優等生と劣等生

和希

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3rdSEASON

成人式

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(1)

「冬夜君仕度出来たよ~」

愛莉の声で目を覚ますと愛莉の姿に驚いた。
髪形を変え簪で止め。振り袖姿の恰好は普段の「妖精」ではないれっきとした「女性」だった。

「綺麗だよ」
「ありがとう」

愛莉はそう言って笑みを浮かべる。

「一回お家に寄らない?りえちゃん達にも見せたい」
「写真撮らなくていいのか?」
「時間あるから大丈夫だよ~」

と、言うわけでうちによる。
愛莉の家によると「あら~立派に~なって~」と愛莉ママが言う。
愛莉パパはというと「……う、うむ」と感傷に浸っている。

「冬夜君の両親も呼ばないとね~」

愛莉ママがそう言うと家に電話する。
父さんたちが駆け付けると愛莉の姿に感嘆の息を吐く。

「流石は遠坂さんの娘さんだ。きれいなもんだな~」
「冬夜、大切にするんだよ」
「わかってるよ」

それが余計だったのか愛莉パパが「そ、そうか……大切にしてくれるか……片桐さん、今夜飲みませんか」

「そうですね、今夜は飲みましょう」

親’sは飲みたいだけらしい。

「そろそろフォトスタジオ行かないと時間だから」と、愛莉が行って車を出す。

愛莉の車の乗る仕草に見とれていた僕。

「愛莉。帯とか大丈夫なのか?」
「ちゃんと車に乗る時とか教わったから大丈夫だよ~」

フォトスタジオに行くと写真撮影を待つ。
愛莉が「一緒に撮ろうよ」というけど「記念なんだし一人で撮れよ」という。

「記念だから二人で撮りたいの」
「……別れたときの事とか考えてるのか?」

一生ものなんだぞ?

ぽかっ

「絶対別れないからいいもん!」

絶対そう言うと思っていたよ。
あまり待たせても悪いので結局二枚撮ることにした。
それから駅の駐車場に車を止めると北口近くにあるホールに行く。
受付を済ませて会場入り口らへんで待つ。
皆は小学校・中学校の同級生とかと会ったりしてるけど僕達にはそういうのは全くいない。
2人で済ませるのかなと思ったけど。

「とーや、愛莉!」

と美嘉さんの声がする。
美嘉さんも振り袖姿で現れた。
渡辺君もはかま姿で現れた。
目立つなーこのカップル。
そうこうしてるうちに渡辺班が集まってくる。
残るは指原さん、桐谷君、誠、カンナの4人だった。
遅れてやってくると中に入って会が行われた。
有難い人の有難い言葉をもらって市歌などを歌って終わる。
市歌なんて一生歌わないだろうな。
お祝い品をもらって、会場を後にする渡辺班。
女性が振袖姿のままというのもきついだろう。夜に再度集合することにした。

「店はとってあるから大丈夫だ」

こういう時の渡辺君の行動力は早い。
近くの百貨店のカフェで軽食を食べて、家に帰って愛莉が着替えてる間にカップラーメンを食べて愛莉にぽかっとやられて、部屋で時間を潰す。
愛莉は眠っていた。女性の成人式は大変だな。
時間ギリギリまで寝かせてやった。
時間になると「愛莉時間だぞ」と優しく起こしてやる。
愛莉は準備をしてバス停に向かう。
バスの中でも愛莉は僕にもたれかかって眠っていた。
愛莉も疲れてるんだろう。寝かせてやった。
降りる停留所のアナウンスが流れると愛莉を起こす。

「どうして、もっと前に起こしてくれなかったの?」

愛莉が怒っている。

「ごめん、疲れてるんだと思って寝かせてやった。何もなかったから大丈夫だよ」
「うぅ……」
「愛莉も僕に寄り添って寝るって思い出ができてよかったろ?」
「……うん」

愛莉は納得したようだ。
バスを降りると渡辺君が指定した店に向かった。

(2)

目が覚めると神奈がいない。
昨日から神奈の家に泊っている。
ああ、着付けしてるんだな。
部屋で大人しく待つ。
すると神奈が戻ってきた。
いつものサイドポニーに簪をつけて飾り、振り袖姿でいる。

「似合ってるよ」

そう言うと神奈は「私は堅苦しくてきついよ」と言った。
神奈の両親に挨拶すると。俺たちは家を出た。
早めに出たつもりだったのだが、車が混んでいる。
そして駅周辺の駐車場がどこも満車だ。
仕方なく離れた場所の駐車場にとめて歩くことにした。

「神奈。歩くのきつくないか」
「大丈夫だよ」

神奈の歩幅にあわせてゆっくり歩く。
神奈の手を取って誘導してやる。
神奈は俯いていた。きっと恥ずかしいのだろう。
開場に着くと小学校・中学校の友達と再会した。
神奈の事も紹介した。

「美人さんと付き合えて羨ましいな」と言われた。

神奈は笑顔だったが表情が硬い。
話も早々に終え、スマホを手にし渡辺班の集合場所を探す。
入口周辺に集まっていた。
俺達が一番最後だったらしい。
成人式を終えると。皆一度戻って着替えてから集合になった。
神奈の家に戻ると神奈は着替える。
ああ、ばっちり写真は撮っておいた。
滅多に着ないだろうしな。振り袖なんて。
神奈の着替えが終わると家に帰る、家に帰ると俺も普段着に着替える。
Yシャツだけ洗ってカンナがアイロンをかけてくれる。
Yシャツも仕舞うと、駅に向かう。
駅には振り袖姿の客も目立つ。
大学近くの駅だからというのもあるのかもしれない。
電車が来ると乗り込む。
4駅先の終点で降りる。
時間はまだ余裕がある。
神奈と街ブラデートをする。
時間になると指定された店に向かう。
渡辺君たちが待っている。
広い空間のソファー席が自慢の店だった。
既に来ているメンバーもいる。
今日来るのは渡辺夫妻、石原夫妻、冬夜、遠坂さん、指原さん、桐谷君だった。
既に来ているのは渡辺夫妻、石原夫妻と俺達。
時間まで話をして時間を潰していた。

(3)

「迎えに来い!」

亜依からメッセージがあったのは10時過ぎだった。
いくらなんでもまだ早くないか?
とか言ってるとまた怒られるので支度をする。
ネクタイをするのに戸惑っていると亜依から電話が、
3回出なかったらゲーム機没収なので慌てて出た。
はいもしもし。
スピーカーにしてネクタイを締めながら電話に出る。

「今どこだ?」
「まだ家だよ。さっきメッセージで起きたところ」
「式は12時からだぞ!わかってるの!?」
「ぶっ飛ばして行くから大丈夫だって!」
「式の日に事故なんてしゃれにならないから安全運転しろ!」

急げと言いながらゆっくり来いというこの矛盾。
ネクタイを締め終わると準備出来たから今から行くと伝えると電話は切れた。
スーツとコートを手に革靴を履いて車に乗り込むと、車を走らせる。
急いだ甲斐もあって11時には亜依の家についた。
亜依に電話する。

「せっかくだからちょっと上がっていけ、挨拶もあるだろう!」と亜依からのメッセージ。

挨拶。急に緊張してきた。
そういやプロポーズしてから亜依の親に会ってないな。
サイドミラーでネクタイが曲がってないのを確認してから呼び鈴を押す。

「あら、いらっしゃい」

亜依のお母さんが出た。

「時間少しあるでしょ?ちょっと上がっていきなさい」

言われるままに家に上がると居間に通される。

ソファーに座る亜依の姿を見て唖然とした。
きっちりした振り袖姿に目を奪われ、言葉がでなかった。

「どうだい?うちの娘は?」

亜依のお父さんが言うと「綺麗です」と一言言った。

「まあ、座りなさい」

そう言われると亜依の隣に座る。

「話は娘から聞いてる。おめでとう」

ってことは了解は得たという事だろうか?

「しかし、君からは何も聞いていない。何か言うことがあるんじゃないかな?」
「あ、あの……」

ここまで来たら言うしかないよな?

「亜依さんと結婚させてください」
「……娘を養っていけるのかね?」
「今バイト探してます。今すぐにとはいいません。時期が来たらでいいです」
「そういうことならいいんじゃないかい?お父さん」

お母さんからの口添えもあってかお父さんも納得してくれたようだ。

「人の娘に手を出しやがってと怒るガラじゃないが、娘に余計な苦労は背負わせたくないというのはよその父親とかわらないからね」
「瑛大もやる気になったみたいだし、多分大丈夫」

亜依がそう言うとお父さんはうんうんと満足したようだ。

「仲良くね」
「瑛大!そろそろ時間!」

亜依が立ち上がる。
亜依を車に乗せて、会場に向かう。

「僕この車売ろうかな?」
「え?」
「この車維持費かかるしさ、今ならまだ結構高く売れるみたいだし」

買取サイトで調べてある。

「燃費の良い車かって少しでも余裕もたせたほうが……」
「車のローン残ってるでしょうが!」

あ、そうだった。

「そんなに慌てなくてもいいからさ。皆が籍入れて焦る気持ちも分かるけど」
「そ、そうか」
「まあ、瑛大のバイトが決まったら引っ越すよ。二人で暮らした方がお金も溜まるだろうし」
「じゃあ、春休みの間に引っ越し先さがさないとな」
「そうだね……」

亜依の様子がおかしい、ちらりとみると目にハンカチを当てて泣いている。

「どうしたの!?」
「いや、こんな日がきたんだなぁってちょっと感極まってね……」

駐車場に車を止めると急いで行こうとする。

「私の恰好見て考えてから歩きなさいよ!」

ゆっくり歩く。

「慌てなくても時間はまだ余裕あるから」と亜依は言う。

「よお!瑛大!」

渡辺君が声をかける。

「後は誠君達だけか」

渡辺君がそういうと誠君たちが来た。

「ごめん、駐車場が近くになくて」
「いいさ。じゃあみんな揃ったし中に入るか」

渡辺君がそう言うと皆会場に入る。


式が終わると一旦家に帰って夜に集合しようってことになった。
亜依を家に送り届ける。
亜依が着替えてる間に「一杯どうだね?」とお父さんに勧められる。

「だめだよ、このあと瑛大運転するんだから!」と亜依に言われてお父さんは断念する。
「瑛大も着替えるんでしょ?そろそろ行こう」と亜依が言うので挨拶して家を出る。

家に帰ると着替える。
着替えてる間亜依はテレビを見てる。
僕も着替え終えると亜依の隣でテレビを見る。

「電車の時間そろそろなんでない?」

うちから駅まで徒歩10分っていったところだ。
そろそろ向かっておいたほうがいいな。
駅についたらちょうど電車がでたところだった。
30分後にまた来る。それまでちょっと話をしていた。
話のネタはつきない。
ゲームの事、バイトの話、皆の事、そしてこれからの僕達の事。
電車が来た。電車に乗ると二人共黙ってしまう。
電車を降りると改札を抜けて店に向かう。
店に向かう途中で冬夜達に会う。
テンションが上がる女子2人。
どうしてこう、女子が揃うと無駄にテンション上がるんだろう?
店に着くと僕達を覗いて全員揃っていた。
皆が飲み物をオーダーすると渡辺君が立ちあがる。
宴の始まりだ。

(4)

「この10人で揃うのも久しぶりだよね!」

指原さんが言う。

確かに珍しい。
他のメンバーは同窓会等に呼ばれていてそっちを優先したらしい。

「偶には悪くないかもな」

渡辺君が言う。

「誠や美嘉さんは同窓会とかなかったの?」

僕が聞くと二人共首を振る。

「お前らといる方が楽しいしな」と美嘉さん
「神奈を一人にするわけには行かないだろ?」と誠。
「それより冬夜人の事を心配する余裕あるのか?」と渡辺君が言う。
「なんで?」と僕が聞くと「この10人の中でお前たちだけだぞ入籍決まってないの?」と渡辺君が言う。

そういう話ね。

「聞いてよ、冬夜君ズルいんだよ。『あと3年したらプロポーズするから』って……もうプロポーズしてるようなもんじゃない?」

愛莉それを今言うのか?

「ほうほうなるほどな」とカンナがニヤニヤしてる。

「3年後が楽しみね愛莉ちゃん」と恵美さんが言うと「うん」と嬉しそうに頷く愛莉。

「3年待たなきゃいけない理由あるのか?」と桐谷君が聞く。
「部活でバイトどころじゃないからね。同棲といっても実家だし」と説明すると。
「部活しながらバイトも可能だぜ?」と誠が言う。

僕は答える。

「やると決めたからにはちゃんとしないと」と……。

体調管理やコンディションを考えてくれてる愛莉や佐倉さんに悪いからと説明する。

「そうか、大変なんだな。冬夜も……。皆の期待も背負ってるんだな」と誠が言う。
「私たちも期待してるからね」と恵美さんが言う。
「ありがとう、期待に副えるように頑張ってくるよ」と僕が言う。

「さてと、冬夜君たちは良いとして、来年はどうするの?」と指原さんが言う。
「どうするって?」と僕が聞くと指原さんがにやりと笑う。

「来年も、新人入れちゃうの?渡辺班に」

これ以上増えても色々問題出るんじゃないか?

「今のところは考えてない。希望者がいれば入れるが勧誘はしないかな?」と、渡辺君が答える。
「そっかぁ~」とつまらなさそうに言う指原さん。
「皆も来年は大変だろ?自分たちの生活で」と渡辺君が言う。
「まさか集まりもないってことはないでしょうね?」と恵美さんが言う。
「その心配はないよ。休み見つけて適当に合わせるさ」と渡辺君が言う。
「男子がやらなくても女子会するから大丈夫だよ」と指原さんが言う。

この先皆で集まれる時間はどれだけ残っているだろう?
そんな事を想いながら皆楽しい時間を過ごした。



「2次会どうする~」

美嘉さんが言う。

「いつもの店でいいだろ?」と渡辺君が言う。
「冬夜君大丈夫?色々問題になったりしない?」と愛莉が心配している。
「成人男性がお酒を飲んでいてなんか問題になるの?酔って暴れるならともかく」と僕が愛莉に答える。
「そうだね!」と愛莉が笑う。

店に着くとテーブル席に座って端末を皆で回しあう。
0時前になると皆解散する。
明日からまた授業だからだ。

「期末試験終わったらまた集まろうな」

と、渡辺君が言う。

皆頷くと歩き出す。
駅前のバスターミナルで散り散りになる。
僕達もバスが来たからバスに乗る。

「楽しかったね」

愛莉が突然話しかけてきた。

「そうだな」
「今年も楽しくやれるかな?」
「大丈夫だろ?」
「大丈夫だろ?って……冬夜君来年からバスケ忙しいんじゃないの?」

ああ、そういうことね?

「うまく折り合いつけてやっていくさ」
「うん」
「それよりまずは目の前の期末試験だよ」
「それもあったね」

バス停で降りると愛莉と手をつないで歩きだす。

「星が綺麗~」

愛莉が夜空を見上げて言う。

「前見て歩かないとぶつかるぞ」

愛莉に注意すると「は~い」と言って歩き出す。
家に帰るとお風呂に入ってテレビを見てる。
愛莉が酎ハイを二缶持ってきて僕に一つ渡す。
愛莉はそれを飲みながらノートPCを操作する。
操作を終えると愛莉は「そろそろ寝よう?」という。
言われたとおりにベッドに入る。

「明日からまた大変だね。試験の方は大丈夫だからね。ちゃんと把握してるから」
「そんなことまで把握してるのか?」
「うん、バスケ部の先輩たちが教えてくれるの?この教科なら楽勝だとか。毎年テンプレ通りの問題しか出さないとか」
「そういうの聞くの禁止じゃなかったのか?」
「聞いてしまったものはしかたないじゃん」

愛莉はそう言って笑う。

「しょうがないな」

僕はそう呟く。

「いけなかった?」
「いや、きにしてないよ」
「よかった~」

愛莉が僕を抱きしめる。

「冬夜君、今なら私酔ってるから何されても覚えてないよ」

その言葉に僕は答えなかった。
なぜならすでに眠っていたから。

ぽかっ

愛莉もやれやれと僕を抱いたまま眠りにつくのだった。
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