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3rdSEASON
優しい幻
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(1)
「冬夜君朝だよ」
愛莉の優しい言葉に起こされ目を開けると愛莉が必死に抱き着いている。
ああ、そうだったね。
「起きようか?」
愛莉の頭を撫でてそう言うと愛莉は笑顔でうなずき起き上がると着替え始める。
僕も起きて着替えを始めた。
「今日も夫婦仲良くやってるね」
周囲を同じようにジョギングしている老夫婦に言われる。
「はい、おはようございます」
夫婦と言われて気を良くしたのか愛莉は元気に答える。
1時間ほど走ると家に帰り、ストレッチしてシャワーを浴びる。
その間に愛莉は朝食の準備に入る。
シャワーを浴びて着替えた頃には準備が済んであり皆で朝食を食べる。
「冬夜、お前まだ挙式しないつもりかい?」
母さんが聞いてくる。
「その話は愛莉とちゃんと話し合ったから」
「冬夜君が結婚してくれるってわかっただけで十分だから」
もうプロポーズの意味ないよな?
まあ、ケジメとしてちゃんとしてあげたいけど。
「まあ、亜子の事もあるからね。あまり学生婚は認めたくないけどあんたの周りみんな結婚しちゃったんだろ?愛莉ちゃんに悪いと思わないのかい?」
「冬夜の気持ちは立派だと思うがな。遠坂さん達の事も考えるとな……」
「冬夜君に3年待ってくれたらプロポーズするからって言われたんです。それってもうプロポーズみたいなものじゃないですか?私それだけで嬉しくてりえちゃんにも言っちゃったんです。そしたらおめでとうって」
両親の意見と愛莉の意見。
噛み合って無い様で噛み合ってるんだろうな。
「もうお前も十分自立できるだろ?したけりゃしていいんだぞ?愛莉ちゃんと結婚したくない理由あるのか?」
そんな質問はよせ、父さん。愛莉が不安がるだろ。
「愛莉は僕にはもったいないくらいのいい子だよ。ただ今はバスケに集中するって決めたから」
「じゃあ、バスケが終わったら結婚するのかい?」
「就職したらって言ったろ?」
「就活と部活の両立は厳しいと思うがな」
「就職できなかったらバスケのトライアウト受けるよ」
それに就職には秘策がある。
何の問題もない。
「まあ、愛莉ちゃんが良いって言うなら文句は言わないけどね」
「私今でも十分幸せですから」
愛莉がそう言うとこの話は終わった。
話が終わったところで部屋に戻る。
テレビを見ていると愛莉が戻ってくる。
持ってきたコーヒーを啜りながら、テレビを見ている。
テレビを見ていると愛莉が話しかけてきた。
「ねえ?冬夜君?」
「どうした?」
「誰が一番だと思う?」
「何が?」
「子供作るの~」
コーヒー吹きそうになった。
「さ、さすがにまだ皆作らないだろ?」
「そうかな~?渡辺君ところは美嘉さん働いてるし経済的には有利だと思うんだよね~」
「その美嘉さんが妊娠しちゃったら家計大変になるだろ?それに育児だってあるし」
「冬夜君は育児はお嫁さん任せなわけ?」
「そりゃ手伝えることは手伝うけど。母乳をあげたりするのは父親には無理だろ」
「そっか~そうだよね」
愛莉が悩んでる。そんな姿が可愛く思えたのか愛莉の話に乗ってやることにした。
「酒井君とか石原君の方が作ろうと思えば作れる環境なんじゃないかな?経済的にも」
「ああ、そっかぁ~」
愛莉は問題が解決しようだ。しかし次から次へと愛莉はよくまあ考えるもので。
「冬夜君はいつごろ欲しい?」
「はい?」
「りえちゃんが言ってた。結婚してから2,3年はふたりでゆっくりしなさい~って言ってたの。でも冬夜君の意見も聞きたいし」
「いつでもいいよ」
「なにそのどうでもいい感。冬夜君の将来にも関わるんだよ?」
「どうして?」
「女性には初産のリミットってあるんだよ?そこから逆算して考えると結婚も早い方がいいんだよ?」
「愛莉焦ってる?」
「私はまだ平気。冬夜君と約束したし……あ」
「だからって、私との結婚を理由にプロ入り辞めるってのはだめだからね!」
「それは無いから大丈夫」
「ならいいんだけど」
佐倉さんからメッセージが来た。
もう体育館開いてるらしい。
「愛莉そろそろ行こっか」
「……えっ?」
「どうしたの愛莉?」
愛莉の様子がどこかおかしい。スマホを見て何か考え込んでる。
「何でもないよ。ちょっと気になることがあっただけ」
「気になること?どしたの?」
僕は愛莉のスマホを覗こうとするが愛莉は隠す。
「なんでもないってば」
女性のプライベートにあまり踏み込むのも悪いよな。
「そろそろ行こう?」
「は~い」
愛莉と荷物を持って家を出た。
(2)
朝家を出るとまず佐(たすく)の家に迎えに行く。
佐に電話するとすぐに出てくる。
「いつも悪いな。もういいんだぜ?肩も治ってるし歩いて行ける距離だし」
「雨とか降ったらどうするんですか?佐が車を買うならともかく」
「傘さして歩けば問題ないだろ?そんなに遠くないんだし」
「私が恋人になったことを後悔してますか?一日中ぴったりで」
「そんなことはねーよ」
ならいいんだけど……。
駐車場に車を止めると事務棟に行く。手続きをして体育館の鍵を受け取り
体育館に歩きながらバスケ部の皆にメッセージを送る。
その間は佐と二人っきりの時間。
佐は何も言わない、黙ったまま歩く。
そして体育館に入ると更衣室に入る。
コートに一人立つと皆のプレイが目に浮かぶ。
一番鮮明に残っているのは片桐先輩のプレイ。
あんなに高く長く飛んでいられる時間てどんな気分なんだろう?
サッカーの時もそうだ。
奇跡のようなパスを生み出す片桐先輩の目には何が見えているんだろう。
遠坂先輩は片桐先輩と世界を共有できるという。
どんな素敵な世界を二人で見ているんだろう?
佐とも世界を共有してみたい。
だけど佐の事を考えてると不安ばかりが出てくる。
口うるさいと思われてないか?変に期待を負わせていないか?私に失望されていないか?
直接聞いてみたいと思ったけど答えは分かってる。
「そんなことはねーよ」って笑う佐の優しい姿が目に映る。
「どうしたんだぼーっとして?」
着替え終えた佐が後ろに立っていた。
「い、いえ。もう来てたんですね」
「ああ」
「じゃあ、ストレッチから始めてください」
ストレッチしてる佐を見てる。
そんな佐を見てるとつい言葉にしてしまう。
「ねえ、佐……」
「ちわーっす!ってあれ?二人の空気邪魔しましたか?」
藤間先輩が来た。
その後に皆がやってきた。片桐先輩は家が離れているから若干遅い。
「そんなことねーよ、いらんことに気を使ってないでさっさとストレッチしろ」
佐がそういうと皆ストレッチを始める。
ストレッチが終わるといつものメニュー。
その頃に片桐先輩がやってくる。
「おっす」
皆が挨拶すると片桐先輩は遅れてストレッチを始める。
そして途中から練習に参加する。
しばらくすると女バスが来る。
女バスも練習を始める。
個人練習が終わる頃に女バスの監督が来る。
ちなみに男バスの監督は春休みに入ってから一度も来てない。
見るに見かねて男バスの指導も女バスの監督がしてくれる。
「冬夜!練習だからって気を抜くな。しっかりディフェンスしなさい!あんたなら今のカット出来たでしょ!」
「恭太!もっと強引にリバウンド取りに行かないと!身長差を言い訳にするんだったら。1年とレギュラー変えるよ!」
「蒼汰!あんたどこ見てるの!視野が広いのは結構だけど練習に集中しなさい!」
「真司もリバウンドに行くの!ただでさえインサイド弱いって思われるんだからしっかりしないと!」
「祐樹も遠慮せずにガンガンドライブしろ!あんたのドリブル技術なら出来るでしょ!」
と、指示を出す女バスの監督。
そしてお昼休みになると控室でミーティング。
「この後、女バスと5対5なんですよね」と、藤間先輩
「蒼汰、デートじゃないんだぞ。真面目にやれ」と佐がいう。
「佐はいいよ。コートの外で佐倉といちゃつけて」と藤間先輩が言う。
コートの外で……。
その言葉がどれだけ佐を傷つけるか知らないのだろうか?
「藤間先輩!いちゃつきたいなら佐と替わってもらってもいいんですよ。村川先輩とデートでもいってきたらいいじゃないですか!」
凄い剣幕でまくし立てる私。何をムキになってるんだろう。
「じょ、冗談だよ。そんなにムキにならなくてもいいだろ」
藤間先輩が焦っていたのが私が泣いていたから。
私は何も言わずに控室を飛び出した。
コートに向かうと一人うずくまって泣く。
何をそんなに心乱しているの?
彼の事を傷つけられたから。
いちゃつきたいのにいちゃつけないから?
私はマネージャーだ。
皆に平等でいなくちゃいけない。
佐を特別扱いするわけにはいかない。
頭では理解してる。
そうしているつもりだ。
なのにこの醜態。
佐はスタメンの座を勝ち取ろうとしてるのに茶化されている。
その事が我慢できなかった。
自分の事のように悔しい。
それで泣いているのか?
だいぶ頭が冷めてきた、落ち着きを取り戻した。落ち着きを取り戻すと同時に不安が押し寄せる。
こんな体たらくで佐に愛想尽かされないだろうか?
朝の一件もある。
そんなとき頬にひやりと冷たい物が。
振り返ると佐が立っていた。
「飲めよ」
佐からスポーツ飲料を受け取ると飲む。
佐は隣に座ると話し出した。
「誰もいないコート見てると頭冷えるよな」
「そうですね」
「頭冷えたか?」
「はい、迷惑かけました」
「迷惑になんて思ってねーよ。俺の為に怒ってくれたんだろ?ありがとうな」
「私……迷惑じゃないですか?」
「なんでそう思うんだ」
私は自分の気持ちを告白した。全部打ち明けた。
すると佐は笑ってた。
「そんなに器量の狭い奴だと思われてたのか俺は」
「そ、そういうわけじゃないけど……初めてで分からないんです。どこまで踏み込んでいいのか」
佐はすっと立ち上がる。
「立てよ」
私も立ち上がると、佐は私を抱きしめる。
「お前一人くらい丸ごと抱えてやるよ。どうってことねーよ。甘えたいだけ甘えて良いんだよ」
「佐……ありがとう」
「ひゅー!見せつけてくれますねお二人さん」
藤間先輩の声が聞こえた。
藤間先輩は私を見ると頭を下げる。
「さっきはすいませんでした!これでもマジ反省してるっす!」
「……もういいです。頭をあげてください」
「あれ~?男子に桜子。どうしたの?」
女子部の皆が来た。
「なんでもないです。さあ、練習始めましょう!」
私は笑顔を作って言う。
「頑張ろうね茉里奈ちゃん」
「頑張ろうね、蒼汰君」
人目はばかることなくいちゃつく二人。
そんな二人を羨ましく思う。
そんな私の肩を佐が叩く。
「今夜俺の家来ないか?」
「……はい」
そして練習が始まった。
(3)
佐倉さんが控室を飛び出した後、僕は佐倉さんを追おうとした。だけど佐がとめる。
「ここは俺に任せてくれ」
そう言って佐が控室を出る。
「蒼汰、今のはお前が悪いぞ」
真司が蒼汰を注意する。
「すんません。マジ反省してます」
蒼汰は頭を下げる。
「佐倉の気持ち理解してやれ。本当は佐に肩入れしたやりたいけどマネージャーという立場上出来ないんだ」
「マネージャーってそんなに責任重大なの?」
僕は真司に聞いていた。
「うちは監督がこれだからな。実際強くなれたのは佐倉のお蔭だよ。しかも1からバスケ勉強してからだぜ。大変なんだよ彼女も」
「吉良君の言う通りだと思うな。私には無理かな。絶対冬夜君に肩入れしちゃう」
真司と愛莉がそう言う。花菜さんも「自分の彼氏応援したくなっちゃいますよね?」と言う。
「冬夜だって佐倉のサポート受けてるだろ?しかも世界一のプレイヤーになるって言うお前の日頃の練習の管理してるんだ。プレッシャーだぞきっと」
そういうもんなのかな。
「だったら、皆で行った方がいいんじゃない?」
「精神面のケアは彼氏の佐の仕事だろ?」
真司が言う。
「とはいえそろそろ時間だ。コートに行った方がいいんじゃね?」
恭太が言うと皆立ち上がる。
「冬夜君ブレーキングとフルバックするのはいいけど多用しちゃだめだよ。多分膝に負担かかると思うから。冬夜君のドリブルスピードだと」
「分かった。ありがとう愛莉」
そう言ってコートに向かうと抱き合ってる佐倉さんと佐がいた。
「ひゅー!見せつけてくれますねお二人さん」
すぐに冷やかす蒼汰。
全然反省してない。
午後は女子との合同練習に入る。
いつも通りの練習だったんだけど。浮かない顔をする、相手センターがいた。
(4)
朝、何気なくカレンダーを見てはっとした。
今日は何日だ!?
指折り数える。
そんなはずはない!
誠とするときもちゃんとしてある。
他の男となんて絶対にない!
まずい、どうすればいい?
落ち着け!ちょっと不順になってるだけだ。
そう言い聞かせる。
今そんな事態になったら誠の人生狂わせてしまう。
でもどうすればいい?
まずは確認だ。ドラッグストアに売ってるよな。
そんな事を考えながら女子グルにメッセージを打っていた。
一人で抱え込むにはあまりにも大きな不安。
「やっちまったかもしれない?」
「どういう意味?」
「……来ないんだ?」
「え!?」
皆同じリアクションを取る。
「誠には話したのか?」
美嘉が聞いてきた。
「いや、まだ。今気づいたばかりで……混乱してるんだ。話した方がいいのかな?」
「男にも責任があるのよ。ちゃんと話さないと」と恵美が言う。
「私も恵美と同意見。隠していた事バレたら誠君ショックだと思うよ。誠君なら大丈夫だよ。ちゃんと一緒に病院行くんだよ?」
愛莉の言う通りだな。
「検査薬は使ったの?」
亜依が言う。
「いや、これから買いに行こうかなって……」
「気のせいって事もあるんだし早めに使いなよ」
「ああ、そうだな」
「どうしたんだ神奈」
誠が起きてきた。
「な、なんでもない」
スマホを隠す。
「何でもないって顔色悪いぞ。どこか具合悪いのか?」
「いや、本当になんでもないんだ……」
誠は私の両腕を掴む。
「俺達もう夫婦だろ!?隠し事は無しにしようぜ!?何があった?生活費が足りないとかか?」
お金か……。いくらかかるんだろう?
母さんに借りるしかないかな?
ずっと黙っている私。
しかし私の相手が冬夜だったら多分「ふ~ん」で済ませただろう。でも私の旦那は誠だ。こういう時の嗅覚は鋭い。
カレンダーを前に青ざめる私。そして動揺している。とっさにスマホを隠す。そして誠が掴んでいる腕は震えている。
誠くらいの年頃の男なら感づくだろう。
「お前まさか……きてないのか?」
隠し事は無しにしようぜ。私も誠に隠したくない。
黙ってうなずいた。
誠の顔に動揺が見える。
「ごめん……」
理由もなく誤る私。
「神奈が謝ることじゃないだろ?どのくらいきてないんだ?」
私は両手を広げた。
「じゃあ、検査薬買って来ようか?」
「お前が買いに行ったらただの変態だろ?私が買ってくるよ」
「ああ……ついて行かなくていいか?」
「大丈夫だ、誠は部活行けよ」
「分かった……」
私はドラッグストアが開く時間を見計らって家を出る。
そして帰ってくると、誠の車が止まってる。
家に入ると誠が出迎えてくれた。
「買ってきたか?」
「ああ……」
「じゃあさっそく使ってみようぜ」
「ちょっと待っててくれ」
「どうだった?」
誠がテレビを見ながら待機してた。
「陰性だった」
「そうか……」
でも不安はぬぐえない。
タイミングが早すぎただけかもしれない。
計算ミスったかな。
そんな動揺する私を見かねて誠はスマホで検索を始める。
「もしもし、多田といいますけど今から診察って受けられますか?実は……」
誠は電話を終えると私を見て言った。
「今から産婦人科行こう。白黒はっきりさせた方が良いだろ?」
知りたくない結果だってあるんだけどな。
私はただうなずいた。
誠は診察室の外のベンチで待っていた。
浮かれているのだろうか、動揺しているのだろうか分からない。あくまで冷静な誠の対応。
結果から言うとシロだった。
ホッとしたようながっくりしたような……微妙な気分。
診察室を出ると誠に結果を伝えた。
誠は冷静に聞いていた。
「そうか……」
の一言だけ。
車に乗ると誠に謝る。
「心配かけてごめん!私も油断してた!」
「謝るのは神奈じゃない、俺だろ」
「そんな事無い、誠はちゃんと気を使ってくれてる。現に今日だって練習サボらせたじゃないか」
「サッカーどころじゃないだろ?子供出来たから」
「堕胎するって方法も」
「そんなことさせられないよ。二度と産めなくなるかもしれないんだぜ?」
「でも誠の人生を狂わせることになるかもだろ!」
「俺の人生か……」
誠はそう言って黙ってしまった。
家に帰ると誠はまあ落ち着いて座れよと言う。
「さっき言った俺の人生についてなんだけど……」
「ああ……」
「俺の夢を押し付けても構わないか?」
「いいよ」
「神奈と子供作ってさ、その子にサッカーの英才教育してさ。代表入りさせたいんだよね」
「それならお前だって代表入り目指せばいいじゃないか?」
「俺と同世代には天才が多すぎる。プロにはなれるかもしれないけど、代表は無理だ」
だから自分の子供に託すっていうのか?
「もちろん子供がサッカーをやりたいって望めばの話だけど」
ていうか待てよ
「何で子供ありきの話になってるんだ?」
「神奈にプレッシャー与えるかもしれないけどそれでも俺の夢は神奈と一緒に子供を育てたい。育児も手伝うよ」
プレッシャーなんてそんな事言うなよ。
「まあ、理想は大学卒業後なんだけどな。難しくてうまく言えないけどそんなに不安になるなよ。出来たら俺も働く。それでいいじゃないか?」
「ありがとう。私は幸せだな」
誠が私を抱いてくれる。
そしてそれを待っていたかのように運命の悪戯が始まる。
「あ……」
「どうした?」
「ごめん、ちょっとトイレ!」
誠の夢か……。
元気な子を産まないとな。
(5)
二日目は古都の見学や芸術センターの見学をした。
そしてホテルに戻る。
随分歩いたもんだよ。
でも生のゲルニカを見れてよかった。
他の観光客も似たような感じだったね。
同じ年頃の新婚もいたようで、楽しそうに観光してた。
明日は今日よりも早く出るらしい。
もう少し早めに寝ないとね。
二日目にしてもう日本が恋しくなってきた。
皆今頃何してるんだろう?
青い鳥一ノ瀬さん一人で大丈夫かな?
一ノ瀬さんと言えば中島君とは上手くいってるんだろうか?
中島君もまだまだだねえ。
部活と恋人の両立は多田君がやってるじゃないか。
あの二人は普段会えないという逆境を乗り越えて結婚までこぎつけたんだよ。
会えないから別れようは無いと思うけどね。
片桐君もすごいね。
まさか世界一を目指しているなんて考えてもいなかったよ。
しかも世界一になったらやめるって凄い度胸だよ。
辞めないでずっと続けていた方が良いと思うけどね。
もうスポンサーもついてるなんてプロ同然じゃないか。
スポンサーも1大学生によくそこまでする気になったね。
それだけ片桐君の才能が凄いという事か?
「どうしたの?善君」
髪を乾かし終えた晶ちゃんがベッドに入ってきた。
「いや、皆凄いなと思って」
「どうして?」
「遠恋から結婚まで漕ぎつけたり」
「それなら私達もじゃない?」
そうだったね。クリスマスプレゼントに家をもらったことには度肝をつかされたよ。
しかも学生婚で新婚旅行がスペインだなんて……。
「考えると僕達も凄いね」
色んな意味で。
「そうでしょ?もっと自分に誇りを持ちなさい」
誇りに思っていい事なのかどうかわからないけど。
まあ、それぞれのカップルにそれぞれ自慢することがあるんだろう?
例えどんなに些細な事でも本人同士が幸せならそれでいい。
時に迷うことがあるかもしれない。
そんな時はためらわず相手に甘えよう。
きっと素敵な答えを見つけてくれるはずだから。
「ところで善君?」
「なんだい?」
「いつ子供を作るの?クリスマスに作るとなるとちょっと手遅れだと思うけど」
「……せめて大学卒業まで待ってもらえないかい?」
「そんなに待たせていいの?」
「晶ちゃんだって教師になりたいって夢があるんじゃないのかい?」
「別に夢じゃないわよ?」
「へ?」
「適当に近い大学を選んだだけ」
渡辺班にはそういう人多いよね。
一緒に大学進学したいからとか。
でもそんな夢でも立派な夢か……。
僕の夢は……もう叶ったからいいや。
人並みの幸せを手に入れる事。
これが人並みなのかはわからないけど。
「善君そろそろ寝ない?」
「そうだね、そろそろ寝ようか?」
遠い異国の地で望郷の念にかられながら今しばらくハネムーンを楽しむことにした。
(6)
「よかった~」
愛莉がスマホを見て喜んでいる?
「何が良かったの?」
「冬夜君は知らなくていいの♪」
そうか知らなくていいのか。
愛莉がスマホを弄っている間FPSをやっていた。
本当はヘッドフォンつけてやりたいんだけど、愛莉に遠慮してスピーカーでやってる。
愛莉のメッセージのやり取りは一段落ついたらしい。
僕の背後に忍び寄る。
大体行動を予測できたので、建物の陰に隠れる。
「たあ!」
愛莉が後ろから抱き着いてくる。
動じることなくゲームを続ける僕。
「うぅ……えいっ」
愛莉はチャンネルを変えるという暴挙にでた。
「愛莉勝率が下がるからやめてくれって言っただろ」
そう言いながらもコントローラーを手放し愛莉を抱きしめていた。
「えへへ~」
「じゃ、いつものやる?」
「うん」
そう言うとノートPCを起動する。
そしてゲームのクライアントを起動するとキャラクターをログインする。
砂漠の街の同じギルドの暇なキャラクターが集まってるいわゆるたまり場というところに出る。
「お!来たな冬夜ちょうど今からダンジョン攻略しようと思ってたところなんだ」
「愛莉達も行かない?」
「いいよ~」
これが車に変わる新しい息抜き……のはずだった。
突然スマホが鳴る。
「ごめん今電話」
僕はチャットを打って電話に出る。
画面には健さんとでてあった。
「もしもし!」
「茂さんが事故った!」
「え!?」
茂さんとはガソリンスタンドで働いてる走り屋さんの事。
「どうしてまた!?」
「黄色いEK9が後ろから接触してきてな。それでバランス崩してスピンして回避しようとしたけど対向車がいて接触を避けて崖に衝突してきたんだ」
パターンが檜山先輩と一緒だ!もしかして……。
「とりあえず病院行きます」
「ああ、そうしてやってくれ」
「ごめん、急用出来た。落ちる」
そう言ってゲームをログアウトした。
「愛莉ちょっと出かけるけどいいかい?」
「良いけどどこ行くの?」
愛莉もログアウトしていた。
「地元の総合病院」
「病院!?」
「茂さんが事故ったらしい」
「また!?」
愛莉が準備してる間に檜山先輩に確認を取る。
「檜山先輩に接触してきた車って黄色いEK9ですか?」
「ああ、そうだ。良く分かったな。地元にもでたのか?」
「ありがとうございます」
そうメッセージを打つと。愛莉を連れて病院に向かう。
病院につくと腕にギブスをはめ、額に包帯を巻き首にコルセットをつけた茂さんがいた。
「大丈夫ですか!?」
「ごらんのありさまだよ」
そう言って茂さんは笑う。
その姿を見て苛立ちを覚えていた。
壁をドン!と叩く僕。
そんな僕に後ろから抱き着く愛莉。
「冬夜君今考えてる事は今すぐ消して!」
「片桐君。俺もその方が良いと思う。今回の相手はヤバすぎる」
その時スマホが鳴る。誠からだ。
「冬夜!俺だ!」
「……どうした誠」
「絶対にやめとけ。昨日も言ったが勝とうが負けようが関係ない!お前のスキャンダルになる!お前の夢叶わなくなるぞ!」
「夢がかなわなかったら一生バスケだ。皆の望み通りになっていいだろ」
「いいわけないだろこの馬鹿が!」
スピーカーで聞いていたんだろう、カンナの声がする。
「愛莉を泣かせるような真似したら絶対許さないからな!昨日約束しただろ!走り屋としての冬夜は終わりにするって」
「友達を傷つけられ黙ってられるほどお人好しじゃない!」
「それでお前に何かあったらその友達はどう思うんだ?喜ぶ奴なんていないぞ!」
「話はそれだけ?切るよ」
「待て冬夜!」
プッ……。
愛莉を乗せその晩山を上ったり下ったりを繰り返す。
でも良いのか悪いのかその晩は現れなかった。
ガソリンがつきかける頃給油して家に帰った。
「冬夜君朝だよ」
愛莉の優しい言葉に起こされ目を開けると愛莉が必死に抱き着いている。
ああ、そうだったね。
「起きようか?」
愛莉の頭を撫でてそう言うと愛莉は笑顔でうなずき起き上がると着替え始める。
僕も起きて着替えを始めた。
「今日も夫婦仲良くやってるね」
周囲を同じようにジョギングしている老夫婦に言われる。
「はい、おはようございます」
夫婦と言われて気を良くしたのか愛莉は元気に答える。
1時間ほど走ると家に帰り、ストレッチしてシャワーを浴びる。
その間に愛莉は朝食の準備に入る。
シャワーを浴びて着替えた頃には準備が済んであり皆で朝食を食べる。
「冬夜、お前まだ挙式しないつもりかい?」
母さんが聞いてくる。
「その話は愛莉とちゃんと話し合ったから」
「冬夜君が結婚してくれるってわかっただけで十分だから」
もうプロポーズの意味ないよな?
まあ、ケジメとしてちゃんとしてあげたいけど。
「まあ、亜子の事もあるからね。あまり学生婚は認めたくないけどあんたの周りみんな結婚しちゃったんだろ?愛莉ちゃんに悪いと思わないのかい?」
「冬夜の気持ちは立派だと思うがな。遠坂さん達の事も考えるとな……」
「冬夜君に3年待ってくれたらプロポーズするからって言われたんです。それってもうプロポーズみたいなものじゃないですか?私それだけで嬉しくてりえちゃんにも言っちゃったんです。そしたらおめでとうって」
両親の意見と愛莉の意見。
噛み合って無い様で噛み合ってるんだろうな。
「もうお前も十分自立できるだろ?したけりゃしていいんだぞ?愛莉ちゃんと結婚したくない理由あるのか?」
そんな質問はよせ、父さん。愛莉が不安がるだろ。
「愛莉は僕にはもったいないくらいのいい子だよ。ただ今はバスケに集中するって決めたから」
「じゃあ、バスケが終わったら結婚するのかい?」
「就職したらって言ったろ?」
「就活と部活の両立は厳しいと思うがな」
「就職できなかったらバスケのトライアウト受けるよ」
それに就職には秘策がある。
何の問題もない。
「まあ、愛莉ちゃんが良いって言うなら文句は言わないけどね」
「私今でも十分幸せですから」
愛莉がそう言うとこの話は終わった。
話が終わったところで部屋に戻る。
テレビを見ていると愛莉が戻ってくる。
持ってきたコーヒーを啜りながら、テレビを見ている。
テレビを見ていると愛莉が話しかけてきた。
「ねえ?冬夜君?」
「どうした?」
「誰が一番だと思う?」
「何が?」
「子供作るの~」
コーヒー吹きそうになった。
「さ、さすがにまだ皆作らないだろ?」
「そうかな~?渡辺君ところは美嘉さん働いてるし経済的には有利だと思うんだよね~」
「その美嘉さんが妊娠しちゃったら家計大変になるだろ?それに育児だってあるし」
「冬夜君は育児はお嫁さん任せなわけ?」
「そりゃ手伝えることは手伝うけど。母乳をあげたりするのは父親には無理だろ」
「そっか~そうだよね」
愛莉が悩んでる。そんな姿が可愛く思えたのか愛莉の話に乗ってやることにした。
「酒井君とか石原君の方が作ろうと思えば作れる環境なんじゃないかな?経済的にも」
「ああ、そっかぁ~」
愛莉は問題が解決しようだ。しかし次から次へと愛莉はよくまあ考えるもので。
「冬夜君はいつごろ欲しい?」
「はい?」
「りえちゃんが言ってた。結婚してから2,3年はふたりでゆっくりしなさい~って言ってたの。でも冬夜君の意見も聞きたいし」
「いつでもいいよ」
「なにそのどうでもいい感。冬夜君の将来にも関わるんだよ?」
「どうして?」
「女性には初産のリミットってあるんだよ?そこから逆算して考えると結婚も早い方がいいんだよ?」
「愛莉焦ってる?」
「私はまだ平気。冬夜君と約束したし……あ」
「だからって、私との結婚を理由にプロ入り辞めるってのはだめだからね!」
「それは無いから大丈夫」
「ならいいんだけど」
佐倉さんからメッセージが来た。
もう体育館開いてるらしい。
「愛莉そろそろ行こっか」
「……えっ?」
「どうしたの愛莉?」
愛莉の様子がどこかおかしい。スマホを見て何か考え込んでる。
「何でもないよ。ちょっと気になることがあっただけ」
「気になること?どしたの?」
僕は愛莉のスマホを覗こうとするが愛莉は隠す。
「なんでもないってば」
女性のプライベートにあまり踏み込むのも悪いよな。
「そろそろ行こう?」
「は~い」
愛莉と荷物を持って家を出た。
(2)
朝家を出るとまず佐(たすく)の家に迎えに行く。
佐に電話するとすぐに出てくる。
「いつも悪いな。もういいんだぜ?肩も治ってるし歩いて行ける距離だし」
「雨とか降ったらどうするんですか?佐が車を買うならともかく」
「傘さして歩けば問題ないだろ?そんなに遠くないんだし」
「私が恋人になったことを後悔してますか?一日中ぴったりで」
「そんなことはねーよ」
ならいいんだけど……。
駐車場に車を止めると事務棟に行く。手続きをして体育館の鍵を受け取り
体育館に歩きながらバスケ部の皆にメッセージを送る。
その間は佐と二人っきりの時間。
佐は何も言わない、黙ったまま歩く。
そして体育館に入ると更衣室に入る。
コートに一人立つと皆のプレイが目に浮かぶ。
一番鮮明に残っているのは片桐先輩のプレイ。
あんなに高く長く飛んでいられる時間てどんな気分なんだろう?
サッカーの時もそうだ。
奇跡のようなパスを生み出す片桐先輩の目には何が見えているんだろう。
遠坂先輩は片桐先輩と世界を共有できるという。
どんな素敵な世界を二人で見ているんだろう?
佐とも世界を共有してみたい。
だけど佐の事を考えてると不安ばかりが出てくる。
口うるさいと思われてないか?変に期待を負わせていないか?私に失望されていないか?
直接聞いてみたいと思ったけど答えは分かってる。
「そんなことはねーよ」って笑う佐の優しい姿が目に映る。
「どうしたんだぼーっとして?」
着替え終えた佐が後ろに立っていた。
「い、いえ。もう来てたんですね」
「ああ」
「じゃあ、ストレッチから始めてください」
ストレッチしてる佐を見てる。
そんな佐を見てるとつい言葉にしてしまう。
「ねえ、佐……」
「ちわーっす!ってあれ?二人の空気邪魔しましたか?」
藤間先輩が来た。
その後に皆がやってきた。片桐先輩は家が離れているから若干遅い。
「そんなことねーよ、いらんことに気を使ってないでさっさとストレッチしろ」
佐がそういうと皆ストレッチを始める。
ストレッチが終わるといつものメニュー。
その頃に片桐先輩がやってくる。
「おっす」
皆が挨拶すると片桐先輩は遅れてストレッチを始める。
そして途中から練習に参加する。
しばらくすると女バスが来る。
女バスも練習を始める。
個人練習が終わる頃に女バスの監督が来る。
ちなみに男バスの監督は春休みに入ってから一度も来てない。
見るに見かねて男バスの指導も女バスの監督がしてくれる。
「冬夜!練習だからって気を抜くな。しっかりディフェンスしなさい!あんたなら今のカット出来たでしょ!」
「恭太!もっと強引にリバウンド取りに行かないと!身長差を言い訳にするんだったら。1年とレギュラー変えるよ!」
「蒼汰!あんたどこ見てるの!視野が広いのは結構だけど練習に集中しなさい!」
「真司もリバウンドに行くの!ただでさえインサイド弱いって思われるんだからしっかりしないと!」
「祐樹も遠慮せずにガンガンドライブしろ!あんたのドリブル技術なら出来るでしょ!」
と、指示を出す女バスの監督。
そしてお昼休みになると控室でミーティング。
「この後、女バスと5対5なんですよね」と、藤間先輩
「蒼汰、デートじゃないんだぞ。真面目にやれ」と佐がいう。
「佐はいいよ。コートの外で佐倉といちゃつけて」と藤間先輩が言う。
コートの外で……。
その言葉がどれだけ佐を傷つけるか知らないのだろうか?
「藤間先輩!いちゃつきたいなら佐と替わってもらってもいいんですよ。村川先輩とデートでもいってきたらいいじゃないですか!」
凄い剣幕でまくし立てる私。何をムキになってるんだろう。
「じょ、冗談だよ。そんなにムキにならなくてもいいだろ」
藤間先輩が焦っていたのが私が泣いていたから。
私は何も言わずに控室を飛び出した。
コートに向かうと一人うずくまって泣く。
何をそんなに心乱しているの?
彼の事を傷つけられたから。
いちゃつきたいのにいちゃつけないから?
私はマネージャーだ。
皆に平等でいなくちゃいけない。
佐を特別扱いするわけにはいかない。
頭では理解してる。
そうしているつもりだ。
なのにこの醜態。
佐はスタメンの座を勝ち取ろうとしてるのに茶化されている。
その事が我慢できなかった。
自分の事のように悔しい。
それで泣いているのか?
だいぶ頭が冷めてきた、落ち着きを取り戻した。落ち着きを取り戻すと同時に不安が押し寄せる。
こんな体たらくで佐に愛想尽かされないだろうか?
朝の一件もある。
そんなとき頬にひやりと冷たい物が。
振り返ると佐が立っていた。
「飲めよ」
佐からスポーツ飲料を受け取ると飲む。
佐は隣に座ると話し出した。
「誰もいないコート見てると頭冷えるよな」
「そうですね」
「頭冷えたか?」
「はい、迷惑かけました」
「迷惑になんて思ってねーよ。俺の為に怒ってくれたんだろ?ありがとうな」
「私……迷惑じゃないですか?」
「なんでそう思うんだ」
私は自分の気持ちを告白した。全部打ち明けた。
すると佐は笑ってた。
「そんなに器量の狭い奴だと思われてたのか俺は」
「そ、そういうわけじゃないけど……初めてで分からないんです。どこまで踏み込んでいいのか」
佐はすっと立ち上がる。
「立てよ」
私も立ち上がると、佐は私を抱きしめる。
「お前一人くらい丸ごと抱えてやるよ。どうってことねーよ。甘えたいだけ甘えて良いんだよ」
「佐……ありがとう」
「ひゅー!見せつけてくれますねお二人さん」
藤間先輩の声が聞こえた。
藤間先輩は私を見ると頭を下げる。
「さっきはすいませんでした!これでもマジ反省してるっす!」
「……もういいです。頭をあげてください」
「あれ~?男子に桜子。どうしたの?」
女子部の皆が来た。
「なんでもないです。さあ、練習始めましょう!」
私は笑顔を作って言う。
「頑張ろうね茉里奈ちゃん」
「頑張ろうね、蒼汰君」
人目はばかることなくいちゃつく二人。
そんな二人を羨ましく思う。
そんな私の肩を佐が叩く。
「今夜俺の家来ないか?」
「……はい」
そして練習が始まった。
(3)
佐倉さんが控室を飛び出した後、僕は佐倉さんを追おうとした。だけど佐がとめる。
「ここは俺に任せてくれ」
そう言って佐が控室を出る。
「蒼汰、今のはお前が悪いぞ」
真司が蒼汰を注意する。
「すんません。マジ反省してます」
蒼汰は頭を下げる。
「佐倉の気持ち理解してやれ。本当は佐に肩入れしたやりたいけどマネージャーという立場上出来ないんだ」
「マネージャーってそんなに責任重大なの?」
僕は真司に聞いていた。
「うちは監督がこれだからな。実際強くなれたのは佐倉のお蔭だよ。しかも1からバスケ勉強してからだぜ。大変なんだよ彼女も」
「吉良君の言う通りだと思うな。私には無理かな。絶対冬夜君に肩入れしちゃう」
真司と愛莉がそう言う。花菜さんも「自分の彼氏応援したくなっちゃいますよね?」と言う。
「冬夜だって佐倉のサポート受けてるだろ?しかも世界一のプレイヤーになるって言うお前の日頃の練習の管理してるんだ。プレッシャーだぞきっと」
そういうもんなのかな。
「だったら、皆で行った方がいいんじゃない?」
「精神面のケアは彼氏の佐の仕事だろ?」
真司が言う。
「とはいえそろそろ時間だ。コートに行った方がいいんじゃね?」
恭太が言うと皆立ち上がる。
「冬夜君ブレーキングとフルバックするのはいいけど多用しちゃだめだよ。多分膝に負担かかると思うから。冬夜君のドリブルスピードだと」
「分かった。ありがとう愛莉」
そう言ってコートに向かうと抱き合ってる佐倉さんと佐がいた。
「ひゅー!見せつけてくれますねお二人さん」
すぐに冷やかす蒼汰。
全然反省してない。
午後は女子との合同練習に入る。
いつも通りの練習だったんだけど。浮かない顔をする、相手センターがいた。
(4)
朝、何気なくカレンダーを見てはっとした。
今日は何日だ!?
指折り数える。
そんなはずはない!
誠とするときもちゃんとしてある。
他の男となんて絶対にない!
まずい、どうすればいい?
落ち着け!ちょっと不順になってるだけだ。
そう言い聞かせる。
今そんな事態になったら誠の人生狂わせてしまう。
でもどうすればいい?
まずは確認だ。ドラッグストアに売ってるよな。
そんな事を考えながら女子グルにメッセージを打っていた。
一人で抱え込むにはあまりにも大きな不安。
「やっちまったかもしれない?」
「どういう意味?」
「……来ないんだ?」
「え!?」
皆同じリアクションを取る。
「誠には話したのか?」
美嘉が聞いてきた。
「いや、まだ。今気づいたばかりで……混乱してるんだ。話した方がいいのかな?」
「男にも責任があるのよ。ちゃんと話さないと」と恵美が言う。
「私も恵美と同意見。隠していた事バレたら誠君ショックだと思うよ。誠君なら大丈夫だよ。ちゃんと一緒に病院行くんだよ?」
愛莉の言う通りだな。
「検査薬は使ったの?」
亜依が言う。
「いや、これから買いに行こうかなって……」
「気のせいって事もあるんだし早めに使いなよ」
「ああ、そうだな」
「どうしたんだ神奈」
誠が起きてきた。
「な、なんでもない」
スマホを隠す。
「何でもないって顔色悪いぞ。どこか具合悪いのか?」
「いや、本当になんでもないんだ……」
誠は私の両腕を掴む。
「俺達もう夫婦だろ!?隠し事は無しにしようぜ!?何があった?生活費が足りないとかか?」
お金か……。いくらかかるんだろう?
母さんに借りるしかないかな?
ずっと黙っている私。
しかし私の相手が冬夜だったら多分「ふ~ん」で済ませただろう。でも私の旦那は誠だ。こういう時の嗅覚は鋭い。
カレンダーを前に青ざめる私。そして動揺している。とっさにスマホを隠す。そして誠が掴んでいる腕は震えている。
誠くらいの年頃の男なら感づくだろう。
「お前まさか……きてないのか?」
隠し事は無しにしようぜ。私も誠に隠したくない。
黙ってうなずいた。
誠の顔に動揺が見える。
「ごめん……」
理由もなく誤る私。
「神奈が謝ることじゃないだろ?どのくらいきてないんだ?」
私は両手を広げた。
「じゃあ、検査薬買って来ようか?」
「お前が買いに行ったらただの変態だろ?私が買ってくるよ」
「ああ……ついて行かなくていいか?」
「大丈夫だ、誠は部活行けよ」
「分かった……」
私はドラッグストアが開く時間を見計らって家を出る。
そして帰ってくると、誠の車が止まってる。
家に入ると誠が出迎えてくれた。
「買ってきたか?」
「ああ……」
「じゃあさっそく使ってみようぜ」
「ちょっと待っててくれ」
「どうだった?」
誠がテレビを見ながら待機してた。
「陰性だった」
「そうか……」
でも不安はぬぐえない。
タイミングが早すぎただけかもしれない。
計算ミスったかな。
そんな動揺する私を見かねて誠はスマホで検索を始める。
「もしもし、多田といいますけど今から診察って受けられますか?実は……」
誠は電話を終えると私を見て言った。
「今から産婦人科行こう。白黒はっきりさせた方が良いだろ?」
知りたくない結果だってあるんだけどな。
私はただうなずいた。
誠は診察室の外のベンチで待っていた。
浮かれているのだろうか、動揺しているのだろうか分からない。あくまで冷静な誠の対応。
結果から言うとシロだった。
ホッとしたようながっくりしたような……微妙な気分。
診察室を出ると誠に結果を伝えた。
誠は冷静に聞いていた。
「そうか……」
の一言だけ。
車に乗ると誠に謝る。
「心配かけてごめん!私も油断してた!」
「謝るのは神奈じゃない、俺だろ」
「そんな事無い、誠はちゃんと気を使ってくれてる。現に今日だって練習サボらせたじゃないか」
「サッカーどころじゃないだろ?子供出来たから」
「堕胎するって方法も」
「そんなことさせられないよ。二度と産めなくなるかもしれないんだぜ?」
「でも誠の人生を狂わせることになるかもだろ!」
「俺の人生か……」
誠はそう言って黙ってしまった。
家に帰ると誠はまあ落ち着いて座れよと言う。
「さっき言った俺の人生についてなんだけど……」
「ああ……」
「俺の夢を押し付けても構わないか?」
「いいよ」
「神奈と子供作ってさ、その子にサッカーの英才教育してさ。代表入りさせたいんだよね」
「それならお前だって代表入り目指せばいいじゃないか?」
「俺と同世代には天才が多すぎる。プロにはなれるかもしれないけど、代表は無理だ」
だから自分の子供に託すっていうのか?
「もちろん子供がサッカーをやりたいって望めばの話だけど」
ていうか待てよ
「何で子供ありきの話になってるんだ?」
「神奈にプレッシャー与えるかもしれないけどそれでも俺の夢は神奈と一緒に子供を育てたい。育児も手伝うよ」
プレッシャーなんてそんな事言うなよ。
「まあ、理想は大学卒業後なんだけどな。難しくてうまく言えないけどそんなに不安になるなよ。出来たら俺も働く。それでいいじゃないか?」
「ありがとう。私は幸せだな」
誠が私を抱いてくれる。
そしてそれを待っていたかのように運命の悪戯が始まる。
「あ……」
「どうした?」
「ごめん、ちょっとトイレ!」
誠の夢か……。
元気な子を産まないとな。
(5)
二日目は古都の見学や芸術センターの見学をした。
そしてホテルに戻る。
随分歩いたもんだよ。
でも生のゲルニカを見れてよかった。
他の観光客も似たような感じだったね。
同じ年頃の新婚もいたようで、楽しそうに観光してた。
明日は今日よりも早く出るらしい。
もう少し早めに寝ないとね。
二日目にしてもう日本が恋しくなってきた。
皆今頃何してるんだろう?
青い鳥一ノ瀬さん一人で大丈夫かな?
一ノ瀬さんと言えば中島君とは上手くいってるんだろうか?
中島君もまだまだだねえ。
部活と恋人の両立は多田君がやってるじゃないか。
あの二人は普段会えないという逆境を乗り越えて結婚までこぎつけたんだよ。
会えないから別れようは無いと思うけどね。
片桐君もすごいね。
まさか世界一を目指しているなんて考えてもいなかったよ。
しかも世界一になったらやめるって凄い度胸だよ。
辞めないでずっと続けていた方が良いと思うけどね。
もうスポンサーもついてるなんてプロ同然じゃないか。
スポンサーも1大学生によくそこまでする気になったね。
それだけ片桐君の才能が凄いという事か?
「どうしたの?善君」
髪を乾かし終えた晶ちゃんがベッドに入ってきた。
「いや、皆凄いなと思って」
「どうして?」
「遠恋から結婚まで漕ぎつけたり」
「それなら私達もじゃない?」
そうだったね。クリスマスプレゼントに家をもらったことには度肝をつかされたよ。
しかも学生婚で新婚旅行がスペインだなんて……。
「考えると僕達も凄いね」
色んな意味で。
「そうでしょ?もっと自分に誇りを持ちなさい」
誇りに思っていい事なのかどうかわからないけど。
まあ、それぞれのカップルにそれぞれ自慢することがあるんだろう?
例えどんなに些細な事でも本人同士が幸せならそれでいい。
時に迷うことがあるかもしれない。
そんな時はためらわず相手に甘えよう。
きっと素敵な答えを見つけてくれるはずだから。
「ところで善君?」
「なんだい?」
「いつ子供を作るの?クリスマスに作るとなるとちょっと手遅れだと思うけど」
「……せめて大学卒業まで待ってもらえないかい?」
「そんなに待たせていいの?」
「晶ちゃんだって教師になりたいって夢があるんじゃないのかい?」
「別に夢じゃないわよ?」
「へ?」
「適当に近い大学を選んだだけ」
渡辺班にはそういう人多いよね。
一緒に大学進学したいからとか。
でもそんな夢でも立派な夢か……。
僕の夢は……もう叶ったからいいや。
人並みの幸せを手に入れる事。
これが人並みなのかはわからないけど。
「善君そろそろ寝ない?」
「そうだね、そろそろ寝ようか?」
遠い異国の地で望郷の念にかられながら今しばらくハネムーンを楽しむことにした。
(6)
「よかった~」
愛莉がスマホを見て喜んでいる?
「何が良かったの?」
「冬夜君は知らなくていいの♪」
そうか知らなくていいのか。
愛莉がスマホを弄っている間FPSをやっていた。
本当はヘッドフォンつけてやりたいんだけど、愛莉に遠慮してスピーカーでやってる。
愛莉のメッセージのやり取りは一段落ついたらしい。
僕の背後に忍び寄る。
大体行動を予測できたので、建物の陰に隠れる。
「たあ!」
愛莉が後ろから抱き着いてくる。
動じることなくゲームを続ける僕。
「うぅ……えいっ」
愛莉はチャンネルを変えるという暴挙にでた。
「愛莉勝率が下がるからやめてくれって言っただろ」
そう言いながらもコントローラーを手放し愛莉を抱きしめていた。
「えへへ~」
「じゃ、いつものやる?」
「うん」
そう言うとノートPCを起動する。
そしてゲームのクライアントを起動するとキャラクターをログインする。
砂漠の街の同じギルドの暇なキャラクターが集まってるいわゆるたまり場というところに出る。
「お!来たな冬夜ちょうど今からダンジョン攻略しようと思ってたところなんだ」
「愛莉達も行かない?」
「いいよ~」
これが車に変わる新しい息抜き……のはずだった。
突然スマホが鳴る。
「ごめん今電話」
僕はチャットを打って電話に出る。
画面には健さんとでてあった。
「もしもし!」
「茂さんが事故った!」
「え!?」
茂さんとはガソリンスタンドで働いてる走り屋さんの事。
「どうしてまた!?」
「黄色いEK9が後ろから接触してきてな。それでバランス崩してスピンして回避しようとしたけど対向車がいて接触を避けて崖に衝突してきたんだ」
パターンが檜山先輩と一緒だ!もしかして……。
「とりあえず病院行きます」
「ああ、そうしてやってくれ」
「ごめん、急用出来た。落ちる」
そう言ってゲームをログアウトした。
「愛莉ちょっと出かけるけどいいかい?」
「良いけどどこ行くの?」
愛莉もログアウトしていた。
「地元の総合病院」
「病院!?」
「茂さんが事故ったらしい」
「また!?」
愛莉が準備してる間に檜山先輩に確認を取る。
「檜山先輩に接触してきた車って黄色いEK9ですか?」
「ああ、そうだ。良く分かったな。地元にもでたのか?」
「ありがとうございます」
そうメッセージを打つと。愛莉を連れて病院に向かう。
病院につくと腕にギブスをはめ、額に包帯を巻き首にコルセットをつけた茂さんがいた。
「大丈夫ですか!?」
「ごらんのありさまだよ」
そう言って茂さんは笑う。
その姿を見て苛立ちを覚えていた。
壁をドン!と叩く僕。
そんな僕に後ろから抱き着く愛莉。
「冬夜君今考えてる事は今すぐ消して!」
「片桐君。俺もその方が良いと思う。今回の相手はヤバすぎる」
その時スマホが鳴る。誠からだ。
「冬夜!俺だ!」
「……どうした誠」
「絶対にやめとけ。昨日も言ったが勝とうが負けようが関係ない!お前のスキャンダルになる!お前の夢叶わなくなるぞ!」
「夢がかなわなかったら一生バスケだ。皆の望み通りになっていいだろ」
「いいわけないだろこの馬鹿が!」
スピーカーで聞いていたんだろう、カンナの声がする。
「愛莉を泣かせるような真似したら絶対許さないからな!昨日約束しただろ!走り屋としての冬夜は終わりにするって」
「友達を傷つけられ黙ってられるほどお人好しじゃない!」
「それでお前に何かあったらその友達はどう思うんだ?喜ぶ奴なんていないぞ!」
「話はそれだけ?切るよ」
「待て冬夜!」
プッ……。
愛莉を乗せその晩山を上ったり下ったりを繰り返す。
でも良いのか悪いのかその晩は現れなかった。
ガソリンがつきかける頃給油して家に帰った。
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