男が加わる。
「参ったな、これじゃ僕が助太刀に来た意味がない」
西松君だ。
3人いれば怖くない。
「おまんら、許さんぜよ!」
穂乃果がどこで覚えて来たのか分からない方言を放つ。
「ちっ、帰るぞ!」
すると男たちの退路を塞ぐようにパトカーが数台やってきた。
警官たちに男は取り押さえられ、私達も事情聴取の為に警察署に出頭することになった。
(5)
「わ、渡辺さん、そのごみ外に出しおいて!」
「?……分かりました!」
上司の様子がおかしい。
ごみ捨てくらい普通にするのに。
やっぱり正志の言ってた通りピアス空けすぎなんだろうか?髪の毛が派手すぎるんだろうか?
他の先輩も私に対してはどうも遠慮がちだ。3年目だけど、この中ではまだ新人にすぎない。
あまり目立たないようにしようか?
神奈は染める手間が惜しいからって黒くしてるな。私も黒にして対象のサイドポニーにするのも悪くないな。
ゴミを勝手口の側において、厨房に戻ろうとした時だった。
後ろに迫る殺気。
反射的に回し蹴りをしていた。
すると後ろからナイフをもって私の背中に刺そうとしていた男の手に当った。
カランカランとナイフが男の手からこぼれる。
ナイフを拾おうとする男の手を踏みつけもう一方の足で男の頭を蹴り飛ばす。
「なんだお前ら!」
お前らと言ったのは、男が1人だけだったからじゃない。
背後に5,6人の男が立っていた。
幸いここは狭い路地裏。
纏まってくることは無い。
騒ぎを聞きつけて厨房から飛び出してくる人間はいない。
そういうことか。
私は呼吸を整え目を閉じる。
そして目を開けて言う。
「コンタクト!」
男たちが迫ってくる、武器を持つ手を掴み投げたり、鼻っ柱に肘鉄をおみまいしたり、急所を蹴り上げたりして一人ずつ始末していく。
高校の時に友達とゲームのマネして身に着けたCQCだ。
最後の一人になった時、男は拳銃を突きつけた。
「抵抗すると撃つ。大人しくついてこい」
私は男の拳銃を見てふっと笑った。
「初心者か?セーフティレバーが効いたままだぞ」
「なに?」
男は自分の銃を見る。
その瞬間を逃さない。
私は一気に間合いを詰め男の手を蹴り上げる。
男の手から銃が離れ放物線を描き降りてくる。
その間に男を蹴り飛ばし銃をキャッチする。
ズシリと重い。実弾か……タイプはM9と呼ばれるものらしい。
全員片付いたと思ったら私の背中に銃口を押し当てるものがいた。
「見事だったが、ここまでだ。銃を捨てろ」
私は言われた通り銃を捨てる。
男は銃を蹴り飛ばす。
「抵抗するなよ、おとなしくついてこい」
声の感じからして男は若い。実戦経験もそんなに積んでないんだろう。
じゃなかったら、こんなミスはおかさない。
「どいつもこいつも素人が、漫画で見た真似か?」
私も漫画で得た知識だけどな。
男の持つ拳銃を自分の背中に押し当てもう一方の手で撃鉄の間に指を挟む。
その間男は拳銃を撃たない。いや、撃てないと言った方が正しいのか?
「銃口に物を押し当てるとディスコネクターが可動して引き金を引いても発砲されねーんだよ」
男から銃を奪い取ると。男から離れて銃口を向ける。
「こんな風に離れて撃たないと意味ないんだぜ?分かったか素人」
パトカーがやってきた。
「動くな!」
パトカーから降りた警官は私に銃口を私に向けて構えている。
「無駄な抵抗は止めて銃を下ろして投降しろ!」
何か勘違いしてないか?警官。
「待て私は犯人じゃない」
両手をあげて犯人じゃないことをアピールするがその間に男に逃げらた。
くそがっ!
「早く銃を下ろしなさい!」
私は銃のセーテフィを作動させて地面にそっと置く。
「ま、待ってください」
店長が外に出てきて事情を説明する。
私の誤解は解けたが事情聴取と厳重注意を食らう羽目になった。
(6)
夜バイトを終えると外に出て。車に乗り真っ直ぐ家に帰ろうとした時だった。
突然現れる黒いフードの男達。
エゴイストの連中か?
直ぐに悟った。
「お前の事は知っている。大人しくついてこい。手荒な真似はしない」
「何でもお見通しって言ったな?」
「ああ、何でもお見通しだ」
「それにしては随分間抜けな対応だな」
私には余裕があった。
「下手な抵抗は怪我するだけだぞ?お前の性格からしてそれは無いと思うが」
「だから間抜けだって言ったんだよ!」
「仕方ないなやれ!」
男が手をあげて合図するが、誰もかかってこない。
皆が男を見ていた。
男自身も上げた腕に痛みを覚えたのだろう。後ろを振り向いた。
「俺の嫁に何しようとしてんのさ?死にたいの?お前?」
「誠!」
男は誠に恐怖を覚えながらも。他の男に命令を続ける。
「何してんだお前ら。その女押さえてしまえばこっちのもんだ!」
「自分の立場弁えた方がいいよ?お前?」
誠がそう言うと周りの車のヘッドライトがついた。
「まさか、誠一人で着たと思ってるわけじゃないよな?」
渡辺の声が恐ろしく低い。
「他の奴ら全員ミスったのか!?」
男がうめくように言った。
誠は男を前に投げ飛ばす。
その後に駆け付けるパトカー。
男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げるが全員取り押さえられた。
「神奈!大丈夫!?」
亜依が近づいてくる。
「ありがとう、助かった」
亜依を抱きしめる。
「君たちにも同行してもらおうか事情を説明して欲しい」
こうして私達も警察に同行することになった。
(7)
地元大学棟の屋上から体育館を暗視サイトで見下ろす。
体育館からぞろぞろと出てくる学生たち。
こいつらじゃない。
しばらくして標的はやってきた。
「片桐冬夜……」
片桐冬夜の頭上に照準を合わせる。
「こんばんは、そして……」
引き金を引こうとすると何かが重心にあたり照準がぶれる。
誰だ!?
「やっぱり狙撃手の思考って似てますよね。体育館の入り口を張るならここが絶好の位置だ」
そう言うのは小さな学生。中学生か?
「ここに何の用だい?良い子は家に帰る時間はとうに過ぎてるよ」
「あ、勘違いしないでください。僕はただの大学生ですから」
「ただの大学生がここに何の用なんだい?授業はもう終わったろ?」
「用ですか?友達を守りに来たと言えばいいでしょうか?」
「それはまた勇敢な少年だね?でも身の程を弁えないと無謀というんだよ」
俺は懐から拳銃を取りだし、容赦なく撃つ。
が、ただの学生と名乗った少年は横に跳びそれを躱す。
そのまま少年の姿を追い2発目を撃とうとしたら少年が何かを弾いた。
それが俺の眉間に当り照準がずれる。
少年は2発目も躱し俺の懐に入る。
そして、拳銃の持つ腕を掴むと銃を持った方の腕の肘を蹴り上げる。
銃を落しそして肘を砕かれ俺は膝を崩す。
「これ、忠告ですけど、狙撃手ならせめてサプレッサーくらいつけた方が良いと思いますよ」
少年は俺を下ろしてそう言う。
俺が丸腰だと安心してるのだろう……ガキが。
反対の腕で懐に隠してあったもう一丁の拳銃を取り出そうとすると少年は懐から拳銃を取り出し空に向かって撃つ。
「パシュッ」という音が微かになる。
そしてその銃を俺に向ける。
「実弾って事は証明しました。ただの脅しじゃないですよ」
「お前何者だ……?」
「言ったでしょ、ただの大学生だって」
「近頃の大学生は拳銃なんて持ち歩いてるのか?」
「それもそうね?そんな大学生日本にそんなにいない事を祈るわ」
新たな登場人物が現れた。
一人は標準的な身長の大人しめの女性。
もう一人は高身長の威圧的な女性。
どっちも女性か?
俺は左手をあげる。
部下が女性達を取り囲む。
「……あくまで抵抗しますか?」
「君はどこまでも甘い様だね!」
俺が手を下ろすと部下が女性を襲い始める。
「恵美!」
「私達の事はいいから追いなさい!」
俺は少年が振り向いた隙を突いて少年に突進する。
が、少年はこちらを振りむことなく俺の膝を撃ちぬいた。
「脅しじゃないと言ったはずですよ!そこで大人しくしていてください」
少年はこっちを見ないで女性二人を気づかってる。
だが助けに行かない。
なぜなのかはすぐにわかった。
膝を崩し倒れる部下たち。
仁王立ちする恵美と呼ばれた女性と構えているもう一人の女性。
「お生憎様。護身用のCQCくらい心得ているわよ」
「ご、護身術くらい本で読んだんだから!」
2人の女性がそう言う。
たった3人にこの醜態か。
「少年、名前を聞いておこう」
「お断りします。普通の生活を送りたいんです」
そうか、ならいい。
「その顔……忘れんぞ」
そう言うと俺は撃ちぬかれた方の足を引きずって屋上の手すりを飛び越える。
「待て!」
待たずに俺はためらいなく飛び降りた。
そしてパラシュートを開く。
着地すると駆け付けたパトカーに取り囲まれていた。
銃口を向ける警官たち。
懐から拳銃を取り出す。
「武器を下ろせ」
警官共が警告する。
俺はにやりと笑う……そして……。
(8)
僕は、被害者だったので比較的軽い事情聴取で済んだ。
でも愛莉や誠達は違う。
抵抗してみせた。
そしてまだエゴイストとユニティの抗争と睨んでる警察は渡辺君達を容赦なく問い詰める。
美嘉さんに至っては銃を所持したらしく。厳重注意を受けていた。
そんな事言ったら石原君はどうなるんだって?
それは、恵美さん達の工作でどうにかなったらしい。
ただ屋上に倒れたエゴイストの説明はしなきゃいけない。
最初に戻ってきたのは恵美さん達だった。
理由は愛莉がいたから。
「冬夜君」
愛莉の後ろには愛莉パパが立っていた。
「他の皆もすぐ来るよ」
愛莉パパの言った通り皆やってきた。
しかし愛莉パパの表情は険しい。
「……君たちには事情を説明する必要がある。もうしばらく時間をくれないか?」
僕達は愛莉パパについて行き会議室に入った。
「まず君たちを襲った連中だが……。『ニーズヘッグ』と呼ばれるギャングだ」
「ギャング!?」
「……高橋グループが出資している影の実行部隊だ。君たちが相手していたエゴイストとは規模も質も違う。純粋な戦闘部隊」
それで捜査4課の愛莉パパの出番ってわけか……。
「そして石原君が対峙したという男はその中でも凄腕のスナイパー『オロチ』だ」
オロチは世界各国を駆け巡る暗殺者で殺しを快楽とする非情に質の悪い冷酷非情な男らしい。
愛莉パパが聞いた話では石原君だけが唯一オロチの暗殺を阻止した人間だという。
石原君ヤバい世界に足入れちゃったね。
「……で、君たちはどうする?これまで通り行動する気かね?……私はもう君たちは十分やったと思う。ニーズヘッグを動かせただけでも大したものだ。だがこれ以上はプロに任せてくれないか?」
「警察に情報渡したら全部消されちゃうんじゃ……」
「う、うむ」
「それに俺達に仕掛けて来るのは向こうだ。対抗しなかったらいずれやられる」
「ここからは子供の喧嘩というわけにはいかんぞ?」
「承知の上だ。なあ皆!」
渡辺君が言うと皆が応じる。
「冬夜や遠坂さん達だけの戦いになんて絶対にさせない。やられたらやり返すユニティのやり方を変えるつもりは無い」
「……冬夜君はどう思っているんだね?」
「あと一歩のところまできて引き下がる気はありませんよ」
「わかった。私も可能な限りの協力はしよう」
そう言うと僕達は解放された。
「さて、これからどうするかだな?」
渡辺君が言う。
「先ずはニーズヘッグとやらの情報が欲しいわね。それは私と誠君でどうにかするわ」
恵美さんがそう言う。
「冬夜が言っていた通り最後の切札を出してきた。裏を返せばここを乗り切れば攻略したも同然だ」
警察署の外に出手皆で円陣を組む。
「ここが最終局面だ!気合入れていくぞ!」
「おお!」
本当に最終局面なのかどうかは怪しいけど。
今回の作戦はずさんすぎる。
ウォーロックの意思で動いてるように思えない。
そんな気がした。
(9)
「ねえ、冬夜君」
「なんだい?」
「何を考えてるの?」
「何って何が?」
車は赤信号で止まる。
「私に隠し事は無しだよ」
愛莉はそう言ってデコピンする。
「本当にこれが最後なのかな?って思って」
「どうして?」
「今回の敵の作戦はウォーロックの意図を感じないんだ」
「……ゴッドさんの単独行動みたいなもの?」
「に、近いかな」
もっと権力のある存在だろうけど。
「て、事はニーズヘッグを倒してもまだ何かあるって事?」
「そう考えた方が妥当だろうね」
信号が青になった。車を動かす。
「そっかあ……」
愛莉は落ち込んでるようだ。
何か気分の持ちあがる話題ないかな?
……まだ時間はあるな。
車は家から離れていく。
「どこに行くの?」
「ホテル」
「え?」
「今日は比較的早く帰れるだろ?だったら」
「パパさんに真っ直ぐ帰れって言われたの忘れたの?」
「だめ?」
「だめで~す」
そっか、ダメか。残念だな。
「……家でいいじゃない?」
へ?
「だから~お家に帰ってご飯食べてお風呂入ってからでいいじゃない?」
「そりゃそうだけど……」
「朝から家で誘ってくるのにこういう時だけ臆病になるんだね」
愛莉は笑っていた。
「じゃ、今日は……」
「朝まで寝かせないなんてだめだからね。寝不足で倒れられたらこまるもん」
「……わかったよ」
「……2回までならいいよ」
「2回?」
「3回したい?」
まあ、その辺が限度だろうな。
「その代わり終わったら甘えさせてね?」
「ああ、いくらでも」
「わ~い」
家に帰ったら両親が待っている。
両親から褒められ、そして注意された。
「嫁に守られるなんて亭主として恥だと思え」と。
ご飯を食べてお風呂に入って。
部屋で甘い夜を過ごす。
暑い夏はまだ始まったばかりだった。
ピピピピ……。
アラームを止める手が冬夜君の手と重なってしまった。
起きてるのがばれてしまった。
慌てて手を下ろし目を閉じる。
「今日は騙されないぞ」
うぅ……。
私は起きると着替えを始める。
もう梅雨明け宣言は出された。
これから暑い夏が始まる。
着替えを終えると水筒にスポーツドリンクを入れる。
朝とは言え陽射しが強い。
冬夜君は汗をかく。
熱中症対策はしなくちゃ。
外に出ると自転車の籠に水筒を入れたバッグを入れ自転車に跨る。
「これからの片桐先輩必要なもの。それは暑さ対策です。先輩は夏の試合を経験したことがない。夏の暑さは容赦なく体力を奪っていきます」
だから今日もこうやって冬夜君はジョギングをしている。
1時間ほど走ると冬夜君に水筒を渡す。
冬夜君は一気にそれを飲み干す。
「帰ろっか?」
「うん」
冬夜君の家に着くと、冬夜君はシャワーを浴びに、私は朝食の準備を始める。
冬夜君がシャワーを浴びて支度を済ませた頃には朝食は出来上がっている。
4人そろって朝食をすませば、冬夜君と私は部屋に戻り私は着替えを選ぶ。
最近は冬夜君は私が何も言わずとも私の下着選びに付き合ってくれる。
でも冬夜君は悩んでいる。
どうしたの?
「いや、せっかくなら穿いてもらうまでのお楽しみって事もかんがえてさ……」
「……冬夜君がそうしたいならそうするけど……」
「けど?」
「冬夜君絶対に見てくれるの?」
「……それもそうだね」
冬夜君は笑って誤魔化す。
「じゃあ今日はこれで」
冬夜君の好みの傾向は大体わかってきた。
下着と服を選ぶとシャワーを浴びる。
部屋に戻って服を着替える。
再びキッチンに行ってコーヒーを入れると冬夜君の部屋に戻る。
冬夜君はテレビを見ながらスマホを弄って寛いでいる。
今日は構ってくれないの?
晴れてる日はいつもそう。
空は晴れてるのに私の心は雨。
寂しいよ。
少しでも構ってもらいたくて。雨が降らないかなぁ~と祈りながら眠る毎日。
けど、一向に雨は降らない。
ちょっとでも時間を作ろうと思って急いで準備するけど冬夜君はスマホを弄っている。
だけど少しだけでもいいから構ってと冬夜君に身を預けると冬夜君は気づいてくれる。
冬夜君は私を床に寝かせると上に乗ってくれる。
「床だとごつごつしてやだ。……ベッドがいい」
そう言うと冬夜君は私をお姫様抱っこしてベッドに寝かせてくれる。
目を閉じて冬夜君に後は任せる。
冬夜君は器用に私の衣服を脱がしながら私を愛撫してくれる。
冬夜君は優しい。
私の心の雨は晴れた。
そして虹色に変わる。
「今日は時間ちゃんとありそうだな」
冬夜君がそう言っている。
「うん、今日は服も簡単なの選んだの~」
そうしてベッドの中で二人の時間を楽しむ。
「久しぶりだな。こうなって過ごすの」
「ホントだね」
「愛莉……大好きだよ」
冬夜君は私の心まで愛撫してくれる。
私が冬夜君好みに設定されてるだけ。
いいよ、冬夜君好みの女になってみせるから。
事が終ると2人でいちゃついている。
そろそろ化粧しないと時間間に合わない。
冬夜君はゆっくりしながら私の胸を飽きずに揉んでいる。
私もそんなに自慢するほど大きくない。
でも冬夜君は「大きさより形だよ」と言ってくれる。
私の胸はきれいですか?
綺麗だよと言ってくれる。
それだけで嬉しいの。
どうせ私の胸は冬夜君だけのものだから。
そんな事を言ってる場合じゃなかった。
いい加減に準備しなくちゃ。
そう思い上身を起こす。
だけど冬夜君は離れてくれない。
辛いけど冬夜君の腕を振り払って、下着をつけて服を着る。
冬夜君が不安そうな顔をしている。
そうじゃないんだよ?
また夜にいちゃいちゃしようね。
私はどこにもいかないから。
化粧を済ませるとテレビを消して、バッグを手に部屋を出ようとする。
冬夜君は私の手を掴む。
私が振り返ると冬夜君の顔が眼前にある。
私は目を閉じる。
どこまでも優しい人。
短い口づけを交わすと部屋を出る。
家を出ると車に乗って学校に行く。
その間冬夜君が悩んでいる。
どうしたの?
「いや、やっぱり色物は止めた方がいいのかなって?」
ほえ?
「いや、愛莉夏場は白いスカートとか好むからさ。その……透けて気にならないのかな?って」
ぽかっ
「裏地のしっかりしたのを履いてるから大丈夫だよ」
「暑くないのか?」
「平気だよ~」
「ふ~ん」
「やっぱり冬夜君でも他の人に見られるのイヤなんだ?」
「でも、ってなんだよ。そりゃ自分のお嫁さんそんな目で見られたくないだろ」
そうだよね!
じゃあ、今度から気にならないで済むように白以外のスカートにしようかな?
「冬夜君だったらスカート何色がいい?」
「そうだな、黒とかかな……でもこれから暑いよな。ピンクのワンピースとかいいんじゃないか?」
冬夜君の話を聞きながら冬夜君好みの服をセッティングしていく。
セッティングの楽しみってこういう事なんだね?
そんな話をしながら学校に着いた。
長い一日の始まりだった。
(2)
授業が終わると昼休み。
自然と皆学食に集まる。
渡辺君や石原夫妻、酒井夫妻に竹本夫妻、真鍋君。
皆がそろったところで渡辺君が「じゃあ、今後の事でちょっと相談があるんだが」
渡辺君の声はしっかり聞こえていた。
が、その瞬間悪寒がした。
目は学食の入り口にいる不審な男を捕らえる。
男が懐から何かを取り出すのがスローモーションで分かった。
それの正体に気づいた時皆に叫んでいた。
「伏せろ!!机の下に潜って!!」
そう言いながら愛莉を押し倒す。
皆も何事かと戸惑っていたが次の瞬間「パン」と渇いた銃声が聞こえる。
学食にいた学生が皆その音に硬直しそしてパニックになった。
逃げ惑う学生たち。
男は確実に僕達を狙っている。
何発も撃ち込まれる銃弾。
愛莉は震えている。
「望!!」
恵美さんが叫ぶと石原君が飛び出す。
近くにあったコップを掴むと男に向かって投げつける。
コップは男の手に当り男は銃を落とす。
その瞬間に石原君は懐に飛び込みタックルをしかける。
小柄な石原君だからできる行動。
男は石原君の背中をめがけて打とうとするがその前に押し倒されていた。
男が起き上がるより先に石原君は銃を蹴飛ばし遠くに飛ばす。
その間に駆け付けていた恵美さんのSPが男を取り押さえる。
これで事は済んだと思った。
が、僕の警告はまだ鳴り響いている。
窓にトレーラーが。
学食の食材配送用のものか?
違う!!
「皆まだ伏せてて!」
トレーラーが開くとマシンガンを持った男が。こちらに銃口を向けている。
パパパパ、
バリン!!
銃声とガラスの割れる音が皆をさらにパニックに陥らせる。
その音は「パン」という乾いた銃声によって、止まった。
石原君が男の持っていた銃を使いマシンガンを持った男の手を狙い撃ちしていた。
手を押さえる男。トレーラーのドアが閉まるとトレーラーは逃げ出した。
「皆さん大丈夫ですか!?」
石原君が言う。
「愛莉……」
「だ、大丈夫……」
愛莉は酷く怯えている。
怯えているのは愛莉だけじゃない、神奈も咲さんもだ。
渡辺君と僕は周りを確認する。飛び散ったガラスの破片で負傷したものもいたが、銃弾が当たった者は一人としていなかった。
奇跡に近い。
死傷者0軽傷者数名。
「もはやただのテロだな。狙いは俺達だったんだろうな……」
愛莉をあやしながら「そうだね……」と答える僕。
渡辺君はスマホでメッセージを全員に送る。
「敵の報復が始まった。皆気をつけろ!」
「これ、エゴイストの仕業なの?エゴイストって捕まったんじゃ」
「新しいエゴイストの形なんだよきっと」
「とりあえず今日みんなで集まろう。いつもの時間に!」
渡辺君が言う。
「何か対策はあるか?」
テロリストの対策なんて僕でも無理だよ。
「大丈夫皆の元にすぐにSPつけるから」
それが間に合えばいいけど。
他の大学でも起こってるんだろうか?
その後警察が来て僕達は事情聴取を受けることになった。
(3)
「こんにちは~瑛大君」
「こんにちは咲良さん」
学校が終わって同じサークル活動に向かう僕達。
「メッセージみました~?」
「地元大学凄かったみたいだね」
地元大学で起こった事件はユニティの皆に知れ渡っていた。
僕達にも用心するように連絡が回っていた。
「今日はサークル辞めて帰ったほうがいいかもしれないね」
「そうですね~」
そんな話をしていると。黒いフードのを被った男たち3人に囲まれていた。
棍棒とか金属バットとか物騒なのを持っている。
目的は僕達に違いない。
前方に立っていた男がナイフを持って向かってくる。
僕が咲良さんを守らなきゃ!
だけど咲良さんは僕を突き飛ばす。
「危ないから下がってて」
危ないのは咲良さんだよ!
そんな心配は杞憂に終わった。
咲良さんはナイフの突きを半身で躱してそのまま背後に回り男の延髄を回し蹴りでしとめる。
「あまり舐めないでもらえませんか~?……てめえら無傷で帰れると思うなよ!」
見事な回し蹴りに呆気にとられる僕の背後に立った金属バットを持った男が得物を振り上げている。
「瑛大さん危ない!!」
咲良さんに言われて気づいたがもう遅い。男の金属バットは僕に目掛けて振り下ろされている。
頭をに衝撃が走り僕は頭から血を吹き出し倒れると思っていた。けど、その瞬間は来なかった。
痛みに備えて閉じていた目をあけると誠君が金属バットを握り締めてる。
「お前らなにしてくれてんの?」
ピキッ
という擬音が似合いそうなほどこめかみの血管が浮き上がっている多田君。
あの時よりさらにキレてる。
どれだけ握力があるんだろう。
にぎっぎり締めた形にへこんでいる金属バット。
「あんまり調子くれてっと挽き肉にしちゃうぞ?」
男がバットを手放すと多田君に殴りかかる。
多田君はバットを手離すと男の顔を掴む。
男はその手を振りほどこうとするが、離れない。
ミシミシと音を立てて誠君の握力が上がっていく。
「てめぇの頭ぁ、つぶれてトマトみたいにしてやろうか?」
救援に残った一人が棍棒を振りかざして多田君に襲い掛かる。
多田君は掴んだ男を棍棒の男にめがけてぶん投げる。
掴まれた男は既に伸びていた。
男をぶつけられて倒れた男にゆらりと近づく多田君。
のびている男を押しのけ起き上がろうとする男の顎に多田君の蹴りが入る。
血を吐きながら吹き飛ばされ。3人目の男も気を失った。
多田君はゆっくりこちらを振り返るという。
「ここは咲良さんにまかせていいかな?俺神奈についとかなくちゃ……」
「大丈夫ですよ~。警察の手配なら済ませました~」
誠君は「じゃ、任せるね」と言って駐車場に向かって走り出す。
「じゃ、私たちは警察まちますか~?」
そう言いながら、のびた3人の腕をどこで準備していたのか縄で拘束する。
これじゃどっちが加害者なのかわかんないんじゃないの?
(4)
「あ~あ。帰ったら家事で忙しいわ」
「大変だね~」
私と穂乃果はそんな話をしていた。
メッセージの件は読んだ。
瑛大達も狙われたらしい。
私達は敢えて人気のない所を歩いて駐車場に向かっていた。
そして誰もいない道路のど真ん中でぴたりと止まる。
「ここなら誰もいないよ。いい加減出てきなよ」
私がそう言うとぞろぞろと特攻服を来た男が出てきた。
こんな人数で隠密行動がとれると思っていること自体が間違っている。
「女性二人に随分と派手にきたね」
「お前らは拉致れときいてるんでな?大人しくついてくれば痛い目に合わずに済むぜ?」
「むしろ気持ちよくさせてやるよ」
この手の下種は皆下品だ。
そして大抵の奴が女性だと馬鹿にしてる。
相手の誤算は私達が事前に情報を入手していた事。そして……。
「じゃあ付いて来てもらおうか?」
男の一人が私の方に手を触れる。
私は持っていた鞄を思いっきり振り上げた。
男の腕は不自然な方向に音を立てて曲がる。
「看護学科生だからってなめてない?人体の急所くらい勉強してるんだよ!」
今まで散々受けていた嫌がらせでストレスが溜まっていた事。
男たちはいっせいに襲い掛かる。
攻撃をバッグで受け止めて鳩尾に膝蹴りを加えたり、姿勢を低くして胴体に掌底をお見舞いしたリ。
穂乃果も見かけによらず容赦なかった。襲い掛かる男たちを次々と投げ飛ばしていく。
2人一組で背中を預けて対処していく。
半数近くを倒したところで新たに男が加わる。
「参ったな、これじゃ僕が助太刀に来た意味がない」
西松君だ。
3人いれば怖くない。
「おまんら、許さんぜよ!」
穂乃果がどこで覚えて来たのか分からない方言を放つ。
「ちっ、帰るぞ!」
すると男たちの退路を塞ぐようにパトカーが数台やってきた。
警官たちに男は取り押さえられ、私達も事情聴取の為に警察署に出頭することになった。
(5)
「わ、渡辺さん、そのごみ外に出しおいて!」
「?……分かりました!」
上司の様子がおかしい。
ごみ捨てくらい普通にするのに。
やっぱり正志の言ってた通りピアス空けすぎなんだろうか?髪の毛が派手すぎるんだろうか?
他の先輩も私に対してはどうも遠慮がちだ。3年目だけど、この中ではまだ新人にすぎない。
あまり目立たないようにしようか?
神奈は染める手間が惜しいからって黒くしてるな。私も黒にして対象のサイドポニーにするのも悪くないな。
ゴミを勝手口の側において、厨房に戻ろうとした時だった。
後ろに迫る殺気。
反射的に回し蹴りをしていた。
すると後ろからナイフをもって私の背中に刺そうとしていた男の手に当った。
カランカランとナイフが男の手からこぼれる。
ナイフを拾おうとする男の手を踏みつけもう一方の足で男の頭を蹴り飛ばす。
「なんだお前ら!」
お前らと言ったのは、男が1人だけだったからじゃない。
背後に5,6人の男が立っていた。
幸いここは狭い路地裏。
纏まってくることは無い。
騒ぎを聞きつけて厨房から飛び出してくる人間はいない。
そういうことか。
私は呼吸を整え目を閉じる。
そして目を開けて言う。
「コンタクト!」
男たちが迫ってくる、武器を持つ手を掴み投げたり、鼻っ柱に肘鉄をおみまいしたり、急所を蹴り上げたりして一人ずつ始末していく。
高校の時に友達とゲームのマネして身に着けたCQCだ。
最後の一人になった時、男は拳銃を突きつけた。
「抵抗すると撃つ。大人しくついてこい」
私は男の拳銃を見てふっと笑った。
「初心者か?セーフティレバーが効いたままだぞ」
「なに?」
男は自分の銃を見る。
その瞬間を逃さない。
私は一気に間合いを詰め男の手を蹴り上げる。
男の手から銃が離れ放物線を描き降りてくる。
その間に男を蹴り飛ばし銃をキャッチする。
ズシリと重い。実弾か……タイプはM9と呼ばれるものらしい。
全員片付いたと思ったら私の背中に銃口を押し当てるものがいた。
「見事だったが、ここまでだ。銃を捨てろ」
私は言われた通り銃を捨てる。
男は銃を蹴り飛ばす。
「抵抗するなよ、おとなしくついてこい」
声の感じからして男は若い。実戦経験もそんなに積んでないんだろう。
じゃなかったら、こんなミスはおかさない。
「どいつもこいつも素人が、漫画で見た真似か?」
私も漫画で得た知識だけどな。
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その間男は拳銃を撃たない。いや、撃てないと言った方が正しいのか?
「銃口に物を押し当てるとディスコネクターが可動して引き金を引いても発砲されねーんだよ」
男から銃を奪い取ると。男から離れて銃口を向ける。
「こんな風に離れて撃たないと意味ないんだぜ?分かったか素人」
パトカーがやってきた。
「動くな!」
パトカーから降りた警官は私に銃口を私に向けて構えている。
「無駄な抵抗は止めて銃を下ろして投降しろ!」
何か勘違いしてないか?警官。
「待て私は犯人じゃない」
両手をあげて犯人じゃないことをアピールするがその間に男に逃げらた。
くそがっ!
「早く銃を下ろしなさい!」
私は銃のセーテフィを作動させて地面にそっと置く。
「ま、待ってください」
店長が外に出てきて事情を説明する。
私の誤解は解けたが事情聴取と厳重注意を食らう羽目になった。
(6)
夜バイトを終えると外に出て。車に乗り真っ直ぐ家に帰ろうとした時だった。
突然現れる黒いフードの男達。
エゴイストの連中か?
直ぐに悟った。
「お前の事は知っている。大人しくついてこい。手荒な真似はしない」
「何でもお見通しって言ったな?」
「ああ、何でもお見通しだ」
「それにしては随分間抜けな対応だな」
私には余裕があった。
「下手な抵抗は怪我するだけだぞ?お前の性格からしてそれは無いと思うが」
「だから間抜けだって言ったんだよ!」
「仕方ないなやれ!」
男が手をあげて合図するが、誰もかかってこない。
皆が男を見ていた。
男自身も上げた腕に痛みを覚えたのだろう。後ろを振り向いた。
「俺の嫁に何しようとしてんのさ?死にたいの?お前?」
「誠!」
男は誠に恐怖を覚えながらも。他の男に命令を続ける。
「何してんだお前ら。その女押さえてしまえばこっちのもんだ!」
「自分の立場弁えた方がいいよ?お前?」
誠がそう言うと周りの車のヘッドライトがついた。
「まさか、誠一人で着たと思ってるわけじゃないよな?」
渡辺の声が恐ろしく低い。
「他の奴ら全員ミスったのか!?」
男がうめくように言った。
誠は男を前に投げ飛ばす。
その後に駆け付けるパトカー。
男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げるが全員取り押さえられた。
「神奈!大丈夫!?」
亜依が近づいてくる。
「ありがとう、助かった」
亜依を抱きしめる。
「君たちにも同行してもらおうか事情を説明して欲しい」
こうして私達も警察に同行することになった。
(7)
地元大学棟の屋上から体育館を暗視サイトで見下ろす。
体育館からぞろぞろと出てくる学生たち。
こいつらじゃない。
しばらくして標的はやってきた。
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片桐冬夜の頭上に照準を合わせる。
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俺は左手をあげる。
部下が女性達を取り囲む。
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俺が手を下ろすと部下が女性を襲い始める。
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「私達の事はいいから追いなさい!」
俺は少年が振り向いた隙を突いて少年に突進する。
が、少年はこちらを振りむことなく俺の膝を撃ちぬいた。
「脅しじゃないと言ったはずですよ!そこで大人しくしていてください」
少年はこっちを見ないで女性二人を気づかってる。
だが助けに行かない。
なぜなのかはすぐにわかった。
膝を崩し倒れる部下たち。
仁王立ちする恵美と呼ばれた女性と構えているもう一人の女性。
「お生憎様。護身用のCQCくらい心得ているわよ」
「ご、護身術くらい本で読んだんだから!」
2人の女性がそう言う。
たった3人にこの醜態か。
「少年、名前を聞いておこう」
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そうか、ならいい。
「その顔……忘れんぞ」
そう言うと俺は撃ちぬかれた方の足を引きずって屋上の手すりを飛び越える。
「待て!」
待たずに俺はためらいなく飛び降りた。
そしてパラシュートを開く。
着地すると駆け付けたパトカーに取り囲まれていた。
銃口を向ける警官たち。
懐から拳銃を取り出す。
「武器を下ろせ」
警官共が警告する。
俺はにやりと笑う……そして……。
(8)
僕は、被害者だったので比較的軽い事情聴取で済んだ。
でも愛莉や誠達は違う。
抵抗してみせた。
そしてまだエゴイストとユニティの抗争と睨んでる警察は渡辺君達を容赦なく問い詰める。
美嘉さんに至っては銃を所持したらしく。厳重注意を受けていた。
そんな事言ったら石原君はどうなるんだって?
それは、恵美さん達の工作でどうにかなったらしい。
ただ屋上に倒れたエゴイストの説明はしなきゃいけない。
最初に戻ってきたのは恵美さん達だった。
理由は愛莉がいたから。
「冬夜君」
愛莉の後ろには愛莉パパが立っていた。
「他の皆もすぐ来るよ」
愛莉パパの言った通り皆やってきた。
しかし愛莉パパの表情は険しい。
「……君たちには事情を説明する必要がある。もうしばらく時間をくれないか?」
僕達は愛莉パパについて行き会議室に入った。
「まず君たちを襲った連中だが……。『ニーズヘッグ』と呼ばれるギャングだ」
「ギャング!?」
「……高橋グループが出資している影の実行部隊だ。君たちが相手していたエゴイストとは規模も質も違う。純粋な戦闘部隊」
それで捜査4課の愛莉パパの出番ってわけか……。
「そして石原君が対峙したという男はその中でも凄腕のスナイパー『オロチ』だ」
オロチは世界各国を駆け巡る暗殺者で殺しを快楽とする非情に質の悪い冷酷非情な男らしい。
愛莉パパが聞いた話では石原君だけが唯一オロチの暗殺を阻止した人間だという。
石原君ヤバい世界に足入れちゃったね。
「……で、君たちはどうする?これまで通り行動する気かね?……私はもう君たちは十分やったと思う。ニーズヘッグを動かせただけでも大したものだ。だがこれ以上はプロに任せてくれないか?」
「警察に情報渡したら全部消されちゃうんじゃ……」
「う、うむ」
「それに俺達に仕掛けて来るのは向こうだ。対抗しなかったらいずれやられる」
「ここからは子供の喧嘩というわけにはいかんぞ?」
「承知の上だ。なあ皆!」
渡辺君が言うと皆が応じる。
「冬夜や遠坂さん達だけの戦いになんて絶対にさせない。やられたらやり返すユニティのやり方を変えるつもりは無い」
「……冬夜君はどう思っているんだね?」
「あと一歩のところまできて引き下がる気はありませんよ」
「わかった。私も可能な限りの協力はしよう」
そう言うと僕達は解放された。
「さて、これからどうするかだな?」
渡辺君が言う。
「先ずはニーズヘッグとやらの情報が欲しいわね。それは私と誠君でどうにかするわ」
恵美さんがそう言う。
「冬夜が言っていた通り最後の切札を出してきた。裏を返せばここを乗り切れば攻略したも同然だ」
警察署の外に出手皆で円陣を組む。
「ここが最終局面だ!気合入れていくぞ!」
「おお!」
本当に最終局面なのかどうかは怪しいけど。
今回の作戦はずさんすぎる。
ウォーロックの意思で動いてるように思えない。
そんな気がした。
(9)
「ねえ、冬夜君」
「なんだい?」
「何を考えてるの?」
「何って何が?」
車は赤信号で止まる。
「私に隠し事は無しだよ」
愛莉はそう言ってデコピンする。
「本当にこれが最後なのかな?って思って」
「どうして?」
「今回の敵の作戦はウォーロックの意図を感じないんだ」
「……ゴッドさんの単独行動みたいなもの?」
「に、近いかな」
もっと権力のある存在だろうけど。
「て、事はニーズヘッグを倒してもまだ何かあるって事?」
「そう考えた方が妥当だろうね」
信号が青になった。車を動かす。
「そっかあ……」
愛莉は落ち込んでるようだ。
何か気分の持ちあがる話題ないかな?
……まだ時間はあるな。
車は家から離れていく。
「どこに行くの?」
「ホテル」
「え?」
「今日は比較的早く帰れるだろ?だったら」
「パパさんに真っ直ぐ帰れって言われたの忘れたの?」
「だめ?」
「だめで~す」
そっか、ダメか。残念だな。
「……家でいいじゃない?」
へ?
「だから~お家に帰ってご飯食べてお風呂入ってからでいいじゃない?」
「そりゃそうだけど……」
「朝から家で誘ってくるのにこういう時だけ臆病になるんだね」
愛莉は笑っていた。
「じゃ、今日は……」
「朝まで寝かせないなんてだめだからね。寝不足で倒れられたらこまるもん」
「……わかったよ」
「……2回までならいいよ」
「2回?」
「3回したい?」
まあ、その辺が限度だろうな。
「その代わり終わったら甘えさせてね?」
「ああ、いくらでも」
「わ~い」
家に帰ったら両親が待っている。
両親から褒められ、そして注意された。
「嫁に守られるなんて亭主として恥だと思え」と。
ご飯を食べてお風呂に入って。
部屋で甘い夜を過ごす。
暑い夏はまだ始まったばかりだった。
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