優等生と劣等生

和希

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4thSEASON

あなたの声の体温

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(1)

「うぃーっす」

集合場所のコンビニに行くと晴斗たちが先に来ていた。
一番近いのは僕達のはずなのに。

「いや、新人が遅れてきたらシャレにならないと思って春奈に頼んだっす」
「何を頼んだの?」
「冬夜君は鈍いのか鋭いのかわかんないね」

愛莉がため息を吐いている。

「愛莉は知ってるの?」
「白鳥さんの家は別府。そして一番初めに来た。晴斗君は春奈に頼んだと言ってる。まだわからない?」
「わかんない」

僕は即答した。

「ほんとにもう……」と愛莉は首を振ってる。

晴斗に直接聞いたら悪い事なのか?

「春奈に家に止まってもらったっす」

なるほどね~って、えっ!?

「……それって不味いんじゃないの?」

まだ、親との問題解決してないんだろ?

「彼と交際を始める時から覚悟はしてる。それなら自由にやろうと思って」
「もちろん、いきなり抱いたりはしてないっすよ。俺寝袋で寝たっす」

2人が言うなら問題ないんだろうけど……。

「それに彼女の父親それどころじゃないはずよ」

いつの間にか来ていた恵美さんがそう言った。
石原君はコンビニに買い物に行った。

「どういう事?」

僕は恵美さんに聞いていた。

「軽くジャブを決めたってところかしら」

さっそく反撃が始まったんだね。

「いったい何をしたの?」
「それは今夜の楽しみにとっておこうじゃないか」

渡辺君がやってきた。
見ると他の皆も揃ってる。

「みんな揃ったかー?途中スーパーとかないから買い物はここで済ませとけ」

渡辺君が言うと皆買い物にコンビニに入る。

「春奈は他に買う物ないっすか?」
「飲み物と飴を買っておこうかな?」
「飴好きなんすか?」
「思考が低下した時に飴を齧ると落ち着くのよ」
「齧るんすか」
「そうよ」
「そうなんすね」

そう言いながらコンビニに入る白鳥さんと晴斗。
仲良くなったんだなこの二人。
皆店から出てきた。

「買い物済んだか?分担したもの準備してるか?」

渡辺君が言うと皆うなずいた。

「じゃあ、ここから別荘までノンストップで行くからな。はぐれたらスマホで連絡くれ」

そう言うと皆車に乗り込んで。駐車場を出る。
因みに今回のメンバーは男性陣は僕、誠、渡辺君、桐谷君、石原君、酒井君、中島君、西松君、木元先輩、檜山先輩、真鍋君、竹本君、晴斗、佐(たすく)。あと椎名さん。
女性メンバーは愛莉、カンナ、美嘉さん、亜依さん、恵美さん、晶さん、一ノ瀬さん、深雪さん、花菜さん、咲良さん、新名さん、咲さん、白鳥さん、佐倉さん。
物凄い大所帯だ。
百名規模で収容できる施設らしいのだが、それ別荘なのか?
車もずらーッと並んで走っていく。
先頭は石原君が、最後尾から僕が行くことにした。
どうして僕が後ろかって?
どうせ後からのんびり行くからちょうどいいから。
車は山を登ってしばらく山道を走る。
愛莉は助手席でCDを聞きながら。スマホを弄っている。
女子トークでも広げているのだろう?
しばらく黙って運転していた。

「あ!」

愛莉が何かに気づいたようだ?

「どうした愛莉?」
「ごめんなさい、私としたことが冬夜君置き去りにするなんて」
「気にしなくていいよ、もう何度も来た道だもん、飽きるよね」
「うぅ、ちゃんと冬夜君のナビ役務められてない」
「ナビは必要ないけど……」
「私要らないの?」

なんでそうなるかな?

「愛莉が楽しかったらそれでいいよ。どうしても気になるなら聞いても良い?」
「いいよ!」
「何を話ししてたの?」
「うぅ……」

男には話せない話なのね。

「言えないなら言わなくてもいいよ」
「笑わない?」
「笑うような話なの?」
「夜皆で枕投げとか恋バナとかしようねって」
「なるほどね」
「あ、やっぱり笑った。どうせまだ子供だなとか思ったんでしょ!」
「そんな事無いよ」

愛莉が拗ねてる。

「可愛いなとは思ったけど?」
「やっぱり子供扱いしてる!」

愛莉の今の行動が子供っぽいんだけど、それを悪いと思ったことはない。寧ろ可愛らしい。
そんな男性の心境とは女性は考え方が違うらしい。

「私も深雪さんみたいになれたらなぁ」
「何で深雪さん?」
「だってなんかカッコいいじゃん。しかも全身科医だよ。凄いと思わない?」
「ああ、なるほどね……でも」
「でも?」
「愛莉も料理が得意だし家事は何でもこなすし勉強も出来るし凄いと思うよ」
「そりゃあ、冬夜君のお嫁さんだもん。冬夜君の事は何でも知ってるんだから」
「それでいいじゃないか?」
「ほえ?」
「愛莉は僕のスペシャリストでいいじゃないか?愛莉だけだよ。そう言えるのは」
「わ~い」

車はほぼ一本道なんだけど偶に曲がるところがある。
桐谷君や誠、中島君はやけに飛ばす。
3人で競ってるかのようだ。
車種的には桐谷君のが一つ抜き出てるかなと思うけど。
そんな3人にお構いなしにのんびりと走る。真鍋さんと晴斗の車。
その2台の車にあわせてるからのんびりになる。

「愛莉、次は左だって教えてあげて」
「は~い」

愛莉は僕が言った通りにメッセージを打つ。
ウィンカーが点灯した。
途中の蕎麦屋に寄るように指示する。
愛莉はメッセージを打つ。

「俺達置いてかれたぽいっすね」
「冬夜先輩道知ってるなら問題ないっすよね」
「うん、ここからは僕が先導するよ。のんびり行くからついて来て」
「了解っす」
「わかりました。

そして僕が車を出すと後ろからついてくる。
時々後ろを気にしてやりながら進んでいく。
そしてしばらくして別荘に着いた。
始めてきた人は驚いている。

「それじゃ食材とかは冷蔵庫に入れておいてくれ」
「これから何するんすか?」
「何って……何もしないよ、初日だしな」

渡辺君が当たり前のように答える。

「暇だったら二人でドライブしてくると良い。結構見晴らしいいぞ」

渡辺君がそう言うと晴斗は白鳥さんを誘う。

「でも私達だけ良いんですか?」
「明日から大変だから楽しんでおいで」

渡辺君は白鳥さんに言う。

「じゃあ、お昼食べたらいこっか?」
「了解っす、昼飯は?」
「これから作るんだよ」
「へ?」
「自炊が基本、片付けもちゃんとしなきゃだめだからな」

渡辺君が笑って言った。

「任せてください」

2人は昼ごはんを食べて片づけると。出かけて行った。

「良いのか正志あの二人にさせて」
「いい加減晴斗の事信じてやろう。何もないよ。良くも悪くもな」
「そうか」

美嘉さんと渡辺君がそんな話をしていた。
僕達は自由時間の間寝たり本を読んだりゲームをしたりしていた。
体育館があることを知っていた佐倉さんは僕と佐に着替えるように命じる。

「1対1でも片桐先輩も佐も強化になります!」
「まあ、シュート練習くらいしとこうか、どうせ暇だし」

休みの日まで練習とはね……。

(2)

昨夜は晴斗の家で過ごした。
私は構わないと言ったのに晴斗は寝袋で寝てた。
そして朝になると喧しいアラームで目が覚める。
晴斗は朝食とコーヒーを用意してくれた。
それを食べると着替えて準備して家を出る。
皆と待ち合わせして、話をすると恵美さんの別荘に向かう。
山道は坂が激しくそして曲道も多い。
遠坂さんの案内を晴斗に知らせて、進んでいく。
途中の店によると列を編成しなおして、私たちは最後尾、先頭は片桐さんが行く。
と、言っても私達と片桐さん、真鍋さんの3台以外は先に行ってしまったのだが。
別荘というよりは宿泊施設に近かった。
社員研修用の施設という事もあり、部屋もいくつもありそして体育館やテニスコートなんかもある。
そこに着くと女性陣は食事の準備にかかる。
20人以上のごはんを作らなければならない。
美嘉さん主導で作業は行われていく。
チャーハンと中華スープを作った。
私は何をしたらいいか分からなくてウロウロしてると、遠坂さんが声をかけてくれた。

「お皿準備しようか?」

皿を並べていくと美嘉さんが盛り付けていく。

「男共を呼んできてくれ」

私は寝室で遊んでいる男たちを呼びに行くと片桐君が真っ先に飛び出す。
最後に出たのは晴斗。

「お疲れさまっす」
「お皿を並べただけ」

如何に自分が無力なのかを思い知らされた。
いつか晴斗に自分の手料理を食べさせてあげたい。
美嘉さんに教わればいいのかな?
美嘉さんの作った料理はおいしかった。
さすが現役コックだけの事はある。

「暇だったら二人でドライブしてくると良い。結構見晴らしいいぞ」

渡辺君がそう言うと晴斗は私を連れてドライブに行く。
確かに見晴らしが良い。
高原独特の、のどかな雰囲気に包まれている。
途中渋滞にあった。
フラワーパークに行く客で並んでいるのだという。

「いつか彼女と行ってみたい場所っす」
「そうなんだ」

じゃあ、その時までにお弁当作れるようになっておかないとね。
車は、展望台でとまった。
高原の広大な風景が広がる。
風もまだ涼しい。
しばらく観光した後、また別荘に戻る。
何の変哲もないただの高原なんだけど、好きな人といるだけでこんなに違うんだ。
彼のまたどうでもいい話も楽しく聞こえる。
偶には私から話を振ったほうがいいのかな?
しかし彼に聞かせるような楽しい話が思いつかない。
何かないかな?

「晴斗は私の料理食べてみたい?」
「もちろんっすよ」
「私料理したこと無いんだけど……」
「そんなの関係ねえっす。彼女の手料理ってだけで最高っす。食ったことないっすけどね」

そう言って晴斗は笑う。
尚更覚えなきゃ。
別荘に戻るとみんなBBQの準備をしていた。
女性陣は厨房で作業をしている。
さっそく私は美嘉さんにお願いしていた。

「あの、私に料理教えてください」
「なんだ?晴斗に食べさせたいってか?」

そう言って美嘉さんは笑う。

「じゃあ、こっちでおにぎり作ろうか?まず手を洗って」

遠坂さんが教えてくれた。
色んな具材を混ぜながらおにぎりを作っていく。

「白鳥さん、こっちも手伝って」

厨房の中は慌ただしい。
こんなに作って全部食べきれるんだろうか?

「化け物がいるからな、このくらい用意しとかないとな」

美嘉さんがそう言う

「オフだから大目にみますけど、帰ったら公式戦に備えて調整しないと」

佐倉さんがそう言う。

「で、デートはどうだった?」

神奈さんが聞いてきた。

「楽しかったです。ありがとうございます」
「いいんだ、お前たちの仲を深める為も目的なんだから」
「そうなのね」
「夜はもっと楽しくなるわよ」

恵美さんが言う。

「そうね、あの話もしておきたいしね」

晶さんも笑う。
そう言えばうちにジャブを入れたって言ってた。
何をしたんだろう?

(3)

「じゃあみんな飲み物持ったか!?これから3日間盛り上がろう!」
「おお!」

そう言って宴は始まった。

「酔う前にまずは恵美さんから話があるらしい」

渡辺君が言うと恵美さんが話し出した。

「白鳥カンパニーに匿名で資料のコピーを送りつけてやったわ。粉飾決算の証拠、白鳥さんのお父さんの天下り、癒着の証拠。どれも公に広がれば白鳥カンパニーは経営危機に陥るわ。関連企業も無傷じゃすまない。それだけじゃない、白鳥さんのお父さんもただじゃすまない」

それが父さんが私に構ってる場合じゃないといった理由ね。

「それだけじゃ、終わらせないわ。さらに奥の手を用意してある。うちの子会社を使って地元銀行の株をTOB(株式公開買付け)する準備もある。もちろん白鳥カンパニーの関連企業も逃さない」
「大丈夫なの?それってインサイダーになるんじゃない?」
「そんな間抜けな事はしないわ。買取するのはマスコミにリークした後。銀行に至っては、別に内部事情をしってるわけじゃないからインサイダーにはならない」

遠坂さんが言うと晶さんがそう言った。

「その事をネタに白鳥カンパニーに週明けに行く予定よ。白鳥さんと楠木君にも来てもらうわ。楠木君せめてスーツで来てね」
「了解っす」
「でもそんなことをしたら、私の家はともかく、檜山さんにも迷惑が」
「俺の事は気にしなくていい。俺、大学卒業したら。自立するから。面接も受けてる。咲良と結婚する予定もある。ただ……心配な事があるんだ」
「どうした?」

檜山さんが言うと、渡辺君が聞いた。

「父さんが倒れて……、心臓の病なんだけど。手術すれば治るんだが、どこの病院も引き受けてくれないほどの難しい手術なんだ。海外で受けるしかないとか言ってる」

檜山さんの話を聞いて、皆静まり返った。ただ二人を除いて。

「それなら問題ないわ。心臓のオペならもう何度もやってきた。私が執刀してあげる」
「深雪のオペはまさに「神の手」なんだ。大丈夫。家の父さんも絶賛してたくらいだし」

西松さんが自信ありげに言った。

「私、失敗しないので。」と言いたげな表情だ。
「本当に大丈夫なのですか?」

檜山さんが言う。

「とりあえず入院してちょうだい。それから検査して決めるわ。大方バチスタ手術とかそんなとこでしょうけど。ちなみにバイパス手術【程度】ならもう何回かしたわ」

深雪さんって今年資格とったばかりじゃなかったっけ?

「スタッフも皆ベテランだから心配いらないわ」

ヴァルハラとでも呼ばれてるんじゃないの?その病院。

「良かったな~檜山。父さん助かるぞ!」

美嘉さんが言う。

「俺の事はいいけど、銀行の株とかもって大丈夫なのか?」

檜山さんが晶さんに言う。

「あなたの為でもあるのよ。その白鳥カンパニーに対抗する発言権を得る為に買い取るだけよ。白鳥カンパニーも地元銀行の株を保有する余裕はなくなるだろうし」

つくづく、渡辺班が怖いと思った。
敵に回したらいけない相手。
父さんも今頃夜も眠れないだろう?
私はどうなるのだろう?

「心配しなくていいっすよ。春奈には俺がついてるっす。春奈一人養うくらいしてみせるっす」

晴斗の声は私の温もり。

「まさに渡辺班に敵なしだな!」

神奈さんが盛り上がってる。

「神奈の言う通りだ!どんな敵でもどんとこいって言うんだ!」

美嘉さんも盛り上がってる。

「でも親のコネばかりでなんか情けなくないか?」

多田君がそう言うと「そんな事無いわよ」と晶さんが言う。

「その子会社『酒井コーポレーション』って言うの。将来はうちの旦那が社長になる予定」

酒井君がむせてる。
初めて聞いたようだ。

「酒井、よかったな。就職活動はしなくても良さそうじゃないか!」

中島君が言う。
酒井君は苦笑いしていた。

「こら~冬夜君!」

遠坂さんの声が響き渡る。

「生で食べたらいけないって言ったでしょ!」
「に、肉はレアがちょうどいいんだって!」
「それに食べ過ぎ!ハンバーグまで手を出して!」
「満遍なく食べないと悪いだろ?」

片桐さんは普段はこんなキャラなのか?

あ、思い出した?

「晴斗、おにぎり食べた?」
「今食べてるっすよ。どうしたんすか?」
「喜べ晴斗、今日のおにぎりは春奈のお手製だぞ」
「まじっすか!?超美味いっす」

神奈さんが言うとおにぎりを沢山食べだす。

「おにぎりだけじゃないからな、しっかり食え」
「あざーっす!春奈も言ってくれたらよかったのに」
「本当に美味しい?」
「当たり前っすよ!」

暗くなるころには皆たいらげていた。
片づけを始める皆。
食器を洗っている間に男性陣は風呂に入っていた。

(4)

「じゃ、結婚おめでとう」
「ありがとう」

修司君とディナーを楽しむ。

「久しぶりだな、こうして二人で食事をするのも」
「そうね、あの頃はあなたに迷惑をかけたわ」

私が自暴自棄になっていたころの話。
目が覚めた時、悟君の遺体は灰になっていた。
私は悲しかった。
後を追おうと思った。
でも修司君が言ってくれた。

「今死んだら、二度と原田に会えなくなる」

その言葉が私を苦しめる。
一人で孤独な日々。
疲れている彼の代わりに運転をしていたら、珍しく雪が降ったあの晩無理をせずホテルに泊まっていたら。
後悔の日々。
いつになったら原田君に会えるのだろうか?
そんな感情しかなかった。
修司君も苦しめていた。
苦悩する修司君を見ていられなかった。
私のせい……。

「私達別々に暮らしましょう」

そう言いだしたのは私の方。

「でも、私を一人にさせられない」

そう言って紹介されたのが真鍋君だった。
彼が私に好意を持っていたのは薄々気づいていた。
でもあえて距離をとろうとした。
私に会う人は皆不幸になる。
そう思っていた。
私の考えを変えたのは真鍋君の一言

「あんたを悲しませる奴の事なんか忘れてしまえ。あんたには俺がいる」

悟君にも言われた言葉。
彼は悟君の生まれ変わりなの?
それから次第に彼に打ち解けられるようになった。
彼は戸惑っていたのかもしれない
そんな彼の背中を押した。
彼は私の要望通りの事をしてくれた。
悟君とのお別れもすませた。
ここからは真鍋君と一緒に生きて行こう。

「しかしなんで真鍋だったんだ?」

修司君は聞いてきた。

「こんな事を聞いたことがあるわ『人の心の壁をハンマーで砕いて土足で上がり込む人間』真鍋君がまさにそれだったのかもしれない」
「あいつも一途になると何するか分からないやつだからな。気づかなかったが」
「でも居心地の悪い物ではなかったわ。むしろその声に温もりを感じていた」
「そうか」
「修司君に聞いてみたい事があるんだけど」
「なんだい?」
「年の差婚ってやっぱり問題なのかしら?」

修司君は笑って答えた。

「うちに比べたらはるかにましだろう?」

彼はいとこ婚もついてるものね。

「挙式はいつごろの予定なんだ?」
「クリスマス頃に予約入れたわ」
「俺達よりはやいのか?」

修司君は驚いていた。

「ごめんね、お先にさせてもらうわ」
「構わないよ」

修司君はそう言ってくれた。

「しかし渡辺班ってのもすごいな」
「そうね」

次々とカップルを幸運の道へと導いていく。

「今日から合宿なんですって?」
「ああ、毎年恒例らしい」
「私達はそれどころじゃなかったわね」
「そうだな」

その後は思い出話に浸る。
悟君の事も出てくるけど、今は悲しくない。もう過去の思い出として受け入れられてる。
食事を終えると、修司君が「この後どうする?」と聞いてきた。

「お互いパートナーが楽しんでるんだしもう一件くらい付き合うわよ」
「大人は大人でたのしみますか?」

そう言って夜の街を楽しんで帰った。

(5)

「ふぅ~」

体を洗って湯舟に浸かる。
すると片桐先輩が隣に来た。

「話はきいたよ。おめでとう」
「ありがとうございます」

渡辺班皆が知ってる事んだろうな。
皆が「おめでとう」と言ってくれた。

「おめでとうと言えば片桐先輩もですよ!試合みてましたよ」
「ああ、あれね」

そういって片桐先輩は笑う。

「夢中だったから覚えていないんだ。とにかく勝つことが目標だったからね」
「あんな巨体相手によく勝てましたね」
「バスケは一人でやるものじゃないから」
「でも先輩一人の独壇場だったじゃないでですか?」
「そんなことないよ、聖人が言ってたろ?『皆が動いてくれてパスが出しやすかった』って。相手はセンター一人だったからね。守りやすかったよ」
「冬夜は別格なのさ。で、どうなんだ?アジア選手権。勝たないとお前目標達成できないんだろ?」

渡辺先輩が言うと片桐先輩は笑って答えた。

「どうなるか分からないよ。でも勝つつもりだよ」
「頑張れよ、応援くらいしかできないけど」
「それだけで十分だよ。ありがとう」
「そこまでやれるのにどうしてプロにならないんですか?」

俺は片桐先輩に聞いていた。

「代表のマネージャーにも言われたよ。真面目に勉強する必要もないだろう?って」
「で、その回答は?」

渡辺先輩が聞いた。

「答えなかった。目的を言ったら絶対もめると思ったから」
「そりゃそうだろうな?」
「プロにならなくてもバスケは続けるよ。その為の就職希望も決めてあるんだ」
「ほう、そこまで考えていたとわな」
「言い方変えたら、姑息な手かな。しかも安定した収入が入る」
「どこに行きたいんだ?」
「地元銀行、企業チームがあるらしいんだ」
「なるほどな。そういう事なら檜山先輩もいるし。問題ないんじゃないか?」
「檜山先輩地元銀行以外の就職先目指してるみたいだし」
「それなんだけどな……」

檜山先輩がやってきた。

「実は俺地元銀行に勤めようと思ってるんだ」
「あれ?家は継がないんじゃ?」
「親の七光りで就職したと思われるのもイヤだしな。俺自身も実力で就職したかった。でも父さんが倒れて考え方ちょっと変わってな。咲良に楽させてやりたいし」
「そうなんですね」
「まあ、一から頑張るよ」
「……そう決めたのなら頑張って」
「ありがとう」

片桐先輩と檜山先輩の話を黙って聞いてた。
どうやら、渡辺班のご利益は恋愛だけじゃないらしい。

(6)

「ふぅ~」

体を洗って湯舟につかると吐息がもれる。
今日も疲れたな~。
この後みんなでまた騒ぐんだろうな~。
そんな事を考えていると白鳥さんがやってきた。

「隣良いですか?」
「どうぞ」

白鳥さんは隣に座る。

「どうしたの?」
「遠坂さん、恋愛の終着点てどこにあるんですか?」

ほえ?

「また哲学的な事考えてるのね、白鳥さんは」
「普通に考えたら結婚じゃないですか~」

咲良さんと深雪さんがやってきた。

「それは違うような気がする。だとしたら晴斗バツイチだし」
「晴斗君と何かあったの?」
「晴斗の友達と話をしていたんです。そしたら女性の友達は『最後までやったの?』って言うから、最後てどこなんだろう?って」

私達はそれを聞いて大笑いしてた。
そんな事で悩んでたんだね。

「どしたどした?なんか面白い話?」
「私達にも聞かせろよ?」

皆がやってきた。
私は白鳥さんが言ったことを伝えた。
皆大笑いしてた。

「それは恋愛の終着点のことをいってるんじゃないよ」

亜依が言った。

「じゃあ何の最後なんですか?」

白鳥さんが不思議そうに聞く?

「そうね~。白鳥さんは晴斗とキスしたの?」
「手を繋いだだけで晴斗動揺するんですよ。まだです」
「動揺したのは晴斗君だけ?」

私が聞いてみた。
白鳥さんの顔は紅潮していた。

「私も……若干動揺してましたね」

心臓がどきどきしていたという。

「まずはそこからだね」

亜依が言う。

「その続きがあるんですか?」

白鳥さんが聞くと皆は頭を捻る。
私が答えてあげた。

「晴斗君に光を示してもらえたんでしょ?」
「そうですね」
「じゃあ、晴斗君に任せたらいいよ。きっと終着点に連れて行ってくれる」
「そうでしょうか?」
「間違いないから。私達がアドバイスできるのはそれだけだよ。後は2人で道を作っていかなきゃ」
「わかりました。ありがとうございます」
「それにしてもあいつって意外と純粋なんだね?」

咲が言う。

「今回はマジって言ってたしな」

神奈が言う。

「まさか、最後まで行ったことないのかな?」

亜依が言うと白鳥さんが答えた。

「それはないらしいです。女性の友達が言ってました『晴斗の初めての相手は私』だって」

皆静まり返る。
それは嵐の前の静けさのように。
そして突然皆が騒ぎ出す。

「明日は徹底的にしつけないといけないわね」
「でも、晴斗の歳なら当たり前なんじゃない?白鳥さんが稀有なケースであって」
「そうですね~……そのくらいでおたおたするような年頃じゃないでしょ」
「でも、普通彼女の前でそんな事言う?」

皆がわいわいやってると白鳥さんが聞いてきた。

「あの。皆さんは最後とやらまで行ったんですか?」

皆が回答に苦しむ。

「そ、そりゃ結婚までしてるしな」
「白鳥さんは白鳥さんのペースでいいのよ」
「まあ、晴斗の軟弱な根性叩き直してやるから」

白鳥さんはまだわかっていないらしい。

「時にきくけど、ひょっとして白鳥さん子供を作る方法知ってる?」
「知ってますよ。精子と卵子がくっつくんでしょ?」
「その方法は?」
「体外受精とか言う方法もあるそうだけど、結婚したら自動的に受精するんじゃないですか?」

皆はどう返していいか分からなかった。
美嘉さんが言う。

「こりゃ今夜はみっちりと、男女の関係ってやつをおしえてやらねーとな」
「男女の関係……。ただの恋人じゃないの?」
「夜きっちり教えてやるよ。覚悟しとけ」

神奈が言うと皆が笑う。
一人不思議そうな顔をしてる白鳥さん。
こんな子いるんだな。
私も人の事言えないけど。
夜はまだ続く。
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