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4thSEASON
全てが煌めきそして微笑む
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(1)
ピピピピ……
アラームが鳴る。素早く僕は止める。
愛莉を見る。ぐっすりと眠っている。
偶には逆襲してやらないとね。
「愛莉朝だよ!起きないと」
そう言って愛莉に抱き着いてキスする。
まだ飽きてないんだろ?いっぱいしてやるからな。
しかし愛莉は起きない。
どこか具合悪いのか?
「愛莉、大丈夫か?」
愛莉の体を揺さぶる。
「もっと優しくして……」
愛莉は目を開ける。
いや、いつもの愛莉ならギューッと抱き返してくるくらいすると思ったから。
あ、あれか……
「ひょっとしてあの日ってやつ?」
「違うもん!」
機嫌も悪い様だ。
昨夜の事を思い出す。
キスして寝て……。途中で寝たのが悪かったのか?
じゃあ、今からでも遅くないよな。
愛莉にキスをしようとすると。
ぽかっ
「早く着替えてジョギング行く!」
愛莉はそう言って起き上がると着替えを始める。
やっぱり機嫌が悪い?
どうも愛莉の心は読みづらい。
「冬夜君の考えてる事正反対だから!」
え?
「どうせ私の機嫌が悪いとか考えてるんでしょ?」
いやどう見ても機嫌悪いから。
「こう見えても嬉しいんだよ。旦那様のキスで目覚めるなんて夢みたい」
「じゃあ、なんで?」
「冬夜君に甘えていたら、冬夜君ずっと続けて良そうだから敢えて突き放したの」
「そんなことしなくてもいいだろ?」
「わたしのせいで冬夜君代表から漏れちゃったら私自分を許せなくなっちゃう。冬夜君の将来かかってるんだから」
「愛莉的には僕がプロになった方が良いんじゃないか?」
「そこは冬夜君と考えてる事一緒だよ?」
「え?」
愛莉は着替え終えると僕を抱きしめる。
「プロになったら冬夜君と会えない日が続く。そんなのイヤだ。それに本気の冬夜君を応援したい」
「愛莉にはいつも本気なんだけどな」
「それは知ってる。ちゃんと冬夜君の世界に入れてるから……、って朝から馬鹿!」
ぽかっ
「早く着替えてジョギング行こ?朝ごはんだって作らないといけないし」
「あ、ああそうだな」
愛莉の考えてる事はいまいち分からない。
いつも通りジョギングをするかと思うと愛莉は自転車に跨っている。
そして口には笛を加えている。
僕の後を追いかけてると突然ピッと笛を鳴らす。なんだ?
「笛吹いたらダッシュして」
え?
とりあえず言われた通りダッシュする。すると笛がまたなって「もういいよ~」と愛莉が言う。
何これ?
その後も愛莉は笛を吹き続ける。
それを一時間続けた。
「ただランニングしてたって冬夜君最近余裕で走ってるからって佐倉さんが提案したの」
正直それ一時間続けるのしんどいぞ。
「試合は40分しかないんだよ。バスケってダッシュする時間が殆どでしょ?本当は50㎞走れって言われてたんだからね」
鬼がいる。
ジョギングを終えると僕がシャワーを浴びてる間に愛莉は朝食の準備にかかる。
着替えを終えると朝食が並んでいる。
朝食を食べ終えると愛莉がシャワーを浴びる。
そしてマグカップを持って、部屋に戻ってくる。
愛莉はマグカップをテーブルに置くと髪を乾かし始める。
乾かしたら服を着替えて化粧して僕の隣でコーヒーを飲んでいる。
テレビを見終えるとバッグを持って家を出る。
大学に着いたら棟に向かって授業を受ける。
その後学食で皆と話す。
今日は石原夫妻と酒井夫妻。それに晴斗がいない。
ああ、今日面談があるって言ってたな。
上手くいってると良いんだけど。
「晴斗の奴びっくりしたな、いきなりボウズ頭だぜ」
カンナが言った。
「言ったろ?晴斗は率直な奴だって。晴斗なりに身だしなみに気を使ったんだろ」
僕が返す。
「報告楽しみだね~」
愛莉が言う。今日の夜には届いてるだろう。
「これでまず一つ片付いたな。後は檜山先輩とエゴイストの件か?」
渡辺君が言う。
エゴイスト……僕達の評判を悪用してるサークル。
悪用するも何も僕たちは何もサークルとしては活動してないんだけど。
対応策として僕たちはユニティというグループを立ち上げた。
サイトも今誠が作ってる。
それに対してどう動いて来るのか?
それを知るのはまだ先の話だった。
午後の授業を終えると青い鳥に行く。
酒井夫妻と石原夫妻たちはまだ帰っていない。
交渉が難航しているのだろうか?
案じていてもしょうがない。
時間になると大学に戻って部活をする。
新監督になって練習メニューが変わった。
基礎体力の向上を図ってる。
基礎的なトレーニングを終えると女バスに練習に付き合ってもらう。
東山監督が提案したディフェンスとオフェンスを10分間やる。
僕達も新戦術を覚えようと必死になる。
そして休憩時間も休むことなくシュート練習をする。
「練習で生き残って初めて試合に立てるんですよ」
東山監督が言う。
とはいえ、僕は公式戦が近い。
東山監督もそこは配慮してくれてるようだ。
練習時間が若干短い。
その間、練習を見て皆の動きを確認する。
そして的確な指示を出す。
「日本代表の強みはツーガードによる戦術の幅の広がりです。常に広い視野を持つ訓練も必要ですよ」
東山監督も試合は見ていたらしい。
「片桐君を潰すのは厳しい、きっとポイントガードを潰しに来るはずです。その時相手のマークを振り切って片桐君がボールを受け取りゲームを組み立てる。そんな瞬間が必ず来るはずです」
佐倉さんの見解も一緒だ。
「片桐先輩はマンツーで潰すならトリプルチームを組むくらいの勢いが必要です。澤選手だって一人じゃ潰せない。センターに一人残すとしてもどちらかに穴が開く。そこをついて行くんです」
他の皆も僕抜きで戦い勝ち残る強さが必要になるとも付け足して。
女子のレベルアップにもつながっていく。
あのディフェンスを続ける体力とコツを覚えていく。
恐らく春季大会ではダークホースになるだろう。
練習が終わると銭湯に寄って帰る。
帰ると夕食を食べてシャワーを浴びていつも通り部屋で勉強。
勉強も粗方すると愛莉が飲み物を持ってきてそれを飲みながらテレビを見る。
テレビが飽きたらゲームをして時間を潰す。
そうしているとスマホがなる。
ユニティのグループメッセージだ。
恵美さんが今日のやり取りの一部始終の説明を始めた。
(2)
正午過ぎ。
白鳥カンパニーの前に私と晴斗、石原夫妻、酒井夫妻、恵美さんのお母さん、新條さんがいた。
石原さんは黒いスーツに赤いネクタイ。酒井君も新調した黒いスーツに白いネクタイ。恵美さんと晶さんは紺色のスーツ。晴斗は入学式で着ていたらしいスーツを新條さんも紺色のスーツ。恵美さんのお母さんもスーツ姿。私だけ白のワンピースで着ていた。
「スーツの方が良かった?」
私が聞くと「その姿でも大丈夫よ」と恵美さんのお母さんが言う。
新條さんを先頭に入ると社員の皆の注目を集める。
新條さんが受付に話をしている。
「緊張するっすね」
晴斗が言う。晴斗でも緊張ってことばあるのね。
嘘、本当は知ってる。初めてキスした時、初めて私を抱きしめてくれた時腕が震えていた。
「今から緊張していたら持たないわよ。ここは相手の土俵だけどアドバンテージは私達にあることを忘れちゃいけない。リラックスして」
恵美さんのお母さんが言う。
程なくして担当の者が降りてくる。
恵美さんのお母さんが対応する。
名刺交換をすると私たちは会議室に案内される。
十数名の会議用のテーブルがあり椅子にずらりと並んで座る。
やってきたのは父さんと父さんの秘書と会社の顧問弁護士だった。
話の前に顧問弁護士が言う。
「先に断っておきますが、ここでの会話は証拠として録音させていただきます」
「結構よ。新條出しなさい」
恵美さんのお母さんが新條さんに言うと新條さんはICレコーダーを机の上に置いた。
「私達も証拠として撮らせてもらうわ」
「それでは初めまして。私が白鳥カンパニーの代表取締役の白鳥達也です。
「初めまして、私がETCの代表取締役。江口弥生と言います。以下は秘書の新條と娘たちです」
「私の娘も見えますが。それにその隣の男は……」
「ご心配なく、彼等もまた当事者ですから」
「そうですか。それで要件とは?」
「新條、資料を出しなさい」
新條さんが書類の束を父さんの前に置く。
「中身のご確認を」
恵美さんのお母さんがそう言うと父さんは中をちらりと見る。
同じ内容の書類を前日に送り付けたらしいので内容は知っているのだろう。
「あなた方があの書類を?」
「内容はご存知のようね?」
「匿名で送りつけたのはあなた方でしたか」
「さあ、何のことか存じかねますが内容はご存知のようなので本題に入りますね」
主導権を握ったようだ。
「その資料を見るとこの会社大幅な赤字を抱えている。その証拠とあなたが部下に粉飾決算を示唆した証拠のメール。それにあなたの官僚時代の部下への天下り先の斡旋。それに自分自身の天下り。その後も官僚の天下り先の斡旋を続けている証拠が入っているわ」
「私達を揺すりに来たのですか?こんなものは証拠にならない」
「それを決めるのは私達ではないはずよ。それに法的に処罰されなくても赤字決済の証拠が世間に知れたら大打撃のはずよ」
「繰り返し聞くが、脅しのつもりですか?」
「どう受け取るのはそちらの自由。私達は交渉に来ただけよ」
「交渉だと!?ふざけるな!」
父さんが机をたたくと「話にならん」といって退室しようとするが、恵美さんのお母さんはそれを許さなかった。
「こんな噂が流れてるわ。何者かが白鳥カンパニーの子会社の株を丸ごとTOB(株式公開買付け)しようとしてると」
父さんの足が止まる。
「何だと……!?」
「あくまでも噂だけどそれが事実だとしたらこの事実を公表すればあなたは痛手を負うことになるんじゃない?」
「一貿易会社風情にそんな事が出来るものか」
「私がやるとは言ってない。そんなことしたら私が捕まってしまう。噂を聞いただけ」
「……目的はなんだ?」
「私の知り合いに地元銀行の株をTOBしたいという人がいるのその人に株を譲ってもらえないかしら?」
「ただの脅しじゃないか!?」
「別にいいのよ?私が得をするわけじゃないから。この話をなかったことにしても全然かまわない」
「その知り合いとは何者だ?」
「それは黙秘するわ」
「素性の知らないものに株を譲れというのか?」
「このまま事実がリークしたらあなたの地位も危うくなるんじゃなくて?地元銀行と親しい間柄とか?多額の融資も受けている。資金の貸しはがしにでもあったら会社の存続にかかわる問題よ?」
「この資料はでたらめだ!事実無根の資料で私を脅そうとしたってむだだ」
「そうかしら?じゃあ、この話は無かったことでいいわね?帰るわよ皆」
恵美さんのお母さんが立とうとすると父さんが呼び止める。
「この情報をどうする気だ?」
「でたらめなら気にしなくていいのでは?私は関係者に提出するだけ。立派な違法案件だもの。提出する義務があるわ」
「……わかった。要求をのもう。銀行の株を譲ればいいんだな?で、誰に譲ればいいんだ?」
「その前にすることがあるんじゃない?」
「なんだ?」
「この証拠の音声消しておく必要があるのでは?」
父さんは顧問弁護士に言うとその場でレコーダーを操作し記録を消した。
それを見た恵美さんの母さんが新條さんにいうと、レコーダーを操作し記録を抹消する。
「ここからはオフレコだお互い腹を割って話そう。何が望みだ」
「言ったでしょ?銀行の株を譲ってほしいと」
「それだけか?そもそも誰が買い取ろうと言うんだ」
「私の主人よ」
晶さんが口を開いた。
酒井さんはへ?という顔をしている。
「酒井コーポレーションの代表取締役よ」
「はい?」
酒井さんが間抜けな声を出す。
父さんは訝しげな眼で酒井さんを見る。
「娘とそう年の変わらない子供が代表取締役?」
「私の実家の子会社だから。実際に動かしてるのは実家の役員です。彼まだ就任して実績がないから大きな取引に慣れてないの」
「……分かった。いくらで買い取る?」
「TOBをしたときの値段でいいわ」
「ちなみに何%ほどになるんだ?」
「御社の保有株を丸ごと引き受けると40%は越える計算よ?」
「酒井君と言ったか?君が筆頭株主になった場合私の地位は保証してくれるのかね?」
「まあそれはそちらの出方次第でしょうか……」
「話はそれだけか?」
恵美さんのお母さんは私を見る。
「白鳥さん、お父さんにお願い事があるのでしょ?」
私の心臓はドキドキしていた。
お膳立てはしてもらえた。
私の口から言うべきだ。
私が口を開こうとしたその時。
「俺と春奈の交際を認めて欲しいっす!」
晴斗が叫んでいた。
「君は誰だ?」
父さんが怪訝な目で晴斗を見る。
「楠木晴斗18歳!地元大に通ってます」
「楠木……だと!?貴様まだ性懲りもなく!」
「違うわ父さん。誘ったのは私。そしてあのあと正式に交際を申し込まれたの」
「春奈、お前は父さんの言う事を聞いてなかったのか?」
「いつもだったら父さんの言いなりになってた。でも彼は特別、彼だけは私の大事な人なの!」
「お前には檜山さんという人が……」
「檜山さんにはお見合い当日に断られました。檜山さんにも交際相手がいるそうです」
「白鳥さん。私にも娘がいたからお気持ちはわかるわ。でも自分の娘の男を見る眼を信じるのも大切なことよ?」
恵美さんのお母さんが言う。
「それが取引材料か?」
「あなたが自分の娘の交際相手を権力を使って引き離そうとしたから報復しただけ。もう娘さんも聞けば18歳。自分の意思をもってもおかしくない。その意思を尊重してやることも重要よ」
「自分の行動には自分で責任を持ちます。だから交際を許して」
私は懇願していた。
「……分かった。楠木君と言ったか?」
「はいっす」
「……娘を頼む」
「頼まれたっす!」
晴斗は叫んでいた。
私は今すぐ彼に抱き着きたい気持ちを抑えるので必死だった。
「良かったね晴斗」
「一件落着ですね」
石原さんと酒井さんがそう言っている。
「みんなあざーっす!。そちらの方も本当にあざーっす」
「困ったことがあったらいつでも言ってちょうだい」
恵美さんのお母さんがそう言っている。
「相手が悪かったようだな……」
そう漏らす父さん。
「それは違うわよ。お互い良い関係が築けた。そう思えば前向きになれるんじゃありません?」
恵美さんのお母さんはそう言う。
「春奈、よかったわね」
恵美さんと晶さんが言う。
「ありがとうございます。みなさん」
私は頭を下げて礼をしてた。
目に溢れるのは涙。
涙?
悲しいの?
そんな涙じゃない?嬉し涙だ。
私は今喜びという感情に包まれていた。
分厚い壁にひびが入ってその光を羨んでいた。
その光の正体は恋。
そして今包まれてる光の正体は喜び。
人生というくらい海。
しかし夜明けはきっとくる。
晴斗という太陽が照らしてくれた。
その光はどこへ向かって行くのか?
不安もあるけど、彼となら歩いて行ける。
全てが煌めいていてそして私は微笑む。
私の旅はまだ始まったばかりだ。
(3)
「ふーん……」
私は一枚のカルテとMRIの写真を見ていた。
そのカルテの主は私の前にいる。
恰幅の良い中年の男性。
「先生どうなんでしょうか?」
男性は聞いてきた。
後ろには檜山君と檜山君のお母さんが立っている。
心臓弁膜症。弁置換術の必要がある。
何度か経験はしたことある。
何せこの病院には外科医がいないに等しいのだから。
「早いうちに手術しましょう。治ります」
檜山君たちの顔が明るくなる。
しかし本人の表情が険しい。
「失礼ですが先生。お年は?」
「25ですけど」
「彼女はまだ研修医ですけど腕は確かです。私が保証します」
院長、啓介のお父さんが言った。
「研修医に心臓の手術をさせるのか!?この病院は?」
「この症例なら数回やったことがあります。私、失敗はしないので」
「必ず成功するという保証はあるのか!?」
「自信はあります。まあ、お父さんから見たら不安でしょうね?奇跡にかけてみるようなものですよね」
「分かってるなら話は以上だ。私は帰る!」
「待ってください、どうせほかの病院では受けてもらえなかったのでしょう?」
「……」
「奇跡にかけてみませんか?」
「何を賭ければいい?」
「そうですね、自分の命でしょうか?どうせこのままいってもいずれ死にますよ?」
まあ、人間だれもがいずれ死ぬんだろうけど。
「勝てば生き残るか……自信はあるんだろうな?」
「言いましたよ。私、失敗はしないので」
「いいだろう……」
「じゃあ、私の方も賭けて良いですか?」
「何を賭けるんだ」
檜山君のお父さんは眉をひそめる。
「そうですね、手術が成功したら。春樹君と咲良さんとの交際認めてやって下さい」
「それは……」
「お父さんはこの手術を奇跡だと思ってるんでしょう。だったら、ちょうどいいチップでしょう」
「……わかった」
「じゃあ、ご家族の方同意書を……」
こうして檜山君のお父さんの手術は決まった。
「心配する必要はないですよ、春樹君は跡を継いでくれるそうですから」
「本当か!?」
「……ああ、その代わり……」
「その先は手術が終わった後でいいでしょう?」
「……そうだな」
診察が終えると檜山君が残る。
「大丈夫なのか?」
「あの手の手術は何度もしてる。もっと難しい術式を覚悟していたけど楽なので助かったわ」
「どういう手術なんだ?」
「心臓の弁を切り取って、残った部分の縁と人工弁を糸で縫い合わせていく手術」
「心臓の弁をきりとってって……」
「人工心肺装置を使って心臓をいったん止めてから行うわ」
「そんな難しそうな手術本当に安全なのか?」
「私なら大丈夫よ。安心して」
そう言って彼の肩を叩く。
家に帰るとさっそく持って帰ってきたカルテと写真をみながら医学書を呼んで術式を復習する。
啓介がコーヒーを持ってきてくれた。
「話はきいたぞ、大丈夫なのか?」
「啓介くらい私を信じてくれてもいいじゃない?」
「それはそうだが……」
「問題ない。上手くいくから」
「……あんまり根を詰め過ぎるなよ」
「他の患者のオペも控えてるのよ」
「外科医少ないんだってな、すまん」
「その分給料もらってるからいいわ」
「そうか」
そう言って啓介はテレビを見ながら勉強を始める。
私は一人、手術の状況をイメージしてあらゆる事態に備える対策を練っていた。
(4)
「凄いね冬夜君!」
「そうだな」
「全部冬夜君の予想通りじゃない!」
「偶々うまくいっただけだよ」
その「偶々」をいくつも作り出していくのが冬夜君の凄い所だよ。
ユニティは縁結びのグループと言われているけど縁結びの神様は冬夜君だよ。
バスケでも神様って言われてるらしいけど、冬夜君は何やらせてもすごいね。
そんな人の彼女になれて幸せだよ
難点は……。
ぽかっ。
「またお菓子一杯食べてる!」
「空腹でお酒飲んだらいけないって言うだろ?」
「うぅ……お酒やめたらいいじゃない?」
「愛莉だって飲んでるじゃないか?」
「だって……」
「だって?」
「だって冬夜君相手してくれないもん!」
「勉強中は無しって言ったの愛莉だろ?」
他の人だったらちゃんと心の隙を塗っていくのに私にだけは上手く入って来てくれない。
でも……
「勉強終わったらまた愛莉のメンテしないとな」
ほえ?
「僕好みの女性になりたいんだろ」
「バカ!!」
その後勉強しながらテレビ観て。勉強が終るとゲームの時間。
ゲームと言っても最近は所謂「モンスターを倒す」という行為はほとんどしてない。
インスタントダンジョンを生成してクリアして出たレアアイテムを売るだけという簡単な作業。
そんな簡単にレアアイテムでるのかって?
冬夜君としてると絶対出るの。
不思議だよね。
「う~ん」
冬夜君が悩んでる、どうしたの?
「いやさ……」
冬夜君の悩みを聞いてみた。
1キャラでもてるお金の金額は決まっている。しかし12キャラともカンストしてしまった。
これからどうする?といったものだ?
因みに欲しい物は大体買ってる。で、要らないものを売ってるから実質そんなに減らない。
私のキャラも同様だった。
だって公平に分配してるから。
「もうそろそろ引退しどきかな?」
冬夜君がそんな事言いだした。
「どうして?」
「やること大体やったろ?」
「偶にやりたくなることが無いって言える?」
「あ、それはあるかも」
「だったらやりたいときにやればいいんじゃない?」
そう言って私はログアウトする。
それを見て冬夜君もログアウトする。
「これからどうする?もう寝る?」
本気で言ってたら怒るぞ?
私は目で訴える。
冬夜君ちゃんと私の心読んでよ。
冬夜君は私を見てる。
そして私をお姫様抱っこしてベッドに寝かせる。
テレビを消して明りを落してそして……
「ねえ?」
「なに?」
私ちゃんと冬夜君好みの女になってる?
「……うーん、我儘ですぐ拗ねて良く分からないことで怒って……」
うぅ……
「……でもそんな僕でもどうにもならない愛莉だからこそ愛おしいんだよ」
わ~い。
「次は檜山先輩の番だね」
「深雪さんなら大丈夫だよ」
「でもまだ勤めて1か月だよ?」
「それでも失敗したこと無いんだろ?」
それはそれですごいね。
「私達も深雪さんのお世話になるのかな?」
「愛莉どっか悪いところあるの?」
冬夜君が心配してくれる。
でも違うよ
「産婦人科もやってるのかなって西松君の病院」
「ま、まだ早いだろ!?」
「冬夜君まだ不履行の罰ゲームが残ってるんだよ?」
「え?」
冬夜君に耳打ちする。
「せめて社会人になるまで待って」
「待てない~……って言ったらどうする?」
「どうしてもか?」
ほえ?
「どうしても今欲しいなら作るけど」
え?
「お金はスポンサーからたくさんもらってるし」
ああ。
「愛莉が子育てする気があるなら作っても……」
私は恥ずかしくなってきた。
「い、いいよ。社会人まで待つから」
「ほら、愛莉もまだ心の準備出来てないだろ?」
冬夜君はそう言って笑う。
知ってたなら聞かないでよ!
「ねえ冬夜君」
「なに?」
「男の子と女の子どっちがいい?」
「……親は娘を希望しているな」
「私は男の子がいいんだ」
「なんで?」
「凄い男の子産んでスポーツで活躍させるの~」
「絶対凄い才能の持ち主生まれると思ってるだろ?」
そりゃ冬夜君と私の子だもん。きっと凄い子生まれてくるよ。
英才教育しないとね!
「愛莉」
「はい?」
冬夜君は私に抱きついてきた。
「やっぱりこれが気持ちいい」
じゃあ、ずっとそのままでいてね。
やがて冬夜君の寝息が聞こえてくる。
私達の世界は全て煌めいている。そして冬夜君が微笑む。
そんな夢を見ながら私は眠っていた。
ピピピピ……
アラームが鳴る。素早く僕は止める。
愛莉を見る。ぐっすりと眠っている。
偶には逆襲してやらないとね。
「愛莉朝だよ!起きないと」
そう言って愛莉に抱き着いてキスする。
まだ飽きてないんだろ?いっぱいしてやるからな。
しかし愛莉は起きない。
どこか具合悪いのか?
「愛莉、大丈夫か?」
愛莉の体を揺さぶる。
「もっと優しくして……」
愛莉は目を開ける。
いや、いつもの愛莉ならギューッと抱き返してくるくらいすると思ったから。
あ、あれか……
「ひょっとしてあの日ってやつ?」
「違うもん!」
機嫌も悪い様だ。
昨夜の事を思い出す。
キスして寝て……。途中で寝たのが悪かったのか?
じゃあ、今からでも遅くないよな。
愛莉にキスをしようとすると。
ぽかっ
「早く着替えてジョギング行く!」
愛莉はそう言って起き上がると着替えを始める。
やっぱり機嫌が悪い?
どうも愛莉の心は読みづらい。
「冬夜君の考えてる事正反対だから!」
え?
「どうせ私の機嫌が悪いとか考えてるんでしょ?」
いやどう見ても機嫌悪いから。
「こう見えても嬉しいんだよ。旦那様のキスで目覚めるなんて夢みたい」
「じゃあ、なんで?」
「冬夜君に甘えていたら、冬夜君ずっと続けて良そうだから敢えて突き放したの」
「そんなことしなくてもいいだろ?」
「わたしのせいで冬夜君代表から漏れちゃったら私自分を許せなくなっちゃう。冬夜君の将来かかってるんだから」
「愛莉的には僕がプロになった方が良いんじゃないか?」
「そこは冬夜君と考えてる事一緒だよ?」
「え?」
愛莉は着替え終えると僕を抱きしめる。
「プロになったら冬夜君と会えない日が続く。そんなのイヤだ。それに本気の冬夜君を応援したい」
「愛莉にはいつも本気なんだけどな」
「それは知ってる。ちゃんと冬夜君の世界に入れてるから……、って朝から馬鹿!」
ぽかっ
「早く着替えてジョギング行こ?朝ごはんだって作らないといけないし」
「あ、ああそうだな」
愛莉の考えてる事はいまいち分からない。
いつも通りジョギングをするかと思うと愛莉は自転車に跨っている。
そして口には笛を加えている。
僕の後を追いかけてると突然ピッと笛を鳴らす。なんだ?
「笛吹いたらダッシュして」
え?
とりあえず言われた通りダッシュする。すると笛がまたなって「もういいよ~」と愛莉が言う。
何これ?
その後も愛莉は笛を吹き続ける。
それを一時間続けた。
「ただランニングしてたって冬夜君最近余裕で走ってるからって佐倉さんが提案したの」
正直それ一時間続けるのしんどいぞ。
「試合は40分しかないんだよ。バスケってダッシュする時間が殆どでしょ?本当は50㎞走れって言われてたんだからね」
鬼がいる。
ジョギングを終えると僕がシャワーを浴びてる間に愛莉は朝食の準備にかかる。
着替えを終えると朝食が並んでいる。
朝食を食べ終えると愛莉がシャワーを浴びる。
そしてマグカップを持って、部屋に戻ってくる。
愛莉はマグカップをテーブルに置くと髪を乾かし始める。
乾かしたら服を着替えて化粧して僕の隣でコーヒーを飲んでいる。
テレビを見終えるとバッグを持って家を出る。
大学に着いたら棟に向かって授業を受ける。
その後学食で皆と話す。
今日は石原夫妻と酒井夫妻。それに晴斗がいない。
ああ、今日面談があるって言ってたな。
上手くいってると良いんだけど。
「晴斗の奴びっくりしたな、いきなりボウズ頭だぜ」
カンナが言った。
「言ったろ?晴斗は率直な奴だって。晴斗なりに身だしなみに気を使ったんだろ」
僕が返す。
「報告楽しみだね~」
愛莉が言う。今日の夜には届いてるだろう。
「これでまず一つ片付いたな。後は檜山先輩とエゴイストの件か?」
渡辺君が言う。
エゴイスト……僕達の評判を悪用してるサークル。
悪用するも何も僕たちは何もサークルとしては活動してないんだけど。
対応策として僕たちはユニティというグループを立ち上げた。
サイトも今誠が作ってる。
それに対してどう動いて来るのか?
それを知るのはまだ先の話だった。
午後の授業を終えると青い鳥に行く。
酒井夫妻と石原夫妻たちはまだ帰っていない。
交渉が難航しているのだろうか?
案じていてもしょうがない。
時間になると大学に戻って部活をする。
新監督になって練習メニューが変わった。
基礎体力の向上を図ってる。
基礎的なトレーニングを終えると女バスに練習に付き合ってもらう。
東山監督が提案したディフェンスとオフェンスを10分間やる。
僕達も新戦術を覚えようと必死になる。
そして休憩時間も休むことなくシュート練習をする。
「練習で生き残って初めて試合に立てるんですよ」
東山監督が言う。
とはいえ、僕は公式戦が近い。
東山監督もそこは配慮してくれてるようだ。
練習時間が若干短い。
その間、練習を見て皆の動きを確認する。
そして的確な指示を出す。
「日本代表の強みはツーガードによる戦術の幅の広がりです。常に広い視野を持つ訓練も必要ですよ」
東山監督も試合は見ていたらしい。
「片桐君を潰すのは厳しい、きっとポイントガードを潰しに来るはずです。その時相手のマークを振り切って片桐君がボールを受け取りゲームを組み立てる。そんな瞬間が必ず来るはずです」
佐倉さんの見解も一緒だ。
「片桐先輩はマンツーで潰すならトリプルチームを組むくらいの勢いが必要です。澤選手だって一人じゃ潰せない。センターに一人残すとしてもどちらかに穴が開く。そこをついて行くんです」
他の皆も僕抜きで戦い勝ち残る強さが必要になるとも付け足して。
女子のレベルアップにもつながっていく。
あのディフェンスを続ける体力とコツを覚えていく。
恐らく春季大会ではダークホースになるだろう。
練習が終わると銭湯に寄って帰る。
帰ると夕食を食べてシャワーを浴びていつも通り部屋で勉強。
勉強も粗方すると愛莉が飲み物を持ってきてそれを飲みながらテレビを見る。
テレビが飽きたらゲームをして時間を潰す。
そうしているとスマホがなる。
ユニティのグループメッセージだ。
恵美さんが今日のやり取りの一部始終の説明を始めた。
(2)
正午過ぎ。
白鳥カンパニーの前に私と晴斗、石原夫妻、酒井夫妻、恵美さんのお母さん、新條さんがいた。
石原さんは黒いスーツに赤いネクタイ。酒井君も新調した黒いスーツに白いネクタイ。恵美さんと晶さんは紺色のスーツ。晴斗は入学式で着ていたらしいスーツを新條さんも紺色のスーツ。恵美さんのお母さんもスーツ姿。私だけ白のワンピースで着ていた。
「スーツの方が良かった?」
私が聞くと「その姿でも大丈夫よ」と恵美さんのお母さんが言う。
新條さんを先頭に入ると社員の皆の注目を集める。
新條さんが受付に話をしている。
「緊張するっすね」
晴斗が言う。晴斗でも緊張ってことばあるのね。
嘘、本当は知ってる。初めてキスした時、初めて私を抱きしめてくれた時腕が震えていた。
「今から緊張していたら持たないわよ。ここは相手の土俵だけどアドバンテージは私達にあることを忘れちゃいけない。リラックスして」
恵美さんのお母さんが言う。
程なくして担当の者が降りてくる。
恵美さんのお母さんが対応する。
名刺交換をすると私たちは会議室に案内される。
十数名の会議用のテーブルがあり椅子にずらりと並んで座る。
やってきたのは父さんと父さんの秘書と会社の顧問弁護士だった。
話の前に顧問弁護士が言う。
「先に断っておきますが、ここでの会話は証拠として録音させていただきます」
「結構よ。新條出しなさい」
恵美さんのお母さんが新條さんに言うと新條さんはICレコーダーを机の上に置いた。
「私達も証拠として撮らせてもらうわ」
「それでは初めまして。私が白鳥カンパニーの代表取締役の白鳥達也です。
「初めまして、私がETCの代表取締役。江口弥生と言います。以下は秘書の新條と娘たちです」
「私の娘も見えますが。それにその隣の男は……」
「ご心配なく、彼等もまた当事者ですから」
「そうですか。それで要件とは?」
「新條、資料を出しなさい」
新條さんが書類の束を父さんの前に置く。
「中身のご確認を」
恵美さんのお母さんがそう言うと父さんは中をちらりと見る。
同じ内容の書類を前日に送り付けたらしいので内容は知っているのだろう。
「あなた方があの書類を?」
「内容はご存知のようね?」
「匿名で送りつけたのはあなた方でしたか」
「さあ、何のことか存じかねますが内容はご存知のようなので本題に入りますね」
主導権を握ったようだ。
「その資料を見るとこの会社大幅な赤字を抱えている。その証拠とあなたが部下に粉飾決算を示唆した証拠のメール。それにあなたの官僚時代の部下への天下り先の斡旋。それに自分自身の天下り。その後も官僚の天下り先の斡旋を続けている証拠が入っているわ」
「私達を揺すりに来たのですか?こんなものは証拠にならない」
「それを決めるのは私達ではないはずよ。それに法的に処罰されなくても赤字決済の証拠が世間に知れたら大打撃のはずよ」
「繰り返し聞くが、脅しのつもりですか?」
「どう受け取るのはそちらの自由。私達は交渉に来ただけよ」
「交渉だと!?ふざけるな!」
父さんが机をたたくと「話にならん」といって退室しようとするが、恵美さんのお母さんはそれを許さなかった。
「こんな噂が流れてるわ。何者かが白鳥カンパニーの子会社の株を丸ごとTOB(株式公開買付け)しようとしてると」
父さんの足が止まる。
「何だと……!?」
「あくまでも噂だけどそれが事実だとしたらこの事実を公表すればあなたは痛手を負うことになるんじゃない?」
「一貿易会社風情にそんな事が出来るものか」
「私がやるとは言ってない。そんなことしたら私が捕まってしまう。噂を聞いただけ」
「……目的はなんだ?」
「私の知り合いに地元銀行の株をTOBしたいという人がいるのその人に株を譲ってもらえないかしら?」
「ただの脅しじゃないか!?」
「別にいいのよ?私が得をするわけじゃないから。この話をなかったことにしても全然かまわない」
「その知り合いとは何者だ?」
「それは黙秘するわ」
「素性の知らないものに株を譲れというのか?」
「このまま事実がリークしたらあなたの地位も危うくなるんじゃなくて?地元銀行と親しい間柄とか?多額の融資も受けている。資金の貸しはがしにでもあったら会社の存続にかかわる問題よ?」
「この資料はでたらめだ!事実無根の資料で私を脅そうとしたってむだだ」
「そうかしら?じゃあ、この話は無かったことでいいわね?帰るわよ皆」
恵美さんのお母さんが立とうとすると父さんが呼び止める。
「この情報をどうする気だ?」
「でたらめなら気にしなくていいのでは?私は関係者に提出するだけ。立派な違法案件だもの。提出する義務があるわ」
「……わかった。要求をのもう。銀行の株を譲ればいいんだな?で、誰に譲ればいいんだ?」
「その前にすることがあるんじゃない?」
「なんだ?」
「この証拠の音声消しておく必要があるのでは?」
父さんは顧問弁護士に言うとその場でレコーダーを操作し記録を消した。
それを見た恵美さんの母さんが新條さんにいうと、レコーダーを操作し記録を抹消する。
「ここからはオフレコだお互い腹を割って話そう。何が望みだ」
「言ったでしょ?銀行の株を譲ってほしいと」
「それだけか?そもそも誰が買い取ろうと言うんだ」
「私の主人よ」
晶さんが口を開いた。
酒井さんはへ?という顔をしている。
「酒井コーポレーションの代表取締役よ」
「はい?」
酒井さんが間抜けな声を出す。
父さんは訝しげな眼で酒井さんを見る。
「娘とそう年の変わらない子供が代表取締役?」
「私の実家の子会社だから。実際に動かしてるのは実家の役員です。彼まだ就任して実績がないから大きな取引に慣れてないの」
「……分かった。いくらで買い取る?」
「TOBをしたときの値段でいいわ」
「ちなみに何%ほどになるんだ?」
「御社の保有株を丸ごと引き受けると40%は越える計算よ?」
「酒井君と言ったか?君が筆頭株主になった場合私の地位は保証してくれるのかね?」
「まあそれはそちらの出方次第でしょうか……」
「話はそれだけか?」
恵美さんのお母さんは私を見る。
「白鳥さん、お父さんにお願い事があるのでしょ?」
私の心臓はドキドキしていた。
お膳立てはしてもらえた。
私の口から言うべきだ。
私が口を開こうとしたその時。
「俺と春奈の交際を認めて欲しいっす!」
晴斗が叫んでいた。
「君は誰だ?」
父さんが怪訝な目で晴斗を見る。
「楠木晴斗18歳!地元大に通ってます」
「楠木……だと!?貴様まだ性懲りもなく!」
「違うわ父さん。誘ったのは私。そしてあのあと正式に交際を申し込まれたの」
「春奈、お前は父さんの言う事を聞いてなかったのか?」
「いつもだったら父さんの言いなりになってた。でも彼は特別、彼だけは私の大事な人なの!」
「お前には檜山さんという人が……」
「檜山さんにはお見合い当日に断られました。檜山さんにも交際相手がいるそうです」
「白鳥さん。私にも娘がいたからお気持ちはわかるわ。でも自分の娘の男を見る眼を信じるのも大切なことよ?」
恵美さんのお母さんが言う。
「それが取引材料か?」
「あなたが自分の娘の交際相手を権力を使って引き離そうとしたから報復しただけ。もう娘さんも聞けば18歳。自分の意思をもってもおかしくない。その意思を尊重してやることも重要よ」
「自分の行動には自分で責任を持ちます。だから交際を許して」
私は懇願していた。
「……分かった。楠木君と言ったか?」
「はいっす」
「……娘を頼む」
「頼まれたっす!」
晴斗は叫んでいた。
私は今すぐ彼に抱き着きたい気持ちを抑えるので必死だった。
「良かったね晴斗」
「一件落着ですね」
石原さんと酒井さんがそう言っている。
「みんなあざーっす!。そちらの方も本当にあざーっす」
「困ったことがあったらいつでも言ってちょうだい」
恵美さんのお母さんがそう言っている。
「相手が悪かったようだな……」
そう漏らす父さん。
「それは違うわよ。お互い良い関係が築けた。そう思えば前向きになれるんじゃありません?」
恵美さんのお母さんはそう言う。
「春奈、よかったわね」
恵美さんと晶さんが言う。
「ありがとうございます。みなさん」
私は頭を下げて礼をしてた。
目に溢れるのは涙。
涙?
悲しいの?
そんな涙じゃない?嬉し涙だ。
私は今喜びという感情に包まれていた。
分厚い壁にひびが入ってその光を羨んでいた。
その光の正体は恋。
そして今包まれてる光の正体は喜び。
人生というくらい海。
しかし夜明けはきっとくる。
晴斗という太陽が照らしてくれた。
その光はどこへ向かって行くのか?
不安もあるけど、彼となら歩いて行ける。
全てが煌めいていてそして私は微笑む。
私の旅はまだ始まったばかりだ。
(3)
「ふーん……」
私は一枚のカルテとMRIの写真を見ていた。
そのカルテの主は私の前にいる。
恰幅の良い中年の男性。
「先生どうなんでしょうか?」
男性は聞いてきた。
後ろには檜山君と檜山君のお母さんが立っている。
心臓弁膜症。弁置換術の必要がある。
何度か経験はしたことある。
何せこの病院には外科医がいないに等しいのだから。
「早いうちに手術しましょう。治ります」
檜山君たちの顔が明るくなる。
しかし本人の表情が険しい。
「失礼ですが先生。お年は?」
「25ですけど」
「彼女はまだ研修医ですけど腕は確かです。私が保証します」
院長、啓介のお父さんが言った。
「研修医に心臓の手術をさせるのか!?この病院は?」
「この症例なら数回やったことがあります。私、失敗はしないので」
「必ず成功するという保証はあるのか!?」
「自信はあります。まあ、お父さんから見たら不安でしょうね?奇跡にかけてみるようなものですよね」
「分かってるなら話は以上だ。私は帰る!」
「待ってください、どうせほかの病院では受けてもらえなかったのでしょう?」
「……」
「奇跡にかけてみませんか?」
「何を賭ければいい?」
「そうですね、自分の命でしょうか?どうせこのままいってもいずれ死にますよ?」
まあ、人間だれもがいずれ死ぬんだろうけど。
「勝てば生き残るか……自信はあるんだろうな?」
「言いましたよ。私、失敗はしないので」
「いいだろう……」
「じゃあ、私の方も賭けて良いですか?」
「何を賭けるんだ」
檜山君のお父さんは眉をひそめる。
「そうですね、手術が成功したら。春樹君と咲良さんとの交際認めてやって下さい」
「それは……」
「お父さんはこの手術を奇跡だと思ってるんでしょう。だったら、ちょうどいいチップでしょう」
「……わかった」
「じゃあ、ご家族の方同意書を……」
こうして檜山君のお父さんの手術は決まった。
「心配する必要はないですよ、春樹君は跡を継いでくれるそうですから」
「本当か!?」
「……ああ、その代わり……」
「その先は手術が終わった後でいいでしょう?」
「……そうだな」
診察が終えると檜山君が残る。
「大丈夫なのか?」
「あの手の手術は何度もしてる。もっと難しい術式を覚悟していたけど楽なので助かったわ」
「どういう手術なんだ?」
「心臓の弁を切り取って、残った部分の縁と人工弁を糸で縫い合わせていく手術」
「心臓の弁をきりとってって……」
「人工心肺装置を使って心臓をいったん止めてから行うわ」
「そんな難しそうな手術本当に安全なのか?」
「私なら大丈夫よ。安心して」
そう言って彼の肩を叩く。
家に帰るとさっそく持って帰ってきたカルテと写真をみながら医学書を呼んで術式を復習する。
啓介がコーヒーを持ってきてくれた。
「話はきいたぞ、大丈夫なのか?」
「啓介くらい私を信じてくれてもいいじゃない?」
「それはそうだが……」
「問題ない。上手くいくから」
「……あんまり根を詰め過ぎるなよ」
「他の患者のオペも控えてるのよ」
「外科医少ないんだってな、すまん」
「その分給料もらってるからいいわ」
「そうか」
そう言って啓介はテレビを見ながら勉強を始める。
私は一人、手術の状況をイメージしてあらゆる事態に備える対策を練っていた。
(4)
「凄いね冬夜君!」
「そうだな」
「全部冬夜君の予想通りじゃない!」
「偶々うまくいっただけだよ」
その「偶々」をいくつも作り出していくのが冬夜君の凄い所だよ。
ユニティは縁結びのグループと言われているけど縁結びの神様は冬夜君だよ。
バスケでも神様って言われてるらしいけど、冬夜君は何やらせてもすごいね。
そんな人の彼女になれて幸せだよ
難点は……。
ぽかっ。
「またお菓子一杯食べてる!」
「空腹でお酒飲んだらいけないって言うだろ?」
「うぅ……お酒やめたらいいじゃない?」
「愛莉だって飲んでるじゃないか?」
「だって……」
「だって?」
「だって冬夜君相手してくれないもん!」
「勉強中は無しって言ったの愛莉だろ?」
他の人だったらちゃんと心の隙を塗っていくのに私にだけは上手く入って来てくれない。
でも……
「勉強終わったらまた愛莉のメンテしないとな」
ほえ?
「僕好みの女性になりたいんだろ」
「バカ!!」
その後勉強しながらテレビ観て。勉強が終るとゲームの時間。
ゲームと言っても最近は所謂「モンスターを倒す」という行為はほとんどしてない。
インスタントダンジョンを生成してクリアして出たレアアイテムを売るだけという簡単な作業。
そんな簡単にレアアイテムでるのかって?
冬夜君としてると絶対出るの。
不思議だよね。
「う~ん」
冬夜君が悩んでる、どうしたの?
「いやさ……」
冬夜君の悩みを聞いてみた。
1キャラでもてるお金の金額は決まっている。しかし12キャラともカンストしてしまった。
これからどうする?といったものだ?
因みに欲しい物は大体買ってる。で、要らないものを売ってるから実質そんなに減らない。
私のキャラも同様だった。
だって公平に分配してるから。
「もうそろそろ引退しどきかな?」
冬夜君がそんな事言いだした。
「どうして?」
「やること大体やったろ?」
「偶にやりたくなることが無いって言える?」
「あ、それはあるかも」
「だったらやりたいときにやればいいんじゃない?」
そう言って私はログアウトする。
それを見て冬夜君もログアウトする。
「これからどうする?もう寝る?」
本気で言ってたら怒るぞ?
私は目で訴える。
冬夜君ちゃんと私の心読んでよ。
冬夜君は私を見てる。
そして私をお姫様抱っこしてベッドに寝かせる。
テレビを消して明りを落してそして……
「ねえ?」
「なに?」
私ちゃんと冬夜君好みの女になってる?
「……うーん、我儘ですぐ拗ねて良く分からないことで怒って……」
うぅ……
「……でもそんな僕でもどうにもならない愛莉だからこそ愛おしいんだよ」
わ~い。
「次は檜山先輩の番だね」
「深雪さんなら大丈夫だよ」
「でもまだ勤めて1か月だよ?」
「それでも失敗したこと無いんだろ?」
それはそれですごいね。
「私達も深雪さんのお世話になるのかな?」
「愛莉どっか悪いところあるの?」
冬夜君が心配してくれる。
でも違うよ
「産婦人科もやってるのかなって西松君の病院」
「ま、まだ早いだろ!?」
「冬夜君まだ不履行の罰ゲームが残ってるんだよ?」
「え?」
冬夜君に耳打ちする。
「せめて社会人になるまで待って」
「待てない~……って言ったらどうする?」
「どうしてもか?」
ほえ?
「どうしても今欲しいなら作るけど」
え?
「お金はスポンサーからたくさんもらってるし」
ああ。
「愛莉が子育てする気があるなら作っても……」
私は恥ずかしくなってきた。
「い、いいよ。社会人まで待つから」
「ほら、愛莉もまだ心の準備出来てないだろ?」
冬夜君はそう言って笑う。
知ってたなら聞かないでよ!
「ねえ冬夜君」
「なに?」
「男の子と女の子どっちがいい?」
「……親は娘を希望しているな」
「私は男の子がいいんだ」
「なんで?」
「凄い男の子産んでスポーツで活躍させるの~」
「絶対凄い才能の持ち主生まれると思ってるだろ?」
そりゃ冬夜君と私の子だもん。きっと凄い子生まれてくるよ。
英才教育しないとね!
「愛莉」
「はい?」
冬夜君は私に抱きついてきた。
「やっぱりこれが気持ちいい」
じゃあ、ずっとそのままでいてね。
やがて冬夜君の寝息が聞こえてくる。
私達の世界は全て煌めいている。そして冬夜君が微笑む。
そんな夢を見ながら私は眠っていた。
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