261 / 442
4thSEASON
暁の冬夜
しおりを挟む
(1)
朝起きると寝てる雄一郎をそのままにしておいて部屋を出る。
ホテルを出ると。何人かがジョギングしてる。
その中の一人聖人に声をかけた。
「うぃーっす」
「お、冬夜おっす」
聖人に並走して走る。
「いよいよ今日だな」
聖人は走りながら話しかけてくる。
「そうだね」
「コンディションはどうだ」
「出たい気持ちでいっぱいだけどね」
「心配しなくてもお前の出番は必ずあるさ」
「だといいね」
心配なのは今回も公式戦でないから出さないと言い出さないか?
午前中の練習でアピールする必要がある。
それは他の選手も同じ。
負けてられない。
ジョギングを済ますと朝食にありつく。
朝食を食べるとバスに乗りアリーナに移動。
第2コートを使って練習する。
大学の監督に言われた事。
とにかく動いてパスを受け取りに行ってやること。
相手のディフェンスをかわしてフリーになり聖人のパスを受けとり、素早くフリーの味方を探しパスを出す。
ディフェンスが追い付いてこない場合は思い切ってシュートを打つ。
とにかく動いて監督にアピールする。
すると監督に言われた言葉
「焦るな冬夜!今からスタミナ切れとか言われたら困る!」
そうしてコートから下げられた。
「らしくねーぞ冬夜。何をそんなに焦ってるんだ?」
雄一郎が言う。
「……いつでもスタメンの椅子が空けられてると思うなと言ったのは雄一郎だろ?」
だったらアピールしておかねーと。
「練習中に怪我することだってあるかもだろ?お前は単に焦り過ぎだ。いつも通りの練習でいいんだよ」
午前の練習が終わると昼食を食べてミーティング。
いよいよ今日のスタメンが発表される。
スタメンにあげられていた。
胸をなでおろす。
聖人が肩をぽんと叩く。
「だから心配するなと言ったろ?」と聖人が言う。
試合まで時間がある。
どうする?練習しておいた方が良いのか?休んでおいた方が良いのか?
「冬夜、ちょっとついて来いよ」
聖人たちが呼ぶ。
聖人たちについて行く。
その先にあるのは今日のアリーナだった。
カメラの設置やら。会場の設営がされている。
「気持ち昂るだろ?」
「うん」
今日ここでプレイするんだ。
胸が高鳴る。
テンション上がってきた。
「落ち着け、初めて試合に出るわけじゃないんだろ?」
彩(ひかる)が言う。
「まあ、2度目じゃしょうがないさ。冬夜をここに連れて来たのはお前にプレッシャーを与える為じゃない。このコートの広さよく覚えておけ」
「うん」
「いつでもイメージできるようにしておけ。コートはこれだけ広いんだ。お前はこの広いコートで自由に暴れて良いんだ」
「わかった……」
「そろそろ戻ろうか」
そう言って控室に戻る
瞑想する人、本を読んでる人、体を動かしている人。色んな人がいる。
僕もベンチに座って静かに目を閉じる。さっき見たコートの風景をイメージする。そしてDVDで見た相手チームの動き、それに対してどう対処すればいいか。イメージする。
監督が控室に入ってきた。
皆が立つ。気づかない僕は一人自分の世界に入っていた。
「冬夜、出番だぞ」
聖人が僕の頭を叩く。
僕は立ち上がる。
「じゃあ、新生チームの実力を見せつけてやろう」
監督が言うとスタッフの人にタッチして控室を出た。
(2)
「うぃーっす、今着いたっすよ」
30分前から車が止まっていたのは気づいていた。
「今から降りる」
マンションをでると彼の車の助手席側のドアをノックする。
「さて、どこで見るかっすね!?」
「そうね」
車で見るとは言ったものの、車を止める場所がない。
私の家はいつ親が来るか分からない。
だとすれば……。
「あなた一人暮らし?」
「そうっすけど?」
「あなたの家で見るのはどう?」
我ながら大胆な発言をしたといった。
「それはまずいっすよ。付き合って間もない女を家に招くなんてできないっす」
妙なところには気を回すのね。
「心配いらないわ。あなたが何かするとは思えないから」
「んじゃコンビニで昼飯かってからっすね」
そう言うとコンビニでお惣菜やおにぎりカップラーメン、お菓子にジュースにお茶と色々買ってた。
彼の家は地元大の近所にあった。
木造アパート2階建て。
彼の家は2階にあった。
中を見て呆然としてた。
色々置物は多かったけど整然と整理されている。
掃除も細まめにかけてる様だ。
彼はテレビをつける。ちょうど試合前の様子が映し出されていた。
「冬夜先輩なら間違いなくスタメンすよね」
「そうね」
冬夜先輩のプレイを見たことは無いけど。
男一人暮らしの家に遊びに行ったと言ったら親はどう思うだろう?
更なる圧力をかけてくるに違いない。
けど渡辺班は大丈夫だという。
今は私が変わる時。
意を決して彼の家に上がり込んだ。
彼はテーブルの上にコンビニで買ってきた物を広げる。
「春奈はおにぎりとサンドイッチどっちがいいすか?」
「どっちでもいい」
「じゃ、俺カツサンドとおにぎりもらうっすね……あ。」
彼は立ち上がると水屋からコップを取り出してもってくる。
「ジュース飲むの必要っすよね」
「私は紅茶でいいわ」
「わかった」
そうして昼ごはんを食べていると、片桐さんがコートに入る。
不思議な事をしていた。
コートにしゃがみ床に手を付けてお祈りしている。
それが数秒続くと片桐さんはコートに入る。
片桐さんの相手は身長が高い。
勝負になるのか?
片桐さんの試合を見たことがある人なら問題ないとわかるのだろう?
だけど私は初めてだ。
カップラーメンを食べ終えた彼はごみを捨てに行く。
きちんと分別してあるようだ。
彼の部屋に二人っきりでいる。
そんな生まれて初めての空間に焦る私。
しかし彼はそんな事お構いなしに試合を見ている。
緊張とかしたことないのだろうか?
それとも慣れてる?
不安。
私も遊び友達の一人にすぎないのだろうか?
そんな私の気持ちなど彼は知る由もなく試合を見ている。
「はじまるっすよ」
コートの中央に二人の選手が立つ。
審判がボールを持っている。
白のユニフォームが日本。蒼いユニフォームが台湾。
審判の人がボールを上に放る。
身長の高い台湾の選手がボールを味方に飛ばした。
(3)
私は自分の車で恵美さんの別荘にむかった。
視聴覚室に向かう。
皆集まっていた。
テレビがつけられるともうすでに試合が始まる寸前だった。
「トーヤスタメンに入れたみたいだぞ!」
神奈がそう言っていた。
皆は私に最前列の席を譲ってくれた。
シュート練習している冬夜君が映し出されている。
白いユニフォームに15番のゼッケン。
冬夜君は相手を気にしているようだ。
相手コートを見ながらシュートしてる。
それが入っているんだから凄い。
どういう理屈なんだろう?
そして練習が終わるとベンチに集まっている。
「いよいよですね」
海未ちゃんが言った。
まずは日本代表から名前が呼ばれる。
冬夜君は2番目に呼ばれた。
冬夜君の様子がおかしい。
コートに入る前にしゃがんでコートに触れている。
どうしたの?
まさかここにきて怪我?
そんな不安がよぎる。
その後何事も無かったかのようにコートに入った。
何かのおまじないなのかな?
整列すると握手する。
そして配置につく。
冬夜君の相手は冬夜君よりも身長が高い。
まあ、低い人の方が珍しいんだけど。
ジャンプボールに挑む人も日本代表の方が低い。
ジャンプボールが放られる。
試合が始まる。
(4)
シュート練習をしていた。
相手のセンター身長高いなあ。
こりゃゴール下きついだろうな。
「冬夜ちゃんとシュート練習に集中しろ!」
ゴールなんか見てなくても移動するわけじゃないんだし入るでしょ?
そういやバスケのゲームでゴールが動き出す奴あったっけ?
そんな事を考えながらシュート練習をしていた。
両チームのブースターが応援歌を歌い始める。
不思議と緊張は無かった。
アリーナは他人で埋め尽くされていたけど、聖人が言った通り目を閉じて誰もいない広いコートをイメージする。
そこで台湾チームとの試合展開をイメージする。
自分の世界に入っていくのが分かった。
「冬夜時間だぞ」
聖人が言う。
ベンチ前に集まる。
「自分たちのバスケが出来るかが勝負のカギだ。相手ペースに飲まれるな」
「っす!」
「じゃあ、勝ってこい!」
「っしゃあ!」
掛け声を出すとベンチに座る。
まず日本側から名前を呼ばれる。
僕の名前は2番目に呼ばれた。
コートに入る際床にちょこんと手を売れる。
会場内のどよめきが聞こえる。しかし僕はコートのイメージをしっかりモテた。大丈夫だ。今日はいける。
コート内に入る。
10人そろうと相手選手に握手する。
そして配置につく。
相手選手のセンターは背が高い、実際に目の当たりにするとそれが良く分かる。
ジャンプボールが放られる。
相手のセンターが悠々と味方にパスをだす。
相手ポイントガードがパスを受け取ると……速攻に来ない。
僕達はゾーンを組む。
相手センターがゴール下に入ると同時にポイントガードがセンターにボールを放る。
その瞬間僕はジャンプしてボールをカットする。
長身のセンターがいるチームが良くやる戦術だ。
カットすると相手PGを躱してドリブルで相手コートに入る。
高速モーションで3Pを決める。
味方ブースターから歓声が沸き起こる。
相手はあくまでもゆっくりと自陣エリアに侵入する。
サイドにパスを送る相手PG。
だがそれもお見通し。
今日は集中できてる。
すぐにカットしてドリブルして3Pを決める。
「ナイスシュート」
聖人とタッチするとディフェンスに着く。
相手は最初からサイドを狙う。
僕相手にするときの定石の方法だ。
だが両サイドにも雄介と聖人がいる。
上からのパスは無理と判断したのだろう。
相手はバウンドパスでセンターにパスを送る。
相手センターはそのパスを受け取るとターンしてダンクを決める。
その際彩が吹き飛ばされる。
「俺を止めることは無理」
そんな事を言っていたのだろうか?
彩はファールをとられ2点取られた上にさらにフリースローで1点取られる。
聖人にボールが渡ると相手はゾーンで僕達を迎え撃つ。
聖人はにやりと笑って僕にボールを渡す。
ボールを受け取ると相手がブロックに飛ぶ前に3Pを決める。
監督から指示が飛ぶ。
「無理にブロックに跳ぶな相手に飛ばせない様に積極的にディフェンスして行け」
相手の攻撃は至ってシンプル。
センターにパスを通してシュートを決める。
確実に2点を取っていく。
無理にブロックに跳んでカウントワンスローを取られることを監督は嫌ったのだろう。
試合ペースは相手がつかんでいた。
スローペースでじっくりと点を取っていく。
ただ相手の誤算は僕に3Pを打たせると間違いなく決める事だった。
ゾーンが広がる。
相手のディフェンスの特徴。
シュートを打とうとするとブロックに跳ぶというよりは僕の視界を遮ってシュートを外すのを狙っているかのように見えた。
だけど僕の打点は高く、そして誰よりも早く打点に到達する。それに視界を遮られてもゴールの位置は把握できてる。
試合前にイメージした通りだ。
何度も言うけどゴールは動かない。
僕は第1Qで3Pを15本決めた。
点差は一気に広がった。
第2Q
試合は第4Qまであって1Q10分で行われる。
第2Qが終わると15分の休憩がある。
また1Qが終わると2分のインターバルがある。
その第2Qで相手は守備を変えてきた。
僕にマンツーで守備がつき、残りの4人でゴール下を固める。
僕が韓国戦であまり出なかったのが幸いだったのか僕のプレイを研究してなかったようだ。
一人マンツーがついたくらいじゃ僕の3Pは止まらない。
相手の攻撃は相変わらずセンター任せの攻撃だった。
しかし相手センターを止めることができない。
相手のディフェンスがさらに変わる。
「もっと広がれ!ゴール下は俺一人で十分だ」
そんな事を相手センターが叫んだのだろう。
徹底的に3Pを打たせないスタイルだ。
それでも聖人は僕にパスを通してくる。
ゾーンじゃ僕の3Pを止められない。
あざ笑うように僕の3Pは決まっていく。
3点と2点、差は広がる一方。
相手の監督が何か叫んでいる。
ディフェンスがまた変わった。
マンツーのハーフコートプレス。
聖人に2人つく、そして僕にも一人。
聖人は空いてる一人、彩(ひかる)にパスを通す。
彩がレイアップを決めようとすると相手センターが飛ぶ。
それを見越して空中で僕にボールをよこす。
僕がフリースローラインからジャンプする。相手センターは凄い。すぐに僕にブロックに跳ぶ。
僕は身を反転させてボールを持ち替えセンターを躱す。
そしてダンクを決める。
味方ブースターが盛り上がる。
相手センターにはショックだったようだ。
それから相手センターの動きに精彩が欠けた。
シュートを落すだけならいいがファールも重ねていく。
第2Qが終わる頃には相手センターは3つのファールをとられていた。
あと1個ファールをとられたら積極的なプレイは厳しくなる。
5個ファールをとられたら退場だから。
日本代表の大量リードで前半を終えた。
(5)
「トーヤ敵なしだな!」
そうだね!
試合を見ていた皆興奮していた。
前に和人さんが言っていた。
冬夜の攻撃は一番敵に回したくない相手だと。
「まさかあのデカい選手を躱してダンクするとは思わなかったよ」
渡辺君が言う。
身長差なんて冬夜君には関係ない。
人並外れたジャンプ力とボディバランスがあるのだから。
「でも相手のでかいのを止めないとこっちも攻撃受けっぱなしなんじゃない?」
「そういう作戦なんだよ」
恵美の疑問に私が解説する。
「どういうこと?」
「日本はシーソーゲームになるのが理想なの。冬夜君は確実にシュート決めてくるからそれさえ止められなければシーソーゲームでも点差は広がっていくの。それに……」
「それに?」
晶さんが聞き返す。
「相手センター、冬夜君にダンク決められたので動揺してるみたい。シュート率も落ちてるしファールもとられてる。あと2つファール取られたら退場だから。前半みたいに積極的にはプレイできない」
テレビの解説も同じような事言ってた。
「この分だと合宿は祝勝会もかねてだね!」
亜依が言うと渡辺君が「そうだな」と言った。
「でも……。この前みたいに片桐先輩にラフプレーなんてないですよね?」
海未ちゃんが言う。
「大丈夫だよ、今回はホームゲームなんだし。審判も第3国の審判なんだから。公平にファール取ってくれるよ」
亜依が言うと海未ちゃんは安心したようだ。
「あとは片桐先輩が怪我しないことを祈るだけですね」
「後半交代あるかもね。ここで怪我したらシャレにならないし」
未来さんと亜依がそう話す。
「後半始まるぞ」
丹下先生が言う。
テレビを見ると選手がぞろぞろとコートに出てきた。
(6)
「冬夜はやはりマンツーの一人じゃ抑えられないな」
赤井先輩が言う。
大学の視聴覚室を借りて見ていた。
「片桐先輩には2枚3枚とディフェンスをつけないとダメです。積極的にプレスをしいていかないと。先輩を飛ばせたらノーマーク同然です」
「しかし冬夜一人だけの日本代表じゃない」
佐(たすく)が言う。
「皆さん良く試合を見ていてください。これが片桐先輩を使ったゲーム展開の理想です」
「第3Qはじまるぞ」
藤間先輩が言う。
テレビを見てると選手がコートに戻ってきた。
ジャンプボールが放られる。
試合展開は、視界開始直後に日本に傾いた。
ボールを受け取った選手が3Pライン上に立つと慌てて3Pを打つ。
まだ、台湾のセンターがリバウンドの位置についてないのに。
3Pは外れる。
慌ててリバウンドを拾おうとする台湾のセンター。
しかし日本代表のボックスアウトに阻まれて取りに行けない。
ピー!
「青4番ファール!」
これでセンターは4つ目のファールとなった。
ペースは日本の方に傾いてきた。
センターの戻りが遅い。
その間に速攻を決める日本。
攻撃もセンターが遅い。
前半動きすぎた?
足取りが重い。
こうなるとインサイドも日本が優勢になってくる。
相手の得点はないまま日本のワンサイドゲームになってくる。
内から外から好き放題に得点を重ねる日本。
やはりマンツーでは日本の攻撃は止められない。
ないよりキーマンのセンターがゲームに参加できてない。
センターがいるからシュートを外してもいいと思ってた台湾チームも、メンタル的にプレッシャーがかかったのかシュートが入らない。
試合を決定づけたのはやはり片桐先輩だった。
澤選手のふわっとしたパスを空中で受け取るとアリウープをする片桐先輩。
相手センターの上を狙ってダンクが決まった。
「青4番ファール!退場!」
その場に座りこむ相手センター。
片桐先輩はセンターを見下ろすと何か言っていた。
その後はキープレイヤーがいないままの台湾チームに一方的な試合を繰り広げる。
澤選手もダブルチームを軽々と躱してパスを出す。
中を固めると片桐先輩が次々と3Pを決める。
相手監督はタイムアウトを取るが打開策は見つけられず。
結果日本の大勝利となった。
「冬夜を止める方法あるのか?」
佐が言う。
「無いとはいいきれませんね。世界は広いし。片桐先輩を止める選手が現れた時の試合も想定するべきだと思います。だから第4Qは色んなフォーメーションの確認にでたんでしょう」
「なるほどな」
「この試合で各国は片桐先輩に注目を置くでしょう。マークされるはずです。対策だって練ってくるはず」
「そうだろうな」
「まあ、何にしろ。冬夜が戻ってきたら祝勝会開いてやらないとな!」
藤間先輩が言う。
「そうですね」
だけどマネージャーの私にはまだやることがある。
この試合での先輩の欠点を見つけてアドバイスしてやること。
欠点がないように見えるが終盤のプレイが雑に見えた。
集中力が明かに途切れてる。
先輩はゾーンに入ると敵なしだ。だけどそれが切れると途端に雑になる。
あとは先輩を押さえられた時のメンタルの保持。
それを鍛える方法があればいいのだが。
それは東山監督が考えてくれるだろう。
私の荷が軽くなった。
それはチームとしてはいいことなのかもしれない。
だけど何とも言えない空虚感があった。
(7)
スマホが鳴る。
渡辺班のメッセージだ。
「日本代表が勝った」
片桐先輩流石だな。
「こっちよ」
原田さんが呼んでいる。
小松石のお墓が立っている。
取りあえず手を合わせて拝む。
その後墓を洗い、買ってきた花を飾りロウソクをつけ線香をたてる。
「……彼は大雑把で大胆な人でね。いろんなコンペに作品を出展しては賞を掻っ攫っていたわ。お蔭でうちの会社はてんてこまい」
「……そうだったんですね」
「そんな彼の残した仕事ももうすぐ終わる。それが終わったら……彼のもとに行こうと思ってた」
俺は不安になった。まさかまだ考えているんじゃ……。
「悟さん、彼が私の新しいパートナーよ。もう私一人じゃない。私を守ってくれる人がいるからもう行くね。今までありがとう……」
原田さんは、そういうと手を合わせる。
「どうか安らかに眠って。私は大丈夫だから」
しばらく立ち尽くしていた。
黒いスーツを着て祈る二人。
すいません、彼女の事は後は俺が見ます。
そう祈った。
「じゃ、行きましょうか」
「……そうですね
桶を片付けて車に乗る。
墓を見て気づいた事がある。
誰もお参りに来てる人がいた形跡がない。
「彼とは大学卒業後にすぐ結婚してね。私は一人だった、親も早々に無くしてね。途方に暮れていた私を彼が拾ってくれたの。そんなどこの馬とも知れない女と結婚だなんて大反対されてね。彼家出したの。それ以来彼との家族とは疎遠になってる」
「社長も大変だったんですね」
「真鍋君……」
社長は僕の顔を見て言った。
急に改まってどうしたんだろう?
「会社の中ではともかく、その社長って言う辞めない?」
「あ、すいません。原田さん」
「それも違うかな?だってもうすぐ原田じゃなくなるんでしょ?」
「え!?」
それってまさか……?
「あなたの両親にも挨拶にいかないとね……けどその前にすることがあるわね」
こんなに幸せなことがあっていいんだろうか?
「……まだ言ってくれないの?」
「……俺と結婚してください」
「……はい。じゃあこれからは聡美でおねがいね」
「分かりました」
「年上だと思って遠慮してる?そんなにかしこまらなくてもいいわ。プライベートなんだし」
「……ああ、分かった」
「こんなおばさんでごめんね」
おばさんってまだ20代だろ?
「式はそうね……。冬頃には挙げたいわね」
こんなに大胆な人だったか?
一度打ち解けると自分を曝け出す人なんだな。
「大学卒業するまで待ってもらえないのか?」
「そんなに待ってたら私本当におばさんになるわよ」
そう言って聡美は笑った。
お金貯めておいて良かった。
その後実家に寄って挨拶した。
喪服で来て親は面食らっていたが。
「図々しいお願いではありますがよろしくお願いします」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
親の方が緊張している。
その後着替えると、聡美の家に行って聡美も着替えて指輪を買いに行った。
お金貯めておいて良かった。
その晩は2人でささやかなお祝いをした。
そうして、俺は彼女の家の合鍵をもらった。
彼女のスペースに自由に出入りすることを許された。
(8)
試合皆で盛り上がっていた。
「やったな冬夜大活躍だったじゃないか!」
聖人がそう言ってくれた。
「良いパス来たからね。外すわけには行かないでしょ……それに」
「それに?」
「選ばれてるって緊張感が半端なかった。外せない。ミスできないって」
「プレッシャーを感じてる割にはリラックスしてプレイしてたみたいだけどな」
雄一郎が言う。
「あとでみっちり説教してやりたいところだが……この後記者会見と祝賀会だ」
雄一郎がそう言って笑う。
「ほら、さっさと着替えて会場に急げ!」
雄一郎が言うと皆着替え始めた。
記者会見。
まず監督が質問攻めにあう。
「現チームのポテンシャルはこんなものじゃない。それを引き出すのが私の役割だと思っています」
「まだ強くなるという事ですか?」
「ピークをアジア選手権に持って行けたらと思います。ユニバーシアードのメンバーは大変だと思いますが」
「今回のMVPは片桐選手でしたが?」
「そうですね、彼の3Pはもはや脅威です。放っておくことは出来ません」
「片桐選手に質問しても?」
スタッフが「どうぞ」という。
「今回初めてフル出場しましたがどうでしたか」
「自分の役割果たせてよかったです」
「MVPに輝いた感想は」
「嬉しいです」
「今後の目標は?」
「5月末の李相佰盃ですね。是非スタメン入りしたいです」
「選抜には選ばれてるんですね」
「そう聞いてます」
「頑張ってください」
その後他のメンバーに質問がいったが、どれも僕がらみの質問だった。
会食。
ビュッフェスタイルのパーティ。
お酒も許されている。
食べることに集中したけど。
「片桐選手ちょっといいですか」
はい?
みると相手センターの人が立っていた。
通訳を交えて話をした。
「俺が退場するときなんて言ったんだ?って聞いてます」
ああ、あれね?
「バスケは一人でするもんじゃないよ?って言ったんです」
通訳の人が話をする。
彼は笑っていた。
「お前ひとりでゲームを支配しておいて良く言うなと言ってます」
彼の話はまだ続く。
「アジア選手権ではこうはいかないから覚悟しておけ。そう言ってます」
「楽しみにしてる。と伝えてください」
通訳の人が話をする。
彼はにやりと笑うと握手を求めてきた。
彼と握手する。
彼は去っていた。
代わりに佐古下さんが来た。
「お取込み中のところ悪いんだけど取材いいかしら?」
「大体の事は会見で喋りましたけど?」
「ずっと見てたけどプロに転向する意思はないの?」
「……今は大学生活に大忙しです」
「そのあとは?」
「……その時決めます」
皆との約束の事は伏せておいた。
今はまだ言うべきことではないと思ったから。
「世界の強豪とやり敢えてどう感じた?」
「やっぱりプレッシャーはありましたね?」
「……私の率直な意見をいわせてもらうわね」
なんだろう?
「あなたに欠けているもの。それは緊張感よ。プレイが凄く雑になってる。あなたを止めるものがいないからかもしれないけど。対策された時の事も考えてプレイしないと」
ワンマンプレイになっていると言いたげなんだろうか?
「でも前よりも積極的にはなってた。そこは良い傾向よ。でもあなたを止める選手はいない。そう思い込んでない?」
「そんなことないですけど?」
「慢心しないで、これからも努力してね」
そう言って佐古下さんは去っていった。
あまり深く考えてもしょうがない。
とりあえず食べよう。
会食が終わるとすぐに羽田空港に向かった。
ギリギリ間に合った。
地元空港に着くと大勢の報道陣が集まっている。
それをかき分けると愛莉が立っていた。
「おかえり」
愛莉はそう言って手を取ると駆け出す。
車に荷物を積むと僕は助手席に座った。
「ごめん、お酒飲んだから」
「は~い、ちゃんと安全にお届けしますね」
そう言って愛莉は運転を始める。
「冬夜君今日カッコよかったよ」
「そうか?」
「うん」
眠いのを堪えて必死に愛莉の話を聞いていた。
「また明日からテレビ大変だね」
「もう慣れたよ」
「そうだよね。もう何度もあったもんね」
「愛莉こそ大変だぞ」
僕はそう言って笑った。
「どうして?」
「僕の彼女って言ってしまったじゃないか」
「あ、そうか。亭主に恥かかせるわけには行かないよね!」
そこまでは考えなくていいと思うけど。
「後半は遊べるんでしょ?」
「まあ、調整はしないといけないと思うけど」
「そうだよね、合宿には行くんでしょ?」
「そのつもりだよ」
「楽しみだね」
家に帰りつくとお土産を愛莉の家に届けて家に帰る。
親にお土産を渡してシャワーを浴びると部屋に帰ってベッドに寝転がった。
疲れが一気にやってきて眠りこけてしまう。
ぽかっ
僕何か悪いことしたか?
「3日分構ってよ~」
僕の試合はまだ終わらないようで。
朝起きると寝てる雄一郎をそのままにしておいて部屋を出る。
ホテルを出ると。何人かがジョギングしてる。
その中の一人聖人に声をかけた。
「うぃーっす」
「お、冬夜おっす」
聖人に並走して走る。
「いよいよ今日だな」
聖人は走りながら話しかけてくる。
「そうだね」
「コンディションはどうだ」
「出たい気持ちでいっぱいだけどね」
「心配しなくてもお前の出番は必ずあるさ」
「だといいね」
心配なのは今回も公式戦でないから出さないと言い出さないか?
午前中の練習でアピールする必要がある。
それは他の選手も同じ。
負けてられない。
ジョギングを済ますと朝食にありつく。
朝食を食べるとバスに乗りアリーナに移動。
第2コートを使って練習する。
大学の監督に言われた事。
とにかく動いてパスを受け取りに行ってやること。
相手のディフェンスをかわしてフリーになり聖人のパスを受けとり、素早くフリーの味方を探しパスを出す。
ディフェンスが追い付いてこない場合は思い切ってシュートを打つ。
とにかく動いて監督にアピールする。
すると監督に言われた言葉
「焦るな冬夜!今からスタミナ切れとか言われたら困る!」
そうしてコートから下げられた。
「らしくねーぞ冬夜。何をそんなに焦ってるんだ?」
雄一郎が言う。
「……いつでもスタメンの椅子が空けられてると思うなと言ったのは雄一郎だろ?」
だったらアピールしておかねーと。
「練習中に怪我することだってあるかもだろ?お前は単に焦り過ぎだ。いつも通りの練習でいいんだよ」
午前の練習が終わると昼食を食べてミーティング。
いよいよ今日のスタメンが発表される。
スタメンにあげられていた。
胸をなでおろす。
聖人が肩をぽんと叩く。
「だから心配するなと言ったろ?」と聖人が言う。
試合まで時間がある。
どうする?練習しておいた方が良いのか?休んでおいた方が良いのか?
「冬夜、ちょっとついて来いよ」
聖人たちが呼ぶ。
聖人たちについて行く。
その先にあるのは今日のアリーナだった。
カメラの設置やら。会場の設営がされている。
「気持ち昂るだろ?」
「うん」
今日ここでプレイするんだ。
胸が高鳴る。
テンション上がってきた。
「落ち着け、初めて試合に出るわけじゃないんだろ?」
彩(ひかる)が言う。
「まあ、2度目じゃしょうがないさ。冬夜をここに連れて来たのはお前にプレッシャーを与える為じゃない。このコートの広さよく覚えておけ」
「うん」
「いつでもイメージできるようにしておけ。コートはこれだけ広いんだ。お前はこの広いコートで自由に暴れて良いんだ」
「わかった……」
「そろそろ戻ろうか」
そう言って控室に戻る
瞑想する人、本を読んでる人、体を動かしている人。色んな人がいる。
僕もベンチに座って静かに目を閉じる。さっき見たコートの風景をイメージする。そしてDVDで見た相手チームの動き、それに対してどう対処すればいいか。イメージする。
監督が控室に入ってきた。
皆が立つ。気づかない僕は一人自分の世界に入っていた。
「冬夜、出番だぞ」
聖人が僕の頭を叩く。
僕は立ち上がる。
「じゃあ、新生チームの実力を見せつけてやろう」
監督が言うとスタッフの人にタッチして控室を出た。
(2)
「うぃーっす、今着いたっすよ」
30分前から車が止まっていたのは気づいていた。
「今から降りる」
マンションをでると彼の車の助手席側のドアをノックする。
「さて、どこで見るかっすね!?」
「そうね」
車で見るとは言ったものの、車を止める場所がない。
私の家はいつ親が来るか分からない。
だとすれば……。
「あなた一人暮らし?」
「そうっすけど?」
「あなたの家で見るのはどう?」
我ながら大胆な発言をしたといった。
「それはまずいっすよ。付き合って間もない女を家に招くなんてできないっす」
妙なところには気を回すのね。
「心配いらないわ。あなたが何かするとは思えないから」
「んじゃコンビニで昼飯かってからっすね」
そう言うとコンビニでお惣菜やおにぎりカップラーメン、お菓子にジュースにお茶と色々買ってた。
彼の家は地元大の近所にあった。
木造アパート2階建て。
彼の家は2階にあった。
中を見て呆然としてた。
色々置物は多かったけど整然と整理されている。
掃除も細まめにかけてる様だ。
彼はテレビをつける。ちょうど試合前の様子が映し出されていた。
「冬夜先輩なら間違いなくスタメンすよね」
「そうね」
冬夜先輩のプレイを見たことは無いけど。
男一人暮らしの家に遊びに行ったと言ったら親はどう思うだろう?
更なる圧力をかけてくるに違いない。
けど渡辺班は大丈夫だという。
今は私が変わる時。
意を決して彼の家に上がり込んだ。
彼はテーブルの上にコンビニで買ってきた物を広げる。
「春奈はおにぎりとサンドイッチどっちがいいすか?」
「どっちでもいい」
「じゃ、俺カツサンドとおにぎりもらうっすね……あ。」
彼は立ち上がると水屋からコップを取り出してもってくる。
「ジュース飲むの必要っすよね」
「私は紅茶でいいわ」
「わかった」
そうして昼ごはんを食べていると、片桐さんがコートに入る。
不思議な事をしていた。
コートにしゃがみ床に手を付けてお祈りしている。
それが数秒続くと片桐さんはコートに入る。
片桐さんの相手は身長が高い。
勝負になるのか?
片桐さんの試合を見たことがある人なら問題ないとわかるのだろう?
だけど私は初めてだ。
カップラーメンを食べ終えた彼はごみを捨てに行く。
きちんと分別してあるようだ。
彼の部屋に二人っきりでいる。
そんな生まれて初めての空間に焦る私。
しかし彼はそんな事お構いなしに試合を見ている。
緊張とかしたことないのだろうか?
それとも慣れてる?
不安。
私も遊び友達の一人にすぎないのだろうか?
そんな私の気持ちなど彼は知る由もなく試合を見ている。
「はじまるっすよ」
コートの中央に二人の選手が立つ。
審判がボールを持っている。
白のユニフォームが日本。蒼いユニフォームが台湾。
審判の人がボールを上に放る。
身長の高い台湾の選手がボールを味方に飛ばした。
(3)
私は自分の車で恵美さんの別荘にむかった。
視聴覚室に向かう。
皆集まっていた。
テレビがつけられるともうすでに試合が始まる寸前だった。
「トーヤスタメンに入れたみたいだぞ!」
神奈がそう言っていた。
皆は私に最前列の席を譲ってくれた。
シュート練習している冬夜君が映し出されている。
白いユニフォームに15番のゼッケン。
冬夜君は相手を気にしているようだ。
相手コートを見ながらシュートしてる。
それが入っているんだから凄い。
どういう理屈なんだろう?
そして練習が終わるとベンチに集まっている。
「いよいよですね」
海未ちゃんが言った。
まずは日本代表から名前が呼ばれる。
冬夜君は2番目に呼ばれた。
冬夜君の様子がおかしい。
コートに入る前にしゃがんでコートに触れている。
どうしたの?
まさかここにきて怪我?
そんな不安がよぎる。
その後何事も無かったかのようにコートに入った。
何かのおまじないなのかな?
整列すると握手する。
そして配置につく。
冬夜君の相手は冬夜君よりも身長が高い。
まあ、低い人の方が珍しいんだけど。
ジャンプボールに挑む人も日本代表の方が低い。
ジャンプボールが放られる。
試合が始まる。
(4)
シュート練習をしていた。
相手のセンター身長高いなあ。
こりゃゴール下きついだろうな。
「冬夜ちゃんとシュート練習に集中しろ!」
ゴールなんか見てなくても移動するわけじゃないんだし入るでしょ?
そういやバスケのゲームでゴールが動き出す奴あったっけ?
そんな事を考えながらシュート練習をしていた。
両チームのブースターが応援歌を歌い始める。
不思議と緊張は無かった。
アリーナは他人で埋め尽くされていたけど、聖人が言った通り目を閉じて誰もいない広いコートをイメージする。
そこで台湾チームとの試合展開をイメージする。
自分の世界に入っていくのが分かった。
「冬夜時間だぞ」
聖人が言う。
ベンチ前に集まる。
「自分たちのバスケが出来るかが勝負のカギだ。相手ペースに飲まれるな」
「っす!」
「じゃあ、勝ってこい!」
「っしゃあ!」
掛け声を出すとベンチに座る。
まず日本側から名前を呼ばれる。
僕の名前は2番目に呼ばれた。
コートに入る際床にちょこんと手を売れる。
会場内のどよめきが聞こえる。しかし僕はコートのイメージをしっかりモテた。大丈夫だ。今日はいける。
コート内に入る。
10人そろうと相手選手に握手する。
そして配置につく。
相手選手のセンターは背が高い、実際に目の当たりにするとそれが良く分かる。
ジャンプボールが放られる。
相手のセンターが悠々と味方にパスをだす。
相手ポイントガードがパスを受け取ると……速攻に来ない。
僕達はゾーンを組む。
相手センターがゴール下に入ると同時にポイントガードがセンターにボールを放る。
その瞬間僕はジャンプしてボールをカットする。
長身のセンターがいるチームが良くやる戦術だ。
カットすると相手PGを躱してドリブルで相手コートに入る。
高速モーションで3Pを決める。
味方ブースターから歓声が沸き起こる。
相手はあくまでもゆっくりと自陣エリアに侵入する。
サイドにパスを送る相手PG。
だがそれもお見通し。
今日は集中できてる。
すぐにカットしてドリブルして3Pを決める。
「ナイスシュート」
聖人とタッチするとディフェンスに着く。
相手は最初からサイドを狙う。
僕相手にするときの定石の方法だ。
だが両サイドにも雄介と聖人がいる。
上からのパスは無理と判断したのだろう。
相手はバウンドパスでセンターにパスを送る。
相手センターはそのパスを受け取るとターンしてダンクを決める。
その際彩が吹き飛ばされる。
「俺を止めることは無理」
そんな事を言っていたのだろうか?
彩はファールをとられ2点取られた上にさらにフリースローで1点取られる。
聖人にボールが渡ると相手はゾーンで僕達を迎え撃つ。
聖人はにやりと笑って僕にボールを渡す。
ボールを受け取ると相手がブロックに飛ぶ前に3Pを決める。
監督から指示が飛ぶ。
「無理にブロックに跳ぶな相手に飛ばせない様に積極的にディフェンスして行け」
相手の攻撃は至ってシンプル。
センターにパスを通してシュートを決める。
確実に2点を取っていく。
無理にブロックに跳んでカウントワンスローを取られることを監督は嫌ったのだろう。
試合ペースは相手がつかんでいた。
スローペースでじっくりと点を取っていく。
ただ相手の誤算は僕に3Pを打たせると間違いなく決める事だった。
ゾーンが広がる。
相手のディフェンスの特徴。
シュートを打とうとするとブロックに跳ぶというよりは僕の視界を遮ってシュートを外すのを狙っているかのように見えた。
だけど僕の打点は高く、そして誰よりも早く打点に到達する。それに視界を遮られてもゴールの位置は把握できてる。
試合前にイメージした通りだ。
何度も言うけどゴールは動かない。
僕は第1Qで3Pを15本決めた。
点差は一気に広がった。
第2Q
試合は第4Qまであって1Q10分で行われる。
第2Qが終わると15分の休憩がある。
また1Qが終わると2分のインターバルがある。
その第2Qで相手は守備を変えてきた。
僕にマンツーで守備がつき、残りの4人でゴール下を固める。
僕が韓国戦であまり出なかったのが幸いだったのか僕のプレイを研究してなかったようだ。
一人マンツーがついたくらいじゃ僕の3Pは止まらない。
相手の攻撃は相変わらずセンター任せの攻撃だった。
しかし相手センターを止めることができない。
相手のディフェンスがさらに変わる。
「もっと広がれ!ゴール下は俺一人で十分だ」
そんな事を相手センターが叫んだのだろう。
徹底的に3Pを打たせないスタイルだ。
それでも聖人は僕にパスを通してくる。
ゾーンじゃ僕の3Pを止められない。
あざ笑うように僕の3Pは決まっていく。
3点と2点、差は広がる一方。
相手の監督が何か叫んでいる。
ディフェンスがまた変わった。
マンツーのハーフコートプレス。
聖人に2人つく、そして僕にも一人。
聖人は空いてる一人、彩(ひかる)にパスを通す。
彩がレイアップを決めようとすると相手センターが飛ぶ。
それを見越して空中で僕にボールをよこす。
僕がフリースローラインからジャンプする。相手センターは凄い。すぐに僕にブロックに跳ぶ。
僕は身を反転させてボールを持ち替えセンターを躱す。
そしてダンクを決める。
味方ブースターが盛り上がる。
相手センターにはショックだったようだ。
それから相手センターの動きに精彩が欠けた。
シュートを落すだけならいいがファールも重ねていく。
第2Qが終わる頃には相手センターは3つのファールをとられていた。
あと1個ファールをとられたら積極的なプレイは厳しくなる。
5個ファールをとられたら退場だから。
日本代表の大量リードで前半を終えた。
(5)
「トーヤ敵なしだな!」
そうだね!
試合を見ていた皆興奮していた。
前に和人さんが言っていた。
冬夜の攻撃は一番敵に回したくない相手だと。
「まさかあのデカい選手を躱してダンクするとは思わなかったよ」
渡辺君が言う。
身長差なんて冬夜君には関係ない。
人並外れたジャンプ力とボディバランスがあるのだから。
「でも相手のでかいのを止めないとこっちも攻撃受けっぱなしなんじゃない?」
「そういう作戦なんだよ」
恵美の疑問に私が解説する。
「どういうこと?」
「日本はシーソーゲームになるのが理想なの。冬夜君は確実にシュート決めてくるからそれさえ止められなければシーソーゲームでも点差は広がっていくの。それに……」
「それに?」
晶さんが聞き返す。
「相手センター、冬夜君にダンク決められたので動揺してるみたい。シュート率も落ちてるしファールもとられてる。あと2つファール取られたら退場だから。前半みたいに積極的にはプレイできない」
テレビの解説も同じような事言ってた。
「この分だと合宿は祝勝会もかねてだね!」
亜依が言うと渡辺君が「そうだな」と言った。
「でも……。この前みたいに片桐先輩にラフプレーなんてないですよね?」
海未ちゃんが言う。
「大丈夫だよ、今回はホームゲームなんだし。審判も第3国の審判なんだから。公平にファール取ってくれるよ」
亜依が言うと海未ちゃんは安心したようだ。
「あとは片桐先輩が怪我しないことを祈るだけですね」
「後半交代あるかもね。ここで怪我したらシャレにならないし」
未来さんと亜依がそう話す。
「後半始まるぞ」
丹下先生が言う。
テレビを見ると選手がぞろぞろとコートに出てきた。
(6)
「冬夜はやはりマンツーの一人じゃ抑えられないな」
赤井先輩が言う。
大学の視聴覚室を借りて見ていた。
「片桐先輩には2枚3枚とディフェンスをつけないとダメです。積極的にプレスをしいていかないと。先輩を飛ばせたらノーマーク同然です」
「しかし冬夜一人だけの日本代表じゃない」
佐(たすく)が言う。
「皆さん良く試合を見ていてください。これが片桐先輩を使ったゲーム展開の理想です」
「第3Qはじまるぞ」
藤間先輩が言う。
テレビを見てると選手がコートに戻ってきた。
ジャンプボールが放られる。
試合展開は、視界開始直後に日本に傾いた。
ボールを受け取った選手が3Pライン上に立つと慌てて3Pを打つ。
まだ、台湾のセンターがリバウンドの位置についてないのに。
3Pは外れる。
慌ててリバウンドを拾おうとする台湾のセンター。
しかし日本代表のボックスアウトに阻まれて取りに行けない。
ピー!
「青4番ファール!」
これでセンターは4つ目のファールとなった。
ペースは日本の方に傾いてきた。
センターの戻りが遅い。
その間に速攻を決める日本。
攻撃もセンターが遅い。
前半動きすぎた?
足取りが重い。
こうなるとインサイドも日本が優勢になってくる。
相手の得点はないまま日本のワンサイドゲームになってくる。
内から外から好き放題に得点を重ねる日本。
やはりマンツーでは日本の攻撃は止められない。
ないよりキーマンのセンターがゲームに参加できてない。
センターがいるからシュートを外してもいいと思ってた台湾チームも、メンタル的にプレッシャーがかかったのかシュートが入らない。
試合を決定づけたのはやはり片桐先輩だった。
澤選手のふわっとしたパスを空中で受け取るとアリウープをする片桐先輩。
相手センターの上を狙ってダンクが決まった。
「青4番ファール!退場!」
その場に座りこむ相手センター。
片桐先輩はセンターを見下ろすと何か言っていた。
その後はキープレイヤーがいないままの台湾チームに一方的な試合を繰り広げる。
澤選手もダブルチームを軽々と躱してパスを出す。
中を固めると片桐先輩が次々と3Pを決める。
相手監督はタイムアウトを取るが打開策は見つけられず。
結果日本の大勝利となった。
「冬夜を止める方法あるのか?」
佐が言う。
「無いとはいいきれませんね。世界は広いし。片桐先輩を止める選手が現れた時の試合も想定するべきだと思います。だから第4Qは色んなフォーメーションの確認にでたんでしょう」
「なるほどな」
「この試合で各国は片桐先輩に注目を置くでしょう。マークされるはずです。対策だって練ってくるはず」
「そうだろうな」
「まあ、何にしろ。冬夜が戻ってきたら祝勝会開いてやらないとな!」
藤間先輩が言う。
「そうですね」
だけどマネージャーの私にはまだやることがある。
この試合での先輩の欠点を見つけてアドバイスしてやること。
欠点がないように見えるが終盤のプレイが雑に見えた。
集中力が明かに途切れてる。
先輩はゾーンに入ると敵なしだ。だけどそれが切れると途端に雑になる。
あとは先輩を押さえられた時のメンタルの保持。
それを鍛える方法があればいいのだが。
それは東山監督が考えてくれるだろう。
私の荷が軽くなった。
それはチームとしてはいいことなのかもしれない。
だけど何とも言えない空虚感があった。
(7)
スマホが鳴る。
渡辺班のメッセージだ。
「日本代表が勝った」
片桐先輩流石だな。
「こっちよ」
原田さんが呼んでいる。
小松石のお墓が立っている。
取りあえず手を合わせて拝む。
その後墓を洗い、買ってきた花を飾りロウソクをつけ線香をたてる。
「……彼は大雑把で大胆な人でね。いろんなコンペに作品を出展しては賞を掻っ攫っていたわ。お蔭でうちの会社はてんてこまい」
「……そうだったんですね」
「そんな彼の残した仕事ももうすぐ終わる。それが終わったら……彼のもとに行こうと思ってた」
俺は不安になった。まさかまだ考えているんじゃ……。
「悟さん、彼が私の新しいパートナーよ。もう私一人じゃない。私を守ってくれる人がいるからもう行くね。今までありがとう……」
原田さんは、そういうと手を合わせる。
「どうか安らかに眠って。私は大丈夫だから」
しばらく立ち尽くしていた。
黒いスーツを着て祈る二人。
すいません、彼女の事は後は俺が見ます。
そう祈った。
「じゃ、行きましょうか」
「……そうですね
桶を片付けて車に乗る。
墓を見て気づいた事がある。
誰もお参りに来てる人がいた形跡がない。
「彼とは大学卒業後にすぐ結婚してね。私は一人だった、親も早々に無くしてね。途方に暮れていた私を彼が拾ってくれたの。そんなどこの馬とも知れない女と結婚だなんて大反対されてね。彼家出したの。それ以来彼との家族とは疎遠になってる」
「社長も大変だったんですね」
「真鍋君……」
社長は僕の顔を見て言った。
急に改まってどうしたんだろう?
「会社の中ではともかく、その社長って言う辞めない?」
「あ、すいません。原田さん」
「それも違うかな?だってもうすぐ原田じゃなくなるんでしょ?」
「え!?」
それってまさか……?
「あなたの両親にも挨拶にいかないとね……けどその前にすることがあるわね」
こんなに幸せなことがあっていいんだろうか?
「……まだ言ってくれないの?」
「……俺と結婚してください」
「……はい。じゃあこれからは聡美でおねがいね」
「分かりました」
「年上だと思って遠慮してる?そんなにかしこまらなくてもいいわ。プライベートなんだし」
「……ああ、分かった」
「こんなおばさんでごめんね」
おばさんってまだ20代だろ?
「式はそうね……。冬頃には挙げたいわね」
こんなに大胆な人だったか?
一度打ち解けると自分を曝け出す人なんだな。
「大学卒業するまで待ってもらえないのか?」
「そんなに待ってたら私本当におばさんになるわよ」
そう言って聡美は笑った。
お金貯めておいて良かった。
その後実家に寄って挨拶した。
喪服で来て親は面食らっていたが。
「図々しいお願いではありますがよろしくお願いします」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
親の方が緊張している。
その後着替えると、聡美の家に行って聡美も着替えて指輪を買いに行った。
お金貯めておいて良かった。
その晩は2人でささやかなお祝いをした。
そうして、俺は彼女の家の合鍵をもらった。
彼女のスペースに自由に出入りすることを許された。
(8)
試合皆で盛り上がっていた。
「やったな冬夜大活躍だったじゃないか!」
聖人がそう言ってくれた。
「良いパス来たからね。外すわけには行かないでしょ……それに」
「それに?」
「選ばれてるって緊張感が半端なかった。外せない。ミスできないって」
「プレッシャーを感じてる割にはリラックスしてプレイしてたみたいだけどな」
雄一郎が言う。
「あとでみっちり説教してやりたいところだが……この後記者会見と祝賀会だ」
雄一郎がそう言って笑う。
「ほら、さっさと着替えて会場に急げ!」
雄一郎が言うと皆着替え始めた。
記者会見。
まず監督が質問攻めにあう。
「現チームのポテンシャルはこんなものじゃない。それを引き出すのが私の役割だと思っています」
「まだ強くなるという事ですか?」
「ピークをアジア選手権に持って行けたらと思います。ユニバーシアードのメンバーは大変だと思いますが」
「今回のMVPは片桐選手でしたが?」
「そうですね、彼の3Pはもはや脅威です。放っておくことは出来ません」
「片桐選手に質問しても?」
スタッフが「どうぞ」という。
「今回初めてフル出場しましたがどうでしたか」
「自分の役割果たせてよかったです」
「MVPに輝いた感想は」
「嬉しいです」
「今後の目標は?」
「5月末の李相佰盃ですね。是非スタメン入りしたいです」
「選抜には選ばれてるんですね」
「そう聞いてます」
「頑張ってください」
その後他のメンバーに質問がいったが、どれも僕がらみの質問だった。
会食。
ビュッフェスタイルのパーティ。
お酒も許されている。
食べることに集中したけど。
「片桐選手ちょっといいですか」
はい?
みると相手センターの人が立っていた。
通訳を交えて話をした。
「俺が退場するときなんて言ったんだ?って聞いてます」
ああ、あれね?
「バスケは一人でするもんじゃないよ?って言ったんです」
通訳の人が話をする。
彼は笑っていた。
「お前ひとりでゲームを支配しておいて良く言うなと言ってます」
彼の話はまだ続く。
「アジア選手権ではこうはいかないから覚悟しておけ。そう言ってます」
「楽しみにしてる。と伝えてください」
通訳の人が話をする。
彼はにやりと笑うと握手を求めてきた。
彼と握手する。
彼は去っていた。
代わりに佐古下さんが来た。
「お取込み中のところ悪いんだけど取材いいかしら?」
「大体の事は会見で喋りましたけど?」
「ずっと見てたけどプロに転向する意思はないの?」
「……今は大学生活に大忙しです」
「そのあとは?」
「……その時決めます」
皆との約束の事は伏せておいた。
今はまだ言うべきことではないと思ったから。
「世界の強豪とやり敢えてどう感じた?」
「やっぱりプレッシャーはありましたね?」
「……私の率直な意見をいわせてもらうわね」
なんだろう?
「あなたに欠けているもの。それは緊張感よ。プレイが凄く雑になってる。あなたを止めるものがいないからかもしれないけど。対策された時の事も考えてプレイしないと」
ワンマンプレイになっていると言いたげなんだろうか?
「でも前よりも積極的にはなってた。そこは良い傾向よ。でもあなたを止める選手はいない。そう思い込んでない?」
「そんなことないですけど?」
「慢心しないで、これからも努力してね」
そう言って佐古下さんは去っていった。
あまり深く考えてもしょうがない。
とりあえず食べよう。
会食が終わるとすぐに羽田空港に向かった。
ギリギリ間に合った。
地元空港に着くと大勢の報道陣が集まっている。
それをかき分けると愛莉が立っていた。
「おかえり」
愛莉はそう言って手を取ると駆け出す。
車に荷物を積むと僕は助手席に座った。
「ごめん、お酒飲んだから」
「は~い、ちゃんと安全にお届けしますね」
そう言って愛莉は運転を始める。
「冬夜君今日カッコよかったよ」
「そうか?」
「うん」
眠いのを堪えて必死に愛莉の話を聞いていた。
「また明日からテレビ大変だね」
「もう慣れたよ」
「そうだよね。もう何度もあったもんね」
「愛莉こそ大変だぞ」
僕はそう言って笑った。
「どうして?」
「僕の彼女って言ってしまったじゃないか」
「あ、そうか。亭主に恥かかせるわけには行かないよね!」
そこまでは考えなくていいと思うけど。
「後半は遊べるんでしょ?」
「まあ、調整はしないといけないと思うけど」
「そうだよね、合宿には行くんでしょ?」
「そのつもりだよ」
「楽しみだね」
家に帰りつくとお土産を愛莉の家に届けて家に帰る。
親にお土産を渡してシャワーを浴びると部屋に帰ってベッドに寝転がった。
疲れが一気にやってきて眠りこけてしまう。
ぽかっ
僕何か悪いことしたか?
「3日分構ってよ~」
僕の試合はまだ終わらないようで。
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
うちの王族が詰んでると思うので、婚約を解消するか、白い結婚。そうじゃなければ、愛人を認めてくれるかしら?
月白ヤトヒコ
恋愛
「婚約を解消するか、白い結婚。そうじゃなければ、愛人を認めてくれるかしら?」
わたしは、婚約者にそう切り出した。
「どうして、と聞いても?」
「……うちの王族って、詰んでると思うのよねぇ」
わたしは、重い口を開いた。
愛だけでは、どうにもならない問題があるの。お願いだから、わかってちょうだい。
設定はふわっと。
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる